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リトルハート 0話「契機」 の変更点


僕は運命の渦の中に放り出された。
平和で平凡で、小さな世界から、いきなり、なんの予告もなく。

僕は大きくて広い海の真ん中にぽつんと佇む島のようになった。
それは大陸の一部が切り離されてできたものなんだろうか。島が大陸から離れたのか、大陸が島を放したのか。
島以外の大陸の全てがいきなり海に変わってしまったのかとも思ったけど、それは違うような気がした。
どっちかと言ったら、海の中に、いきなり僕と言う島が現れたような。

島はいつも嵐に襲われていた。来る日も、来る日も、嵐。そして激しく荒れ狂った海の高い波に、土を削られた。

島は島でしかないのだから、波が島を侵食し、削る、自然という不可抗力に対抗できる訳が無い。
きっとそのうち島は土を削りに削られ、消えて無くなってしまうんだろう。
そしてもとの海に戻る。広くて大きくて、平らな海へと。嵐も多分もう無くなる。

でも僕は島のような存在になったというだけで、本当は島なんかじゃないんだ。
手がある足がある意思がある。目がある口がある、心もある。
だから僕は身を削られないよう、海に精一杯抗んだ。

僕は島じゃない。だからこそ本当は、壊される島と壊す海なんて簡単な構図は出来上がらないんだろう。
僕に仲間がいたり、何が正義で何が正義で無いとか言う問題があったり、難しいからよく分からないけど、
エゴってやつがあったり。

でもやっぱり僕は島の「よう」なんだ。
まだ小さくて、何も知らなくて、何も無い場所にいた僕は、そう、ただの島のよう。
島のように単純で無垢な僕が海に抗うのは、難しすぎるんだ。


僕が放り出された運命の渦の中は、あんまり暗すぎて。あんまり広すぎて。あんまり理不尽すぎて。

僕の小さい心では、どうしようもなくて……。



──リトルハート──

_________________________

時刻はもう夜中の十二時を過ぎた頃だ。そろそろ寝たほうがいいかも知れない。明日は早い内に起きて、
フルーフの村に辿り着かねばならないんだ。
食料の調達に寝床の確保、大分傷んできたあのテントも買い換えるか補修するかしなければならないだろう。

そして何より、奴らがフルーフの近辺にやってきている。世間のお偉い様の奴らが、山の中にある辺鄙な田舎にだ。
なにか仕出かすつもりなんだろうか。怪しいにもほどがある。
とにかく、明日はやる事が沢山ある。朝にうだうだと何時までも寝てる訳にはいかない。

「アドル、まだ起きてたのかい?」
「ん?ああ。お前もな。」

テントの中からエナが出てきた。なんだ、エナもまだ寝ていなかったのか。
静かだったからもう全員寝ていると思っていたが。

「なんだい、考え事でもしてんのかい?こんな夜に外に出てたらあんた風邪引くよ。」

エナはそう言うと俺の隣に座った。
黒と灰色の入り混じった毛皮、グラエナ。グラエナだから、「エナ」。
単純な名前だな、といつも思ってしまう。彼女の親はもう少し凝った名前をつける気は無かったのだろうか。

「別に考え事なんてしてない。何となく外に出てただけだ。」

冷たい空気が体を沿っていく感覚が心地よかった。ほんの少しそよ風が吹いているようで、
周りの木々の葉や草が擦れる音がする。
漆黒の空には大きな満月と無数の星が輝いていて、その光は葉の隙間を縫い地表に降り注いでいる。

こんな日はなんだか心が休まるような気がした。それでなんとなく外に出ていた。

「ふーん、そう。あー、アブソルは災いポケモンだなんて言われる位だしね、一緒にいたらあたしが風邪ひくかも。」

……やはり、この嫌味な女に可愛らしい名前でもついていたりしたら違和感がありすぎる。
やはりこのぐらいそっけない名前の方が相応しい。

「皆はもう寝てるのか?」
「エニーとドノ、スタルレはもう寝たよ。ダビンはさっき通った川まで水汲みに行った。散歩がてら、ってね。」

ダビンも起きてたのか。こんな夜中に水汲みなんてご苦労なこった。
こんな綺麗な夜だし、散歩に行きたくなるのもよく分かる。水汲みはそのついでだったのだろう。

「明日フルーフに着く予定なんだろ?どの位歩けば着きそうだい?」
「そうだな。ここまで来ればそう遠くないだろう。村まで数キロ……、二時間も歩けば着くんじゃないか?」

エナは大きな欠伸をした。

「二時間ね、そうかい。村に着いたら食料をうんと買っとかないとねえ。それと、ギルドの連中の様子見も早い内から始めようか。」
「ああ、分かってる。俺とお前は奴らの調査をしよう。村人から怪しまれない程度に聞き込みでも、な。買出しや宿探しはエニーとドノにやってもらう。スタルレとダビンは……」
「仲間探しでもやってもらったら?」
「……フゥ、仲間探し、か。」

ここでギルドの連中が何かやらかして村人がギルドに不信感でも抱けば仲間も出来るだろうが、それはないだろう。
活動をするにあたって、人手不足なのは痛いほど分かっている。
俺達たった六人ではギルドの奴らの尻を追い掛け回して、水を差すことしか出来ない。
だが俺達のような奴らに手を貸してくれそうな奴らなんてそうそういない。
大きな組織のバックアップはもちろん、個人で俺達の味方をしようなんてやつも殆ど。

もともと俺達は奴らの正体に気づいた民間人をほんの少しかき集めただけの組織なんだ。

「仲間探しに励むだけ時間の無駄だろう。特にこんな田舎じゃ誰も俺達を信じちゃくれない。スタルレとダビンも聞き込みに行ってもらったほうがいい。」
「ふふ、それがいいかもね。ま、人数が少ないからこそのメリットもあるしねえ。奴らがあたし達の事なんて気にしないから警戒もされないとかさ。」

今のは半分嫌味、半分冗談で言ったんだろうな。

「さ、あんたもあたしもそろそろ寝た方がいいね。さっさとテントに入って寝よう。ダビンもその内帰ってくるだろうしね」
「……ああ、そうだな。」



予定では明日の五時に此処を出発して七時にはフルーフに着く。
俺とエナ、スタルレとダビンは二手に分かれて奴らの調査を始める。
エニーとドノは買出しや宿探しを担当してもらう。昼ごろには宿は決まるだろうから、村の入り口へ集合し
宿へ向かおう。しばらくの間はその宿が拠点になりそうだ。
山の麓の町から出発する前に手を尽くして金を貯めた。金に困る事は無いだろう。

少しでも奴らの目的が把握できればいいが……。
まあ、期待はしないでおこう。
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by 石灰猫


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