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ポケットモンスタークロススピリット 第33話「復讐」 の変更点


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作者 [[クロス]]
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 ポケットモンスタークロススピリット、[[前回>ポケットモンスタークロススピリット 第32話「抱えるもの」]]までは……

 激闘の末ガレスを破ったツバサたち。しかし、ゾーンがこの世界から消えることはなかった。
 ペンダントの力。フーディンと敵との関係。それぞれが抱えるもの。未だ解けない謎をきっかけに、今再び戦いが始まろうとしていた。


第33話 「復讐」


 もう昼下がりか。陽が一番高く昇るこの時間は水タイプのオレには厄介な時間だ。だが、暑さを感じているのはオレだけじゃない。"れいとうビーム"で空気中の水分を凍らせそれを道にして飛んできたオレの目には、暑さから逃れるため大木の下に集うツバサたちの姿が映った。

「お、キングドラ! おかえり。わざわざありがとな」

 オレの姿を見たツバサは、瞬きのように一瞬で表情を明るくする。そんなこいつの声を聞き、うたた寝をしていたフーディンたち他の奴らも目を覚ました。そしてオレの姿を確認するや否や、ツバサと同様に顔をほころばせる。いつもと変わらない光景だ。仲間を見れば笑顔が広がり、白紙に絵具を塗ったかのようにその心は幸せという色に染まる。そう、この時まではな。

「"れいとうビーム"ウォーグル!」

 オレは細長い口に冷気のエネルギーを集めると、大型の鳥ポケモン――ウォーグルをかたどった5つの氷塊を射出する。ツバサへ向けてだ……

「危ない!」

 チッ、やはり邪魔が入ったか。着弾の直前、攻撃を見てとったルカリオが身代わりになってきやがった。重音と共に巻き上がる砂煙。それに咳き込みながらもツバサはすぐに駆け寄り&ruby(奴){ルカリオ};を気遣う。が、さすがは鋼タイプと言ったところか。オレの氷塊弾をまともに受けていながら膝さえついちゃいない。

「いきなり何しやがんだ!」

 だが、標的だったツバサはご立腹だ。とはいえ、動揺の方が大きいようだな。目は釣り上がっているが、瞳が大きく揺れている。すぐに反撃してこないところから察するに、奴らはまだ状況を理解していないらしいな。ったく、マヌケすぎてあくびが出るぜ。

「おいおい、まだ気付かねえのか? ならば……攻撃開始だ!」

オレの声を合図に、茂みの中から無数の刃が飛び出す。短刀と化した"はがねのつばさ"だ。

「なにっ……!?」

 風切り音を鳴らし一直線に向かってくるそれを見た&ruby(奴ら){ツバサたち};は驚きの声と共に振り返る。だが、そこには既に無数の刃が迫っている。状況を理解してねえんだ。挟み撃ちに遭っちゃわけねえな。と、言いたいところだがそこまで甘くはないらしい。五月雨の如き攻撃に対し、ヘルガーが灼熱の業火を奴らと短刀の平行線上に展開してるじゃねえか。単体による一方向からの攻撃であることを瞬時に見破ったか。さすがだなヘルガー。こいつの洞察力は侮れねえ。

「防ぎやがったな、くそったれが!」

「やはりお前か。相変わらずイライラしてるな、エアームド」

 地団駄を踏み、茂みより現れたのは全身凶器の鎧鳥――エアームドだ。その姿を見てヘルガーが呟いたこと。さすがに状況を理解し始めたようだな。

「テメエ、まさか裏切ったのか!」

 オレとエアームドを結ぶように肩を向け、首だけオレへと向けたフーディンが叫ぶ。どちらからの攻撃も対応できるこの構え……奴め、いよいよ戦闘態勢に入ったな。

「勘違いするな。お前らの仲間になったつもりなど一度もない。全ては計略だ」

「貴様ッ……!」

 脚を曲げ重心を落としたヘルガーが、禍々しいオーラを吐き出す。螺旋を描くそれは悪タイプの技"あくのはどう"か。フンッ、そんなもん避けるなんざ造作もない。オレは尾から出す冷気を操り、右への道を作り回避する。奴の攻撃の大半はブレス系の技だ。距離さえ置いていれば、頭の向きと喉の動きを見るだけで容易に回避できる。

「本当に今の今まで信用させていたんだな。さすがは"ルーク"だ」

 手を叩き、大きな笑い声と共に現れる大男。身長が2m近くあり、白のタンクトップ姿。露出した筋肉が実際の身長以上に大きさを感じさせるこの男の名はコウジ。エアームドのパートナーにして、オレの"真の"パートナーだ。

「この筋肉野郎! そいつに何を吹き込んだ?」

「作戦通りにいくぜぇ!」

「だー! 無視すんなやコラー!」

 コウジに話を無視されたことで、ヒゲ面が白目を剥き出し地団太を踏む。ったく、いちいちガキみたいにわめきやがって。

「冗談はやめろよ。お前はオレの仲間だろ……」

 そんなイラついたオレに声をかけてきたのはツバサだ。覇気のないその目からは、他の奴らと違って戦意がまるで感じられない。

「まーだ分からねえのか。まったく、おめでたい奴だな」

 他全員が状況を理解している中、一人だけそれを受け入れようとしないツバサをオレは嘲笑わずにはいられない。ところが、奴の隣にいたフーディンがわざとらしく手を叩き始めたじゃねえか。

「ハハッ! おめでたいのはどっちだぁ? テメエごときがこのオレに勝てるわけねえだろうが!」

「フンッ、そいつはどうだかな」

 自信たっぷりのフーディンに笑って返したオレは、エアームドにヘルガーたちの相手を指示するとフーディンに意識を集中させる。

「"れいとうビーム"ギアル!」

 オレは口から吹き出す冷気エネルギーで氷のギアを生成し射出する。回転するそれは空を切り、発射から着弾まで5秒。フーディンはそれを目視するとすぐにツバサを抱え、バックジャンプで回避する。まあ大技でもないのに着弾に5秒もかかればかわされて当然か。

「甘えんだよ! 今から格の違いを見せてやるぜ!」

 そう言ったフーディンは着地するや否やツバサの首にかかる黄色のアクセサリー――サイコペンダントへ手を伸ばす。変身して反撃するつもりなんだろうな。だが、ペンダントは何一つ反応を示さない。

「なっ……」

「どうした? 格の違いを見せるんじゃなかったのかぁ?」

 &ruby(奴){フーディン};の表情が一気に焦りの色へと染まる。何故変身できないのかって顔してるな。使用者でありながらまだ&ruby(そいつ){ペンダント};の性質を理解してないとは呆れるぜ。変身できないのも当然だ。オレがそれをできないようにしてるからさ。

「これで潰れなぁ! アイスラムパルド!」

 呆然とする奴らの頭上へ"れいとうビーム"を放つと、ハンマーのような頭を持つずつきポケモン――ラムパルドの頭部を模した氷塊を造形する。直径5mはあろう氷塊は重力に従って落下し、地を揺らすほどの力で奴らを叩き潰す。着地と同時に甲高い音を上げて砕けた氷塊の下には、すっかり伸びて動けない&ruby(馬鹿ども){ツバサとフーディン};の姿が転がっていた。ヒゲ野郎が、ざまあねえな。変身のできないお前を倒すなんざ、赤子の手をひねるようなもんだ。
 さて、エアームドの奴はちゃんと仕事してんだろうな。そう思ってオレが目をやると、ヘルガーたち6体の攻撃を軽々といなし、牽制攻撃を軸とした体力を温存する戦い方を見せていた。ったく、遊んでやがるなあいつ。まあ変身をしていないルカリオは実質戦力外なわけで、他の奴らが相手とあっちゃその気になればすぐにでも片が付くか。

「おい、エアームド。遊びはその辺にしといてやれ」

 オレの言葉にエアームドの動きが止まり、それと同時にルカリオたちの攻撃も止まる。エアームドは物足りなそうな顔をしやがるし、&ruby(あいつら){ルカリオたち};も訝しげな表情でこっちを見てきやがる。おおよそ奴らの言いたいことは分かるぜ。

「何故攻撃をやめさせた、だろ?」

 オレの言葉に奴ら全員が眉間にしわを寄せたもんだから面白い。まあそりゃそうか。普通はこんなところで攻撃を止めるなんてことはありえないからな。だが……

「オレはツバサを殺りたいだけだ。お前らに危害を加えるつもりはねえよ」

「なんだと……っ!?」

「ガレスを倒すのに&ruby(そいつ){ツバサ};の力が必要だったのさ。お前たちも見ただろう。あのバシャーモがガレスに傷一つつけられなかったところを」

 これはあくまで仮説だが、おそらくガレスはゾーンを体に宿すものからはいかなる攻撃も受け付けない。そうでなければバシャーモが傷一つつけられなかったにも関わらず、そいつに圧倒されたフーディンが&ruby(奴){ガレス};の腕を一撃で切り落とすなどありえない話だ。事実、過去にエアームドたちもガレスと対峙したことはあるが、結局傷一つつけられなかった。そこから導き出した仮説がこれというわけだ。

「投降が偽りとバレれば全てが終わりだからな。見破られないように&ruby(お前ら){ヘルガーたち};を誘ったんだ」

「やはり偽りの投降か……」

 さすがはルカリオ。薄々勘付いていたか。だがもう遅い。大方そこの&ruby(単純バカ){ツバサ};が忠告を聞かなかったんだろう。たった一度戦っただけで自分の仲間になるなんざ話が上手すぎるのにな。おまけにオレとしたことが情報漏えいを恐れたばかりに奴の質問に対しまともな回答ができなかった。これはオレの大きなミスだ。だが、意図的に作戦を伝えなかったエアームドは、投降の際オレが本当に裏切ったと思い攻撃してきた。このことがより本格的な裏切りに見せたと言える。

「貴様、私たちを裏切らせてダシに……!」

「なーに戻りたければ戻ればいい。今からでも戻ればあいつらは喜ぶだろうよ。&ruby(そいつ){ツバサ};を手土産にしてな」

「汚いわよ!」

 フンッ、なんとでも言え。ヘルガーも、メガニウムも、まだやり直せるお前らの人生など知ったことか。ガレスを倒すのに手段なんか選んでいる余地はねえ。奴はそれほどの脅威であり、オレが世界で最も消したいくそ野郎だったんだからな。

「なんでツバサが嫌いなの? なんで……なんでそんなに……ッ!」

 涙ぐんだキュウコンがオレに問いかけてくる。このクソガキが、そんな目でオレを見るんじゃねえよ。お前らなんぞに理由を言って何になる。

「くだらねえなぁ! 同情なんか求めてねえんだよ。さあ早く選べ。オレの仲間になるか!?&ruby(そいつ){ツバサ};の仲間になるか!?」

「&ruby(お前はバカか){Are you foolish};? オレたちはツバサの仲間に決まってんだろ!」

「そうよ! 誰がツバサを裏切るもんですか! あんたとは違うのよ!」

 ああ、そうか。どいつもこいつも人間に尻尾を振るだけの家畜に成り果てやがって……! もういい……お前らなんかいらねえんだよ!

「コウジィイイイイ!!!」

 オレの叫びにニヤリと笑ってみせたコウジが、腰につけた布袋から徐にあるものを取り出す。それは白色に輝く石。人間の拳ほどの大きさをした真珠だ。それを見てとった&ruby(奴ら){ルカリオたち};は一瞬で顔が青ざめていく。クックック。どうだ、これも全てオレの計算通りだぜ!

「バカな……。伝説の宝石だと!?」

「ツバサと適合者である現実世界の人間と以外触ることさえできないそれを何故貴様が……」

 クックック、良い顔をするじゃねえかヘルガー、ルカリオ。そう、その顔だ。恐れ慄くがいい。ガレスを消した今、そこの&ruby(クズ){ツバサ};に用はねえ。

「この宝石の力で跡形もなく消してやるわぁああああああ!!!!!」

 コウジが右手で宝石を掲げると、その体が宝石共々眩い光となってオレを包み込む。すげえ、力が2倍にも3倍にもなっていくみてえだ。力が……力が満ちてくるぞぉおおお!!

「くっ、なんて冷気なの……! 身体が……!」

「そこらじゅうのツリーに裂け目が……!?」

 場にいる者全てを凍てつかせ、その神経を麻痺させる。木々をも凍結させ、その幹に亀裂を走らせる。そう、全てはオレの力によるものだ。今この時を持って、この圧倒的な力で! このオレが!! この空間を支配するッ!!! どうだルカリオ、これだけの力があればお前の本気にだって負けはしない。時間の経過と共にツバサの命は削られていくぞ。さあ、どうする?

「やめてくれ……もうやめてくれよキングドラ……」

 なっ、&ruby(こいつ){ツバサ};まだ動けるのか。フーディンと一緒になって立ち上がった奴の目は、弱々しくも確かな光を宿している。意識ははっきりしているようだな。そしてペンダントを握りしめるその姿は、いつでも戦いに出る覚悟を表している。オレを止めようってのか。面白え、いいだろう。

「ここからは容赦しねえ。復讐のために! 全てをこの力に任せ、まとめてあの世に送ってやるわぁああああああ!!!!!」





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''あとがき''
キングドラの裏切りは予想していなかった人が多いかもしれませんね。早い段階で予想できていた人はすごい!
自分を偽り、真意とは違う行動をすることの苦しみ。誰しも一度は経験があるかと思います。
それを重ねてきたキングドラが解き放つ本当の気持ち……。そんな彼を止めようとするツバサたちの気持ち……。
次回は伝説の宝石の力でパワーアップしたキングドラとツバサたちがぶつかります。お楽しみに!

ここまで読んでくださりありがとうございました。
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