作者:[[リング]] [[前回>ルカリオの育て屋奮闘記:2]] #contents 登場人物 杭奈(ルカリオ):頑張り屋なルカリオの雄。でも、プロフィールに記されている性格は寂しがりだったりするのは御愛嬌。 ジョン(コジョンド):ポケモンレンジャー出身で、現在整体師として働いている。ポケモンなので資格は取得していないが、腕は確か 静流(ズルズキン):悪女。しかし、年下は大事にするんだってさ。 袴(キルリア):静流や杭奈と一緒に預けられた男の子。最近は催眠術の練習に躍起になってます。 スバル(人間):育て屋の経営者兼管理者。ブラックシティ出身で、たまに口調が変わる。 ふじこ(ポリゴンZ):スバルのためにポケモンの言葉の通訳をしている。USBポートを通じてスマートフォンに文字を表示するのだが、USBポートの種類はやたらと豊富で、薔薇だったり哺乳瓶だったり太巻きだったりしている オリザ(人間):杭奈達の主人 ペテン:お見合いで条件が合ったため付き合うことになったゾロアの女の子。現在はゾロアークに進化している。 &ruby(つがい){番};となる相手に対してはダブルバトルでの強さを重視する。 用語説明 昼食マッチ:昼食をかけて戦うバトル。基本はシングルだが、ダブルやトリプル、ローテーションなども存在する。スバル曰く本来はもっと厳しくしたかったらしい。 **30 [#ic465340] ペテンと共に、昼食マッチのダブルバトルに挑戦し始めてから5日。 杭奈はスバルの教えた足捌きに加えて、袴がバオップとの戦いで見せた相手の動きを読む秘訣を探るべく、袴にやり方を聞いたのだが…… 「僕の場合……角で感情の動きを察知するのですけれど。ほら、杭奈兄さんがさんざんやっているように、近づかれた時の対処って難しいのですよね。 だから、兄さんみたくインファイトが使えるとか有効な対処法があるポケモンならばともかく、そうでないポケモンは選択肢が狭まるのです。 そうなると……角で行動を読むのもた容易いというわけです。杭奈兄さんも、その房を上手く使えば((ルカリオの房は周囲の状況のみならず、鍛えれば相手の感情も感知可能))出来ない事ではないと思いますよ?」 「……房。どうやって鍛えればいいのかな?」 「さ、さぁ……僕は進化と同時に力が強くなりましたので、鍛えた覚えが無いのです……う~ん……ちょっと待っててください」 と言って、袴は小石を拾って杭奈に手渡す。 「感情を読むっていうのは、こうやってコツを掴むことが何より大事だと思いますので……その小石、左右どちらかの手に掴んで下さい」 言われるがままに、杭奈は手の中に小石を隠し、袴は的確に左右どちらの手に小石が握られているかを当て続ける。 同じ事を杭奈にやらせて見ると…… 「もう、無理……」 「まだ3回目ですよ杭奈兄さん……」 一応、正解を当てる事が出来るのだが、とてもじゃないが房の集中力が持たない有様であった。 「ともかく、続けていればいずれは慣れると思いますので……僕にはルカリオの事なんてわからないので何とも言えませんが、頑張ってくださいね……」 「うん……とりあえず、今日は色々ありがとう」 集中力が切れて焦点の定まらない目のまま、杭奈は気の無い声で感謝の言葉を贈る。 これが夕方頃の出来事。 そういったいきさつで、杭奈は房をもっと積極的に戦闘に取り込もうとしたいところなのだが、アレはかなりの集中力を要する技術だ。 長い時間使っていると確実に頭が疲労を起こして、集中力が長くは持たない。と、夜になってスバルに話してみたところ、帰って来た答えはこういうものであった。 「そうですか……それについては、比較的簡単に房を強化する方法がありますよ」 にこりとスバルは笑う。それはなんだと言いたげな杭奈に対して、スバルは言う。 「子供を産ませる事ですねー。自分と少し似た匂いの赤ん坊の匂いを嗅ぐと、房の力は大きく強化されるのですよ。 子供を守るために、房が感知できる範囲が広くなるそうです。ふふ、子供が出来れば強くなるだなんて、いい事ではないですか」 そう言って、スバルは杭奈の頭を撫でまわし、てスバルは笑う。 「後は……まぁ、気の持ちようですね。懐く事で進化するルカリオは、愛する者がいればそれだけで力を強く出来ます…… まぁ、数値で実証された変化があるのは房の感知能力のみですが、今それを所望している貴方にはもってこいですね。 そうですね……では、今日は課外授業と行きましょうか。 具体的な技術を得るための修行ではなく、精神的な修行ではありますが……房の力を高めることは可能なはずです」 何をやるんだとばかりに首をかしげる杭奈の頭を撫でて、スバルは笑う。 「なに、貴方にとっては簡単な仕事ですよ。野性では、殺し合いなど当たり前のことだったのでしょう?」 ん? と、杭奈は頭をかしげる。 「人間の世界ではですね。誰かに残業を頼む時は追加給金を出すものなのですよ……でも、思えば私は毎日残業していると言うのに杭奈君からはまだ何も貰っていないと気付きましてね。 ですから、杭奈君には修行ついでに体で払ってもらおうと。そういうわけなのですよ。まさしく一石二鳥という奴ですね」 キョトンとする杭奈に、スバルは笑って見せた。 「ですから、私と一緒にブラックシティに出張しましょう。場末のクラブハウスに行けば、賭け試合の一つや二つ当たり前のように行われておりますよ。 そこで勝てば、それなりの賞金がもらえます故、そこで課外授業といたしましょう……」 流石にこれはやばい雰囲気がぷんぷんしたのか、杭奈は手を振って嫌だとアピールする。 「強くなりたくないのですか? 大丈夫です……私はそこまで鬼じゃありませんので、嫌というのであれば無理強いはしませんが…… しかしながら、強くなるためと割り切って騙されたと思って付いて来てみませんか? きっと、貴方にはよい経験になると思うのです。 大丈夫ですよ。あなたの大ファンである私が、あなたを危険な目に合わせると思いますか? そんなことありえませんよ」 単純な思考の杭奈でも、この提案には首をひねっていた。だが、『騙されたと思って』というフレーズに押されて、スバルの提案に従う事を選んだ。 スバルは杭奈との修行を終えた後、厚化粧のあばずれ((悪く人ずれしていて、厚かましいこと。また、そういう女。すれっからし。もとは男女いずれにも使った。))風の女性に変身していた。何でも、その方がブラックシティを歩きやすいとのことで。 そんな理由でスバルはまるで別人になって、杭奈は変化に戸惑いながらの課外授業の舞台へ向かう空の旅へと赴く。 スバルは化粧の匂いを振りまきながらスバルはトリニティを駆り、彼女は風を浴びながら唐突に口を開いた。 「杭奈君……強くなるためには、目的が必要という事は前にもお話いたしましたね?」 ん? と顔を上げるとスバルは神妙な顔をしている。 「強くなるための目的というのは当然のことながら食欲や性欲・睡眠欲の他にもまだまだあるんです……それは、以前にもお話した通り、大切なものに対しての感情です。 先日は、自分の子供が生まれたら、その子に対して愛情を注いで上げろと言いましたが……それ以外にも感謝という形で誰かに報いると言うのも大事なことです」 首をかしげる杭奈に、スバルは続ける。 「以前も言いましたよう、貴方は食事も住処も十分に与えられております。それはとても幸福なことなのですよ。 そうしてもらえる自分の運命と、自分の主人に感謝しませんといけませんよ」 よくわからずに頷く杭奈をスバルは指でつつく。 「こう言った理由はですね。昔は私、ポケモンは道具って思っている時期がありましてね…… 健康管理のためにも、ぞんざいな扱いこそしてはいませんでしたが、ポケモンとの繋がりは絆ではなく完全にギブアンドテイクの関係だったのです。 いつだったか、プラズマ団……と言っても貴方には分からないですか。とりあえず、とある集団にポケモンとの関係のあり方を問われた時…… 私は自身のあり方を見直し、ポケモンに感謝しながら生きることを心がけたのですよ。 その時から、ポケモンの士気も自分の士気も上がって勝率が上がりましてね。 ですから、貴方もこれから御主人や自分たちの周りにあまねく多数の人間やポケモン達へ向けて感謝できるようになって欲しいのです。 私は、感謝することが強くなる秘訣の一つだと思っておりますから。 貴方がもしルカリオでなくとも、感謝の力はきっと役立つはずです。ですから、今日の課外授業は真面目にやってくださいね」 やっぱり杭奈はピンとこない。 「今は分からなくっても、いつか分かります。自分のために頑張るだけでも強い貴方が、誰かのためにも頑張れる。それこそ、強さの秘訣だという事ですよ」 そう言って微笑みながら、スバルは杭奈の肩を抱きよせ乱暴に横顔を撫でる。武骨な男性のような可愛がり方で杭奈に嫌そうな顔をさせるが、スバルはむしろそれを楽しんでいる風であった。 「ブラックシティが見えてきましたね……降りましょうか」 そう言って、スバルは短い空の旅を終える。 降り立った場所は、ブラックシティではありふれた退廃的な歓楽街である。 大きなお店はないものの、所々にあるクラブ店では他では手に入らないモノが手に入るともっぱらの評判である。 警察も、この街ではそう言った小さな犯罪の取り締まりなどバカらしくてやっていられず、人身売買などもっと大きな犯罪にかかりっきりである。 また、この界隈のクラブでは、ポケモン同士を戦わせて賭けを行う店が多く、表に出るような綺麗なバトルではなく死者も出るような凄惨な戦闘が行われる。 悪く言えば残酷。よく言えば刺激的だと言われている。 「とまぁ、貴方にこれから出て貰うのはそういう試合なわけで……でも、貴方より強い子なんて、こんな酒場でドサ周りをするような輩ではありませんから」 そう言ってスバルはクラブの安酒を煽り始める。ホワイトフォレストのそれと比べると、炭酸もアルコールも匂いもきつい刺激的な酒の匂いに杭奈は眉を潜めた。 その様子に気づいたのかスバルは杭奈をボールの中に入れ匂いで不快にならないように、出番を待つ。場が盛り上がってきた酒場では、深夜0時を過ぎたところで例の試合が始まる。 表の試合よりかはレベルが低いものの、流血沙汰が日常茶飯事のこの試合では刺激が違うとかで、ブラックシティの裏の名物として不動の地位を占めている。 だが、それはポケモンの意思をないがしろにした戦いに他ならない。 「杭奈、ようく見てみろ? 野性のポケモンの生活の厳しさも大概だが、ここの奴らもそう良いものじゃない…… なぜなら、野性では勝てないと分かったら逃げることも降参することもできる。なのに、ここで戦う事を義務付けられた者は……ああなる。 結構大差の付いた試合ならば、優しく終わらせてもらえるが……泥仕合となると酷いものだからな」 金網で仕切られた空間で戦い合っている二人は、いつの間にかブラックシティモードとなっているスバルの言うとおり凄惨な光景を繰り広げていた。 普通は相手が立てなくなれば終了だが、対戦者は立てなくなってもはいつくばってでも噛みつきに行っている。 「ああでもして戦わないと、賭けに負けた観客や飼い主からさらにひどいリンチの憂き目にあうものでね。言い訳のために傷つかなきゃならないんだよ…… まったく、酷いものさ杭奈。お前はああいう風に生まれなくて良かったなぁ、おい?」 スバルは杭奈の首筋を軽く叩いて力なく笑う。スバルは、酒を飲みつつ昔はあんなふうに戦わせたりしたものだとうそぶきながら幾つかの試合が消化される様を見る。 「さて、お前の他の試合も終わった。私たちの番のようだよ……優しく終わらせてやれ……」 相手は、酷く酒に酔った人間の手持ちで、ムシャーナ。相手とは相性としてはどちらも悪くないはずだが、ムシャーナなは今までの戦いを見て酷く怯えていた。 「杭奈。誰かから指示を受けて戦うことには慣れていないだろうが、今日は私の指示に従ってくれ。お前がどれくらい動けるのか、確認したいんだ」 そう言われて、杭奈は戸惑ったような複雑な表情をする。 「私の指示に従っていては負けそうだと思ったら、自分のやりたいようにやれ。大丈夫、相手は格下だ……私が保証する」 格下とかそんなの関係無しに杭奈は気が進まなかった。あんなに怯えている相手を甚振るのは、杭奈の趣味ではない。 野性時代に母親達が弱らせた獲物を嬲った時は、腹が減っていたせいか気分が高揚していたが、同じ弱い者いじめでも必要に駆られていない今と昔では事情が違う。 そんな事を思い出し、もやもやした想いを抱えながらあれよあれよという間に杭奈は金網のケージの中へ、これが閉じられたら試合開始だ。 「難しく考えるなよ杭奈。とにかく、特殊型のポケモンには暇を与えずに突っかかるしかない。特に、サイコキネシス使いには後手に回ればやられるぞ。 試合を開始したらとりあえず何でもいい、適当にやり易い攻撃をしてみろ!!」 スバルが下した指示は、具体的なモノではなかった。杭奈にとってはむしろこちらの方がやり易くて助かるが。 杭奈に命令が下された後に、金網はすぐに閉じられた。具体性の無い杭奈への指示に対して、敵の指示と言えば―― 「ジャック!! サイコキネシスだ」 と、分かり易いもの。まず、杭奈が接近しようとして、サイコキネシスの見えない手に飛ばされた。 杭奈はそれを気合いで振り払って、吹っ飛ばされた先にある金網に対して受け身をとる。サイコキネシスは一度振り払ってしまえば数瞬再発動する事が出来ない。 その僅かな間を、エスパータイプは逃げ回るなり出来るだけ遠くに吹っ飛ばすなりで時間を稼ぐのが主流だ。 だが、この狭い金網の中ではどちらも難しく、哀れムシャーナは杭奈の攻撃は真っ向から受けて立つしかない。 杭奈はまず金網を蹴って摩擦を無視した神速のスタートダッシュ。サイコキネシスの再発動に向けて集中力を高めているムシャーナに抱きついた。 浮力では支えきれずにムシャーナが落ちる。杭奈の胸の棘がムシャーナの首に刺さり、声にならない悲鳴を上げた。 「ほう……あのしがみつく攻撃はコマタナの技じゃないか。杭奈め、いつの間に覚えた?」 呑気にスバルは独り言。下草刈りに雇っていたキリキザンと、その部下のコマタナ辺りから習った技だろうと推測する。 杭奈に攻撃された相手のトレーナーは、それどころではなさそうな気配だが。 「おい、振り払えジャック!!」 ムシャーナのトレーナーが言うが、杭奈は気にすることない。そのまま抱きしめる力を緩めないで噛みつき、更なる苦痛を相手に与えた。 普通に戦っても勝てるのだが、サイコキネシスで戦うエスパータイプには、この抱きつきというのは非常に効果が高い。 サイコキネシスで四肢を引きちぎるような桁外れの力を持っているポケモンならばともかくとして。 普通のポケモンがサイコキネシスを使う場合は、相手を飛ばして何かに衝突させてダメージを与える必要がある。 その攻撃方法の都合上、今杭奈がそうしたように抱きつかれると自重も加わって加速度が半減されてしまうのだ。 如何に対象との距離が近ければ近いほどサイコキネシスは強くなるとは言え、スピードが無ければ何かに当てる前にサイコキネシスを振り払われてしまう。 「いいぞ、杭奈。そのまま首を振れ!! 女犯す時腰を振るように、だ!!」 何やら酔って興奮しているスバルは相変わらずのブラックシティモードで杭奈を応援する。 「そうすれば痛みで相手は集中できないはずだ。その状態でサイコキネシスを放っても威力はたかが知れている。 敵は密着されても使える電気技なんかを持っているわけでもないからな。そのまま振り払われるまで、離す必要はない」 と、スバルの言う通りムシャーナは杭奈を振り払おうとする事に夢中で、まるで攻撃をする気配が無い。 抱きつかれては催眠術もまともに使えず、恐らく持っているであろうシャドーボールも暴発して自分自身もダメージを食らうだろう。 タイプ相性の関係で杭奈の方はダメージ少ないだろうし、技を放った後の隙に何をされるのか分かったものではない。 体をぶんぶんと振りまわして、やっとムシャーナが杭奈を引き剥がした時にはスタミナの差は歴然であった。棘が食い込んだ傷も痛々しい。 「杭奈、ムシャーナの血は呑み込んでないか? その血で眼潰しをしてやれ」 痛みと疲れで集中力が切れかけのムシャーナは、念を実体化させて金網の中で念の飛礫を降らせる。 不覚にも背後から来たそれを喰らってしまった杭奈だが、房を逆立て前後左右に注意を配ればそう難しいものではないし、数秒ならば房の集中力も持つ。 空中に飛礫が形成され、向かって来るまでの間に杭奈はきっちりと避け、飛礫の雨が止んだと同時に杭奈は口の中の血を手に塗して投げる。 惜しくも眼には当たらなかったが、眼を瞑って出来たムシャーナの隙を突き、杭奈はムシャーナの腹にアッパーカット。 最後の一発で、ムシャーナは綺麗に沈んだ。杭奈、余裕の勝利である。 勝利した後も半ば放心状態のまま、杭奈はそのクラブを出た。 金が手に入った瞬間は嬉しそうであったスバルも、店を抜けると憂いげな表情で溜め息をついている。 「勝っても楽しくなかっただろ? お前が育て屋で戦う時は勝っても負けても楽しそうだってのに今日の浮かない顔といったらないな」 訪ねるスバルに、杭奈は短く答える。ふじこを外に出していないため、通訳は出来ていないが、スバルはあぁと頷いた。 「楽しめるわけがないって顔をしているな……いいんだよ。楽しまなくって。ああいう環境に生まれずに済んだこと。 自分を強く育ててくれたこと。そういった事をしてくれた者達に感謝し報いらせるために、あの光景を見せたんだ。 今回の経験が感謝に繋がり、強くなるきっかけとなってくれれば……。 例えば杭奈、もしもお前がジョンに出会っていなかったら多分あのムシャーナには負けていたぞ」 ハッとして、杭奈は自分の手を見た。 「ジョンがどうしてお前に強さを与えたかよく考えてみろよ……そして、そのありがたみを再認識するんだ」 しみじみとスバルは連ねて微笑む。 「ジョンがお前に強くなって欲しかったからだろうな。お前は、ジョンの気持ちを感じて理解して、感謝するんだ。 そして、感謝するジョンのためにも更に強くなってやれ。もちろん、お前を野性からこちら側の世界に引き込んだ主人に対してもな」 せっかく杭奈はスバルのあり難いお言葉を賜ったというのに、言われた言葉の意味を考えるよりも、戦わされていた悲惨な境遇のポケモンについての事へ考えを張り巡らせながら、帰り道を行くこととなる。 空の旅の最中、ボールに入れられて中で眠ろうにも、その事ばかりが脳裏に浮かんで中々離れないのであった。 次の日の昼前、あのポケモン達の事をなんとなく考えながら、杭奈はペテンと合流する。 昼食マッチの時以外は、お互い別の教官やライバルの元で修行していた二人は昼前の時間は貴重である。 「どしたの? なんか元気ないね」 しかし、少々浮かない顔の杭奈は、ペテンにいともたやすく浮かない気分を見抜かれてしまう。 「あ、いや……」 昨日の個人的な課外授業の内容を話すのも少々面倒なので、杭奈はこう尋ねる。 「ねぇ、ペテンは戦う事って楽しい?」 「うん」 ペテンは笑って即答した。 「野性の頃は殺伐としていて、戦いを楽しむ余裕はなかったんだけれどね……うん、でも今のように競い合う戦いは好きよ」 「だよね、僕も大好きだ……」 結局は、そういうことなのだ。自分よりも遥かに酷い状況に生きるポケモンを見せつけられ、深く考えてしまった杭奈だがペテンの言葉で吹っ切れた。 こんな楽しい状況に居られる自分の運命は貴重なものなのだ。そのために導いてくれたモノにはひたすら感謝するべきなんだと。 「で、それがどうしたの?」 杭奈の気も知らずにペテンは首をかしげる。 「いや、ありがたいことだなってさ」 主人が野性からこうして生きられる道を示してくれた。手持ちの生活も、あんなブラックシティの底辺じゃなくまともな立ち位置だ。 そうしてくれた主人が自分に強くなる事を望んでいるというのなら……頑張ろう。 今までおぼろげながらに思っていた感情が、杭奈の中で確かなものとなる。 その想いがまた、杭奈の房の感知能力を高めるのだ。 杭奈が頑張ろうと思ったところで、ペテンはにこやかに話しを切りだす。 「あのねぇ、杭奈君」 **31 [#recc0a54] 「あのねぇ、杭奈君。今日から、負けても良いから強い相手に挑んでみないかしら?」 ペテンが進化してから、8日目。まだ袴は催眠術を習得しきれておらず、10数回に1回相手がウトウトしてくれるくらいである。 それでも、成果があった方なわけで、早く進化できる日を心待ちにしている袴には日ごとに成長する感覚が嬉しかった。 杭奈とペテンの二人はというと、これまでの戦績は5勝2敗であった。 杭奈と比較して僅かに実力が劣るペテンが微妙に足を引っ張ってしまう事はあったが、杭奈は常にペテンを護るように意識した立ち回り。 それでいて、ペテンを過小評価したりせず、出来る事はさせてくれる気遣い。 ペテンによる杭奈の評価は、リスクの高い戦法を有効利用できる技術と経験と、それを振るう雄姿に改めて感心しているといったふうである。 元々嫌いではなかった杭奈を無理矢理好きになろうとしていたペテンの気持ちも、今では無理が無くなっていた。 気がつけば、身長差を気にしながらも、二人は手をつないで歩く事が多くなる。 朝夕で個別の教官の元で修行していても、昼食の時間だけは絶対にそばにいて共に闘うのが随分前からの当たり前のような感覚だ。 しかし、杭奈がブラックシティのクラブで課外授業を終えた翌日の6日目からペテンは酔狂な事を言い出した。負けても良いから強い相手に挑もう――と。 杭奈に対してかなり気を許しているペテンだが、杭奈の強さがどれほどのものかを見極めたくなって、ついつい無茶な戦いを挑むことを提案したのだ。 負けても良いから頑張ろうと。そんな試合でも、杭奈はいつものように動けるのかと、杭奈を見極めるかのように強引に対戦相手を決める。 そして、瞬く間に5勝0敗から5勝2敗に。 今日もまた、なんの間違いか、ウルガモスとオノノクスの二人組。モヌラとゴヅラというこの育て屋でも最強クラスのペアに、池沼エリアで勝負を挑んでしまった。 二人は当然苦戦を強いられる事になるが、今日の戦いがペテンにとってはトドメというべきか。ペテンの恋心を完全に射止める結果となる。 開始早々、泥を浴びる事で炎を防ぐ二人。しかし、杭奈はそれで弱点をカバーできるからともかく、ペテンはモヌラから弱点タイプの攻撃を見舞われる。 モヌラは池の上に大きく飛び上がって蟲のさざめき、直接攻撃に秀でたオノノクスことゴヅラが後ろに下がるという奇妙なフォーメーションから繰り出された攻撃は音。 音は攻撃力は低く、連続で当て続けなければ多くのダメージは期待できないが、音速で進む『波』である音はどうにも防ぎようがないし、しかもタイプ的にペテンの弱点だ。 開始早々幻影が剥がれて正体がばれてしまい、杭奈は最早正攻法で倒すしかないと察する。 蟲のさざめきの大きな音に顔をしかめながら、杭奈はモヌラへ向かてストーンエッジを投げるが、距離が遠くて避けられる。 接近すれば、恐らくゴヅラの地震が放たれる。 なかなかにムカつくフォーメーションであった。耳を塞いで防御一辺倒のペテンはかろうじて口から炎を吐き出す。 意識をもうろうとさせながらモヌラへ向かって吐いた火炎放射は、さざめきながらさっと避けるのも簡単だ。優れた複眼ゆえの視野の広さで、同時に杭奈が放ったストーンエッジもかわした。 体重が重い上に尻尾が巨大なゴヅラは、この沼地の中でも安定した立ち姿。地震を使われれば恐らく下手な地面タイプよりも的確に放ってくるだろう。 近づくのは非常に危険だが、杭奈は接近戦に賭けた。 「地震なんて知った事か!!」 と叫び、モヌラに突進する。タイプの構成上、蟲タイプに対しては非常に強い杭奈は、モヌラのさざめき攻撃は難なく突破できる。 ゴヅラの地震が怖いが、行くっきゃなかった。 手にはストーンエッジを構え、足でメタルクローをスパイク代わりにして、足元が不確かな場所でも早い走行を可能にする。 杭奈は飛び上がり、手に持った小さなストーンエッジを投げる。当たって出来た隙に翅に掴みかかった。モヌラも翅を掴めば蟲のさざめきは使えない。 着地の際、地震を使われる恐れがあった。だが杭奈はモヌラを下にして落下。地震を使えるモノなら使ってみろとばかりに沼に沈める。 高温の体温によってして沼の水が沸騰してはぜる音が響いた。 絶好の地震のチャンスだったが、仲間想いのゴヅラにモヌラごと巻き込む地震を使うなんて事は出来なかった。 作戦というには単純だが、一か八かの杭奈の賭けは成功であった。怯ませること重視であったストーンエッジは、サイズも小さく威力には乏しい。 出来そこないの威力のためにやられてこそいないモヌラだが、泥で重くなった翅はもうさざめく音を奏でてくれないだろう。 モヌラにトドメを刺したかったが、それよりも先に、今は襲ってきたゴヅラをなんとかしなければ。 ゴヅラはよくしならせた尻尾を振り抜く反動で、首をギロチンの如く時計回りに振り抜いて、トマホーク((斧の一種。刃先が反っている))のような牙を用いた瓦割り。 杭奈の脇腹を狙ったそれは、タイプの関係もあって杭奈にとっては文句無しの一撃必殺級の破壊力で。 杭奈はモヌラの体の上に伏せ、それを避ける。ゴヅラは回転の威力を殺さないままドラゴンテールを続けて繰り出す。 横たわったモヌラの隣に寝がえりをうつように転がって、杭奈は避けた。 沼に顔を浸しながらドラゴンテールをやり過ごすと、ようやく杭奈は立ち上がれた。モヌラを掴んだ拳は少々火傷している。 一連の動きの最中に、翅が泥で汚れて炎も虫も、ついでに飛行技も使えなくなったモヌラは残された攻撃手段として、四つん這いになって杭奈へサイコキネシスを見舞う。 そのサイコキネシスで杭奈を拘束。更なる一撃を見舞わんとするゴヅラの補助に入った。 これまで乱戦の様相を呈し、誤射を恐れて攻撃をためらっていたペテンとて、何もしていなかったわけがない。 悪の波導かナイトバーストが使えれば、杭奈に多少のダメージへ目をつぶってらって誤射も恐れず攻撃出来たのが歯がゆかった。 だが、ようやく攻撃のチャンスを見つけてペテンの心は小躍りしている。小走りで接近していたペテンは、ゴヅラをサポート中のモヌラの背中を踏みつぶす。 沼に四つん這いだったモヌラは再び顔を沼に沈められ、サイコキネシスが途切れた。泥で体温が落ちていたおかげか、踏みつぶした足は火傷はしない。 サイコキネシスを解かれた杭奈はしかし、遅すぎた。空中に浮かされた杭奈は、すでに自由落下ではかわしきれない間合いまでゴヅラの牙が迫り来ていた。 杭奈の脚がゴヅラの下顎を掠める。ずるりと僅かに滑るゴヅラ。杭奈の脚も滑ってゴヅラの顎から離れた。 ゴヅラは尻尾の慣性で回転を続け、転びながら杭奈に技を見舞った。これが、平地エリアでなければ勝負は決していただろう。 もっとも、池沼エリアは重量と飛行で足場の影響を少なくできるゴヅラ側に有利に働いていたので、それに負けずに戦いぬいた杭奈の起こした偶然は運の良さよりもむしろ称賛に値した。 足で突き離し、沼で滑り、それによって殺された瓦割りの威力を、杭奈はなんとか手の甲に生えた鉄の棘で防御する。 杭奈とゴヅラの巨体が同時に沼へと沈み、派手に飛び散る泥飛沫。転んだゴヅラの脇腹には、ペテンのシャドーボールが突き刺さる。 泥の中でグハァッと息を吐いたゴヅラは、誤って泥水を大量に飲みこんで大きくせき込んでしまう。 せき込んでいる間に、杭奈は泥から躍り出て、モヌラにストーンエッジを突き付ける。ペテンはゴヅラにのしかかってシャドーボールを構えた。 「俺達の負けだな。まさかこの場所で負けるとは……」 「あちゃー……こんな調子じゃ地下鉄で勝ち抜けないよ」 モヌラとゴヅラは素直に負けを認める。まさかまさかの杭奈とペテンの勝利であった。 当然、その時の二人はハイタッチで互いを称えあいながら喜び合った。 戦利品はたかが木の実一個だが、強敵から勝ちを拾えたというのは何物にも勝る美酒なのだ。 そしてペテンは、この戦いは無茶な要求を叶えてくれた杭奈の評価を大幅に高めることになる。 今まで、『頼りがいのあるポケモンかもしれない……』程度であったペテンの杭奈に対する評価は、『この人になら体を委ねても良い』と思えるようになる。 その心情の変化を伝えようと、昼食の最中も、『子供が出来たら名前はどうしようかね?』とか『今日は貴方の穴倉に泊まっても良い?』とかそれとなくそれらしい事を言ってみたのだが、杭奈は鈍い。 更に続けて『素敵だったわ』とか言っても無駄。『貴方に子供が出来たら強くなりそうね』でも、駄目。 『私のわがままに付き合ってもらった分、貴方のわがままも聞いてあげなくっちゃ』でも効果は無いようだ。 ペラップのお喋りがゴーストタイプに効かない事はあるが、ペテンの言葉は毒タイプではないはずなのだが。 杭奈の方はと言えば、『焦ったら失敗する』と言う神の声と、『良いから犯っちゃえよ』という獣の声の板挟みにあっていた。 どうすればいいのかとやきもきしていてたまらない。そして、ペテンの言葉が耳に入りにくくなったせいで、言葉の裏に含まれた意味に気付く事が出来ない。 そんな風に、微妙な温度差のある二人だが、その温度差は互いの心ひとつでどうにでも覆る微笑ましい温度差で。 もじもじしている杭奈を可愛いと思える心さえあれば、しばらくはこのままというのも面白そうな関係であった。 しかし、それではこの夏の季節、バニリッチが溶けてしまう。攻撃が効かなくなる前に、殴って砕かなければなるまい。 夜になると空は暗かった。月齢は新月だ。思えば、静流が去ってからもう一ヶ月半も経っているというわけだ。 ジョンなしでの物足りない修行を続けていると、突然育て屋が襲撃されたかと思えば、全く意味の分からないままにイッシュ地方を救ってしまったと告げられた。 そして、そのお礼にとお見合いの場をとり持ってもらったら、よく知っているペテンを紹介される。 少し強引なところもあったけれど、結局は良い関係に収まる事が出来た。ペテンと全く会話をせずに、空を見上げながら杭奈はそんな事を考えていた。 「今日は月が出ていないわね……」 「ん……あぁ、そうだね。そう言えば僕は波導で周囲の状況が分かるから大丈夫だけれど、ペテンは前見えてる?」 「ちょっときついけれど……走らなければ大丈夫」 「そう、でも……転ばないように気をつけてよね」 そんな事を言った杭奈に、気にするなとばかりにペテンはちょっかいを出す。 「ふにゃぁ」 そんな風に情けない声を出してしまったちょっかいとは、後頭部の房を揉みほぐすこと。 「転んだ程度じゃ問題ないでしょ? 私は、それなりに強いんだから……貴方には、勝てないけれど」 「……ごめん、気に障ったなら謝るよ」 「気に障ったけれど、気遣われている事がそれ以上に嬉しかったからいい」 ペテンはツン、とつつくように言って鼻で笑う。やがて洞窟エリアにある、寝床として与えられた岩屋へ2人はたどり着いた。 7月の始め。昼間は暑いが、夜は流石に涼しい。それでも、風通しの良いところが恋しくはなるもので、2人は寝床に入らずひんやりとした岩に肩を並べて腰掛けた。 「新月はね」 「ん?」 「ダークライが活動をする時間帯……」 「うん……それで?」 「ホワイトフォレストに流れる、黒い夢の気というかパワーというか、そういうものからダークライが守ってくれるの。 逆にブラックシティは、ビリジオンがブラックシティに流れる白い力から守ってくれるんだけれどね……」 唐突に、とりとめのない事をペテンは話し始める。 「そんなの、誰から聞いたの?」 「主人から」 最低限の応答をして、ペテンは言葉を切った。 「貴方はダークライを救ったわけだし……今宵、新月の日。お礼代わりに素敵な夢が見られると思わないかしら?」 「例えば?」 「……素敵な夢を見るには、素敵な経験をしなきゃ」 ペテンはそっと杭奈の顔を寄せて口付けを交わす。 「これが?」 ふわりとした、まるで池沼エリアの沼に脚を置いたような頼りないキスの感触。 杭奈の言う『これが?』とはあんまりな言い草だが、ペテンも実際そう思っている。 「そうよね。物足りないわね」 物足りないから、もっと素敵な事をしようよ、と流し眼でペテンは誘う。 「その経験って、せっかく涼しいのが台無しになるような事?」 「うん、私はそれがいいと思う」 しばしの無言。ひねった表現というには少し安直過ぎるが、杭奈の言葉はペテンにがっついているとは思われなかった。 興奮しちゃダメだなんて思いながらも、激しくなろうと呼吸が急かす。気を抜いてしまえば、呼吸はきっとハァハァとパンティングと変わらない様相を呈す。 杭奈は繋いでいた手を離し、ペテンの腕を首の後ろに回す。自身はペテンの腋に挟まれる形となってそのぬくもりを享受する。 腋に挟まれたら、ペテンの心音が聞こえてくる。興奮しているのだと丸わかりのリズムを刻むその心音は、杭奈を後押ししてくれた。 「僕のこと、魅力的だと思ってくれてる?」 「えぇ、もちろん」 その言葉に促されるように、杭奈はペテンに口付けを求める。 先ほどとは打って変わって、ゆっくりとマズルが動き、重なり合うまでには時間がかかった。 **32 [#lbbccb03] ガバッと大きく開く口を互いに交差させる。お互いの口で二酸化炭素を交換しあって、少しばかり呼吸は苦しそうだ。 涼しかったから唾液は少なく、ザラリとした舌頭を絡み合わせ、柔らかに這う二人の一部を互いに探り合った。 さらりとした唾液は、口を離す際に糸を引くことなく杭奈の体にタッと零れ落ちる。 口を離しても、しばらく苦しかった息を吸うのと余韻を楽しむことに夢中になり、互いに言葉はいらなかった。 「あまり外でやるもんじゃないよね、こういうの」 「そうね。見せつけすぎも良くない……住処へ入ろう」 場所を移すためによっこらしょと二人は立ちあがる。穴倉の住処の奥には、オレンジ色の粗末な電球が一つ。 暗いとはいえ、星が僅かにまたたいている程度の新月の屋外に比べれば、明るさなんて関係ない種族と夜目が効く種族には十分な明るさだ。 その穴倉の中で、ペテンが誘うように横たわりその肢体を晒す。戦うために鍛えられた体は引き締まり、確かな筋肉を感じさせつつもごつごつした無駄を感じさせない。 膝立ちになった杭奈は、右手で自分の体を支えつつ投げ出された髪をつくろうように撫でる。 神経の無い髪をいくら撫ぜても性的快感は与えるべくもないが、髪の根元まで伝わる感触にペテンは杭奈の気遣いを感じ、心地よさそうに鼻を揺らした。 やがて、徐々に繕う手は髪の根元に近づいて、可愛らしい三角形の耳に触れる。次いで、頬から首筋へと愛撫の手は移ってゆく。 ヒルが這うように微妙な力加減での愛撫を続けていて、じれったいペテンは早く早くと胸を躍らせた。 ちょっと変化をつけてみようと、杭奈はペテンの耳に口を近付ける。息が触れて、いつ杭奈がさらなる刺激を与えるかもしれないという妙な緊張感。 どんな風に耳を触れるのかと、脳裏にそれだけが浮かんだ頃に杭奈はペテンを甘噛みする。あくまで痛くない程度に噛みつき、数秒経って牙を離すと同時に舐める。 適度に耳を濡らされ、唾液が蒸発して気化熱が奪われる清涼感が残った。 「もう少しがっついても良いんだよ」 鎖骨辺りを撫でている手つきに少々じれったくなったペテンは、囁きながら杭奈の左手をやんわりと胸までおろす。 「さ、やってみて」 杭奈は最初こそ戸惑っていたが、肩から胸に掛けてを覆う体毛を掻きわけて、あるかないかの乳房と、小さな突起を見つけると恐る恐る揉みほぐした。 まだ、全く以って経験のない杭奈に技術を望むなんて無茶なことだったのか。ぎこちない手つきに恐る恐るの手探り。 育て屋の先輩から聞きかじった中途半端な知識では、どうされれば気持ちいいのかなんてされるペテン自身も知った事ではない。 だからと言って、腫れものを触るような杭奈の手つきはあまりにもひどいとペテンは苦笑する。 じれったいから行動を起こしてなおじれったい杭奈。杭奈を相手に受けに回ってもダメそうだから、とペテンは攻めに回ることにした。 心臓マッサージでもしているかのように拙い手つきの杭奈の腕をとる。くい、と腕を引っ張って、ペテンは杭奈を転がした。 「な、何? 今度はペテンが僕を?」 「ん~……まぁ、そんなところ。何も言わないでもがっつかなかったのは褒めたいところだけれど、いかんせん腕が悪くって……」 「ははは……ごめん。ジョンから色々教えてもらったけれど、無理か」 「いいわよ。私も下手かもしれないし」 下に横たわらせた杭奈の胸の棘に触れないように覆いかぶさり、ペテンはキスをする。 表面だけの軽いキスから、舌を粘っこくマズルに這わせる。目元、頬と普段はあまり触れていないところを触れられ、杭奈の体はいい具合に敏感になっている。 杭奈の小さな体は、期待と興奮と幾ばくかの緊張で震え、小動物のような線の細い可愛げがある。 いとおしくなって、ペテンは体を起こして杭奈を抱きしめる。棘が刺さらないように慎重に、だ。 そうしてみると、先ほど外で並んで座っていたときよりも激しい杭奈の鼓動を感じて、お互い同じ気分なんだと思うと嬉しかった。 「ちょっとごめんね」 ペテンは杭奈の背中に回した腕で後頭部の房を掴み取り、口に咥える。 「うにゅ……」 と奇声を上げて杭奈は肩を強張らせる。鋭い牙で房を押さえられつつ、しかしその牙は先程の杭奈の甘噛みと同じ。杭奈を傷つけるためには使われない。 「ちょっと、変なところ触らないでぇ……もう」 ペテンはそんな彼の頼みを笑って受け流す。 むずがゆいようなくすぐったいような感覚に集中して、大事なところが徐々に無防備に晒される杭奈の体の変化を本人は気付いていない。 背中に回されていた手は、擦るようにしながら腰へ。ふらふらと揺れる少し強張った尻尾の根元を撫でるころには、鈍い杭奈も流石にペテンの意図に気付いたようだ。 「や……」 そのままペテンの手が股間に伸びる事を膝を上げてガードするが、ローキックをガードするわけではないので当然ペテンが掻い潜るのは容易だ。 何がしたかったのかと思えるほど粗末な守りを抜けペテンの掌が杭奈の逸物を握る。 まだ、ずっしりと質量を増したくらいで包皮を破っては居ない逸物を、包皮越しに触れる。 粘膜に直接触れられていないため、まだ表面への刺激は少ないものの、大分遠慮なしに力を込めている。ペテンのその力加減、触れられていると確実に意識させるのは、良いのだが。 「あ、あの……ちょっと痛い」 杭奈を下手と断じたペテンはしかし、自分自身も力加減が大分出来ていない。 「え、あらごめん……」 「手を握るくらいで……うん、そのくらいの力加減でいいから。うん、さっきのは握る力強すぎ……」 「ふうん? こんな感じ」 ふわりと、言ったとおりの力加減にされて、湧き上がる言いようのない感覚。触感自体は自慰のときと似ているけれど、物理的な感覚以外はジョンにされたときと同じ。 性欲が満たされるだけじゃない、他人にされると言う高揚感。それだけじゃなくって、いつ何をされるか分からない緊張感は、自慰の時ではありえない。 意表を突く刺激の連続が、また心地いい。 「そ、ん、な……感じ。うん、続けて……」 「こう?」 「うん……」 かさかさと、体毛が擦れる音。その音に合わせて杭奈の性感も高まっていく。雌に入れたい、雌の中に出したいと、本能的な欲求がわき上がる。 その欲求の手助けをするペテンも、昼ごろから高めていた雌の本能を最高潮にしている。 今日の昼、この男なら私を守れるはずだと確信してからというもの、杭奈の事が魅力的に見えて仕方がなく。 その時からだろうか。杭奈の男としての個性を存分に意識してしまったのは。 夜になって上手い事を言えたつもりになって、精神的な余裕を見せたつもり。その余裕の態度のまま、あんまりがっついているところを見せたくないという想いで臨んだものだが。 実際に行為を始めてみると、今握っているそれを求めてしまって仕方がなく、杭奈自身食べてしまいたいほど愛おしく。 本当に、たべてやろうかと。 「いただき!」 **33 [#r8069687] 咥えていた杭奈の房を、深く咥えてさらに噛みつく力も強くする。痛みは感じないように、じゃれあいの範囲内で。 「や、痛い」 の、つもりだったのだが、やっぱりペテンは力加減が下手で、流石に痛みが勝って杭奈も嫌がった。やりすぎたなと、バツが悪そうにペテンは口を離す。 「激しすぎるよ、ペテン。お互い初めてなんだし、ゆっくりやろうよ……」 「うん、あの……ごめん。ちょっと興奮しちゃって」 「興奮させる事が出来るくらいって意味で、褒め言葉として受け取っておく」 それほど自分が興奮させたんだ、と杭奈はプラス思考。暴走しちゃって申し訳ないとは思いながらも、包容力のある杭奈の言い分が、ペテンにはまた好ましい。 「そう。でも、冷静にさせてくれる男も好きよ」 「そんな要素、僕に有ったっけ?」 「一緒に戦っていると安心するもの……相手を冷静に見られるの。それでも、私が足引っ張っちゃう事ばかりだけれど……えっと、まぁ。 真剣に好きになれるの。貴方が相手ならね。御主人にお見合い登録された時は……色々ムカついたし、変な男を掴まされた時はイライラして仕方なかったけれど。 まぁ、貴方をお見合いに回してもらえて良かったわ……主人にもスバルさんには感謝しなくっちゃ……」 「そうだね……」 杭奈は思い出したようにペテンを抱きしめる。 「抱きしめてくれてありがとう……あぁ、うんでも……この状態じゃ出来ない」 そこまで言って、ペテンは口ごもる。 「何かしたいの?」 「あんまり口に出していうのは恥ずかしいんだけれど……」 さっきと同じ事を口に出すとすれば、確かに恥ずかしいのも頷ける。 「やっても良いよ。でも、痛くしないでよ?」 そんな空気を察したのか、杭奈は念を入れつつもペテンの意思を尊重した。 「だいじょうぶよっ」 語尾を強調したペテンの声は、任せておけとばかりの気合いと、僅かばかりの照れが入っている。 口に出していうのも恥ずかしい行為というのはありがちなもので、杭奈の逸物を咥えて愛撫すること。 いわゆるフェラチオである。会話している間も、肌が密着する刺激に負けて杭奈のそれは徐々に大きさを増していた。 大きくなった杭奈のそれはビクビクと波打っている。杭奈にとって『ごめん。ちょっと興奮しちゃって』が褒め言葉代わりだったように、この反応もまたペテンには褒め言葉代わりだ。 咥える。口に包まれる。一連の感覚をジョンにされて以来久しぶりに感じた杭奈は、思わず腰を突き上げる。 がっついているわけじゃなく、本当に本能的な行動。しかし、理性がその動きを最小限にとどめたので、ペテンに何か被害が及ぶ事はない。 むしろ、そのちょっとした動きから、自分の行動に興奮してくれている杭奈と、気遣ってくれる杭奈の気持ちがダブルで嬉しい。 「あぁ、やっぱりこれ……いいな」 しかし、杭奈が口走ってしまった不用意な言葉。 「うむぅ?」 きっちりとそれに反応して、ペテンは顔を上げる。一応、口は離しても弄る手は止めなかった。 「え、なに?」 「いや、『やっぱり』ってどういう事かなって」 「え、ああ、えと……うん……その、なんて言うのか」 男に同じような事をされた、と言っていいものか分からない。 「昔、一度だけ同じ事をやってもらったもので……それ以来、ちゃんとした女の子にやってもらおうと思ってもっと鍛えたんだ……うん」 「ちゃんとした女の子? なにそれ……っていうか、ちゃんとしてない女の子ってなに?」 「男の人に」 「うわぁ、そういう事やってたんだ、杭奈君……意外……」 「げ、幻滅した?」 炎の頭突きが出来そうなくらい顔が熱くなるのを感じて、恐る恐る尋ねる杭奈をペテンが笑う。 「いや」 ちょっと恥ずかしそうにペテンは目を逸らす。 「その人のおかげで強くれなたんなら、むしろ感謝しなきゃ……」 「そ、そう……ありがとう……えと、その人は僕の主人が静流って人を迎えに来た時に隣にいた……ジョンって言う」 「あの紫の人?」 「うん」 「そう……でも、初めてされたおかげで強く印象に残っているってのがちょっと悔しいな」 「それは、ごめん」 「いいの。印象を上書きさせてあげる」 プラス思考に考えて、間断なく手でいじっていた杭奈の逸物を咥えて愛撫する作業再開する。 ペテンに対して嬉しさだけを感じさせた当の杭奈と言えば、案の定というか。食いつきこそ良かったものの、続けるとペテンのフェラには粗が多い。 これならジョンの方が上手かったなぁと、軽く女性の心を抉る事を考えながらも、初めてなんだし仕方ないよね、と苦笑を織り交ぜる。 それに、ジョンの言った通り。快感だけが全てじゃないというのが言葉じゃなく体験を通して分かったから、それだけで杭奈は嬉しかった。 でも、いくら取り繕ったところで、やっぱりセックスにおいて快感に勝るご褒美はないわけで。 下手なりに、じれったいなりに。徐々に峠を越えそうな快感の波が杭奈を支配している。 もう止まりたくないって思えるような。はっきりと気持ちいいと分かる快感の波。それが押し寄せてからは、ペテンの攻めは少々ぬるすぎるように思えてくる。 「もっと、激しく……いや、やっぱりいいや」 息遣いやら視線の動きやらで杭奈の状態を察したジョンのような気遣いは望むべくもないので杭奈は恥ずかしいながらも言葉にする。 最初は、もっと激しくと言おうとして、その要求はすぐに否定。激しくされたら、そのまま口の中に出してしまう気がした。 ジョンにとってはそれでいいかもしれないけれど相手はせっかく雌なんだし――なんて、野性のような思考に考え直す。 「どうして欲しいの?」 「えっと、ペテンの……同じ場所に」 と、杭奈も口に出すのを恥ずかしがってはっきりとは言わない。 「同じ場所に? 何をどうする?」 のは、ペテンにとって気に食わないことらしい。男なんだしズバッと言え! とばかりに、ペテンは促した。 「僕のモノを、ペテンの所に……入れていいかなって」 「……優しくしてよねっ」 「も、もちろん」 おどおどしつつも杭奈は頷く。優しくったって、加減が分からない。ジョン曰く、痛がったらゆっくりやってやれとの事なのだが。 ゆっくりできるよう、理性を保たなきゃならない。まず、それが第一関門だ。理性を保て、と体に命令するように杭奈は深呼吸。 そうこうしているうちに、上から見下ろしていたペテンはいつの間にか仰向けに横たわり、股をあけっぴろげに晒す。 「じゃ、じゃあ……」 起きあがり、上から見下ろす形になった杭奈は恐る恐るお伺いを立ててみる。 「どうぞ」 少々余裕の無い笑みでペテンは頷いた。少し怖がっている。 「どうするべきかな……」 「最初は痛いけれど、いずれは気持ちよくなるってハハコモリのおばさんが言っていたんだけれどね」 「……その、痛いってのがものすごーく気になるワードなんだよね。尻込みしちゃう」 杭奈は苦笑する。 「私も本番はしたことないから……そこがまぁ、怖いんだけれど。でも、その、ね……怖がってばかりじゃっ。いいわ、来て……大丈夫、ハハコモリのおばさんのシザークロスの方が痛いわよ」 ペテンはギュッと口を結ぶ。歯を食いしばっているわけではないけれど、それに備えているような。 「うん、痛かったらごめん」 「いいのよ。ここ数日いつもあなたに守ってもらっている……その傷の代わりと思えば」 こくり。杭奈は浅く頷いた。 **34 [#a5cc4d80] とがった先端がペテンの秘所に触れる。 牙が無い分、口の中よりも柔らかい感触。入口に触れた程度では痛みは感じない。 「大丈夫?」 なんて質問にも、ペテンは黙って頷いた。 押し返したり、酷く強い力で締めつけたりといった抵抗を感じるまでは心配ないかな? と、杭奈は押し進める。 しかし、互いの心配は殆ど杞憂であった。栄養状態がよく、柔軟に張った処女膜は大した苦痛もなく。 「ん……」 「あぅ、痛かった?」 「いや、痛くないと言えば嘘になるけれど、思った以上に痛くない……大丈夫。むしろ胸を揉まれた時の方が」 「ご、ごめん……慣れてなくって」 「いいのよ。私も慣れてなくって貴方に変なことしちゃったし」 そもそもルカリオの体躯に見合う杭奈の標準的な逸物では、成熟したゾロアークの膣に傷をつけることなど有り得なかった((大事なことなのでもう一度言いますが、杭奈のアレのサイズは平均的です。ゾロアークがでかいだけです))。 鼻をほじくっても爪を立てなければ痛くないように、破瓜は何ともすんなりと。 拍子抜け。なのかもしれないけれど、心配が杞憂に終わって杭奈は少し安心した。 「痛くなかったの?」 「殆どね……いいよ、歯を食いしばる必要もないから動いて」 「うん……」 心臓が高鳴った。地面に手をついて見下ろす視線の先のペテンは、うるんだ眼を期待に踊らせている。 彼女の感情は、不安そうな内股気味の脚と、その瞳に揺れる期待の二つの感情が支配している。 その不安、全部無くしてあげられたらいいな、なんて気障な台詞は心の中にしまい込み。不言実行するべく杭奈は腰を振る。 パンパンなんて下品な破裂音でもなければ、下品な水音もしない。ゆったりとした腰の動きは杭奈の気遣いか。 毛皮と毛皮がこすれ合う音を主とした音が穴倉内で反響してやけに耳に付く。でも、不快じゃなかったし不快が付け入る隙もない。 胎内で粘膜同士がこすれ合う刺激。摩擦熱とは違う、熱い血潮が滾る事で帯びた熱が互いの生殖器に帯びる。 「どう? 気持ちいい?」 なんて、言葉の受け答えがあったのも最初だけ。呼吸が苦しいのと、夢中なのとで杭奈は話しかける気力が萎えてしまう。 気合いが入っているのは腰ふりだけ。もう言葉なんていらなくって、むしろ言葉など無粋で、今この時はペテンも無言で充分だったから何の不満もない。 心臓の鼓動に合わせて喘ぎ出す、杭奈の甘い吐息。 快感に塗りつぶされたペテンの顔からは、全身がクソ熱いのに舌は出ていない。それこそ、この熱こそが媚薬だとでも言うように、歯を食いしばりながら快感を飲みこんでいた。 こうして一度甘ったるく鳴いて、愛液とも尿ともつかない液体で穴倉に水たまりを作っていたペテンに遠慮する事はない。もう自分も果ててしまおうと、杭奈は残った理性を捨てる。 「ごめん、もう限界」 「そう……」 ペテンはそっけない返事。それしか出来なかったのだが、杭奈は気にする余裕もなかった。そっけない返事を、さっきまでのペテンと違うとか思う前に、杭奈は果てた。 数秒、頭が真っ白になっていた杭奈が冷静さを取り戻すと、ようやくペテンの表情を見る事が出来るようになった。 雄特有の素早い賢者タイム((野性動物は交尾中が最も危険なために、交尾後素早く周囲に意識を向けられるよう、急速に性欲が衰える現象。また、その現象が起きている時間のことの俗称である。&br;女性の場合は賢者タイムの訪れがゆっくりであるため、男性は一度果ててしまったら能なしとか言わずに男の体の事を理解してあげよう。))が訪れ立ち直りの早い杭奈に比べると、ペテンはゆったりと恍惚から冷めていくようだ。 この平和な育て屋だ、何も無いだろうとは思いながらもあの時のようにいつ襲撃があるかもわからない。 疲れたから、あまり真剣に広範囲を探る事はなかったが、せめて寝床の周囲くらいは警戒しておこうと、杭奈は房を立てる。 実際、こんなことをする必要なんて無いと頭では分かっているのだが、今日は久々に野性の血が目覚めてしまったおかげでこうせずにはいられないようである。 杭奈は、房を立てる集中力が普段と比べて異様に長く保たれている事も、広範囲にまで及んでいる事も気づかずに落ち着いた呼吸を繰り返す。 唾液に濡れた房が風を浴びて妙に涼しく、変な気分であった。 ◇ 「孵化作業員から聞きましたよ。トゲキッスが貴方達の元に降りてきてくれたようですね……卵が産まれたら、管理棟の孵化作業員に何なりとお申し付けくださいませ」 にこりと笑って、スバルはパンフレットの写真を見せる。 「我が育て屋の、孵化メニューの中でも最高品質の徹底健康管理コーナーも、貴方への恩義として無料でご提供させていただきます。 もしも子供の顔が早く見たくて見たくて仕方が無いのであれば、シャンデラのサイファー・タリズマン兄弟が取り急ぎ孵化をしてくれますよ、どうでしょう?」 そんな必要はないと、杭奈はガウッと鳴く。スバルはパイプの意匠が施されたUSBケーブルを咥えるふじこを通してその鳴き声の意味を文字にして表示する。 「『マwジwイwラwネwーw』分かりました……ですよね。やっぱり自分の卵は自分で温めたくなりますよね。ですが、母体の健康については一応お気を付けを。 ペテンちゃんにはしばらく戦いは控えて、よい食事をとっててくださいと伝えてくださいね…… うん、こういう時こそ昼食マッチで夫が餌を運んであげると格好良いと思いますよ。杭奈君、頑張ってくださいな」 そんなに僕を戦わせたいのか、と杭奈は肩をすくめる。 「いいではありませんか……交尾して終わりなんてのはルカリオの男がすることじゃないですよ。 戦って餌を勝ち取り、女性を保護してあげる。それも中々乙なものだと思いますよ。それに、子供を持ったルカリオは房の力も強化されるではありませんか」 杭奈は分かってますという意思を込めて鳴き声を上げる。 「『んあこたぁ、テメーに言われなくても分かってんだよ』……はは、ですよね。杭奈君もペテンちゃんも子供は大事にする種族ですし、本能的に分かっておられるようで」 微笑ましそうにスバルは笑い、期待を込めた眼差しでスバルは杭奈を見る。 「親が子供のために強くなるというのは良いものですね。今の貴方は、私と似ているけれど、違うところも多いものです。 親がろくでもないせいで強くなった私にしてみれば、貴方の子として生まれる子供は羨ましい限りですよ……。 さて、貴方にこんな言葉を教えましょう。鋼の刃というものはですね、自分よりも固い槌によって鍛えられ、柔らかな砥石によって研ぎ澄まされるものなのです。 貴方は、目標に出会い師匠に出会い、戦いのノウハウを叩きこまれて鍛えられました。 私は、親に盗みを強要され、社会の厳しさを叩きこまれて鍛えられました。 貴方は、ペテンを得て強くなる意欲を得ました。 私は、自分より弱い子供を拾って強くなる意味を得ました。 きっと、ペテンの子供が生まれれば、貴方はまた強くなるはずです。 キリキザンの刃のように、自分の刃よりも柔らかな石によって研ぎ澄まされるはずでございます。 あなたに更なる切磋琢磨と研鑽がありますよう、頑張ってくださいませ。私も、応援しておりますよ」 杭奈は、スバルが何故自分をこれほどまでに気に入っているのか、あまり理解はできなかった。 しかし、強くなる事を応援され、子供が出来たことを祝福されていると思うと悪い気はせず、はにかみながら頷いた。 スバルが言った、『貴方はまだ強くなるはず』という言葉は、その言葉通りというべきか。 子供が出来たとわかってから、杭奈の房の力は知らず知らずのうちに強化され、徐々に戦闘中も無理なく連続発動できるようになる。 そうして、杭奈は気のせいでは説明がつかない割合で多くの勝利に導かれたようである。 一日に複数の昼食マッチを行い、安静にしているペテンに木の実を届ける毎日。 無敗ではないけれど、刻々とその開催日が迫るダークライ・ビリジオン感謝祭に向けて、杭奈の動きは日ごと確実に強くなっていた。 **35 [#ba507cbf] 断続振動孵化法((卵を素早く孵化させる方法。同じリズムで繰り返し振動を与えることにより、胎児の細胞分裂のペースを速める方法。&br;現在ではトレーナーが自転車によって振動を与えるのが一般的であり、この孵化方法に関しては数多くの論文が書かれている))により、珠のようなゾロアの子が生まれてから数日。 その子供をファントムと名付け、手がかかる時期を抜けないうちから戦線に復帰したペテンと共に、杭奈は子供の分の木の実を勝ち取る毎日だ。 ペテンはまだまだこの子が育つまでは現役を止められないと、育児と修行の二足の草鞋は履き続けるつもりらしい。 まぁ、無理しないように、と人間の職員から注意され、それを最優先にしてペテンは日々を過ごし、ペテンとの初体験を迎えてから1ヶ月。 ジョンと再開の約束をした日であるダークライ・ビリジオン感謝祭が開かれる日が訪れた。 開催場所は、普段は閑散としているブラックシティとホワイトフォレストの境界点。 夢の世界、ハイリンクの影響が最も強いとされるこの土地は、夢の世界から流れ込んだ欲求が人々の潜在意識に夢や幻覚という形で非常に強く作用した。 かつては、その影響が町の各所に点在しており、まさしく混沌とした状況。 いかなる聖人でさえも、黒の影響を受ければ刺激と変革を掲げ、暴力的になり、いかなる悪人も白の影響を受ければ平穏と保守を掲げるようになる。 夢の影響による神のみぞしる運命の悪戯の心ひとつで被害者と加害者が入れ替わるこの土地。 ある意味では釣り合いが取れているが、心を壊す者も少なくなく酷い有様であったという。 開拓時代も終盤を迎えた頃に貿易商がこの国に連れて来た、悪夢を操るポケモンであるダークライ。 そのダークライが街の半分から黒い夢をその身に取り込み、ホワイトフォレストを作ったとされている。 そして、ホワイトフォレストの空気に惹かれたビリジオンが、ちやほやされるダークライに嫉妬して、自分もちやほやされようとブラックシティを作ったと言われている。 ダークライはクリスマスが終わってすぐに現れ、新年の11日までの間にホワイトフォレストを形作ったので、この街では悪い子に悪夢を届けるダークライの意匠を施した黒いサンタクロースやダークライサンタなどの名物がある。 その他、もう一つの名物として知られるのが、ビリジオンがブラックシティを作り終えた日。今日から二日間行われる感謝祭であった。 このお祭りは、ブラックシティに住むビリジオンに対してホワイトフォレストの酒を。ホワイトフォレストに住むダークライに対してブラックシティの酒を奉納する祭りである。 その奉納の儀式は、ビリジオンに対する奉納の儀式に格闘タイプ。ダークライに対する奉納の儀式のために悪タイプのポケモンが人間の介添えを担当するのだが、その介添えのポケモンは祭りの1日目に闘って決めるのだと。 自分の肌に合わない街に暮らす事で弱り切った二種のポケモンの格闘もしくは悪の力。 それを補給するべく、大会で勝ち抜いた最も強いポケモンが御神体に向かって最高の技を放ち、砕け知った御神体を大地にばらまくのだ。 一昨年に行われた前回は、スバルのトリニティがダークライのために御神体を噛み砕き、噛み千切り、悪の波導で粉々に粉砕した。 格闘部門の方はと言えば、ピジョットを思わせるオールバックの髪形をしたトレーナーのエルレイドが格闘の御神体を跡形もなく切り裂いて終了したのだとか。 今では観光客を呼ぶために興行の意味合いが大きいその祭り。この日ばかりはブラックシティも全力で犯罪を監視され、安全が確保される。 ジョンは去年の祭りで好成績を収めており、惜しくも優勝者にやられて3位に甘んじたものの、今年こそはと意気込んでいた。 さて、この祭りと育て屋の関係だが、この日ばっかりは主人と共に一時的に預かりを解除するトレーナーが多く、育て屋のポケモンが4分の1ほど消え去る日だそうだ。 杭奈の主人もその口で、一人のトレーナーが一部門に一匹ずつ出場できるために静流を悪タイプ代表に。杭奈を格闘代表としてに連れて来ている。 本来なら、ジムのエースであるエンブオーを出場させるつもりだったのだが、スバルの強い推薦があったために杭奈を出してみることにしたのだとか。 もちろん見学はいくらでも可能なので、催眠術をようやく覚えた袴も訪れているし、静流などジムのポケモンも多数連れている。 杭奈はペテンと一緒にオリザに連れられ祭り会場に付いて早々、杭奈は波導を感知してジョンを探し当てた。 杭奈とジョンはこの祭りで約束通り会えた事に小躍りしながら、この1ヶ月と数日の間に起きた事を得意げに話した。 ジョンが育て屋を卒業する前は袴と仲の良かったペテンと紆余曲折あって結ばれ、子供まで生まれたという事を説明するとジョンは自分のことのように喜んで、その親子を見せろとせがんだ。 顔を見せてやれば、可愛い子だとお決まりの褒め言葉を言って頭をなでる。 人見知りするファントムはジョンの事を怖がっていたが、ジョンは気分を悪くすることなく杭奈をひたすら褒めていた。 ペテンはというと、本来の主人が来ていないためか出場する事はせずただの見学扱いで、杭奈を強く、魅力的にしてくれたジョンに感謝しつつ、喧騒の中で不安そうな子供をひたすら愛でている。 主人のオリザは、パイプを組んで作られた粗末な金属製の足場に腰をかけて、観戦モードに移っており、ジョンの主人と一緒に自分のポケモンや仕事に関する話をぎこちないながらに話していた。 ポケモン達が勝手に仲良くなったせいか、主人同士はまだまだ表情が硬い。 それと引き換えポケモンの方はジョン自ら気軽にパシリを申し出るくらいには仲がいいといった感じだ。 「はい、杭奈。後ペテンにも……袴君は綿あめだったね」 大量のお菓子を抱え、ながらジョンは笑う。 「あ、ありがとう……」 杭奈にチョコバナナを。ペテンとその子供で、ペテンの主人が名付けてくれたファントムという名のゾロアには杏子飴を。 袴には綿をそれぞれ渡してジョンは座りこむ。自身はソースせんべいを買っており、座りこむと同時にガリリと豪快に齧りついた。 お金の使い方をよく知らない杭奈と違って、ジョンは身振り手振りだけで買い物が可能なほど人間社会に順応していて、こういったスキルはレンジャー時代に付いたものだとジョンは笑顔で語る。 強さの面ではともかく、ジョンの器用さにはやっぱり敵わないなと杭奈は思うのであった。 強敵と思われる者もちらほらと見かけられる中、ジョンもやっぱり強敵というカテゴリに位置するようだ。 なんの間違いかトーナメントで最初に当たった相手のポケモンも性別が違うとはいえコジョンドだった。 いわゆる同族対決と言えば白熱してしかるべきだが、ジョンはと言えば腕から伸びる体毛でパシパシとはたいて苛めぬき、それだけで勝利をもぎ取ってしまう。 この試合は、トレーナーかポケモンの降参及び、戦闘不能に場外負けで勝負がつくのだが、ジョンの場合はポケモンの降参負けである。 傍目には大した傷は見えないが、毛皮の下の皮膚には相当な痛みだったようで、負けを認めた頃には痛そうに顔をゆがめている様子が見て取れた。 少々やり過ぎたかとジョンは苦笑していたが、女性相手に傷をつける事は最小限にした上での完全勝利、見事なものである。 杭奈の印象は、昔と変わらず『強い』というもの。とは言え、何のこと無いとばかりに涼しい顔して帰ってくるジョンは前よりも少し勝てる気がして見えた。 杭奈は『きっと自分が強くなったのだろう』と考えて、自身を奮い立たせることにした。そうでも思わないと、尻ごみしてジョンには絶対に勝てない気がしたのだ。 とにもかくにも、全てのポケモンが弱点タイプを使って来るこの戦いで、どこまでいけるかは不安であった。 でも、きっと大丈夫さと気合を入れて、杭奈は順番が回ってきて舞台に飛び降りた。 **36 [#oa7502f9] 相手はダゲキ。このイッシュ地方ではよく見かけられる真っ青な人型のポケモンである。胴着のような物を蔓草を編んだ縄で縛っており、それを縛り直して気合いを入れる習性をもっており、試合に臨む彼もまた図鑑通りの動作をした。 対して杭奈は、静流がそうしていたように一瞬の呼吸で気合いを込める。今となっては、もう長く息を吐いてどうのこうのという気合いの込め方では、思わぬところで隙が出来ると悟ったようだ。 更に今までの違いを上げるとすれば、後頭部では最初から房に力を込め逆立ちというほどでは無いが重力に逆らって浮かせているところだろう。 自分が育て屋を卒業したころとは別物である杭奈の様子にジョンは目を見張った。 さて、審判の試合開始の合図で試合が始まると、杭奈はダゲキと距離を詰める。 杭奈は、育て屋での戦いが板についてしまったせいか指示を受けるのが苦手な反面、命令無しの分だけ行動が僅かに速い。 そして、命令されない方が強い理由の一つとして、杭奈の戦闘スタイルと能力のシナジーである。 敵に合わせて動くという杭奈の闘い方は、いちいち指示に従ってなんていられないのだ。接近した杭奈は、ダゲキが攻撃を出しにくい位置へ。 「おい、ロッキー。距離とれよ!!」 なんて、ロッキーという名前らしいダゲキに命令が下されダゲキは後ろへ下がるが、そうはさせるかとばかりに杭奈は前へ詰める。 左へ動けばそれに合わせて杭奈も動き、杭奈とダゲキは一向に距離が離れない。 「くそ、それならインファイトだ」 ダゲキの主人は再度の命令。ダゲキがインファイトが使えるとは知らなかった杭奈だが、彼は戸惑うよりも先に動く。 ダゲキが下段へ手刀を突きだす前に、杭奈は身を低くして、いからせた肩口から体当たりをぶちかました。 杭奈の体当たりを食らってダゲキの体勢が崩れかけるが、大したダメージではない。杭奈は更に後ろに下がろうとしたダゲキを執拗に追い、体当たり。 バックステップの最中で後ろに重心がかかっていたダゲキはついに転んでしまった。杭奈は素早く側面に回り込んで、斧刃脚。 というよりはそのままスタンピングといった方が正しいか。杭奈は相手に対して情けをかけてわざと外したものの、次は当てるだろう。 結局、圧倒的な実力差を理解してしまったダゲキは、トレーナーの意向を無視して降参してしまった。 ジョンと同じく初戦で圧倒的な実力差をアピールした二人は、前回優勝者が参加していないことも相まって、大会の優勝候補と観客に囁かれるのであった。 ◇ 「杭奈……なんなんだ、あの戦い方は? 相手が下がったと思ったら、自分は進んで……そのまま何度もピッタリくっついてさ」 杭奈が帰ってきても勝って当然と言わんばかりに、ジョンは祝福ではなく質問で杭奈を迎える。 「前から房は鍛えていたんだけれど……僕、子供が生まれてから波導を感知する範囲が広く正確になって……相手の動きや考えもある程度読めるようになったんだ…… スバルさん曰く……子供が生まれると、子供を守るために自然にそうなるものなんだって」 「ついでに、私の幻影も強化されたのよ」 ルカリオとゾロアークの熱々な夫婦はそう語って笑う。 「へぇ、アタイらズルズキンにはそういうの無いから羨ましいわ。アタイも子供産んだら酸が強くなるかしら?」 「ふふん、静流。羨ましいでしょ。せいぜい酸を強くすることだね」 僅かに鼻息を荒くして、得意げに杭奈は言う。昔は静流にからかわれてばかりだったが、今となってはその面影もなりを潜めているようだ。 「ま、いくら相手の動きが分かるったって、戦闘中は相手の動きが速過ぎて普通に戦っていると相手の動きが読めてもあまり意味が無いんだけれど…… あぁやって、ピッタリくっついているとポケモンによっては何も出来なくなる。だから、僕は移動するだけでいいから簡単なの。って言っても、これは袴の受け売りだけれどね…… ともかく、相手の移動に合わせて移動するだけなら相手の動きを読む能力も楽に、有効に使えるんだ。組み技を持っていない奴が破れかぶれで掴んできても怖くないしね。 袴も角で相手の考えが読めるから、同じ事を出来るの……まだ、格闘技の方はお粗末だけれど、いずれはね。 そうなったら、袴は練習相手としてもライバルとしても気をつけなきゃね」 静流に対して得意げに語る杭奈には、かつてのような弱々しさを感じなかった。ここにきて静流は、自分が育て屋を卒業してからの2ヶ月半の月日の重さを実感する。 「ええ、相手に合わせて動くだけなら出来るようになりましたので……来年は僕が出場出来るように頑張らせてもらいますよ」 そしてその自信というのは杭奈だけでなく袴にも備わったようである。自信たっぷりな杭奈と袴の会話を聞いて、恐ろしいその内容にジョンは肩をすくめた。 「お前らは感情が読める技を戦闘中に有効に使える……しかも、ルカリオは裏拳、エルレイドは肘打ち。&ruby(インファイト){近距離};で使える技が非常に強力だ。 まさしく、お前ら二人はインファイトを行うためだけに生まれたようなポケモンなんだよな……反則だよ、俺にもインファイトの才能を分けて欲しいものだね」 「ふふ、今日こそジョンに勝って見せるからね。覚悟してよね」 杭奈はそう言って得意げに胸を叩いて見せる。 「杭奈の自信……こりゃ、予想以上だな」 負けるかもしれないな、とジョンは苦笑した。 「随分と逞しくなっちゃってね……年上だったら、アタイも惚れていたかもね」 クスクスと静流は笑う。 「はいはい、年上じゃなくって残念でした」 以前まではからかわれていた静流に対しての応対も、やっぱり成長していた。 そんな杭奈を見て、ジョンは彼の成長を感じて嬉しい反面、やっぱりまだ自分より弱く合って欲しいと感じる。 ジョンは不思議な寂しさを感じながら食べかけのソース煎餅を食べるものだから、せっかくの味が分からないまま全てを食べ終えてしまった。 「あら、アタイの出番だわ」 ちなみに、静流は言うまでもなく悪タイプ相手に有利な悪タイプである。 久しぶりに静流の闘いを見ることになる面々は、如何なる戦い方をするのか興味深々でそれを覗く。 静流は2ヶ月半の間に主人の指示に従うことにもだいぶ勘を取り戻したそうなので、静流の出番は主人が赴く。 のはいいのだが。 「二人があまりに格好良いから、アタイも魅せる勝ち方をしたくなっちゃった……」 黒い笑みを浮かべて、不穏な事を言う静流。これでは、主人の命令を聞いてくれるのかどうか。 格闘タイプも悪タイプもルールは同じ。とりあえず勝つ方法などいくらでもあるということだ。 試合開始から、まず主人から下された指示は『とりあえず、適当にあしらってやれ』というもので、皆相手が格下というのはなんとなくわかっているらしい。 敵はワルビアル。赤銅色と黒の虎柄模様が非常に強い警戒色となってあたりに存在感を振りまいている。 突き出た大顎は、遠く離れた地のオーダイルよりも相対的に巨大であり(全体のサイズが違いすぎるが)、眼の隈取り模様と相まって子供が泣きそうな見た目である。 奇しくも同じく砂漠出身のポケモンであるが、果たしてその実力は如何に。 「一飲みにしてやらぁ!!」 口を大きく開いて威嚇する敵に、静流もまんざらでもない様子で肩をすくめる。 「おお、怖い怖い」 なんて、おどけた様子で無駄口を叩いている間に、静流は常に曲がっているワルビアルの膝に注目。とあるプロレス選手が、膝をついたまま攻撃してこない相手にとどめとして使ったらしい技を思い出す。 早速、魅せる技を思いついた静流は相手に対して、平均台の上を歩くように両腕を広げたまま、がらあきの腋を晒して接近。 相手がトレーナーの命令で掴みかかって噛みつこうとした所を、静流は相手の体の外側に向かってかわし、腕を取って関節を決める。 そのまま押し倒して関節を極めてギブアップを誘うことも出来るのだが、それでは地味な戦いで面白くない。 静流は相手の腕を外側から掴みながら膝を踏み台にジャンプ。 後頭部に強烈な膝蹴りを加えつつ、自身は受け身をとりつつ地面に落ちる。 もちろんのこと、効果は抜群だ。 「ありゃ、シャイニングウィザードじゃねえか……プロレスではたまに使われるが……ポケモンバトルで使われるの初めて見た」 あまりにも見事な静流の技の冴えに、ジョンが苦笑していた。 「何それ、すごいの?」 杭奈が尋ねる。 「見ての通り、うん……飛び膝蹴りの変形なんだけれど、恐ろしく魅せに特化しためったに当たらない技。当たれば威力は強いけれど、興行の決め技以外で使うものじゃないさね」 「あらあら、私は決め技として使ったわよ?」 一通り解説を終えたところで、悠々とした足取りで戻ってきた静流が得意げに微笑んでいる。 「そりゃ、最初からクライマックスって奴は決め技には含まんさね。いや、静流が敵じゃなくってよかったね。あんな戦い方、俺には真似できないさね」 「私も悪タイプ代表に参加しなくって良かったわね。あんな技喰らいたくないわ」 ジョンに追従するようにペテンが笑う。こうして、初戦は全員余裕で突破を決めた。 しかし困ったことに、この祭りは参加人数無制限であり、エントリーした順番がそのまま戦う順番にされていたおかげだろう。 次の対戦はあろうことか、一緒にエントリーをした杭奈とジョンが相まみえることになってしまっているのである。 杭奈とジョンのどちらか一方が変に強い相手と当たって、負けないまでもスタミナやダメージに差がついた状態で戦うよりはいいとも言える。 しかし、優勝候補がこれほどまでに早い段階であたってよいものかと言えば微妙ではあった。 **37 [#e370beab] 一回戦の試合がすべて消化され、杭奈とジョンの試合が開始した。 ジョンは、レンジャー出身という事もあり、また今の主人が戦いについてはからっきしという事もあり、指示は必要とされない。だから、杭奈と同じで指示を必要としない条件は一緒だ。 一回戦のように房を重力に逆らわせてふわふわ浮かせながら、杭奈はジョンを睨む。 「負けないよ」 「今のお前になら負けるかもな……」 強気な杭奈の発言に対して、ジョンは弱気な発言で返す。しかし、声は絶望とか諦観というよりも、とても楽しそうな声。口元には笑み。 余裕の笑みではないだろう、当然のことだが杭奈は楽に勝てる相手じゃないと感じる。 ジョンのはたく攻撃。腕から伸びる長い体毛でリーチを稼ぐその攻撃は、杭奈の射程外から攻撃できる。 ノーマルタイプであり、音は派手でも衝撃力には乏しいそれは、鋼タイプの杭奈には今一つだ。杭奈はそれを肘で受け止め間合いを詰める ジョンは振り抜いた勢いをそのままに回転しながら体を浮かせ、のけぞるように頭を後ろ。頭上から見て反時計回りに体幹をひねって左踵で&ruby(ローリングソバット){飛び回し蹴り};。 杭奈はのけぞって避ける。飛び回し蹴りでバランスを崩し、受け身をとりつつ倒れたジョンに杭奈が間合いを詰めた。 そのまま、杭奈は踏みつけて攻撃を仕掛けようとするが、そんな事はさせてなるものかと、ジョンは寝転がったまま足を杭奈に向けてオープンガードポジション、いわゆる『猪木アリ状態』をとる。寝転んだ側が放つローキックが地味に痛いので、人間同士がこうなったら武器を持つか石などを投げるのがもっとも有効だが、総合格闘技などのリングの上では武器は使えないため膠着状態になりやすい。 しかしそれも、波導弾を撃ち合ったりできない人間同士の戦いのお話。人間同士でならこの体勢だけでも十分な威嚇になるのだが、残念ながら杭奈はポケモンだ。貧弱とはいえ遠距離攻撃ならばいくつか揃えている。 しかし、ジョンだって腐ってもポケモン。遠距離攻撃が標準搭載されているポケモンにとって、ジョンのこの体勢だけでは確かに威嚇としては力不足だが、更なる威嚇のためにジョンは遠距離攻撃対策に波導弾をチャージ。これにより、寝転がったままの相手に攻めあぐねる杭奈。 この状態から直接攻撃による対策法が見えない杭奈は波導弾やストーンエッジなどで攻撃するしかないが、杭奈は特殊技をあまり鍛えていないし、そもそもジョンにはストーンエッジは効果が今一つだ。 対して、特殊技をきちんと鍛えたジョンは、寝転がったままでも特殊技の威力が大して変わらないことを考えれば、中々にいやらしい。 ジョンは寝転んだままのキックと、寝転んだままの飛び道具のどちらも強力だ。どちらも十分な威力を持つ両刀ならではにして、両刀にしか出来ない杭奈対策である。 しかし、寝転がったままでは攻撃を避けるのも難しいはずだと判断し、杭奈はバックステップで下がって波導弾の準備。 自分は相手に波導弾を当てて、ジョンは寝転んでいるから逃げられないように、という青写真だったが、生憎ジョンはそんな状況を許すほど親切ではない。 杭奈が自分から離れたのを確認すると、ジョンは波導弾の構えをチャージのために崩さず、尻尾と足だけで杭奈から眼を離さないよう立ちあがった。 そうして放たれたジョンの波導弾は、彼が元から両刀に鍛え抜かれているだけに、きわめて強力。 相殺しようと咄嗟に放った杭奈の波導弾を呑み込んで、勢いが衰えないまま杭奈へと真っ直ぐ向かう。 波導弾が迫ってきたせいで、地面に手を突くように大仰な避け方をせざるを得なかった杭奈は、無理にその場で立ち上がろうとしない。 後ろに手をついた勢いそのままに、1回後方受け身を取りながら転がって距離をとりつつ体勢を立て直す。 ここで膠着状態に陥った二人は、荒く肩で息をついて呼吸を整える。 「やっぱりジョンは一味違うね……全然近付けないや」 「お前こそ。俺とて近づかれても対応できる技はもってるが、お前相手じゃ役に立つかもわからんから……近づかせたくないんだよ。 近づかれたら負けるなら、近づかせなければいいってね」 「それ、近づけば僕が勝てるってこと?」 「あぁそうだな。俺が負けるかもな」 二人とも、呼吸を整えながらの膠着状態から一変。同時に動き始める。 完全に房を逆立てた杭奈は、立ったままくるりと時計回りに一回転して右回し裏打ちを放つ。 体を伏せてそれを避けたジョンは、そのままでは胸の棘に頭突きをしてしまうことになる。 そこでジョンは、更に身を低く。杭奈の左脚を刈り込みに行く。脚をとって、肩口から体当たりをしてシングルレッグテイクダウン 。 ジョンは地面に寝かせた杭奈の上に馬乗りになって、マウントポジションを取った。 そのポジションにつけば、後はやることなど決まっている。ジョンは手に体毛を巻き、拳を痛めないようボクシンググローブのようにする。 その状態から、瓦割の要領でひたすら杭奈の顔面を下段突き。否、ひたすらというには回数は少ないか。 杭奈は4回まで殴ることを許してしまったが、5回目殴ってきたジョンの右腕の緩んだ体毛を掴みとり、暴れるジョンの右手に、杭奈は右手の棘で裏拳を見舞った。 棘が手首に突き刺さり、腕に走る激痛でジョンは咄嗟に杭奈から腕を剥がそうと立ち上がろうとする。 ジョンが立ち上がろうとして体を杭奈から浮かせた瞬間、杭奈はブリッジを組み、ジョンの踏みつけによる追撃を避ける。 杭奈のブリッジでバランスを崩したジョンは尻もちをつきかけたが、なんとか隙を見せずに立ち上がった。そうして両者、再びの膠着。 杭奈の棘にやられて右腕の攻撃が難しくなったジョンと、裏拳を腕に見舞う最中にも顔面をやられ、戦意を削られた杭奈。 攻撃に使う部位がやられていない分、精神力の強い杭奈有利か。 「ジョンには全く近付けない上に……倒されるなんて、不覚だなぁ」 「お前に近づかせたら負ける。俺はただ負けたくないってことさね……大人気ないんだよ、俺は」 「なら……僕は勝ちたいね」 「勝ってみろよ……その権利は弱いものにも強い者にも誰にだってあるさ」 「そうだね……その右手はもう物を握れないはず……肩を掴めない飛び膝蹴りなんて、怖くない!!」 杭奈は唾液混じりの血を手に掬い、それをジョンに向かって投げる。ブラックシティでの課外授業の最中にスバルから教わった眼潰しの応用だ。 違いは、あの時は敵の血を利用していたが、今回は自分の血を利用しているということくらいか。ジョンは右腕から伸びる体毛でそれを弾き飛ばす。 腕そのものを攻撃に使わなければ、まだ何とか右腕も動かせる事を再確認した。 ジョンが腕を振る際に手首の怪我から血飛沫が飛んだ。図らずも眼潰しを返す形になったわけだ。 しかし、杭奈は飛んできた血しぶきを見て、あの軌道なら眼には当たらないと踏んで避けなかった。そして、そのままジョンへ接近して間合いを詰める。 大股の一歩で間合いを詰めたところで顔面へ向かって左掌底フックと見せかけ、その手で隠した蹴り脚をジョンの右太ももに見舞った。 掌底のフェイントを織り交ぜたせいで少々無茶な体勢から放たれたその蹴りは、威力が乏しいがしかし、痛みによって生まれたジョンの一瞬の隙。 ダミーの掌底に使った左腕を折りたたみ、勢いそのままにジョンの首筋に向かって肘打ち。杭奈はそこから更に前へ出て、インファイトの間合いにもぐりもうとする。 ルカリオのお家芸の間合いでは膝蹴りを放つのも難しく、相手を押すなどして距離を取らなくてはジョンはまともに攻撃出来ない。 杭奈の言うように肩辺りを掴んで蹴るのが一番威力の高くなる方法だ。その最も威力の高い膝蹴りも、今の片腕しか使えないジョンでは少々難しいだろう。 このまま、裏拳、肘打ち、斧刃脚、体当たりなどより取り見取りの近距離攻撃で嬲り殺しにしてやれば勝ちを拾えると、思っていた。 だが、ジョンは左腕の肘打ちを喰らいながらも、その痛みに顔をしかめつつ杭奈対策を発動する。 「な、そんなのあり……」 ジョンは杭奈の左肘打ちを喰らう前から受け身をとるように寝転がり、杭奈に向かって足を向ける。2回目のオープンガードポジションだ。 ジョンが倒れながら喰らった肘打ちも、杭奈には大して手ごたえが無かった。 「お前が俺に対策法を考える時間をくれたお陰で思い浮かんだのさね……急ごしらえだからこんなのしか思い浮かばなかったけれどな」 ダゲキとの試合で、一度だけ見せたピッタリと間合いを詰める技の対策。 ジョンの対策は、この試合が始まるまでという文字通りの急ごしらえではあったが、悪くない。 序盤で同じ体勢をして見せたのは、杭奈がこの体勢の敵に攻撃する術をどれほど持っているか調べるための行動であった。 試した結果、杭奈は正しい対策法を取れなかった。下がって波導弾を撃つという行動は、苦肉の策として寝転がったジョンが立ち上がって向き直るチャンスを与えてしまうだけだ。 序盤と同じ体勢になり、今回も杭奈は波導弾を出そうと思った。しかし、最初の時と同じパターンになってしまってはせっかく距離を詰めた行為が無駄になってしまう。 何か別の方法はないものかと、一瞬のうちに杭奈は考える。直接攻撃をしようとすれば、ローキックで対応。遠距離攻撃をしようとすれば、ジョンは立ち上がってしまう。 ならば、直接攻撃せずに近距離物理攻撃する手段があればいい。それが出来るのはローブシンやドテッコツのような武器を持ったポケモンや、地震を使えるポケモンだ。 ルカリオというポケモンはは武器を常に携帯こそしていないものの、幸運なことに杭奈は武器を生み出し殴る技、ボーンラッシュを覚えていた。これだ、と杭奈は閃いた。 杭奈はここまでの思考を論理的に考えたわけではなく、ローブシンのウルキオラちゃんがジョンを叩き潰す映像が脳裏に浮かんだだけだ。 戦いの中の刹那の一瞬でジョンの対策の対策を見つけた杭奈は、武器にするのに十分な長さの骨を作り出す。 骨を出す間に僅かな隙があったはずなのに、ジョンはいつまでたっても波導弾の構えを取らない。 杭奈がそのジョンの動作に違和感を感じた時にはもう遅かった。 異様な恐怖感を覚え、すぐに離れるべきだと悟ってバックステップをする前に、杭奈はジョンの草結びで右足が絡め取られる。 その隙に地面を這って接近したジョンのローキックが杭奈の右太ももにヒットした。杭奈はやり返すように片手に持ち替えた骨でジョンの左ふくらはぎを打ちつける。 ジョンの蹴りは草結びの草が消えるまでにもう1回。 2発のローキックを喰らい、気が遠くなるような鈍い痛みにやられ、杭奈が右手右膝を地面についた。 ローキックを放つ間に3回骨で左脚を殴られていたジョンも、直立すれば足がおぼつきそうにない痛みを抱えている。 ジョンは左ふくらはぎに走る鈍痛をこらえて杭奈の右腕をひっつかみ、彼の右腕ごと首を股で挟みこむ。 杭奈の右腕は左腕でホールド。首に脚を巻き付けて三角締めに持ち込んだ。 三角締めは完全に決まった状態からでも、杭奈の体型ならばジョンの尻のあたりに膝を当てて、脚の皮を掴んで押せば外れる。むしろ肛門にメタルクローすればジョンを即死させることだって出来るだろう。しかしジョンには、杭奈が抜け出すの方法を知っているとは思えなかったし、勝負のために致命傷を与えかねない攻撃はしないだろうと考えた。。 脚に噛み付けもしないこの状態では、残された左腕で引っ掻くくらいしか杭奈に抵抗の手段はない。 手の甲の棘を利用したメタルクローがジョンの体を執拗に引っ掻いたが、抵抗むなしく杭奈の意識は落ち、白目を剥いてジョンに覆いかぶさる。 審判から勝負ありの採決を下された後、ジョンは這って杭奈の下から抜け出し、痛む足をおしてしてうつ伏せに倒れた杭奈に近寄る。 杭奈の無防備に晒された首に対して下段突きを寸止めしてやっと自身の勝利を確信した。 起きあがって攻めてくるかもしれないという恐怖を感じていたジョンにはそうしないと勝利を確信できなかったのだ。 それが済むと、ジョンは下半身から力が抜けて、杭奈に重なるように倒れ込む。 勝者の彼は決勝戦を勝ち抜いたかのような倦怠感と共に、荒く息をついていた。 **38 [#lb1c95f3] 気がつくと杭奈は星空を見ていた。 「目覚めたか? 杭奈」 心配そうなジョンの声がまず耳に付く。 「僕……」 周りを見渡してみて、杭奈はとりあえずみんなに心配されていた事だけは分かった。試合の内容は思い出せないが、きっと負けたのだという事は分かる。 「頸動脈を絞めたんだ……苦しいって思う間もなく、倒れたと思う」 「負けたんだ……」 眼に大粒の涙をためて、杭奈は泣き始める。 「正直、あのダゲキとの戦いでお前が自分の戦法を見せなければ……俺は負けていたよ。 ……なぁ、杭奈。どうしてダゲキとの戦いで、あの戦い方を俺に見せてしまったんだ?」 思えば、杭奈はあまり自己主張の激しい方ではないので、敵を舐めきったようなダゲキとの戦いは少々違和感のあるものだ。 「僕は、あの技の弱点を知りたかった……から、だと、思う。ジョンなら、あの技を破る方法を……知っていると思ったから。案の定、寝転がられると対応が難しいんだね」 間合いを詰める技は優秀だ。しかし弱点もあるだろうとは杭奈もうすうす感づいており、その弱点を杭奈は知りたがっていた。 今でもジョンが育て屋にいるのであれば、きっと指摘してくれたであろう間違いを教えてもらえると信じていたのだ。 「なるほど……いや、技を破る方法はしらなかったよ。あんなふうに寝転がって見せるのも一か八かだった……うん。 終盤に一か八かの勝負に出たら、瞬く間にやられる可能性があると思ったから、いの一番に、戦闘中にインファイトへの対策法を練習してみたら……確信したよ……対策法。 人間だったら、銃を持っているから通じない戦法さね……けれど、覚えておけば何かの役には立つもんだ」 「でも……やっぱり、ジョンには負けたか」 「大丈夫だって。お前は強い……待ってろ。後で寝っ転がった相手に対する対策法を教えてやる……波導弾やボーンラッシュで戦おうとしたお前は間違っていない。 だから、その……なんだ? お前、もうちょっと経験を積め……今の俺と杭奈じゃ体力も技術もそんなに差が無い……多分、お前は経験の差で負けたんだ。 ジムバッジ検定のために戦う機会は、きっといくらでもあるはずだろう。だから来年はきっとお前が勝つよ……な、杭奈? 来年に俺を負かせられるように頑張ってみろ」 一通り言い終えると、ジョンは黙って杭奈を抱きしめる。すっかり小さくなってた杭奈は、すがりつくようにギュッと抱き返した。 「はぁ……そういう、臭い会話は決勝戦でやってほしい物だわね~」 雰囲気ぶち壊しに、静流が聞えよがしに言う。 「そんだけお涙ちょうだいしたなら、責任とって今年はあんたが優勝しなさいよ? ジョン」 「ああ、そのつもりだ。今年は、何だか負ける気がしないものでね……こんなにテンションが上がってきたのは初めてだ」 ジョンは杭奈を抱いていた腕を解いて強気に笑う。 「ふふ、そう。それじゃ明日の夜に、あそこの社でデートでもしましょう? お互いキャンセルは嫌よ」 明日の夜とは、酒の奉納の儀式の時間である。お互いキャンセルは嫌よとは、もはや言葉通りだろう。 「いいぜ、静流。俺には妻がいるけれど、お前とデートの約束ってのも悪くない。だが、お前準々決勝でスバルさんのサザンドラに当たるから気をつけろよ。 そこでデートのキャンセルする必要が出てくるかもしれないぜ? なんせ強敵だからなぁ」 ジョンは杭奈を抱いたまま拳を突き出した。話においてけぼりの杭奈は戸惑うばかりである。 「アタイなら大丈夫よ」 静流は突き出されたその拳に自身の拳を合わせて誓いの証を立てた。 「じゃ、行ってきまーす」 軽いノリで静流は舞台に降り立った。静流がいなくなったところで、ジョンは杭奈の顔を起こす。 「さて、杭奈……ちょっと頼みたい事があるんだ」 「ん……何?」 「聞いてたろ、さっきの話? 静流ちゃんと優勝する約束しちゃったものでね……この傷、治しておきたいんだ」 先程の試合で、杭奈の棘を突き刺されて傷つき血のにじんだ右手首を見せてジョンは苦笑する。 「再生力の特性持ちの俺とて、脚の腫れも腕の傷も次の試合までに治るか分からないんだ……俺に癒しの波導、使ってくれないか?」 「分かった……任せてよ、ジョン」 杭奈はジョンの手を取り、傷口に肉球をそっと当てる。波導使いの所以とも言える波導を存分に用いた癒しの力で杭奈は今までで最高の感謝をするのであった。 ◇ 一方その頃人間はというと…… 「お久しぶりです、オリザさん。今の試合どうでしたか」 杭奈とジョンのビデオを取り終えたスバルは、満足そうな顔で杭奈の主人、オリザへと話しかける。 彼は祭りで振る舞われた、ブラックシティのビリジオンへ奉納する物と同じホワイトフォレスト産の濁り酒をちびちびと飲んで、ほろ酔い気分で血色も良い。 対してスバルはというと、同じくホワイトフォレストのダークライへ奉納するブラックシティ産のカクテルやビールを大量に煽っているらしく、すでにして異臭が発生している。 「どう、というと……素晴らしい試合としか言いようがありませんでしたが……?」 その匂いに動じないよう努めながら、オリザはスバルの質問に答える。どうやらその答えが不満だったのか、スバルの顔から愛想笑いが消える。 「では、質問を変えましょうかね。ジョン君が行った、あのオープンガードポジションによる杭奈君のインファイト対策はどうでしたかね?」 質問を変えると、そうだな……と、オリザは顎に手を当て考え込んだ。 「人間同士、リングの上での戦いなら、アレはほぼ満点の選択だと思います……しかし、なんと言いますか。 飛び道具が標準搭載のポケモンバトルでは、寝転がるのはあまり得策ではないと思います。 ルカリオならボーンラッシュや波導弾、エルレイドならサイコカッタ―、ゴウカザルなら火炎放射……ついでに格闘タイプはほぼ全員ストーンエッジが使えます。 ですので、寝転んだ側のローキックがギリギリ届かない位置でストーンエッジや岩雪崩を繰り返してやれば、両刀のポケモン以外は不利な状況を作り出すだけですね。 以上の事を踏まえて考えれば、ジョン君が取ったあの対策は点数をつけるなら75点くらいでしょうか…… 逆に言えば、両刀のジョン君ならオープンガードポジションで何とか対応できるわけですから、そういう面も踏まえて言えば85点くらいですね。 他にジョン君と同じ対策が出来るとしたら、バシャーモとエンブオー……あとはチャーレムくらいでしょう。 ゴウカザルやルカリオも両刀が可能ですが、彼らは元々インファイトが使えますのでインファイト対策は不要という事で」 「85点とは……恐らく100点満点は滅多なことじゃつかないのだとは思いますが、それに近い対策はおもちで?」 感心するようにスバルは尋ねる。 「貴方の言う通りで、もちろん完璧だとは思いませんが、コジョンド以外でも90点はあげられる対策法を……実は、インファイト対策は、すでに静流には仕込んでいるのですよ。 静流は昔、サザナミタウンで……天井が分からないくらいに強いルカリオにこっぴどくやられた経験がありましてね、それをバネに習得させた技が」 「それはそれは……準備がいい事で。しかし、対策しているのは静流ちゃんだけでしょうか?」 「え、えぇ。ズルズキンは、格闘タイプに弱い格闘タイプ……その格闘タイプの中でも特別強力な技であるインファイトは、事前に対策するべきだと思いましてね。 同じく格闘タイプが苦手なルカリオの杭奈は、インファイトに持ち込まれてもインファイトし返せばいい話ですが、ズルズキンともなるとそうはいかず……。 まぁ、対策とは言ってもローキックの防御をする方法と同じく、 『言うだけなら簡単』なものですよ。咄嗟に出すには経験が必要でしょうが」 「ふむ」 と、スバルは前置きをしてオリザに対して笑いかける。 「それ、教えてもらえませんか? ウチにも、格闘タイプに弱い格闘タイプのズルズキンがいるものでして。 いつかインファイト使いと当たった時にも対応できるようにしときたいのですよ」 「あ、はい。構いませんよ……静流が帰ってきたら実際にやらせてみます」 杭奈と同じく、スバルもまた努力の人。同じ状況になっても対応できるよう、格闘のスペシャリストから教えを乞うのであった。 ◇ 祭りの2日目。ホワイトフォレストとブラックシティのちょうど中間に立てられた社の中に、二匹のポケモンが放り込まれた。 「よう、トリニティさん。やっぱりあんたが優勝したなぁ。静流ちゃんも頑張ってたけれど、地力が違うさね」 「お久しぶりだなジョンさん。俺は杭奈が勝つと思っていたよ……大番狂わせだねぇ」 奉納の儀の準備段階。育て屋で知り合った教官と研修生の二人は、ポケモン用の服を着せられる最中に笑って挨拶をしていた。 去年は再生力の特性でも回復が追い付かずに、去年オールバックの執事が使役するエルレイドに負けたジョンも、杭奈の癒しの波導のおかげでなんとか勝ちを拾う事が出来た。 今年は都合がつかなかったのか、前回の優勝者が参加していないことがそもそもの幸運であった 対して静流であるが、彼女はトリニティの波乗りと気合い玉の波状攻撃に耐えられず、準々決勝で沈んでしまった。 この大会、悪タイプに有利な悪タイプであるズルズキンの出場率は異常で、トリニティが決勝戦で戦った相手もズルズキンであったのだが。 静流と比べれば少々呆気なく終わってしまい、杭奈とジョンの戦いも相まって今回の大会は何とも尻すぼみであった。 言ってみれば、2回戦の敗退者である杭奈が準優勝で、8位入賞の静流が準優勝といったところか。 「杭奈って言ったっけか。あの子、ご主人のお気に入りでね……ご主人、きっちりとビデオを撮っていたぜ。課外授業って事で、ホームページに掲載するみたいだから……機会があったら見てみろよ」 「いや、俺さすがにパソコンは使えないや……すまんね。御主人に頼めば見せてくれるかねぇ……」 「そうか、残念……とりあえず、なんだ。俺のご主人、スバルからの伝言なんだが、杭奈君を鍛えてくれてありがとうだってよ。 いやー、それにしてもあれだね。主人は特等席で見たいとか言って、俺もわざわざ空から観戦させられたが見事な試合だったな」 「そりゃどーも。俺もあんたも静流との試合は……燃えたねぇ。飛び膝蹴りを受けても耐えられるもんだな、そのでかい図体だと」 「危なかったがな…………あの一発で意識が飛ぶ所だったぜ……」 二人とも早くも話題が無くなって、黙りこくってしまった。 「お互い、お世辞合戦も苦手なようで……口の数は三つあるのに口数は多い方じゃないんだよな」 「同じく。俺は口は一つだけれどな」 トリニティとジョンは互いに苦笑する。 「俺は、この後もらえるポフィンとやらが欲しくて頑張ってきたが、あんたはどうだい?」 「う~ん……杭奈に対する示しって奴かな? あいつのために、勝ってあげたかったんだよ……だから勝った」 「そうかい。大切な者を持つと大変だな……俺は、主人が賞品の酒を欲しがっていたから、主人のために……なんて頑張らされたから、よくわかるよ」 夕暮れに行われたその会話のあと、その日の夜に酒を奉納する儀式が始まる。 ホワイトフォレストには黒装束をまとった集団が闊歩し、ブラックシティはその逆に白装束集団が闊歩する。 奇しくもそのままでも大丈夫そうな色合いのサザンドラとコジョンドであるが、彼ら二人もきっちりと極端な色合いの服を着せられ行列の先頭を歩くのであった。 そして、ご神体に攻撃を加え、二つの街を作りこの地に均衡を与えてくれた神へ向けて力を送り込むのだ。 ジョンは、ブラックシティにて、ビリジオンの御神体に向かって飛び膝蹴りをして砕き、キックと波導弾で完膚なきまでに粉々にして、御神体に格闘の力を送り込んだ。 トリニティはホワイトフォレストにて、三つの顎で御神体を噛み砕いて、悪の波導で消し炭にしたあと、更にまくし立てるような暴言を振りまくバークアウト。 前回よりも更にパワーアップした破壊力で御神体に悪の力を送り込んだ。 すでに育て屋へ帰っていた杭奈は、その夜具体的にどんな事が行われたのかを見ることなく夜を過ごした。 寝ころんだ相手に対応する方法を袴と一緒に反復練習する傍ら、ジョンに想いを馳せながら夜は更けていく。 **39 [#x1644bad] 「いよっし。今日も大勝利!!」 強い相手をインファイトで下して、杭奈はガッツポーズをとる。 平地エリアにて、杭奈はペテンやファントムと共に休憩の最中。最後の昼食マッチで得た、戦利品を親子そろって食べている。 可愛らしい子供は目も開いて、母親の後をついて行くスピードも随分と速くなった。 育て屋出身のために危険を知らないせいか、ファントムはじっとしているのが非常に苦手で、母親が闘いに赴く時に押さえつけていると自分もついて行くと言ってきかない。 押さえつけていると狂ったようにわんわんと鳴き出すのだから手を焼くが、それも今日終わりだと思うと何ともさびしい気がして、杭奈はいつもよりも執拗にファントムを抱く。 あんまりにベタベタされてうっとおしかったのか、ファントムは泣き出してしまい結局ペテンがあやす羽目になってしまう。。 親の心子知らず、今日でお別れで寂しいというのに父親へサービスしないダメな息子だと、杭奈は苦笑する。 「よしよし、眠たいのにお父さんがうっとおしくて仕方ないのね」 泣けるという事はそれだけ元気な事だから良しとするかと広い心を持って杭奈はペテンがファントムを抱く様を眺めた。 杭奈は鳴きやんで眠るまで口が止まり、手に持った木の実は一向に減らずに時間が流れる。 否応なしに時間の流れを意識したのは、袴が食べかけの木の実を杭奈から奪い取ってかりりと齧ったその時だ。 「兄さん、来ましたよ。僕達の御主人です」 「……袴、それ僕の木の実」 「食べてないから、いらないのかと思いましてね」 にっこりと袴は笑って、悪びれずに杭奈の頭を叩いて立つ事を促す。 「それに、寂しくってそれどころじゃないんじゃありません? ファントム君、可愛いですものね」 「もう、そんなのどうでもいいから……行くよ」 杭奈は自分が感情を読まれ易い事は自覚している。角の感覚が鋭い袴の事だ、どうせ強がることは意味が無いけれど、杭奈は強がらずには居られなかった。 ◇ 管理棟には、杭奈と袴。そして見送りにペテンとその子供ファントムが見送りに訪れる。 ペテンはこのままあと数週間育て屋に滞在し、子供と一緒に元の主人の元へと帰るらしい。寂しいが、これもまた仕方のないことだ。 父親にもきちんと懐いているファントムには少々酷であるが、別れはきっちりと済ませておきたいからと、預けることなくこの場に連れて来たのである。 「さて、今日を以って貴方はこの育て屋を卒業いたします。思えば、この育て屋に来た頃は……頼りないお子さんでしたね」 「ですね。本当に、この子をよくまぁここまで強くしてもらえました……なんといってよいのやら」 腰をかがめて杭奈を撫でるスバルに、主人のオリザは謝辞を述べる 「ちがいますよ」 スバルは微笑む。 「この育て屋は、基本的に放任主義でございます。育つポケモンは大きく育ちますが、育たないポケモンは全く育たずそれがクレームの元になることも度々あります」 「とどのつまり、強くなったのは杭奈の頑張りってわけかですね……それが極端に出るだけと」 「ええ、私はその場所と、切っ掛けを与えただけですよ……無理矢理強くならせようとしたって強くはなりませんから」 そう言って、スバルは笑う。 「そもそも、主人の所でぬくぬくと、ただなんとなく強いポケモンになることを強要されても育たないというのが私の持論でしてね……強くなるには理由があればやり易いと思うのです。 例えば、野性のように食欲とか、性欲とか、縄張りとか……昼食マッチというのも、食欲に根差した強さへの欲求を奮い立たせるためのもの。本当は、昼食マッチはもう少し厳しめにしたかったのですよねぇ……勝者と敗者では食料に倍くらいの差があるように」 「そりゃまた、随分とまぁ極端といいますかなんといいますか……それだと流石に負けっぱなしのポケモンはたまったものではないでしょうね」 「ですよね。しかし、ブラックシティではもっと極端ですので。敗者は残飯漁り、勝者は高級料理店で嫌いな食べ物を残して下げさせる…… それが悔しいから私も強くなろうと思ったのですよ。そして、その幼少時代の経験が、この育て屋のコンセプトでございます。 目的を持たせて、育つ意欲を持たせるという。やはり、目的なくしてポケモンは育ちませんしね」 「なかなか、響きのいいコンセプトですよね、目的を持てるってのは……自分から強くなりたいと思う子でなければ、伸びてくれませんし……その点杭奈君は優秀ですね」 「ええ、当育て屋自慢のコンセプトでございます……杭奈君は、最初静流ちゃんと交尾したいという原始的な欲求から強くなりました。 しかし、私も食欲から強くなった……そんな杭奈君を見て、私の人生は間違っていないのだと、何だか再確認できた気がするのです。 杭奈君と一緒に強くなってみたら面白かったろうなぁ……と、ふと思ってしまったのですよ」 「そ、それはまた光栄ですね」 突然話を振られてオリザは困惑しつつも頷いた。 「それで、ですね」 と、言ってスバルは真面目な目つきでオリザを見る。 「はい、何でしょう?」 「この子を見ているうちに、私はすっかり杭奈君がお気に入りになってしまいまして、この育て屋を卒業する前に、一度私のポケモンとガチで戦わせて見たいのです」 「ふーむ……いずれ、ジムで連日戦いの渦中に放り込まれるわけですし……練習試合くらいはいくらでも構いませんが……」 「ええ、ありがとうございます。しかし、傲慢ながらただの純粋な試合なら了承して下さると思っておりました……ここからが本題なのですが…… ただ戦っても面白くありませんし、勝てば商品、負ければペナルティを与えたいと思っているのですよ……お互いにね。具体的には、杭奈君が勝ちましたら、このがんばリボンをプレゼントいたします」 「えーと……これは?」 指輪などを入れるような紺色の小箱に入ったリボンを差し出し、スバルは笑う。 「遠く離れたシンオウ地方では、頑張ったポケモンに対して勲章代わりに贈るリボンでございます……ただし、これは装飾の部分が純金製でございますがね。 時価にして25万ほど……丁度、中型サイズ人型・陸上ポケモン予防接種料金込み、半年預かり代金とほぼ同じでございますね」 「あ、あの……こんなものもらえませんよ。確かにジムは開設にお金を使ってしまったので財政は厳しいですが……ん?」 腕を引っ張られる感覚でオリザが見下ろすと、杭奈は首を振っている。 「杭奈君はやるつもりのようですよ。どうでしょう? 杭奈君の意思を尊重しませんか?」 「えと……ならば、商品とかペナルティは無しという方向で……」 杭奈はオリザの服を引っ張り、首を振って『それはダメ』とアピールする。 「ガウッ」 そして、任せてくれよとばかりに、杭奈は腕を振り上げる。 「杭奈……お前、そんなにリボン欲しいのか?」 元気よく杭奈は頷いた。 「仕方がない……なら、好きにしろ。しかし……ペナルティというのは? それしだいによっては流石にお受けしかねますが……」 杭奈がどうしてもリボンを欲しいと言うので折れたオリザだが、今は財政が厳しいので1円でも惜しいところ。こっちもお金を出せと言われたのではたまらない。 「なに、オリザさん自身が経済的にダメージを負う事はありませんし、負けたら好きなポケモンの交換などもしない所存です。 いえ、ね。私は昔、ポケモンバトルで賭博をしておりましたが……ある冬、」賭けごとで大負けして、服をブラとパンティー……つまり下着以外すべてはぎ取られてしまった事がありましてねぇ。 その時の私の気分を杭奈君にも味わっていただきたく、その体毛を刈ってプードル刈りにします。ブラとパンティーだけ残すというのはいい羞恥プレイとなりそうですね」 ニコッと笑ってスバルはバリカンを取り出す。 「く、杭奈……この人、結構とんでもない発想だ。止めるなら今のうちだぞ?」 何とも個性的なペナルティに、オリザは言葉を失いかけながら杭奈に諭す。しかし杭奈は、負けてなるものかと首を振った。 「どうやらやる気のようですね……では、刈る部分を具体的に言いますと、腹と、太ももと、上腕あたりの毛を綺麗に刈ります。あと、首の毛も涼しく刈りましょうかね。 流石に、生殖器は大っぴらに見えると見苦しいと思う挑戦者さんもいるでしょうし、私も髪の毛までは刈られなかったので生殖器周辺と顔は無しですね」 杭奈の体に触りながら、嬉々としてスバルは説明した。 「杭奈君、それで構いませんね? 負けて羞恥プレイになる覚悟がおありでしたら、賭け勝負を行いましょう」 真っ黒い笑顔を浮かべるスバルに対し、杭奈は躊躇いがちに、しかし確実に頷く。 **40 [#a3aa0b0f] 「くっくっく……」 どうやらスバルは、杭奈の態度のせいでブラックシティモードに突入してしまったようだ。 「ははは、やっぱりこの感覚がいい。負ければ何も残らない屈辱の戦い……お前も感じるだろう? この高揚感……そうだ、杭奈!! お前は今まで様々な戦いを経験してきたが、たった一度として『負けたら酷い目に合う戦い』は経験していなかったはずだ。 いや、ブラックシティでの課外授業は酷い目に会うが、実力が違い過ぎて相手にならなかったものなぁ? 性欲のため、女のため、子供のため、勝利の高揚感のため、主人への感謝のため……そのために勝つのも悪くないが、やはり必要なのだ。 敗北した時の屈辱、敗北した時の空腹、敗北した時の非リア獣((非リア獣とは、リアルが充実していない獣の事である))、敗北した時の痛み、敗北した時の寒空というものがな。 祭りでジョンと戦い負けた時は、悔しい思いこそすれ屈辱はなかったろう? 負けても称賛の拍手が響いたろう? ダメだ、そんなものでは。私がブラとパンティー以外をはぎ取られた時は性犯罪から人攫いまで、多くの危険に満ちたブラックシティを裸に近い格好で闊歩せざるを得なかったものさ。 その屈辱と恐怖と寒さ……二度と感じたくないと躍起になった私は、自分のポケモンを必死で鍛えて強くなったぞ。 私と同じく、敗北の屈辱を存分すぎるほど知ることになりかねない今回の戦い……この戦いで杭奈。お前はもう1段階成長する……確実にだ。 その時こそ、この育て屋に足を踏み入れた時は両生動物のクソをかき集めて出来た&ruby(そび){聳};え建つクソの塔ほどの価値もなかったお前が、 聳え立つ美しき象牙の塔と見まがうばかりに強く、そして価値のポケモンとなるはずだ……あっ」 言い終えて、スバルはあたりを見回す。 「申し訳ありません、地が出てしまいました……ブラックシティではあぁでも言わないと舐められてしまいますが、こちらでは本当にお恥ずかしい……」 オリザはスバルの雰囲気に圧倒され、苦笑していた。 「スバルさん……ブラックシティではいったいどういう生活なさっていらしたんでしょうか?」 「それはもう、悪い事を色々と……コホンッ。その遍歴のせいで目指していた悪タイプのジムリーダーになれなかったのですから、酷いものですよ。 公僕である警察が市民をきちんと守るという義務を果たしていないというのに、私が人間としての義務を果たせというのですからねぇ。 コホンッ……さて、そんな事はどうでもいいでしょう。ではルールを説明します」 咳払いを挟んで、スバルは育て屋内の地図が記されたポスターの前に立つ。 「ルールですが、まずは挑戦者である杭奈君が戦うエリア、もしくは対戦相手を指定します。戦うエリアは、平地、森林、砂地、洞窟、池沼の5つ。 このエリアの好きな場所を指定する事が出来、また対戦者がこのエリアから出れば負けとします。 対戦相手は、私のポケモン……ポリゴンZのふじこ、ズルズキンのバカラ、アイアントのユウキ、サザンドラのトリニティ、エルフーンのケセラン、シビルドンのうな丼、シャンデラのサイファーの7匹です((しかしこの人ガチパである))。 杭奈君がエリアを指定した場合は、こちらがポケモンを指定させてもらいます。あなたに対して有利なポケモン、例えばサイファー君など。 逆に、杭奈君がポケモンを指定した場合はこちらがエリアを指定させてもらいます。もちろんのことですが、貴方が戦いにくい場所を選ぶつもりですね。 試合におけるルールは、制限時間無制限の一本勝負。どちらかが戦闘不能になるか降参した時点で負け。また、前述したとおりエリアを出ても負けでございます。 と、ルールはこの辺で終わり……ルールはシンプルに行きましょう。では、杭奈君はどういたします? 誰を対戦相手に選びますか、もしくは何処を対戦場所にいたしますか? ご自由にお選びくださいませ」 言い終えると、手元に集合させていた教官と、卵孵化場から連れて来たシャンデラ。全てを繰り出す。 可愛らしいポケモンからいかついポケモンまで様々に杭奈の眼前に繰り出され、一気に受付は狭くなった。 「もし、貴方が対戦相手を選びたいのであれば、この子達を指さしてくださいませ。 そして、エリアを選びたいのであればこの地図を指さしてくださいませ……何を選ぶのも、ご自由にどうぞ」 そう言って、差し出した地図とポケモンを見て、杭奈は迷いなくバカラ教官。静流と同じズルズキンである彼を指さした。 スバルは感嘆の声を漏らし、そして笑い出す。 「ほほう……よっぽどプードル刈りになりたいと見える。なるほどなるほど…… プードル刈りは水の抵抗を抑えるための刈り方と聞くが、水タイプのポケモンが波乗りを放って来ても水の抵抗を押さえるようにという算段か? 両生動物のクソの塔から両生動物になりたいとは、杭奈君も中々に感心な心構えだ……」 またもやスバルがブラックシティモードに移行していると、オリザの腰に下げたモンスターボールから静流が飛び出し、わんわんと自己主張。スバルはふじこに繋がれたライブキャスターを覗く。 「ほう、『杭奈。お前ごときがバカラに勝てるわけねーから、マジバロスwww』だそうだ。静流ちゃんの言う通り、勝てる戦いではないぞ? 杭奈君も意地を張らずに他の相手を選んだほうが良いのではないか? 私のお勧めはアイアントのユウキ君だぞ。目覚めるパワーは雷、特性は虫の知らせの物理速攻型で……」 私のお勧めはアイアントのユウキ君だぞ。目覚めるパワーは雷、特性ははりきりの物理速攻型で……」 みなまで言うなとばかりに杭奈はスバルの言葉を制する。 「なるほど……だが、そのバカラはもともと私の手持ちではない。縁あって四天王のギーマさんから譲り受けたポケモンでな。老いのせいで衰え始めてこそいるが、まだまだ十分現役を張れる実力だ。 だが、自分で育てたポケモンで参加したくてなぁ、祭りにはバカラではなくトリニティを出場させたのだ。 いいか……その子を越えるという事は四天王を越えるということだ。その意味が分かるな……? 名誉はもちろんだが、難易度も折り紙つきだ。 一応我が育て屋の最強戦力だ。生半可なことでは突破させんし、出来んぞ。それでもいいのだな?」 再三にわたるの確認にも、杭奈は躊躇い無く頷く。 「ククク、そうまでしてプードル刈りになりたいか……いいだろう、その狂犬のような無謀な心意気が気に入った。 では、バカラよ……愚かな挑戦者に戦うエリアを選ぶがいい。気遣う必要はない、全力で戦える場所を選んでやれ」 バカラに地図を差し出すと、彼は迷わず砂地を選ぶ。これにはいよいよ静流も焦り出す。 「ふむふむ『砂地でのズルズキンは2倍強えーのよ。チミなんかマジ粉砕玉砕大喝采w』と、静流ちゃんも言っているようだが?」 「そのふじこちゃん……さっきから相変わらずの翻訳精度ですね……そんな事はともかく、杭奈。 静流の言う通りだぞ……砂地でのズルズキンは非常に強い。それでもやるのか? 毛を刈られても俺は知らんぞ」 それでもなお、杭奈の心は変わらなかった。ジョンに対して勝ちを拾えていないが、思えば静流に対しても勝ちを拾えていない。 バカラならば、静流の代わりになるだろうと、杭奈はバカラに挑もうと決めたのだ。 プードル刈りは確かに嫌だったが、負けないつもりで挑めば負けないと、根拠のない自信を持って杭奈は戦いを望む。 「いいだろう。よもや砂地で臆病風に吹かれる事はあるまいな? そんな不抜けた玉無しの態度を取ったらプードル刈りを通り越して頭以外のすべての毛を刈り取ってやる。 では、ついてこい……この&ruby(ゆうげんがいしゃしらもりそだてやほんぽ){シラモリ育て屋本舗(有)};代表取締役、兼牧場管理責任者のシラモリ・スバル及び、そのポケモンが全身全霊で以ってお相手しよう」 まるで悪役のようにスカした口調で宣言して、スバルは歩きだす。もう後には退けない。 ◇ 「たかが半年程度の修行で、舐められたものだな……」 バカラ教官は憤っていた。確かに、自分はNという少年に負けた後、雌のズルズキンにレギュラーの座を奪われてしまった身だ。 しかし、彼とてレギュラーの座を奪われようと四天王の手持ちとしてのプライドと強さを失ったつもりはない。 「舐めているつもりじゃないよ……ただ、なんとなく君に勝ちたいと思っただけで……ほら、お互い格闘タイプに弱い格闘タイプで、条件は互角だし」 杭奈はそう言って納得させようとしたが、バカラ教官は高笑いで返す。 「フフフ……ハッハッハ!! 条件が互角だと!? 言ったろう、戦う場所は俺が選ぶのだ……条件など、地形の如何によって変わる。 俺の得意なフィールドを選ばせた時点で、互角の条件は有り得ないんだよ……それで戦うとは、笑わせる」 「不利なのは分かっているさ……でも、不利だから格好良く負けようなんて思ってはいない。その鼻面、へし折ってやる」 「デカイ口を叩くなよ、死ぬか?」 「僕は、自分よりも強い敵とだって戦ってきたんだよ……何回も、何回も」 「そのたび負けて来たんだろう? 何回も何回も」 「たまには勝ったさ」 「その『たまに』が……今日来るといいな」 ふんっと鼻で笑ってバカラは杭奈から踵を返して前を向く。 絶対に勝つ。杭奈の勝ちは万が一の確率しかないと、公開処刑のように勝ちの見えた勝負にバカラは怒りすら感じている。 「まーまー、バカラどん。熱くなりなさんな」 エルフーンのケセランは背負った綿毛で風にのって、ふわりふわりと月面を歩くように跳びはね笑う。 「アタシも何度か沼地でバランスをとる練習に付き合ってあげたけれど……杭奈君は強いわよ。ガチで戦うなら舐めてかからない事よん」 シビルドンのうな丼教官は月面どころの表現ではない。彼女は少しばかり宙に浮いて、すべるように砂地エリアへと向かって行く。 「くぁwせdrftgyふじこlp」 ふじこに対しては最早何も言うまい。 「そうそう、そうっすよ。ケセランやうな丼の言う通り、張り切っていってやりましょー。舐めてかかって嬲り殺しにするよりも、一撃で決めて気持ちよくさせてやるのが男の道っすよ」 アイアントのユウキはなんだかんだで杭奈との戦いを楽しみにしているのか陽気に笑う。 「祭りの時に杭奈とジョンの戦いを見ていなかったようだから言っておくが……杭奈は強い。舐めてかかると即死するぞ?」 サザンドラのトリニティは、威厳のある声でバカラへとアドバイス。 「ふん、あのジョンとかいうやつに負けたんだろう? あのジョンならば、一度戦って勝っている……相性だって、ジョンと杭奈ならこっちの方が楽だ」 「男子三日会わざれば刮目して見よ、なんて言葉もあるけれどなぁ……杭奈君は、その言葉がよく似合う子さ。足を掬われるなよ」 トリニティは鼻息を強く吐き出し、じと目でバカラの方を見る。 「そんな事があったら、裸踊りでも何でもやってやるさ」 「ほへー……そんなことして、顔がオーバーヒートしても知らんよー」 シャンデラのサイファーは間の抜けた声でバカラを煽りたてた。 砂地エリアに移動する間、杭奈は思いだす。負けた直後は自己嫌悪でどうにもならなかった3ヶ月前の戦いだけれど、あの戦いはスバルの言うとおり勝てない戦いではなかったのだ。 「杭奈、私の得意技覚えているかしら?」 だから、静流にこう尋ねられた時の杭奈の答えは決まりきっている。 「うん、それはもちろん……ジム時代は結構酷い目にあったからね……飛び膝蹴りも痛かったよ」 杭奈は肩をすくめて苦笑する。 「バカラ教官は私よりも強いの……勝ち目はないと思うけれど、やっちゃったからにはもう勝ちなさいよ?」 「大丈夫だよ静流」 「怪我にだけは気をつけなさい……」 静流は後ろを向きながら杭奈の前を歩き、眼を見て念を押す。 「静流姉さん、以外と心配症なんだね」 杭奈が頷く前に、袴が横から割りこんで茶化す。 「でも、強い教官相手じゃ心配する気持ちも分かるわよ。杭奈、頑張ってね」 そして、怪我しないようにという静流の言葉をうやむやにするように、続けてペテンが割り込んだ。 「えーと……怪我もしないし、頑張るよ、うん」 確かに、静流の言う通り絶望的な状況かもしれない。バカラは平地エリアで戦っても十分に勝てると踏んでいるのに、わざわざ得意なエリアを選ばれては万が一にも勝てないかもしれない。 だが、杭奈はプードル刈りになる気はないし、負けたくないという気持ちを奮い立たせるには、スバルの言う通りこういう経験も必要なのだと杭奈は思う。 てくてくと歩きながら砂地エリアに向かうまでの間、杭奈は敵であるバカラの動きを予想し、勝つための道筋を考える。 静流の動きを参考に、より鋭く、より重く、よりテクニカルになったズルズキンの動きと、それに対する対策法を思い描く、 イメージトレーニングなんて安いアイデアかもしれない。けれど、ジョンだって杭奈に勝つためにオープンガードポジションを思いつくまでにした事だ。 たかがイメージトレーニングとは言え、勝利を左右する事は十分にある。 今まで偶然も含めて自分より強い相手に勝って来たのだ。バカラを倒すことだって、今の自分に出来ないはずがないと、杭奈は自らを奮い立てた。 ◇ 砂地エリアの中心にたどり着いて、スバルは周りを見渡し宣言する。 「先ほども言いました通り、試合は時間無制限一本勝負。どちらかが戦闘不能になるか、降参する。もしくはエリアを脱出した時点で敗北とさせていただきます。 トレーナーの指示は、受けるか受けないかはお好みで。杭奈君は指示を受けるのが苦手なようですし、無理せずやってあげてくださいね、オリザさん。 そして、試合開始の合図ですが……トリニティの龍星群が地面に着いた瞬間とさせていただきます」 「りゅ、龍星群とは豪勢ですね……」 「なに、卒業の記念なのですからこれくらい派手にぶっ放しましょう」 朗らかな顔を振りまいて、スバルは杭奈とバカラをみやる。 「さてと、準備はよろしいでしょうか?」 きっちりとビデオを構えながらスバルが尋ねると、視線に気づいた二人はコクリと頷き、バカラはうんこ座りから。杭奈は柔軟運動から立ちあがった。 「では、トリニティ。派手な龍星群をお願いします」 周囲に甚大な破壊を振りまく龍星群も、砂地エリアならば破壊する対象が無いので遠慮なしに使えるという事か、トリニティは三つの口から計3発の凶弾を放つ。 すでに周囲のポケモンは避難済み。観衆達が呆れかえるほどの破滅の雨が降り注ぎ、砂埃を巻き上げて戦闘が開始した。 **41 [#nd517d7a] 杭奈はまず地面を蹴り上げる。3ヶ月前の戦いで初弾が眼潰しであった静流に対する当てつけのような行動に、バカラは驚いて砂から眼球を守りつつ後ろへ下がった。 「ほう、杭奈君はなりふり構わないようだ」 続けて右掌底によるストレート攻撃。杭奈は柔軟運動の際に砂を握っていた。否、掌に吸着させていた。 鍛え抜いたルカリオは、短時間ならば波導を用いて壁に吸着が出来る((スマブラX仕様))。同様の事が出来るほどの実力こそ杭奈には無いが、質量の軽い砂でなら彼にも真似出来た。 バカラは杭奈の掌底こそ弾いていなしたが、くっつけていたことすら悟らせなかった砂をまともに食らってしまう。 瞑ってしまった目が回復するまでの苦し紛れにバカラは左足でローキック。杭奈は右半身を向ける形で半身になって、右足を上げ相手の脚に膝を当てカット((相手のローキックをガードすること))。 ローキックをカットした体勢から、更に腕で上体を守りつつ防御の体勢から間合いを詰める。 「間合いに入られ……あの馬鹿。すぐ離れろバカラ!!」 杭奈は自分の支配する間合いに入り、バカラの胸に肘打ち。杭奈は肘打ちが当たるや否や、肘を僅かに引いて棘の裏拳を顔面に見舞う。 鋼鉄の杭が相手の額に突き刺さり、バカラの額が割れて血液が漏れだす。 近すぎてまともに掴むことすらできない杭奈の間合い。無理して体のどこかを掴めば確実に手痛い反撃を食らうであろうから、バカラは距離をとるっきゃない。 だが、距離を離されることを防止するために、杭奈は房を浮かせ、波導からバカラの意思を感知し始め、間合いを取るステップの効果を失わせる。 杭奈のこれは、懐に潜り込めさえすれば、きちんとした対策を立てなければ無敵の戦法だ。 しかしバカラも馬鹿ではなく、きちんとその技術に対する対策はとっている。そう、祭りの日にスバルが聞きだしたあれである。 「あ、アレは……」 ジョンがそうしたように寝転ぶのもある意味では有効だが、寝転んだままで敵の攻撃に対処するのは、ジョンの特攻があって初めて可能な方法である。 寝転んだままボールを投げても遠くに投げられないのと同じ。ストーンエッジを寝転んだまま放っても大した威力にはならないため、物理型のポケモンはジョンの真似は難しい。 バカラはジョンのような両刀のポケモンでもないので、同じ戦法が使えるわけもなく、改良型として後ろに転がる事を選んだのだ。 &ruby(でんぐりがえし){後方回転受け身};で回避されれば、攻撃するには低すぎる。 薙刀か槍のように長いなら別だが、杭奈のボーンラッシュでは体重を乗せた有効な打撃を与えるのは難しい。 「あの後ろに転がる奴……俺が祭りの時に教えた技だな……きちんと練習してたのか」 「感謝してるぞオリザ。お前のおかげでバカラにインファイト対策が追加された……だが、そんな事より……お二人さんが動かなくなってしまったな。退屈だ」 バカラと杭奈は膠着状態となっていた、お互いの能力が非常に強く、迂闊に攻め込めば手痛い反撃を喰らいかねない。慎重になるのも、仕方がない。 「おい、バカラ。魅せる試合など必要ない。さっさとお前の得意技で決めるがいい……」 スバルは、そう指示を出す。バカラは、小さく頷くと杭奈に走り寄る。 「あ……」 格闘タイプのエキスパートであるオリザが、これで杭奈がやられると踏んでしまうほど完璧な重心の運びであった。 ズルズキンはその大きな尻尾のおかげで下半身に重心が安定し、なおかつ下は砂地であるため摩擦によって腕や膝の皮膚が削れることを恐れる必要のない地形。 テイクダウンと呼ばれる、相手を転ばせる技に、これほど恵まれた条件を持つポケモンはズルズキンだけだ。 バカラの体が深く沈み、杭奈視点で見れば目の前から消えたと思うほど見事に低空から間合いに侵入。 最初から低く構えている状態よりかは幾分か高くなってしまったが、フェイント気味のこのテイクダウンに対応するのは難しい。 しかし杭奈は、その完璧なテイクダウンを上から難なく潰した。 「な……返した、だと!?」 スバルが目を見開いて驚く。見れば、静流が腕を振り上げ喜んでいる。 実際、バカラのテイクダウンは完璧であった。低く、速く、直前の目線や重心の運びはとてもテイクダウンを狙っているとは気づけないような振る舞いだ。 しかし、それは杭奈によってなんなくそれを潰される。 そのままバカラは伏せた状態で、背中から互い違いの状態で腹を抱きかかえられるという、いわゆるがぶりの体勢に入った。 「なるほど、&ruby(ヽヽヽ){静流も};ズルズキンだったな。得意技は……共通というわけだ。ふぅん、テイクダウンが読まれるわけだ」 有利な態勢を取った杭奈は、相手の腰辺りを両手で抱いて、小さく跳躍してから自分とバカラの全体重を込めて脳天を地面に叩きつける。 もし、戦う場所が洞窟エリアか森林エリアであれば、その辺の樹や岩壁にぶつけられて勝負はついていたかもしれない。 「ありゃ……パイルドライバーじゃないか。誰だ、静流のシャイニングウィザードといい、こいつらにプロレス技なんて教えた奴は」 「プロレス技はローブシンのウルキオラちゃんですねぇ……シャイニングウィザードは知りませんが」 「だ、誰ですかそれ……」 杭奈の放ったパイルドライバ―はプロレス技。プロレスリングよりも遥かに地面が柔らかい砂地では効果の薄い技だ。 人間のプロレスならこのまま腕を離してのしかかってフォールなどをするが、この勝負プロレスではない。 杭奈はバカラを離すことなく、背面から絡めた手足に渾身の力を込めてホールド。 うつ伏せのまま抱き付いて胸の棘でダメージを与え、尻尾に噛み付きつつ、右手で脇腹にボディーブローを打ちこみ続けた。 子供の喧嘩のように見苦しいほど執拗な攻撃は、ポケモンバトルにショーマンシップなど必要ないと言っているかのようだ。 痛みで呻くバカラは、強引に体をひっくり返す。横向きとなった状態から杭奈の腕に龍の力を持った鋭い爪を突きたててそのホールドから抜け出し、構えを取って体勢を整える。 そこまでの攻防で杭奈は腕に負ったひっかき傷のみ。しかし、バカラはボディーブローによる左わき腹ダメージに加え、パイルドライバ―で頭を揺らされたダメージ。 肘打ちのせいで胸もジンジンと痛み、裏拳で負った額の傷からは出血して砂がこびりついている。 「済まないバカラ。今のテイクダウンは私の指示のミスだ。まさかあんな完璧なテイクダウンをかわされるとは思わなんだ……杭奈はやはり強い。 静流との戦いで、あの技に対する耐性と予見が出来ていたことを失念していたのは、完全に私の責任だ……あとで私も髪を切って反省せねばな」 「杭奈……こんなに強かったのか……四天王のポケモン相手に一方的じゃないか」 主人であるオリザが驚くほど、杭奈は強かった。砂掛け掌底のように勝つための戦略も持っていて、何をしてくるか読めない。 少々格闘タイプのジムリーダーには不釣り合いなほど奇抜で卑怯なラフファイトなのが気になるが、そこは御愛嬌といったところか。 ◇ 「こいつ……味な真似を……」 裏拳を食らったり地面にぶつけられて、出血しくらくらする頭。ローキックを仕損じて痛む足の甲。胸の棘が刺さってずきずきと痛む背中。 前半から杭奈に一方的にやられ続けているバカラは毒づいた。 「いっけー!! 杭奈。ケツの穴から波導弾ぶち込んで奥歯ガタガタ言わせたれー!! そのチンカス野郎を蹴散らしちまえー」 「杭奈兄さん、必殺一撃エイエイオー‼」 「頑張ってね杭奈!! 息子と一緒に応援してるわよー」 杭奈サイドの応援は過激で、おまけにバカラにとって昔の女である静流の応援は杭奈の方に行ってしまっている。自信過剰なバカラのプライドもズタズタだ。 対して、バカラへの応援はと言えば、スバルのポケモンはあまり彼を良く思っていないようで。 「どうしたよ?」 「情けない面」 「しているじゃないか」 声掛けと言える物はトリニティがわざわざ三つの首を左から順番に、バカラを嘲る声くらいだ。 他の者はと言えば、うな丼とサイファーが肌が乾燥するから、日差しがきついからとそれぞれの理由でボールの中に戻っている。 ケセランは砂遊びをしており。 「白熱バトルでメシウマ状態!!」 ふじこは言わずもがなの状態だ。真面目に黙って見ているのはユウキくらいか。 「五月蠅い、黙って見てろ」 バカラがトリニティへ苛立たしげな返答をした隙に、杭奈は防御のために上げられているバカラの腕を狙って神速のバレットパンチで棘を見舞う。 顔を狙った攻撃ならば、腕で弾いて防御できる。だが、今の杭奈のように始めから腕を狙えば喰らう側としては防御は難しかった。 しかも杭奈はただ腕を突き出すだけでなく、指の握りを解いて手首の腱に余計な力が入らないよう。そして、スナップを利かせた棘の裏拳で的確に相手の腕を狙う。 これを繰り出すのが普通のポケモンならばともかく、棘の生えたルカリオの裏拳だ。 もはやノクタスのニードルアームやエビワラーのマッハパンチのようなもの、たった2発だが破壊力は申し分ない。 「この野郎……」 激昂して、バカラは酸を口に含む。しかし酸を出す腺をアクティブにするための口をもごもごする動きは、初見殺しでこそあるものの静流のおかげでそこそこ見慣れている。 酸が来るな、と杭奈は確信した。防御していたらジリ貧となりかねないバカラは杭奈の腕の動きに合わせて拳を放つ。 しかし、杭奈の拳の握りはすでにパンチを突き出す途中で変わっていた。今度は腕を狙っていない、オーソドックスなパンチである。 身長差と腕の長さが杭奈に有利な条件下で繰り出される眉間狙いの左ジャブ。ジャブが当たる直前に吐き出された酸は、杭奈の顔面へと真っ直ぐ向かって行った。 杭奈は引いた左腕で急所を守りつつ身を屈め、バカラの腕と酸の液体をかいくぐって、下腹部を狙いすました下段突き。 まともに食らったバカラは目玉を吐き出すように眼を見開いて、差し出されたかの如く前へ出た顎に、杭奈は掌底アッパー。 後ろへ下がりながらたたらを踏んだバカラに対し、杭奈は両手を叩き合わせる要領で鼓膜破りのビンタを見舞う。 ラルトス時代からの袴のお家芸である((ポケモンカードではラルトスと名のつく殆どのカードでビンタや平手打ちを使用出来る))それを奪いとるかのような、鋭い一撃であった。 鼓膜の奥にある三半規管を震わせ、そのまま距離を詰めて接近戦に持ち込もうと思ったが、バカラから無造作な前蹴りが飛んできて杭奈は牽制された。 牽制の蹴りでコンボは中断されてしまったが、バックステップで互いに間合いを取ったそのタイミングに杭奈は唾液で左腕に付いた酸を洗い落とす。 プードル刈りにされる前だと言うのに、少々腕の体毛が溶け落ちてしまった。 とは言え、もはやペースは完全に杭奈のもの。脳と三半規管を鼓膜破りのビンタで存分に叩きのめされ、バカラはふらふらとおぼつかない足取り。 虚ろな目で口の中の血を吐きだす地面にバカラを見て、杭奈は自分の勝利を確信した。 「勝てる……もうペースは僕の物だ!!」 「そうかい、そうかよ……舐めてかかって、悪かったな!!」 バカラは苛立たしげに声を荒げる。プライドをズタズタにされた憤怒の表情のバカラは殺意の籠る視線で杭奈を睨みつけた。 ◇ 「杭奈……なんて見事な戦い方……」 「あぁ、見事だ。ナイフや鉄扇のような短い武器を持って対峙した時は相手の手首を狙えとはよく言うが……杭奈め、手の甲の棘でそれをやるか」 「そんなの、どこで学んだ技術なんでしょうね」 「フタチマルには稀にそういう戦い方をするやつがいる。誰に教わるでもなく独学でね……そういう奴ほど考えて攻撃するから実際に強い。 杭奈君も誰かから教わるだけでなく自分で考えて攻撃している。だから強い……そういう事だろうな」 人間達が感心している間に、バカラはフード状の抜け殻と尻尾の抜け殻を破る。 その直前に杭奈と話をしていたが、その内容を見るより先にいち早くスバルはバカラの思惑を理解する。 「な、バカラ……お前杭奈を殺す気じゃなかろうな?」 その動きが、何を意味するのか、杭奈には分からなかったが、スバルのうろたえようは半端ではなかった。 あの静流まで、バカラ相手に威嚇しており、何かとんでもない技を放とうとしている事は確かなようで。 杭奈が早々にとどめを刺してしまおうと走り寄ると、静流が仁王立ちして静止する。あんまりな展開に戸惑う杭奈を静流は手で制し、バカラにいちゃもんをつけ始める。 「あれは、何をしようとしてるんだ? まさか、バカラの奴禁止技使おうとしているんじゃないだろうな?」 「いや、オリザさん……間違いなくアレは禁止技だよ。静流のあの慌て具合を見ればわかるだろう? 彼女はバカラとは同族だからね……本能的に危険さが分かっているようだよ……うん」 やれやれとスバルは首を振る。 「とにかく、得意なエリアで格下の杭奈に圧倒されたのが気に食わんのだろう……本来は禁じ手なんだがな。 野性のズルズキンはあの状態になったら確実に相手の頭部を狙うが……万が一頭部を狙ったら私は責任をもってバカラを始末する」 スバルとオリザが会話をしているうちに、バカラと静流も会話を終えた。どうやら話はついたようで、静流が引き揚げる。 「……おい、バカラ。頭は狙わないんだな?」 もちろんだとでも言うように、バカラは頷いた。 「『あんさんのお気に入りに敗北させて9m( ^Д^)プギャーするだけだ』か……いいだろう、なら許可する。 たまには杭奈にも世の中の理不尽さを教えてやっても良いだろう」 「おいおい、いいのかスバルさん? 自分で禁じ手って言った技だぞ?」 「なに、頭さえ狙わなければどうという事はない」 スバルは先程までの剣幕とは一転して、楽しそうに杭奈とバカラの戦いを見守り始めた。 バカラは右手に持ったフードの抜け殻に、額から流れ落ちる砂交じりの血を入れ、重量を増させて空気抵抗で減速されないようにして投げる。 杭奈はそれを叩き落とすと、その一瞬に出来た隙に蹴りが飛んでくるかと思い、一旦バックステップで距離を取る。しかし、バカラの蹴りは飛んでこなかった。 当のバカラは尻もちをつくような無様なバックステップをしながら尻尾の抜け殻に砂を詰めていた。どうやら転んだわけではないらしく、砂を詰める事が目的のようだ。 「殺すなよ?」 スバルがバカラへ念を押す。バカラは頷きながら砂を詰めた抜け殻を持って杭奈に向かって走り出した。 スバル、静流、バカラから発せられる異様な雰囲気に恐れをなした杭奈は、早めに終わらせてしまおうと攻めに入る。 にやり、とバカラが笑って砂が入った尻尾の抜け殻を振り抜いた。 **42 [#b3c0d1b1] バカラは砂袋となった尻尾の抜け殻を杭奈の左太ももに激しく打ち付けた。杭奈はその一瞬の間に転ぶと判断して、死なば諸共とばかりにテイクダウンを狙う。 「やりやがったな……見事だよ、ブラックジャック」 バカラ、とは最も人気のあるトランプを用いたカードゲームの名前の一つである。 彼に付いた名前は如何にもなギャンブラーであるギーマらしい名前の付け方で、バカラの後任であるの雌ズルズキンもポーカーという名前だ。 しかし、トランプにはもう一つ人気のカードゲームがある。 それは、ブラックジャック。ポピュラーなカードゲームの名前でもあるが、革袋や布袋の中に、砂利やコイン等を詰めた拷問器具や暗殺用の武器の名前でもある。 四天王のギーマが、ズルズキンの2匹にあんな名前を付けた理由は、この技の存在を意識したからであった。 即ち、抜け殻を使って作った即席のブラックジャックを見舞う攻撃だ。砂漠で生まれたズルズキンの切り札にして、最強の一発技である。 その威力のほどは、ズルズキンの住む砂漠で吹きすさぶ砂嵐から肌守ってくれるしなやかでよく伸びる抜け殻を一発で破けて使い物にならなくしてしまうほど。 この攻撃はスバルや静流が心配したとおり、頭に当たれば死にかねない危険な武器だ。公式ポケモンリーグで使えば即座に反則負けである。 「あんな技……俺が静流を捕まえた時にだって使ってこなかったってのに……」 ズルズキンと苦楽を共にしてきた初めて見た技にオリザは舌を巻く。 「当り前だ。如何にアレが子供を守る時のみに使う技とて、子供を守る時に絶対使う技ではない。 砂漠で砂嵐から身を守るための抜け殻を失う覚悟を以って子供を守るというのは並大抵の覚悟じゃない。 イワパレスなんかは殻を破ってもまた拾って付ければいいが、破れた抜け殻は使い物にならんからな。 そもそも、あの技を使ったおかげで次の戦いに敗れて子供が喰い殺されては本末転倒だろう? だからまぁ、アレは死ぬ気で放つ技……大爆発や命懸けって技に近い。だが、頭を狙った時は……喰らった相手が死ぬからポケモン協会でも使用を禁止してる技さ。 ったく、これじゃホームページに動画をアップさせられないかもな……」 どうでもいい事を呟きながら、スバルは前へ向き直る。 戦況の方はと言えば、足を打たれてしまった杭奈は前のめりに転びながら相手を後ろへ転ばして寝技に持ち込む。だが、バカラを転ばせることはできたものの、そこからの追撃が全く上手くいかない。 杭奈の脚は重く鈍い痛みに苛まれて、左脚は全く動いてくれず、転ばせたら抱きしめて胸の棘で苦しめてやろうかという杭奈のもくろみも不発に終わった。 杭奈はバカラの左足を抱いていたら右足で顔を蹴られ、脳が揺さぶられたその一瞬の隙にバカラは抜け殻をずらされながらも左足を引きぬいた。 更にバカラは尻もちをついたままその左足で再び杭奈の頭を蹴る。今度の蹴りは杭奈もなんとか防御出来たが、バカラは立ち上がってしまった。 足をやられた今、立ったところで杭奈に立ち技での勝ち目はほとんどない。ジョンが教えてくれた戦法に最後の望みをかけるのだ。 逆転勝ちを見据える段階までたどり着いたバカラは、尻尾の部分を切り取ってしまったためにずれやすくなっている抜け殻を悠々と引きあげる。 もう勝ちは見えたその状況でそこをスバルは命令する。 「周囲を走り回って掻きまわしながらストーンエッジで畳みかけろ。杭奈に負けの味を教えてやれ」 この状態で使える技は、波導弾、草結び、後は袴から教えてもらったサイコキネシスくらいだが、相手は悪タイプだから攻撃には使えない。 流石に肩が外れる波導の嵐は使えない。後はブレイズキックで相手の脚を狙うくらいか。相手はストーンエッジを使える。 いくら効果が今一つとはいえ、今の状態で勝てるのかどうかは微妙なところだ。 撃つ、撃たれる、撃つ、撃たれる。バカラは波導弾を的確に避けつつ、杭奈にダメージを与える。もはや戦いは嬲り殺しの様相を呈しているほど一方的に杭奈がやられている。 バカラはさらに杭奈の足に更なる追撃を与え、両足共に杭奈は封じられてしまう。もはや、杭奈は起きあがることすらできないみじめな状態となってしまった。 しかし、波導弾が出せる限り杭奈が諦めるつもりはない。あくまで、彼は逆転劇を信じる。 「さぁ、そろそろとどめをさせ。だが、降参したら素直にそれを認めてやれ」 スバルがそう命令した。バカラは杭奈の側面に回る。杭奈は動かない脚を抱えていては方向転換するのも難しく、簡単に左を取られる。 そうして、杭奈はバカラに体の左側を位置取られてしまい、最後のトドメとばかりにバカラは杭奈の腹に向かってキックを放つ。 杭奈の棘がバカラの脛に見舞われた。脛にダメージを負って、しかしバカラは痛みを無視して蹴り飛ばし、衝撃が杭奈の脇腹に届いた。 激痛で悶絶しかける杭奈だが、彼はまだ諦めずにバカラの軸足を掴む。 今ので脛にダメージを負った上に、度重なる頭部への攻撃で足に来ていた。そのうえ、地面は砂だ。足を取られてバカラは転び、抜け殻を大きくずらされた。 中途半端にずれたズルズキンの抜け殻は、Gパンなど腰へ付ける衣服を膝辺りまで脱げば分かるように足枷となって動きを制限する。 杭奈は、這いながら抜け殻を左肘で押さえてバカラの足を地面に縫いつける。攻撃のために構えられた杭奈の片手は、両手で放てないため威力は劣るが、タイプ一致弱点の波導弾。 もがいて抜け殻を脱ぎ捨てたバカラは、杭奈の顎を足で蹴り飛ばす。同時に暴発した波導弾が、地面に手をつけていて無防備だった頭部へ必殺の一撃。 砂塵が巻き起こり、それで決着はついたかに思われたが、二人の手はまだかすかに動いていた。 とどめを刺そうと、獲物を見つけようと、這うような動きで砂の肌を撫でていた二人の手。しかし、数秒経つと、どちらの手も砂のベッドに突っ伏して動かなくなった。 「相討ち……だと?」 それから先、二人は糸の切れた操り人形のようにピクリとも動かなかった。杭奈、バカラ共に脳震盪で昏倒したのであろう。 「杭奈!! 大丈夫か!!」 スバルは駆け寄ろうとするオリザの肩を掴んで静止した。 「ダメにさせるつもりはないから、あまり動かすなよ、オリザ!!」 そうして、普段は管理棟の医務室に勤務しているタブンネを2匹モンスターボールから繰り出す。 「治すことなら専門家に任せておけ……大丈夫。この育て屋は死者を一度も出した事が無いのが自慢だ」 と言って、スバルは溜め息をついた。 「しかし、相討ちとはな……杭奈め、ズルズキンの隠し玉と得意技を公開させておいてなお、その実力か……恐ろしい奴め。 こんな勝負、実質杭奈の勝利と言わざるを得んな……まぁ、''試合は引き分けだが''」 「じゃ、じゃあ……」 オリザが恐る恐る尋ねると、スバルは頷いた。 「あぁ、がんばリボンは杭奈に与える……そういう約束だったからな。全く、バカラの奴め。格下相手に有利な環境だと思って油断しているからこうなるんだ。 指示ミスは悪かったと思うが……奢る心が無ければ最初の砂を握った掌底のコンボも避けられたはず。 だからお前は、女に役目を奪われて四天王から除外されるんだよ……ったく、お前も抜け殻を没収して羞恥プレイしてやろうかな? あぁ、だが手痛い指示ミスをしてしまった私も反省の意を込めて頭を刈らなくてはな……」 一通り罵倒し終えて、スバルはコホンッと咳払い。 「それにしても私、試合中ずっと地が出ておりましたね……お恥ずかしい……」 ◇ 開業前、午前7時半の整体院の2階。1階は完全に整体院に場所を占拠されており、2階は食卓などの住居スペースがあるこのゴギョウ整体院。 付けっぱなしのテレビはポケモンには無縁の外交から穀物の輸入問題、株価や政治家の演説といったポケモンには無縁の退屈なニュース番組。 それが終わり、街角の色々な話題を特集する番組へシフトする。 学生の夏休みも終わりに近づいている時期に、多くのポケモンは汗を掻かないため、塩分を控えめに調理された朝食を口にしながら、ジョンは眠い眼を擦っていた。 いつもと変わらない朝のはずであったが、今日はその眠気が一気に吹き飛ぶような眼を引く話題が特集された。 いわゆる、ジムリーダー特集という奴だ。 『はーい、サクライさん。ただいま私はホワイトフォレストに新たに建設されたホワイトジムの前に来ていまーす!! いや、空気が美味しいですねー』 『こんにちは、イロリさん。いやー良い景色ですねー』 『そうなんですよ。見てくださいこの大木。なんと約60mあるんですよー。ポケモンもジムリーダーもロープを釣るして登ることで体を鍛えているんですって。 しかも、ジムのバッジ検定バトル自体は地上でやりますが、挑戦者は命綱が支給されるとはいえ、一度は縄梯子を上って行かなきゃならないそうなので大変ですねぇ!! 車いすなど、障害のあるトレーナーは流石にその仕掛けの突破も免除されるそうなんですけれど、これがまたやる気ブレイカーなんですよ。 みなさん、この高さを登る気になれますかー? 私には無理でーす』 テンションの高い女性リポーターがジムの施設を次々解説していく。これ自体はあまり興味はなかったが、杭奈はどうしているのだろうとふと気になった。 その理由というのも、育て屋を卒業した日に撮ったジムのポケモンの集合写真を手紙に同封してきたのだが、静流や袴が映っているのに杭奈だけは映っていないのだ。 何か悪い事が起こったのかとも思えばそういうわけでもないらしく、主人に読んでもらった手紙には写真に写りたくないと書かれていたそうだ。 ショートカットにイメチェンしたスバルや、バカラを除いた教官たちも勢ぞろいというせっかくの記念撮影なのに、写らないなんて一体何があったのやら。 酷い怪我でもして包帯グルグル巻きの顔を見せるのが恥ずかしいとかだったら気の毒だな、とジョンは心配していた。 『さて、このジムのポケモンの紹介も良いよ大詰めに入ってまいりました残す所は切り札とこのジムの一番人気。 切り札は、ジムリーダーの最強戦力の一人にも数えられ、他の地方の物を含めてバッジ8個以上を持った挑戦者の相手をしてくれるエンブオーの閻魔君。 一番人気は同じくバッジ8個以上の挑戦者を相手にしてくれるルカリオの杭奈君なのですが……これがまた、人気の理由が面白いのですよね』 お目当てのポケモンの話題がようやく出て、ジョンは身を乗り出して画面を凝視する。 『その人気の秘訣については……CMの後で』 しかし、ここで何とも腹立たしいタイミングでCMが入り、ジョンは食い入るように見入っていた自分が馬鹿らしくなる。 ジョンは食事を再開してCMが開けるのを待ち、クマシュンマークの風邪薬や、車や携帯電話の退屈なCMを経て待ちに待ったCM開け。 画面の中心に移った女性リポーターからカメラをスライドし、映った杭奈を見てジョンの第一声。 「何て格好してるんだあいつ……」 すでにして近所に住んでいる女子高生の有志が作った人気急上昇の杭奈ぬいぐるみ。それと共に画面上に現れたプードル刈りのルカリオの胸には、純金のリボンが誇らしげに輝いていた。 「でもちょっと可愛いかも」 写真に写りたくない理由を理解して、ジョンは安堵の溜め息一つ。肉を食みながら杭奈の元気な姿に微笑んだ。 **おまけ1 [#e23e7616] 準々決勝、第3試合。静流VSトリニティ((※時系列は38節。オリザとスバルの会話の後である))。 「お互い、当たりたくない者同士当たってしまいましたね……オリザさん」 「いえいえ、強い者と戦ってこそ成長するものですよ。今宵は、互いの成長になれるよう尋常に勝負いたしましょう」 順当に勝ちぬいた、スバル所有のサザンドラことトリニティと、オリザ所有のズルズキンこと静流。二人は殆ど無傷の状態で相まみえることとなる。 共にジムリーダーの本気の手合いに耐えうる実力の持ち主であり、優勝候補として申し分がない。ちなみに、どちらも若干性格は悪い。 ただし、どちらも戦いには至極真面目。圧倒的な破壊力で突き進むトリニティと、堅実に耐え隙を伺って必殺の一撃を叩きこむ静流。 戦法は違えど、共に貫録を見せつけるその強さゆえに、この試合だけは見逃すべきではないと会場の盛り上がりはジョンと杭奈のそれを越えていた。 ◇ 人間たちの思惑はさておき、闘う当事者の2人はと言うと、罵りあっていた。 「ふふ、ご主人の期待に応えたいし……それにジョン君と勝ってデートする約束もしちゃったのよねー。 だから、大人しく負けてくれると嬉しいんだけれど……」 「いやぁ、優勝賞品はブラックシティのお酒でねぇ。とっても美味しいお酒だから大人しく負けてくれると嬉しいんだけれど……」 「ふぅん、なるほど。御酒ばっかり飲んでいるから、そんなお饅頭のようにデブデブなのね」 「おいおいおい、でかいのは腹じゃねえさ。ビッチ((雌犬のこと。淫乱を意味します))にも満足できるボリュームのソーセージも酒があるからこそ用意できる((お酒を飲むと女性ホルモンが分泌されるので、飲み過ぎはむしろ小さくなります。それどころか乳が張ってしまう事も。&br; 女性も酒を飲みすぎるとホルモンバランスが崩れますので、貧乳だからってがぶ飲みしてはいけない。貧乳はステー(ry&br; なんにせよお酒はほどほどに、楽しく飲みましょう。))ってもんでねぇ」 「あら、貴方のソーセージは臭いチーズがたくさんこびりついていて香りが台無しなんじゃない?」 「ほほう、この戦いが終わったら、チーズが大好きになるようにたくさん食わせてやろうか?」 闘いが始まる前から互いに挑発してみるが、どちらも一歩も引く様子もない。これはこれで仲がよさそうな二人である。 「あらあら、そんな事になる前にその粗末なウインナーソーセージを噛み千切ってあげるわよ。いい血の味がしそうじゃない?」 「はん、ウインナーだなんてとんでもない。ボンレスハムと言っても信じるだろうさ」 ところで、この二人の話は耳が痛すぎる。誰か止めろと言いたいところだが、ふじこを通じて唯一会話の内容が分かっているスバルは止めない。 ふじこがスマートフォンに出力した画面を見て、あまりに口汚い二人の罵りあいに嫌な顔をするどころかむしろ微笑んでいて、至極ご満悦の様子である。 「あらら、&ruby(スバルさん){貴方の御主人};は貴方の股間のモノの大きさを知っているようね。水鉄砲にすらなりゃしないって笑っているわ」 「黙れ、俺のハイドロカノンで卵を孕ませて目玉焼きにして食ってやろうか? それとも親子丼にしてやろうか?」 「あら、貴方の種なしこんにゃくがそんな卵を作るとか高尚な能力を持っているのかしらね?((一応卵グループドラゴンの雌雄なので卵は出来ます))」 「ほーう、種なしこんにゃくとな? 柔軟性が高くってノンカロリーだからダイエットによさそうじゃないか。お前さんに飽きるほど飲ませてやろうか? 痩せるぞ?」 「あらあら、貴方は自分のお口が届くから毎日そうやって自分の飲んでいるんでしょう? 自家発電なんてエコで良いじゃない」 「自分のを飲む趣味は無いねぇ。しかし口がよく動くことだ、口を開くよりも股を開けこの雌豚が……おっと、人間様がそろそろ対戦を始めろとよ」 「あら、残念。もう少し貴方と話していたかったのに」 2人は軽く微笑みあいながら戦いの舞台に立つ。顔こそ微笑んでいるものの、腹の底は底なし沼か血の池地獄か、それほどまでに深く淀んでいる。 この2人、仲が良いにも程があった。 ◇ 「はっはっは……仲のいい事だな、この2人は」 「おや、何を話しているんですか?」 「あぁ、えーと……要約すると、静流ちゃんが『ダメ男めが!!』。トリニティが『ダメ女めが!!』と罵りあっているな」 クスクスと笑いながらスバルは答える。 「それ……仲、いいんですか?」 「何、悪タイプとブラックシティでは日常茶飯事だ。……ポケモンに生まれていたら私も悪タイプだったかもな、はは結構結構」 「そうですか……ポケモン世界も色々ありますね」 苦笑しながら肩をすくめて、オリザは審判に目配せをする。 「こちらの準備はOKです」 「私も、いつでも構わんぞ審判」 互いにOKの合図をすると、審判は頷き宣言する。 「両者、構えて」 ともに唸り声を上げて威嚇し合っていた2人も、その声に合わせて会話を止め構えをとる。 さっきまで笑顔だった二人も、構えをとると同時に顔を引き締め、牙を向いた。 「それでは、試合開始!!」 その合図と同時にトレーナー2人は吼えた。 「トリニティ、龍の息吹!! 3つの首で順番に放って避けた後の隙をつけ!!」 「静流、出来る限りダメージを受けないように気を使え。相手の息切れを狙って一気に攻撃を仕掛けろ」 全く、静流に与えられた命令は無茶な命令であった。3つの首から順番に放たれる殺意の塊。 点ではなく、塊として飛んでくるその息吹は一撃避けるのに体幹をずらすだけでは足りない。大仰な避け方をせざるを得ないのだ。 まず、トリニティは僅かながらに静流の左側に位置する場所を狙って息吹を飛ばす。静流は右に体を傾け、立ち膝の姿勢から右手を着いて伏せる。 狙ったように、今度は静流の僅かに右側を狙う。静流は1発目を避けた際の勢いがついていた。 このままでは切り返しが出来ないと判断した静流は、勢いをそのまま保ちつつ、右肘を地面に付く。 肘、トサカ、首、背中と地面につけながら転がりつつも、決して視線は敵から離さない。尻尾で反動をつけて立ちあがって、静流はトリニティへ向き直った。 「3発目を撃ったら離脱しろ。やり方は任せる」 スバルのトリニティへの命令。それとほぼ同時に放たれた静流の右を狙った3発目の息吹をのけぞりながら首の皮一枚でかわす。 「ならば、追撃するんだ静流!!」 オリザに命令された通り、静流は足指で地面を抉るが如く踏み込んでから一気にトリニティに距離を詰める。 如何に最高クラスの特攻を持つサザンドラのトリニティと言えど、3発放った後にもう3発など殺人的な要求には答えられないし、スバルもしない。 トリニティは、一旦地面に降り立ったかと思えば、ジャンプと羽ばたきを合わせて高速で上空に飛び上がった。 空気を押すより地面を蹴った方が、当然加速はよくなるという事だ。 肩を掴んで飛び膝蹴りを決めてやろうと意気込んでいた静流は、腕も膝も空しく空を切って地面に落ちる。 「良いぞ、だが高所に居続けるのはよくない。低空飛行から波乗りに持ち込め」 スバルがトリニティに命令する。格闘タイプは飛行タイプ対策に岩タイプの技を持っている事が多い。 ストーンエッジならばまだしも、撃ち落とすことに特化して翼を狙う攻撃を高所で受ければ、受け身を行う能の無いトリニティは形勢を逆転されかねない。 要はそれを警戒してスバルは低空飛行の命令を下したのだ。 静流は飛び膝蹴りを外し地面に落ちていたが、鍛え抜いた体捌きを駆使して静流はきちんと受け身を取れる。 また、身を守るために着ていた山吹色の抜け殻のおかげで、落ちている小石に皮膚を切り裂かれることも無かった。 静流が振り返ってみると、トリニティはすでに地面近くまで降りている。 高度を下げたトリニティは、龍の息吹が避けられてしまうならばと、スバルに命令されたとおり波乗りで勝負に持ち込んだ。 トリニティの体の内から漏れだした水の力が、実体化して試合場を襲う。 澄んだ水の流れが静流を襲うが、静流は後ろに下がりながらその鉄砲水を受けて波の衝撃を緩和。 流れにのみ込まれても、静流は無駄にもがいて体力を消耗するような野暮な真似はしない。 激流に身を任せて波と同化することで酸素の消費を押さえ、技が終わるまで待つ。砂漠で雨季のワジ((流水の無い枯れた河。ただし、雨が降ると物凄い濁流が発生するため非常に危険))に飲みこまれた時に生き残る知恵だ。 結果的に、波乗りに対しては殆どノーダメージだが、地面がぬかるんだ上に抜け殻に水が入ってしまった。 実はこの抜け殻、砂漠では野性のズルズキンが使用済みのそれを水瓶代わりに使う程、保水性・撥水性は高い。 波乗りにもまれて抜け殻が水を飲みこんでしまえば、当然のように重量が増す。 その上、乾燥を防ぐ抜け殻表面の&ruby(ワックス){蝋};成分のおかげで地面との滑り具合は濡れた大理石の如く最高だ。 「さぁ、見ろ。トリニティ……足場の条件も、服装の条件も敵のみが劣化した。有利なお前はさっさと料理を始めろ。美味しく作れよ?」 「クソ、相手は足場無視だ……静流、守勢に回ったらやられる。攻めるんだ」 双方のトレーナーは攻めをポケモンに命じた。トリニティが選んだのは気合い玉。静流の弱点を突きつつ、しかも威力の高い必殺技である。 トリニティは小さめの気合い玉2つを同時に、僅かに体の中心線からずらした位置を狙い、放つ。 それぞれ左胸と右太もも辺りを狙った非常にいやらしい位置である。 静流は、ヘッドスライディングのような前のめりの姿勢から、僅かに右へスライドしつつきりもみ回転しながらジャンプ。 左胸を狙った気合い玉を風圧だけ浴びてかわし、右太ももを狙った気合い玉は飛び越えて足に風圧を感じてかわす。 前のめりで地面に着地、手を突くと同時に4足歩行のポケモンの如く手を用いて地面を蹴り、加速と共に一気に立ち上がる。 地面を力強く踏みしめた瞬間から敵に届くまで、トリニティに地面に降り立って大ジャンプをする猶予は残されていない。 静流は頭部を守るフード状の抜け殻をかぶり、気合い玉に備える。トリニティが真ん中の首の気合い玉を静流に向けて放た。 これまた頭部を守るためのトサカを向け、静流は真っ向から気合い玉を受け止めた。 頭蓋に響く轟音。食いしばった顎に伝わった衝撃で歯が欠けてしまいそうなダメージを負いながらも、静流は怯まない。 トリニティの首に向けて諸刃の頭突き。柔軟性が高くよく撓るサザンドラの首だけに、静流の頭突きのダメージは受け流された。 だが、更なる追撃として静流はトリニティの首の股を掴み、腹と胸の境目に渾身の跳び膝蹴りを放つ。 飛び膝蹴りは、体当たりを除けば、エネルギー的には最強の打撃技である。しかもそれが、肩などを掴まれ衝撃の逃げ場が無い状況とあれば、まさしく一撃必殺だ。 トリニティは分厚い筋肉に内臓と肋骨を守られていても、効果抜群のこの一撃は流石に効いたらしい。 グハァッ、と唾の飛沫を飛ばしてトリニティは怯んだ。 だが、哀しいかな。飛び膝蹴りは体ごとぶつかる技ゆえか、連打の利かない技である。 静流が次の一撃を放つよりも、トリニティが怯みから回復する方が早く、トリニティは2つの顔で噛みついて静流を引き剥がした。 静流は脳天に喰らった気合い玉のせいですでに足に来ていたのか、引き剥がされながらふらりとたたらを踏んだ足取りはおぼつかない。 トリニティは再度、波乗りを繰り出した。対する静流はおぼつかない足取りながらも、先ほどと同じ対処法で衝撃を緩和する。 だが、平衡感覚を完全に失った静流は、波乗りの終わりに上手く立ち上がれる体制を作れなかった。 呼吸も大いに乱され、肺に入った水が容赦なく静流の体力を奪う。 「トドメだ、トリニティ!!」 「静流、危ない!!」 なんて、オリザの大声もスバルの命令の前には空しい。静流は運の悪い事に奔流に揉まれて後ろを向かされていた。 静流が立ち上がろうと手をついたその瞬間に、耳を塞がなければとても耐えられないような大声が響き渡る。 ハイパーボイスの轟音を浴びて、静流は反射的に立ち上がるための腕を地面から離し、泥飛沫と共に顔を地面に突っ伏した。 しかも、性質の悪い事にそのハイパーボイス、左右2つの顔だけで行っている。それだけに音量は僅かに小さいのだが、耳を塞がせる効果さえあれば恩の字だ。 トリニティの残った真ん中の口から放たれる技は、当然のように気合い玉。 「まて、降参だ!!」 それが放たれる前に、静流のトレーナーであるオリザは降参を宣言した。 ◇ 「……つつっ」 上体だけはなんとか起こした静流は、流血している頭を押さえつつ、唇を食い結ぶ。 トサカがボロボロな上に随分痛そうな表情だが、彼女はなんとか意識を保っているようだ。 「大丈夫かよ?」 上体を起こした静流を気遣ってトリニティは3つの首で静流を覗きこむ。 「主人が降参宣言してくれたおかげで、なんとかね……」 「ほら、つかまれよ」 「ありがと」 差し出された右顎に噛まれて静流は立ち上がり、そっけなくお礼を言う。 「てゆーかあんた、胸は大丈夫? 肋骨折れてない?」 「なんとかね。鍛えているから体は丈夫なもんでさ」 などと言いつつも、トリニティは結局痛みで顔をしかめている。多分、と言うよりは確実に痣が残るであろう。静流の蹴りにはそれくらいの強さはある。 「すまんね。お前さんのデートの予定はキャンセルだな」 「仕方ないわよ……あんたの方が強かった。それだけで十分じゃない?」 「違いないね」 静流とトリニティは互いに笑いあって主人の元へと帰ってゆく。 強がってはいてもどちらも酷いダメージを負っていたのか、近くまで歩みを進めた2人は泥まみれの体を傾け主人に倒れ込んだ。 **後書き [#tdea8ceb] ***この話を書いたきっかけ [#zf97ba26] 元は、テオナナカトルでまともなポケモンバトルを殆ど書けなかったがためにチャットルームで漏らした『バトルもの書きたい』という愚痴に『短編でも書いてみたらどうでしょう』という言葉をかけられ、それを切っ掛けに書き始めた作品でした。 まぁ、最初は言われたとおり短編を書くつもりで17節で終わりにするつもりだったのです……が、どうしてこうなった。 実は17節で終わる予定だったのですが(この時点で短編じゃない)負けっぱなしの杭奈君をなんとか勝たせてあげたくなって続けました。 そのまま続けるには静流とジョンが卒業しちゃって少々キャラが厳しかった&寂しかったので、本来無個性のはずだった育て屋のオーナーが度々人格が豹変する女性、スバルとして物語に加わることになってしまいました。 そして17節を投稿した頃には、予想以上に長くなっていたのでこれは42話まで行くだろうとドラゴンボール屈指の名台詞である亀じいちゃんのアレを呟いてみました。 なんだかんだできっちり42節におさめられたのは、運が良かったのでしょうか。 ***戦闘シーンについて [#u0640496] 戦闘シーンはリアリティを意識して実際の格闘技を参考に色々盛り込んだので、ポケモンらしくないと感じる方もいたでしょう。それゆえ不安でしたがなかなか好評なようで内心ホッとしました。 格闘技を実際にやっている人には、波導弾や火炎放射はともかく殴り合う描写に違和感バリバリだったかもしれませんが、どうかご容赦くださいませ。 さて、参考にした格闘技ですが以下のようになっています。 ルカリオ:八極拳 インファイトが得意で、スマブラXでの動きが中華っぽかったため。あの棘はインファイトに使いやすいと思いました。 ズルズキン:喧嘩・レスリング 喧嘩はその物ですが、砂場でこそレスリングというスポーツは輝くため。また尻尾がレスリングに向いていると感じたため。 コジョンド:ジークンドー 種族名からそうではないかとさんざん言われているため。テコンドーという説もありますが、中華な雰囲気が似合う為ジークンドーに。 エルレイドの袴の戦いは結局書きませんでしたが、書いていたら八極拳と蟷螂拳になっていたかと思います。 さて、ルカリオを主人公に据えたのは頑張り屋が似合うという理由と、格闘タイプの中では身長の近いポケモンが多かったため。 ライバルにズルズキンを選んだのは、いつかコメントで話した通り格闘タイプに弱い格闘タイプであるため。最初はゴウカザルとどちらにするかで悩みました。 コジョンドを教え役に選んだのは波導弾をタイプ一致で使えるルカリオ以外で唯一のポケモンであるため。 キャラを立たせるのには苦労しましたが、一番キャラが立っていたのがスバルのような気がしてならない私には、主人公の杭奈が無難であった事が良かったのかどうか悩ましく感じます。 ***最後に [#yb6117e9] さて、グダグダな後書きと誤字脱字の多い本編に付き合っていただきありがとうございました。 最後に、誰得ですが小説情報とキャラの名前の由来を乗せておきます。 【作品名】 【原稿用紙(20×20行)】 518.9(枚) 【総文字数】 164543(字) 【行数】 4023(行) 【台詞:地の文】 35:64(%)|58869:105674(字) 【漢字:かな:カナ:他】 35:54:8:1(%)|58000:89758:14258:2527(字) ※呟き、プラグイン込み &ruby(くいな){杭奈};(ルカリオ):名前の由来は棘が杭のようだから &ruby(しずる){静流};(ズルズキン):『ズル』を付けてなおかつ女の子っぽい名前にしたかったから。 バカラ(ズルズキン):カジノで人気のカードゲームの名前から ジョン(コジョンド):種族名から 袴(キルリア⇒エルレイド):ラルトスやエルレイドの脚が袴っぽいから ペテン(ゾロア⇒ゾロアーク):騙すというイメージから、詐欺師。 ふじこ(ポリゴンZ):くぁwせdrftgyふじこlpから。 ケセラン(エルフーン):綿毛のような妖精ケセランパセランから トリニティ(サザンドラ):&ruby(トリニティ){三位一体};から うな丼(シビルドン):そのもの ユウキ(アイアント):某地球防衛ゲームの守護神とされる隊員、結城隊員から。 サイファー&タリズマン(シャンデラ):エースコンバット6の主人公2人から モヌラ&ゴヅラ(ウルガモス&オノノクス):そのもの ウルキオラ(ローブシン):建築家兼デザイナーのパトリシア=ウルキオラから オリザ(杭奈達の主人):イネの学名、オリザ・サティバから ではまた、[[次の物語>テオナナカトル]]で会いましょう。 **つぶやき [#c1c6ea15] ---- 更新28回目:さて、このページで最後になるでしょうか。 悪タイプやスバルさんなんかとよく付き合っているせいでラフファイト多くなっている杭奈君。 更新29回目:モヌラさんとゴヅラさんの再登場。しかし、噛ませ犬でしたとさ……いや、強いんですよどっちも。 そして次回からみんな大好きゾロルカ。カウンターと悪の波導を遺伝させるには最適ですね。ドーブルの方がいいとか言ってはいけない 更新30回目:自分で言うのもなんだけれど、ゾロアークばっかりで飽きてしまいそうだ……しかしこいつら初々しすぎる 更新31回目:オードブル、サラダ、スープを楽しんでからのメインディッシュですよね &color(white){それとナナ、いくら魔女だからって次元の壁を超えるんじゃない!!}; 更新32回目:メインディッシュを豪快に掻き込んでこそ漢です。 更新33回目:大会編突入。長くな……りません。 更新34回目:大会のシステムをの由来はパトリシア=ウルキオラさんである。『心か』の人じゃないです。 さて、静流が覚えているというインファイト対策は作中利用して意図的にこういうことする二人。 更新35回目:適当に書いてたらジョンが勝ってた。関節技や寝技で勝負が決まるのはリングクオリティ どうでもいいけれど、ローキックって地味に痛いですよね。何気に両足に喰らっている(片方は正確に言えばボーンラッシュですが)ジョンは痛かったろうなぁ 更新36回目:対策法を確信したはずのジョンは85点を貰っていましたとさ。それ以外にも有効な対策をジョンは見た事があるはずなんですが忘れているようです、 それと今更だけれど、ウルキオラちゃんの名前の由来はパトリシア=ウルキオラである。『心か』の人ではないです 更新37回目:昔トルネコの不思議のダンジョンの漫画に、シルバーデビルがプードル刈りにされるエピソードがあってですね。 更新38回目:さて、最後の戦い。気合い入れて書きましょう 更新39回目:そう言えばテニスの王子様にも負けたら頭を刈るという話がありましたね。全く関係ないですが。 更新40回目:と、言うわけで完結です。後書きはまたいつか 復旧してみた:避難所wikiにバックアップ代わりの復旧をした際におまけをつけてみた物をこっちのwikiにも乗せてみる。悪タイプって怖い。 そしてサザンドラは&color(red){&size(25){&ruby(えろかわいい){エロ可愛い};};}; RIGHT:&color(white){&size(5){サザンドラサイコーサザンドラマジカワイイサザンドラモフモフモフモフキュンキュンキュイビバサザンドラデモダークライはモットスキ};}; ---- #pcomment IP:223.134.157.63 TIME:"2012-12-15 (土) 22:40:51" 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