ポケモン小説wiki
メッセンジャー の変更点


[[空蝉]]

思いつきで、ガ───っと書いてしまいました。展開に無理あり。


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 勤務時間を終えてバイト先のドアを開けたら、1m先にアブソルが座っていた。
「い……っ!?」
 速攻でドアを閉める。

 なっ……何、今の!
 心臓がばくばくしている。び……びっくりしたぁ。

「おい、コウどしたよ」
 ものすごい勢いでドアを閉めたので、店長が驚いた様子で寄ってきた。
「あっ、あの……、何かいます。外に……」
「はぁ?」
 あまりにも俺が引きつっているので、店長は怪訝な顔で、そおっとドアを開けて見た。
「……何だありゃぁ」
 そしてまたそおっとドアを閉じる。
 店長はあまりポケモンに詳しくないので簡単に解説してあげたら、ふむふむと納得した様子で俺の肩をぽんと叩いた。
「行け、コウ」
「はぁ!?」
 ちょっと待ってください。行けって何?
「適当に追っ払っておいてくれ。俺がひける前までにな」
「ちょっ……」
 有無を言わさずドアを開ける。
 俺は肩を掴まれたまま、ぽいっとそのアブソルの目の前に放り出された。
「うわ、ちょっと!」
 酷い。なんて人使いの荒い。
 座っているアブソルを避けようとしてよたよたしている俺を、そいつはじっと見上げている。
 うわ、目ぇ合っちゃった。
 さっと目を反らす。……逃げよう。走ったら追いかけて来るかもしれないから、何気ない振りをして、そおっと。
 じゃあな。バイバイ。店長によろしく。

 ……って、ついて来るし!
 何こいつ!
 いや、ここで焦っちゃ駄目だ。平常心。走るな俺。
 ……でも、逃げたい。早く。

 ついて来ないで。お願い。



 結局そいつはアパートまでついて来てしまった。
 二階へ上がる階段までは昇って来なかったが、階段の下のすぐ脇でお座りしている。
 何なんだ一体。ターゲットは俺!?
 いや、でも野生(……?たぶんそうだろう)のポケモンなんて、きっと気まぐれで生きてるんだろうし、明日の朝になったらもういなくなってるかもしれない。
 きっとそうだ。
 もう寝よう。早く明日になれ。



「ひゃああぁ!」
 朝も早いうちから、隣の婆さんの悲鳴でたたき起こされた。
「お父ちゃん、な、なんか下に変なのが居るよぅ!」
 爺さんを呼びに行く気配。


 ……まだいたか。

 やっぱりな……。


「うわっ、何だおっかねぇポケモンだなぁオイ。シッ、シッ」
 爺さんが古典的な台詞で追い払おうとしている。
 無駄だろうけど……。

「お父ちゃん、どうする?あたしゃ怖くてゴミも出しに行けないよぅ」
 こんな朝早くからゴミ出ししなくても……。
「そうだなぁ。シッシッ。ああ居座ってやがる」
「野良かねぇ。市役所に電話しようか」

 えっ、いきなり駆除依頼?
 えっと……そりゃ居なくなったら安心するけど……


 でも、あいつきっと俺に用があるんだよな。
 ずっとついて来てるし。
 無理矢理追っ払っちゃって、良いんだろうか。

 かといって、俺に何が出来るわけでもない。
 あいつが何を言いたいのかなんて、わかるわけないし。


 ポケモンが何を言ってるか……


 わかる、人。
 そうだ、一人だけ、知ってる。


 俺は急いで着替えると、隣の老夫婦が話し込んでる横をすり抜けて、アパートの外に出た。
 小走りで通りを抜ける。
 アブソルもそれにぴったりついて来る。
 よし、そうだ。ついて来い。


 気が乗らないけど、行ってみるしかない。
 頭下げて、通訳頼むしかない。

 別れて数年音信不通の……元彼女に。




 あまりに朝早くて、他人の家を訪問するのも失礼だと思ったので、人目の少ない公園で時間つぶしをした。
 もちろん、アブソルも一緒に。
 ベンチに座る俺から1mほど離れて、そいつも座る。
 俺を見上げていることもあれば、周りを見回していることもある。
「オイ」
 声をかけて手を差し出してみるが、なついてくる様子はない。
 何を考えているんだろう。


 こんな何考えてるかわからないポケモンと、話が出来るんだよな……

 最近では思い出す事も少なくなっていた彼女の顔を思い浮かべた。

 あいつも大人になって……綺麗になってるんだろうな。





 元彼女の家の呼び鈴を鳴らすと、何故か慌てたような声で応対があって、すぐに彼女の母親が玄関から駈けだして来た。
「まあ……まあ、コウ君。お久しぶり……本当に」
 随分老け込んで見えるおばさんは、俺を見上げて目を潤ませている。
「ごめんなさいね。私からお知らせしようと思ったんだけど……ユナがね、自分で呼ぶからいいって言うもんだから……お葬式にも間に合わなくて……本当に、ごめんなさい」
 おばさんはしきりに謝っている。何のことだ?

 お知らせ?お葬式?

「え……ユナ……は」
 言葉が止まってしまった俺を見て、おばさんは不思議そうな顔をした。
「ユナの遺影にお別れを言いに来てくれたんでしょう?」

 まさか───!

「ユ……ナ……うそ……」
 頭が真っ白になった。




 四角く枠取られた写真の中で、ユナが笑っている。
 俺が知ってた頃より、大人びて。綺麗で。

 ああ、なんか。もっと話しとけば良かったなぁ……なんて、今更だけど。
 どうしてだろう。すごく、悔しい。

 けんかしたまま、もう会えなくなっちゃった。




「ルルちゃん、ご苦労様」
 おばさんは、アブソルを居間に上げて、果物をいくつか皿に盛って与えていた。
 アブソルは静かにそれを頬張っている。
「そのアブソル……ユナのですか?」
 おばさんはアブソルの頭を撫でていた手を止めて俺を見た。
「ん……ユナの、というわけじゃないの。ユナの友達よ。最期まで看取ってくれたのも、この子なの」

 ああ、そうだったのか……

「俺を、呼びに来てくれたんだな。アブソル」
 俺の言葉がわかったのか、アブソルはこちらをじっと見つめている。
 落ち着いた静かな目だ。
 側にいると安心するような。

 ユナは……こいつと、何を語り合っていたんだろう。
 こいつはユナから何を教えてもらったんだろう。

 俺には、こいつからユナの最後の言葉を教えてもらうことは出来ないけれど。

 死んでいくユナの、きっと最後の本音だろう言葉を聞いてなお、こいつは俺を迎えに来てくれた。
 ユナは、俺を許してくれていたんだ。
 それだけは、わかる。




 ごめんな、ユナ。

 くだらないことでけんかして。
 別れたまま、忘れちまってて。

 こんな俺で、ほんとにごめんな。




 アブソルが、ユナの遺影の前までやって来た。
 二人で並んで、黙ったまま同じ女性を見上げている。
 ユナは笑っている。
 ユナが、アブソルが、俺に見せたかったのは、この笑顔だったのかもしれない。
「ありがとうな、アブソル」
 横に座る白い毛並みを、そっと撫でた。


 その手触りがあまりに優しくて、何故か涙が溢れてきた。




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どこの地方か忘れましたが、「送り犬」という妖怪がいるのだそうです。諸説あるようですが、なんとなく人恋しそうなその犬の伝説が気になって頭の隅に残っていました。そこからイメージをもらってます。何か言いたそうで、寂しそうなのに、何も言わず去っちゃうような……アブソルってそんなイメージ。


連載の方がアレな展開なのでヘコんでしまい、コメディタッチで書きたくなって始めたのに、何故こんなことに……デフォルトで鬱作者ですみません

[[空蝉]]

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