ポケモン小説wiki
ライドポケモンに抱かれて の変更点


#author("2024-01-02T13:55:32+00:00;2023-01-15T04:01:52+00:00","","")
#include(第十三回仮面小説大会情報窓・非官能部門,notitle)

作者……[[このwikiの中で仮面がぶ厚い存在>リング]]


 あの日、俺はライドポケモンに抱かれた。そして、俺は彼女の中に汚いものを吐き出してしまった……
 あの日の出来事がまさか、俺の運命を変えることになるとは、その時は思わなかったんだ。

「……サ ……アサ」
 聞きなれた声が耳に届く。
「ホラ! アサ! アサ!」
 日が昇り、世界は朝を告げていた。ここはパルデア地方、テーブルシティのオレンジアカデミー学生寮。朝日が差し込む部屋の中……俺は、アノクサのころから長い付き合いをしている相棒ポケモン、アノホラグサの声を聞いて、目をこすりながら目を覚ました。
「おはよー……はぁ。いよいよ今日か……」
 今日は待ちに待った課外授業が始まる日。事前に聞かされていた資料では、今期の課外授業のテーマは『宝探し』だそうだ。顔を洗い、食事を済ませた後に校内放送が入り、これからグラウンドで課外授業の説明が行われるため、集合するようにというお達しがあった。
 グラウンドではクラベル校長先生自ら説明を執り行ってくれた。この旅に、決められたやるべきことは無い……あえてあるとすれば『やりたいことをやる』のだ。パルデア地方を旅して、色んな事を学び、色んなものを見て、色んな苦労をして、それを通して成長した生徒の姿を楽しみにしていると、クラベル校長は言っていた。俺は、この旅で……パルデアの絶景を余すところなく見ていきたい。写真に撮るのはもちろんだけれど、俺は絵を描き残したい。美術のハッサク先生の元で学んだ絵画の基本を、この旅で開花させるんだ。
 と、いうのは旅の目的の一つに過ぎない。俺にはもう一つ旅の目的がある……それは、恋人をゲットすることだ。恋人をゲットして、彼女いない歴=年齢の殻を破る! そして、恋人と一緒に、旅をするんだ!

「さぁ、行くぞ! アノホラグサ! 風の向くまま気の向くまま! レッツゴーだ!」
「ホーー!」
 そうして、俺達はテーブルシティを旅立つ。相棒のアノホラグサ、空洞になった軽い体を、風に乗せ(乗らなくても転がるけれど)軽快に転がして駆けていく。デッサンを鍛えるために親に捕まえてもらったとはいえ、俺のすぐ近くをつかず離れず走っていく姿が、今ではすっかり愛着がわいたポケモンだ。まずは、パートナーと一緒にハッサク先生の弟子であり、ジムリーダーでもある芸術家、コルサさんのいる町、ボウルタウンを目指してみよう。

 テーブルシティを出た俺達は、乾燥した荒れ地を徒歩で進んでいく。空を飛ぶタクシーを使って移動することも可能だけれど、いい景色というのは自分の足で探すものだ……それでも、ライドポケモンが欲しくなるけれど。
「おぉ、学校の外でならマッチングアプリも使えるかと思って試してみたけれど((主人公は18歳以上の設定です))……いやぁ、こうしてマッチングアプリを使ってみると、積極的な女性ってたくさんいるなぁ」
「ホラ?」
「見てみるか? 『カボスさん、オレンジアカデミーの生徒さんなんですか? エリート学校じゃないですか! 私憧れちゃいます』って言われてさぁ……俺は大したことないよって否定したんだけれど、この子『謙遜しないでください』って言いながら、ぐいぐい俺にアタックしかけてきたんだよ……それで、最新のメッセージが……『ぜひ、カボスさんと会ってみたいです!』だってさ! どうもこれから向かう町に住んでいるらしいから、思い切って会いに行っちゃおうかなぁ、なんて!」
 俺は相棒のアノホラグサに思いっきり自慢をする。
「サクラ! サクラ!」
 そんな俺に、アノホラグサは水を差すようなことを言ってくる。
「うるせーよ! サクラじゃねーよ! ほら、やっぱりオレンジアカデミーって優秀な人が多いしさあ、数々の著名人も輩出してるだろ? そんなところで美術をやっている俺に、魅力を感じちゃう女の子も多いってことなんだよ。それをサクラだなんて言ったらお前失礼だぞ?」
「アァ……」
「なんだよ? その呆れたような反応は? 積極的な女性を逃してしまったら、損だろうが! 思い立ったが吉日……! 俺はこの課外授業で、男になるんだ!」
「アーア……」
 アノホラグサがため息をついていたが、何もわかっちゃいない! 人間の女性にだって積極的な人はいるんだ! 俺は、ボウルタウンへと至る道の途中にある田舎町に走り待ち合わせとなる場所にて、積極的な女性の到着を待った……
 そして3時間後。
「……来ないな」
「アホクサ……」
 ずっと立ち尽くしている俺に、アノホラグサは冷たく言い放つ。
「うるせえよ! なんだよ、その『案の定じゃないですか』みたいな言いぐさは! 俺がこうなることをわかっていたっていうのかよ!?」
「アァ!」
「同意するな!」
 俺の問いかけに自信満々に頷く……ような感じで転がったアノホラグサに、俺は八つ当たり気味に怒鳴りつけてしまった。
「はー……全く。ここまで沢山走ってきたっていうのに、こんなところで3時間も待っていたから、もうその辺真っ暗だし。今日はここで泊れる場所を見つけるか……」
 と、言っても泊れる場所というのは基本的にお金がかかる。ただ、この時期は課外授業中の学生を泊めて、課外学習の手伝いをしてくれるという人もいるので、そういう人が見つかるまで地道に歩いて探すのがいいだろうか。

 その日、俺は何件か田舎町を歩き、課外授業中の学生なら泊めてあげるという親切な家を探し当てた。俺が絵を描くために旅をしていることを伝えると、それなら似顔絵を描いてくれと、お安い条件で家へと泊めてもらう運びとなった。温かいスープにソーセージとジャガイモ、サラダで彩られた食事でもてなされた。
 俺はこれまで学校の中で学んだことなどを、小さな子供を交えて沢山話しつつ似顔絵を描く。出来上がった作品は大いに喜ばれた。家の子供はアノホラグサのことを怖がっていたが、彼女はおとなしくて賢く、とてもいい子だと説明し、俺が戯れているところを見せると、恐る恐るアノホラグサに触れるようになった。
 そうして子供とも打ち解け、旅の一日目の夜は大成功で更けていく……そう、こんな調子で同年代の女性と楽しく話せれば、恋人が出来るはずだ……はずなんだ。
 翌日、お世話になった家族に別れを告げ、俺はボウルタウンへの道のりを再び歩み始めた。

「しかしなぁ……やっぱりあれだよ。恋人を作るならさ、ライドポケモンがいたほうがいいと思うんだよ。やっぱり、徒歩だけじゃ厳しいものもあるし、ポケモンに乗りながら肩を並べて歩くっていうのはとっても青春を感じるじゃん?」
「アァ」
「なんかいいポケモンいないかなぁ……まぁ、無難なところならモトトカゲなんだけれどさ……モトトカゲは陸上を走るので精いっぱいだしなぁ……水陸両用とか、崖登りが出来るとか、そういうポケモンがいいよなぁ……」
「……アノサク!」
 そんなことをぼやいていると、アノホラグサが俺の前を転がり、ピョンピョンと跳ねてアピールする。彼女の指し示すほうを見てみると、ゴーゴートとバンバドロがいる牧場の柵が見えた。
「なるほど! ゴーゴートは崖登りはお手の物だし、バンバドロは荒れた土地や沼地の走破性能はとても高い……。それにどちらも逞しくて絵になるし、ライドポケモンとしてアリかもしれないな。でも、バンバドロは沼地を歩くなら悪くないけれど、いい景色を描くには高いところに上る機会も多くなるだろうし……よし、ちょっとタイプのバランスは悪いけれど、ゴーゴートをゲットしよう。あいつら、崖でも関係なく歩けるし」
 あそこにいるポケモンは他人の所有物だから、ゲットするわけにはいかない。なので、野生のポケモンをゲットするとして……
「うーん、アプリを調べてみたけれど、野生のメェークルやバンバドロがいる場所はもう少し歩いた先の草原に多く生息するらしいけれど、今日一日でたどり着くのは無理そうだね。今日は一旦どこかで休んで、明日ゲットしに行くか!」
「アァ!」
 真っ先にボウルタウンに向かう予定だったが、旅というのは思った通りには行かないもので、こうして寄り道が決まってしまった。ただ、こういう寄り道というのは期間の長いバックパッカーの旅の醍醐味だ。無駄を楽しむ心の余裕、っていうのがあるほうが旅は楽しい……多分。
 その日、俺とアノホラグサは歩けるところまで歩いて、夕暮れごろに落ち着ける街で休むことにした。翌日、メェークルやゴーゴートを探しに岩場を通る際、俺はついつい良い景色を見てしまったので、メェークルの捜索を中止して絵を描き始める。捜索自体は中止したけれど、ゲットの目的は忘れちゃいない。いい景色ということは、高いところから広い範囲を一望できる場所ということだ。急な坂道、不安定な岩場、そういう地形は、メェークルやゴーゴートにとって天敵であるレントラーやカエンジシを撒くのに適した場所であり、住処としてふさわしいのだ。風景画を描きながらいい景色を眺めていると、目の前にはゴーゴートが率いるメェークルの群れが通っていく。この辺に彼らの糞が落ちていたから、いつかは来るだろうとあたりをつけていたが、勘は正しかったようだ。
 俺は絵画道具を静かにその場に置くと、その群れに勝負を挑みにアノホラグサとともに慎重に下りていく。ある程度まで近づいたところで、アノホラグサに指示を出し、山を吹き下ろす風と重力を味方につけて転がらせる。転がれば転がるほど威力増すその技でゴーゴートへと突撃するも、さすがに群れの長とみられる個体はその接近に気付いてしまう。やっぱり、警戒心が強い!
 だが、逃げ遅れた個体が転がる攻撃の餌食となり、喰らった子供が大きく吹っ飛んだ。
「でかしたぞ!」
 メェークルとゴーゴートの特性は草食。戦うならば草タイプ以外の技を使わなければいけない。なので、選ぶべき技は……
「行け! アノホラグサ! ゴーストダイブ」
 逃げ遅れたメェークルが体勢を整える前に、アノホラグサは影の中に潜り込んでメェークルを狙う。メェークルは立ち上がって走り出すが、すでに影の中にもぐりこんだアノホラグサから逃げることはできない。自身の影を通じて這い上ってきたアノホラグサの攻撃にメェークルは吹き飛び、地面に転がった。
「よし、今だ!」
 俺がモンスターボールを投げるが、メェークルを守るかのようにゴーゴート達が立ちふさがる。子供を守ろうとしているのだ。投げたボールはメェークルではなくゴーゴートに当たり、一旦はボールの中に入ったものの、暴れられてボールの中から飛び出し、捕獲に失敗。そしてアノホラグサはゴーゴート達に囲まれた。
「く……戻れ、アノホラグサ!」
 さすがに多勢に無勢、逃げざるを得なかった。二回の攻撃を食らったメェークルはよろよろと立ち上がり、太陽の光を受けて傷を癒しながらその場を離れていく。うーん、単独ならば親のいないところでゲットすることもできるだろうけれど、さすがに群れだと手を出しづらい。
「……仕方ない。絵に戻るか」
 結局、その日は同じようにもう一度群れに遭遇したのだが、やはり大人の個体に守られてしまい、ゲットを阻まれてしまう。孤立した個体でもなければ、何の考えも無しに突撃して捕まえるのは困難そうだ。かといって、メェークル達は臆病なポケモン。一匹で行動していることはほとんどない。
 ふーむ……何か別の方法を考えるべきだろうかと考えながら、その日はテントを張って野営をすることにした。
「と、いうわけなんですよ、ハッサク先生。絵を書き終えて、ゴーゴートの群れに何回か突撃してみたんですけれど、メェークルを捕まえるのも難しくって……」
 初めての課外授業、ライドポケモンの一匹くらいいたほうがいいのに、ゲットするのが難しくて、このままじゃ何日も時間を無駄にしてしまいそうだ。ハッサク先生は、美術の教師であるとともに、ドラゴンタイプのポケモンを使役する四天王の一人だ。ポケモントレーナーとしては一流の人なので、こういう悩みなら当然聞きなれているはず。
『なるほど。そういう時はジムに挑戦するなどして自分の格を上げるのがいいですよ。ポケモンは人間のオーラに敏感です。ジムバッジを沢山持っているような人間は自信や自己肯定感が強まり、それがオーラとなってポケモンには違って見えるそうなのです。『この人間にならばついていっても大丈夫だ……』と、そう思わせればポケモンもゲットしやすくなりますし、場合によっては新しいボールの購入も許可されます」
「なるほど……でも、ジムですか」
『カボス君のポケモンはアノホラグサでしたね? レベルも高かったはずなので、きちんと相手を選べばバッジ三つくらいは狙えると思いますです。それに、メェークルの生息域は広く、乾燥地帯でこそあまり見られませんが、草が生えている場所なら大体姿が見られます。これからも歩いていればまた捕まえるチャンスも訪れるでしょう。ゆっくり、ボウルタウンに向かいながらゲットのチャンスを伺えば大丈夫では?』
 何度もゲットを失敗していた俺は自信を喪失していたが、ハッサク先生に励まされて少し元気が出た。
「ありがとうございます。もっと頑張って見ようと思います……ところで、小さい画面で恐縮ですが、この旅を始めて、絵を描いてみたんです。泊めてもらった家族の似顔絵と、風景画。後でメールを送りますので、見てくださいね」
『おお、それはそれは……是非とも見せてください。早速頑張っているようで、小生はとても嬉しいですよ』
 用件を伝え終わってから、俺は通話を終えた。そうか、ジムバッジ。その手があったか。幸い、俺のポケモンは幼いころから一緒だったおかげで、この辺のポケモンに一対一で負けることはまずありえない。一つや二つなら狙えるというのも、そう間違いではないだろう。

 翌日、俺は小さな町へとたどり着けたので、今日の道程はここまでにしようと宿を探していた。そんなときであった……
「あのー、ちょっとお兄さん、いいですか? 今、お時間ありますか?」
 美女が俺に話しかけてきたのである。
「ん……なんすか? お姉さまのためなら俺、いくらでも時間を作りますけれど!」
 こんな美女が俺に話しかけてくれるだなんて……俺にオレンジアカデミーの美術部所属オーラでも出ていたのだろうか? 人間にもきっとオーラが見えるのかもしれない。
「実は、アンケートをお願いしたくって……」
 なんだ。さすがに逆ナンではなかったか。で、でも……こうやって美女と話せるチャンスを無駄にするわけにはいかない。
「アノー……」
 アノホラグサがボールから出てきて何かを言いたそうにしているけれど、とりあえず無視だ無視!
「アク! アク!」
「はいはい、アノホラグサ……とりあえずボールに入っていてね」
 せっかく美人に話しかけられたっていうのに、邪魔なんてされてたまるか! そもそもこんな美女を、大して話してもいないのに悪人扱いしちゃいかんだろ!
「まず、質問したいことはですね……」
 俺と美女は近くにあるお店の中へと移動すると、色んな事を聞かれたが……なんでも、俺が案内されたお店は美術品を扱っているお店のようだ。真っ白で小奇麗な壁と大理石の床。大きな壺や造花で彩られた室内は、こざっぱりとして落ち着いた雰囲気だ。しかし、雰囲気は良いものの、出された紅茶の味は大したことがない。もっといい茶葉を使えばいいのに。
 飾られている絵も素人よりは幾分か上手いとはいえ、大したものではない。俺も他人のことをとやかく言えるほどの腕ではないのだけれど……そんなことを考えながら答えていたアンケートは、日常は充実しているのか? とか、日々の生活に彩りは感じているか? とか、ブランド物に興味はあるのか? とか……
「へー……オレンジアカデミーで美術を学んでいるんですね! すごいですねー」
「あぁ、そうでしょ? 俺に教えてくれる先生はすごい人でしてね……俺が目標とする人なんですよ」
「すごいですね! そんな人におすすめの商品があるんですけれど……当店で販売されている商品はですね……センスのいいナウなヤングにバカウケな、映える芸術品でして……これから流行ること間違いなし! 持っていればみんなに自慢できますよ!」
 あ、これ知っている。デート商法って奴だ。けれど、美術をかじっている自分としては、飾られている絵は……聞いたこともない作者の作品だが、何と言うか構図も色使いもいまいちだ。繊細さも足りないし、かといって大胆な構図に個性が出ているかと言えばそうでもない……言葉にはしづらいが、とても無難で個性のない、素人に毛が生えた程度のつまらない絵だ。色使いも単調でつまらないし、いかにも見たまま描いただけの、量産品だ。それに、紅茶の味もいまいちだし……あまりこう、センスがいいというのは誇大広告にもほどがある俺は思う。
「芸術品って、自慢するためにあるものじゃあないんです。芸術品は気付きを得るためのもの。日常をちょっと楽しくするためのものなんです。見ていてピンとこない芸術品に、価値はありません……まぁ、私がピンとこないだけで、他の人にピンと来るならありですけれど……」
 くそう、女性に話しかけられて舞い上がっていた自分が情けないし、少し前の自分の頭をひっぱたきたい気分だ。
「まぁまぁ、そう言わずに。ここまで来たんですから、何か一つ買って行かないと損ですよ! それに、うちではローンも受け付けていますし」
 あぁ、これは穏便に断ろうとするとダメな奴だ。
「出てこい! アノホラグサ!」
 俺はアノホラグサをボールから出す。
「アク! アク!」
 アノホラグサは美女を睨みつけると、そう言って威嚇する。うぅ、今思えばお前の言うとおりだったよ。
「すみません! 俺のポケモンが腹を減らしてるみたいで! このままだと人間を食べちゃうんで、失礼しますね!」
 ゴーストタイプのポケモンだし、こういうことを言っておけば適当に信じてくれるだろう。実際こいつ、人間くらいなら飲み込める大き目なXXLの個体だし。美女もポケモンは持っていたかもしれないが、さすがに街中で一方的にバトルを仕掛ける愚を侵すようなことはしたくないのか、足早に去ろうとする俺を追うことは出来ないようだ。まぁ、俺のポケモンでは強い相手が来たら勝てないのだけれど、怪しい光で時間を稼ぐくらいならできる。お姉さんが俺に手を出さないのは懸命だ。
 建物を出たら俺は一目散に走りだし、安全なところまで逃げる。むかついたので、今の出来事は課外授業のレポートに書いておこう。ボロクソに書いておこう。


 さらにもう一日、たくさん歩きとおした俺はようやくボウルタウンへとたどり着く。この街には芸術家であり、草タイプのジムリーダーでもあるコルサさんが住む街……俺の旅の第一の目的地だ。ハッサク先生に言われた通りジムチャレンジも受けるし、せっかくなので町中を回ってコルサさんが作った芸術品を見て回りたい。もちろん、ジムリーダーとお話しするのも楽しみだ。
 ただ、このジムのジムチャレンジの性質を考えると、今日は休んだほうがいいのかもしれない。暗くなるまで街を回り、明日にジムチャレンジをしてみよう。

 この町の特徴といえば、まず第一に街のいたるところに設置されたコルサさんの作品、『投げやりのキマワリ』だ。全てをあきらめたようなやる気のない顔のキマワリの立体作品で、何とも言えない残念な顔をしたキマワリは、可愛いし面白いと評判の作品だ。街並み自体も芸術的だし、美術館や小さなギャラリーなんかもこの町の名物。
 風光明媚な街なので、どこを歩いても絵になるのだ。創作意欲が沸き上がってくるが、今から絵を描くと、絶対に書き終わらないので、今日は自重しよう。どうせ、明日はもっと書きたい絵が出来ることは確実なのだから。
 その日はカプセルホテルに泊まり、溜まっていた洗濯物を全てコインランドリーにぶち込んで綺麗にして、明日のジム戦に備えることにする。そうして翌日、天気は快晴……ジム戦が始まる前にジムテストを受けなければならないのだが……その内容は、キマワリ集めである。
 このボウルタウンはキマワリとの関係が深く、そんなキマワリを10匹集めてジムの前に連れてくるのがこのジムに挑戦する条件なのだ。課外授業をするにあたり、ジムチャレンジをする予定はなかったので、キマワリ集めはスルーするつもりだったが、せっかくジムチャレンジに挑むことになったのだ。キマワリを集めて、それを絵にしたい。
 街の各地に散らばったキマワリを集め、迷路となった庭園や路地裏など、様々な場所にいるキマワリに話しかけ、ついて来てもらう。そして、10匹のキマワリを集めたところで、日当たりの良いゴール地点となった広場へと赴き、彼、彼女らがリラックスしながら光合成している光景をスケッチする。
 みんな笑顔で太陽の方向を見つめている……とてもかわいい。ついでにアノホラグサも光合成をしている。そうか、キマワリは日向ぼっこは好きでも、さすがに眩しいのだろう。だから目を瞑っているのか開いているのかもわからないほどに糸目なのだ。でも、そのおかげでいつも笑顔でニコニコしているように見えてとてもかわいらしい。ジムチャレンジが終わって、キマワリたちが広場に集まった。
 スタッフはこのままジムリーダーの試合をしてもいいというが、そんなことよりもこの光景を絵にしたい気持ちが勝ってしまった。早速キマワリの絵を描き始めるが、しかし……太陽の位置は刻々と変わっていく。それに合わせてキマワリの向きも、影の位置も変わる。もはや最初の景色など面影もないが、それでいい……完璧なデッサンを描くだけなら写真で十分だ。いい機会だ、一つの絵に朝と昼と夕方、全部を描いてみるなんてのも面白いかもしれない。今までチャレンジしたことのない表現だ、下手と罵られるかもしれないが、それもまた経験。課外授業といういい機会なので、なんでも挑戦してみよう。
「クラ! クラ!」
 そして、結局夜までかかってもまだ終わらない。すっかり暗くなってしまったと、アノホラグサも呆れている。
「ほほう、ジムテストが終わっても、挑戦せずにずっと絵を描いている困ったチャレンジャーがいたというが、なかなか面白いことをしているな」
 夜になっても絵を描いている俺に、後ろから話しかけてくる声。ロズレイドの鞭のような、棘の生えた草を思わせる髪型。そしてロズレイドを思わせるような棘の鞭を腰に携え、(この地方にはロズレイドはいないし、当然この人の手持ちでもないのに)ゴーストタイプのジムリーダーのほうが似合うんじゃないかという眼付きの悪さと目のクマ。
 この人は、ボウルタウンの草タイプのジムリーダー、コルサさんだ。
「あ、えっと……色々と迷惑をかけてすみません! ジムテストしてたら、創作意欲が止まらなくて!」
「構わん! 貴様の絵、面白いぞ! 一枚の絵に朝から夜まで詰め込む等、正気の沙汰じゃない! 地面にあえて影を落とさず、キマワリの向きだけで日差しの方向を表現し、最後のほうに描いたであろうキマワリは、日が当たらなくなってすっかり元気を失って項垂れている。元気なキマワリも、夜になって動かなくなったキマワリも一つの画面に入っているなど、珍しい表現だ」
 見たことない表現だ、とは言わないあたり、そういう作品も見てきたのだろう。しかし、プロの芸術家がここまで褒めてくれるとはモチベーションが上がる……さすがにもう帰ろうかと思ったけれど、このまま描き上げてしまおう。
「この絵だけでジムバッジをくれてやりたい気分だが、勝った相手にしかバッジはやれない規則でな! 明日、絵が完成したらバトルをしにくるといい。その後、絵を見ながらじっくり語り合おうじゃないか!」
 コルサさんにこう言われては、頑張らないわけにはいかない。
「わかりました! 絵も、ジムチャレンジも頑張ります」
 ここまで褒められて、ジムチャレンジに失敗したら笑いものだ。腹も減ってしまって仕方がないが、この状態で腹に飯が入ったら一気に眠くなってしまいそうなので、そのまま描き上げる。最後に、すっかり待ちくたびれているアノホラグサを描き加えて……完成だ。

 翌日。心配したジムチャレンジだったが、アノホラグサのレベルが高いので一匹で何とかなってしまった……同じ草タイプ同士なので、もう一つのタイプであるゴーストタイプの技でごり押ししてやると、驚くほどあっさりと。コルサさんはレベルを低めに抑えたジムリーダーだというし、こんなものなのかもしれない。
「ぬぅぅぅ! アバンギャルド!」
「あ、はい」
 ジムリーダーの職務として、到底本気とは呼べないメンバーを使って戦うため、思い通りに戦えない事が悔しいのだろう。コルサさんはとても悔しそうだ。いや、もしかしたら嬉しいのか、この人は感性が少し(かなり)独特なので、常人と同じ見方ではわからないところがある。ともあれ俺は、コルサさんからバッジを貰い、技マシンを貰った。すると、すぐさまコルサさんの人相が変わる。
「さぁ、貴様! 昨日描いていた絵を見せろ!」
「あ、はい」
 草タイプのジムリーダー、コルサさんはゴーストタイプのジムリーダーなんじゃないかと思うほど人相が悪いが、興奮した時はとてもうるさく、そして活発だ。
「キマワリの中に、君のアノホラグサも混ざっているな。これは異物だ……何を思って描いた?」
「そこにいたからです!」
「なるほど、いい答えだ。そこにいたとしても、絵ならいないことにして描かないこともできるし、君のポケモンならばボールにしまっておくこともできたはず。ありのままを描きたかったのか、ただ何となく描いたのか……この異物感が面白い!」
「ど、どうも……お褒めいただきありがとうございます」
「面白いからと言って売れるとは限らんがな! 金を払ってでも見たい、買いたいと思わせるにはそれだけじゃ不十分だ」
「あ、はい」
 やはりプロの芸術家。褒めるときは褒めるけれど、現実の厳しさは言葉以上に知っているのだろう。
「しかし、嬉しくも腹立たしいことに、貴様には小手先の技術も個性もある。その才能と個性を伸ばしさえすれば、あとは流行り廃りに乗れる技術。自分に都合のいい目利きに出会える運と人間力。それらを身につければ、芸術家として大成することも……まぁ、なくはないか」
 最後だけトーンダウンしないでほしい。
「何を隠そう、私の成功のきっかけとなった『投げやりのキマワリ』は、全てのことに絶望し諦めかけたときに作った作品だ。そんなになるまで成功しなかったともいえるし、そんなになったから成功したともいえる」
「強い思いが作品に宿ったから、それが評価されたんですかね?」
「そうかもしれない。何にせよ、自分で言うのもなんだが、まず作品というものは見てもらわないことには評価すらされない。見てもらうための個性が、それまでの私には足りなかったように。貴様には個性が芽生え、尖りつつある! だが、まだその程度では、尖り方はノクタス以下だ!」
 言いたいことは伝わるような気がしないでもないが基準がわからない……逆にノクタス以上の尖り方だとなんなんだろう? バチンウニか、それともキリキザンか。
「もっとお前だけの色を出せ! 尖れ! それこそが真のアヴァンギャルドになるための近道だ」
「そのためには、どうすればいいでしょうか?」
 俺が尋ねると、コルサさんはにやりと口元を緩めながらこう言った。
「貴様、先ほど師はハッサクだと言っていたではないか? ならば、もう教えられているはず。日常のふとした瞬間に見つけたものに美しさを見出すことだ。たとえ、他の者にはいつもと変わらない景色であっても……自分が変われば相対的に世界は変わる。青い空、道端に咲いた花、雪の結晶……私にとってはそれがキマワリであったように、貴様には貴様だけの美しいと思うものがあるはず。だから、貴様だけの美しさを見出せ!」
「具体的にはどうすれば……」
「わからんか? そうだな……例えば、世界中の人間が美女に見えるメガネがあれば、それは紛れもなく宝物だ。もちろんそんな都合の良いメガネはないが、芸術家の眼は世界中の人間を全て美女と思うことはできる。逆に、この世のすべてが醜く見えるのならばそれはそれで悪くない。何かをきっかけに、世界が美しく、もしくは醜く見える瞬間が訪れたのならば、その美しさを、醜さを、キャンバスに、石膏像に、粘土に、ディスプレイに、思うがままに表すのだ! それが、芸術というものだ。私は彫刻などの立体物がメインの活動だが……絵だろうと何だろうとそれは同じ。期待しているぞ、貴様!」
 何だか、説得力に溢れたコルサさんの言葉に、高揚感が俺の体に満ちたようだ。すぐにでも創作したいという意欲が湧き上がってくるのだが、あまり調子に乗りすぎてはいけない。描きたいものを描くにしても、例えば風景画を描こうとすれば、野生のポケモンが強い地域に赴かねばならない時もあるだろう。そんな時、持っているポケモンが貧弱では命がいくらあっても足りない。それに、移動するにも足は必要だ。
「ところでコルサさん。俺、ライドポケモンが欲しいのですが……旅のお供、護衛としての役割も持てる子が良くて。コルサさんはどんなポケモンがお勧めだと思いますかね?」
「ライドポケモン? なるほど、まだ見ぬ芸術を求めてパルデアを歩くなら、確かに足は欲しいところだ。それに、君のポケモンはアノホラグサ一匹……確かに、野生のポケモンが強い地域を歩くには心もとない。貴様、テーブルシティから来たのだろう? このまま北上してハッコウシティに向かうなら、ケンタロスを捕まえるといい。出来れば水タイプのやつがいいな。行く途中に嫌でも見るはずだ。格闘・水タイプだから、アノホラグサにはもってこいの相手だろう」
「なるほど、ケンタロス……」
「ケンタロスといえば、品種は違うがアローラ地方では高速移動用のライドポケモンとして有名だ。それに、実は波乗りもロッククライムもできる。そうそう、アローラ地方といえば、素晴らしい景色があってだな」
「あ、はい」
 あ、これ話が長くなる奴だ。そう思った俺の勘は間違っていなかった。熱々の紅茶がすっかり冷めてぬるくなってしまっても、彼の話は続く。そのどれもが興味深い話だったので長く聞かされることは苦にならなかったのだが……それはそれとして、ジムのポケモンがエサを欲しがったりなどして中断されるまで、彼の独壇場の世界が展開されてしまうのであった。
 ジムリーダー・コルサから解放されて、俺は空を見上げた。褒められはしたけれど、俺はまだまだ未熟だ。世界の人間が全員美女に見えるメガネを手に入れればいい、とコルサは言っていた。俺も、気分がいい日は世界が美しく見えるようなときはあった。
 例えばテーブルシティに初めて訪れ、アカデミーに入学した時はそれはもう世界が美しく見えたものだ。だけれど、その時の感動を絵に乗せることが出来るだろうか? 素敵なメガネを持っていなければ個性が産まれない。素敵なメガネがあっても、それを伝える腕がなければ意味がない。どっちもまだまだ未熟な俺は、この旅で成長……出来るといいなぁ。
 いいや、するんだ! パルデア中の景色を見て、その感動を絵に乗せる。それが出来れば、俺だってハッサク先生やコルサさんのように、立派な芸術家になれるはず! でも、そのための感動……旅は新鮮で面白い。ここに来るまでにいい景色もすでに何度も見た。だけれど、それを超えるような衝撃。感動に出会えるのかどうか? 目下の懸念材料はそこだけれど、結局そんなことは旅を続けることで、出会いの母数を増やすのが一番いい解決法だ。焦らず、しかし怠けずこの旅を続けて行こう。そのためにも、まずはライドポケモンだ。ケンタロス……確かライドポケモン用のショップにも、それ用の装備はあったはずだ。ハッコウシティに行く途中に捕まえてみよう。

 コルサさんと別れてから、さらにもう一日ボウルタウンを満喫したのち、俺はハッコウシティへと向けて旅に出る。曲がりくねり、起伏に富んだ道を行き、荒れ地を乗り越え、四日かけてハッコウシティの隣町まで。
「モトトカゲにケンタロス……ライドポケモン候補がたくさんいるなぁ」
 さすが、ライドポケモンとして人気のポケモンらしく、どちらも脚が速い。モトトカゲは性格が温和で人に慣れやすく、エサも少なくて済むが、力は弱く、寒さに弱い。ケンタロスは力が強く波乗りやロッククライムも行えるが、その代わり非常に気性が荒く乗りこなすのは困難だという。俺に扱えるかどうか……。
 ともあれ、ケンタロスを捕まえないことに話にならない。腹ごしらえにクレープ屋に寄り、チョコバナナクレープを食べて、いざケンタロスを捕獲に。パルデアのケンタロスは真っ黒い体毛が特徴で、ノーマルタイプではなく格闘タイプ。そして、他の地方にはない特色として、ごくまれに炎タイプや水タイプを併せ持つケンタロスが生息しているのだ。
 チョコバナナクレープを食べれば水タイプのケンタロスに会いやすいという都市伝説を、半信半疑のままアノホラグサとともに歩いてみるも、水タイプのケンタロスが見つかるまでには1時間ほどかかってしまう。穏やかな草原とはいえ、中々の距離を歩いたためにすっかり疲れてしまったが……ようやくお目当てのポケモンを見つけたのだ。
「アノホラグサ……あいつが標的だ。行けるか?」
「アァ!」
 俺の問いかけにアノホラグサは威勢よく応え、水タイプのケンタロスの前に転がり出る。水タイプのケンタロスは、尻尾の先端がスクリューのように三つ、120度間隔で放射状に並んでいて、角の形状もお団子真珠を思わせる段々形状だ。アノホラグサは風を受けたまま転がり、勢いを増しながら全力で体当たり。体勢を崩したケンタロスにパワーウィップを放ち、弱らせる。ここまでは不意打ちで何とかなったが、ケンタロス達は仲間が攻撃されて怒り狂っている。アノホラグサをねらい、頭を下げて角で突き刺さんと襲い掛かった。
 しかし、アノホラグサはこの辺には生息しないポケモン。ゴーストタイプであることを奴らは知らないのだろう。ケンタロスの必殺技、レイジングブルを喰らうも、跳ね飛ばされるばかりでダメージは全くない。その弾かれた勢いを転がりながら攻撃力に転嫁する。自身の陰に潜んでから、標的のケンタロスの足元から突撃する。ケンタロスは完全に体制を崩し、草原に転がった。
「今だ!」
 俺は走り出し、走って近づきながらモンスターボールを投げる。外すことは承知の上。近づきながら、当たるまで投げれば当たる! 周りのケンタロスに突進が当たらないことだけは気を付けて投げていくと、四個目のモンスターボールがようやくケンタロスに当たり、ボールの中に収納される。そのままきちんと捕獲されるか心配だったが、モンスターボールは三回の揺れを経て、振動しなくなった。どうやら捕獲は成功したらしい。ジムバッジの力ってすげー!
「よし、アノホラグサ! ボールを回収してくれ!」
 しかし、仲間を奪われた他のケンタロスが殺気立っている。すでに敵視されているこの状況で、ケンタロスの群れに潜り込むのはとてもじゃないが出来ることじゃない。アノホラグサはケンタロスが収納されたボールを拾い上げると、それを自身の体の中に包んで高速で転がっていく。俺は怒り狂ったケンタロスの群れから逃げるべく、ピッピ人形を投げつけ、全力で逃げる。
 アノホラグサも全力で逃げる。しばらく逃げ回っていたら、ピッピ人形に夢中になっていたのか、姿も見えずに追ってこなくなった。
「……っはーーー!」
 今までにないくらい全速力で長距離を走ったので、疲れた俺は思いっきりため息をついてその場に座り込む。酷くくたびれてしまったが、大きな収穫だ。手の中には水タイプのケンタロスが捕獲されたモンスターボール。
 この子をまずは最寄りのポケモンセンターに連れて行って、それが終わったらハッコウシティでライドポケモン用の装備を購入して、ケンタロスに騎乗する練習をしよう。逞しく元気いっぱいなケンタロスだ、手なずけるのはかなりの労力を要するだろうけれど、そのために使う時間はきっと後々の旅を楽にするはずだ。
「ア……ホラ! ホラ!」
 そんな皮算用をしていると、俺の隣で休んでいたアノホラグサが大声で警戒を促す。何が起こったのかと、起きあがろうとしたときにはもう遅かった。カエンジシだ……二匹の雌。襲い掛かってくる。
 一匹はアノホラグサが転がって体当たりして事なきを得たが、もう一匹に押さえつけられ、脚を噛み付かれた。すぐさまスマホロトムを取り出し、カエンジシの顔に投げつける。
「ロトム、ハイパーボイス!」
 大音量のハイパーボイスを耳元で鳴らされ、カエンジシは怯んで足を放す。アノホラグサはゴーストタイプだから当たらないし、俺は耳を塞げばダメージはない。一旦は何とかなったがこのままじゃまずい。救助を呼んでも、今からじゃ間に合わない……正義のヒーローは……近くにはいないだろうな。ピッピ人形もさっき使ってしまった……
 そうだ、とひらめき、とっさに対ポケモン用の催涙スプレーを振りかける。ロトムのハイパーボイスを喰らった個体とこちらの様子を伺っていた個体は悲鳴を上げて苦しみ、目と鼻と喉の焼けるような痛みにのたうち回っている。この催涙スプレーはスコヴィランの体液に油を混ぜ、水で洗っても簡単には落ちない代物だ。あいつはもう実質戦闘不能だろうけれど、周りに潜んでいたカエンジシも含め、まだ三匹健在だ。スマホロトムも、催涙スプレーもネタがバレている。どうする……? ケンタロスはまだ弱っている事を考えると、アノホラグサだけでこの状況を乗り越えるしかない。
「ホラ! ホラ!」
 アノホラグサに指示することも忘れ、絶望的な状況に打ちひしがれていると、周囲を威嚇していたアノホラグサが俺のことを飲み込んだ。アノホラグサは風に乗って転がっていくポケモンだが、捕食する際は球状に張り巡らされた枝の上部を開き、小さなポケモンを中に閉じ込める。そのままギガドレインや力を吸い取るによってミイラのようにしてしまうのだ。つまり、俺はいま捕食されているような状況だけれど……逆に言えば、今の状態ならアノホラグサに守られているともいえる。
 俺の体はアノホラグサに抱かれたままぐるりと傾き、そのまま転がっていく。天地が何度もひっくり返り、地面の凹凸に合わせて体が揺れ、興奮状態が収まるにつれて足の痛みは増すばかり。そのまま彼女の体の中に租借されたチョコバナナクレープを吐き出し、胃酸交じりの不快な匂いとともに俺達はどこまでも転がっていく……
「クッサ……」
 アノホラグサに文句を言われながら、転がり続けた俺達はそのまま川へと落っこちた。脚の傷がいよいよ痛くて泣きそうだ。牙が深く抉りこまれ、そのうえ炎の力で火傷している。血管が焼け付いたおかげか、出血が穏やかなのは幸いだが、今は立つことすら出来そうにない。
 それに、川に落ちたせいで体温も下がりそうだ。助けを呼ばなきゃ……
「ヘイ! ロトム……SOS! 救難信号を出してくれ」
 今ならばなんとか即死は免れそうだが、それでも相当にきつい状況だ。近くに空を飛ぶタクシーがいてくれればいいのだが……。痛みと体温の低下に震えていると、軽快にかける大きな足音が耳につく。
「おい、大丈夫かお前!」
 ブレイズキックみたいなブーツ。赤とオレンジで彩られた、グレンアルマの炎のような髪型。そばかすが目につく顔のその女性は、いかにも炎タイプのポケモンを使いますという風貌で、ウインディに乗ってやってきた。どうやら、救難信号を受けて助けに来てくれた……つまり、救助を呼ぶ必要があるような荒事があっても対処できる、それだけ有能なトレーナーということになる。
「ひでぇなおい。こりゃカエンジシの仕業か。ほら、チーゴの実とオレンの実だ」
 ぐったりして挨拶する気力もない俺を見て、その女性はウインディから降りると何も聞かずに俺の傷を見て必要なものを渡してくれる。傷口を見て、即座にカエンジシの仕業だとわかるあたり、ただものじゃない。
「って言うか、寒くねーのかおい?」
「……寒いです」
「ハッ! だろうな。おい、温めてやれ!」
 ずぶ濡れの俺のことを心配したのかその女性はウインディにそう言って俺の傍に寄り添ってくれた。ウインディの巨大な体が俺の濡れた体から水分を奪ってくれて、そのうえ体温を上げてくれたおかげで体の震えも多少は収まる。ロトムスマホを見てみると、救難信号を受けた空を飛ぶタクシーがこちらに向かっているらしい。ありがたい。
「もうじきタクシーも来る。それまで我慢してな。まだカエンジシが追いかけてくるかもしれねーし、それまでは一緒にいてやる」
「あ、はい……ところで、お名前は……後でお礼を……」
「構えわねえよ。お礼を貰うために人助けしてるわけじゃねえ。こんなところで人に死なれたら困るんだよ。」
 そう言って、女性はムスッとして黙ってしまった。
「アノー……」
 オレンのみとチーゴの実を食べつつ、縮こまりながら待っていると、アノホラグサが俺に体を寄せる。心配してくれるのだろうと思っていたが、なんと痛み分けを使って俺の傷を背負ってくれているようだ。足に刻まれた噛み傷の大分痛みがましになり、涙が出そうな痛みも和らげることが出来た。俺もポケモンみたいな回復力があればなぁ……
「へぇ、あんたのポケモン、懐いているじゃねえか。癒しの波導とか命の雫が使えないからって、痛み分けで自主的に主人の傷を癒すだなんて。中々できることじゃあないぜ? 大事にしてやれよ」
「あ、はい……大事に……大事にします」
 そういえば、アノホラグサは濡れるのが大嫌いなんだ。それなのに、必死で逃げて川にまで落ちたのに俺のことを気遣ってくれるだなんて、確かに簡単にできることじゃあない。本当に、感謝しなきゃだな。
 結局、その女性は俺を褒めた後もほとんど喋ることがなかった。そういえばここら辺は、オレンジアカデミーの不良生徒、スター団のたまり場が近いはずだが、こんなところでこの女性は何をしているんだろうか? 痛みが和らいできたおかげか、そんな余計なことを考える余裕が出来たが、そうこうしているうちに空が騒々しくなってきた。空を飛ぶタクシーがイキリンコを連れて救助に来ていたらしく、女性が手を振って誘導すると、タクシーは河原に車体を降ろしてすぐに俺を担ぎこんでくれた。
「そんじゃな。せいぜい課外授業の最中に死ぬなよ」
 名乗ってもいないのに(制服でわかるとはいえ)オレンジアカデミーの学生だと知っていたらしい女性は、そう言ってウインディに乗り込み、去っていく。隠し撮りはまずいとわかっていたが、それでもその後ろ姿を写真に撮らすにはいられなかった。
 そこから先は大変だった。空を飛ぶタクシーに最寄りの小さな町の病院に連れていかれ、消毒の後、抗生物質やらなんやらをぶち込まれ、傷を縫われ、オレンジアカデミーや親にも連絡が行って、酷く心配されたものだ。命に別状はないので、数日もすれば歩けるようになるとのことだったが、走れるようになるのはさらに後とのこと。全くひどい目に合ったものだ。野外で休むときにはもう少し周囲に気を配らなければならない、と反省するばかりだ。
 そうしてカエンジシに襲われた翌日、俺は車いすを借りて外に出て、アノホラグサに光合成をさせてあげた。ケンタロスも外に出したが、まだ俺に対して懐く様子は見せてくれない。まぁ、これは仕方がないことだ。不機嫌そうにその辺の草を食べているが、人間が育てた美味しい野菜を食べさせたら懐いてくれるだろうか?
 そして、暇なので俺は絵を描いた。まずは光合成をするためにじっとしているアノホラグサ。彼女を描いていて思い出すのは昨日の一連の出来事だ。本来は捕食に使う体の内部を、俺と一緒に逃げるために使い、その後は弱った俺に痛み分けを使って傷を癒してくれた。
 ハピナスやイエッサンなどと違って癒しの波導を覚えないため、痛み分けを使用したのは苦渋の判断だとは思うのだけれど、本当にありがたいことだ。そんな昨日の出来事を思い出していると、ついつい筆に力が入ってしまって、気づけば尻や腰が痛くなるくらいに夢中で描いてしまっていた。
「なんか……随分可愛く描いちゃったな」
 完成したアノホラグサの絵を見て俺は呟く。コルサさんの言っていた、世界が美しく見える瞬間を、早くも見つけてしまったのかもしれない。ケンタロスはふて寝をしているので、起きないうちに彼のこともスケッチを終えていた。

 そしてその夜のこと。ロトムスマホに連絡が来る。一体誰からかと思ったら、美術の教師であるハッサク先生からであった。そう言えばオレンジアカデミーには連絡していなかったけれど、恩師には連絡していなかった。苦笑しながらビデオ通話を始めると、いきなり興奮して取り乱すハッサク先生の声。この人はそういう人だ、興奮すると我を忘れる。俺が怪我をしたと聞いて、物凄い心配をしながら電話をしてきたのだろう。
 そんな先生を宥め、命に別状はないことと、すぐに歩けるようになることは説明しておくと、ようやく落ち着いてくれた。
「今は、安静にしてるように言われたので、脚をなるべく使わないようにしています。今の車椅子ってすごいんですね。スマホロトムを接続すれば車椅子も動くんですよ。しかも、浮遊すれば階段だって登れる。こんな形のライドポケモンもいるんですね。
 あ、そうだ。ケンタロス捕まえたんですよ。俺のライドポケモンにしようかと思って……今日は移動もできないから、暇なんで絵も描いていてですね。いろいろ言いたいことあるんですけれど、纏まらないので後でレポート書いて送りますけれど……えっと、とりあえず今日完成させた絵です」
 昨日から今日の間に色々ありすぎて、語りたいことがまとまらずに俺は饒舌になってしまう。ハッサク先生はそれを黙って聞いてくれて、俺が絵を見せると満足そうに笑っていた。
「小生、カボス君の怪我を喜ぶ意図はありませんが、良い経験をしたようですね。」
「……わかります? ハッサク先生」
「えぇ。人の眼というのは面白いもので、同じものを見ても精神状態によって違うものに見えるものなのです。このアノホラグサというポケモンは、ゴーストタイプで、小さなポケモンを捕食する生態を持つポケモン。それだけに、怖い雰囲気で描かれることも多く、今まであなたが描いた絵にもそんな気持ちが感じられました。
 けれど、今見せてもらったあなたの絵の中で、アノホラグサはとても温かみに満ちた顔をしていらっしゃる。あなたには、あなたのアノホラグサがそういう風に見えたのですね?」
「えぇ、まぁ。彼女に命を救われたものでして」
 絵が褒められた嬉しさで、はにかみながら俺は答える。
「なるほど、それで。詳しく聞きたいところですが、生憎ですが小生は仕事が山積みで……レポート、後で読ませてもらいます。楽しみにしておりますですよ」
 ハッサク先生との通話を切り、俺は一息つく。さて、怪我が治るまでは暇だから……あとはそう、名前も知らないけれど、あのウインディに乗った女性の絵でも描いてみよう。彼女は名前も告げずに去ってしまったから、残っているのはスマホに映った後ろ姿だけだけれど、絵画には顔を描かないといけない決まりはない。明日にでもハッサク先生に提出するレポートに添えておこう。

 そうして、数日たって俺は抜糸して、怪我を完治させた。抗生物質のおかげか感染症にかかることもなく、穏やかに過ごした。暇なので、絵を描いて……さすがに見つめすぎて疲れるのでゲームをやったり、ポケモンと一緒に美味しいものを食べたりして、ケンタロスと少しでも打ち解けようと頑張った……が、ケンタロスはまだまだ懐いてくれそうにない。やはりトレーナーとしての格が問題か。
 絵のほうは、この町はいい景色と思えるような場所も少ないので、一通りの多い場所で色んな人を観察して、気になったものを写真にし、それを絵に落とし込むことをしていた。アノホラグサに命を助けられてからというもの……ハッサク先生に指摘された通り、俺は良い経験をしたようで、描きたいものが変わった気がする。せっかく旅に出るのだから、パルデア十景を全て制覇しようとか考えていたし、今もその気持ちは変わっていない。けれど、それとは別に……この、テーブルシティどころか、どんな街でも描けそうな、シンプルな雑踏。そこを歩く人とポケモン。そんな毎日嫌でも目に入ってくるような退屈なものを描きたいと思える。退屈なものに自然に足が向いてしまったのは、今までの自分にはなかったことだ。
 もちろん、それは自由に歩ける状況じゃないということも関係しているのは確かだが。モトトカゲやゴーゴート、バンバドロなど、人や物を運ぶのに適したポケモン。ただのペットとして普通に散歩しているだけのイワンコやパピモッチ。それらが通り過ぎるのを見ていて、『いいなぁ』と思えるのだ。これが一過性のものなのか、それとも飽きることなく続くのかはわからないけれど、この気分が続くうちに、描けるだけ描いておこう。数日たって、気付けば絵が4枚完成していた。俺のバッグは無限に物が入るタイプ((ヒスイ地方のシュウゾウの研究成果))でよかった。
「アノー……」
 完成した絵を前にほくそ笑んでいると、アノホラグサが甘えて体を摺り寄せてくる。
「今日から旅を再会するぞ。まだケンタロスには乗れないし、一緒に頑張って歩こうな」
 ライドポケモン用の騎乗具は小さな町では売っていなかったが、ハッコウシティに行けば俺のケンタロスに合うものも売っているだろう。それまでの間に、少しでも懐いてくれるといいのだけれど……

 と、思っていたがケンタロスは懐かなかった。近づくだけで唸り声をあげるし、触ろうとしたら尻尾をビシバシと鳴らして威嚇してくる。こんな状態じゃまともに乗るどころか、騎乗具を着用することすら難しい。俺、そんなにダメなトレーナーかなぁ……? 元々気性の荒いポケモンだとは言うけれど、こんなケンタロスを自在に乗りこなすトレーナーもいるというのだから、恐ろしい限りである。
 ハッコウシティは大都会だ。夜になっても街頭やビルの明かりが消えることのない、眠らない街。人の目の届かない裏通りはともかく、表通りは警察も24時間警備で治安もいい。その夜景は遠くから見た際の景色が100万ボルトの絶景とも言われ、是非とも絵にしてみたい光景である……夜の高い山に登るととても寒そうだから、炎タイプのポケモンが欲しいが。
 そしてこの街には、電気タイプのジムリーダー、ナンジャモ様がいる。ポケモンに自身の実力を認めさせるには、ジムバッジを貰うことが一番だ。ケンタロスには俺の戦いをボールの中から見てもらうことで俺の力を認めてもらう! アノホラグサはバトルのために育てていたわけではないものの、子供のころから一緒だっただけに、レベルはそれなりに高い。この街のジムくらいなら突破できるはずだ。

 この街のジムテストは、ナンジャモ様の配信にゲストとして呼ばれ、そこでナンジャモ様のファンから好評を得られることが条件だ。同じことをとやってもつまらないからと、毎回違うゲームをやらされるので、テストになるまで何をやらされるかはわからない。ナンジャモ様の動画は何度も見たことがあるし、俺もファンだけれど……俺は動画配信なんてしたことないぞ、俺にできるのか?
 そんな心配をしながら、俺はジムの受付にジムテストの申請をする。スタッフに陸上用のライドポケモンを持っていますかと聞かれ、俺は『はい』と答えた。すると、ハッコウシティの北口で撮影を行うと案内され……
「挑戦者氏~~! ボクに会うためハッコウジムに来てくれてアリガトー!」
「あ、ど、どうも……よろしくお願いします」
 と、いうわけでハッコウジムのジムリーダーナンジャモ様に会いに来てしまった……はわわ。生ナンジャモ様だ。麗しい……緊張して口が、上手く回らない。
「すっっっごくうれしいんだけど、ボクってちょろっと有名人だから、とーっても忙しいんだ~! だから、バズりが見込める……じゃなくて、熱意のある相手としか、コラボできないんだよ。トホホ……」
「そ、それはた、大変ですね……はい」
「アラアラ……」
 アノホラグサが、憧れのナンジャモ様を前にして緊張する俺の様子を見て呆れてる。茶化すな、お前!
「ってなわけで、ボクとバトりたかったら、この番組を、盛り上げてネって話!」
「が、ガッテン承……じゃなくて、頑張ります!」
「おー! やる気マンマンじゃん! んじゃ、企画の説明始めちゃうよ! 確か君は、ライドポケモンを持っているって受付の職員さんから聞いたから……題して! ポケモンと一緒に灯台往復レース! はっじまっるよー!」
「え……?」
「ルールは簡単! この街の北口から、東の岬にある灯台の後ろを回り、この街のこの場所に先に帰ってきたほうが勝ち! 妨害は、攻撃技はNGだけれど、補助技ならOK! 挑発されても打てる技はNGってことだよ! と、言っても……まぁ、ボクのライドポケモンは速さ重視じゃないし、ハンデもつけて、前半は妨害をしないから安心してね! いざ、出てこい! レントラー!」
 ナンジャモ様がライドポケモンとして繰り出したポケモンは……レントラー。鼻は犬系のポケモンほど良くないが、地面や壁の向こうにあるものすら見通すとされるその眼は、このパルデア地方ではハカドックとともにサーチ系のポケモンとして有名だ。なんでも、リングマの進化系? もサーチ系のライドポケモンに使用できるそうだが、まだ見たことはない。
 って言うか……ライドポケモンを持っているかと聞かれて、俺は確かにハイと答えてしまったが……持ってはいる。持ってはいるが、まだまともに触れられてすらいない。今日ようやく、サンドウィッチを手渡しで食べてもらったところだ。
 いや、この勝負で失敗すればナンジャモ様ともう一回お話しできるという点ではむしろ失敗したいくらいだけれど、それはそれで視聴者も白けるし、物凄く恥ずかしい。ナンジャモのジムテストは毎回違うことをやるということで有名だけれど、こう来たかぁ……いや、そもそもライドポケモンがいる、というのを『きちんということを聞くライドポケモンがいる』という風に解釈せずに、文字通りにライドポケモンがいるかどうかで答えてしまったことが原因なんだけれど……えぇい、ままよ。
「さぁーて、挑戦者氏、カボスのライドポケモンはどんなもんじゃ!?」
「出てこい! アノホラグサ!」
「え……それ、ライドポケモン?」
 思わずナンジャモ様の素が出ることをやってしまった。
「なぁ、アノホラグサ……ポケモンに乗って戦うことになったのは聞いていたよな? それでさ、今まだケンタロスが背中に乗ることを許してくれる状況じゃないんだよ……だからお前に乗って……レースをしたいんだけれど……な?」
「ア?」
「いや、ごめん。ごめんって……」
「ホァック!」
「いや、ごめんって!」
 いま、アノホラグサにファックと言われながら中指を立てられたような気がする……しかし、こいつを出したはいいが、下りはともかく登りは大丈夫なのだろうか?
「アー……ホラ」
 アノホラグサは呆れた様子だったが、覚悟を決めて俺を乗せる準備が出来たらしい。上部の口を開いたので、俺はそこに身を縮こめて入り込む。
「いけます……ナンジャモ様」
 窮屈なアノホラグサの口の中に抱かれた状態で、俺はナンジャモ様を見上げて準備完了の旨を伝えた
「いやー、挑戦者氏! アノホラグサをライドポケモンにするだなんて、ボク始めて見たよー! これはバズりそうな予感がするなぁ! さぁ、みなのもの! 勝敗予測をするのじゃー!」
 ナンジャモ様も少し動揺して、配信に流れるコメントもなんだか困惑気味だ。それでも盛り上げようと無理しているナンジャモ様を見て、なんだか申し訳ないことをした気分だ。ちなみに、コメントを見てみると『お前ごときがナンジャモ様に勝てると思っているのか?』という書き込みが溢れている。俺も同じコメントをしたことがあるからわかるけれど、こういう一体感はとてもいいよね。
「それじゃあ早速、始めっちゃってもアーユーオーケー?」
「い、イエース!」
「それじゃあ、灯台へ向かってワイルドボルトだ―!」
 その掛け声とともにナンジャモ様はレントラーとともに走り出した。対して、アノホラグサはというと……呪った。自身の体力を犠牲にして、徐々にレントラーの体力を蝕んでいく、ゴーストタイプの必殺技。いや、これならナンジャモ様に危険が及ばないけれど、そんなのあり!? っていうか、俺命令していないんだけれど……
 途端にレントラーが苦しみ始め、俺の前を走っていた逞しい脚がふらつき始める。
「よ、よし……いいぞ、アノホラグサ! 草分けだ! でも、レントラーには当てないように……自分の素早さを上げるためだけにいぃいぃいぃいぃいぃいぃいぃい」
 回転し始めて上下左右が分けもわからず入れ替わる。アノホラグサは、草をかき分け、草をかき分け……最初こそ俺を乗せているせいで遅かったけれど、草をかき分けながらぐいぐい進むことで、徐々にスピードを上げている。妨害じゃないから、攻撃技だけれど、ルール上は問題なしだ。
 それよりも酔って死にそう。
「な、なかなか面白いことをされたなー! 負けてはおられん、レントラー……呪いはある程度相手との距離が離れれば無効化されるぞ! だから、ここはアノホラグサには一度行かせて、後から超高速で追い抜いちゃおう!」
 そう、呪いの技は戦闘が終われば無効化されてしまう。ナンジャモ様はちゃんとこういう時の対策も知っていてすごい……というか、いくら攻撃技じゃないからってひどい補助技を使ってごめんなさいとしか言えない。
 しかし、こっちも無様を晒すわけにはいかない。
「まぁきびしぃ! まきぃびし!」
 これを使えば、後続の追い上げを阻害するにはもってこいだろう。十分に距離が離れたのを確認して再び走り始めたレントラーは、草むらに隠されたまきびしに苦戦しているのか、足取りは遅い。いくら物を透過する目と言っても、その能力を使うのにはかなりの体力を消費してしまう。
 だから、草の中に隠れたまきびしのために。レントラーがいちいち目の力を使うことはできない。そうこうしているうちに、アノホラグサは灯台にタッチし、復路に入る。レントラーはまだしばらくかかりそうだ……吐いたせいで服がぐちゃぐちゃだけれど、これ、ナンジャモ様の放送に映して大丈夫なのかな?
「アノホラグサ……えーと、潮風に乗って、どんどん下っていくぞ……えー、と、その……あの、頑張ろう」
 酔い過ぎてもう言葉が中々出てこない。ゴールにつく頃には吐く物、残っているだろうか……その心配をよそに、アノホラグサは風に乗って下り、ものすごい勢いで転がっていく。地面の凸凹でガンガン跳ねながら天地を振り回される俺はというと、もはや景色はすべてが無数の線。風も重力も何が何だかわからなかった……復路は妨害を使う必要すらなかった。
「この勝負、挑戦者の勝利! 貴方にはジムリーダー、ナンジャモと対戦する権利が与えられます!」
 ジムの職員がそう言ってくれたのは良かったのだけれど……。
「クラクラ?」
 アノホラグサに尋ねられる。
「クラクラどころかもう頭がグワングワン言って、三半規管が死にかけだよ……」
 俺は下りの道でさらにアノホラグサの中で吐いてしまって、ナンジャモ様の配信に映せる状況ではなかった。
「いやー! 登りでの搦手、下りの速さ……これはびっくり! かなりやる挑戦者だねー! ハンデをあげたとはいえ、これはもしかしたらまともにやっても勝てなかったかもしれないね!
 しかも、転がって移動するっていう、その発想、ボクには予想外だったよ! 皆の者も、転がって移動する挑戦者氏に興味津々だったねぇ! コメントを読み上げてみるとー……『草』『あの草』『あのほら、草』『ちょっと待って、あの草、草なんだけれど』『お前ら草がゲシュタルト崩壊するからやめろ』と、大盛況! みんなの前で体を張ってパフォーマンスをするその度胸、ボク感心しちゃったね!
 ただ、ちょっと残念なのは、今の状況をとてもカメラに映せないことかなー……あはは! 挑戦者氏! シャワーを浴びたら今度は僕とポケモンバトルでさらなるバズりを目指すのだー! それじゃ、みなのもの、一旦休憩だぁ!」
 配信が終わる。
「クッサ……」
「……なんか、すみません」
 アノホラグサにもナンジャモ様にも申し訳ない。
「いやいや、いいのいいの! 配信の初心者には、トラブルはつきものだからね!」
 そんなわけで、俺は乗り物酔いも覚める前にシャワーを浴び、綺麗な服に着替え、ふらふらとした足取りでバトルフィールドへと向かう。その道中、先ほどの配信についたコメントを見てみると、視聴者の反応を見てみるに、俺が呪いやまきびしを使ったことはそれほど批判されていないらしい。一部のナンジャモ様信者には『許せん! ほっぺすりすりしてやる!』とか『びりびりちくちくしてやる』とか、そんな過激な言動が目立つけれど、十万ボルトとかじゃないので問題はなさそうだ。
 それよりも問題なのは……むしろ応援する人が多いことだ。『アノホラグサでパルデア一周しろ』とか、『それでナッペ山の下りを制覇しろ』とか。いや、殺す気か。むしろびりびりちくちくよりも恐ろしいからやめて。
「おー、早かったなぁ! 挑戦者氏! 10分前行動、関心関心! いやー、さっきの走りは痺れたよー! 本当に配信初めて!? 皆の者が喜ぶ、誰もやったことのないチャレンジで、しかも画面にインパクトのある走り、狙ってやったのかと感心しちゃったね!」
 ケンタロスをまだ調教できてないと言ってしまえばいいのだろうか、これは。
「いやぁ、ははは……あれ、無茶苦茶に見えて、俺あいつにああやって命を救われたことがありまして。カエンジシに脚を噛まれて逃げることも出来なかった時にああやって逃がしてもらったんです」
「ほー! それは何とも興味深い、気になるエピソード! どうじゃ、ボクに話して配信を盛り上げて見る気はないか―?」
「えー……いいんですか? そんな、大した話じゃなくって……」て
 配信の再開を待つ間、俺はナンジャモ様に、先日の出来事を話す。ライドポケモン欲しさにケンタロスを捕まえたこと。逃げる際にピッピ人形を消費し、その後カエンジシに襲われたこと。その時怪我をして動けなくなったので、子供のころからの付き合いであるアノホラグサの中に入れてもらい、転がって逃げたのだ。ひどい目にあい、盛大に吐き散らかしてしまったが、それでも命を助けてもらったので、感謝していること。
 そして、ライドポケモンはもっているかとスタッフに聞かれて、思わず『はい』と答えしまったが、まだケンタロスとは全然心を通わせていないので、焦ってアノホラグサを出してしまったことも含めて。
「ほほー、それは聞くも涙、語るも涙なエピソード……それに、絵を描いているだなんてすっごいじゃない? ねぇねぇ、君の絵、みなのものに見せちゃってもいいかなぁ? ボクの配信はね、ジムチャレンジをする人を応援する人たちばっかりだから、何かにチャレンジをする人に対してはみんな声援を送ってくれるはずだよ」
「え、絵の宣伝をしてもいいんですか!?」
「いやね、そりゃボクとしてもジムチャレンジの終着点が、チャンピオンじゃないのは残念さー。でも、ナンジャモンジャTVは、挑戦する人の味方だよ! もしよかったら、君のSNSアカウントも紹介しちゃうから!」
「えっと、じゃあ、お言葉に甘えて」
 自分の作品をナンジャモンジャTVに晒す、か。自分の作品を見てくれるのは、今まで美術の教師や同級生くらいなものだった。コルサさんにも見せたが、あの人はあの人で変わりものなので、良くも悪くも評価が参考にならない。いつも褒められたことしかない絵だけれど、一般人に晒してどんな反応をされるやら、戦々恐々だ。
 再び放送が始まる時間になり、ナンジャモ様が俺のことを紹介してくれる。コメントを覗いてみれば、『いい話じゃん』とか『主人大好きじゃん』と、アノホラグサを評価する言葉が多い。
「それで、挑戦者氏はこの旅の間にいくつも絵を描いたんだって! いやはや、さっき僕も見せてもらったんだけれどさ、これは将来が楽しみになっちゃうよね。さぁ、どうぞ!」
 ナンジャモ様に促され、俺は日光浴をするアノホラグサを描いた絵をカメラの前に差し出した。ハッサク先生にも褒めてもらった、俺がアノホラグサを見る目が変わってから、初めて描いた絵だ。彼女に命を救ってもらい、謎の炎タイプ使いに大切にしてやれと言われ、自分なりの方法でアノホラグサに向き合った結果がこの絵なんだ。
 これの評価が低かったら泣く。緊張はしたが目は逸らさなかった。褒められたいけれど、褒められることしかしないぬるま湯につかってばかりでもダメだ。芸術っていうものは、人に見られることで意味を成すのだから。自分に言い聞かせ、運動しているわけでもないのに抑えきれない鼓動を感じながらコメントを目で追う。ナンジャモ様の配信はコメントが多すぎるので、いちいちコメントを停止して見なければいけないのが大変だけれど、うーむ……『普通』『いいじゃん』『かわいい』『うまい』といったあたりさわりのないコメントが続く。
 そりゃ、一般人よりかは絵が上手い自信がある。けれど、それだけじゃダメなんだ。今一瞬、『エロい』というコメントが見えたが、特殊な性癖持ちの人間がいるのだろうか? 『推しの供給助かる』とか、『癒される』、『目が幸せ』、『いやらしい……』なんてコメントも。悪い評価をされていないようで安心した。っていうか、特殊性癖なコメント、全部同じ人だ。まぁ、もちろんただ褒められる程度の平凡な絵じゃダメなんだけれど、この人アノホラグサに何を求めてるの!?
「おーおー、好評じゃないの! 絵を褒められて、挑戦者氏も気分が良くなったところじゃないかー? 絵を褒められたら、タギングルも滾るってものだよねー! ただ、ここに来た目的は忘れてないよね?」
「忘れてました!」
「おいおーい! このナンジャモと、ジムバトろうとしてるところでしょーが! 忘れたらボク、うそなきして特防をガクッと下げちゃうよ!?」
「うそなきって自分で言っちゃうんですか!?」
「ポケモントレーナーたるもの、技は元気よく宣言しなきゃ! でしょ!? さあさ、褒めてもらって気分も乗ったところで、ボクとジムチャレンジバトル! みなのものは待ちきれない御様子だよ! ほんじゃ、そろそろいってみよう! 準備はOK!?」
「行けます! ナンジャモ様!」
 草タイプのアノホラグサは、電気タイプに対しては比較的有利なポケモンだ。長い付き合いだからその分レベルも高いし、負ける相手ではないはずだ。


「キミのきらめき、1000まんボルト!」
 さすがに、コルサさんの後に挑むことを推奨されるジムだけあって、幾分か強いナンジャモ様の手持ち。ハンデを設けてくれているとはいえ、本気で戦略を考え猛攻を仕掛けてくるナンジャモ様に、俺は常人の限界を感じていた。これ以上のジムリーダーを相手にするのはきついだろう。バッジを受け取ると、どっと疲れが湧いてくる。
「キミの夢、ボク応援してるよ! ポケモントレーナーと画家! 辿る道は違えど、その道が辛く険しいものなのは同じこと。ナンジャモンジャTVはそんな夢を目指すチャレンジャーの力になるよ!」
「ありがとうございます。でも、先ほど俺の絵を宣伝できただけでも、十分ありがたいです」
「そーかそーか! 芸術っていうのは、見てもらうことで価値が出るものだからねー。ボクの配信を踏み台にして、キミはもっと絵の価値を上げるといいよ」
「じゃ、後でナンジャモ様の絵もかきますね!」
「えー! そんなことされたら、ボク嬉しくて、笑顔がスパークしちゃうかも!」
「街中でスパークしないでくださいね」
 ナンジャモ様と笑いあい、俺は記念写真を撮った後に手を振って別れた。ネットで動画の生配信をやっているだけあって、ナンジャモ様は物凄く話しやすい。最初は緊張していたのに、あまりに話しやすいからそれもどんどん気にならなくなって。それに、成り行きで配信に出たけれど、終始温かい言葉をかけてもらって元気も貰えた。
 アノホラグサにライドしてレースをすることになって、ひどい目にあった気分だが、そのおかげで話題性も出たし、ナンジャモ様に顔を覚えてもらえたのは大きい。さぁ、宣言通り今日はナンジャモ様の絵を描こう。息も絶え絶えだったけれど、頑張ったレントラーをねぎらうナンジャモ様の姿はきっちり、カメラと瞼の裏に焼き付いている。

 その日から、俺のSNSアカウントには少しずつだけれどフォロワーが増えていった。今まではこちらから情報を発信することもなく、ほとんど休眠している情報収集用のアカウントだったけれど、アノホラグサの絵をはじめ、この旅で出会った、すれ違った人たちの絵をSNSにアップし始めると、少しずつイイネがついたりして、自信もついていく。まぁ、タダで見る分には褒めてくれても、買ってくれるかどうかといえばまた違うのだけれど。
 そうやって応援してくれる人が増えたのはもちろんだが、何よりも嬉しいのが、俺の旅について行きたいという、オレンジアカデミーの生徒が名乗り出てくれたことだ。しかも女性! なんでもアノホラグサが好きらしい……旅をしたい理由、そっち!? 芸術とかそっち方面ならよかったけれど、まぁそこは贅沢を言ってはいけない……俺と一緒に旅をしてくれる女の子。それが一番重要なのだ。
 その子に無様なところを見せないように、ケンタロスへのライドも出来るようにきちんと練習しなきゃ。騎乗の練習を続け、ピクニックで懐いてもらい、ケンタロスと疲れたら休みながら絵を描き、日々を過ごす。

 そうして、今日はその相手と落ちあえる日……この時を待っていたぞ! 俺はアノホラグサとともに、町のはずれにあるポケモンセンターのテーブルにつき、約束の相手を今か今かと待ち続けていた。
「こんにちは! カボスさんですよね!?」
 クエスパトラに乗った女性が、待ち合わせ場所に訪れる。彼女は俺と同じオレンジアカデミーの制服を着てテンガロンハットをかぶり、そばかすが目立つが、ぱっちりとした目がリキキリンのような印象を受ける、元気そうな女の子だ。めっちゃ好みのタイプだ。傍らにいるアノホラグサは、ライドポケモンのクエスパトラと並走してきたようだ。
「先日、アノホラグサが話題になっていて、それで私、ナンジャモさんの配信を見たんです! レースの時はリアルタイムで見られなかったんですが、バトルの時はマジ熱かったです! 私の推しが最高にクールに輝いていまして! ね? アノン君」
 どうやら、彼女が連れているアノホラグサの名前はアノンというらしい。見た目での違いはよくわからないが、どうやら雄のようだ。
「アラ?」
「ホラ!」
「ラララ!」
「サラサラ!」
 どうもアノホラグサ同士の仲は悪くなさそうだ。二匹は寄り添いあって、俺達人間にはわからない言葉で何かを語り合っているように見える。
「アサクラ!」
「アサクサ!」
 何の話をしているんだこれ……?
「あらあら、好きな仮面ライダーといつか行ってみたい場所の話をしているみたいね!」
 マジで!? アノホラグサの言葉がわかるの、この女性!? しかし、この女性……見た目は俺の好みのタイプなのだが、ロトムスマホのストラップがアノホラグサだったり、言動の端々から何か嫌な予感しかしない。
「私もアノホラグサを愛して、アノホラグサの男性と一緒に旅をしているのですが、彼をライドポケモンにするだなんて全然思いつきませんでした! あんなライドの仕方、自分は酔ってしまいそうでとてもとても……」
「えっと、もしかしてその、君は、あのレースみたいにアノホラグサに乗ってみたいとかそういう感じの……?」
「はい! あなたのアノホラグサが、あなたを乗せて転がる姿を間近で見たいなって! そして、いつかは私も、彼に……アノホラグサに抱かれて一緒に転がってみたいなぁ……なんて」
 顔を赤らめながら何を言っているんだこの子は。あぁ、でも……せっかく出会えたのに、『いや、あれは緊急事態であって、これからはケンタロスに乗るつもりだよ』とは言えない。
「な、なるほど! そりゃもう、いくらでも見て行ってくれていいよ! まだ慣れてないから酔っちゃうけれど、いつか君のアノホラグサと一緒に並んで走ろう!」
 あぁ、勢いに任せて見栄を張ってしまった……女性に良いところを見せたいと思っても、限度があるだろうに、俺は何を口走ってしまっているんだ。こりゃ、&ruby(ラッキーズ){薬局};で酔い止めを買っておいた方がよさそうだ。
「……アホクサ」
 いや、ごめんて。呆れないで、アノホラグサ。っていうか、ややこしいからお前にもニックネームつけなきゃな。

 あの日、俺はライドポケモンに抱かれた。そして、俺は彼女の中に汚いものを吐き出してしまった……
 あの日の出来事がまさか、俺の運命を変えることになるとは、ついでに三半規管も鍛えられることになるとは、その時は思わなかったんだ。


***あとがき [#65Rqcq3]
***あとがき [#65Rqcq3] [#h7576ee5]
大会では4票の投票ありがとうございます。みんな、読んだらちゃんと投票しましょうね!
今回は、ミライドンやコライドンはとてもかわいいポケモンではあるのだけれど、やっぱり自分の好きなポケモンに乗って旅をしたいという事から生まれた物語でした。レッツゴーピカブイでは色んなポケモンに乗れますし、SMやレジェアルでも様々なポケモンに乗れる。ポケモンレンジャーでもエンペルトやドードーは印象深いポケモンとなりますし、ラティやソルガレオ、ルナアーラ、レックウザのように伝説のポケモンに乗って人類未踏の地へ行くのも趣があります。ガラルのロトム自転車もああいう形のライドポケモンですね。このお話では電動車いすという形で出していますが、ずいぶん昔にそんなの書いたなぁ。
今回のSVの課外授業開始時にライドポケモンを持っていなかったら、新しくポケモンを捕まえてそいつをライドポケモンにするのかなぁとか、そんなことを考えながらゲームを続けて、今までのポケモンはもちろん、初登場のポケモンにもライド出来そうなポケモンが沢山いましたね。クエスパトラとか、ブロロロームとか。街中でもスター団でも、ライドポケモンに乗っているNPCはいますが、全部モトトカゲなのが納得いかなくて……もっとこう、個性が欲しかったですね! オモダカさんがゴーゴートに乗って現れるとか、アオキさんがトロピウスに乗って出勤するとか、シュウメイ殿もブロロロームに乗って移動してきたりとか。
ナンジャモ様がレントラーに乗って移動したり、スター団のあの人がウインディに乗ってやってくるのも、こいつらが手持ちをライドポケモンにするとしたら、どんなポケモンだろうかなと考えた結果でした。
そんな感想を抱きながら浮かんできたストーリーラインは、主人公は旅の途中で運命的な出来事を体験して、ライドポケモンを描くことを好むようになる芸術家……という物語でした。ライドポケモンを捕まえようと頑張り、ライドポケモンとともに戦う姿を見て、ライドポケモンに助けられて……そうやって、人と共に生きるポケモンに魅力を見出す。あの世界にはそんな人間がいくらでもいるでしょう、その一人になるまでの物語です。
ま、そんなことはさておいて今作の主役となるポケモンはとてもライドポケモンに向きそうにないアノホラグサだったわけですが。いや、アノクサは一目見て好きになったポケモンでした。このポケモンを主人公に採用したわけは、ライドポケモンには向いていないけれど、かろうじてライド出来なくもなさそうという絶妙なラインだったからです。まともな回復技はないけれど、痛み分けが出来るというのもエピソード作りには丁度良かったというのもありますね。彼女を通してポケモンと人間の関係、絆を感じられる作品になったら幸いです。トレーナーが芸術家なので、デッサンの練習にも向いていそうなのも丁度良かったですね。
いつかイッシュ地方のレジェンド作品が出たときは、是非とも大事なイベントシーンで空気を読まずに転がってきてほしいポケモンです。こんなポケモンなので、きっとポケモン世界にはアノホラグサが好きで好きで仕方がない人もいるでしょう。オチを担当してくれたクエスパトラに乗った女性もそんな好きで好きで仕方ない人の一人です。ガチ勢怖い……
***いただいたコメント返信 [#ofoc3yS]
・「ポケモンは自分の名前の範囲なら話せる」論、とても好きです (2023/01/02(月) 14:36)
このポケモンは名前も含めて好きです。アノホラグサは寿司のように割と会話できるポケモンだと思うので、皆さんもポケモンに喋らせるときは寿司ばかりじゃなくアノホラグサも採用してあげましょう。
・ライ……ド? (2023/01/13(金) 18:47)
ライドです! ライドです! 乗って移動出来ればそれはライドポケモンです

・ゲームで道中戦うモブ学生、見た目的にも年齢的にもけっこうバリエーションあって印象的でした。本作みたいに宝探し=恋人探しな学生もいたってなんら不思議じゃない。こういうCPUの雰囲気だいすきなんですよね……相棒がアノホラグサというチョイスもモブっぽくて素敵。ダンブルウィード然として転がるアノホラグサ、確かに逃げ足は早そうですが乗り心地最悪ですわ。そりゃ汚いものを中にぶちまけてしまうのも無理はない。1日も早くケンタロスに乗れるよう特訓しないとですね。
めちゃくちゃ人情味のある鳴き方なアノホラグサちゃん可愛いね……。シャリタツだって『ヌヌ? スシー』が言えるんだから、アノホラグサが
『アホクサ』って罵ったってなんら不思議ではない。冒頭『ホラ! アサ!』って時間を教えてくれたり、『サクラ! サクラ!』って警告してくれるところとかすんごい賢い。『ホァック』好き……ってかなんでそんな俗な言葉知ってんだ……。
それからコルサさんをはじめ、原作ストーリー中には見られなかったキャラのワンシーンを膨らませてくれるの、ちゃんとした2次創作として読んでいて飽きさせません。キマワリ集めはとてもよいジムチャレンジですからね、彼女らを眺めながら絵を描いてしまうのも納得できます。『ブレイズキックみたいなブーツ』って表現、1発で誰の脚かわかる比喩なの凄すぎですよなあ。ナンジャモ様の配信事故もギャグパワーLV3あるのかってくらい強い。今大会1番笑いました。 (2023/01/13(金) 23:24)
書きながら、物凄く酔いそうだなと思い……そのせいでなぜか本当のことしか書いていないのにキャプション詐欺みたいになってしまった……。彼は果たしてこれからケンタロスに乗れるのか? 好みの女性の前で見栄を張った結果、彼の旅がどうなるのかはご想像にお任せします。

・絵面を想像して笑わざるを得なかった……拷問器具か何か??? (2023/01/14(土) 21:13)
ちょっと(かなり)乗り心地は悪いですが、ライドポケモンです!
#pcomment(料理と猟奇は紙一重,10,below)
#pcomment(ライドポケモンに抱かれて,10,below)

トップページ   編集 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.