【PS2-164】背負えぬ罪、背負わされた負債 【第164話】背負えぬ罪、背負わされた負債 ※此方はポケモン小説スクエア様にて掲載している「ポケットモンスターSoul Divide」の第164話のみを、規制なしの完全版として掲載したページです。表現内容の都合で、この回だけポケモン小説Wiki様を間借りすることといたしました。ご了承下さい。 ※本編URL……https://pokemon.sorakaze.info/shows/index/2667/ これはパーカーが、現代の自社ブランド『レザーミュージック』を立ち上げる前の話。 コートグループ……それは数多の業界にビジネスを展開する巨大財閥。 手掛けている分野は食料品、医薬品、電子機器…… そして音楽業界……と、非常に多岐に渡る。 そんな音楽レーベルを手掛けるコートグループの子会社『コートエンターテイメント』の社員であったパーカー。 元々はイジョウナ地方でチャンピオンの座席に座れるほどの実力者であったが、成人したことを切っ掛けにトレーナーを引退。 18年前、彼女は22歳で入社をしてから数多くの優秀なアーティストを発掘し、その全てが世相を騒がせるほどの大ヒットミュージシャンへと成り上がっていった。 特に女性アイドルグループを何十も爆発的に売り出したあたり、彼女の手腕の凄まじさが伺える。 正に期待の敏腕プロデューサーとして、社内にその名を轟かせることになった。 ……が、2年ほどして彼女は違和感に気づく。 退所するアイドルがあまりにも多いのだ。 その上彼女たちは、まるで何かから怯えて逃げるように芸能界から消えていった。 加えて、残留したアイドルは不自然なほどの速度で出世していくのだ。 不審に思ったパーカーは、知り合いの探偵に内部調査を依頼することにした。 その結果……判明した事実は壮絶なものだった。 なんとコートエンターテイメントの上層部が、権力を傘にアイドルたちに手を出していたのだ。 得意先の企業や、同グループ内の重役、果てにはリーグスタッフ上層部の人間などが……パーカーのプロデュースするアーティストたちに手を出していたのだ。 しかもタチが悪い事に、コートグループは警察にも顔が利いてしまうほどの大企業……この不祥事が表沙汰になることは、ついぞなかったのである。 パーカーはこの状態をひどく危惧していた。 プロデューサーとして、貴重な人材が潰されることが…… そして何より、才ある若い芽が摘み取られることが許せなかったのだ。 だから彼女は、同社の最上層部へと直談判をすることにした。 つまりは代表取締役社長……ガウン氏の元へと。 「社長……!我々の重役たちの非道を、見過ごすおつもりですか!?アーティストたちの誇りを、傷つけるつもりですか!?」 子会社の一社員に過ぎない彼女ではあった……が、社長に謁見を許される程度の業績はあった。 故に怯まず、彼女は立ち向かったのだ。 「……分かってないなぁパーカー君。彼らだって同意の上だ。何が何でも上に這い上がろう、という者だけが。手段を選ばず、根性で掴みかかろうとする者だけが……残っているという話じゃないか。 「ッ………!?」 「コレは謂わば選別さ。この残酷な社会で生き残るための選別であり、交流を円滑にするためのレクリエーションでもある。これほど合理的なことがあるかい?」 「ッ……!!」 ガウン氏の態度に、パーカーは言葉を失った。 ……そう、彼自身もグルだったのだ。 人としても経営者としても、あまりに外道が過ぎる。 ……が、これに反論するだけの力を……一社員に過ぎない彼女は、持ち合わせていなかった。 「……それともアレかね?キミにはコレ以上の案があるというのかね。」 そしてパーカーの身体に、ガウン氏の手が触れる。 「ッ………!?」 恐怖と驚きから、声が出せない。 「そう言えばキミ、結構良い顔してるよねぇ。歳の割に幼い……ウチのアイドルにも引けは取らないんじゃない?」 「…………!」 放たれた言葉の意味が、分からない彼女ではなかった。 ……パーカーは身代わりになった。 摘み取られる芽を守るために、自らの身を呈して。 その良心に漬けこまれ、陰惨な目に遭った。 それでも……大切なアーティスト達のためには、屈し、言いなりになるしかなかったのだ。 ……身体に異変を感じたのは、そんな生活になって3年目。 その腹の中には、子供が生まれていた。 その事を隠すべく、彼女は会社を辞めた。 ……誰との間にできた子かすら、知らなかったのだ。 ただ、彼女はその子供を……大変に煩わしく感じていた。 欲に穢れた汚い人間との間に出来た子を……彼女は愛することが出来なかったのだ。 一刻も早く、この重荷を降ろしたかった。 彼女はエンジンシティにあったヤミ製薬から、裏ルートで薬を購入した。 迷いなく薬を飲み、自らの身に染み付いた呪縛を振り払わんとした。 ……しかしその薬は効果を示さず、10ヶ月目に突入する。 結局彼女は、自宅でそのまま子供を産んだ。 彼女によく似た、桃色の髪と青い目をした元気な女の子だった。 普通に見れば、可愛らしい赤子に過ぎなかったのだろう。 が……彼女にはそうは思えなかった。 その時……生まれた子供に彼女は何を見たのか。 激痛の果てに倒れたその視界に写ったのは…… ……怪物だった。 その目は全てを飲み込まんとするほどどす黒く、鳴き声は地獄からのうめき声のようにすら聞こえた。 パーカーは、自らの身から生まれた目の前底なしの怪異に……発狂すらしたという。 後から判明したことだが、彼女の服用していた薬の副作用で、娘には異常体質が出来上がっていたのだという。 それが関係してか否かは不明だが、パーカーには娘が悍ましく思えたのである。 ……だから彼女は、郵送で娘をコート家の屋敷まで送りつけた。 その罪までは、パーカーには背負えなかった。 自らの傷を、彼女には愛せなかった。 正妻に逃げられ、子宝にも恵まれていなかったあの家には丁度いい贈り物だ……そう思わずにはいられなかった。 その後、その娘にトレンチという名がつけられたことも…… 血の繋がった親子が居ない窮屈な環境で育て上げられたことも…… パーカーは知らなかった。 ………14年が経過した、あの日までは。 以後、パーカーはコートエンターテイメントを退社した。 大事なアーティストたちに、コートグループという腐った組織の息がかからぬよう、自社ブランドを立ち上げることにしたのだ。 またコートグループには、リーグスタッフ達とも酷い癒着があった。 そんな組織は、根本から作り変えなくてはならない。 自分のような目に合う人間が、生まれてはならない。 そんな意志から、彼女はジムリーダーの資格を取り、最強の席にまで上り詰めた。 ……それが、あの日自らの捨てた、娘へのせめてもの報いだと考えながら。 ーーーーーーーーーーーーーー 「はー……なるほどなぁ……。」 タントシティの病院にて、エンビの経過を観察していたテイラー。 ジャックの手術やレインの義手の調達など、一通りの仕事が落ち着いた彼女は、ある事を調査していた。 ……トレンチお嬢のことだ。 彼女が他の人間と少しばかり違う点……もとい異常な点はいくつかあった。 異常な食欲、早すぎる怪我の治癒、一度もトイレに行かない入院生活…… しかしこれを「ギフテッド」の一言だけで説明するには、限界があったのだ。 彼女は今、CCという膨大な情報量・質量をもつモノを体内に内包している。 少なくとも、「少し他人と違う程度」の人間に飲み込めるものではないのだ。 そしてその調査の一環ということで、中庭で空を眺めていたエンビに話を聞きに行っていた。 「……なるほどな。ソレがあの、エンジンシティの爆発した工場なんか。」 エンジンシティの工場……とは、エンビが10年前に事故を起こしたあの化学工場である。 「あぁ。俺も後から知ったんだが……あの工場で密造されていた薬には、劇的な副作用があるらしくてな。」 「副作用……?」 エンビは一呼吸置いて、例の薬に関する事を思い出していく。 「……過剰翻訳(オーバートランス)っていうらしい。DNAの『翻訳』は知ってるよな?」 「あぁ。DNAの情報から、生体を構成する反応機構のことやな。」 「そうだ。知っていると思うが、DNAの大半は人体構成に不要な情報で構成されている。その不要な部分は、『翻訳』の際には読み込まれないんだ。」 彼の言う通り、DNAの中でも重要な情報はごく一部に過ぎない。 「だが……例の薬を投薬されると、その『不要な部分』まで読み込んでしまう。すると許容量を超えた胎児の生体はどうなるか……コレがまた信じがたい話でな。」 彼の言葉に、固唾を飲むテイラー。 そして明かされた事実は、驚愕のものであった。 「……そのまま、広大な亜空間になる。」 「は……!?」 「あぁ……多分トレンチは、体内に三次元を超えた巨大な空洞を内包しているんだ。CCは恐らく、そこに収納されている。」 「ッ………!」 にわかには信じがたいテイラーは、唖然として固まる。 ……が、辻褄は合う。 異常な食欲は、摂取した食物の大半が亜空間に消滅するため。 怪我の治癒は、亜空間内の生体情報と損傷箇所の状態を交換していたため。 排泄物が出ないのは、そもそも消化器が正常に繋がっていないため。 ……そしてCCの内包後に上の2つが消えたのは、亜空間内をCCが埋めてしまったため。 今までの「ギフテッド」と呼ばれていた異常な現象は、全てパーカーの服用していた薬が原因だったのである。 「俺もあの工場で薬品の残滓を浴びたからな……部分的にだが、ギフテッドになったのかもしれん。」 「マジか………あの嬢ちゃん、とんでもない負債を押し付けられたモンやな……。」 パーカーの犯した罪過は、ここまでお嬢の肉体を侵犯していた。 彼女の運命を、家庭的にも物理的にも……奪い取っていたのだ。 そんな特異体質だったからこそ、お嬢は世界を救えたのかも知れない。 しかしそれでも、彼女の背負った傷は消えることはない。 そしてその詳細を……トレンチ本人が知ることは、金輪際無い。 ……あってはならない。