十八禁表現有 無理人後退推奨 ---- 「残念だけど、君の絵を買い取ることは出来ないよ…」 はっきりとそういわれて、一つの影ががっくりと頭をうなだれる。よくよく見ると、影は二つ、夕焼けの中で、伸びたり縮んだり…不思議な光景が建物を通して映る。 「君の腕も才能も悪くは無い…君の考えは古すぎるんだよ…もっと新しい発想の絵画を持ってきてくれ」 一つの影はそういって会釈をすると、静かにその場所から立ち去った。 夕焼けの美しい光がより一層輝いて、先程までいた影の場所を更に照らし出す。そこに映ったのは――一匹のカメール。 「…僕の絵は、古いかぁ」 水色と青が合体したような体の色に、苔がついている古い甲羅を背中もち、他のポケモンたちよりも小柄なポケモンだった。 「……イメージを変えなくちゃいけないのかなぁ…」 そういってカメールはちらりと横を向いた。つんとした油絵の具の臭いが鼻腔を刺激して、視界をその絵に集中させる。 カメールの目に映ったものは、自分が書いた町の風景だった。何のことは無い、ただの風景画。 「新しい発想……毎日変わる町並みは、新しくないのかなぁ…」 カメールは毎日この場所で夕焼けの町を描くのが日課だった。誰に頼まれたわけでもない、本当に絵を描くことが好きだったから…お金にならなくても、自分の描いた作品が誰かに見てもらえるだけで幸せだった。 だが、世間はそこまでやさしくは無い。絵を描くのも、お金が必要だ。カメールがやっている油絵というのは、とてもお金がかかる。何よりも油絵の具の値段が高いために、自分の作品を美術商の目利きに持っていっては買ってくれないかと言う商談を毎日のように繰り返していた。 しかし、先程の会話の通り、カメールの絵は全く受け入れてもらえなかった。消して下手なわけではない、むしろうまいと呼べる部類に入るだろう。 画風が古すぎるのだ。 もっと新しい発想の絵画を持ってきてくれ… 「新しい発想にとらわれて…古い絵の具の渇きを忘れちゃったのかな…でも、こんなこと言っても負け惜しみにしか聞こえないや」 カメールはため息をついて立ち上がった。周りを見渡すと、いろいろなポケモン達が笑いながら回りを駆け回っている。 木々がざわめいて、虫ポケモン達が鳴いている。錆付いた遊具の数々…ここが公園ということを、カメールは思い出したかのように、カメールはきょろきょろとして周囲の確認をした。 「………」 のそのそとした動きでその場所から離れると、違う場所に座り込んで、油絵の具や画材を取り出し始める。 「……」 両手で輪を作り、どの風景を描くか決める、どこにするかは決まったようで、おもむろに赤と青、そして黄色、緑、紫…さまざまな色の油絵をとると、溶き油の中に突っ込んであった筆を二本引っつかむと、真っ白いキャンパスにさまざまな色を塗り始める… 緑を塗りたくり、その上に紫を重ねて、更にその上に青をのせて、…ただの落書きのように見えていたのに、いつの間にかキャンパスには夕焼けの町並みが形作られていた… 「………」 カメールはいたって真剣に、風景を見ながら呼吸をするように筆を動かす。まるで先ほど言われた言葉を否定するように、ただただ絵を描き続けた。 「…………」 周りのポケモン達が見ていても、カメールは気にしていない。いや、気にしていないというよりも、気がついていないのかもしれない。一つの世界に入り込んで、一つの景色を見つめ続ける。 それは周りが何と言おうとも、誰が何を囁いても、その世界に入るものには何も聞こえない。 「…駄目だ」 カメールは突然そういうと、筆を動かす手を止めて、筆洗器の中に油まみれの筆を突っ込んで、まだ生乾きのキャンバスや画材を手に取ると、とぼとぼとその場所を去っていった。 帰り道、いろいろな声がカメールの中に入ってくる。 「お母さん!!今夜のご飯はなぁに?」 「今日はカレーにしましょうか」 「おい、お前、ぶつかっておいて謝りもしないのかよ」 「それはこっちの台詞だ」 「私、貴方が他の女と一緒にいるところを見たのよ」 「ま、待てよ、それは誤解だって!!」 「やあやあそこの人、ちょっと手品を見ていかないかい?」 「へえ、面白そうですね…どんな手品がありますか?」 耳を済ませれば、いろいろな人のいろいろな声が入ってくる…この世界にいる全てのポケモン達が、生きているというのが分かる、怒った声、笑った声、鳴いている声、誰かを問いただす声、引き止めるような声…そんな声の数々がカメールの頭の中に入ってきて、皆必死に生きている、頑張って命を紡いでいる… 「くすっ」 思わずいじらしくて笑みがこぼれる…この世界の中で、自分の問題など些細なことだったが、カメールはこの町が、この世界が大好きだった。 いつかは、この町の風景だけじゃなくて、いろいろな世界の景色を自分の筆で描き出したい…それが彼の夢だった… 「…諦めてちゃ、夢は叶わないもんね…」 カメールはもう一度頑張ろうという気持ちをもう一度燃え上がらせ、右の手をぎゅっと握る。手の中の体温が体中に伝わるような感じがして、体全身が温かくなったような気がした。 今の季節は冬…最近は暖冬が多いが、いつ雪が降るのかもわからない。今日は暖かかったが、いつ寒くなるか分からない… 「寒くなってきたら、きっと自由に絵を描くことができなくなるんだろうな」 カメールは残念そうな顔をした。一度でもいい、雪の世界を写真じゃなくて、肉眼で捉えて描いて見たいと思った。しかし、亀というのはめっぽう寒さに弱く、冬になるとあまり動かなくなってしまう。 カメールはそれが残念で仕方が無かった。 「こんなことなら今すぐにでもリザードに転生したいなぁ」 そんな叶わない希望をひそかに思いながら、カメールは自分の家へと歩を進める。 「…??」 ふと、カメールは足を止めた。奇妙なもの見たような顔をして、ビルとビルの間の狭い通路に、一匹のポケモンがいることに気がついて足を止めた。 「誰だろ、あんなところで何を――…あれは…キャンパス?」 カメールの瞳の中に二つのものが入り込む。ひとつは真っ白なキャンパス。もうひとつは、このあたりでは見ることのないポケモンだった。 黄色い体に、もみ上げのような黒い帯のようなものが二つ、頭から垂れ下がっている。それよりも目を引いたのが、頭から提灯のようにぶら下がっている…大きな口。 「…凄いや、何か食べられそう…」 そのポケモンはクチート、そんな種族名などカメールが知る由も無く、カメールの興味は別の方向へと変わって言った。すなわち… ――彼女がどんな絵を描くのだろうか… しかし、彼女は筆はおろか、絵の具の類すら持っていない…一体どのようにして絵を描くのだろうか… そんなことを考えていたら、そのポケモンが動いた。ゆっくりと右手の人差し指をキャンバスに押し当てると―― ――指先から赤い絵の具が滲み出した。 「!!!??」 カメールは信じられないという顔でそのポケモンの指が紡ぎだす色彩に釘付けになった。 確かに指から絵の具がにじんでいるとしか思えない。しかし、それだけでは絵を描くのには意味が無いということは、カメールもよく知っていたが、彼女の絵を描く動きは流れる清水のごとく、美しく、緩やかに何かを描いていった。 途中で色が変わったり、絵の具の軌跡が細くなったりしているのも、油絵の大切なことだ。とにかく、色を重ねて、細かいところはとことん細かく、大雑把なところは大胆に。 それを混ぜ合わせて、とても美しい絵が出来上がる。 「…調和の、扉」 カメールはできた絵を見て、一目でそれが何かを察知した。 黄色と黄緑の柔らかい色彩で出来た森の中に真っ白な扉がたっている。 その扉がどこに続くのかは分からない、希望の先なのか、絶望の先なのか。その扉を見て、どのような考えを持つのかはこの絵を見る人次第… 願わくば、この扉の先が調和の心で溢れるように…それが描いた人のメッセージであった。 それゆえに、その絵は調和の扉というタイトルがつけられ、今でも数億円の価値がある絵の一つだった。これを書いた人はスフレという名の有名な芸術家だということも知っていた。 「凄い…調和の扉の完全な模写だ…」 素人目が見ても分かる、レプリカでも凄い…完璧な模写だった。 「…これが、天才ってやつなのかな…」 カメールはどうして彼女の指から絵の具が出るのかという不思議な現象をそっちのけにして、彼女の絵をもう少し間近で見てみたいと思い、近づこうとしたが―― 「……」 急に彼女の前に二匹のポケモンが現れて、いきなり彼女を連れ去ろうとした。 「!!……!!!」 何と言っているのかは遠すぎて聞き取れなかったが、彼女がそのポケモンたちを拒絶しているしているということだけはカメールにも理解できた。 「!!なして…放してぇ!!!」 声が聞き取れた、確かに彼女は拒絶している。 「早く連れて行くんだ!!」 「えっへっへ…大人しくしろよ…お前は俺達にとっては金のなる木なんだからよ!!」 何を言っているのだろうか?金のなる木?早く連れて行く?? 何のことかはよくわからないが彼女が嫌がっていることだけは理解が出来た。 何よりも、彼女と彼女の絵を乱雑に扱う二匹のポケモンを見ていて、怒りが湧き上がってきた。 「汚い手で…"調和の扉"に触るなぁっ!!!!」 カメールは思い切り声を張り上げると、二匹のポケモンに"すてみタックル"を叩き込んだ。 いきなり知らないカメールが突っ込んできて、私はびっくりした。でも、そのおかげで私の腕を掴んでいたサワムラーの力が弱くなった。 これはチャンスだった。思い切り腕を振り回して拘束から開放される。 「あっ!!」 サワムラーは慌てて私を捕まえようとする。だけど二度も同じようにつかまるほど間抜けじゃない。ひらりと華麗にステップを踏んでサワムラーの腕を回避する。 「うおっ!!」 そのままつんのめってサワムラーは"すてみタックル"を食らって昏倒したベロリンガに正面から思いきり突っ込んだ。 「だ、大丈夫!?」 頷く。カメールが安堵の顔をしていたが、あの二匹がいつ起き上がるか分からない。おろおろしていたらカメールが手を差し出した。 「ここは危険だよ…こっちへ…」 導かれるようにカメールの手をきゅっと掴む。暖かく、力強く、ちょっとだけ油絵のにおいがしたカメールの腕。もしかしたら私と同じように、何か美術関係の仕事をしている人かもしれない… そんな思考は、走って酸素をがんがんに使っている肺の悲鳴と一緒に…綺麗さっぱり頭からすっぽりと抜け落ちた。 「はぁ、はぁ、はぁ、」 カメールの息が荒くなっているのが分かる。ああ、他人のためにこんな風に頑張れるポケモンがこんな間近にいるなんて… 私はカメールに少し興味がわいてきた。 何で私を助けたのだろうか?…なんとなく理由は分かっている。おそらく先程の油絵を描くところを見られていたのだろう…私の指先から油絵の具が出たのが気になったから助けたのだろう。 いろいろと脳が働いていたら、走る速度がゆるくなった。どうやら完全に逃げ切ったらしい。ここはどこだろうか?…すっかりあたりが薄暗くなり始めてよく見えなかったが、公園であることだけは間違いなさそうだった。 「ここまでくればっ…はぁはぁ…大丈夫だよっ…」 カメールがぜいぜいと息を切らしながら、手をひざについて呼吸を整えている。それはそうだろう、もともとカメールという種族は陸地に適応した種族ではないのだから… それでも、助けてくれたことには感謝していた…まさかあんな屈強なやつらがくるなんて思っても見なかったからだ。 「大丈夫ですか?」 一応声をかけてみた。返事は無い、ただぜいぜいと荒い息を吸ったりしているだけだ。かなり水分を消費したのだろう、げほげほとせきをするような音が混ざっていた。 私は辺りを見回して、水飲み場を探すと、そこについていた水道の蛇口を捻って、後ろのあごにたっぷりと水を汲んで、カメールのところへと走っていった。 「お水…飲めますか?」 ひょいっと後ろを向いて先程汲んできた水の入ったあごを差し出す。若干抵抗があったのか少し躊躇っていたようだが、カメールは両手で水をすくってごくごくと飲み始めた。意外と礼儀正しいポケモンなのかもしれない、別に私はそのまま口をつけて飲んでくれても一向に構わないのに… 「…………ぶはぁっ!!…えほっ、えほっ…」 慌てて飲んでいたのか、少しだけむせたような声がした。飲み終わったのを確認して、改めてカメールのほうに向き直る。 よくよく見ると、体のあちこちに油絵の具の後と見られるような色がついていた、それに甲羅にも油絵の具を洗う筆洗油の臭いが少し残っている… これで確信した。この人は画家だ…だけどカメールの画家なんて聞いたことが無い。期待の新人なのだろうか?? 「あの、助けていただいて、本当にありがとうございました…」 「えっ?あ、ああ、いえ、その、僕も…無我夢中で…何が何だか……ハハハ…」 カメールは照れ笑いをする。何だか面白いポケモンだった。こういう人が、きっと自由な発想と奔放な筆の調を武器に、いい作品を作り上げるのだろう。 「…いきなり私を連れ去ろうとして、本当に恐かったです…本当にありがとうございました」 もう一度お礼を言う。そんな、別にいいですなどと言いながらカメールの顔はまんざらでもなさそうだった。おだてると成績が伸び悩むタイプのようだ。 それでも、助けてもらって本当に嬉しかった。正直に言うと、本当に恐かった、何をされるのか分からなかった。今でもひざが少し震えている。 「あ、僕の名前言ってなかったですね…僕はリキュールっていいます。よろしく――するかどうかはまったく分かりませんけど…」 アハハ、などといってリキュールは握手を求めた。さっき私を導いてくれた、大きくて力強い手… 「よろしくお願いします。リキュールさん…」 にっこりと笑って握手をする。手を握ったときにリキュールの手が若干震えて、熱くなったのが分かる。 あ、リキュールさんは、今ちょっとだけドキドキしてるんだ… 「ドキドキしてます?」 「ちょ、ちょっとだけ…」 素直に答えてくれる必要なんて無かったのに、根が正直者の分騙されやすいのかもしれない。 「…あ、あのぉ…」 リキュールが遠慮がちな声を出した。何か聞きたいらしい。私は首軽く捻ってから不思議そうな顔をした。 「どうかしましたか?リキュールさん」 「あの、さっき…」 あ~、やっぱり気になるんだろう。私の指先からどうして油絵の具が出てきたのか。助けてくれた恩もあるし、ここは答えたほうが良いだろう。 「さっきの指から油絵の具が――」 「さっき、君が描いていたのは"調和の扉"だよね?」 質問の内容が180度違っていた。 「え?…あ、はい。確かにあの絵は"調和の扉"ですけど」 「凄くうまいですね…。僕もいろいろな画家を見てきたけど。スフレ巨匠の描いた"調和の扉"をあんなに簡単に模写するなんて…」 根っから絵を描くのが大好きなのだろう。でなければこんな質問はしてこない。本当に純粋な心を持っていて、私は思わず笑ってしまった。 「ぷっ…く、くくっ…うふふふふっ」 「え?ぼ、僕、何か可笑しなこと言った??」 くすくすと一頻り笑った後に、薄い微笑を浮かべて私はリキュールの顔をじいっと見つめた。 「リキュールさんは、本当に絵がすきなんですね…私とお友達になれそうですね…」 「え?あ、はいっ…」 「うふふっ」 「…え、えへへ」 二人で顔を見合わせて小さく笑いあう。何だかさっきの出来事が嘘のようだった。 「そういえば、何でさっきは変なポケモンたちに襲われたんですか?」 落ち着いた後、適当なベンチに座ってしばらくたったら、リキュールが話しかけてきた。 「…どうやら私と私の描いたガラクタを欲しがっていたようです」 「ええ!?」 リキュールは目を見開いて驚いた。それは確かな反応だろう。私も初対面の人がいきなり融解されてきたのを逃げ出してきたなどといったら驚く。 「…よくあるんですよ。私に価値があるとか、力ずくでも奪い取るといってきて…さっきのポケモン達のように私を狙ってくるポケモンが毎日毎日私を付回すんです」 「大変そうですね…」 「はい。…おかげで大好きな絵を描く時間も取れなくて…」 「それは…おつらいでしょうね…」 リキュールが分かるといった顔で私を見つめる。きっとリキュールも自分の絵を描く時間がないとき、とてもつらい思いをしたのだろう。 「はい、私はただ。自由に絵を描きたいだけなんです…。でも、現実はこんな毎日で……はぁ…」 思わず思い切りため息をついてしまう。はっとして慌ててリキュールを見つめる。気にしていませんよ、といった顔でリキュールはにっこりと笑った。 「でも、どんなことがあっても自分の絵をガラクタ扱いしたら駄目ですよ…あんなに綺麗な絵をかける人なんだから。…僕には無い才能が、僕にはとても羨ましいです」 そういって照れ笑い。自分に自信が無いのだろうか?リキュールの絵を見ていないので何ともいえないが、リキュールを見ているとそんなに才能がないようには思えない。 「リキュールさんは…どうして絵を描く時間がないのですか?」 そういえばリキュールがどうして絵を描く時間ができないのか聞いていなかった。リキュールは俯いて、あまり喋りたそうな顔はしていなかった。 「あ、ごめんなさい…言いたくなかったらいいんです」 両手をぶんぶんと振ってごめんなさいという。リキュールは大丈夫ですといって、ゆっくりと理由を話し出した。 「僕は風景画をかくのがすきなんです…毎日同じ場所で、でも一日一日変わっていく景色を描くのが本当に好きで…でも、僕は貧乏で……画材を買うお金があまり無くて…しょうがないので自分の描いた絵を美術商にもって言って売れないかどうか見てもらうんですけど…殆どが駄目でして……買い取ってくれても雀の涙ほどの収入しかえられないんです…」 「…成程」 それはあまり話したくないだろう。自分の経済状況を相手に話しても、相手は何もしてあげられない。 「でも、僕は諦めません…いつかは皆が僕の絵を見てくれるようになりたいんです……夢は諦めたら終わりですから…」 「……リキュールさんの……夢?」 「はい、僕は…風景画の革命家と呼ばれたスフレ巨匠に認められるような風景画を描くことが、僕の夢なんです!!……もっともっといろいろなところにいって、いろいろなものを見たいんです。かつて、スフレ巨匠がそうしたように…」 成程…。リキュールは尊敬する目標がハッキリしているから、どれだけ極貧生活をしていてもこんな風に前向きに慣れるのだろう。 「だから、スフレ巨匠の画風を完全にモノにできる君の絵をガラクタって言う君の発言は僕は許せない…それだけの力があるんだから…もっと自分の絵に自信を持って」 …そういってリキュールはにっこりと笑った。そんな風に励まされたのは初めてだと思った。しかし… ガラクタなのはガラクタだ。 「ありがとうございますリキュールさん…でも、私の絵はガラクタなんです…」 「そんな…」 「"調和の扉"は私が描いた風景画の一つに過ぎませんから…それに、中央美術館に展示してある"調和の扉"はあまりよい出来ではありませんでしたから…先程描いていたのは色彩を変えてみようと思ってもう一度描いていたのですよ…」 「……え?」 リキュールがまの抜けた声を出した。その声と顔が妙な感じで、思わずまた笑ってしまった。 「うぷっ…アハハハハハハ……」 笑っている私とは対照的に、リキュールは訝しげな顔をして、こういった。 「そ、そういえば…君…じゃなくて、貴方の名前は――」 そういえば名前を言っていなかったなぁとおもいながら…しゃんとすると、スカートのようにひらひらした下半身の帯状のものを両手でつまんで、軽く一礼。 そして―― 「これは申し送れました。私の名前はスフレ…世間では風景画の革命家と騒がれています」 自分の名前を打ち明けた。 絵画というのは、価値のあるものと無いもの。その二つに分かれるのかもしれない。 しかし、スフレ巨匠の描いた絵画は、そのどちらにも属さなかった。 価値がある、価値が無い。そんなもの微塵にも感じない素晴らしさを、巨匠の絵には感じた。それは僕の勝手な想像なのかもしれないが、それでも、スフレ巨匠の絵にはそれだけの魔力があった。 どれだけ心の中で、スフレ巨匠の姿を想像したことだろうか。僕の勝手なイメージでは、厳格で、神々しいイメージがあった…が、しかし。今、目の前にいるクチートの女の子は、自分の想像とまったく違っていた。 「リキュールさんは表情豊かな顔をしていますね。その表情はきっと表現も豊かにしてくれるはずですよ♪」 目の前のクチート…というよりも、風景画の革命家…スフレ巨匠はにっこりと笑った。 「え、あ、そ、その、あの、えっと、ど、どうも……きょ、恐縮です…巨匠…」 何が何なのか、完全に出鼻をくじかれた感じだった。思わず会釈をしてしまったが、それはそれでありなのだろうか…そんなことを考えていたら、スフレ巨匠は暗がりに近くなる空を見上げて、ふぅ、と、ため息をついた。 「そんなにかしこまらなくていいですよ。先程と同じようにしていてくださっていいんですよ。私のことも、スフレでかまいませんから…」 「でも」 「恐れ多いですか?リキュールさんと私の年齢はおそらくそう違わないと思いますけど…?」 にこりと微笑んで、リキュールを見た。リキュールはそれでも何ともいえない釈然としないものを抱えた顔をしていたが、しばらくして納得したらしい。大きく息を吸い込んで深呼吸。 落ち着きを取り戻したのか、リキュールの顔がしっかりとしたそれに戻っていく… 「で、でも、君が本当にスフレ巨匠だったら…ううん、スフレちゃん…君はどうして自分の絵をそんなに否定するの?」」 そういって、顔に暗い影を落としたのが自分でもなんとなく分かった。自分の性格がここまでストレートに表に出ることはなかなか無いことで、不思議な感覚がした。 「私が私の絵をどういおうと勝手…と、言いたいところですが、そんなことでは納得が出来そうにないので…一応私の絵の種明かしをしておきますね…」 スフレはどこからとも泣く一枚の紙を取り出した。それは真っ白な紙で、面も裏も白、しろ、シロが続いていく。見た目の感じから和紙ではない。ただの紙だ。スフレはそれにゆっくりと指をくっつけて、優しくなぞりだす… ――するとどうだろうか、何もなかった紙に、赤色が、青色が、黄色が、緑色が、紫色が、まるで虹が出来るかのようにどんどん色がついていく。 それはリキュールから見ると、スフレの指先から出ているように見えるだろう。誰から見てもそう見えるに違いない…なぜなら、指先から絵の具が出ていることに変わりは無いのだから… 「…あ、さっき見た…」 自然にそんな言葉が出てきた。特に驚きもしないが、間近で見ると本当に指先から出ているというのがはっきりと見て取れた。 「あまり驚くことも無いんですね。まぁ、私も別段驚くことはありませんでしたけどね…これは"マジカルフィンガー"と呼ばれています。直訳すると"魔法の指先"ですね。指先なのか、指なのかは知りません。私、英語は少々苦手なので…」 悪戯っぽく笑って、スフレはぐちゃぐちゃした色合いの紙を渡してくれた。僕はどんな顔をしていたのだろう、おそらくかなり物憂げな顔をしていたかもしれない。そりゃそうだ。名のある芸術家が見たらかなり怒り出すかもしれない… ―――指から絵の具が出るなんて、多分誰も信じない。 「この力がどうして私にめぐり合ったのかは私自身にも分かりません。一部の芸術家達は邪な心や邪念が無い真の芸術家に"マジカルフィンガー"は宿るといわれていますが、私達芸術家は大体においてがめつい守銭奴が多い世界ですから、私もその中の一人でしたので、どうして私の指先に"マジカルフィンガー"が宿ったのかは私自身が判らないので調べようがありません。」 饒舌にぺらぺらと喋ってから、スフレはほうっと一息ついた。吐いた息が白い煙のように伸びて、空に舞い上がる。 「だからこそ、私はこの変な力で描いた絵が気に入らないんです…これで絵を描くと、短い時間で、とっても完成度の高い絵が出来るから…」 スフレはそういって悲しそうな顔をする。僕はただ単に、自分の絵が嫌いなだけかと思っていた…でも、そうじゃない。 彼女は、きっと…この力で描く絵が世間に受け入れられるということを嫌悪しているのだろう。こんなズルを下絵じゃなくて、自分でしっかり描いた絵を評価してもらいたい…そういう風に思っているのかもしれない。 ――でも、 「スフレちゃんの考えは、分かるけど、ちょっと違うんじゃないかな?」 「…え?」 驚いた顔をして、スフレが僕の顔をじっと見つめる。妙に照れくさい気分になりながらも、頑張って言葉を紡いでいく… 「ポケモンには知恵がある。道具や能力にはそんなものついていないじゃない…意思がこもってないんじゃないかな?」 「…意思?」 「どれだけ凄い力でも、そこにあるだけじゃ動いてくれない。凄く使いやすい筆でも、誰かが握らなくちゃ力が出ない…それと同じことだと思うんだ…君の力はまさしく、君自身の力だよ…指から絵の具が出たって、別に気にすること無いんじゃないかな?…絵のイメージや、こんな風に描きたい、こんな感じで形にしたいって言うのは、スフレちゃんの独創から生まれるものでしょ?…それは誰かがまねできるものじゃない、君自身の感性…道具は使うもので、使われるものじゃない」 すっと、息をゆっくりと吸い込んで、よく聞こえる声で、はっきりといった。 「"マジカルフィンガー"は、君の絵筆だよ…それだけははっきりいえる…」 スフレは目からうろこが落ちたみたいな顔をして、自分の指先をじっと見つめた。外はすっかり真っ暗闇、ヤミカラスの泣き声やムウマの脅かす声が辺りに木霊する。正直に言ってあまり長くいたい状況ではない。 「…その発想は無かったです…そんな風に言ってくれた人は、初めてかもしれません…」 スフレはちょっとだけ頬を赤く染めて、恥ずかしそうに微笑んだ。そんな彼女を見て、可愛いと純粋に思う。 「…巨匠にそんな風に言われると光栄だよ」 冗談めいてにこりと笑う。スフレはすぐにむすっとむくれる。 「もうっ、巨匠は禁句にしますよっ!!」 「あははははっ」 そんなやり取りを交わしていると、聞きなれない声が後ろのほうから響いてきた。 「こっちに足跡が」 「この辺りにいるはずだ!!」 「ちくしょ~!!絶対に逃がさねぇ!!」 さっきのやつらだ。まずい、助っ人を呼んできたのか… 「さっきのやつらみたいですね…しかも人数も増えてる…」 「ど、どうしましょう…帰ろうにもホテルの道はあのポケモン達がいるし…」 スフレは本当に困った顔をする。人数が増えているということは他にも探し回っているポケモン達がこの公園周辺にいうろうろしているということだろう…先程のスフレの襲われっぷりを見ると、それくらいはそろえてそうで恐い。 「…あ、あのさ…」 「え?」 究極の選択だ、迂回するほうがいいのかもしれない…急がば回れ、回れ、回れ、回れ回れ回れ回れ… 「そんなに危ないなら、僕の家に来る?…方向も逆だし…」 回れなかった… 「ど、どうぞあがって……へ、部屋はちょっと油臭いけど……」 男の子の家に入るというのは初めての経験だったけど、何だか自分の部屋より凄いかもしれない。さまざまな絵の具が床に散らばって、凄い強烈な臭いを放っている。ふたがなくなってかさかさに乾いた絵の具もあるし、全然掃除していない筆洗器が二、三個ほど転がってそれも異臭を放っている。 それだけではない。いろいろな絵の具の色がついた絵の具なんかもビンの中に大量に突っ込まれているし、くしゃくしゃになった油絵の布なんかもその辺にたくさん積み重なって山になっている。 墓場だった……絵の具の墓場……。私が想像する男の子の部屋とは一線を駕す、まさしく"油絵の具の部屋"という言葉がぴったりな空間だった。 多分普通の人が見ると、何じゃこりゃと思うし、多分長く居たい場所でないはずだ…… でも、私にはこのくらいがちょうどいい。この空間……リキュール君の部屋は――好きだ。 「ご、ごめんね、全然掃除してないから凄く汚くて臭くて……いや、ほんとにすみません……」 なんだかよく分からないけど謝られた。女の子を入れるのは初めてなんだろうか?……凄くぺこぺこしている姿を見ると、何だかおかしくなって自然に笑みがこぼれる。 「そんなに謝らなくていいですよ。私のお部屋も汚いですから……正確にいうと、私の実家の家ですね……それに、それほど絵に集中している証拠ですから」 「え、エヘヘ……ありがとう」 彼は顔を赤くしてそっぽを向いた。私は一通り部屋を見渡して、壁にかけられたひとつの絵に目がいった。 結構昔に描いたのだろう、油絵の具は完全に乾燥して、触ってもつくようなことはない。立派な額縁に入っている絵は、さまざまなポケモン達が笑顔でうつっている……下にタイトルが書いてある………"大切な友達"……。 「この絵は?」 何気なしにそう呟いたら、リキュール君は目をまん丸にして慌てて両手で絵を隠した。 「だ、駄目だよ……こんな下手糞な絵なんか見ちゃ……」 「私にはそうは見えないな……絵の個性、完成は人それぞれだから……素人目から見るとへたっぴな絵が、数億万の価値がある世界なんだよ?……下手糞でも何でも心がこもっていると何でも光って見えるんだよ。少なくとも私の目には、リキュール君の絵はへたっぴじゃあないと思うけど……みーせて」 かわいこぶって視線を左に移動する。リキュール君の体が左に移動、右に移動させる……右に動く。 「ぶぅー、みーせーてーよー」 「わーっ!!こらぁっ!!スフレちゃん!!?礼節のある折り目正しい人だと思ってたのにぃ!!」 「リキュール君が勝手に勘違いしただけですよーだ……こらー!見せなさい!!み、せ、な、さ、い!!」 「い、や、で、す、よってうわぁっ!!!」 くんずほぐれつ大格闘をしていたら、リキュール君がバランスを崩して私のほうに倒れてきた。そして不運にも、マウントポジションになってしまった。 「や、やぁ……」 思わず顔を紅潮させてそっぽを向く。よくわからないけど、何だか心臓がどきどきして、うっすらと体が汗ばむ。早く放して欲しいのと、もうちょっとだけこのままでもいいかな、という気持ちが複雑に絡み合って―― 「ちょ、スフレちゃんストップ!!!食われる!!食われるから!!」 はっとしてみてみたら、大口のほうを無意識に動かしていたらしい、今にもリキュール君を食わんとする勢いだった。慌てて大口を引っ込めると、リキュール君もどいてくれた。冷や汗をかなりかいていた。 「あぁびっくりした……もうほんとに勘弁してよ……こんなところでスフレちゃんに食べられたくないってば……」 「あ、アハハ、ごめんなさい」 さっきの高鳴りはなんだったんだろう…… 忘れよう、きっと、気の迷いだろう。 「……この絵はね……」 気になって仕方が無かったという気持ちが伝わったのだろう、諦めたようにリキュール君が話し始める……しかし、その顔はあまり嬉しそうな顔ではなかった。 「僕が昔住んでた小さな村で描いた一枚の絵なんだ……小さな頃から貧しくてさ、絵を描いて売れるようになればきっとお父さんやお母さんに楽をさせて上げられるって思ってて、それで絵の練習ばかりしていたんだ。……だけど、それは間違ってるってお父さんが教えてくれたんだ……絵が好きなんだろう?だったら、それを伸ばせ。売れるようになるために練習するんじゃない……絵がもっと好きになるように練習しろって……」 静かに聞いていたら、リキュール君が湖水のような瞳で私を見つめていることに気がついて、慌ててそっぽを向いた。恥ずかしくて目をあわせられないんじゃなくて、哀れむような顔だったのかもしれないから、それを悟られたくなかっただけ……。そうやって自分に言い聞かせるしかなかった。 リキュール君の顔は、本当に悲しそうだったから……。 「だから僕は、その言葉を胸にしまいこんで……自分が大好きだった村と、大好きだった村の皆を一枚の絵におさめたんだ……つらいときや、悲しいとき、この絵を見つめて自分が何のために絵を描くのかを思い出してね……でも、現実だとお金の調達が第一だったから……いまさらこんな考え古臭いのかもしれないね……」 そういってリキュール君は自分の描いた一枚の思い出に目を向ける。私もつられるように視線をそっちに移す…… 綺麗だった。淡い黄色で描かれた稲穂の中に集まる、たくさんのポケモン達……美しい風景の中に溶け込んだポケモン達は、皆笑っている。 「綺麗な絵……」 「そんなものじゃないさ……おまじないみたいなものだから……」 ただ単純にそういって、照れ隠しのようにリキュール君は笑う。 さっきの騒動のように、私には絵画を純粋に楽しむという気持ちが無かった。完全に無いというわけではない……しかし、悪いやつらに追われる毎日に、気まぐれに絵を描けばそれが数億単位で美術商の間を行き来する……こんなことを数ヶ月繰り返せば、金銭感覚は麻痺し、お金のありがたみや、絵に込める気持ちが完全に薄らぐ。 多分私があまり絵を出さなくなったのは、恐れたのだろう。リキュール君のように、純粋に絵が好きな自分が心の中から居なくなることが…… 「……もうそろそろあいつらも諦めたころじゃないかな?……スフレちゃんのホテルってどのあたり??ここから遠いって聞いてるし、送っていくよ……」 その言葉を聞いて、全身が硬直した。 またあのホテルに戻るのだろうか……不自由など無い。わざわざ高い金を払ってまで半永久的に借りた高級ホテルだ。不自由があるほうがおかしいだろう。 だが、心の自由までは変えることができない……あそこにいてまた絵を描き始めれば、今ここにいて、純粋に絵を見て美しいと思える心が戻ってくるのだろうか? 戻らない。いやだ、帰りたくない……もっと、もっとここにいたい。もっと、彼のことを知りたい……。 今までこんな気持ちになったことが無かった。指先からにじみ出る色彩の力で、何不自由なく育ってきた……。 でも、そう思っていただけだった………。 私の自由は、今、彼と一緒にいるときだけが、私の本当に自由な時…… 「私、帰りたくない……」 「ええ!?」 「あそこに帰ったら、今みたいに絵を純粋に見ることができなくなる……そんなの嫌……やだよ」 「……スフレちゃん」 視界がぼやけて、頬に熱いものが伝わる。泣いているんだ……でも、本当に嫌だった。 「お願い、私、もっとリキュール君と一緒にいたい……リキュール君に何でもするから……ここにいさせて……」 むちゃくちゃなお願いだった。 でも、彼はそれを聞き届けてくれた。 「……ここにいて、スフレちゃんの"絵を心から好きになれる自分"が取り戻せるなら、いくらでもここにいていいよ……」 「……!!」 「部屋は汚いけどね――ってうわぁ!!」 思い切り抱きついて、そのままつんのめって倒れた。 「ありがとう!!リキュール君!!!」 優しい人で本当に良かった……。 さっきの胸の高鳴りは、きっと……リキュール君を―― ――"好きになった"んだろう…… いろいろな事情があるのかもしれないし、女の子と同棲するというのは初体験だ。だが、決して邪な気持ちがあるわけではない……ただ、ちょっとだけいろいろなことを考えてしまうのは悪い癖なのかもしれない。 そんなことを考えるまもなく、僕ははたきと箒を動かす……。 スフレちゃんと同棲するに当たって、僕の家はあまりにも衛生的によろしくなかったので、まずは掃除することになった。しかしまぁ、埃が出るわ出るわ、どこまで掃除していないのかがよくわかったような気がした……。 「うぎゃっ!!」 「どうかしたの??」 掃除をしていたらいきなりかびた食パンが出てきて思わず仰け反ってしまった。これはやばい、かなり異臭を放っているぞ……。 「わっ……これは、食パン??かなりかびちゃってるね……こりゃひどいや……」 スフレちゃんが食パンをひょいっとつま見上げて渋い顔をする。これは凄い、かなりの度胸がなければできない芸当を簡単にやってのける。そこに痺れる憧れる……そんなことを考えながら遠巻きにスフレちゃんを見ていたら―― 「これも捨てちゃったほうがいいかな??う~ん、どうかなぁ……リキュール君!!これ捨てちゃっていいの??」 なんてことを言いながら、先程の食パンをすでにゴミ箱に捨てていて、新しい場所を綺麗にしていた。僕が何かを考えているうちに、スフレちゃんはささっと掃除を済ませたいのか、凄く俊敏な動きをしててきぱきとあちこちに箒を走らせている。 「あ、あー待って、それはまだ使うからその辺に積んどいて、あ、それはいいよ、もう乾燥しちゃったし……えっと、あとは、うん、大丈夫、それはもうごみに出しちゃおう」 いろいろな考えを振り切って掃除を再開させることにした。僕がいらないものやいるものを選んでスフレちゃんはそれを迅速にゴミ袋に葬っていく…… かなり怪しい作業だったが、二人が息を合わせてすばやく動いたために、思いのほか早く掃除が終わった。ただ単に捨てるものしかなかったというだけで、部屋自体が汚いというわけではなく――と、思っていたら、油絵をやっている時点で部屋は汚いという認識をしていなかったので、認めよう。認めざるを得ない…… 僕の部屋は、汚いんじゃなくて、臭いんです……。 「だいぶ片付いたね」 「ありがとう、スフレちゃん。手伝ってもらって……」 「いえいえ、これから末長ーくお世話になるから、これくらいのことはね♪」 「……末永く???」 ちょっとだけ体に寒気が走る。具体的にスフレちゃんはどのくらいの期間僕の家に滞在するつもりなんだろう……。巨匠と呼ばれた彼女にも仕事があるだろう、それとも、宮廷画家のように描きたいときに描くだけでお金がぽんぽこぽんと入ってくるのだろうか?? 「大丈夫だよ、リキュール君……お世話になる分ちゃんとお礼はするつもりだから」 「う、うんまぁ、僕は別にどれだけいても構わないんだけど……そっちは大丈夫なの??」 「うん、リキュール君と仲良く慣れるまで、私はここですんでいたいな」 仲良くなりたいなんていうけど、一緒に掃除をしている辺りもう仲良しなんかじゃないだろうか??そこのところどうなんだろう。しかし、そんなことは僕の変な思考の渦にすぐに流されてしまった。 二人暮らし。言い換えればそういうことになる。良くも悪くも、変な妄想が広がってしまう。想像じゃなくて、妄想が……。 うっかり彼女とばったり朝を一緒になるとか…… 彼女の使っている歯ブラシと自分の使っている歯ブラシが偶然くっついちゃうとか…… 変なことを考えるとすぐ顔に出る。ニヤニヤしているのはそんな邪な妄想で頭の中が一杯だからだろう。変態だ。どうしようもない変態だ…… 「リキュール君?何考えてるの??」 「……へ?あ、嫌、なんでもない」 「なんでもない割にはよだれでてるけど……」 嘘!?と思って口元を拭いてみる。何も出ていなかった。 「うふふっ。騙された」 「うっ!!……悪い子だね……」 なんて意地悪をするんだろう……まだ可愛いほうだけど……。個人的に傷ついた……。 「これで掃除は完全に終わったね……」 スフレちゃんはそういってざっと部屋を見渡す。 綺麗な部屋だったのだろう。しっかりと磨いた床はピカピカ光って、壁には自分の描いた絵がいろいろ並んでいる。部屋の隅にはハーブの植木が置かれていて、いい匂いが部屋一杯に広がる。 「わぁ、凄く広い部屋だったんだなぁ……」 「ものがよかったんだね。磨いてあげないと家がかわいそうだよ」 スフレちゃんが笑いながらそんなことを言った。ちょっと変わった子だけど、やっぱり優しい子だな……。何はともあれ、これで何とか二人で住める環境が出来上がった。 「あ、そうだ。忘れてた。絵を描かなくちゃ……」 掃除に夢中ですっかり本業を忘れていた。スフレちゃんが首を傾げるのも尻目に、いそいそと油絵の具の準備をし始める……。 「リキュール君……」 「え?どうしたの?」 「絵の収入は??」 「……運がいいと売れる」 いきなりそんなことを聞かれると、心の中に黒い雲が立ちこめる。収入が良いわけではないが、そんなことを言わなくてもいいじゃないか…… なんてことを思っていると、スフレちゃんがおもむろに僕が用意したキャンパスを覗き込んで、こういった。 「じゃあ、これは止まらせてくれるお礼だよ……」 そういって、真剣な顔つきになる。左手と右手をぎゅっと握って、ぱっと話した瞬間に、凄いものを見た。 右手から五色、左手から五色……あわせて十色の絵の具が指先からにじみ出てきて。スフレちゃんは真っ白のキャンパスに、両手を縦横無尽に動かして何かを描き始めた…… 遠巻きに見ると子供が落書きをしているようにしか見えないが、実際に近くで見ると、細かい色使いや、はっきりとした明暗、明るい色彩を主軸にして、ダークな色を程よく混ぜることで、美しいバランスを保っていく……。 「………」 気がつけば、僕は彼女の絵に夢中になっていた……。もう何を考えているのかも分からない……彼女の繊細な指使いだけをただただ一心不乱に見続けていた……。 「できたよ」 そういって、指を動かすのをやめて、彼女は振り向いた。にっこりと微笑んで、すうっと体を横にずらす。 綺麗な空に、一筋の光。その光を見上げているのは後ろを向いた一つの影、暗い色をその影に重点的に塗りたくっているために何が何だか分からなかったが、よく見るとそれは黄色がかかっていて、ピカチュウだということが分かった。 一筋の光を見つめる、一匹のピカチュウ。背景の右半分は原始的なジャングル、左半分は都会の喧騒を現すようなビルが大量に立ち並んでいる……その中央を陣取るように海が荒れ狂い、断崖絶壁の岩肌の上に立って、ピカチュウは何を思うのか、暗雲の中から、光り輝く一筋の光を見つめて、何を願うのか…… 絵を見ていたら、そんな考えが自然と頭の中に浮かんだ。 「この絵……リキュール君にあげるね」 そういうとスフレちゃんはにこりと笑う。それを聞いて、首を無意識のうちに横に振っていた。 「そ、そん―――」 「もらって欲しいな……この絵が、君の助けになってくれるよ……古い昔話で言うなら、三枚のお札みたいな感じ……」 そんなことをいって微笑むものだから、断ろうにも断れなくなってしまった。 「……そんなご利益の高いものをもらって本当に大丈夫なのかな??」 「大丈夫大丈夫♪リキュール君ならきっと有効活用してくれるって思うから♪」 有効活用って……やっぱり売ること前提なんだ…… とても美しい絵と、スフレちゃんを見比べて、僕は知らないうちにため息をついていた…… 長い貧乏生活が身につけば、知らないうちにお金の大切さが分かってくるものだ…… それを今、僕は始めて痛感した。 「この絵は……素晴らしい!!2000万!!いや、3000万で!!」 「………は?」 スフレちゃんのくれたお札の効果は確かにあったらしい……御礼ということもそうだし、売る前提で話を進めていたのだから分かっていたことだけど、改めてその絵の値段を思い知る。そりゃそうだろう。巨匠が描いた絵ということが分かれば、へのへのもへじでも数百万円の価値になるのかもしれない。 でも、美術商はそんな腐った蜜柑のような目を持っているわけではない。ちゃんと絵を吟味して、これが芸術作品といえるのかどうか、そこのところをちゃんと見てくれる。だから美術商の人は信用できるのだが……。やはり、目が確かな分、値段の凄まじさも分かるのだろう。知らないうちにため息が漏れていた。 「……じゃあ、その値段で買い取っていただけませんか??」 「ええ!!もちろん!!!」 美術商の人はえらく気前がよく、僕の指定口座にお金を振り込んでくれた。 何だかいきなりぽんぽこぽんと話が進んで何ともいえない気持ちになってきた。 しかし、何と言うのか、スフレちゃんのくれた"お札"の効果は凄まじいものがあった。 「ただいま」 「お帰りなさい。リキュール君♪……それで、お札の効果はどうだった??」 帰ってきたら急にそんなことを聞かれて、なんでもお見通しなんだろうなと思ってしまった。まぁ、事実絵を描いて渡してくれたのはスフレちゃんだったし…… でも、個人的にはさっき売ってきた絵は飾っておいたほうが僕は嬉しかったかもしれない。そのほうが絵も幸せだし、何よりも僕はもう少しだけ機能す触れちゃんが描いた絵をじっくりと眺めておきたかった。 「凄い効果だったよ……一気にお金持ち。でも――」 「ん~、分かってるよ。君はお金持ちになってもそれで何かをするわけじゃなくて、いつもどおり、いつもどおりに生活するんだから。だから、君に渡したんだよ。私の絵を……」 そういって大きく伸びをする。分かっていたのか……それとも行動を予測していたのか……確かにその通りだった。 別にお金持ちになったからといって僕の行動は変わらない。朝起きる時間も同じ、何をするのかも同じ。変わったことといえば数ヶ月払えなかった家賃が払えるようになったことと、ちょっとだけ豪華な絵の具を買ったことくらいだった……。 身の回りの些細な変化だけで、僕自身は何も変わらなかった。いつもと同じように、ただ絵を描くことをするだけだった。 「でも、絵の具がいろいろ買えるだけでも結構リッチになったと僕は思ってるんだけど……それに、いっぱい食材買っちゃった……ちょっと贅沢しすぎかも……」 そんなことを言ったらスフレちゃんはくすりと微笑んで、 「そういう贅沢のほうがいいよ。身近な幸せが一番、絵を描く心を刺激するからね」 「……そうだね。それじゃあ、ご飯にしようか。ちょっと待っててね。すぐに作るから」 そういってエプロンをつけて、冷蔵庫から食材を取り出す。今日のお昼ご飯はグラタンだ。食材を丁寧に切って、容器に入れたらオーブンを暖め始める。 そんな様子を見ていて、スフレちゃんがニコニコしながら話しかけてきてくれた。 「器用だね」 「寂しい男の一人生活だからね。現実は早々甘くないけど、せめて料理だけでもと思っていろいろ作れるように努力したんだ。自分で新しいレシピを見て新しい料理を作るのは面白いし、うまく出来たら達成感があるし、何より美味しく出来ていたら最高だしね。」 そんなことをいいながら暖め終わったオーブンに具の入った二つのグラタン皿を放り込むと、加熱時間を設定してスフレちゃんのほうを振り向く。そうしたら何だか尊敬のまなざし手こっちを見ていた。 「??どうしたの??」 「リキュール君は凄いなぁ……君と一緒になれるお嫁さんは幸せかもね」 「家事手伝いを一切できない人はちょっと困るけどね……」 「うぅ、やっぱり」 「そりゃそうだよ。家庭で何かをするんだったら、その苦労や気持ちは分かち合うことが、一緒にいる家族の条件だよ。そういわれてきたからね……両親に」 そういってちょっとだけ暗い気持ちになった。別に両親は死んでないけど、遠くにいると思うと、う~ん、会いたいような、会いたくないような……。 「ちょっとホームシックになるようなお話しちゃった」 「家が恋しいとか??」 「そうだね、でも厳密にはどうなのかな?帰りたいって言えば嘘になるけど。友達におっきなかりをつくって今を生きてる姿を見られたくないような……」 そんなことを言ってぽりぽりとこめかみをかく。何だか空気が重くなったような気がする。何ともいえない気持ちの中でじりじりとオーブンでグラタンの焼ける音が聞こえる、時計の時針が進む音が聞こえる…… 「私のこと、友達って言ってくれた……」 「え?違うの?」 「ううん、嬉しいなって思って……リキュール君本とは迷惑がってるじゃないかなって思ってさ…」 それはないよといって首を横に振ってみせる。大丈夫。友達は大切にしなさいって両親に言われたから、どんな友達でも仲良くしてきたし、相談にも乗ってあげた。 すると友達がいっぱいできて、友達の絆も深くなった。僕が絵を描いているとき、友達の皆は僕に配慮して静かにしてくれたし、遊ぶときは思い切り遊んでくれた。 それが本当に嬉しくて、僕は友達に優しくする。そういう気持ちが生まれた。 「スフレちゃんなんかと友達になれて凄くうれしいよ。絵について教えてくれるし、いろいろ指摘もしてくれそうだし……」 「アハハ、そんな、人の絵に指摘するほどのえらさなんか無いよぅ……」 スフレちゃんは顔を赤らめて両手をぶんぶんと左右に振る。巨匠の口からそんなことを言われても嘘にしか聞こえないので、ちょっとだけ揺さぶりをかけてみた。 「スフレちゃんはさ……もしかして描くことを専門にした画家なの??」 ううん。スフレちゃんは首を横に振った。どうやら全然違ったらしい。 「私はちゃんと美術商としての専門免許も持ってるから、別に描く専門ってことは無いんだけど……今までそういう事をしたことが無いから、ちょっとだけ不安なんだ。私なんかが本当に他人に評価をつけてあげられるほどの価値があるのかなって……だから今まで持ちかけられてきた美術商関係のお仕事は全部断ってきたの……"絵を描くこと"で忙しいからって……変だよね。絵を描くことに忙しいも忙しくないも関係ないのに」 そんなことを行って、自虐的な笑みを浮かべる彼女を見て、なんだかまずいことを言ったかなと思って少しだけ反省をする。スフレちゃんにも触れて欲しくない部分というのはあるのだし、そこに無断で付け入るのはただの変態だ。 「ごめん。へんなこと聞いちゃった」 「あ、いい、いいよ、些細な問題だし」 大丈夫大丈夫などといって笑っていても、その顔は何処か抜けていた。心ここにあらず。そういう言葉がぴったりなくらい、スフレちゃんは抜けていた。 「でも、絵の評価をつけること外野でも、アドバイスならいいかな?」 「ええ?アドバイス??う~ん、そんなことを急に言われてもなぁ……」 スフレちゃんはぎょっとして苦笑い、そのまま考え込んでしまう。さすがにずうずうしいとは思っていても、巨匠の言葉を聞けるのだ。このチャンスを早々逃したくはなかった。 「お願い!!この通り!!」 「……分かったよ。とめてもらってる御礼もあるし……でも!!ほんっとに私から見た個人的な意見だからね!!それを鵜呑みにしないでね」 「分かってるよ。ありがとう。スフレちゃん」 にっこりと微笑むと、スフレちゃんもつられて笑う。初めてのときはぎこちない笑顔だったけど、それが今は少しだけ解けているような気がした…… 「わ、何これ??」 彼女との同居生活が一週間続いて、次第にスフレちゃんも自然に笑えるようになった。もともと可愛いということもあって、彼女の笑顔が自然になったことが本当に嬉しかった。 スフレちゃんの絵のアドバイスは的確で、自分が足りないところを分かりやすく補ってくれていた。 そんな彼女が、僕の道具を見て驚いている。何を驚くことかと思ったら、僕の足元にある歯ブラシを見て驚いていたようだった。 「何これって……スパッタリングをするときに使う歯ブラシだけど……」 「す、すぱったりんぐ???」 技法も知らずに描いていたのかと思い、変な顔になった。 「えっとね、ホラ、この網と歯ブラシと、かけたい絵の具を歯ブラシにつけて、擦るんだ、ホラ、こうやって……」 ごしごしと赤い絵の具を歯ブラシで擦り始めると、美しい点状の赤が、キャンバスに広がった。 「わぁっ……これは、粒粒じゃない」 「え?粒粒???」 何それ、業界用語??………なんてことを考えていたら、スフレちゃんはにこりと微笑むと、ひょいっと適当な紙を引っつかむと、赤い絵の具を出した人差し指を、ぎゅっと押し付けた。 するとどうだろうか、赤のスパッタリングが、紙に鮮やかに広がっていった…… 「え??何これ??」 逆に聞き返してしまった。スパッタリングの用語を知らない彼女が、まさかスパッタリングをやってのけるとは思っていなかったからなのか、それとも、マジカルフィンガーというのは、技法までとことん再現する凄まじいものなのかと思った。 「え?粒粒……他にも、めらめらしたものとか、ごちゃごちゃしたものとか、いろいろあるよ??」 バーニング技法、パピエ・コレ……多分その辺の技法だろう……しかしバーニングは分かるが、どうやってパピエ・コレを再現するんだろう??若干興味を持って、スフレちゃんに聞いてみる。 「ねえ、スフレちゃん……パピエ・コレはどうやってするの??」 「………???ぱ、ぱぴ??」 「あ、ごめん……スフレちゃんが言う、ごちゃごちゃしたの」 「え?それはこう……」 スフレちゃんは今度は手をすべて使い、バシッと手を置いた。しばらくして手を離すと、そこにはクチートの手形で、新聞紙、色紙、薄い樹皮類の紙などが、ごちゃごちゃと貼り付けられているような感じで、絵となっていた。 「うわ!!凄い!!これ、本物っぽいけど、絵なんだ!!」 「ね?ごちゃごちゃしてるでしょ??」 僕はただ単に驚いた。マジカルフィンガーなるものは、技法まで絵の具で表現してしまうのかということ、それから、技法を知っているのに、技法名までは知らないという彼女の変なところに…… 「……一応教えておいたほうがいいねこりゃ……」 「??何を??」 「絵についてのお勉強だよ………」 そういって、僕は本棚から一冊の古い本を引っ張り出した。これは僕が絵の勉強をしているときに使っていたもので、色々な技法が描いてある。中ではデザイン用のものもあるが、いろいろ教えたほうがスフレちゃんのためにもなるだろう。 僕が広げた本の中身を、彼女は興味津々と言った顔で見ていた。 「いい?さっきスフレちゃんがやってたのがこのスパッタリングで、これがさっきやってたパピエ・コレっていう技法……」 「ヘェー、ちゃんとした名前があったんだね………」 スフレちゃんはニコニコしながら僕が説明するものをしっかりと聞いていた。 僕の思ったとおりで、スフレちゃんは記憶力と理解力に優れていた。しっかりといったことを復唱するとちゃんとおぼえることができるし、何よりも一度説明したことをしっかりと聞いてそれをちゃんと理解しているというのが凄かった。 僕なんか四回くらいいわれないと分からないところとか結構あったのに…… 「――で、これがデカルコマニー……ガラスや表面が滑らかな紙とか絵具が定着しにくい素材を選んでから、その上に絵具を塗るんだ。絵具が乾かないうちに、別のガラスや紙を上に重ねて押し付けて……重ねたガラスや紙を外すと何と何とそこに模様ができているんだよ」 「へー……すごーい!!"ぎほう"ってこんなにあったんだ……凄い凄い!!リキュール君凄い!!」 「いや、僕が凄いんじゃなくて……」 「違うよ。技法がそんなにあるのも凄いけど、私にいっぱい教えてくれたから……」 「いや、別に教えてもらってすごいってのは何か違う気が……」 「何かお礼をしたいんだけどなぁ……」 「お礼って……絵をもらうのはもういいから……僕はお金持ちになりたいわけじゃ――」 「――違う違う。絵でお礼なんてしないよ。……とは言っても、男の子が喜びそうなお礼って言うと……」 会話をしていると、勝手に自分思考で話し始めるのがたまに傷かもしれない、会話をしながらそんなことを思う。 「別に無理してお礼しなくても――何してるの??」 気がつくと、スフレちゃんが僕の股間を弄っていた。いや、あの、すみません……そんなにされると勃っちゃいそうなんですけど…… 「え?何ってナニを……男の子は女の子にこういうことをされるとすっごく喜ぶって聞いたよ?」 「それは確かに――じゃなくて!!そんなことをされて喜ぶのはむしろ変態だよ!!」 「そうなの?でも、リキュール君のは何だかおっきくなってきてるよ???」 「そ、それは…………生理現象だから!!」 「生理現象??……そんなこといって、実は気持ちいいんじゃないの?」 スフレちゃんがニコニコしながらそんなことを言う。そのニコニコ笑顔に若干影がかかっているような気がして、ちょっとだけぞくっとする。 「ほらー、素直にならなくちゃ……」 そういってスフレちゃんはすっかりと起き上がってしまった僕のソレをきゅっと両手でしっかりと掴んだ。 「ウフフ、実はこういうことは初めてだから、ちょっと緊張気味かな??……えっと、……」 妙に頬を高潮させて、スフレちゃんはぎゅっと握り締めて、すっかり硬くなった僕のものの先をぺちゃぺちゃと舐め始めた…… 「うわぁっ!!………そ、そんなに愛撫しないで……ひゃぁっ……ふぅっ、あぁんっ!!」 変な声を出して顔を真っ赤にする僕を、スフレちゃんはちょっとだけ驚いたような顔をして見ていたけど、すぐに笑顔になった。その顔、まさに性欲にまみれた夢魔のごとく…… 「ウフフ……リキュール君はかぁいいなぁ……そんな声出しちゃって、きっと喜んでくれているんだね、……嬉しいよ。はむっ、んむっ、ぴちゃ、ちゅぷっ……」 「やっ!!そ、そんなに咥えちゃだめぇっ!!!お、おかしくなっちゃ……はぅっ!!」 スフレちゃんは先っぽのみならず、段々と大胆に咥えて口を動かす。そのせいでどんどん頭の中がくしゃくしゃになってきて、何も考えられなくなってきた…… 「うっ、やぁっ、やだあっ……やめてよぉ……」 なぜか知らないけど目頭が熱くなった、これは涙。どうして泣いているのか分からないけど、きっと恥ずかしいから泣いているんだろう、なんて思っていたら、下半身の刺激が段々と強くなってきた…… 「ふぁぁ……凄いよ、リキュール君の……びくびくってしてる、……脈うってるよぉ……」 スフレちゃんは正気なのかどうなのか怪しいくらいとろんとした瞳で、僕のがちがちになったソレを更に舐めあげる。と、いうよりも、もはや舐めるとか、咥えるとかの類ではなくなってきた、どっちかというのならば、カチコチになった僕のモノの先っぽを、吸っている。 そんなことをされれば、快感が脳髄にまで鮮烈に伝わって、頭の中が真っ白になりかける。 「うあっ……あっぁっ……●□▲@Γιξ☆―――――っ!!!」 自分がナニをいっているのかすらも分からなくなってきた、というよりも、どうしてこんなことになってしまったのだろう……ソレはもちろん、スフレちゃんが僕のナニを何でドウシタと…… 頭が回らなくなってきて、吐息の音だけがやけに聞こえる、ぼやけた視界がゆらゆら揺れる。右に、上に、左に、下に…… 「っ!!」 上を向いた瞬間に正気を取り戻しかけた。スフレちゃんの大顎が、大きな口を空けて、べろべろと舌を出しながらこちらのほうを向いていた。本能的に食われると思って、快感よりも恐怖が勝った。 「ひぅっ!!………??」 しかし、それと同時に、僕は視界の片隅に、ある何かを見つけた。それは大口の中に光っていた、なにやら不思議な光…… 「ひ……ひか……光??………あっ!!やあっ、あうっ、ひゃああああん!!!!」 次の瞬間、大きな顎の、大きく開いた口の中にある、べろべろしたぬるぬるの舌は。僕のモノに絡みつき、スフレちゃんと一緒に、舐めあげるようなフェラチオを開始した。 「!!!!!!!!!やっ……だめっ……ああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」 さっきとは比べ物にならない快感が僕の体を襲って、包み込んだ。 意識はそこで途切れて、ちょっとだけ残った快感の余韻と一緒に、暗闇の中に落ちていった。 ---- まだまだ続くんだぜ ---- - こんばんは。 画家のカメール、なかなか珍しいですね。 クチートが何者なのかも気になるところです…。 色鮮やかな様子の描写が美しいです。風景も分かりやすくてよく伝わってきます。羨ましい…。 続きを期待して待ちます。 頑張ってくださいね。 ――[[コミカル]] &new{2009-12-02 (水) 00:18:58}; - カメールか………進化したら 筆持てねー ――[[画家のドーブル]] &new{2009-12-02 (水) 22:06:46}; - 九十九さん、マジカルフィンガー読ませていただきました。これまでの小説と同じく楽しく拝見することができました。色々と忙しいと思いますが頑張ってください! ――[[バジル]] &new{2009-12-24 (木) 01:28:45}; - 誤変換のお知らせ いきなり融解されてきたのを × ↓ (誘拐)だと思います。 それでは引き続き執筆がんばってください。 ――[[チャボ]] &new{2009-12-24 (木) 12:25:51}; - あらら。「喰われるぅ」 ―― &new{2010-02-12 (金) 20:59:32}; - あらら。「喰われるぅ」 ―― &new{2010-02-12 (金) 21:17:03}; - あらら。「喰われるぅ」 ―― &new{2010-02-12 (金) 21:17:24}; - ↑エラーが起こりましたすいません ごめんなさい ―― &new{2010-02-12 (金) 21:18:28}; - さて、見てもらえない(かもしれない) スペルミスのお知らせです。 スフレ師匠「じゃあ、これは止まらせてくれるお礼だよ……」× →泊まらせてくれる です。 続いて、そのすぐ下 ぎゅっと握って、ぱっと話した瞬間に× →離した です。 最後に、リキュール君 「絵の評価をつけること外野でも」× →がいや うっかり変換でしょうか? 意外と活発なスフレ師匠、二人はどうなるのか!? 続きに期待です!! それでは、引き続き執筆頑張ってください!! ――[[チャボ]] &new{2010-02-25 (木) 18:33:26}; - 追って、誤変換のお知らせです。 何よりも僕はもう少しだけ機能す触れちゃんが書いた絵を× →昨日スフレちゃん~ です。 引き続き、執筆頑張ってください。 ――[[チャボ]] &new{2010-02-26 (金) 03:04:00}; - >チャボさん 止めるには、「そこに留めさせる」という意味があるので、 間違いではありませんよ。 それはさておき、スフレがリキュール君の絵をどうアドバイスするかが楽しみです。 これからも執筆頑張ってください。 ――[[零]] &new{2010-02-26 (金) 08:49:18}; - >チャボ様 誤字脱字の指摘はありがたい限りですが、見てもらえない、それから私の作品のみにそのようなコメントをすることは控えてください。 ――[[九十九]] &new{2010-02-26 (金) 19:47:19}; - 九十九様> 申し訳ございませんでした。 最初の連絡時に発見していただけなかったようなので、 このように書き込んでしまいました。 これから書きこみ方を変えてゆくので、 いままでの、私のコメントはこれを含めて 消去してください。お騒がせいたしました。 執筆がんばってください。 ――[[チャボ]] &new{2010-02-26 (金) 21:00:26}; - 続き期待してゆっくり待ってます。 ――[[レイア]] &new{2010-02-27 (土) 11:32:46}; - この小説を読んで自分も画家....とまでは行きませんが 絵を描く事をはじめました! ――[[ルーカス]] &new{2010-03-24 (水) 23:37:48}; - 押し倒した!効果は抜群だ!w ―― &new{2010-03-28 (日) 03:47:04}; - こういった小説は、好きなので頑張ってください ――[[ハカセ]] &new{2010-04-18 (日) 04:10:21}; #comment