ポケモン小説wiki
ポケットモンスタークロススピリット 第3話「衝突」 の変更点


&size(20){''ポケットモンスタークロススピリット''};
作者 [[クロス]]
まとめページは[[こちら>ポケットモンスタークロススピリット]]
キャラクター紹介ページは[[こちら>ポケットモンスタークロススピリット キャラクター紹介]]

 ポケットモンスタークロススピリット、[[前回>ポケットモンスタークロススピリット 第2話「選ばれし者」]]までは……

 ポケモンが実在しない私たちの世界――現実世界。ポケモンのイベントに参加すべく会場へとやってきた少年ツバサと彼の周囲にいた者たちは、待ち時間の合間に起きた怪奇現象によって突如姿を消してしまう。
 気を失っていたツバサが目を覚まし見た世界、そこは元の世界とは全く異なる世界、ポケモンのいる世界だった。そしてそこで出逢ったのは、過去の世界からやってきたルカリオ。現実世界では映画の主役として登場した彼を知るツバサは、不思議なペンダントの力で彼と融合してしまう。
 そして襲いかかってきたドククラゲ、サメハダーと対峙した彼らだったが、戦いの最中彼らの融合は突然解除されてしまう。すると、今度は別のポケモンがツバサと融合することに。まだ何も知らない彼は、今は振り回されるばかりだった……

第3話 「衝突」


「最強ヒーロー、オレ、見参! 見せ場はいただくぜ!」

 ルカリオに代わり、突如ツバサと融合したポケモン、彼はフーディン。だが、何故このような形で次々とポケモンが現れるのだろうか。
 未だに目の前に起きていることが信じられないツバサを差し置き、海のギャングたちが攻撃を再開。
 ドククラゲが無数の濁った紫色の針を放ち、サメハダーは星型の追尾弾を放つ。それに対し、フーディンは焦るどころか楽しそうな笑みを浮かべている。
 両腕に力を込め、スプーンをぎゅっと握ると、それはみるみるうちに変形し、ビーム状の刀身を持つ剣へと変化したのだ。

「っしゃあ! いくぜ! いくぜ! いくぜー!!」

 技“サイコカッター”でスプーンを剣にして攻撃。これが、このフーディンの得意とする戦闘スタイルのようだ。
 気合いを高めるかのように声を張り上げると、砂を蹴って飛び出すように敵へと接近する。迫りくる敵の技を、剣舞でも踊るかのように華麗にさばいていく。
 その動きは“ねんりきポケモン”たる種族の戦い方とは対極にあるもの。力技を好み、積極的に攻め込む。
 明らかに普通とは違うその戦い方を目の当たりにし、彼がいったい何者なのかを考えようとするツバサ。
 しかし、彼の激しい動きはツバサに考える余地を与えない。それどころか、大きな疲労を与えてくる。

「くそっ! ちょこまかと動き回りおって……!」

 飛び道具を次々と対処していくフーディンにしびれを切らしたサメハダーは、鋭い牙をむき出して攻めかかる。
 悪タイプの技“かみくだく”だ。エスパータイプのフーディンに有効な技であり、噛まれたら致命的なダメージを負うのは必至だろう。
 対するフーディンは、それを見て迷わず方向転換。海ではなく、飛びかかってきたサメハダーへ。

「(おい! 何やってんだ! 喰われるーーーッ!)」

 ツバサが生命の危険を感じて叫ぶが、唯一その声が聞こえるフーディンはまったく聞く耳を持たない。
 その絶体絶命の様子に、見守っていたルカリオとドククラゲは口元をわずかに開く。その様子は似て非なるもの。
 ドククラゲはサメハダーの勝利を確信し、ルカリオはフーディンの勝利を確信している。
 研かれた鋭い牙が、今まさにフーディンを引き裂かんと矢のように迫る。舞い上がる剣。砂浜に着地したサメハダーを確認し、ドククラゲの表情は一気に歓喜に包まれる。
 ところが、当のサメハダーは顔をしかめていた。技を当てたはずの感触がまるでない。はっとして空を見上げると、舞い上がった剣が照りつける陽光を反射させている。

「もらったぁー!」

 勝利を確信する声。しかしその声はサメハダーではなく、フーディンのもの。彼の声が、ドククラゲの海のような青い頭を、深海のごとく暗い青へと変えていく。
 “みがわり”を使った彼は、分身をサメハダーの攻撃の盾とし、はじめから相性で有利なドククラゲを狙っていたのだ。
 太陽光を背に、舞い上がった剣を取り戻しつつ、二刀流から紫の斬撃を放つ。これが本来ある“サイコカッター”の攻撃法だ。
 斬撃を受けたドククラゲからは煙が上がり、タイプ相性の弱点を突かれた彼は体力の限界を感じて体を沈めていく。

「逃がすか!」

 空中で身動きが取れないはずのフーディン。だが、彼は瞬時に移動してドククラゲの頭に密着。技“テレポート”による瞬間移動だ。
 いつの間にやら剣をスプーンに戻し、それをドククラゲへあてがうと同時に“はかいこうせん”を発射。
 強大なエネルギーの光線が、敵の身に余すところなくダメージを与える。ドククラゲを中心に球状の爆風が発生し、密着していたフーディンの体をも吹き飛ばす。
 だが、これこそが彼の狙いどころ。“はかいこうせん”の使用による反動を、敵と距離を置くことで補おうというのだ。
 空高く舞い上がったフーディンは、次にサメハダーを撃破すべく闘志をスプーンに込めて“きあいだま”を構成していく。

「(な、五つ目の技!? うぐっ……そろそろ元に戻ってよ……)」

 ここでツバサが驚いたこと。それは、フーディンがすでに四つの技を使いながら、五つ目の技を出そうとしていたことだ。
 通常、ポケモンは四つまでしか技を覚えることができない。新しい技を覚えるには、必ず既存の技を一つ忘れる必要がある。
 何故それが適用されないのか。質問したいところだがその思考を邪魔するように、全身を疲労が走り、体が鉄のように重くなっていく。
 今まさに“きあいだま”が発射されるその時、フーディンの体からツバサが飛び出し、変身が解除されてしまう。

「おい、嘘だろ!? もう一回変身しろよ!」

 無防備に落下するツバサを掴み、変身しなおすよう怒鳴りつける。この事態は完全に予想外のようだ。
 戦いの様子を見ていたルカリオの表情も一瞬で焦りの色に染まる。逆にサメハダーには喜びが出て現れ、先ほどと形勢が逆転したかのようだ。
 サメハダーの攻撃を阻止すべく、ルカリオは砂を蹴って走りだす。だが、狙いのサメハダーは一度体を曲げると、バネの要領で空高く飛び上がってしまう。

「まずい……フーディン“きあいだま”頼む……」

 狙われていると知ったツバサは、力なき声でフーディンに迎撃を指示。ところが、彼のスプーンを見ると先ほど完成間近だったはずの“きあいだま”が消滅していたのだ。
 体に力が入らないが、最悪の状況なのはわかる。意識をはっきりとさせ、再度“きあいだま”を生成するよう指示。ところが、彼の返答は思いもよらぬものだった。

「このへなちょこ野郎! 変身しなきゃ何も技が使えねえんだよ!」

「なんだって!?」

 先ほどまでのフーディンなら“テレポート”で回避するなり、攻撃技で迎撃するなりしたであろう。
 ところが変身が解除されてしまうと、技と言う技すべてが使えなくなってしまうと言うのだ。
 再度変身を試みるが、体の疲労はすでに限界で変身を許さない。迫りくる邪の牙が、生命の危機への恐怖を加速させる。

「バクフーン“かみなりパンチ”!」

 牙に引き裂かれるかというその刹那、敵が視界から消えさった。とは言え、このままでは地面に叩きつけられてしまう。
 しかしその心配も無用だったようで、何者かに服を掴まれ、フーディンともどもツバサは生き延びたのだ。
 恐怖と疲労という二重の重りがつく瞼を必死に持ち上げると、見えたのは赤い膜で覆われた目が特徴のポケモン。
 ツバサにはそれがすぐフライゴンというポケモンだとわかり、またその彼が爽やかな笑顔を見せてくれたことから、仲間だと確信する。
 その確信からくる安心が、瞼に重くのしかかる重力に従うよう促していた。





「すいません、こいつの治療お願いします」

「はい、お預かりいたします」

「ラッキー」

 ここは……どこだろう。真っ暗で何も見えない。でも、声は聞こえる。治療? 預かる? この二つの言葉からすぐに思い浮かんだのは病院という施設。
 ん、ラッキー? 病院にきてラッキーなわけが……。と、ふと思い出したことがある。真っ暗で何も見えないのは……目を閉じてるからか。

「ようやく目を覚ましたか」

 ゆっくりと目を開けると、待っていたのは笑顔の仲間たち……ではなく、呆れた様子でオレを見つめるルカリオ。そして外を眺めるフーディン。
 彼らの姿を見て、先ほど起きたことの記憶が鮮明に蘇る。オレはポケモン界にきて、ポケモンと融合して、それで……
 最後は気を失ったからわからない。ふと辺りを見渡すと、二段ベッドで埋め尽くされた部屋にいることを知る。
 見慣れない部屋だが、先ほどの“ラッキー”の声を思い出し、ここはポケモンセンターではないかと推測する。
 戦った場所は海辺だった。となると、ルカリオとフーディンがここまで運んでくれたと考えられる。
 ポケモンにお世話になったという感動と、二人への感謝で胸がいっぱいになってくる。せめてお礼くらい言わなければ。

「ここまで運んでくれたのお前たちだよな。ありがとう」

 精一杯の感謝の気持ちを込め、ありがとうの言葉と共に握手を求める。握手なんて普段恥ずかしくてできないけど、二人への感謝の前では、そんな恥ずかしさなんてちっぽけなものだ。
 ところが、そんなオレの気持ちを汲み取ることなく、二人は外へ向かって歩き出す。“ついてこい”と一言だけ残して。
 ありがとうの言葉に、笑顔で応えてくれることを期待していたオレは、彼らの冷たさに苛立ちを覚える。
 とは言え、彼らには助けてもらったのだ。種のような小さな苛立ちを胸にしまい、彼らについていくことにした。



 歩いているのは先ほど戦った海辺の辺り。歩きながら現在地について質問してみると、ここはホウエン地方のトクサネシティなんだとか。
 なるほど、海に面していて砂浜もあるわけだ。と、再度ポケモンの世界にやってきたことを実感する。すごく感動するけど、何かイメージと違うような……
 そんなふうに物思いにふけっていると、見えてきたのは二人の女の子とポケモンたち。歩く方向からして、あの人たちに用があるのだろうか?

「バイバイ。ドククラゲ。サメハダー」

「これからは気をつけるのよ」

 女の子二人が、ポケモンを海へ送る。ドククラゲとサメハダー。まさか、先ほど襲ってきたポケモンなのか?
 しかし、彼らはにこっと笑って体を振り、挨拶をするかのように鳴き声を上げている。今の彼らに先ほどの敵としての面影はない。
 いったいあれは何だったのか。考えてはみるものの、到底答えは見つからない。考えるより聞くほうが早いか。あとで聞いてみるとしよう。

「ふぅ……これでよし、と。あ、目を覚ましたんだ! よかったぁ。私はヒトミっていうんだ。よろしくね」

「やあ、君がツバサだね? 僕はヒトミのパートナーでフライゴン。これからよろしく!」

 ポケモンを見送り、振りかえったところでオレたちに気づいたようだ。連れているポケモンを見ると、さっき助けてくれたのは彼女たちだと思う。
 女の子のほうはオレと同い年ぐらいかなぁ。で、一際目につくのがこのフライゴン。片手の指を頭につけて離すとか、なんか爽やかすぎてこっちが恥ずかしいんだけど……
 って、このフライゴン喋った!? 待て待て。ポケモンは一部を除けばほとんどは喋らないはずだよな。というか、これからってどういうことだ?

「俺はバクフーンだ。なんか喋ることに驚いてるみたいだが大丈夫か?」

「ユウキよ。ウチらあなたがベンチに吸い込まれそうになったとき助けようとしたんだけど、一緒に連れてこられちゃったってわけ」

 そしてもう一組がバクフーンと、そのトレーナーの女の子ユウキ。ユウキもオレと同い年ぐらいかなぁ。
 って、このバクフーンも喋った!? 女の子二人は全然驚いてないんだけど、これってどういうこと?

「すまないな。こちらの一存で連れてきてしまって……」

「いいのいいの。ウチ、バクフーンと会えてすっごく嬉しいもん」

 バクフーンにユウキが抱きつく。きっとふわふわの毛が気持ちいいだろうな。だけど、当のバクフーンはなんか固まってるけど……
 まあ人前で抱きつかれては、恥ずかしくて固まるよな。バクフーンもお気の毒に……。って、そこまで酷い状況じゃないんだけどね。
 そんなことより、何故ポケモンが喋るかを聞かないと。えーっと、この場合はやっぱりルカリオかな。

「なあ、お前が喋るのはわかるんだけど、どうしてこうもいろんなポケモンが喋るんだ?」

「現実世界にトレーナーを持つポケモンは、すべてテレパシー能力を持っている」

 うわ、なんか返答短ッ! こいつ怒ってる? バクフーンに抱きつくユウキと、ルカリオに冷たくされるオレ。なんか対象的でやなかんじ……
 オレのイメージでは、アーロンのルカリオはかっこよくて優しくて、仲間思いで温かい印象があるのにな。
 そうそう、少し掘り下げて聞いてみると、オレのいた世界を現実世界と呼んでるみたいで、こっちをポケモン界としてるみたい。
 ユウキの話を思い出すと、他に数人一緒に吸い込まれた人がいたはず。となると、その手持ちも喋るってことか。

「挨拶はこんぐらいでいいだろ。ほらよ。モンスターボールと、サイコペンダントだ。ドジして落とすんじゃねえぞ!」

「こっちはオーラペンダントだ。間違ってもなくすなよ!」

 ぼーっと考え事をしていると、いきなりフーディンとルカリオから道具を渡された。と言うか押しつけられた感じ。
 こいつら二人とも、オレをドジ扱いしてるだろ。いったい何が気に入らないんだよ。いくら大好きなポケモンだからって怒るぞ。

「お前ら、さっきから何そんなにつっかかってくるんだよ」

「当たり前だろ! てめえが雑魚だから変身解けちまうし、オレの見せ場が台無しじゃねえか! ったく、このオレのトレーナーがこんなへなちょこかよ」

「なっ……へなちょこだとー!?」

 今にでも飛びかかりたい衝動を抑え込み、ワシのように鋭い目で睨みつける。手を出すつもりはないが、どうしても許せない。
 普通に喋るあたり、こいつがオレのパートナーなのだろう。それが最初からこれでは、今後ろくな関係が続かない……
 と、はっと冷静になって思ったことが一つ。オレってこれからずっとこいつと暮らすのだろうか。そもそも何故ポケモン界へきた?
 こういう時はやはりルカリオに聞くべきだろう。もともとオレを連れてきたのも彼のようだし、きっと何か知っているはずだ。

「あの、オレってこれからどうすればいいの? ポケモンと会えるのは嬉しいけど、家族も心配するし……」

「ゾーンに冒されたポケモンを助けつつ、ガレスという奴を倒してもらう」

 ゾーン? ガレス? 聞きなれない二つの言葉を耳にし、頭の中は混乱してしまう。何も知らないより、中途半端に聞くと気になって仕方がなくなるから困る。
 だが、ルカリオは必要最低限しか話したくないのか、聞いたことしか答えない。もっと詳しく教えてほしいんだけど……
 彼もまた何故か知らないが、怒っているのは間違いない。その証拠として、彼の態度を受けたオレはその怒りに反応し、胸にしまったはずの苛立ちの種を芽吹かせていたからだ。

「ガレスって誰だよ。ポケモンにそんな奴いないし、普通の人間ならオレがいなくたってお前の力で倒せるじゃん」

「お前……本気で戦う覚悟はあるか?」

 オレの言葉に、ルカリオは急に静かになる。いや、ただの静けさじゃない。威圧感とも取れるオーラを放ち、それがオレの胸を締め付けてくる。
 波導使いでも何でもないオレでさえもわかるこのオーラ。オレ何かまずいことでも言ったのか?

「私は……私はアーロン様と離れてまでここにいるんだ! すべては世界を守るため! それだと言うのに、お前にとってこの戦いはただの遊びでしかないのか!」

「何もそんなこと……」

「私もフーディンも、敵の攻撃は一度も受けていない。それだと言うのにあっという間に変身が強制解除。英雄を選ぶはずのオーラペンダントが、何故お前のような雑魚を選んだのか、私には理解できん!」

 オレが連れてこられたのにはそんな大きな理由が……。ルカリオとアーロンに固い絆があることは、オレもアニメを見て知っている。
 だけど、だからって世界のために離れ離れになって、その苛立ちをオレにぶつけるのはおかしくないか?
 オレはアーロンのような英雄でもないのに、ポケモンと一体化し、その動きについていくなど余りに無茶なことではないだろうか。
 そもそも人間は技など使えないし、ペンダントが英雄を選ぶだか何だか知らないが、オレ以外でもきっと同じだっただろう。
 それがあたかもアーロンを基準とし、それ以外を平気で雑魚呼ばわりするこいつに、オレは怒りを隠せない。いや、隠せないでは済まないのだ。

「黙れ! お前もオレを雑魚呼ばわりかよ! イメージ崩壊だ。優しくてかっこよくて、どんなときも励ましてくれるヒーローのように思ってたのに、なんだこの様は。人に要求ばかり押し付けるくそ野郎どもじゃねえか!」

「なんだとこの野郎! オレたちの力は、極限まで高められるようそのペンダントに封印されてんだ。だから変身が必要なのに、お前がへなちょこすぎてあんな雑魚にまで負けるんだぞ? ありえねえだろ!」

「要求を押しつけているのはお前じゃないか! 勝手に完璧な印象を持たれても、こっちは迷惑だ!」

 こうなればお互い止まることを知らない。二対一なのは厄介だけど、技が使えないならまとめて……
 ところが、いざ飛びかかろうという時に邪魔が入る。ユウキとヒトミが腕を掴んで離さないのだ。余計なところで止めに入りやがって。
 同い年ぐらいの女子なんて軽く振りはらって……と思ったけど、予想外にも二人の腕力が強い。おかしいな。二人とも平然とした顔で、全然力入れてないみたいなのに……
 一方のあいつらは、それぞれバクフーンとフライゴンが止めに入ったみたいだ。まあオレだけ止められたら、あいつらにボコボコにされるしな。

「ああもうイライラする! やってられるか!」

「ちょっと、待ってよ!」

 この場に留まっても怒りが増幅されるだけ。怒りに染まった活火山は、我慢しようとするほど逆効果となり、ついには大噴火を起こすだろう。
 せめて誰もいないところで発散し、迷惑をかけたり、かっこ悪いところは見られないようにしなければ……
 それだと言うのに、その場を走り去るオレを止めに入った二人が追いかけてくる。ちくしょう、鬱陶しいんだよ。
 戦いの疲れはまだ完全に癒されたわけではなく、重い体を必死に動かしたせいでひどく息が切れる。
 もうポケモンたちから見えないところまできたが、あいにく追ってきた二人は離れてくれそうもない。

「ちょっと、なんで追ってくるんだよ! 一人にさせてくれ!」

 振り向きざまに叫び、2人を追い払う。会って間もない人にやることじゃないけど、怒りを強調させることで、彼女たちには離れてほしかった。
 ところが、思いっきり叫ぶと、ふと栓が外れたように何かが込み上げてくる。くそ、目が熱い……。こっち見てないで、早くどっか行ってくれよ!

「本当はフーディンとルカリオのことが大事なんだよね」

「ウチはツバサの気持ちもわかってるよ。だから……だから逃げなくていいよ」

 くそ……やっぱりオレはあいつらが言うようにただの雑魚なのか? オレの意思に反して込み上げる感情をまったく止められない。それどころか、その感情に溺れていってしまう。
 わかってる。本当はオレの怒りが馬鹿らしく、もっとポケモンたちの気持ちを理解してあげなきゃいけないことを。だって、オレはポケモンが大好きなんだ。
 こうやって葛藤すればするほど、感情は水かさを増し、オレを溺れさせようとする。怒り、不安、でも一番大きいのは……。ごめんなフーディン、ルカリオ。
 心が溺れていく中、オレは藁にもすがる思いで、目の前の二人に助けを求めるしかなかったんだ。





----
[[ポケットモンスタークロススピリット 第4話「運命と意思」]]
----
''あとがき''
今回のお話では、変身システムの弱点や、サブタイトルどおりツバサとポケモンたちの衝突を書きました。
ポケモンをゲームやアニメで知り、ポケモン界にきたことをただ喜ぶツバサと、事態の深刻さを知り、命をかけて戦おうというフーディンとルカリオとの立場の違いからくる感覚の違い、そこから生まれるズレと彼らの心情を味わっていただければと思います。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
よろしければ誤字脱字の報告や、感想、アドバイスを頂きたいです。
#pcomment(above)

トップページ   編集 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.