ポケモン小説wiki
マンガ家見習いと二匹のポケモン の変更点


writter is [[双牙連刃]]

 作者執筆強制期間用作品。なんか、期限決めないと書かない書けない。
官能もバトルも無い普通の小説です。ちょっと詰まらないかも?
それでもよければ……お楽しみ頂けたらと思います。

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 贈り物を貰った時、皆さんは喜ぶだろうか?
私は嬉しい。物が何であったにしろ、贈り物をしてくれる人が居ると言うことは良い事だと思うから。
ただし、たった一人を除いてだ。いつも謎のポケモン用グッズを預かってくれだの引き取ってくれだの言って困らせてくる奴が居るのだ。
そして……10分前にそいつから送られてきた物が現在私の前にある。流石に目の前にいたら絞め落とすのも辞さない気分だ。
……静かに私は、携帯に登録してある奴のアドレスに電話を掛けていた。
コール音が聞こえなくなり、通話が開始されたのは確認した。

「死ね」
「開口一番にそれは酷くないかい!? 久々に電話なんか掛けてきてくれたのに」
「煩い黙れ発言するな用件だけ伝える死ね」
「お、おぉう……完全にお怒りですな」
「私が今どんな生活をしてるのかは知ってるはずよね? なのにこんな物を送ってくるのは何?」
「まぁまぁ、今から説明するからちょっと落ち着いてくれ。話から察するに、どうやら俺が送った物はもうそっちにあるみたいだな」
「来てなかったらあんたに私から電話を掛ける事は天変地異があっても無い」
「……泣いていい?」
「ご勝手に」

 ……よし、ぶちまけたらちょっと落ち着いた。さて、話を聞きましょうか。

「さて、冗談はこの辺にして……お願いです、そのポケモンのタマゴの里親になってやってください!」
「……はぁ!? ちょっ、里親!? 預かるだけじゃないの!?」

 そう、私の前にあるのは二つのポケモンのタマゴが緩衝材に包まれて入っているダンボール箱。これが突然送られてきたのだ。
そして私的に衝撃の事実、今回のこれらは預かってくれじゃなくて育ててくれときましたか。ははっ、笑えるぜ。

「もう一度言う。私が今どんな生活をしているかは理解しているな?」
「バイトで家賃&生活費を稼ぎながら持込用の原稿を描いてらっしゃいます」
「OK、つまり私にはポケモンを育てる余裕なんて無いの。理解出来るわよね?」
「理解はしています。でも、送っちゃった」
「死ね。一度と言わずゾンビ化してヘッドショット喰らって永眠しろ」
「も~うホラーゲーのやり過ぎだって。だから彼氏が出来ないんだぞっ☆」
「よし、このタマゴあんたの住所宛に送っとくわ」
「すいませんでしたごめんなさいもう家にはポケモンがひしめいてるんですだからそのまま預かって下さい」
「よろしい。今あんたが私になめた口聞けないのは理解出来たわね?」
「はい……本当にごめんなさい」

 彼氏が出来ないのは出会いが無いからであって、私自身に問題があるからではない! ……はず。
っと、そんな事は今はどうでもいい事。そもそもこのタマゴは何なの? その辺を聞かなければ。

「で? このタマゴ何?」
「いやぁ、仕事で検挙したトレーナーが取り寄せたらしい物なんだけどさ、その二個だけ貰い手が見つからなくて困ってたんだよ」

 今話してるこいつはポケモンレンジャーなんて仕事をしてるの。主には、ポケモンを虐待したり無理に戦わせたりしてるトレーナーを処罰する部署だったわね。
それで、仕事で保護する事になったポケモンは担当したレンジャーが預かるか、貰い手を募る事になってるらしいんだけど……大方、このタマゴには貰い手がつかなくて引き取る事になったんでしょ。
で、それが世話出来ない状態だから私のところに送ったと……あらましはそんな所ね。
中学からの腐れ縁で何かとしてやってたけど、これは流石に困るわよね……。
それにしても、なんでこのタマゴには貰い手がつかなかったのかしら? 気になるわね……。あ、喋り方が変わったのは冷静になってきたからだから気にしないでね。

「ねぇ、なんでこの二つだけ残ったの? 他にタマゴは無かったわけ?」
「いや、あったんだけどそっちには皆貰い手がついたんだ。結構人気のあるポケモンのタマゴだったみたいだからさ」
「ふーん……で、これは人気の無いポケモンのタマゴだったわけ」
「いや……実はそれ、なんのポケモンのタマゴか分かってないんだ」
「……はぁ? 何それ、しょっ引いたトレーナーに確認取らなかったの?」
「なんかさ、聞いたらそいつ、そのタマゴを非合法なオークションサイトで入手したらしいんだけど……『謎のタマゴ』って名称で競られてたらしいんだよね。超高額で」
「謎のタマゴぉ? 幾らだったの?」
「……一個、50万」

 思わず吹いた。なんのポケモンかも分からないものに50万……が二個だから百万出したって事よね。あほとしか言いようが無いわね。
そんな高額のタマゴも、何か分からなければそりゃ貰い手なんかつくわけ無いわよね。

「あほだろ?」
「あほね、間違いなく」
「でも確か……十種類くらいのポケモンの中の一種類のタマゴにはなるとかかんとかで買ったとか言ってたな……」
「あ、一応の目安はあったのね。その十種類は?」
「分かんない」
「は?」
「そのサイト自体ももう無くなっててさ、どうにも探しようがなかったんだよね。そいつももう忘れたって言ってたし」
「それは嘘でしょ。大方、貰い手が本当に居なかったら自分のところに戻ってくるとか思ったんじゃない?」
「あぁそうかも。本当に知らないか聞きだしてみるか……」
「……で? やっぱり私が引き取らないと駄目な感じ? 正直マジで生活はやばいんだけど」
「本当に申し訳ないとは思ってる! でも、何かも分からないポケモンをほいほい預かってくれるトレーナーなんてそうそう居ないし預けられないんだ、頼む!」

 何かも分からないポケモンを何故私になら預けられるって答えに行き着いたのかが解せないけど、もうこっちにある以上、腹を括りますか。

「……もう他には預かれないからね? 今回だけよ」
「うおー! サンクス! これでやっと肩の荷が下りる!」
「こら、まだ下ろしきるな。このタマゴがなんなのか、せめてさっき話してた十種類だけでも聞きだしなさいよ」
「おっとそうだった。分かった、聞き出せたらまた連絡する。タマゴは温めておけば孵ると思うから」
「了解。孵る前になるべく聞きだしてよ?」
「善処はマックスでやるって。じゃ!」

 一方的に切りやがった……あ~ぁ、安請け合いだよね、これ。
とにかくあっためとけって事だし、毛布ででも包んでおくとしましょうか。



 ……そうして私は、未だ見ぬ自分のポケモンとなるこの子達に出会う事となった。
タマゴのポケモンにとって、最初に見た者がどれほどの影響を与えるのかなんて、全く知らないままに……。

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 私の名前は沖野 実理(ミノリよ)。現在18歳、一人暮らしエンジョイ中。収入源は……バイトのみ。
マンガを描いて読んでもらうのが夢なんだけど、一人暮らしでバイトしてってなると描くのに時間が割けなくてね……なかなか進まないのが現状かな。
おまけにまだ孵化してないポケモン二匹を押し付けられて、生活のピンチが目に見えて襲ってきそうな予感に駆られてる真っ最中です。
で、タマゴはまだ孵化しないで毛布の中です。正直、あれでいいものなのかな?
でも他に方法も無いし、そのままにしておくしかないんだよね。
あいつからも連絡無いし……一体、なんのタマゴなんだろ?
ちょこっと赤ちゃんポケモンの育て方なる本を立ち読みしてきたけど、私にはあの本の全てを再現するのは無理。なんでって? 私はBINBOUなんだよ!

「ハァ……大丈夫かなぁ」

 原稿から筆を離してコーヒーを啜る……私、コーヒー淹れるの下手なんだよね。あんまり美味しくない……。
バイト先も喫茶店なんだけどさ、コーヒーだけは淹れさせてもらえないんだよねぇ……「他は完璧なのになんで?」って言われたもん。
だって、コーヒー豆の選び方とか抽出時間とかよく分かんないんだもん。長くしたら苦くなるし、短くしたら殆どお湯みたいな味になるし……コーヒー淹れるの上手い人が羨ましいよ。
ん? 着信……! 来た!

「もしもし!」
「おっすー、タマゴはどうなった?」
「まだ孵化してないよ。で、何か分かった?」
「ん~、まぁ分かったんだけど……そのタマゴがどれかまではやっぱり知らないらしいわ」

 そっか……確か十種類までには絞り込めるんだよねそれでも。聞かないよりはマシか。


   ピシっ……


 ……え、ちょっと待ってよ。今の音は……まさかね。

「えっと、まずはバクフーンにミミロップ。それと、ウインディにトゲキッス」

 毛布を捲ったら……うわっ! ひび入ってるよひび! これってもしかして……。

「さらにレントラー、オーダイル、サーナイトに……アブソル? へぇ、結構レアから割と普通に捕まえられそうなのまでごちゃごちゃだな」

 わっ、われれ……割れたー! しかも二個とも!?

「後は……おっ、凄いの居るな」
「……ルカリオと、ジュカイン?」
「え? よく分かったなー。まぁ、ルカリオのタマゴはまず当たらないレアだって……なんで、言い当てられた?」
「察して……」

 だってタマゴから孵ったの、丁度キモリとリオル、なんだもの。

「孵ったのか!? 今!?」
「孵ったの、今」

 来て一日で孵った……呆然として頭が全く回りません。孵化した二匹をぼ~っと見てるだけ。
あ、二匹もこっち見た。目と目が合うー、瞬間すーきだーときづーいたー。っとかって歌があった気がする。それがどうしたって話だけど。
落ち着け私、まずは冷静に状況を整理しなきゃ。
タマゴが孵って、二匹のポケモンが私を見てる。一匹は青い毛がベースで目立つリオル。もう一匹は、緑色のトカゲって言われたらそのままのキモリ。
私、大体のポケモンの名称と姿を照らし合わせる事くらいなら出来るの。ポケモンの事は嫌いじゃないし、ちょっと勉強してた事もあったからね。
でも生まれたばかりのポケモンにどうするかなんて知らないんですけど……ここは専門家に電話が繋がってるんだから聞いてみますか。

「あのー……こういう時はどうしたらいい?」
「えーっと、そうだな……スキンシップを取る、とか?」
「とかって、なんで不安げなのよ」
「いや、俺もちょっと分かんない」

 レンジャーこの野郎。頼りにならな過ぎるだろ。ポケモン関係で困った時に助けてくれるのがレンジャーだろ。
ふぉ、電話に集中してたらいつの間にかリオルのほうが急接近してきてたし。
うーん、こういう時って、人間の子とかだったら目線を合わせて話しかけるってのがベターなんだけどな……。
ってか、これって基本0才って事よね? 人間とは違うにしても、生まれてすぐに歩けるのは凄いわね。
よし、まずは目線合わせ作戦で行く。それしか思いつかないし。
しゃがんで目線を合わせて……あ、動いたらビックリさせちゃったかな。耳が逆立っちゃった。

「おーい……大丈夫か?」
「今は、ね。聞いても駄目っぽいし、こっちは何とかするから切るわよ」
「う……わ、分かった。何かあったらまた連絡してくれ」
「気が向いたらね」

 えっ!? って聞こえたような気がしたけど通話終了。携帯は……体の後ろに置いてガードしておこう。
さて、ガチで向き合う事になった訳だが、特に泣いたり襲ってきたりするそぶりは無いみたいね。……接近してきたのが二匹に増えたけど。
ん~、撫でてみたりしても大丈夫かな? いや、いきなりだと驚かれちゃうわね。

「こ、怖がらなくても大丈夫よ。えーっと、そう、大丈夫」

 自分のボキャブラリーの少なさが爆発。何を言えばいいのかさっぱり分からない。
そもそもポケモンに話しかけるなんて状況になった事無いし……これで大丈夫かしら?
そーっと腕を伸ばして……撫でてみようかな。
と思ったらリオルから寄ってきていきなりのハグ。ビックリして心臓止まるかと思ったわ。尻餅ついたし。地味に痛い……。
これは……どういう事? とにかく、怖がられてはいない事は分かったかな。
背中を撫でてみても大丈夫そうね。軟らかい毛が気持ちいいかも。
キモリのほうも来たそうにしてるみたいね。手招きしたら来るかしら。
……おぉ、ちょっと警戒はしてるけど来た。リオルよりは控えめな子かな。

「ははは……まぁ、よろしくね」

 このままじゃ何も出来ないからとりあえず離れてもらおう。
うわぁ、純粋な眼差しがなんか痛い。キラキラした視線が私を貫いていく。
何しよう? 全くノープランでとりあえずスキンシップは取れたけど、後が続かない。
そうだ、名前とか決めようか。呼ぶ時に楽になるし。
何がいいかな? あまり長いと覚えるのが面倒だし……種族名を略すかもじろうか。

「ん~……じゃあ、君はリオ!」

 あ、首傾げてる。ちょっと可愛いじゃない。

「で、君は……」

 リオルだったからリオは最初の二文字で良い感じなったけど、キモリだと……可哀想かな。
じゃ、ちょっと変化させて……モリ、だとちょっといまいちか。じゃ、モキ? も変よね。それじゃあ……。

「リモにしよう。うん、一番良いかな」

 やっぱり不思議そうね。いきなり名前だけ言ったらそりゃそうか。

「うんと、今のが名前。私はミノリ。君がリオで、君はリモ」
「な……ぅえ?」

 ……しゃ、喋った? 喋ったよね、今?
今口を動かしたのはリオルのリオ。え、ポケモンって喋れるわけ……無いわよね?
もしかして、私の真似したのかしら? だとしたら、言葉を教えられるかな? ちょっとやってみようかな。

「そう、名前。な・ま・え」
「なぁ……え、あぅ、え?」
「惜しい惜しい。な・ま・えよ」
「なぁ……なまえ!」

 言えたー! うふぉ凄いじゃない!

「リモ……みお、り?」
「そうそう! 君がリモで、私はミ・ノ・リ」
「みの……ミノリ!」

 おっほー! リモも言えたー! 何? この子達天才!?

「なまえ、リオ!」
「リモ、ミノリ!」
「おー! 凄い凄い! 何これ、ちょっと楽しいかも!」

 この感じで言葉教えてったら普通に喋るくらい出来るようになるんじゃない!? ちょっと頑張ってみようかな!

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 それから5日……。

「ただいまー」

 バイトに行ってたわけで、現在午後三時。ちょっとのんびりしたら筆を取らないとなーなんて思いながらの帰宅ですよ。

「お帰り母様!」
「ミノリお帰りー」
「うぉっと、良いタックルね」

 タックルをしてきたのはリオ。で、ゆっくり顔を出したのがリモ。いやぁ、すっかり懐かれたのよね。
言葉については聞いた通り、教えれば教えるほど吸収していったわよ。おかげでもうぺらぺら喋るわ。
リオについては非常に素直な性格ね。私を呼ぶ時も母様で決まっちゃったみたいだし、色々手伝おうとしてくれるわ。ちょっと甘えん坊だけどね。
リモは意地っ張りかな……そこまで酷くはないけど。で、私の事は最初教えた通りにミノリで呼んでる。
リオの頭撫でてあげたら尻尾が全力で振られてる。ね? 甘えん坊でしょ?

「どう? 居ない間に何かあった?」
「ん、特には何も無いぜ。電話とか宅配便も来てない、よな?」
「うん。母様居なくてつまらなかった」
「ごめんね。ま、これもご飯食べる為だから」

 働かないと生活費がねぇ……今は私の食事量を削る事によって調整してる。
それでも何とかなるんだからなかなかのものでしょ。

「ねー、母様遊ぼうよー」
「ん? そうねー……」
「悪いなリオ、今日ミノリは俺が借りる。昨日の夜の続き教えてくれ」
「あんたも好きねぇ……まぁいいわ。リオもやってみる?」
「あ、お絵描き? ずるいなリモ、私が寝た後に母様とそんなのしてたなんて……もちろんやる!」

 リモは喋り方もなんでか荒っぽくなっちゃったのよね……一緒に見たテレビが原因らしいけど。一人称も俺になっちゃうし。
おまけに昨日の夜見せた作画が気に入っちゃったらしくて、教えてくれってせがまれてね。帰って来たらって約束してたの。
じゃ、上手く描けるかは分からないけど教えてみましょうか。


 ~二時間後~


「へぇ~、なかなか上手いじゃないリモ」
「ん、なかなか面白いじゃないか」
「え~……難しいよこれ……」

 言葉の時もそうだけど、二匹とも学習能力がすこぶる高いの。私が知る限りの事教えたらするする出来るようになるし。
特にリモが上手。下書き渡したらペン入れ出来るくらいにもうなっちゃった。な、なんか私の今までの苦労は何? ってちょっと思っちゃうなぁ。
リオは難しいって言ってるようにそんなに得意じゃないみたいね。まぁ、これでリオにもさくさく描かれたら軽く落ち込むわ。
っとぉ、もう五時じゃない。夕飯の支度しなくちゃ。

「そろそろ晩御飯にしようか。食べたい物ある?」
「俺はなんでもいいかな」
「私、カレーがいいな!」
「カレーか……多分材料あったし、それにしよっか」
「わーい! 手伝うー!」
「俺、もうちょっと描いてていいか?」
「オッケー、疲れたら休みなさいよ」
「分かってるって」

 うん、夢中になってる。筋も良いし……ちょっと私の描いてるの、手伝ってもらおうかなぁ。……将来的にね。
さーてカレーを作らなきゃ。材料は……うん、肉が無い。そういえば、朝に食べた気がする。忘れてたー。
代用出来そうなのはっと、チクワくらいしかない。チクワカレー……むぅ、我慢してもらうしかないか。

「リオ~……お肉無いんだけど、いい?」
「分かってるよー、冷蔵庫は見てたもん。チクワ入れようよー」

 なん……だと……? 分かっててカレーをリクエストしてたのね……。

「因みに聞くけど、なんでお肉無いの知っててカレーにしたの?」
「ん~……リモがね、前にお肉入ったカレーよりチクワ入ったカレーのほうが美味しそうに食べてたから!」
「言われればそうかも……リオ、よく見てたね」
「えへへ♪」

 よくよく考えると、リモは確かに野菜と魚を好んで食べてた気がする。やっぱり草タイプだから?
いや、それなら魚も好まないかな? 単に好みが違うだけか……。
それにしてもリオよく見てたなー。私でも言われなかったら気付かなかったよ。
そうそう、チクワカレーは我が家の定番料理の一つです。結構美味しいけど……何故だか切なくなる料理よ。

「じゃ、リモの為にも早く作っちゃおうか」
「はーい!」

 リオが手伝ってくれるおかげで調理中も詰まらないって事は無くなったよ。一人で作って一人で食べるって、ちょっと寂しいんだよね。
まだ包丁とか危ない事は流石にさせられないから、お湯沸かしたり味付けなんかを担当してもらってるよ。……正直、味付けは私より上手かも。
というか、私がやってるのって食材切るだけ……ま、まぁ、楽なのに越した事は無いんだけどね?
……この五日間、リオもリモも随分出来る事が増えたけど、今更ながらこんなに人間のする事教えてよかったのかな?
だって、この子達がもしポケモントレーナーに預けられてたら、今頃はバトルの練習とかしてたはず。他のポケモンとももっと触れ合って、普通に遊んだり戦ったりしてた筈なのに……。

「ん? 母様どうしたの?」
「……ねぇ、リオ? 他のポケモンみたいに、誰かと勝負したりポケモンと遊びたいって思う?」
「えー? ……他のポケモンと遊んでみたいとは思うかなー。でも、勝負ってバトルの事だよね? それはしたくないかも」
「どうして?」
「だって、痛そうだもん。褒められたら嬉しそうだけど、相手をやっつけて褒められても私はあんまり嬉しくないかなぁ」

 刻んだ野菜とチクワを鍋に入れながら、リオは笑ってそう言ってる。……私の考え過ぎなのかな。
でも考えだすとやっぱり、私は間違ってる事をしてる気がするな。この子達に、他のポケモンとは違う道を歩き出させてしまったみたいで……。

「……どうしたの母様? 何処か辛いの?」
「ん……いや、大丈夫。心配無いよ」

 ……リオが優しく育ってくれてる事、これが間違ってる事はきっと無いよね。
ん! くよくよするの終わり! なっちゃったもんはなっちゃった通りに、やるべき事をやっていこう!
丁度カレーの美味しそうな匂いもしてきたし、リモ呼んできてご飯にしようか。

・・・・・

 いやぁ、本当に自分で作った時より美味しくて困る。カレールーも他の物も別に変えてないのになんでだろ?
食器も洗って片付けたし、しばらく休んだらまた筆を取ろうかな。

「ねぇ母様、テレビ見ていい?」
「ん、いいわよ。別に私に断らなくても自由に見ていいのよ?」
「はーい」

 七時か……特に見たい番組は無いかなぁ。リオが何見るか興味はあるし、ちょっと見ててみるけど。

「ところで、なんで私の頭の上に乗ってるわけ?」
「ん? まぁ気にすんなって」

 リモは私の上で同じようにテレビ見てます。いや、そんなに重くはないから別にいいけど……。
おっと一つのチャンネルで止まった。番組は……あぁ、ポケモンバトルの中継か。やっぱり興味あるのかしら?

「リオ、やっぱりバトルしたいの?」
「え? 違うよー。色んなポケモン見るのならこれが一番かなーって思ったから入れてみただけ」
「そう……」

 なるほどね。カレー作ってる時も、他のポケモンと遊んでみたいって言ってたっけ。
私のバイトもあって、外に出歩くって事をまださせた事無かったし……明日辺り、散歩とかしてみようかな。

「ふん……こんなバトルなんかして面白いものなんかね?」
「さぁねー。私はトレーナーじゃないし、相手を倒して得る喜びってのはちょっと分からないかな」
「でもさ、私もリモもポケモンなんだし、ちょっとは戦えるようになってたほうがいいんじゃないかな? お外に出た時とかに、他のトレーナーさんに会わないとも限らないでしょ?」
「それは……言えてる」
「そうよねぇ……バトルの規定で、勝負には小額でも賞金を出す事になってるし、負けた時の支払いは痛いかも」

 そうか、外に二匹を出すって事はそういうリスクもあったわね。まぁ、街中だったらそうそう無理にバトルをけしかけてくる輩は居ないだろうけど。
そうじゃなくても、体動かさないと体に悪いし……明日は公園辺りに行くので決定ね。

「よし、明日は近くの公園まで行こうか。外がどんななのか見せたいし、体動かすのにもぴったりだし」
「お出掛け!? やったぁ!」
「ん~、悪くないかな。明日の天気は?」
「天気予報出すね。……晴れだって!」
「なら決まりね。簡単なお弁当でも作っていこうか」
「はーい!」
「明日は手伝うか……」

 リオはすっごく嬉しそう。リモもまんざらじゃないみたいだし、楽しみが出来てよかった。
卵焼きなんかを作る食材はあったし、お弁当もなんとかなるでしょ。

「じゃあ、リオもリモもそろそろ寝なさい。明日は朝から出掛けるからね」
「うん!」
「今日は流石に寝とくか」
「はい、じゃあお休みー」

 寝室は私の作業場を兼ねてるの。つまり、今日は私のマンガ描きも無し。……こっちに道具を持ってくれば出来るけど、楽しみにしてる二匹の横で寝坊しても悪いしね。
それでも少し掃除なんかしてから寝ようかな。明日はやる暇無さそうだしね。

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 まさか家にバスケットなんてあるとは思わなかった……いつの間に買ったっけ? なんかの資料用だったかなぁ。
それに作ったお弁当包んで外出中。結構雰囲気あるんじゃない?
なんとか寝坊はしなくて済んだわ。って言うか、リオにマウント取られて強制的に起こされたんだけどね。
楽しみにしてくれるのはいいんだけど、寝てるうちにお腹の上に乗られるのはそれなりにダメージがあるわよね……。

「ほらほら、急いで歩くと転ぶわよー」
「はーい」
「全く……ちょっと近くの公園行くのにはしゃぎ過ぎだろリオの奴」
「あんたはもうちょっとはしゃぎなさいよリモ。人の頭に乗ってないで」
「うっ、いや……その……」

 ……実は口調に比べてリモはちょーっと臆病なのよね。最初もかなり私の事警戒してたし。
で、今は初めて歩く事になるアスファルトに不安があるみたいね。頭の上から動こうともしないわ。
澄み渡る晴天の中をのんびり歩くのも久々でいいわねー。最近は描く事に時間を優先してるから気分転換に最適だわ。

「リモ、怖くないからちょっと歩いてみなさいよ。私も傍に居るんだし」
「……ぜ、絶対に走り出したりするなよ!? 絶対だからな!」
「分かってるって」

 震えてるのが分かるわー。そんなに不安がる事でも無いでしょ。……ま、当事者は今勇気を振り絞ってるんだから任せようか。
リモの足が地面に……着いた。目をキュッて瞑っちゃって可愛いの。

「お、おぉ、温かいな」
「アスファルトは熱吸うからね。で? 第一歩を踏んだ感想は?」
「こ、こんなの大した事ないっての」

 まーた強がっちゃって。さっきまでの自分思い出したら恥ずかしいのね。ちょっと赤くなってる。

「母様ー、リモー、置いてっちゃうよー」
「ごめんごめん。あまり先に行ったら迷子になるわよー」
「すぐに追いついてやるからな。待てーリオー!」

 やれやれ、平気だって分かったら途端に元気になるんだから。リモも現金よねー。
走っていく背中、見失わないようにしっかり見てなきゃ。……私が走ったらお弁当が悲惨な事になるからね。
そのまましばらく進んで……はい、公園到着。

「母様、ここ!?」
「そうよー。どう? なかなか広いでしょ?」
「おー……」

 どうやらお気に召したご様子。いや、目を輝かせるとは思わなかったけど。
うはは、もう走り出したいってオーラがリオから全力で出てる。リモも芝生へダッシュしたそうね。迷惑だけ掛けないように言わないとねぇ。

「じゃ、遊んできていいけど、お昼くらいになったら一度私のところに来る事。あそこの噴水のところに居るから」
「へぇ~、あれが噴水って言うんだ! 分かったー!」
「他の奴らには迷惑掛けないように、だよな?」
「もちろん。リオも分かった?」
「はいー!」
「よろしい。何かあったらすぐに私を呼びに来るのよ。……リモ、それとなくでいいから、あんたもリオの事見ててやってくれる?」
「任せろ」
「じゃあ母様、行っていい!?」
「よっし! 思いっきり遊んできなさい!」
「わーい!」
「んじゃ、行ってくるわ」

 リオは走って、リモはゆっくりと公園の中へと進んでいく。……それなりに私も見てるし、多分大丈夫よね。
私はどうしようかなぁ。弁当番が無ければ軽く汗でも掻こうかとも思うけど、それがある以上、お弁当を放っては置けないよねぇ。
ん~、小説でも持ってくればよかったか。いや、折角外に出てきてるんだからそれっぽい事をしよう。
それっぽい事……駄目だ、思いつく事全てがお弁当番という役職にかき消される。こういうのあると結構制限あるわね。
仕方ない、まずは噴水の近くまで行こうか。そっちのほうが人も居るみたいだし。

 ……な、なんだこの和み空間は。子供と戯れるポケモン達、ん? 逆? まぁそんな事は気にしなくていいのだよ。
でも素晴らしいよねぇ、ポケモンと子供が仲良くしてるところって。心がほっこりするよ。
で、ついついリオ達みたいに喋るポケモンが居ないかを探してみたり。……いや、居ないよね。
元々ポケモンに言葉を教えようなんて思う事が無いわよね。幾ら生まれたばかりだとしてもさ。
でも教えちゃったしね~、いやぁ、あの時の私のテンションはかなりハイだったわ。
あ、リオやリモにその辺注意するの忘れちゃった。……でも大丈夫か。どっちもポケモンが普通は喋れないって事は知ってるし。
これを見てればしばらくは暇潰しになるわねー。ふむ、マンガにもこういうシーン入れて良いかも。
おっと、露骨に見ていたら怪しまれちゃう。それとなーく見るようにしよっと。

 ~一時間後~

 ……まぁ、何もせずに一時間もよくもった方よね。でも限界、いい加減飽きてきたわ。
リオ達はどうしたかしら? 今日始めて外に出たんだし、そろそろ疲れてきてもおかしくないと思うけど。
時間は、9時か。まだまだお昼には早いわよねー。

「おーい、ミノリー」
「ん? リモ? どうしたの?」
「うんにゃ、どうもしてないけど?」

 いや、なら何故呼んだし。その辺を聞きたかったんですけど。
そのままリモは私の横にちょこんと座る。あ、ベンチだからね。

「どう? 初めての公園は。なかなか動き回れるでしょ」
「あぁ、なかなか良いな。なんかポケモンに絡まれかけたけど、とりあえずいなしてきた」
「あら、大丈夫だったの?」
「じゃなかったらこんなに暢気してないっての」

 言われればそうね。いなすって、一体どうやったのかしら?

「いなしたって言ってたけど、どうやったのよ?」
「論理攻め」
「はい?」
「なんで勝負する必要があるのか、したところでなんになるのか、勝って何の得があるのかとかを延々と質問してやった」

 うわぁ、ポケモンにそれをしますか。人間の子供や大人でもそりゃきつい。
実力的に相手より賢い事が前提で無いと成功しない方法ね。……相手の知能レベルが低いと問答無用になりかねないけど。

「平和的な解決方法だろ?」
「まぁね。でも、どんな相手にでも通用する方法じゃないから気をつけなさいよ?」
「ふーん……分かった、気をつける」

 具体例が無いからなんとも納得させるのは難しいわ。気をつけるといっても、どういう相手には失敗するかは分からないだろうしね。
リモが絡まれたって事は……リオは大丈夫かしら?

「リモ、リオは大丈夫?」
「自分の目で確かめろよ」

 ついっと後ろをリモが指差してる。……あぁ、ありゃ大丈夫だ。

「公園のキングと化してるわね」
「あいつは人当たりも良いし、社交性抜群だからな」

 十数匹のポケモンと一緒に遊び回る状態になってました。どうやってあの状態になったのやら。
どんな相手にでも優しげなリオらしいかもね。……家の中での様子を基にした見解だけど。

「俺にゃああれは無理だ。混ざるのもちっと気が引ける」
「ふふーん、それで私のところに来たわけだ」
「なっ、違うわい!」

 あーらら、恥ずかしかったかな? ちょっと赤くなっちゃってんの。
そうねー、あまり甘えてくる事無かったし、今はリモにかまってあげますか。暇だし。

「よーいしょっと」
「な、うわわ」

 横に座ってるのを抱き上げて、そのまま膝の上に下ろす。リオにはしてあげた事あって、それをリモが羨ましそうに見てたのを思い出してね。

「急になんだよ」
「いいでしょー、私がやりたくなったからしてんの。嫌なら下ろそうか?」
「……し、したくなったんなら仕方ない、付き合ってやるよ」

 素直じゃないなー。でも、そこがリモらしいところなのかもね。
笑いながら頭を撫でてあげたら、やっぱりまんざらじゃなさそう。リオが遊ぶのに夢中になってる今は、せいぜい甘えさせてあげようじゃない。
リモは年長者気質っていうか、リオと何か意見がぶつかると、リオに譲っちゃう所があるのよ。
だからかしら、自分を強く見せるために口調なんかがこうなったのかもって思うところがあったのよね。
ちょっと優し過ぎるリオを守るため、ってとこかな。

「……女の子なのにね」
「ん? 何か言ったか?」
「別に。なんでもないよ」

 そう、リモは牝。どっちかというと、リオの性格が当てはまるのは本来はこっちよ。
まったくもって雌雄交換したような性格してるのよ、我が家の子達は。
うん、一人称が私だったり、料理好き立ったりするけど、リオは牡です。

「ふふ、もっと牝らしい喋り方とかすればあんたも凄く可愛いのに♪」
「なんだよそれ? 俺はこれがいいんだ。今更変えないぜ」
「分かってるわよ。そういうところもあんたらしいわ」
「ふん……それならいいんだ」

 まったく、意地っ張りねぇ~。

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 次回更新は10月17日以降予定! そう決めた! ちょっとお待ち下さい!
 そろそろお昼ね。リモを弄って遊んではいたけど、なかなか良い時間になったわ。
リオはまだ来ないわ……スタミナは結構あるのよねぇ。

「うーん、リオ戻ってこないわね」
「迷うとは思わないけど、あいつ時間には結構煩いから昼って言ったら昼に来る筈だけどな?」

 ちょっと気になるわね。いつの間にか見える範囲からも居ないし……。
ん? なんか慌てたポケモンが公園の奥の方から走ってくる。

「リモ、あんたポケモンの言葉は聴けるの?」
「誰に言ってんだよ? 当たり前だろ」

 当たり前かどうか分からないから聞いたんだけど……いや、ポケモンに聞くには変な質問だけどね。

「じゃあちょっとあのポケモンの話聞いてきてくれない? 慌ててるみたいだし、気になるのよね」
「……確かにな、ちょっと行ってくる」

 とは言われたけど……私も付いて行こう。リモがどんな風にポケモンと話すのかも見てみたいし。
……なんか、キモ、とかモリ、とかを組み合わせて話してるみたい。話してるのはニドラン♂よ。
あ、リモが驚いてる。しかもこっち見たわ。

「ミノリ、不味い事になってるみたいだ」
「え、何?」
「奥の方にポケモン達が遊び場に使ってる場所があるらしいんだけど、そこでトレーナーが暴れてるみたいだ。こいつ等の見た様子ではな」

 なるほど、ニュアンスとしては人間が暴れてるってとこね。で、リモがトレーナーって言ってる事は、多分ポケモンを捕まえる為にボールを投げてるって事でしょ。まどるっこしい伝え方してくるわね。

「しかも、見た事無い青いポケモンが助けてくれたんだとさ」
「それって……リオ!?」
「あぁ、だろうな」

 不味いって言ったのはそういう事か。リモもリオもモンスターボールに入れた事無いし、もし捕まったら……。
ひっじょうに不味いわ。この辺りにリオルなんか居ないし、狙われたら間違いなくしつこく追いかけられるでしょ。
初めての外出でそんな経験させたくないわよね……外に出るのを恐れるようになるかもしれないし。なんとしても早く見つけなきゃ。

「行くんだろ、ミノリ。道はもう聞いたぜ」
「オッケー、急ぐわよリモ!」

 さっきニドラン♂が駆けてきた方へ。間に合ってくれるといいんだけど……。
ここの公園は、今暮らしてるこの町の目玉の一つ。大きな敷地だから管理は大変らしいけど、その分基本的に自由になんでもしていい事になってるわ。
野生のポケモンが休めるようにって事で林も作られてる……残されてるが正しいわね。それもある為にポケモンも多いの。ただ、今回みたいな事も起きちゃうんだけどね。
リモの案内で林の中を走る……遊歩道が無いって事は、ポケモン達が使ってる獣道ね。

「あれか? 誰か居るぜ」
「そうみたいね、リオの姿は?」
「見えないな……捕まったわけじゃないだろうな?」
「分からないから、行くわよ!」
「おう!」

 目の前に開けた現状は……一人のトレーナーが数匹のポケモンと睨み合った状態ね。
リオは? ……居ない、かな?
まずはこのトレーナーらしい人に話を聞くのが先かな。腰にボールが付いたベルトは分かるけど、後の姿は開襟シャツにジーパン。私と殆ど同じね。因みに私はTシャツ。
顔は帽子を深く被ってるから分からないわね……女性? それとも男性? どっちか分からないわね。

「ちょっとあなた、ここで何してるの?」
「……誰!? 今忙しいんだけど!」
「それは見れば分かるけど、その子達、怖がってるわよ?」
「そうなんだよ! ……え? 怒ってるんじゃなくて?」
「そう、怖がってるの」

 後ろに居たリモにポケモン達の方を宥めるのを任せたわ。私は、この子を宥めるとしようか。

「まずは落ち着いて。あなたの気の昂ぶりも、この子達には伝わるのよ」
「う、うん……」

 体は細めだけど、どうやら男の子みたい。年は身長から見た感じ、12歳くらいね。
リモの方もどうやら収められてるみたい。今は、事情を聞いてるところかな?
ん、リモがこっちに来た。何か分かったかな。

「どうやらそいつが急にボールを投げてきて、友達がそれに吸い込まれたのを見て怖かったようだぜ」
「うわ!? キ、キモリが喋った!」
「あ~、今は気にしないで。で、君はなんでこんな所に入り込んじゃったの?」
「入り込んだんじゃない、見つけてきたんだ! ここにはポケモンが一杯居るって!」
「ふ~ん……それでポケモンを捕まえに来たと」
「だって、強くなるにはポケモンがたくさん居ないとダメだし」

 ふーん、今の子はそういう考えなのねぇ。私が子供の頃もそういう考えの奴は居たけど、えてして弱かったわよ。
だってまともに指示の聞き方も分かってないポケモンばっかり戦わせるから、カモられても仕方ないわよ。ポケモンは可哀想だったけどさ。

「君がどういう考えでトレーナーをやるのも自由だけど、この子達みたいに、君の事を怖がったりしてるポケモンと一緒に強くなれると思う?」
「だって戦うのは俺じゃないんだから、強い奴が居れば勝てるようになるじゃん」
「……それで勝って、君は本当にそのポケモンと一緒に喜べる? 自分のパートナーと一緒に戦ったって、胸を張って言える?」
「それは……」

 言えないでしょうね。ただ単に強いポケモンだもん。あ、因みに今の台詞は私にリオ達を押し付けてきたあいつの決め台詞……らしい。
私はトレーナーじゃないからそう言えるのかも知れないけど、リオやリモと話してると、人とポケモンの違いなんてそんなに無いように思えるし、人の方だけが好き勝手やるのは違う気がするのよね。

「……俺から一言言わせてもらえば、今トレーナーのあんたよりミノリのほうがよっぽど傍に居たいと思うぜ。あんた、自分の事しか考えてないみたいだし」
「ちょっとリモ」
「だって、言わなかったらこいつ同じ事するだろ? こんな奴に戦えって言われてもやる気起きないって」
「だから言い過ぎだったら」

 あらら、やっぱり泣いちゃったか。私が折角オブラートに包んで話してたのに。
まだそういう心の動きなんかはリモに理解してもらおうと思っても難しいか。こればっかりは社交的な経験が必要だからね。
ん? トレーナーの子が自分の腰に付いたボールを外してる。一個を残して……四個。
そのままそれが全部宙に投げられた。なるほど、それを選んだのね。
四匹のポケモンがそれぞれ姿を……って、なーんか見た事ある青いのが居るわね。めっさ泣いてるし。

「ごめんね……友達のところにお帰り」
「うわぁぁぁぁん! かぁざま~!」
「もしかしてーがビンゴしたみたいね」
「おーいリオー、迎えに来たぞー」
「ふぇっ? かぁざまにりもだぁ~! もう会えないかとおもっ、ぶぇっ」
「泣くか喋るかどっちかにしろよ」
「まぁまぁ、目を離してごめんね、リオ」
「こ、このリオルも喋った……」

 他の三匹が林の中に消えて、残ったのは私達とこのトレーナーの子だけになったわ。
男の子の涙は驚きで止まったみたいね。替わりにもっと泣き止ますのが大変そうなのが泣いちゃってるけど。
これはちょ~っと時間掛かるかなぁ。一先ず、ここを抜けたほうがいいわね。
林の中のポケモン達、騒がしくてごめんなさいね。
リオはまともに歩けないだろうし、抱っこして行くしかないか。……抱っこして歩くのはこれが初めてになるかな。

「ほら、君もおいで。もうここでする事は無いでしょ?」
「うん……」
「戻る道なら俺が覚えてる。行こうぜ」

 草を掻き分けながら……と言っても、背の高い草は無いからそのまま歩けるけどさ。掻き分けてくれてるリモを立てておこうかな。そのまま遊歩道まで到着。
……ちょこっとお弁当が気になって覗いたら、なんと無事。そりゃあ、多少は物の位置がずれてるみたいだけど、全力気味に走ってこれなら大したものでしょ。
俯いてるトレーナー君と、私にしがみついてまだ鼻を啜ってるリオはまだ喋れ無さそうだし、リモもこっち見てはいるけど喋らない。あんまりこういう空気は得意じゃないのよねー。馬鹿やってぶち壊したくなっちゃうわ。
それで……やっと噴水まで戻ってきたわ。……不謹慎かもしれないけど、走って汗流すのはやっぱり心地良いわぁ。

「なんかミノリ、すっきりしてないか?」
「ん!? し、してないしてない。気のせいよぉ~」
「ほんとか? まぁ、どっちでもいいけど」

 リモ……侮れない勘の良さだわ。これからは隠し事が難しくなりそうね。
さてっと、これからどうするかは時間がもう告げてるわね。ちょっと遅くなっちゃったけど……。

「よーし、皆、ご飯食べるわよ~」
「そうだな。腹も減ったし」
「くすん……ご飯?」
「そう。食べて元気出さなきゃね」
「じゃあ……」

 ふっ、そのまま去ろうとするのは既に私の読みの内よ。逃・が・さ・な・い・け・ど。

「とぉう!」
「ぐえっ!?」

 クルリと後ろを向いたのなら、掴むのは首の後ろの裾のみ! ぐえっとなるのはご愛嬌ってことで。

「なーにそのまま行こうとしてるのよ」
「だ、だってこれからご飯なんでしょ?」
「……食べていきなさい。ちょっと気持ち楽になるかもしれないし。味は保障するわよ?」
「でも、俺……」
「その辺の話も聞いてあげるから」
「……うん」

 ベンチは三人座り。ん~、私がお弁当を膝の上に置いて、その脇をリモとリオ、もう一人分をこの子に座ってもらうって感じでいいかな。

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 バスケットの中にあった卵焼きやおにぎりは、だいたい半分くらいまで減ったかな。外で食べるご飯は美味しいよね~。

「ん~、んまい」
「美味しいよ~。頑張って作ってよかったね~」
「そうね~」
「えっ!? これ、お姉さんが作ったんじゃないの!?」
「そうね~、私も仕込みなんかはしたけど、作るのにはこの子達も参加してるわよ。君が今持ってる卵焼きを焼いたのは、この子。リオっていうの」
「そうなの? ……凄いなぁ」

 食べてる内にどっちも元気出たみたい。ま、食は笑顔の基本よね。

「あ、あの……」
「ん? なぁに?」
「俺のポケモンにも、食べさせてあげて……いい?」
「……いつ言い出してくれるか待ってたわー。ポケモンフーズしかあげてないとか言われたら困るし」
「じゃあ……」
「もちろん。食べさせてあげて」
「うん! 出て来い、メラルバ!」
「……ん?」

 メラルバ? 聞いた事無い名前ね。ニックネーム……でも無さそうだし。
ボールが割れて出てきたのは……見た事無いポケモンだわ。あらぁ?

「ちょっと遅くなっちゃったけど、ご飯だよ」
「メラ~♪」
「……あの、このポケモンは?」
「え? あぁ、たいまつポケモンのメラルバって言うんだ。なんか、あんまり居ないポケモンなんだって」
「へぇ~、……私の知らないポケモンも、まだまだ居るって事か」
「……どうしたの?」
「ん? なんでもないわ。気にしないで」

 井の中の蛙、大海を知らず。しかりよねぇ~。もう一回色々調べ直そうかな……。
で、おにぎりなんかを早速あげてる。……目での測量になるけど、だいたい全長は一メートル位かな。流石に膝に乗せられるサイズじゃないわね。
ふ~む、普通に食べてるって事は口には合ったみたいね。よかったよかった。

「へぇ、よく懐いてるじゃないか。そんな奴が居るのになんで別のポケモンなんか集めようとしたんだ?」
「リモ……あんたも直球ストレートをばしばし投げるわね」
「……悔しかったんだ。こっちに引っ越してきて、メラルバの事を馬鹿にされて……」

 引っ越してきてってことは、元々この町に居た子じゃないのね。……この辺に居ないポケモンを連れてるんだから、当然と言えば当然か。
気になるのは、このメラルバってポケモンを馬鹿にされたって辺りかな。それが、あの林での騒ぎの原因みたいだし。

「馬鹿にされたって?」
「弱そうなポケモンとか、カッコ悪いとか……いっぱい言われた」
「弱そう……ねぇ」
「何含みのあるような事言ってるのよ?」
「いや、今は話聞こうぜ」
「頭に来たから、それなら勝負しろ! 負けたら謝れ! って言ったんだ。でも……」
「でも?」
「弱い奴なんかと戦わない、弱いのがうつるからって」
「バトルも出来なかった、か」
「そう……」

 なるほど……背景はなんとなく分かったわね。その友達もガツンと凹ませてやりたいわぁ。

「だからこの辺りで強いポケモンを捕まえて勝負すればと思ったんだ……」
「……ふーん、そういう事だったんだ」

 ならあの叱り方はちょ~っと違ったかな。まぁ、間違った事をしてたのは間違いないけど。
にしても、バトルも出来ないんじゃあ悔しかったでしょうねぇ。言われ放題でそのままなんだから。

「………」
「ん? リオ?」
「そんなの変だよ。だってメラルバちゃん弱くないし」
「なんだ、リオにも分かったのか」
「うん。この辺りに居るポケモンなんかよりずーっと強いよ。それに、体の中にまだまだすっごい力、あるみたいだもん」
「……そんなのまで分かるのか? 俺には、流石にそこまでは分からんけど」
「メラルバちゃんの体からぶわ~って赤いのが出てて、体にはキラキラしたのが見えるの」

 ……リオルが見えるっていう、波導って奴かしらね? リオの目にはそんなのも映ってたのか……今度私とかリモはどう見えるか聞いてみよう。
しかも『ちゃん』って事は……。

「その子……牝?」
「う、うん。見ただけで分かられたのは初めて」

 見ただけで性別を決める事は出来ないわね……予想外だわ。
ふ~ん、リオの言う事だと、この子にはまだ秘められた力があると。知らないポケモンだからなぁ……私は確信を持ってそうは言えないわねぇ。

「なんかさ、そんな事言う奴らなんかほっとけよ。どーせ大した事ない奴らだろうし」
「そうだよ。そんな事言う人達の所為でポケモンに嫌われるような事するのなんか変だよ。優しそうなのに」
「そうね……友達は増やしたほうが良いだろうけど、自分を相手に合わせる為に無理するのは違うわ」
「そう、かな? ……うん、メラルバを馬鹿にされないようにする為に他のポケモンを捕まえるのは違うよね。……ごめんなさい」

 ふふっ、悪い子じゃなくて良かったわ。まー、私達の意見も結構極論なところあったから、全部をそのまま聞かれてたらそれはそれで不味かったわ。
でも、大切なパートナーがもう居るなら、その子を大事にしてあげてほしい。その上でパートナーを増やすかは考えてほしいな。

「メル?」
「なんでもないよ、メラルバ。俺のパートナーはお前だって言ってただけ」
「ん、もう大丈夫みたいね」
「うん! ありがとう、お姉さん」
「気にしないで。お節介でやっただけだから」
「丸く収まったか。なら、食後の運動でもしてくるかな」
「私もまた遊んでこようかな。……リモ、一緒に行こうよ~」
「はいはい、分かってるって」
「あ、あの……さっきのお詫びにはならないけど、俺も行って良い? メラルバの友達になってくれると嬉しいし」
「……へへっ、ついて来れるならな!」
「あっちまで競争だよ!」
「あっ、よーし、行こうメラルバ!」
「ラバ~!」

 子供が友達になるのなんて、このくらい簡単な方が丁度良いわよね。難しく考えないのが良いのよ。
そういえば、名前全然聞いてなかったわね。ま、リモ辺りが聞いてきてくれるかな。

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 次回更新は10月25日以降予定! そう決めた! ちょっとお待ち下さい!

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 コメント欄~……作らなくてもいいかな? っと思ったけど設置。
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