「く・・・!」 ブラッキーが何とか動けるようになったのは、明け方ごろだった。 当然自分の下には、亡骸になった幼いアブソルがいる・・・はずだった。 「…!」 しかし状況は変わっていた。 アブソルは目の前に馬乗りになって、自分を覗き込んでいた。 「な・・・っ!」 「ひゃっ!」 とたんにアブソルが飛び退く。 「生きていたのか…」 「?」 理解できない…という様子だ、無理もない。 「あ…あの…私、あの後、気持ちよすぎて何がなんだかわかんなく なっちゃって…それで…。」 「わかった、もういい。」 よかった、とりあえず無事のようだ。 その後に思った。 何考えてるんだ?俺…。 もともと、強姦に乗り気だったではないか、 いまさら何を安心する必要がある…。 「…っ!?」 何かの気配に気づく。 まさか…、 全神経を集中させ、耳のみに頼る…。 「…確か、聞いた話だとここの洞窟らしいな。」 「しかしおかしな話だな、こんな場所に人がいるのか?」 「仕方ないだろ…。」 やはり!ここにいては危ない…。 「きゃっ!」 とっさにアブソルと捕まえて、追ってから逃げる。 背中に乗っけているような格好は結構体力を消耗する…。 「はぁ…はぁ…!」 ようやく自分の住処についた…。半ば乱暴に幼い表情のアブソルを降ろす。 「…。」 何が何だか分からない、そんな感じで見つめている。 …。少し後悔した。 突発的とはいえ、彼女を連れてきたことで、 このあとが厄介なことになるかもしれない。 しかし…。 彼女はもうすでに売られた身だ、いまさら、ここで突き放して、 どうやって彼女は生きていけばいい? それを考えると…、 「くそっ…。」 どうしても、突き放せない…。 「…ねえ、おにいちゃん、どうしたの?」 「…っ!あ…いや…何でもない…。」 なんて無垢なんだろう。 自分は、彼女にひどい仕打ちをしたというのに、 アブソル特有のきれいな深紅の瞳はブラッキーをとらえて離さない。 「お前は…死んではいないのか?」 意識の外で、こんなことを言っていた。 「わたし?…何言ってるのお兄ちゃん…。私、死んでないよ?」 「なぜお兄ちゃんというんだよ…。」 この子の考えが今一つ分からない、それが表に出てしまう。 「え…?なんでだろ…、年が…近いからかな…。」 「…っ!バカな!なぜそんなことが分かる!」 「ひっ!」 俺の剣幕に気圧されたのか、アブソルはちぢこまってしまう。 「だ…だって、声が…あの時の声が…。」 …? 「殴られた時の声…、明らかに子供だったもん…。」 そっか…そこまで見てるんだ…。 体中の力が抜けた気分だ。 ここまで知られた以上後戻りはできない。 人身売買の仕事は、子供がしちゃあいけない。 それは、どこの世界でもわかることだ。 俺の年はまだ二十歳にもいってない。 下手したらそこらの子供よりも年下かもしれない。 それほどまで、大変だったのだ、ここまで作り上げるのは…。 「…ひゃ!?」 乱暴にアブソルを捕まえる。 「…そこまで知られてるんだ。」 素の声でしゃべる、久々だ、今まで低いトーンで話してたぶん、 のどに響く音がすがすがしい。 「悪いけど…、このことは口外されたくないんだ。」 凄味を含ませようとする。でもうまくいかない、 やっぱり、使い慣れていないと何をするにしても不便だ。 「うん…、口外したりしない、 その代わり…わたしをここに住まわせて…。」 「え…。」 意外な展開に俺は焦りを隠せない。 「わたし…、ここで断られたら、もう行く場所…ないの…。 おかあさんは、私を捨てて…、 おとうさんは、赤ん坊の頃にどっかいっちゃった…。 親戚も、いとこも…みんな遊んではくれるけど… 大人たちは私たちを嫌ってて…。 誰も手助けしてくれない…。 だから…もう無理だとわかってても、 頼るしか…ないの…。」 「う…。」 いきなりの暴露に少し混乱気味になってしまう。 本性を現したせいで、俺の中の良心が働き始めた。 必死に、目の前の幼いアブソルを消そうとする衝動をかき消している…。 でも…、これでいいのか? もしかしたら、ある日逃げるかもしれない…。 もしかしたら、内心俺を恨んで、殺そうとするかもしれない…。 コメントは別のページに表示されます。 #pcomment(commentroom5,10,below);