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ポケットモンスタークロススピリット 第5話「決意」 の変更点


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 ポケットモンスタークロススピリット、[[前回>ポケットモンスタークロススピリット 第4話「運命と意思」]]までは……

 人とポケモンを凶暴化させる謎の物質ゾーンと戦うためポケモン界へとやってきたツバサは、見知らぬ四人組と出くわす。彼らはツバサと同じポケモンと変身する能力を所持しており、初対面であるにも関わらず彼の命を狙ってくる。
 危ういところでフーディンが登場し、ツバサと変身して四人組の一人が差し向けたポケモン――シードラと戦いこれを打ち破ったフーディンは、シードラに止めを刺そうとするもツバサによって変身を解除され止められてしまう。フーディンとルカリオは変身無しでは技が使えないのだ。
 ツバサはポケモン界を救うためにやってきた自分がポケモンを手に掛けることに疑問を抱き、シードラの命を救う。このことに感激したシードラは心を改め、それと同時に進化を遂げツバサの仲間となることを約束したのだった。

第5話 「決意」


 シードラがキングドラへと進化し、オレに力を貸してくれるという。希望どおり、いや、それ以上の展開に喜びを抑えられなかったオレは、もう一度キングドラを抱きしめる。
 抱きつく寸前に一瞬キングドラの顔が歪んだが気にしない。今は仲間が増えたことの喜びだけがオレの心を埋め尽くす。
 フーディンに対してはひどい扱いをしてしまったが、オレの気持ちはおそらく伝わったのだと思う。その証拠として、彼は何も言うことなく黙然として見守ってくれている。
 それにしてもキングドラの体は大きい。身長は180cmもあり、体格もたくましく、抱きしめようにも腕を回すのがやっとである。
 と、ここではっと冷静になる。いや、冷静にさせられたと言った方が正しい。キングドラの体越しに、凄まじい殺気をまとってこちらを睨みつけるエアームドが目に入ったのだ。
 エアームドは、シードラ、現キングドラをオレに指し向けてきたコウジという大男のポケモンである。仲間が増えた喜びに浸りすぎたあまり、キングドラがコウジのポケモンであるという事実はオレの脳内から吹き飛んでいた。

「貴様……コウジを裏切るのか! おのれ、許さん! 俺の怒り、受けてみろ!」

 このままではまずい。あのエアームドの力の程は定かではないが、少なくとも変身したとあればフーディンと同等の強さがあると考えて間違いないだろう。
 鋼鉄の翼から一枚の、短刀と化した羽を投げつけてくる。使い方がゲームやアニメで見たそれと異なるが、おそらく“はがねのつばさ”と呼ばれる技だろう。
 技の軌道は使用者の怒りのようにストレートで、寸分の狂いもなくオレの額を狙ってくる。技とは言え、その正体はたかが一枚の羽だ。と言いたいところだが、エアームドが放つ怒りのオーラが、その1枚の羽に無数の矢のごとき迫力を備えさせる。
 そんなオレをかばうように、キングドラはすぐに抱きついてきていたオレの腕を振りほどき、その短刀と化した羽をその身に受けてしまう。

「キングドラ! だ、大丈夫か!?」

「気にするな。水タイプのオレは鋼技に強い。それに、あいつは“つるぎのまい”でも使わなければもともとの攻撃力は大したことはないからな」

 “つるぎのまい”は激しい踊りを舞い、攻撃力を格段に高める技。もともと防御力に優れた体を持つエアームドは、攻撃力まで優れるわけではないが、高い耐久力がこの技を使う余裕を与えてくれる。すると、容易に高い攻撃力を得ることができるというわけだ。
 キングドラの、身を盾にしてオレを守ってくれる行動を目の当たりにし、殺気に圧倒されていたオレは我に返る。
 今の行動は、キングドラのコウジを裏切ってでもオレに尽くすという意思を表している。それならばこちらも応えなくては。
 すぐにフーディンと変身しようとするが、先に敵側に動きがあった。なんとエアームドとコウジの変身が解除され、怒り狂ってこちらに攻撃を仕掛けようとする彼を、トレーナーのコウジがその太い筋肉質の腕で押さえつけているのだ。

「離せ! 離せコウジ! 俺は……お前を裏切ったあいつが許せねえ!」

「気持ちはわかる。だが、悪いのはキングドラではなく、あのガキだ。すぐにでも消してやりたいところだが……」

 駄々をこねるようにトレーナーの指示を無視して暴れようとするエアームドだが、コウジの言葉を聞いて何を思ったか、睨みつけるだけでこちらを攻撃しようとはしなくなった。
 奴らが何故オレの命を狙うのかわからない。だが、それ以上に、人の命を狙うほどの悪党でありながら、ポケモンは傷つけないとでもいうのか。
 善と悪の両面を持つと言えるその行動に、彼らにとって何が正義であり、また真の目的は何なのか、謎は深まるばかりだ。

「コウジ……ガレスが……くる……」

 ユキメノコが感情のこもっていない、どこか哀しさを感じさせる声を放つ。それに応えるようにコウジが頷くと、再び彼とエアームドは一体化。
 それを確認したユキメノコは、シードラとオレを戦わせる先ほどと同じように着物の袖口のような部分から冷気を繰り出す。
 よく見ると単なる冷気ではなく、粒状の小さいものが見える。先ほどは気付かなかったが、おそらく“あられ”という技を使っており、ユキメノコが持つ特性“ゆきがくれ”を発動させることで姿をくらませるつもりと思われる。
 この様子だと逃げるつもりだろう。だが彼らの善悪の基準も、目的もわからないまま逃がすわけにはいかない。

「待て! 逃げるのか? お前たちの目的はいったいなんだ!」

「フンッ! ほざけクズめ。威勢はいいが、それだけでは奴の餌食になるだけだぞ。せいぜい生き延び、次に会う時は俺を楽しませてみろ。ハァーハッハッハッハ!」

 こちらの問いかけをあっさりと受け流し、余裕の言葉と狂気を感じさせる高笑いを響かせるバシャーモ。
 その声が聞こえなくなる頃には視界は晴れ、先ほどのことが嘘のように美しい夜空が広がっていた。





「奴らは……いったい……」

 手がかりとなるようなものは何もなく、到底彼らを追うことなどできない。そもそも彼らの強さは、あのバシャーモの動きから見ても想像を遥かに超えているだろう。悔しいが返り討ちに遭うのは目に見えている。
 彼らを逃がした悔しさと、脅威から逃れることができた安心感という複雑な感情が渦巻く。
 と、そこへルカリオが慌てた様子でやってきた。砂を蹴ってこちらに向かう彼の表情は、わずかながら驚きの色が出ている。

「今の奴らは……?」

 始めに、先ほど去って行ったヒリュウたちについて尋ねられる。周囲に響き渡るバシャーモの声が、彼の耳にも届いたのだろう。
 残念ながら彼らの情報は皆無に等しく、またこちらに質問するだけにルカリオも彼らを知らないようだ。
 しかし、こちらには新しく仲間になったキングドラがいる。彼はコウジというあの大男のポケモンだっただけに、彼らに関する情報を少なからず知っているはずだ。
 そう思ったオレはルカリオがきたこともあり、情報をまとめるためにキングドラに質問をすることに。

「どっか行ってくれたおかげで助かったけど、奴らはなんで消えたんだ?」

「あの“あられ”を使うユキメノコが、ガレスがくるとか言ったからじゃねえか」

 キングドラに質問したつもりが、フーディンが割って入ってきた。とその時、ルカリオの表情が急変する。
 一瞬にして血の気が引いたように青ざめ、そしてフーディンに掴みかかったのだ。

「今ガレスといったな! 奴がここにくるだと!?」

「さっきそう聞いたぜ。ガレスと言えばオレらの敵じゃねえか。わかってるんだからこの場でぶっ飛ばそうぜ!」

 ガレスの登場を待ちわびるように、半ば楽観的とも取れる態度で闘志を燃やすフーディンに対し、ルカリオは顔を俯かせゆっくりと首を振っている。
 ルカリオの話から、そのガレスというものが倒さなければならない敵であることは既知のこと。多少なりガレスの情報を知っていると思われる二人がまったく正反対の態度を見せたことがオレに困惑を招く。多数決で敵の脅威を測るわけではないが、ここはキングドラの意見も聞いておきたい、と言うわけで彼の顔を伺い、その様子を確かめる。
 彼の表情は若干険しいが、さほど焦るようなものでもない。となると、ガレスをあまり知らないのだろうか。

「実際にガレスを見たわけではないのだが、アーロン様の話によれば……っ……!」

 刹那、ルカリオの表情が凍りつく。それを見るや否や、一瞬背中に針が刺さるような鋭い痛みを感じる。
 もしやと思い振り返ると、そこには、顔の口周りを除くすべての部位に鋼の鎧を着用した、騎士のような者が宙に浮いていたのだ。
 先端がビーム状となった鋭い槍を持ち、唯一内部の見える口周りは人間のそれと同じである。ガレスと言う名の種族はポケモンにはなく、始めからその存在がポケモンを指すとは考えていない。だが、それ以上に人間とは夢にも思っていなかった。

「オオオォォ……」

 彼は人とは思えない、何かロボットのような無機質な唸り声を上げる。人のように見えるその姿とはあまりにも対照的なそれは、彼がただの人間ではないことを思い知らされるものだ。
 不気味な声に圧倒されてしまうが、倒すべき敵とわかっている以上今すぐにでも変身して撃破しなくてはならない。首にかけた二つのペンダントのうち、どちらを選ぶか迷うものだ。
 と、そんなことをしている間に、ガレスに動きがあった。手に持つ槍をまるで円盤を持っているかのように見せるほど高速で回転させている。その上には青白い球体が発生し、その質量は時の流れと共に増大していく。
 青白い球体を放つ技など、オレが知る分にはポケモンの技では存在しないはずだ。ポケモンでない彼がそのような技を使うことは不思議でないのかもしれないが、球体が暗闇を怪しく照らし出し、ガレスの力を誇示するかのように神秘的に光り輝く。
 思わず無言で見入ってしまう迫力ではあるが、あいにく感心している場合ではない。早急にあの球体を破壊せねば。

「キングドラ“みずでっぽう”!」

 同じように唖然とした様子で見入っていたキングドラだったが、こちらの指示により我に返ったように気を取り直し、細い口から多量の水を放射する。
 その狙いは至って正確だが、水流が直撃しても球体はびくともしない。それどころかその大きさは増すばかりで、次第には180cmもの体格を持つキングドラを遥かに凌ぐ大きさとなっていた。
 圧倒的な力が目の前に立ちふさがり、球体の放つ輝きが、希望の光ではなく、絶望へのいざないのようにさえ感じてしまう。

「まさかこれほどの力とは……。ツバサ、今は逃げるしかない。いくぞ」

 茫然と立ち尽くすこちらを見かねたのか、ルカリオはオレの腕を引っ張りその場を離れるべきと忠告してくる。
 確かに彼の言うとおりだ。幸いあのガレスはこちらに標的を絞って攻撃しようとはしていない。だが、彼の持つ得体の知れぬ球体からは、オレでさえ触れることなくして感じるほど強烈なエネルギーが発せられている。
 それが地に落ちでもしたらいったいどうなるだろう。その予想は、脳内に恐怖に満ちた光景を生み出す。島が破壊されてしまう恐れがあるのだ。

「待て! あれが落ちてきたらこの島は? まだ島の人がいる。それに、ユウキやヒトミも、バクフーンもフライゴンもいるんだ! みんなに知らせないと!」

「無理だ……。今全員を逃がしている時間はない。今は一刻も早くこの場を離れることが先決だ」

 島に残るすべての人とポケモンを心配するオレに対し、ルカリオは冷酷な現実を叩きつけてくる。
 全員が消えるより、少しでも生き残った方がいい。その考え方は確かにわからないではない。だが、それではあまりに非情ではないだろうか。
 世界を救うために選ばれし者としてやってきたオレが、自分が助かるために人々を身捨てるなどやっていいことではないはずだ。いったい何のための選ばれし者の称号なのだろう。少しでも可能性があるなら、そちらにかけるのが命への接し方ではないか。
 そんな葛藤をよそに、ルカリオはこちらに目を向けることなく、懸命に腕を引きながら地を蹴っていく。フーディンとキングドラもそれに続いている。

「待ってくれルカリオ! 選ばれし者のオレなら、まだなんとかなるかもしれない! そうだ、変身して“しんそく”を使おう。“テレポート”でもいい。なあ、オレが信じられないのか!? 頼むよルカリオ……。少しだけ……少しだけ時間をくれよ!」

 腕を引くルカリオの力に逆らってその場に止まり、葛藤から生まれ出た答えを感情に任せてぶつける。声が自然と震えてしまうが、これが心からの願いなのだ。
 そんな声を聞き、彼は納得してくれたのだろうか。少し俯き、目を細める。逃げるべきか、島の人々を救うべきか、その判断を急いでいるのだろう。

「グオオオオォォ!」

 しかし、可能性にかけるほうに傾いてきたと思われた彼の心は、たった一つの出来事で逃げるほうへ引き戻されてしまう。
 球体を巨大化させていたガレスが、ついにそれを地へと落としてしまったのだ。神秘的に見えた球体はその姿を一変。すべてを破壊する恐怖の爆弾と変化していた。
 島をむしばむように地を這う爆風は、破壊というよりは吸収するかのように島を飲み込んでいく。その証拠に、フーディンの長いひげが円心状に広がる爆風へ引かれるようになびいている。
 もはや一刻の猶予も許されない。そう判断したルカリオは、再び腕を引っ張って走りだす。もう逃げる以外に道はないのだ。しかし、飛行能力を持つ者が場におらず、島を脱出しようにもキングドラに掴まって泳ぐしかない。
 そんなとき、見慣れぬ生き物に乗った少年が現れる。青い体に真紅の翼。その生き物はドラゴンタイプのポケモン、ボーマンダだ。

「さあ、早く乗って!」

 同じく爆風から逃げようとしていた彼らは、ボーマンダが低空飛行でこちらに接近し、少年が手を差し伸べてくる。
 これぞ天の助けと感じたのだろう。ルカリオはすぐにオレの手を少年に掴ませる。彼に引き上げられ、オレはボーマンダに乗って島を去っていく。
 フーディンとルカリオは光と化してペンダントに入っていき、キングドラは心配ごとがなくなって全力が出せるようになったのか、ボーマンダに負けない速度で海面を移動する。
 これで逃げ切れただろう。しかし、自分たちだけ生き延びたという罪悪感が、風切り音に混じって爆風に飲まれていく島から恨みの声が聞こえるような錯覚を引き起こす。
 心の中で何度も謝罪し、悲しみを押し殺して風を切り続ける。何事もなかったかのように変わらず輝き続ける夜空が、今の出来事がわずか一瞬のことであることを物語っていた。










 少し経ち、オレたちは別の島のはずれにやってきた。この辺りは陸繋がりではなく、海に囲まれた島の町が多いようだ。辺りは細波の音だけが漂い、その音がより一層静寂を助長しているように思われる。
 逃げのび落ちついたところで、フーディンとルカリオがペンダントから現れた。彼らの表情は至って平常時と変わりがない。
 すっかり夜が更けていると感じたオレたちは、島のポケモンセンターに行くことを諦め、海岸に流れ着いたわずかな流木を回収して、ボーマンダの炎技“ひのこ”で火の気を作ることにした。
 少し揺れる紅蓮の炎はとても穏やかで、夜の闇を切り裂き、心にも明かりを灯してくれるかのようだ。身も心も癒される。

「さっきは本当にありがとう。オレはツバサ。こいつらはフーディンにキングドラにルカリオ」

「僕はショウタっていうんだ。こっちは相棒のボーマンダだよ」

「よろしくなツバサ」

 逃げることに精一杯で挨拶もろくにしていなかったため、軽く自己紹介を済ませる。驚いたことに、ショウタのボーマンダはテレパシーが使えるようだ。
 そこではっと思いついたことが、ショウタもこの世界の人ではないのではないかと言うこと。現実世界からきた者であれば、そのパートナーはテレパシー能力を持つ。

「もしかして、あの時ベンチに吸い込まれたのって君だったの!? ボーマンダからポケモン界の事情は聞いたけど、まさかばったり会うなんて偶然だね」

 どうやらショウタも現実世界の出身らしい。どおりでボーマンダがテレパシーを使えるわけだ。
 ユウキ、ヒトミに引き続き、今度はショウタと出会った。このことが、単なる偶然ではなく、必然的な出会いであると思えてならない。
 正確な人数は把握できていないが、これからもきっと何人かこういう立場の人と出会うことになるだろう。偶然か必然か、オレたちは使命を持ってこの世界にやってきたのだから。
 その使命を果たすにはどうしたらいいのだろう。落ちつけている今こそ、これから成すべきことをきっちり聞いておいた方がいい。

「お前たちにやってもらうことは、ガレスの撃破、および九つの伝説の宝石を回収して、シンオウ地方にあるテンガン山に納めることだ」

 成すべきことを一番よく知るルカリオは、簡潔にわかりやすく質問に答えてくれた。ガレスの撃破は言うまでもないだろう。
 伝説の宝石というのは、各地方に存在する伝説のポケモンが選ばれし者の登場を待ち保管しているらしい。
 この話から、伝説のポケモンたちもまた世界を救うために協力してくれているのがわかる。裏を返せば、彼らが出なければならないほど世界は混迷を極めつつあるということ。
 ここで少し気になったのは、ガレスが来る前に現れた四人の人物についてだ。あいにくルカリオの口から彼らの話はない。
 オレと同じ変身能力を持つ彼らは、いったい何者なのだろうか。一度聞きそびれたこともあり、唯一彼らを知ると思われるキングドラに聞いてみる。

「実はオレも詳しくは知らないんだ。ただ、奴らはゾーンに汚染されていくポケモンを救い、同時に現実世界の人間を抹殺しようとしている。オレが知っているのはここまでだ」

 人の命を狙う悪党が、ポケモンを守ろうとしている。この矛盾しているとしか言いようのない考えが理解できない。
 だが、ここでふと気付いたことがある。今の話によれば、彼らの狙いは、人は人でも現実世界出身のみを狙っているということだ。
 このことにいったい何の理由があるのだろう。キングドラに質問をぶつけるが、彼もわからないらしい。

「オレはテレパシーが使える珍しいポケモンってことでコウジの目につき、仲間にならないかと誘われた。オレは奴の志を聞き、仲間になると決めたんだ」

 キングドラとコウジの出会い。何気ないものではあるが、その出来事を聞けば何かのヒントになるかもしれない。
 さらに詳しく聞いてみると、彼と同じようにテレパシー能力を持つことで目についたポケモンが三体ほどいるそうだ。
 あとの三体はそれぞれ別の三人のポケモンとなっており、キングドラは彼らととても親しい間柄なのだという。

「奴ら四人は変身能力を持っている。お前も同じだろうが、変身するとポケモンと一体化する。そうするとモンスターボールが使えなくなる。だから、オレやそいつらは正確にはゲットはされていないんだ」

 まだフーディンとルカリオ以外に手持ちのポケモンがいなかったオレでは、モンスターボールを使う機会がないがために気付かなかった弱点だ。
 複数の仲間がいる場合、連携を取ることが戦いの勝利を引き寄せることは言うまでもない。となると、変身中にタイミングを選んでポケモンを出せないボールは不便と言うわけだろう。
 小さなことではあるが、こういうことに気づいていくことは大事だと思う。少しでも知らないことを知り、知識を深めることが、オレたちを強くしてくれるはずだから。

「オレはお前を選んでよかったと思っている。奴らは優しいところもあるが、胸の内には言い知れない狂気を持っているからな。そこだけが嫌いだった」

 ポケモンとトレーナーの間に問題が生じることはよくあることだろう。ただ、このキングドラの場合、自分に信頼を置くトレーナーが、時々豹変する様子に不安を抱いていたようだ。
 オレはポケモンたちに呆れられないような、また、ポケモンたちを幸せにできるような立派なトレーナーになりたいと思う。
 そのためにも強くなり、先ほど聞いた使命をなんとしてでも果たすのだ。今回の出来事で、オレの意思は完全に固まった。

「実はオレ以外の奴らも、コウジたちの狂気を嫌っているところがある。今からそいつらのところに行って説き伏せようと思うんだが、許可をもらえるか?」

 許可を取る。それは、ポケモンがトレーナーを一人前と認めてこそだ。まだ未熟極まりないオレを一人前と認め、全幅の信頼を置いてくれるキングドラの態度を見て、オレは迷わず頷く。
 今は少しでも戦力がほしい。ましてテレパシーが使えるポケモンであれば、コミュニケーションを取りやすく、初心者のオレでも慣れやすいと思われる。
 許可を得たキングドラは、宝石を持つとされる伝説のポケモン、グラードンがいる場所で合流すると約束し、まだ夜の明けぬ暗黒の海へと消えていく。
 許可なんて取らなくていいのに……。信頼してくれる彼だからこそ、逆にそう思うことができる。大きな使命にばかり目を向けず、傍にいる仲間にも気を配ろう。彼の優しさが、オレの心を広く、余裕のあるものへと成長させてくれた気がした。





 キングドラが去ってから、残った者は眠りにつく。外での寝泊まりとなるが、そんなことなど気にすることでもない。
 しばらく経って後、私は目を覚ます。穏やかな表情で目を閉じているショウタ。少々いびきがうるさいフーディンとボーマンダ。ん? ツバサは……?
 辺りを見渡すと、海を見つめて一人たたずむ彼の姿が目に入る。ようやく明るくなってきたという時間帯だ。早起きで起きたとは思えない。
 脅かさないようにわざと音を立てながら近づき、彼の隣に立って海を眺める。徐々に明るくなってきたことで、海はその美しさを取り戻しつつあるように思う。

「眠れなかったのか?」

 私が問いかけると、彼は無言で頷く。その表情には苦笑いが浮かんでいる。眠れなかった理由は昨晩の出来事だろう。言わずと知れたことだ。
 そのことを気にしていることで、私に何か言われると思ったのだろうか。もう必要以上に彼を責めるつもりはない。
 大切な仲間を失うことが、どれほどの悲しみをもたらすのか。生死の別れではないとはいえ、アーロン様と離れた私にはわかるのだ。
 使命を果たすため、そしてツバサを守るためにしたことではあるが、昨晩の私の行動は本当に正しかったのかと反省する気持ちもある。
 なるべく彼に負担がかからないようにしなければ。と、そんなことを考えていると、ふと思い出したことがある。

「何故キングドラをボールで捕まえなかった? 奴が埋伏の毒である可能性は捨てきれないはずだが……」

「別に後でもできるよ。っていうか、埋伏の毒ってなんだ? キングドラは毒タイプじゃないぞ?」

 埋伏の毒とは、偽って敵に寝返ったと見せかける役をこなす者を言う。計略の一つで、埋伏の計と呼ばれる高度な策略だ。
 元のトレーナーの良さを知っているキングドラならば、こちらの情報を探るために偽って投降している可能性も捨てきれない。

「オレはあいつを信じるよ。もし万が一裏切られたら……その時は、お前が助けてくれるだろ?」

 彼の自信に満ちた声が、私の胸に突き刺さる。到底選ばれし者とは思えない貧弱な彼が、今はとても頼もしい存在に思えた。これまで彼を侮辱していたことが悔やまれるほどだ。
 仲間を思う心が、彼に無限の可能性を与えているとでもいうのだろうか。私の中で彼の印象が大きく変わった瞬間だ。
 今の言葉は私とキングドラ、どちらも信用していなければ決して出てこない言葉なのだから……

「おい見ろよ。陽が昇ってくるぜ」

 と、突然後ろから荒い声が響く。フーディンだ。彼に促されるように空を見上げると、天から穏やかな光が差し込み、その光は体を芯まで温めてくれるほどに優しい。
 ツバサを挟み、私たち三人は沈黙して海を見つめる。今彼らは何を思い、何を感じているのだろう。
 そんな念が浮かび、ふと視線を落とす。見えたのはツバサの拳。その拳はぎゅっと握りしめられており、わずかに震えていた。
 ペンダントに力が封印され、私は技を出すことはおろか、波導を感じ取ることもままならない。しかし、今なら彼らの心が見える気がする。

「さーて、今日から暴れまくってやるか! 最強ヒーローの実力、見せてやるぜ!」

「ああ。頑張ろうなフーディン、ルカリオ。オレは……オレは絶対強くなる!」

 朝焼けの中、それぞれが思い思いの胸の内を露わにすべく喉を震わす。ツバサが両脇にいる私とフーディンの手を取り、希望にあふれる表情で陽の光を受け止める。
 初めは疑問に思っていたが、今この時、私はペンダントが彼らを選んだそのゆえんが少しだけわかったような気がした。だから彼らを信じようと思う。ツバサの隣に立つフーディンが、今は頼もしい勇者のように見える。そして何より、私たちを束ねる選ばれし者の姿が、一瞬アーロン様と重なったのだから……





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[[ポケットモンスタークロススピリット 第6話「合流」]]
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''あとがき''
今回は1話から語られてきた敵、ガレスの正体が明らかになり、またツバサのポケモン界を救おうという意思が固まるお話でした。
基本的に1つのお話を5000~10000字でまとめようと意識していますが、今回はラインぎりぎりまで詰め込んでしまいました。尺をまとめるのが上手くいっておらず、まだまだ甘いなと反省しております。
今回までのお話が序章のようなものであり、ツバサの動機づけとポケモンたちとの絆の基礎のようなものを作ったつもりです。次回からまたいろんな要素を入れて頑張ります。どうぞお付き合いください。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
よろしければ誤字脱字の報告や、感想、アドバイスを頂きたいです。
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