書いた人→[[ウロ]] 嘘偽科学、技の独自解釈が混ざってます。駄目な人は戻ってね。 ---- 普段から眠れなくって、とにかく夜は起きているということは、夜に何かをしたいというわけでもなく、ただただ無意味に夜に眠れないという習性が続くという何ともお間抜けな醜態を晒したことが幾度か有り、尋常ではない位に夜中にアドレナリンが分泌して、興奮して眠れなくなることが多々あるだろう。それでも、それにしても、今自分の脳から分泌されているエネルギーは異常ではなかろうか? 眠れない身体をごろごろさせて、緑と白の塊はぐるぐると部屋を転がりまわる。たわしのような、毬藻の様なその生物、その名をシェイミという。珍しいという意味では珍しい……だが今現在シェイミは眠れないという上に夜に起きてしまうといういかんともしがたい症状を抱えたままごろごろとタマコロのように自分の寝床の周りを転がりまわる。眠れない。というだけで、夜がここまで長く感じるとは思わなかった。 眠りたいけど、やっぱり目を瞑っても眠れないのかなぁ…… 心の中でどうして眠れなくなってしまったのか、その原因が分からないまま一週間が過ぎた。さすがに一週間も過ぎれば、眠くはなるだろうと思っていたのが甘かった、催眠術もキノコの胞子も効かない状態で、何をどうやったら眠れるのだろうか?ためしに眠り薬でも作ってみようかと思ったが、つくり方がわからない上に危険そうだったので、あっさりと諦めた。 そのほかにいろいろな方法を試してみたが、結果は全く持って重畳ではなかった。むしろ無意味にあがいたことが無駄にストレスになって、やっぱり眠れなくなるということの心の重さを感じると同時に、どうしても、何をしても眠くなれないという現実が突きつけられて、シェイミはため息をついて落胆。どうしたらいいのかを模索するのも面倒くさくなって、頭を抱える毎日を過ごしていた。 そもそもの原因は何か、それが分かれば苦労はしないだろう。原因が分かっていればいつもどおりの時間に眠る。それがいつもどおりの時間に眠れないから、どうしようもないくらい困り果てて、神にも悪魔にも頼ろうと思うほどに、頭と体が衰弱しきっていた。それだけならまだしも、仕舞には眠くなるまで寝床から出ないというわけの分からない行動まで起こす始末であった。いつも心地よい眠りを誘っていた藁と草の寝床が、今ではただの座椅子代わりである。破滅的であり、絶望的でもあった。 感情に任せて怒鳴り散らしたい気分だったが、そんな気分もそのうち消えてしまう。眠くならない上に、しっかりと寝ない分の疲労は蓄積している。これは何かの呪だろうか。そんな風に考えても見た。誰かが自分に呪をかけているとしか思えないと思うくらいに、とにかく呪か何かの類だと思い込んでいたときもあったが、よくよく考えたら、ほかのポケモン達は自分に対して恭しく接したり親切だったりと、まぁ比較的友好的な部類に入る接触の仕方をしているために、その呪という可能性は完全に置き捨ててしまっても構わないと思っている。 そうなると、何でこんな風に眠れない日々が続くのか、というか、一週間前から何が起こっているのか……非常に気になるところでもあり、そして鬱陶しいと思うことでもある。気枠で出来た窓から月を見る。この時期になると月食が始まる。なかなか見れない貴重なものでもあるし、日食よりかは綺麗である。夜の星が瞬いて、見える月食というのはなかなか美しいだろう。偉いポケモン達は、月を優雅な世界とか、雅とか、芸術的な風靡だとか、やたら難しくて変な言葉で飾ろうとする。何が優雅なのか、全く分からない。難しい言葉なんて使わなくても、綺麗と一言言えばそれで伝わるというのに、ポケモン達を束ねているポケモンというのは、まるで分かっているのかわかっていないのか、それとも周りに自分の威厳を保ちたいだけなのか、よく分からない言葉を使う。シェイミからすれば、それは完全に陳腐な言葉である。要するに、意味不明だ。 月に対する思い入れでもない限りはそんな怪奇な言葉を使って月を表現しても説得力にかけるであろう。言葉というのは思っているほどに難しく、思っているほどに簡単なのであり、言葉一つで愛が育まれたり、言葉一つで命を散らしたりと、なかなかに多種多様な使い方が出来るということを頭の中に入れている。だが、言葉を使えるというのは、その言葉の本質を見極めていることを理解しているもののみであり。分からない言葉を使うというのはただの文字の羅列でしかない。意味のわからない文字の塊をぶつけられても、正直に言えば首を捻るということになる。 眠れないからといってこれといって凄く頭の回転が速くなるわけでもないので、シェイミは余計にイライラする。これ以上眠れない日々が続いたら毎日が発狂ものである。ノイローゼであり、フラストレーションが溜まる、そうなると暴走して、取り返しがつかなくなる、なんにせよ、一刻も早く原因を解明しなければ、一生このままというのも辛いものである。 ちら、と横目で自分の横で暢気に眠っているポケモンを見る。 いい笑顔である。幸せそうであり、そして危険なことなんて何も起こりはしないと確信しているかのような寝顔である。地震も火事も津波も噴火も、そんな自然災害がここにやってくるとは思っていないというくらいに幸せそうな顔だ。はっきり言ってしまえば、見ていてフラストレーションの溜まる顔だった。他のポケモンが見れば違ったかもしれない。幸せそうな顔をしているとか、きっといい夢でも見ているのだろうかとか、言葉を飾ってあれやこれやといえたかもしれないが、今のシェイミにとってこういう顔は苛立ちを募らせる原因となるのである。 人が苦しんでいるというのに、なぜ暢気に眠っていることが出来るのだろうか?? 全くもって理不尽である。ふざけていると思うし、まるでわかっていない。むしろその眠る力というのを、自分に与えてほしいといった感じである。なぜにそんなに幸せそうに眠ることが出来るのか。なぜにそんなに顔を緩ませることが出来るのか、無防備である。襲われるとは思わないのであろう。顔が緩みきっている。やはり、シェイミは顔を顰めて、若干のフラストレーションが溜まったことを確認した。 全くもって、どうして自分の隣にいる生物はこんなにも幸せそうに眠っているのか、まさしく理不尽であり、そしてやっぱり苛立ちが募る。眠れないと、思考も単純明快になり、同じような言葉を呟いて、変な言葉で冷静な思考を濁してしまう。それがたまらなく嫌だったが、ほかに表現のしようがない。どう考えても、何度頭をひねっても、理不尽であり、めんどくさくもあり、非常に苛立ちが募る。どうしてもこのふやけきった顔を見ると、顔面に拳をめり込ませたくなる………… どうしようもないくらい自分の頭がおかしいのも分かっているし、たとえ隣にいるポケモンをたたき起こしても何も解決しないということが分かっているために、何もしない。というよりも、何も出来ない。何かをしても、何も起きることはない、非常にエネルギーの無駄で有り。そんなことをする理由も理屈もない。意味のない行動ほどエネルギーの浪費する行為はない。非常に省エネで過ごしたいシェイミにとって、他人をたたき起こして鬱憤を晴らすなどという非生産的な行動はしないのであるが、隣にいるポケモンの、涎をたらしながら顔をふやけさせてニヤニヤと幸せそうに眠るポケモンの顔を見ると、どうしても殴りたくなる衝動に駆られてしまうのである。 この顔は本当にむかつく。人が眠れないのにいい御身分だ、お前は何様だ?貴族様か? どう考えても意味不明な逆恨みである。こんな風に考えて、後で冷静になって自分を責めるのも、三日間くらい続いている。ぐっすりと眠れるポケモンにとって、ぐっすりとすらできないポケモンの気持ちは分からないだろうなと思っていた。分かったら分かったで不気味ではあるが、やっぱりそういうところは分からないままのほうがいいだろう。わからないままそのまま時間だけが過ぎていくと、やがてそういうこともどうでもよくなってくるものである。 非生産的な思考はまだまだ回り続ける。いつになったら朝が来るのか……そんな風に願いながら、シェイミはため息を一つついた。ため息も重々しくて、何だか鉛のようなものに変わっているかもしれないと心の中で思えてしまう。自分がそう思うのなら、もしかしたら本当にそうなってしまうのかもしれないだろう。思い込みの力というのはとても激しく、とても強いも。なりきりやトリック、不思議な力が働く技には、基本的に思い込みの要素が強いものも多々ある。そんな風に思って、ため息を錘と同じようにたとえてしまった自分に辟易した。最悪である。こんなことを考えるほどに、どうしようもない事態が続いているのかもしれない。 スピスピと寝息をたてる音を聞くだけでも、イライラが頂点に達してマグマの如く噴出しそうだった。人が眠れない横でかわいらしい寝息を聞くことがまるで拷問にかけられているように、胸を抉るような締め付けが襲う。ここまで疲弊していると、もはや冷静も平静も保っていられない。どうしようもなく頭がパーチクリンになる。パーチクリンというのは何だか変な造語に聞こえるだろう。実際に今作った造語だから当たり前である。意味は適当に考える。とりあえず何も考えられないくらいに真っ白になるという意味であっていると思う。ピーピーとか、ペーペーとかは違う意味にたとえられるだろう。言葉というのは不思議であり変でもある。 どうしてもイライラが押さえられなくって、ちょっとだけ眠っているポケモンの鼻をつまんでみた。んが、という変な音が聞こえた。多分口から発した音だろう。そのまま意地悪心が働いて、うししと笑いながらシェイミは鼻をつまみ続けた。眠れないのだからこのくらい楽しまないとそんである。などと言い聞かせながら。だが、そんな意味のわからない行動がいやだったのか、うぅん、と小さくうめくような擦れた声を出して、眠っている黒い塊がコロン、と寝相を変えた。シェイミに背を向けて、鼻の辺りを二の腕で抑えるような形をして、しっかりと呼吸する穴だけは残すような形で、再び夢の世界に入っていった。残されたシェイミはまた不機嫌そうに周りをとことこと歩き始めた。 眠れないのはどうしてなのか、それが分かれば苦労はしないというのに……そんな風に思うのも、隣で眠っているポケモンがあまりにも幸せそうで、あまりにも平和的で、あまりにも可愛い寝顔をしているから、そんな風に思えてしまうのかもしれない……こういうときに、なんといえばいいのかわからないというのが一番困るのかもしれない。いつもいつも、隣で眠っているポケモンに対しては、話していてもどうしても同じような口調で語りかけてしまうへんな癖みたいなものがシェイミにはあった。それは癖というか、完全に自然と口からこぼれてしまった言葉。何を言いたいのかわからないが、とりあえず無意識に出てきてしまう言葉。そんな言葉が、シェイミの中でくるくる回る。 男の子なのに…… 男の子なのに。普通に聞けば、そんな風に言われれば悲しいかもしれない。男に生まれたポケモンとしてはどうしても聞きたくない言葉かもしれない。でも、どうしても使いたくなるポケモンもいるのである。シェイミは頭の中であるたとえ話を連想させていた…… たとえば、男の子なのに、お花を摘むのが好きとか、お花畑でちょうちょさんと戯れるのが好きとか。完全に女の子の趣味に走ったようなそんな不思議な違和感を持った男の子も世界には存在するわけで、そんなものを一目見ようものならば、あまりに見たことのないギャップやら何やらに、この世の法則がひっくり返るかもしれないと思うくらいの驚愕が頭の中に飛び込んでくるかもしれない。 大袈裟に言いすぎかもしれないが、大体においてインパクトの表現方法というのはこんな感じである。出会い頭、そして第一印象。他人の見た目は五秒くらいでわかってしまうというのが、なんとなく分かる。シェイミはしみじみとそう思っていた。見た目だけでは他人の印象というのは分からないものだが、大体見た目で他人を決めてしまうために、一度しっかりと話してみなければその人の本質が分からない。そういうのもある。 とにもかくにも、そんな風に男の子なのか女の子なのか分からないような不思議な趣味や特技を持ったポケモンがいるということを、シェイミは頭の何処か片隅に突っ込んで生きてきた。そして、その言葉通りに、凄まじくその言葉通りのポケモンに出会ったときは、やはりそういうことを思っていてそんはないという実感がわきあがったものだった。人生なにがあるのか分からない。いろいろな考えを持っていたほうが特に決まっている。長い長い時間を生きてきた、シェイミが思ったことだった。 そして、今シェイミに背を向けて、幸せそうに眠るポケモンこそ、先程シェイミが思っていた多方面からのいろいろな性格のポケモンの一匹でもある。そんな変なポケモンとなぜ自分が居るのか、それは簡単だ、友達だからである。友達になるという行為に、趣味だか見た目だか性格だかは関係ない。気が合えば友達、親密になれば親友、異性の壁を越えれば夫婦になる。そして、シェイミは雌であり、このかわいらしい寝息をたてて眠っているポケモンは雄である。異性という点でも、友達という点でも、その辺は大股で飛び越えてハードルをクリアしているだろう。だがしかし、ハードルを飛び越えたからといっても、そんな関係になることがまずありえない。そもそも、シェイミが眠れなくなってしまったのは、もしかしたらこいつの所為かもしれないと思い始めていたのだった。 人を疑う前に、まず自分を疑え。昔の言葉にそういう格言があるが、まず自分を疑う意味が無いということは、シェイミが一番よく知っている。どうしようもないくらいにというわけでもないが。そもそも自分のことをよく知らないポケモンなんてこの世界には存在しないと思っている。あくまで勝手な想像だが、自分のことをよく知っていなければ、自分がどういうポケモンで、どんな風に生きているのかすら分かりはしないだろう。記憶喪失のポケモンは除外する。そもそも記憶がないのにそんなことを考える行為すら忘れてしまっているのだから…… そんなわけで、自分がそれに当てはまらないと、どう考えても自分の目の前にいるポケモンがそれに当てはまるという条件をクリアしているのであった。 なぜなら、目の前にいる彼は、ダークライは、夢を操るポケモンだから―― ☆☆☆ 生きることが辛いと思ったら、基本的に夢の中に逃避するの一番いいだろう。夢は素晴らしい。夢の世界に入ることがいいことである。 だがしかし、不眠症のポケモンや夢の中でも苦しめられるポケモンには夢の世界は苦痛といえるだろう。だが、そんなことが実際にあった事例がそんなにない。それは、基本的に夢は現実世界で発散できなかったストレスを発散する世界だからである。 朝起きて、きょろきょろと周りを見渡したら……何とも不機嫌そうな顔をしたシェイミが、自分の周りをうろついているではないか。恐らく眠れなかったのだろう。また眠れなかったという小さな独り言が聞こえる。 「あ、起きた!!ちょっとフィアー!!こっちに来てよ!!」 こっちに来てという言葉は、言い換えれば絶対に逃がさないという意味合いにも取れる。それは多分自分だけが思っていることかもしれないが、彼女との会話において、基本的に用法を間違った使い方をしていることは多々ある。 それゆえに、変な言葉が生まれるのだろう。意味の分からない言葉、用法を間違ってしまった言葉、いろんな言葉にはいろんな意味があるが、まるで意味が違う言葉は言葉の意味を成さないのかもしれない。 「ええと、僕が何かしたかな?」 呼ばれるときは悪いことをしたとき、やってはいけないことをしてしまったとき、間違っているときなどさまざま。しかし、見に覚えのないことをとがめられるときもある。 そういうときは、自分が何をしたのかを問いかけることにしている。理由もなくただそんなことを言うはずがないからだ…… 「最近私が不眠症の原因は、貴方なんじゃないかって思ってるんです!!」 「…………なんで?」 「何でって、あなたがダークライだからだよ!!」 イライラが高まっているのか、まともな言葉に聞こえなかったが、なんとなく言いたいことは分かった。要するに、自分が眠れない原因なのではないかということが言いたいのだろう。 「それはちょっと、違うと思う……僕は君に何かをする必要がないもの……なんていえばいいんだっけこういうの?」 「違う?……じゃあ、私が眠れない原因が、フィアーには分かるの?」 分かる。とはっきりいえないのが辛いところだったが、原因を探るくらいのことなら出来そうだったので、そういうことを伝えようと口を開いた。 「原因が分かるってのとはちょっと違うかもしれないけど、アイリスが何で眠れないのかって言う原因を探る程度のことなら出来そうかなぁ?」 「疑問系で喋らないでよ……不安になるじゃない」 このこの名前は、アイリス。僕の名前はフィアー。とても変な名前だがそういう名前だから仕方ない。 「そうだねぇ、だって、原因が分からないんじゃあ。僕も変なことはいえないじゃない?」 「うぅん、だとしてもですよ……もうちょっとこう、しっかりしようぜ見たいな、こうなんかぐっと来る言葉を使えないんですか?」 「それはちょっと無理じゃないかなぁ……だって僕がこういう性格だし」 男らしいという性格はしていないので、誰かを励ますときに気持ち程度に元気を出してほしいとかそんな言葉しか使えないのでアイリスの言葉に対する返答はいつもこんな感じだった。男らしいという像が僕の中ではかっこいいというものと一緒くたになっているので。強くてかっこいいというのが男らしい像に入るだろう。 「まぁ、いいです。それで、どうやって原因を調べるんですか?」 「そうそう、本題はそこからだったね、簡単だよ。アイリスの夢の中に入り込んで、夢の記憶の中で原因を探るのさ」 口では簡単といったが、アイリスは眉を顰めた。それはそうだ。だって眠れないんだから。 「私が眠れないと、夢の中になんて入れないんじゃない?……第一、私には催眠術だって、キノコの胞子だって、聞かないんだよ?」 アイリスが言うのも最もだ。確かに、強制的に眠らせるような効果のある睡眠薬と同様の力を持ったポケモンの技でも眠れなかったアイリスをどうやって眠らせればいいのか。 不適に微笑んで、人差し指をゆっくり口に当てる。頭の中で言いたいことを整理してから、話し出す。 「ところがどっこい。僕のダークホールは眠りを強制させるんじゃなくて、眠りを誘発させるんだ。本人の心の何処かで、眠りたいと思っていれば、僕はその睡眠欲を増幅させるだけ……無理やり眠らせるんじゃなくて、本当に眠いと思えば、眠れるものさ。多分今眠ったら悪夢にうなされると思うけどね」 「うぅん、じゃあ私が本当に眠りたいと思ってさえいれば、ダークホールとやらで眠りを誘う事が出来るってこと?」 「そうそう。ただ、眠っただけじゃ体力が逆に奪われるからね、一応夢魔も送り込もうかと思って……」 「…………ムマ?」 聞きなれない新しい言葉を聞くように首を傾げたアイリスを見て、僕は顎に手を当てて考えた。さて、どんな風に説明しようか…… 「ええとだね、夢魔って言うのは、まぁ、想像上の架空の生き物、いるのかどうか分からないけど、一応。眠っている人の生気を吸い取る妖怪って言われてるんだ。女の子には男の子、男の子には女の子の。それぞれの夢魔が現れる……」 「ええ?生気を吸い取る!?何でそんな物騒なものを送り込まれなければいけないの!?」 至極最もな反応をした。確かに生気を吸い取られたら死んでしまうこともあるだろう。夢魔とはそういう存在だ。 でも違う。僕は首を横に振って、なるべく分かりやすく噛み砕いたような言葉を選んだ。 「そうかもしれないけど、生気を持ち続けるのが問題になるときもある。特にアイリスや僕みたいな、大量に生命力を溜め込むポケモンはね……ちょっとしたストレスなんかでも、ありったけに生命力を爆発させてしまうでしょ?……そういうのは、グラードンとかがいい例かも……」 「と、言うと?」 「ええとね、アイリスが眠れないことで、アイリスの身体は大変危険な状態に陥りやすいんだ。生命力が強いと、爆発するのも早い。今アイリスは眠れなくて相当ストレスが溜まってるからね。悪夢と夢魔で、ストレスと生命力を調整するのさ……」 「悪夢と夢魔で?」 そうそう、などと言って、僕は言葉を更に続けた。分かりやすいように言わないと、更にストレスを溜めてしまいそうだったから…… 「悪夢って言えばなんか聞こえが悪いけど。でも悪夢を見ることは重要だよ?そりゃ日常で毎日見たら嫌かも知れないけど、ストレスが一定以上を振り切ったときに、現実の世界で晴らせなかった鬱憤が、夢の世界で悪夢になる。そうやって夢でストレスを解消してバランスを調整しているのさ」 「ふむぅ……じゃあ、夢魔で私の生命力を調整すれば………」 「原因が分からなくても、それなりに回復はするんじゃないかな?ご飯食べた後に運動したくないでしょ?アイリスの状態はご飯食べた後みたいな感じ……だから、夢の世界でストレスと生命力の消火作業をしないと」 それだけの説明をし終えると、アイリスの顔が少しだけ安堵に変わる。 「やっぱり、持つべきものは親友だね」 「……都合のいいように利用してる気もするけど」 「何か言った?」 「なんでもございません」 親友というのは間違ってない。一緒にいるくらいだから、親友だろう……何だか利用されてるような節もあるけど、この際そういうことは気にしないようにした。 「じゃあ早くやりましょう、原因調査原因調査……」 「原因が分かるって思わないでよ……じゃあ、いくよ」 僕は夢魔がどういうものか詳しく説明はしなかった。説明したら、絶対やめろといわれるからである…… 「ダークホール……」 瞳が紫色に光って、黒紫の球体が二人分をすっぽりと包み込む。 「うっ……うぅん……」 ゆっくりと瞳を閉じるような動作で、アイリスはふわふわと浮き始める。 眠っている相手になんといえばいいのか分からないけど、僕はあくまで夢の案内人。操縦者に過ぎない…… ここから先は、全てアイリスが何とかしなければ行けないのだ…… 「言ってらっしゃい。頑張って…………」 眠る相手にこんなことを言うのもなんだが、今はそういうしかなかった。 ☆☆☆ 初めにたったのは、黒い、暗い森。周りをよく見渡して、空を見上げる。黒々とした空に、紫色の雲が不気味に発行している。見ているだけで体の力が抜けてしまいそうだった。 「ここが、私の……」 『悪夢の世界にようこそ。アイリス。僕の声聞こえる?』 ふと、頭の中で声がした。聞き間違えるはずもない。私の友達の声だ。 「あ、フィアー?大丈夫。聞こえますよー……ところで、どこにいるの?」 『僕は操縦者。僕がダークホールを操作してないと、君は眠りから覚めてしまう……だから見てるだけ』 「……薄情なのね」 『そ、そんなこといわれても仕方ないじゃないか……』 頭の中で、フィアーの困ったような姿を想像して、少しだけ噴出した。 それにしても、夢の世界とは面妖なものだった。空にゴミが浮いてるし、森の中に青色の桜が咲いてるし、地面には変なキノコが生えていた…… 「これが私の悪夢の世界??」 『悪いものでも食べたような声出してるね……僕にはどんな風かわからないけど、あんまりいい印象は受けないでしょ?』 確かにフィアーの云う通り、いい印象は受けなかった。とりあえず気持ち悪いということもあるが、何よりも変に寒気がする。 「とりあえず、先に進んでみますね……」 『分かった、原因を探ってみて。僕はとりあえず君と話すことくらいしか出来ないから……』 とりあえずとはどういう意味か……あまり深く考えても仕方が無いので、進むことだけを考えるようにする。 「先に進めば、その夢魔とやらに会うことが出来るの?」 『どうだろうね、会うというか、明確には唐突に出現するって言う感じだから、どこであっても不思議ではないと思うから、とりあえず気をつけなくてもいいよ。襲われたら身を委ねて、そのまま余分なエネルギーを吸い取ってもらえばだいじょぶだから』 「なるほど……」 頷きながら歩を進める。森の中に入ると、急に景色が変わった、緑色の粘液が地面に蔓延している洞窟の中、明かりがぼやぼやとともっているが、その色は紫色、不安を掻き立てられる上に、地面がねばねばしている。 「うえっ……」 口を押さえてそっぽを向きそうになる。そんな声が聞こえたのか、フィアーは心配そうな声で話しかけた。 『大丈夫?寝てる君も嫌そうな顔してるけど……』 「森の中に入ったら、いきなり洞窟の中になって、それで変に気持ち悪い世界になった……」 事情を説明すると、フィアーは心配ないというような声で再度語りかけた。 『大丈夫だよ。それは一種のストレス発散だから。夢、というか悪夢の世界だね、科学的にはどんな風か分からないけど、人にとっては、こんなところにいたくないとか、こんな夢を見たくないとか、そんなものがストレスと一緒に悪夢になるんだ。それを嫌がって、ストレスが発散されるんだ……さあ、大丈夫だから先に進んでみて』 大丈夫とは言われたが、私自身が不安でしょうがなかった。しかし、こんなところに五秒もいたくないというのは事実だったので、とりあえずは紫色の明かりを頼りに先に進むことにした…… とにかく進むにつれて不快感が増していくのはわかった。おぞましい瘴気というのは夢の中でも現れるのだろうか?正直に言ってしまえば、この状況がどうにかなるならすぐにどうにかしてほしい。吐き気がするのも、眠れないのも、こんな洞窟をうろつくのももうたくさんだったが…… 『大丈夫?足が止まってるように見えるんだけど……』 「そんなことないですよ……」 ここまでしてくれたフィアーに対してのちょっとしたごめんなさいという気持ちもあるために、一概にやめたいなんていえるはずがない。そもそもこれは自分の問題である。 自分で解決しなければ何の意味もない。そう言い聞かせて、とにかくネチョネチョした地面を一歩一歩踏み進める。変に生臭い臭いがするし、段々洞窟もネチョネチョ感が増えるし…… とにかく、最悪な気分であるということは間違いなかった。これ以上の最悪が訪れるというのなら、それはこういうところで変なポケモンでも出てこようという状況だろう。ただでさえ精神力を疲労させているというのに、こんな状況で更にポケモンが出てきたら―― 「死にますね、確実に」 『大丈夫?死ぬほどいやな夢の中なの?』 「そういう意味じゃないので安心してください」 頭の中に断続的に響き渡るフィアーの心配そうな声をわざと大きめの声を出して大丈夫と言い張る。無論大丈夫なはずがない。大丈夫なら悪夢の世界に来るはずがないし、そもそも普通に幸せな夢を見ながら涎をたらして眠っているはず。 それが大丈夫という状況である。今の状況は……大丈夫ではない。確実にやばいという状況であるということだ。 「ああ、ほんとに頭の中で思ってたらなんか出て来そうで恐い……」 こういう状況下にいると、精神にかかるストレスの負担は通常時の五倍くらいかかるといわれているらしいが、真相は不明である。 そもそもの問題として、こんな状況で発狂するなといわれて、はいしませんといえる自信がない。 そんなことを考えていたら、なぜか体中が寒くなった。後ろから何かついてきているような気もした。 なんだろうこの感じは……まるでぴちゃぴちゃと何かが這いずる様な音まで聞こえてきそうな気もしてきた…… ぴちゃ……ぴちゃ……ぴちゃぴちゃ…… 「ひぃぅ!?」 『ど、どうしたの?』 いきなり後ろからぴちゃぴちゃと音が聞こえて、思わず後ろを振り向いた。誰もいない。だが、音だけは聞こえる。恐い。これほど恐いことはない…… 「どうしたのって、いきなり後ろから音が……!」 『ごめん、僕は君の声しか聞こえないから、ダークホールの中で起こった悪夢は僕にはどんなものかわからないんだ』 「えええええ!?何それずるい!!」 『そもそも、その世界で起こる悪夢は、アイリスがこれが夢なら覚めてくれって思うものばっかりだから、君がそんな風に思えば思うほど、悪夢の世界は形を変えて君を苦しめるよ?』 「それを早く言ってよ!……ああ、何かほんとに恐くなってきた……」 『だけど恐くなってるってことは、ストレスが発散され始めた証拠だよ……夢の世界で何も感じなくなったら、もう末期症状だからね』 フィアーの暢気な声がやけに耳に響いた。響いただけで、言葉の意味なんて二秒で頭から抜け落ちた。ここにいたら、ほんとに気が狂いそうだった。 ぴちゃ……ぴちゃ……ぴちゃ…… 異常に気になる変な這いずる音がやけに耳につく。それを振り払おうとしても、耳を塞いでも結局聞こえてきてしまうのだ。それは自分が嫌だと思ったから。悪夢の世界というのはそういうものだとフィアーは言い切った。 「あー……そういえばフィアーから昔恐い話を聞いた事が……」 『え?』 口に出して思い出したくないことを思い出し始めた。それは夏の終わり頃に眠れなくて怪談話を聞いたときに。ぽつぽつとまるで死人のように語りだしたフィアーの怪談話だった。 あまり言い話ではなかったような気もした。どんな話だったか……確か、柳のざわめく小道を夜歩いていたポケモンが、後ろから這いずるような音が気になって……後ろを向いた瞬間に―― 「た、確かそのポケモンは――」 なんてお話を思い出すのではなかったと頭の中で後悔した。 「ベトベト――」 ずる……ずるるる……びちゃ、びちゃ…… 「っーーーーーー!?!?!?」 『わわ!?どうしたの?ちょっと、ねえ、アイリス!?ちょっとー!!』 声が出ない悲鳴。話には聞いていたが、そんなことを自分がやるとは以外だった。 自分が嫌だと思ったものが、思えば思うほどどんどん出てくる―― フィアーの言ったことがようやく分かって、頭の中で死ぬほど後悔した。 この夢は自分のもの、自分の強い思いが実体化する世界…… 要するに――自分はこの状況でベトベトンが出てきたら嫌だなと思っていたのだ…… ベトベトンが笑った、ずるり、と顔を崩して。ゲハゲハと笑う。ぐずぐずと崩れかけた腕のような粘液の塊を大きく振り上げて、私の身体を思い切り掴み上げた…… 「キャッ――――!!!」 『ちょっとアイリス?どうしたの??夢魔があらわれたの??アイリス??アイリスー!?』 ダークライの応答も聞こえない。頭が完全に真っ白になった。自分で何をするわけでもなく、勝手に身体の力が抜けていく感触。 これが恐怖というものだと、改めて知ったのだった―― 身体から伝わる汗の感触に、ベトベトンの気持ち悪いリアルな粘液の感触。これは夢だと思いたいくらいの、ほんとに嫌だと拒絶反応する体の感触…… 何もかもがリアルすぎて、夢だと思えない。この状況は、誰でもない自分が作り出したものだということも忘れるくらい、この状況をどうにかしてほしいと思うくらい、誰もいない空間で、私は完全に固まった。 「ひっ――」 ぐふぅぅ…… 呻き声のような笑い声。ベトベトンはにたっと笑った。何を笑うのか、そしてどうして笑うのか……その意味さえもわからない。ここはわからないものだらけだ。 恐いという気持ちがメーターを完全に振り切った。油のようにヌメヌメした汗しか出なくなる。体中の力が目の前の汚物に吸い取られるような感触すら覚えてしまう。錯覚だったとしても、夢だったとしても、あまりにもリアルだ。 『ちょ――イリス……大丈夫!?――ねぇ――なんで――いわが……と――きいて――ス――気をしっか――』 何か物切れで頭の中に聞こえてきたが、それすらも恐怖心は凌駕した。何も聞こえない。何も見えない…… ただただ見えるのは目の前の化け物と、ひたすら暗くじめじめした洞窟の赤黒く変色した粘液の滴る壁だけだった…… ☆☆☆ 気絶をしていたのか、何が起こったのかは、全然覚えていなかった…… 目を覚ますと、ベトベトンは消えていた。何が起こったのかわからなかったが、とにかく周りを見渡した。特に異常もないし、さっき見た光景が広がっているばかり…… 『アイリス、アイリス!!』 「は、はい…… 『よかった、聞こえるみたいだね……なにがあったの?』 「…………信じられないくらい恐い目にあいました」 そうとしか言いようがなかった。それ以上に何があってもとりあえずはこんな目にあったと細かく伝えられるほど元気じゃない…… 『そっか、あんまり聞かないほうがいいみたいだね』 「ええ、そうしてください」 アイリスは体についた埃を払って、ゆっくりと立ち上がる。ネチョネチョした雰囲気のここから、さっさと抜け出したいという気持ちもあったために、自然に足が速くなる。 歩いている最中に、ふと思ったことを、フィアーに伝えようと思って、アイリスは口を開いた。 「フィアー……」 『はぁい』 「夢魔とやらは、どこに出てくるんですか?」 『分からないってば……神出鬼没なんだから……出てきたとしたら、夢魔の姿はアイリスが一番強く思っているポケモンの形になって現れるから……自分が思い描いたポケモンだから、すぐ分かると思うけど』 「自分の、強く思うポケモンの姿……」 そんなことをいわれて、少しだけ縮こまったような感触。胃の中が重くなって、ぐぅ、と息を漏らした。 一番思うポケモンの姿、一番聞かれて困る言葉であり、一番想像に困る言葉でもある。感情的になったり、倫理的になったり。ポケモンの思考は、常に不思議な方向へ行ったり来たりしている。 大切に思いたいと思うことや、大事にしたいと思うこと。一番強いポケモンの姿というのは、思いやりのあるポケモンならば、気持ち、心、思い…… それらの言葉が、誰よりもそのポケモンに注いだというポケモンの姿を形作るだろう。一匹のポケモンに対して、強い強い気持ちを持っていれば、そのポケモンが出るに決まっている。 アイリスは考えた。自分は誰のことを強く思っているのか……どう考えても一匹しかいないが、そのポケモンは、果たして自分が強く思うほどのポケモンなのか、などという疑問が頭の中に浮かんだ。 いろんなポケモンには会っている。花を届けてくれるキレイハナ、楽しい話を聞かせてくれるヨノワール、そのほか、いろいろである。とても個性的なポケモン達や、いろんな話を聞かせてくれるポケモン達、千差万別でいろいろなポケモンがいる。 その中で、印象に残ったポケモンというのが、恐らくアイリスにとって強い気持ちを持ったポケモンだろう。アイリスは基本的に誰とでも平等に接するし、誰かを特別扱いなんて絶対にしない。平坦な思考は、誰にでも同じ。 特に特別な思い入れがあるポケモンがいたとしても、恐らくアイリスは平坦な態度で接するだろう。他人には喜怒哀楽が激しいといわれていても、実際にそうなのかはわからない。 「強く思うポケモンねぇ……」 『アイリスは、基本的に皆平等に接するからね』 まるで今心の中を読んでいました。といわんばかりの言葉が、アイリスの胸をえぐった。ちょっとだけ苦虫を噛み潰したような顔をして、誰もいない真っ暗でじめじめした洞窟の天井を見上げた。 「フィアーには分かるんだね、私のこと……」 『分かる?……どうなのかなぁ、僕には君のことなんかこれっぽっちも分かってないって思ってたんだけどね……』 「どうしてそういいきれる?」 『どうしてって、それはそうさ……君と会話している時だってそう、君の言葉から君の気持ちが伝わってこないからさ、もしかしたら、僕と話しているのはつまらないんじゃないかなって勘違いしてしまうときが多々あった。それって、意思疎通が出来てないってことじゃないかな?』 言葉をまくし立てられたような気分がして、アイリスは少しだけ足を止めた。それは、分かっているということではないのか……そんな気持ちが、もやもやと大きくなるような気分がした。 フィアーとはいつあったのか、どうして仲良くなったのかすら分からない。それでもこうして二人一緒にいる事実は変わらないだろうし、いろいろやっているということも真実だ。 一緒にいる理由は分からなかったが、少なくともアイリスはフィアーを邪魔とか、つまらないと思ったことはない。非常に個性的なポケモンではあるが、それだけだ。特につまらないと思えるところは見当たらないし、話していて鬱陶しいと思うこともない。 会話をしていてそんな風に思えてしまうのは、フィアーの性格からきているのだろう。非常に用心深いのか、ただ単に慎重に言葉を選んでいるだけなのか…… 分からないが、一緒に行動したり、ものをプレゼントしてもらったり、そんなことをしてもらって、その人を嫌いになる理由がない。それだけは確かであった…… 「変に卑屈な考え方してますね」 『ひ、卑屈って……』 「私はフィアーのこと、嫌いなんて一言も行ってないよ?」 『そ、そうなの?……でも』 「恐らくそれは、思春期にありがちな妄想でしょ」 『!?……ひどいなぁ……』 声の調子が少しだけ変わったようにも聞こえるが、ちょっとだけ笑ったような声が聞こえる。 それに釣られて、アイリスも少しだけ微笑んだ。何だ、やっぱり違うじゃないか……そんな風にも思った。 アイリスは深呼吸して、先に進んだ。ぐにゃぐにゃと動き回る洞窟の先に、不思議な光が見える。 恐らく出口だろう……このじめじめした空間をようやく抜けられると思って、アイリスはほっと一息ついた。 『何だか、近いなぁ……』 不意に聞こえた意味不明な言葉に、アイリスは思わず首を傾げた。 「近い?」 近いとはどういう意味か、それを問いかけるのと、洞窟が歪んで、変な景色になるのは同時に起こった出来事で、アイリスは言葉を発するのと同時に、驚愕もした。声が震えの波長を捕まえて、口から飛び出る。 「っ……こ、ここは……」 『うぅん、それがね……さっきからアイリスがうなされているから、もしかしたら原因の中心部――どうしたの?』 グニャグニャと歪んで、変わった場所は―― ――自分の家。紫色の空間に、ぼやぼやと現れた自分の家……不思議な感じがして、息をつくのも忘れそうなくらい、重い空気が心臓を鷲掴みにする。 いてもいなくても、この空気は耐えられない。本能的に恐怖を感じて、アイリスは一歩後ずさったが、そこには壁しかなかった。ごつり、と木製の板に後頭部をぶつけて、アイリスは瞳を細めた…… 「た、確かに悪夢です……」 『どうしたの?近いって言えばさ、そろそろ夢魔の気配がしてきたんじゃないかな?……結構長い時間歩いてきたし、そろそろ出てきてもいい頃だと思う……どう、アイリス?どんな感じのポケモンになった?』 フィアーの声が聞こえるような気も舌が、まるでそれはアイリスの目の前にいるポケモンが喋っているように聞こえなくもない…… 『あれ?アイリス?もしもーし、アイリスってば……』 「…………これが夢魔だとしたら……相当見当違いだと信じたいですね」 フィアーの声が聞こえない。頭の中が真っ白になりそうだった。 目の前にいるポケモンに釘付けになる。 目の前にいるポケモンは……フィアーそのものだったからだ…… ☆☆☆ 「フィアー?」 言葉をかけてみるが、反応はない。変わりに、自分の体が鉛のように重くなるような気がした…… 「大丈夫ですか?」 再度言葉をかけるが、反応がない。変わりに、行動を示した。ゆっくりと、しかし確実に、こちらに近づいている。 そのたびに、身体に重石をつけられたような感覚に陥る。しかし、本当に体は重くなっている……これはいったいどういうことか。 頭の中が真っ白になる。どんどん近づいてくる不気味な影。妖しく瞳が光った瞬間に、知らないうちにアイリスは完全に動けなくなっていた。 「っ…………」 『アイリス!?どうし――』 頭の中に聞こえた声も、かき消された。呼吸をするのが難しくなってきたような気にもなって、知らないうちに口をパクパクさせる。 目の前まで来たフィアーによく似たポケモン――どう考えても、フィアーそのものであるポケモンは、ゆっくりとアイリスを抱き上げた。体格差にかなりの差が有り。腕の中にすっぽりとはまってしまった彼女に逃げる道はなかった。 最もここは夢の中、逃げようとしても逃げられるはずもない。アイリスはただただ、真っ直ぐな瞳でフィアーを見つめていた…… 「……っ!?」 ゆっくりと、お互いの顔が近づく。否、フィアーの顔だけが近づいている。何をするのかと不安がっていたアイリスの唇に、不思議な感触が乗っかった。ふにゃ、と柔らかい感触がして、アイリスは驚愕に目を見開いて――次第に顔が赤くなっていった。 「……んぅっ……んちゅぅ……」 口を塞がれて、何も言えない。湿った口内の感触が嫌に生々しく伝わるような気もして、脳みそが沸騰しそうな気分だった。 不意に、口の中にねっとりとしたものが侵入する感触、生暖かいざらざらとした感触を覚えて、アイリスはきょとんとした。口の中に入ったものが舌だと思った瞬間に、フィアーはざらつく舌をアイリスの舌に絡めて、ねっとりと舐め上げる。 「ふぅっ……ぅんっ……んゅぅっ……」 言葉にならない言葉を出して、アイリスは鼻から生暖かい息を吐き出した。身体の芯から熱くなる様な感じがして、頭の中もぼぅっとして、両目が知らないうちにとろんとなる…… フィアーはゆっくりと唾液を絡め合わせて、アイリスの口内に送り込む。ざらざらとした感触もそうだが、アイリスは送り込まれた唾液を無視することが出来ずに、喉を鳴らして、ごくりと飲み込んだ。 暫くしたら、口が離れて、銀色の糸がとろりと二人の間に橋を作る。フィアーの曇りのない澄んだ水色の瞳に、アイリスの顔が映る、アイリスは自分でもなんて気の抜けた顔をしているんだろうと思った。 「ふぁ……ぅ……んっ!?……んぢゅぅっ……」 はぁはぁと荒い息をついて、唇の余韻を確かめようか、これは夢じゃないだろうかと思って、アイリスは口に手を当てようとしたが、もう一度、フィアーの唇が重なった。貪欲で、ただひたすら求めるようなその行為に、アイリスは何も抵抗することができなかった…… 体中の力が吸われる様な感覚がじわじわと広がる。たぶんこれがフィアーのいっていた夢魔だろう。そんな風に思っていた。一番強い思いが宿った姿で現れるといっていたが、これを本人が見たらどう思っただろう。 恐らく恥ずかしくて死に至るのではないだろうか?まさか自分が出るとは思っていなかったと思うだろう。しかしそれにはアイリスも頷くかもしれない…… まさかフィアーのことを一番強く思っていたなんて、アイリス自信も想像がつかなかったからだ…… よそ事を考えていると、口の中の舌が貪欲にうねり、アイリスの口内をしゃぶりまわす。ざらついた感触が神経を伝わって脳まで送られて、アイリスは知らないうちに自分から舌を絡めていた。 「ふぅっ……んむぅ……」 こういうことをしたことが無かったアイリスはどんな風に何をすればいいとか、こんなことやあんなことをすればいいとか、そういう精に関しての知識はない。 ゆえに、どうすればいいのか分からないというのがあった。だからこそ、相手に合わせたほうがいいということもあっただろう。抵抗しようともしない。これは夢の中であり、エネルギーを発散させるという名目上、やらないと自分の身体に害があるということなので、アイリスも納得している。 「んちゅっ……んぷっ……」 再度唇が離れる。段々と目の焦点があわなくなってきたりして、まともに相手の顔を見れなくなる……アイリスはぽわぁっとした頭の中で、次は何をするんだろうと考えていた。 夢魔と呼ばれるくらいだ、それはもういろいろな方法で生気を搾取するんだろう……頭では分かっているが、いざ実際に何をするかと思うと、なんだかちょっとの不安の、ちょっとの期待がくるくると渦巻く。 フィアーはゆっくり抱きかかえていた身体を下ろして、どさりと下ろした藁の上に、ゆっくりと影を落とした。見下ろされている感じがするが、不思議と嫌な感じはしない。何をされるのか分からなかったという気持ちが強いかもしれないが、それ以上に体が反応してしまっているのかもしれない…… 何をするのだろう……と。 不安と先程の出来事でかなり体が敏感になっていたために、相手の顔が分かるという安堵感の所為か、少しも恐いという感情は起こらなかった……それどころか、不思議と安心感すら沸いてきそうだった。 「だいじょーぶ」 フィアーが喋った。大丈夫という言葉を変な発音で紡いで、すぅ、と人差し指を突き出して、アイリスのおへその上にチョイ、とのせる。ひんやりとした人差し指の感触が、お腹にぷにゅりと広がって、アイリスは背筋がぞくぞくするような感覚に見舞われた。 「うにゃっ……」 思わず変な声が漏れた。くすくす、くすくす、笑う声……フィアーの声は子どもみたいで、アイリスはぼうぅっとする頭の中で、必死に反論の言葉を紡いでいた。 「わぁ……わらぅなぁ……」 「可愛いよ。アイリス」 変な気分だった。普段こんなことを言わない人物なだけに、余計に違和感があった。こんな風に相手をからかうような茶目っ気を持っていたとは思えない。 そんなことを考えていることを忘れさせるように、フィアーの指先がつつ、と動いて、ゆっくりと、非常にゆっくりと下腹部から、陰部の線をなぞって、つぷ、と指を絡ませる。 「ひゃんっ!!」 体中に電流が走った。大きく跳ねて、空気をいっぱい吐き出す。頭の中が一瞬ぼやけて、記憶を失ったような感じになった…… 「可愛いよ……アイリス」 「ふぃ、ふぃあ……んひゃっ!!」 ぷにぷにと、指先で陰部の筋を押したり撫でたりするだけで、アイリスは子供のような悲鳴を上げる。体中から力が抜けて、ふにゃふにゃと相手のなすがままになる。 「身体の力を抜いて……息を吸って……」 戸惑っているアイリスの耳元で、フィアーはにこりと微笑んだ。小さく聞こえたその言葉の通りに、小さな身体の力を抜いて、息を吸った。 「えいっ……」 ダークライの指が一本、アイリスの陰部に挿入された。じゅぷじゅぷという音がして、アイリスは思わず声を出した。 「あにゃあっ!?!?……ひゃぁっ!!あうぅっ!!」 「お、ヒクヒクしてる……なかなか敏感なんだね?」 フィアーは嬉しそうに、吸い付いて離れない自分の指を、リズミカルに動かし始める。くちゅ、くちゅ、というねばねばした音が響いて、アイリスのお腹をかき回す。その動きにいちいち敏感になって、必死にアイリスはいやいやと首を振る。 「あぅっ!!んひゃああっ!!……だ、駄目、駄目なのっ!!そ、そんなのやだぁ…………あぅっ!!」 「やなの?…………ほんとにやなの?」 「ひゃぁんっ!!…………うにぃ……」 指をゆっくりと出し入れしたり、余った指でお尻の穴を刺激したりしながら、フィアーは嬉しそうに、意地悪な顔をして微笑んだ。 アイリスはひぃひぃと喘ぎながらも、頭の中ではもちろん違うことを考えている。こんなことを去れるなんて思ってもいなかったが、段々と気持ちよくなってきて、もっとしてほしいという気持ちがあるのと、ほんのちょっぴり、雀の涙ほど残った理性が、もう止めてと鬩ぎあう。 「ここをこんなに濡らして、アイリスはやめてって言うの?」 「はぁんっ……んきゅぅっ!!……ば、馬鹿!!あぅぅ……は、はん……そくぅ……」 「うぅん……反則じゃないよー」 言葉をまじめに返すあたり、もしかしたら本人が入り込んでいるのかという考えが頭の中によぎったが、次の瞬間には消え去っていた。 『ちょっと!!アイリス?どうしたの??急に喘ぎだすなんて……もしかして、始まった?』 頭の中に空気を読まない声が聞こえてきて、アイリスは喘ぎながらも叱咤した。 「ばかばかぁ……っ!!みないでよぅっ!!」 『うわわっ!!??……あ、これは失礼しました……ごゆっくり……』 そういって、声は聞こえなくなった。アイリスは起きたら真っ先にフィアーをどつこうと考えたのだった。 しかし、そんなことは頭の中を大麻のように支配する快楽がすぐにくしゃくしゃに塗りつぶしてしまう。 「もっと、してほしいんじゃないの?」 「あぁっ……ふぁっ!!……ちが、いま……ひゃんっ……」 指の動きが段々早くなって、途切れる息も、断続的に漏れる空気の音も、一緒になって喘ぎ声に変わる。フィアーは会いもかわら随時の悪い顔をしながら、焦らすようにくちくちと膣内に入った指をかき回している。 「違わないと思うなー……気持ちいいって、口に出していってみると、結構すっきりするんだよ?ほら、言ってみて?」 まるで普段使っている言葉を恥ずかしがるなといわんばかりの口調で、フィアーは暢気に笑いながらアイリスの性感帯を開発する。 アイリスは必死に理性を保とうとするが、絡みつくように動き回るフィアーの人差し指が、そんな抵抗を剥ぎ取る。頭の中がじゅくじゅくと腐るように支配されていき、毒のように広がった快感がアイリスを支配する。 「うふふ……アイリス、イきそうな顔してる……どんな感じ?ねぇ……どんな感じする?」 無邪気に聞いてくるフィアーの顔は本当に純粋で、何も分かってないみたいな顔をしているが、確信犯とか愉快犯とかも同じような顔をするというらしいが、その顔が前者か後者かは分からない…… 子どもみたいに言葉を繰り返すようなかわいらしい仕草、相手の顔が見えなくても、声と波長でなんとなく分かるが、アイリスはぼやけた頭の中で、相手の顔を見れないまま、うつろう瞳を左右に振ってから、小さな声で答えたのだった…… 「ぅっ……き、気持ち……いぃです……」 「うふふ……それっ」 アイリスの言葉を聞いたフィアーはとても嬉しそうな顔をした、聞きたい言葉を聞けたような気分にでもなったのか、ニヤニヤしていた顔をニコニコさせて、ヒクヒクとものほしそうに疼いていたアイリスの陰部の上にある突起を、左手で掴んでぷにぷにとつまんだ。 「あゃぁっ!!ふああああああっ!!!」 一際大きなアイリスの声が聞こえて、ぷしゃ、と、陰部からとろとろの液体があふれ出る。頭の中まで真っ白になって、体ががくがくと震えた。 「うふふ……ここまでだよ……お休み、アイリス……」 「うにゅぅ……ひゃぅぅ……」 それだけ聞くと満足そうに、フィアーは闇の中に消えていく。残されたアイリスはぼけっとしたまま、快感の余韻に浸っているのだった…… ☆☆☆ 『アイリス?聞こえるかい?アイリスってば!!』 「ふぇ?……あ、フィアー……」 『終わったみたいだけど……どう?気分は?どんな感じ?』 暫くほうけていたところ、頭の中に声が再三再生される。同じような声を何回も聞いて気が滅入るかと言われれば、否である。 聞きなれた声は聞こえるだけで、心地のよい音楽のように再生される。 「大丈夫です……その、身体も、ちょっとだけ軽くなったような気もします……」 アイリスの言葉を聞くと、頭越しにフィアーの安堵の声が聞こえた。 『そっか、それはよかったよ……大丈夫かなって思ってて心配だったから、うん、生身の君もうなされてないよ……どうやら身体のバランス調整はうまくいったみたいだね』 フィアーの声を聞いて、先程の夢魔との出来事を思い出して、何だか恥ずかしくなるやら、何を思うやら不思議な思考が絡み合って、アイリスは考えることに悩まされた…… 「……私の一番強く思っているポケモンが……フィアーかぁ……」 当然といえば当然かもしれないが、もしかしたら別のポケモンが出てくるかもしれないと思っていた分、やっぱり出てきたときに、心の底の何処かでやっぱりなぁと思っていたのかもしれない…… 付き合いが長いというか、同じ屋根の下で一緒に住んでいるからと言うか、お互いにお互いの気を使いあったり、いろいろなことをぶつけ合ったりしていれば無意識のうちに気のいい友達になり、意識が強くなるのも頷けるだろう。 だからこそ、フィアーの姿で出てきたのかもしれない。そう思うと、アイリスはふっと、口から変な息を漏らした。 「当然といえば当然かもしれないなぁー」 『何のこと?』 「何でもないよ……」 短いやり取りで会話をきる。それ以上追求する気もないのか、フィアーはそう、といってから次の話をし始めた。 『アイリスのいるそこが最後の行き止まりみたいだね……結構短い悪夢だったってことは、つい最近のことだから、やっぱり原因もつい最近のものってことになるみたいだね……その辺に原因がないか調べてみようか……』 「原因ですかねぇ……?」 フィアーの言葉に従って、アイリスは部屋の中を物色し始める。壺をひっくり返したり、戸棚の上に上って何かないか調べて見たり…… 同じような行動を何回か繰り返して、入口の右のすみに、変なスカーフを見つけた。 「ん?何このスカーフ……なんか黒く変色してる……」 そのスカーフの生地の色は青色だが、なぜかもやもやしていて、所々が黒くなっている。 すると、いきなり体中に強烈な眠気が襲い掛かって、自由に動くことができなくなる…… 「うぁ?……な、なんで……?」 『アイリスが原因を見つけたんだね……目が覚めるよ!!』 アイリスはその言葉を聞く前に、こてり、と誰もいない空間で横になった。その次の瞬間、意識が目覚めて、別の自分が目を覚ます。現実にいる、生身の自分であった。 「うぅっ……わぁっ!!」 「起きた……おはよう」 フィアーの暢気な声が聞こえて、アイリスは辺りを見回した。先程と何も変わっていない、いつもの自分の寝床だった…… 「原因はわかったみたいだね?」 「うぅん……と……」 原因がいまいち分からなかったが、あのスカーフはどこにあっただろうと思って、記憶の糸を必死に手繰って、二、三歩歩いた後に、ピン、と閃いたかのように。自分の背中を弄った。 「あ、あった!!」 もこもこした緑色の毛のようなところから、青色の綺麗なスカーフが顔を出した。フィアーも驚いてそれを凝視している。 「これが原因?これは僕が一週間前に君に上げたスカーフ……」 「そうです。そー言えば、どこでこのスカーフ見つけたんですか?」 「あ、ああ、これは森に落ちてたんだ。綺麗だったからアイリスに似合うかなーって……」 「ふぅん…………でも、これじゃあ何で原因か分かりませんね……ちょっと調べに行こう」 原因がわかったが、どうしてスカーフと眠れないのと関係があるのかどうか妖しかったので、アイリスはフィアーの方にちょこんと飛び乗ると、ほっぺをつんつんつついた。 「さあさあ、出発ですフィアー!!」 「わ、わかったよ、わかったからひっぱらないでっていててててて!!」 ほっぺたを引っ張られながら、フィアーは真昼の空を飛ぶ。緩やかな草原を跳び越して、原っぱのはずれにある。ふるーい家に辿り着いた。 「もしもしもし!!!ヨノワールさん!!いないですか!?」 ドアの前に立つなり何なり、アイリスは大きな声を上げた。 「ハイ、どうぞ」 ドアの向こうから落ち着いた声が聞こえた。肩に乗っている生き物とは対照的だと感慨にふけるフィアーのほっぺたを思いきり抓って、アイリスはドアを開けさせるように命じる。 「さあさあ、行きましょう!」 「痛いから、抓るのやめてってば!!」 右の頬を手で押さえながら、ため息をついて、フィアーはゆっくりとドアノブに手をかけた。 木製の古いドアが軋む音がして、ぎぃ、という音とともに中の様子が視界に飛び込む。 硬い木で出来た机の上に散乱する紙の束の上にカップが置かれていて、その近くで外の様子を窓から見ていたポケモンが、フィアーとアイリスのほうへ向き直ると、にこやかに微笑んだ。 「やあ、お二人ともこんにちは……今日はどうしたのかな?」 フィアーと同じようなのほほんとした口調、穏やかな顔は、何かが起こっても動じないといったような感じがする。見た目の第一印象は、優しそうなポケモン、そんな風に取れるだろう。 だが、そのポケモンは冥界に魂を引っ張り込むポケモンヨノワール。特徴的にお腹に在る大きな口が、穏やかな笑みを浮かべているのとは対照的な威圧感と不気味さをかもし出している。 「ノワールさん!!ちょっとこのスカーフ見てくださいませんことでしてよ!!」 会って早々シェイミはずいずいとヨノワールの幽霊の尾のような部分によじ登って、手に持った青色のスカーフを近づけた。やはりというか何と言うか、ノワールと呼ばれたヨノワールは、特に動じることもなく。嬉々としてそのスカーフを受け取った。 「フムフム、これを調べればいいのだね?……ちょっと失礼。最近老眼になり気味でね、眼鏡がなればどんなものか分からんのだよ……はっはっは」 暢気に笑うノワールとは対照的に、アイリスは文句を言っていた。 「何暢気に笑ってるんですかノワールさん!?私は死ぬほど恥ずかしい思いをして不眠症の原因を……」 「そんなにかっかするものでもないと思うがね……まぁもう少しだけ……ええと……ふむぅ……」 眼鏡をかけて、ノワールはフムフムと暢気な声を出してスカーフを見ている。アイリスは神妙な顔つきになってそれを見守るだけで。フィアーはそんな二人を遠巻きに見つめることしかしなかった。 暫くスカーフを弄っていたノワールは、終わったのか、スカーフをアイリスに返すと、こほんと咳払い、落ち着いた口調で、ゆっくりと語りだした。 「これはふみんスカーフといってね、特殊なものだね、身につけると、一切睡眠が出来なくなるというものだ。徹夜をしたかったり、どうしても眠ってはいけない状況なんかで使うといいだろう……まぁ、基本的にあんまり身につけるものではないということだね……」 「え?」 「これをつけていても、疲労はするさ。つけたポケモンはきっと眠って体力回復する分の疲労が蓄積しているはずだよ……で、これがどうかしたのかい?」 原因は今完全に分かった。ぎろり、とフィアーを睨み付ける。びくり、とフィアーは震えた。 「なるほど、原因は全て貴方の持ってきたものが問題だったんですね…………」 「ちょ、っと、待ってってば!!!アイリスだって嬉しそうにつけてたじゃないか!!それなのに僕を責めるなんて……」 「どんなものか分かっていたら、そんなものはつけてませんでした!!!」 それは誰でも思うことだ、ちょっと待って、せめて弁明をさせてほしいというフィアーの言葉を無視して、アイリスは体を発光させる。怒ったり、感情が高ぶったりすると、アイリスはいつもからだがポワポワと光る変な体質を持っていた。体中まばゆい光に包まれて、一歩、また一歩とフィアーと距離を縮めていく。 「や、やめ……その……あの……ごめんなさぁぁぁぁい!!!!」 「こらぁっ!!!まてぇぇぇぇぇぇっ!!!!」 たまらなくなったのか、顔に涙を浮かべて、フィアーは逃げ出した。まさに尻尾を巻いて逃げ出すという言葉がふさわしい逃げっぷり。それを追いかけるアイリスは、まさに鬼気迫るといった感じで、一部始終を見ていたノワールは二匹があわただしく出て行ったあとに、また外を窓から見つめていったのだった…… 「まぁてぇぇええええ!!!」 「やだやだやだやだぁ!!!ごめんなさいごめんなさい!!!」 フィアーは涙を流して広い原っぱを疾走する。それを追いかけるアイリスは、頭の中でふと考えていた。そのことは、どうして自分はフィアーを強く思ったのだろうか、ということだった。 なんとなくさっきは分からなかったが、今なら分かるような気もした。 こんなことばっかりしていているからこそ、夢の中の自分はフィアーを選んだのかもしれないということだと、アイリスは思っていた。 夢の中のフィアーは、お茶目で、性格もなんだか強気で、自分と肩を張れるというよりも、並んで歩いていても違和感がなく、きっとすぐに仲良くなれそうな性格、現実のフィアーは優しくて、でもちょっぴりおっちょこちょいで、そして臆病で平和主義。争うことも、争いを持ち込むことも大嫌い。 優しくて、でも弱気で、そんなフィアーを見て、もしかしたら、友達として、理想の像のようなものを心の中に思っていたのかもしれない。夢魔はそんなフィアーを忠実に再現してくれたのだ…… 今のままでも十分魅力的だけど、もうちょっと、強気で、お茶目になってくれたらいいかもしれない。友達としてもそう思って、もしかしたら異性としてもそう思っていたのかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない…… 「ごめんなさぁぁぁぁぁぁい!!!!」 「まてーーーー!!!」 そうじゃないかもしれないし、そうかもしれない。違うと思うけど、当たっているとも思ってる…… 矛盾する気持ちがハッキリしないまま、アイリスは笑顔でフィアーを追い掛け回すのだった…… 了 ---- 御仕舞いです。初めて書いたほうにしては何だかよく分からない終わり方になってしまいました…… うぅん、よう勉強ですね……お目汚しすみませんでしたorz ---- - 牛丼他の万回意味分からんのか異なヤングの阿賀人様の玉枝には牛丼多野まのqんん2k--vlqq ――[[エミリナ]] &new{2011-06-16 (木) 17:23:37}; - 牛丼他の万回意味分からんのか異なヤングの阿賀人様の玉枝には牛丼多野まのqんん2k--vlqq ――[[エミリナ]] &new{2011-06-16 (木) 17:23:37}; - 牛丼他の万回意味分からんのか異なヤングの阿賀人様の玉枝には牛丼多野まのqんん2k--vlqq ――[[エミリナ]] &new{2011-06-16 (木) 17:23:38}; #comment IP:180.11.127.121 TIME:"2012-11-23 (金) 16:53:21" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%83%9D%E3%82%B1%E3%83%A2%E3%83%B3%E5%A4%9C%E7%89%A9%E8%AA%9E-%E5%A4%A2%E9%AD%94-" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0)"