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ポケットモンスタークロススピリット 第32話「抱えるもの」 の変更点


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作者 [[クロス]]
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 ポケットモンスタークロススピリット、[[前回>ポケットモンスタークロススピリット 第31話「流した涙の数だけ」]]までは……

 人やポケモンを汚染し、凶暴化させる謎の物質ゾーンから生まれた究極の生命体ガレス。その宿敵との戦いの最中ガレスが持つ武器のエネルギーを取り込んだツバサは、フーディン、ルカリオとの二体同時変身を実現する。
 かつてない力を手にしたことで戦況は一変。激闘の末、祈願のガレス撃破に成功したのだった。


第32話 「抱えるもの」


 ここはどこだろう。真っ暗で何も見えない。オレは確かガレスの槍の結晶を飲み込んで……

「おいツバサ! いつまで寝てんだよオメエは」

「まあいいじゃないか」

 ふと飛び込んできたフーディンとルカリオの声。そうか、オレは寝てたんだな。仰向けになっていたオレの視界には、木の上で横になりこちらを見下ろす二匹の姿が見える。頭を横に向けると、まだ夜明けを迎えたばかりの景色が広がった。朝早いだけにちょっと冷えるけど、この時間に見る太陽はなんだかとっても綺麗だな。
 さて、とりあえず体くらいは起こしておくか。そう思ったオレは腕を支えに起き上がろうとするも体が鉛のように重い。寝起きとはいえ、いったいどうしたもんだか。

「ツバサ! よかった。起きたんだね」

 と、そこへ駆け込んできたのはメガニウムだ。首周りの花のように可愛らしい笑顔をふりまきながらこっちに向かってくる。って、あああぁぁーー! 重い! 潰れるーー!

「そのくらいにしておけ」

「え、あ、ごめん……」

 オレの苦しみ叫ぶ姿にふっと笑ってみせたルカリオが、メガニウムに警告する。その言葉で我に返ったメガニウムは視線を落としてしょんぼりしてしまう。そんなに気にしなくてもいいのに。メガニウムがこんなに心配してたんだから、オレはまた長い間寝てたに違いない。そんなオレを付きっきりで看病してくれたのは、他でもないメガニウムだってことはこれまでの経験で分かる。

「いいんだよ。ありがとな、メガニウム」

 だからオレはすぐに感謝の気持ちを伝える。そして重い体を起こして立ち上がると、そっとメガニウムを抱き寄せた。その瞬間、甘い香りが鼻を突き抜ける。メガニウムといるといつも癒されるな。そしてオレはメガニウムを抱きながらその頬に自分の頬をそっと当てる。それと同時にゆっくりと上から下ろすように首筋を撫でると、メガニウムは満面の笑みを咲かせた。なんか幸せな時間だな。大切な仲間の存在が互いのぬくもりが分かるほど傍にある。この時間がいつまでも続けばいいのに。ガレスを倒したことでの安心感から、オレは忘れていた平穏を取り戻したように思えた。





 それから少し経ち、ツバサが目を覚ましたと聞きつけ仲間たちが集まる。

「Hey! ついにやったな。さすがだぜツバサ」

 その中で第一声を上げたのがグラエナだ。彼はフサフサの尻尾を揺らしながら、満面の笑みでツバサを称える。ツバサもまた屈託のない笑顔で返すと、礼を言うべく腰を落とす。グラエナの目線に合わせるためだ。そして「ありがとう」の言葉と共に彼の頭に向かって手を伸ばしたその時だった。

「だー! オレは食いもんじゃねえ!」

 グラエナが突然動き出し、ツバサの頭に噛みついたのである。とは言ってももちろん甘噛みだ。そのため外傷はないが、驚きによるダメージが大きかった。そんなツバサはわめきながらグラエナの顎を無理矢理開き頭から引き離す。周囲ではそんな彼らのやり取りを見た仲間たちの笑い声で溢れている。
 しかしそこへ一匹、目を怒らせたポケモンが割って入る。エネコロロだ。

「バカなことしてんじゃないわよ! あんな無茶して……。あんた死にかけたのよ!」

 体を震わせ怒鳴り散らすエネコロロに周囲の表情は一変。凍り付いた空気がしばらく場を沈黙で包む。

「オレはみんなのために……」

「よさないか」

 エネコロロの責めにツバサは顔を俯かせる。言いかけた言葉が出てこない。何を言ってもただの言い訳だ。
 見かねたヘルガーがそれを止めるべくエネコロロに声をかける。しかしエネコロロはすっとツバサに歩み寄ると、彼の胸に頭を押しつけこう言った。

「……しないで。二度としないで!」

 言葉にならない叫びで訴えるエネコロロ。胸が熱く濡れたことでハッとしたツバサは、無言で頷き彼女を強く抱きしめた。言葉にならなくても分かる。全員が無事生き延びたことを喜びつつも、あわや命を落としかけたツバサの身を彼女は案じていたのだ。今の様子を周囲の目さえ気にせず見せることから、どれほど心配させていたかは計り知れない。そんな彼女の震えが止まるまで、ツバサはただただ抱きしめた。彼女の温もりを感じながら。

「よく……やってくれたな」

 ヘルガーもまた死闘の記憶を思い起こしながらツバサに語りかける。その声で我に返ったエネコロロは、まだ濡れた顔をツバサの胸から離す。周囲の目を忘れた行動に少し気恥ずかしそうな表情だ。

「ねえねえ。ツバサのためにみんなできのみを集めてきたんだよ。いーっぱい食べてね」

 そんな湿っぽい空気を変えたのがキュウコンだ。無邪気な笑みを振りまきながら、大きな葉っぱに乗せた木の実を引いてくる。得意げな様子で尻尾を波打つように揺らす彼女を見てツバサの表情が緩んだ。子供の無邪気さは時に何者より強い。
 礼を言おうと皆に視線を向けたツバサがそこであることに気付く。キングドラの姿が見当たらないのだ。

「あいつなら薬草を採りに行ったぜ。すぐ戻んだろ」

 その理由をツバサが尋ねると、フーディンはそう答えた。一行の中で唯一飛行能力を有するキングドラなら、ある程度遠方へ向かうのも容易い。故に木の実集めを他に託し、自身は山のほうへ向かったのである。
 自分だけではない。仲間たちもまた決して無傷ではないのだ。それが分かっているツバサは心の中でもう一度ありがとうと呟いた。





 冷たく物寂しい水滴の音が響く洞窟の中。

「ここまでの計画は全て成功だ」

 静寂を破る男の声。淡々としたその声からは感情が読み取れない。それを聞き、強面を連想させる低音の声を持つ別の男が豪快に笑う。

「やるじゃないか。さすがはルー……」

「よせ。最後の大仕事があるだろう。喜ぶのはその後だ」

 冷静な声が、ピシャリと男の言葉を止める。感情を表に出さないその声は有無を言わせぬ緊張感があった。

「奴には借りがある。今度こそ……今度こそ俺の怒りをぶつけてやるッ!」

 また別の男が言う。冷静な声の主とは対照的に、刺々しいその言葉からは負の感情が滲み出ている。

「安心しろ。オレの計算に狂いはない」

 そんな彼を目の当たりにしても、冷静な男の調子は変わらない。その言葉からは自信が溢れていた。

「合図と共に攻撃しろ。いいな?」

 その自信と、これまでの実績は二人の男を納得させるのには十分だ。彼の言葉を受け、かたやパキパキと指を鳴らし、かたや鋭い金属音を響かせる。了解の合図だ。
 それを聞いた冷静な声の男はフッと笑うとその場を後にする。彼が去ると、洞内の水滴は凍てつく氷と化していた。





 カロス地方に伝わる大いなる力――メガシンカ。まさかそれを私たちのペンダントがもたらすとはな。このペンダントは私やフーディンの力を封じ込め、ツバサと融合することで増幅させるものであることは分かっている。しかし、一見単純な仕組みのように思えるそれは、理解を深めようとすると腑に落ちないことが二つある。一つは、ペンダントが力を発揮する条件について。もう一つは、二体同時変身時に見えた私とフーディンの強化の違いだ。
 まず一つ目の疑問だが、あのペンダントは無条件に力をくれるものなのだろうか。初めはツバサも含めた変身を構成する者の体力を消費するものだと思っていた。ところがどうだ。ガレスとの死闘の際、絶体絶命の窮地に立たされたツバサが逃げない意志を叫んだその時だ。普段使う"技"ではない何らかの強大な力が波紋となって広がった。私やフーディンと変身をしていない状態で、何故このような力が発揮できたのだろうか。そこで私は仮説を立て分析してみようと思う。
まず、ツバサがガレスの槍の結晶を食べたことが原因なのではないかという説だ。事実、彼はその直後に二体同時変身を行っている。あの結晶が私やフーディンのような生物が持つ様々な属性の力で生み出されたものであることは、波導の力により解明済みだ。ともすれば、ツバサはそれを吸収して自分の力に……いや待て。結晶をツバサが食べたからと言って私たちのような力が使えるようになるとは考え難いな。何故なら、結晶を取り込むよりも前にペンダントからは強力な衝撃波が放たれている。
ならば、あのペンダントが適合者――ツバサの想いを力に変えていたとすればどうだろう。これであれば、変身なしで強大な力を得たことに納得がいく。ツバサが結晶を食べたこと。あれは単に強烈な感情を誘発したに過ぎない。事実、初めて会った時と比べるとずいぶんと成長したツバサだが、アーロン様のような身体能力を得たかと言えばそうではないからな。それを踏まえれば、身体的な力とは異なるものが起因していることは間違いない。となれば、後者が正しいと考えるべきか。一つ目の疑問で考えられるのはここまでだな。
 二つ目の疑問は、私はメガシンカしたにも関わらず、フーディンは体色が黒く染まるに留まったことについてだ。あの強化は明らかに私のそれとは異なる。しかし、その力は私と同等のものだった。ペンダントが反応する想いの力とは、おそらくツバサのものだけではないだろう。ツバサとフーディンと私、三位一体となった想いが二体同時変身とあの強化を可能としたに違いない。ともすれば、同じ想いの力でも私のそれとは異なっており、それが原因であることも考えられる。フーディンが私と異なる想いを抱く理由。それは、ガレスやあのバシャーモと以前から面識があったからだ。奴らはフーディンを"ゼロ"と呼ぶ。それが何よりの証拠だ。グラエナの話では、この時代では親しい者同士では種族と異なる名で呼び合うことがあるらしいからな。親しいとは異なるとしても、何らかの関係性があることは間違いないだろう。
 ならば、奴らはどんな関係だ? 今までの態度から、フーディンが何らかの事実を隠していることは間違いない。隠しているということは、あまり良くないこと……つまり、危険因子を持つ情報である可能性もある。大元であるガレスこそ倒したが、食料を探しに行った仲間によればゾーンは未だ存在しているらしい。野生ポケモンの中に汚染された者を見かけたそうだ。そうとなれば油断はできない。この戦いを終結させるため、フーディンの知っている情報を洗いざらい聞き出すとしよう。そう考えた私は、皆と談笑するフーディンをさりげなく呼び出し、早速事実を確かめに入った。

「お前、ガレスやあのバシャーモとはどういう関係だ?」

 他の者に勘繰られては困るからな。あまり長く聞くつもりはない。私は単刀直入に尋ねた。

「ああー、何を言うかと思えば……」

 真剣な私とは打って変わり、対するフーディンはくだらないことを聞いてきたと言わんばかりない呆れた表情だ。また逃げる気か。だがもうその手には乗らない。

「話は後にすると言ったきりだろう。奴らとはどういう関係だ?」

 ここは徹底して追及するに限る。この戦いにとって必要な情報なら隠すことはないだろう。まして、例えどんな事実を聞いたところで私たちの信頼ならそう簡単に崩れないことくらいよく分かっているはずだ。

「知ってどうすんだよ」

 ところがどうだろう。フーディンは秘密を明かすどころか、先程とは相反した真剣な眼差しでそう言ってきたのだ。

「オレが言わねえのは、余計な心配をさせねえためだ。お前がアーロンのことを言わないみてえにな」

 それは……。返す言葉がなく私は押し黙る。

「ツバサがあそこまでしたのは、お前をアーロンのもとに帰すためでもあるんだぞ。知ってんだろ?」

 確かに、こいつの言うとおりだ。初めて会った時を始め、アーロン様のもとを離れたことの辛さを私は幾度か口にしたことがある。だからツバサは私をあの時代へと帰すために……。しかし、この戦いにおいてツバサに戦う義務はない。精一杯戦っている彼にだから言えるのは間違いないが、私はこれ以上重荷を背負わせたくないんだ。

「みんな何かを抱えて生きてんだ。そんなもん無理に言わなくていい」

 みんな何かを抱えて……。空を見上げ、ゆっくりと静かに呟くフーディンの言葉が私の胸へと突き刺さる。隠し事があるのはフーディンだけではない。私も同じというわけか。皆がそれを全て明かせば、誰かが代わりに背負うことになる。こいつはそれを知っていて……

「オレのやることは変わんねえ。燃えてきたから戦う! 燃えてきたからぶっ飛ばす! それ以外に何があんだよ?」

 ガッツポーズをしながら振り返り、フーディンがニッと笑ってみせる。その瞳は揺るがない意志を宿していた。

 "お前を信じる"

 私にそう思わせるには十分なほどに。

「わかった。ただし、何かあればいつでも相談してくれ」

「誰が相談なんかするかっての! いいからお前も暴れまくれ。オレとお前、つええのはどっちだろうなーハハッ!」

 まったく……。仲間思いなのか、傍若無人なのか、よく分からんな。ただこいつは誰よりも信念が強いのは分かる。その強さがツバサを、みんなを支えているのかもしれないな。軽い足取りで仲間のもとへ戻る奴の背を見ながら私はそう思ったんだ。





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[[ポケットモンスタークロススピリット 第34話「黒き意志」]]
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''あとがき''
頼ること、頼らないことのバランスって難しいですよね。そこにはプライドや思いやりが関係してくると思いますが、みなさんはどのように"頼ること"と付き合っているでしょうか?
今作もいよいよ後半戦に突入しました。これまで以上に激闘の数々を繰り広げていく予定です。続きにご期待ください!

ここまで読んでくださりありがとうございました。
よろしければ誤字脱字の報告や、感想、アドバイスを頂きたいです。
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