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ポケットモンスタークロススピリット 第34話「黒き意志」 の変更点


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作者 [[クロス]]
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 ポケットモンスタークロススピリット、[[前回>ポケットモンスタークロススピリット 第33話「復讐」]]までは……

 ツバサを裏切り、コウジ、エアームドと共に攻撃を開始したキングドラ。
 伝説の宝石の力で強大な力を手に入れたキングドラが、ツバサたちの前に立ちはだかる。


第34話 「黒き意志」


「ここからは容赦しねえ。復讐のために全てをこの力に任せ、まとめてあの世に送ってやる!」

「(やるしかない……やるしかないんだ……)変身!」

 手を震わせながらツバサが青のペンダントを握る。つまり、ルカリオと一体になる気だな。眩い白き光を放ったペンダントが、その光で奴を包み込む。ただ一瞬の出来事であるそれの後には、オレを射るような眼差しをこちらに向けたルカリオが佇んでいた。

「これ以上お前の好きにはさせん」

 言ってくれるなこいつ。だが、オレとて奴の実力を侮っているわけじゃない。隙を見せれば一瞬でやられるだけの力を奴は持っているからな。そして侮れないのは奴だけではない。単体の力ではクズも同然だが、グラエナやヘルガーがサポートに入ると厄介だ。

「エアームド、お前は&ruby(そいつら){ヘルガーたち};を始末しろ」

「当然だ。俺は今すぐにでもこの怒りを爆発させたいんだからなあ!」

 そうだ、それでいい。ゾーンの力を解放したエアームドなら、奴ら程度など5対1でも勝てるはずだ。溜まった怒りを爆発させれば、さらなる力を解放することもできるだろう。あとはオレがルカリオを始末するだけだ。
 だが、このまま戦うには危険が多いな。敵は数が多いんだ。ヘルガーたちが隙を見てオレに不意打ちをくらわせる可能性も十分にある。ここは念のため距離を離すか。

「思い改めるなら今のうちだぞキングドラ!」

そう考え、移動を開始したオレのもとへ青い弾が風切り音と共に飛来する。ちっ、追尾性能の高い"はどうだん"か。

「アイストリデプス!」

 眼前へと迫った青き波導の弾を防ぐべく、オレは全身から溢れ出る冷気を操り頑強な盾を生成する。シールドポケモン――トリデプスを模した氷の盾は前方180度を覆い、それに激突した奴の波導を白煙に帰す。白煙はオレと奴を遮り、両者敵を見ることは叶わない。だが、ここで失われる視界は奇襲をするには持ってこいだな。ここで忘れちゃいけねえのが&ruby(奴){ルカリオ};の能力だ。奴は視界を奪われても波導により物体の位置や動きを認識する能力を持っている。つまり……

「ハァアアアア!!!」

 背後より響く雄叫び。そう、奴は飛び上がり攻撃を仕掛けてくる。そして使う技も予測がつく。戦いはまだ始まったばかりだ。奴が使う技は小技でありながら確実にアドバンテージが取れるものを選ぶはず。となると、おおよそ"グロウパンチ"か何かだろう。

「アイスサンドパン!」

 オレは背部に冷気を結集させると、無数のトゲを生成しそれを背に纏う。これで背後からの攻撃に対抗できる。しかし、奴の雄叫びは途切れない。こいつ、トゲごとオレを殴り飛ばすつもりか。だが、そんなのは不可能だ。

「おああああぁーーー!!」

 耳をつんざくほどの声。勝ったのはオレの氷だ。奴は氷ごとオレを殴り飛ばすどころか、氷に傷一つさえつけられていない。勢い余ってトゲに激突した奴は悲鳴と共に地に落ちていく。追撃をするなら今がチャンスだ。しかし、自分がピンチなのはこいつもよく分かっている。オレのいる方向と直角になるよう一方向に手足を伸ばし始める。これは"しんそく"の構え。

「くっ……!」

 だが、奴は高速で移動するどころか全く横に動かない。不発に終わったところを見るにツバサの体が技のコントロールをできていないらしいな。空中で"しんそく"を使うことにイメージや呼吸の仕方、波導の使い方が追いついていないということだ。

「"れいとうビーム"オノノクス!」

 そこを徹底的に叩かない手はない。オレは冷気を結集し、尾を柄にした氷の斧を造形すると、前転で勢いをつけ振り下ろす。"しんそく"の使用が不可能と見るや、奴はすかさず両の拳を正面で繋ぎ、そして水平に引き離す。"ボーンラッシュ"で防ぐつもりか。だが、所詮直撃を避けるための応急処置に過ぎん。体勢はこちらに分がある。斧と棒が激突し、甲高い音が鳴り響く。オレはそれを合図に下半身に力を入れると、案の定奴は斧を弾けず地へと激突する。轟音を響かせ地を揺らすその落下は、かなりのダメージを与えたことをオレに確信させるものだった。





 一方、少し離れたところでは、ヘルガーたち5匹とエアームドによる戦闘が繰り広げられていた。数の上では有利なヘルガーたちだが、彼らの中に空を飛べるものはいない。故に使用できる攻撃が限定される他、重力の関係上位置による分はエアームドにある。そして彼にはもう一つの勝算があった。ゾーンの力である。パートナーとの融合時には及ばないが、負の感情によって力をもたらすそれは短気な彼とは非常に相性が良い。ゾーンの特徴である青白い光。それを目に宿す彼は、今まさに力を解放しようとしていた。

「なんなのあれ……怖いよう……」

 そんなエアームドの姿に怯えるキュウコン。今目の前にいるのは単なる一匹のポケモンではない。化け物と呼ぶにふさわしいその姿は見る者をすくませる。

「ククッ……怒りだ……怒りが力を加速する! グォオオオオオ!!」

 狂気に顔を歪ませ、目に映る全てを狩りの対象としたエアームド。地面と直角になるように体を伸ばした彼は、唸り声と共に急降下を始める。そして激突寸前、彼は直角に曲がり地面と平行になるよう飛行する。そうすることで改めて映るヘルガーら敵の姿。獲物を狩らんとするその鋭い瞳は、5体の中からグラエナへと焦点を絞る。

「("ブレイブバード"!? 来る……ッ!)」

 視線が交差したことでグラエナは自身がターゲットとなったことを察知する。砂を巻き上げながら矢の如く一直線に風を切るエアームドの大技を止める術はない。迎え撃とうという自らの闘争心を抑制したグラエナは、前脚で素早く土を掻き分け穴を掘っていく。そして地中へと潜った彼は、間一髪エアームドの"ブレイブバード"を回避する。

「きゃあ!」

「狐!」

 しかし、直後に響き渡る悲鳴。キュウコンが突風に煽られ、地面から脚が離れたのだ。エアームドのその凄まじいスピードは標的でなかったポケモンでさえ無警戒でいることを許さない。踏ん張りを利かせなければ立つこともままならないその風は、20kg程の重さしかないキュウコンでは一溜まりもない。この事態にエネコロロがハッとするも、キュウコンは突然現れた蔓に支えられ安全に地面へと着地する。メガニウムが"つるのムチ"を使ったのだ。

「(鋼鉄の鎧がパワーを倍加させているのか……)」

 ギリギリと歯ぎしりをするヘルガー。エアームドの鋼鉄でできた体は空気抵抗を減らす働きがある。それにより高速飛行が実現できることは分かっていた。だが、想像を遥かに上回るその威力に驚きが隠せない。ゾーンによる力の増強が彼の想像分に上乗せされているのだ。一方当のエアームドは再び上昇し、次なる攻撃へと備える。

「ったく、頭がいかれてやがるな。面倒なヤツだぜまったく……」

 穴から顔を出したグラエナは、急上昇で空へと戻ったエアームドを見やる。口振りは普段となんら変わらぬ軽妙さを帯びているが、その表情に余裕はない。それどころか全身の毛が逆立ち、少しでも気を抜こうものなら脚が震えだす。数の上で勝っていながら対抗策がまるで浮かばないからだ。
 そんな彼らの焦りと恐怖を感じたのだろう。エアームドは不敵な笑みを浮かべると、再び急降下を開始する。彼が使う技はもちろん"ブレイブバード"。標的をエネコロロへと変更し、一直線に飛行する彼に迷いはない。それを見たヘルガーらは突風を避けるために散開し、それぞれ長距離用の技を使用する。そしてヘルガーとキュウコンは灼熱の火炎を、グラエナは禍々しい螺旋の波導を、メガニウムは自然から結集させた生体エネルギー弾を放つも、エアームドのスピードには追い付かない。

「(あのチャラオオカミが避けるのもギリギリだったのよ。このままあたしが動いても避けられない……!)」

 次第に迫る恐怖を払うようにエネコロロが放ったのは"10まんボルト"。電気タイプのそれは、飛行タイプを持つエアームドには効果抜群だ。さらに電気技の特徴として、技そのものの速度が他のタイプと比較して格段に速いという長所がある。故に彼女の選択は正しく、全身から放たれた高圧電流は直進するエアームドを顔面から包み込む。眩い電撃の光にその場にいる者全てが目を細める。その光は希望の光となるのか……

「無駄だ無駄だ無駄だぁあああ!!」

「そんな……ッ!」

 しかし、その希望は脆くも崩れ去る。電撃を受けたエアームドは、止まるどころか全くスピードを落とさないではないか。あたかも痛みさえ感じていないかのようにだ。この事態に危険を察知したメガニウムは即座に"リフレクター"を発動。味方全体を透明な結界で覆い、物理攻撃に備える。これにより掠った程度ならほとんどダメージを受けることはないだろう。しかし、悪化した事態は彼女の想像を超えていた。エネコロロの瞳孔が開き、痙攣が起きたかのように全身が震えていたのだ。

「避けろ!」

 叫ぶヘルガーの声虚しく、恐怖に呑まれたエネコロロにハンターとなったエアームドが襲い掛かる。彼は激突する直前エネコロロの右後脚へと狙いを定め、鋼鉄の刃である翼で切り裂くように攻撃を繰り出す。直後、命中箇所から全身へと激痛が伝わる。断末魔の如き悲鳴を上げたエネコロロは、5mほども宙を舞い地面に激突した。その光景にグラエナらは唖然とするも、ヘルガーは即座に平常心を取り戻し彼女のもとへと駆け寄る。

「大丈夫か? しっかりしろ!」

 ヘルガーが見たのは、まず怪我の様子から。右後脚に技が直撃したため歩けそうにないが、急所は外している。またそれ以外の部分には外傷が見当たらないことから、命に別状はなさそうである。メガニウムが使用した"リフレクター"のおかげでもあるだろう。

「(確実に仕留めず、負傷者を作ることでこちらの動きを鈍らせるのが目的か。卑劣な真似を……!)」

 エアームドの狙いが見えたヘルガーは内なる怒りの炎を燃やすも、表情に出すことはしなかった。そして彼はエネコロロのすぐ横へ伏せると、背中に乗るよう指示をする。

「ごめん、ヘルガー……。足手まといになって……」

 ヘルガーの推測と同じことを考えたのだろう。背中へと乗ったエネコロロは足手まといとなることに罪悪感を覚え、湿った声で謝罪する。

「気にするな。それより絶対に落ちるなよ。しっかり掴まっていろ!」

 それを聞いたヘルガーはフッと笑ってみせる。そんな余裕などあるはずもなく、ただエネコロロを見捨てられるはずもなく。動けなくなった今、二度目はない。だからこそ、敵の思惑通りであっても仲間を見捨てる選択肢を彼は決して取らなかった。しかし、勝算の立たない今、これが正しいかは定かではない。事態と想いがせめぎ合う中、そこに生まれる焦りは確実にヘルガーを追い込んでいく。

「(エネコロロの電撃が弱かったはずはない。奴め、何故攻撃を避けなかった? まだ私たちがいる以上、反動を受ける"ブレイブバード"を考慮しても余計な被弾は避けたいはずだ)」

 思考に思考を重ね、エアームドを破る手段を模索するヘルガー。無論それは彼だけではない。仲間たちもまた、限られた時間の中状況を打開すべく思考を巡らす。果たして彼らに勝算は立つのだろうか……





「ゲホッ……ゴホッ……」

 砂煙の晴れぬ中、聞こえてくる二つの咳の音。変身が解けたか。

「ツバサ、しっかりしろ! 今のあいつは敵だ!」

 程なくして煙が晴れると、ツバサとルカリオの変更は解除されていることを確認する。やはり&ruby(奴){ツバサ};の戦う意思が固まっていないか。まあこれこそオレの策なんだがな。ペンダントの力の源は想い。使用者の想いが戦闘に向いていない以上、力が解放されることはない。だから"グロウパンチ"の威力も低かったわけだ。

「その力はオレに対する怒りからくるのか……」

 一方戦意を喪失し自ら変身を解いたツバサは項垂れ、膝と手を地に付きながらそう口にする。青菜に塩だな。トドメを刺すなら今か。

「ごめん。分からないんだ。何が……いったい何があったんだよキングドラ……」

 奴の目から零れ落ちる雫が渇いた土を潤す。良いザマじゃねえか。この日のためにオレはどれだけ耐えてきたと思ってる。いたくもねえ奴と過ごし、この時のためだけに耐えてきたんだ。そうだ、全ては復讐のために!

「お前の好きにはさせん……!」

 しかし、オレと&ruby(こいつ){ツバサ};の間にルカリオが割って入る。いくら鋼タイプとはいえ、オレの氷技をまともに受けてんだ。まして融合をしていないこいつは技一つ使えず力が出ない。それだってのに立ち塞がるたぁ良い度胸じゃねえか。怒りに任せ、力に任せ、オレは今! こいつらを滅ぼしてやるッ!!

「"れいとうビーム"ウォーグル! アイスラムパルド! コールドストライク!」

 四肢を切り裂く勇猛なる戦士ウォーグル。鋼鉄をも打ち砕く古の破壊獣ラムパルド。残像しか残さぬカマ使いの忍者ストライク。ポケモンを模した氷を次々と造形し、仕掛けるのは息をもつかせぬ激烈の猛攻。そこに響くルカリオの悲鳴。クックック、味わえ。もっと味わうがいい! あいつの……あいつの受けた痛みはこんなものじゃねえんだからなあ!

「消えろ……消えろ! 消えろ!! 消えろぉおおお!!! オレの前に立つ奴は全て消えるがいい!!!」

 巻かれた尾へと集まる凍てつく氷のエネルギー。周囲には白いもやが立ち込め、エネルギーの強大さを視覚的に示す。ようやくこの時が来たんだ。全てをこの力に任せ、オレは今この因縁を断つ!

「これで終わりだ。"れいとうビーム"オノノクス!」

「やめろぉおおおおおおお!!!!!」

 宙へと飛び上がったオレは、落下と共に前転し尾についた氷の斧を振り下ろす。そしてそれはルカリオを一閃……するはずだった。

「なにっ!?」

 下半身から伝わる技を振り切れなかった感触。もやの中、微かに見える漆黒の片腕。馬鹿な、オレの攻撃を片手で受け止めただと……!? やがてもやが晴れて見えたそこに立っていた者、それは……

「ブラックフーディン!?」

 こいつ&ruby(あの時){ガレス戦};の……! 漆黒のボディと闘争心剥き出しの眼光からは凄まじい威圧感が溢れ出ている。こいつ、本気でオレを殺る気だ……!

「信じてたのによ……もう許さねえ」

まずい。本能が身の危険を察知した直後だ。

「仲間を傷つける奴は全て消えろぉおおおおお!!!!!」

 奴の拳がオレの顎を捉えた……





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[[ポケットモンスタークロススピリット 第35話]]
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''あとがき''
"怒り"と一口に言ってもいろんな形がありますよね。クロスピのエアームドはその"怒り"をテーマとして持っており、敵として立ちはだかるキングドラも彼と合わせて"怒り"をテーマにしています。
一方、今回ヘルガーやフーディンの抱いた感情もまた"怒り"ですね。喜怒哀楽において"怒り"は負の感情とされますが、必ずしもそうとは言えないよなぁ。そんなことを思いながら書いていました。みなさんは喜怒哀楽の感情とどう付き合っていますか?
次回、ガレス戦で登場したブラックフーディンがついに戦闘開始です。ご期待ください!

ここまで読んでくださりありがとうございました。
よろしければ誤字脱字の報告や、感想、アドバイスを頂きたいです。
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