&size(20){''ポケットモンスタークロススピリット''}; 作者 [[クロス]] まとめページは[[こちら>ポケットモンスタークロススピリット]] キャラクター紹介ページは[[こちら>ポケットモンスタークロススピリット キャラクター紹介]] ポケットモンスタークロススピリット、[[前回>ポケットモンスタークロススピリット 第25話「策略合戦」]]までは…… 生物を汚染し、凶暴化させる謎の物質ゾーン。そのゾーンでポケモンを汚染する浮遊島の施設を破壊したツバサたちは、シンオウ地方へとやってくる。そこへゾーンにより変身能力――クロススピリットの力を得た少年リト率いるゾーンポケモンの集団が襲撃をかけてきた。 これに対し、いち早く名乗りを上げ対策を考案したのがキングドラである。集結した仲間たちへ指示を下し、進行するゾーンポケモンを次々と撃破することに成功。その後彼はすぐに撤退を指示するも、勢いに乗った仲間のリングマは指示を無視して追撃を強行してしまう。 そこへ現れたのが浮遊島でフーディンやルカリオも戦った謎の動く石像たち。ゾーンポケモンを統率していたリト自らの仕掛けた罠にかかり、リングマたちは結界に閉じ込められ動きを封じられてしまうのだった。 第26話 「海竜の誓い」 石像が結界の外から仕掛ける攻撃のタイミングを計るのに神経を削るリングマたち。石像はリトが操れば何の躊躇もなく電撃を放ってくる。攻撃対象に人間であるアオガミがいてもまったく手を抜かない彼らに対し、説得の意味など皆無であることはその場にいる誰もが分かっているだろう。それだけに、いち早く結界を解除しこの場を逃れる必要がある。しかし、打つ手の見つからぬまま時間だけが悪戯に過ぎてゆく。背中にじっとりと脂汗を流す一同。そこへリトが再び攻撃を仕掛けるべく、円を描くような不可解な手の動きで八体の石像を操り始める。すると彼の思念が乗り移り、槍の矛先を結界の中へと向け微動だにしなかった石像は物が投げ入れられ振動する水のように震えだし、手に持つ槍の矛先が青白い光を纏いだす。先端部にエネルギーが結集し始めたのだ。 「やれ!」 情けの欠片も無いリトの指示と同時に先端部から青き閃光がほとばしる。一度はカメックスの“まもる”の技で防いだ攻撃。しかし、この技は連続で出すと失敗しやすく、多用はできない。そのため、迫る電撃に対し各々の持てる技で相殺を試みるポケモンたち。だが、内部にいるポケモンは五体。攻撃する石像は八体。攻撃を相殺して防ぐには数が足りないのは明白だった。 直後、技と技――エネルギーのぶつかり合いが黒煙と爆風を生みだし、辺りの視界は黒一色へと染まる。五体分の攻撃は防がれても、異なる方向から放たれた電撃を少数で防ぐ手段などない。リトは勝利を確信していた。 風が吹き、黒煙が彼方へと消え去り、徐々に明らかとなっていく結界内部の様子。そこにある光景にリトは、メタモンは、そして内部にいるヘルガーたちまでもが驚愕の声を上げる。 「なん……だと……」 「リングマ……お前……!」 そこにあった光景。毛皮が焼けて黒く焦げ、体中から黒煙を上げるリングマの姿に誰しもが驚きの様子を隠せない。結界の中には人間であるアオガミもいる。当然彼が電撃を受ければその命はないだろう。それを知っているリングマは迫りくる電撃から、身を盾にして守ったのだ。 「すまねえ……俺様の責任だ。許してくれ……本当にすまなかった!」 全身から煙を上げながら天を向いて叫ぶリングマ。その瞳からは自らの浅慮により、覆しようのない窮地へと仲間を陥れたことへの後悔の涙が溢れていた。もはや彼も気付いたのだろう。この中で唯一変身している自分がどうしようもなくなり、完全に打つ手が無くなったことを。その責任から身を犠牲にし謝罪の言葉を叫ぶ彼の姿を見ることは、仲間たちにとって鳥肌の立つ思いだった。迫りくる恐怖を遥かに上回るその感情の大きさに、誰しもが言葉を失っている。 一方リングマの声に一瞬驚きを見せたリトだったが、形勢に変化はないと気を取り直し今度こそ止めを刺すべく再び石像へと思念を送り攻撃の準備に取り掛かる。そして再び槍の矛先にエネルギーが集まり、もはやこれまでとヘルガーら結界内部のポケモンが諦めかけたその時だ。 何の前触れも無く鼓膜が切れるほどの爆音と共に一体の石像が爆発を起こし、その体は木っ端微塵。動力源としていた青白い液体――ゾーンが周囲へと飛び散り、地に水玉模様を描く。その驚くべき光景にリトの集中が阻害され、思念が途絶えたことで石像たちはただの冷たい石の塊へと変貌する。 「い、いったい誰だ!?」 「何をしている? 結界は解けた。早く逃げろ!」 石像が一体破壊されたことで、地に白黒の勾玉が混ざり合うような模様――陰陽太極図が消え去り、結界が解除される。それに伴い移動の制限がなくなったことから、声の主に従い、ヘルガーらは傷ついたリングマを連れ、急ぎ足でその場を去っていく。その光景にただ唖然とし言葉を失ったリトは一瞬我を忘れるも、すぐに気を取り直し石像へヘルガーたちを追うよう思念を送り始める。 「ふざけるな……こんなことあっていいわけがない! お前らがいくら壊れても構わない。追え! 追って奴らを一匹残らず片付けてこい!」 「やる気か? この私と……」 狂気の沙汰を起こしたリトは、狂ったように石像へ思念を送り込む。ところが、未だ姿の見えぬ者の冷静沈着な言葉の切り返しに、彼は思わず立ちつくしてしまう。そこへ止めを刺したのがこの言葉だ。 「いつでも来るがいい。ただし半端な覚悟は許さぬぞ。命をかけて、かかってこい!」 見えぬ者への恐怖。それさえも上回る圧倒的な言葉の威圧感は、ゾーンを得たリトさえも腰を抜かし座り込んでしまうものだった。自分をここまで辱めた声の主が憎い。英雄たる器を持つはずの自分が勝てないはずはない。声の主の言葉、存在、その全てを真っ向から否定する自身の内なる言葉とは裏腹に彼の体は動かなかった。 戦意喪失に近い彼の心理を感じ取った声の主は安堵したのか、大きな羽音だけを響かせるとやがてその場を去っていく。後に残ったのは、戦地を撫でる北風だけであった。 戦場に倒れていた最後のポケモンの回収を終えたボーマンダとフライゴンに労いの言葉をかけ、メガニウムに治療を依頼。戦いの後始末とも言うべき作業の指示を一通り終えたその時、作戦を実行していたヘルガーたちが手負いのリングマを連れてここベースキャンプへと帰還した。 「御苦労だった」 「ああ。今はこいつの治療を頼む」 既に状況を察していたオレは短く声をかけると、同じくヘルガーが最低限の言葉で返す。リングマ以外に目立った傷の見当たる者はいないが、その表情から相当な体力の消耗が伺える。今は回復を優先しなくてはならないだろう。それ以降言葉を発することはなく、オレの横をヘルガーら作戦の実行組はキャンプの奥――メガニウムのいるテントへと脚を運んでいく。 その後、大きな羽音と共に遅れてやってきたのはルギアだ。 「ありがとうルギア。あんたのおかげで仲間を助けることができた」 「フンッ、世界で一番かっこいい私の威光を前に立てる者などいない。キラーン」 「ふっ、そうだな」 美しい白銀の翼で陽光を跳ね返す彼の姿は、眩しいくらいに美しく神々しい限りだ。彼のことだ、おそらく太陽の位置から反射角を計算して輝かしく見せているのだろう。苦笑しつつも彼の調子に合わせたオレは、その活躍を讃える。 一見伝説のポケモンたる威厳の欠片もない振る舞いだが、彼が何をしてきたのかは大方察しがつく。万が一のことがあってはとルギアを派遣したのはオレだが、たった一体でオレの与えた任務を完遂できるのは彼の並々ならぬ実力があってこそ。普段の振る舞いからは想像もつかない力を秘めているのが彼、伝説のポケモン――ルギアなのだ。フーディンとルカリオをも有に超えるであろうその優れた実力は尊敬に値する。彼のおかげで仲間を救えたことにオレは心から感謝したい。 その後ヘルガーたちが入っていったベースキャンプの奥へと向かうと、草を束ねた簡易ベッドで横たわるリングマと、そのパートナーで変身し共に戦っていたアルフの姿が目に映る。変身の仕組みからアルフに傷は見当たらないが、右腕を押さえて顔をしかめていることから戦いの際そこに重点的にダメージが蓄積したに違いない。 一方のリングマは毛皮が焼け、痛々しいことこの上ない姿だった。そんな彼の瞳は潤んでおり、その心情は今更察するまでもない。何と声をかけるべきか思案していると、彼は上半身を起こしオレに対し真っ直ぐな瞳を向けてきた。 「キングドラ、お前の指示に従わなかったばかりに……。本当にすまねえ」 「勝敗は兵家の常、とはよく言ったものだ。気にすることはないさ。よく頑張ってくれた。オレも指示ばかりに回ってしまい悪かったな」 「そんなことはねえ。お前の作戦は完璧だったぜ」 オレとリングマ、互いを気遣う言葉が交差し、場は温かな雰囲気に包まれる。襲撃への対策が急を要する状態だったとはいえ、会って日の浅い者に一方的に指示されるのは如何なる者とて好まないだろう。彼の犯したミスは、オレの自身の才への自惚れであると反省し、今後気をつけなくてはならない。 寛大な心に感謝しつつ、彼に報いるため汚名返上となる次なる作戦を脳内で構築していたオレは、気を取り直しすぐさま作戦の提案に取りかかる。 「みんな、今再度追撃をすれば敵へもう一泡吹かせてやることができる。誰か一緒にきてくれないか」 「なんだと? 放っておけば敵は自ずと退却するはず。罠の危険性を考えれば追撃は得策とは言えないはずだ」 次なる提案を行うと、真っ先にヘルガーが反対の意を示す。それに準じるように、エネコロロが、グラエナが、カメックスが次々と反対意見を推し始める。彼らは敵の仕掛けた罠にかかった者。それを考慮すれば、その反応は至極当然と言えるだろう。しかしオレの洞察が正しければ敵の本体は真っ先に退却しており、今追撃を行って戦うことになるのは敵一般兵とも言うべきゾーンに汚染されたポケモンたちなのだ。それを声を大にして説明するも、反対の意見は覆らない。リングマに申し訳ないというオレの心理を察し、無理やりにでも報いようとしていると勘違いされているのだろう。こうなるとにっちもさっちもいかず、一人追撃を行うわけにもいかないことから口をつぐむよりなかった。しかしその時だ。傷が疼いて痛むため唸り声を上げていたリングマが、痛みに顔を歪ませながら口を開いた。 「こいつの言うとおりにしていれば勝てたんだ。俺様が突っ込むまではすべて思い通りにいっていた。それが誰の策だったか忘れないでくれ」 「リングマ、お前……。頼む、オレを信じてくれ!」 「いつだって信じてるさ!」 リングマの言葉に胸を熱くしたオレは、最後の一押しとばかりに語気を強めて叫ぶ。その言葉に馴染みのある声が言葉を返す。声の方向へ目を向けると、そこに立っていたのは疲労で寝込んでいたツバサだった。メガニウムの付きっきりの看病が功を奏し、ついに復活したようだ。 「へっ、ようやく暴れられるぜ! いくぜ、グラエナ! ヘルガー!」 「ようやくツバサの復活か。これはやるしかないな!」 「フンッ、勘違いするな。お前の指図で動くんじゃないぞ」 ツバサの復活に合わせフーディンも登場。その彼の言葉に刺激を受けたグラエナとヘルガーは追撃のメンバーに参加を表明する。ここでツバサは、他の仲間たちは戦いで疲弊しているため、今参加を表明した者のみで追撃を行おうと提案。確かに彼の言うとおり、敵の計略にかかった者を除いてもいずれも疲労が蓄積しているのは間違いない。無傷全快の身はオレとフーディン、ルカリオだけだ。しかしながらツバサが一度に変身できるのは一体のみのため、変身無しでは技が使えないルカリオも同行するのはあまり意味を成さない。さらに考えるべきなのは、今回は二度目の追撃となること。機動力に欠ければ敵に追いつくことは不可能であるため、少数のほうが望ましいと言えるだろう。そこまでツバサが考えていたかは定かではないが、何はともあれ彼らの登場に救われた思いだ。 「留守は頼む。ツバサ、乗れ!」 残る仲間たちに留守を任せ、出撃を開始。フーディンはツバサの首にかけられたサイコペンダントの中へ入り戦闘まで待機し、ツバサはオレの背にしがみつくように乗り込む。彼を乗せたオレが“れいとうビーム”の技で宙に氷の道を作りだして飛び上がると、それを合図にグラエナとヘルガーも地を強く蹴って駆け出す。ツバサの首に巻かれた思い出深い白きマフラーが、残る仲間へ手を振るように揺れていた。 出撃後しばらくすると、腕が伸び縮みするのが特徴的な草・格闘タイプのキノガッサ、敵を威嚇する恐ろしい見た目の羽を持つ虫・飛行タイプのアメモースなど異なる種族のポケモンが群れを成してどこかへ移動する光景が見えてきた。その行く先には海がある。群れは決して水ポケモンの集団ではないことから、以前見かけた飛行装置のように何らかの方法で退却を試みようとしているゾーンポケモンであると判断したキングドラは、地上を走るグラエナとヘルガーに敵の発見を報告。現状船や飛行装置などは見当たらないものの、あと一歩遅ければ敵を取り逃がしていたかもしれない。このことから、キングドラの思ったとおり機動力を重視した少数での追撃は正しかったと言えるだろう。 「ホウエンに見られるポケモンが多いな。弱点は……氷か」 場に存在する敵の種族がホウエン地方で見かける者が多いことから、以前そこで汚染されたのだろうと考えつつ、全体の大まかな傾向を分析するキングドラ。上空にいる彼だからこそ把握できる全体の傾向は、草・飛行タイプなど氷タイプを弱点とする種族が多いこと。 潮風をその身に受けながらキングドラが敵集団の頭上を取ったのを確認すると、キングドラの分析結果を念頭に置きつつツバサは掛け声と共にしがみついていた四肢を離し、全身を大きく広げて風を切り落下。青い空を背に地上へ向けて一直線に飛び降りていく。マフラーと二つのペンダントが天へ向けてなびく中、彼はフーディンとの変身に使用する黄色のペンダント――サイコペンダントを右手に握りしめる。 「いくぞ、変身!」 ペンダントから眩い白光がほとばしり周囲を照らし出す。その光に包まれ、無の世界とも言うべき真っ白の空間でハイタッチを交わしたツバサとフーディンは心身を融合させる。これにより全身に力をみなぎらせたフーディンはペンダントから飛び出し、落雷の如き着地で敵集団を一閃。その衝撃にゾーンポケモンたちは強制的に左右二手に分かれることとなり、それを一方ずつ担当するようにグラエナが左側を、ヘルガーが右側の敵へと牙をむく。 「最強ヒーロー、オレ、見参!」 お馴染みの決め台詞と共に、“サイコカッター”の技で手にしたスプーンを薄紫色の刀身を持つ剣へと変化させるフーディン。ところがこの襲撃に驚くかと思いきや、少数である故に圧力が欠けたのか、ゾーンポケモンたちは驚く様子もなく戦闘体勢に入る。“さすがは化け物か”と苦笑したキングドラは、通常生物に見られる反応が汚染により失われているのだろうと考え、気を取り直して攻撃を開始。 先程の分析からキングドラは敵の多くに有効な氷技“れいとうビーム”で遠距離から一方的な攻撃を仕掛け、飛行能力で接近する者は優先して狙い、凍結させて叩き落としていく。 一方、地上で戦うヘルガーは地獄の業火“れんごく”の技で敵を、周囲を焼き尽くす。触れた者を確実に火傷状態にするこの技は、大きなダメージのみならず敵のパワーを大きく落とすこともできる。炎を苦手とするポケモンであれば即ダウンを取ることもできるこの大技を真紅の瞳で睨みつけながら出すその様子は、見る者をすくませるまさに地獄のような恐怖そのもの。敵と判断すれば容赦のないヘルガーならではの戦い方と言えるだろう。 グラエナはと言うと、接近戦用の技しか持たないため迷わず地を強く蹴り敵集団に飛び込んでいく。スピードに自信のある彼は瞬く間に加速し最高速に到達。眼前の敵、背中にマグマを煮やした亀のようなポケモン――コータスが口腔より漏らす火を吹くと、グラエナは高く飛び上がって風を切りこれを回避する。そのまま体の重さにより動きの鈍いコータスの背中を踏みつけ、その奥にいた黒真珠をつけた豚のようなポケモン――ブーピックへと飛びかかり“かみくだく”の一撃を見舞う。 離すまいと頭に噛みつきながら前足で果敢にブーピックの肩を殴りつけるグラエナ。技ではないため威力は微弱だが、ブーピックは頭に肩にと攻撃され身動きが取れない。そんな時はエスパータイプである自身の超能力で引き離したいところだが、悪タイプであるグラエナにエスパー技は通じないのだ。それを知っていてしつこく攻撃を続ける彼を見たコータスは“丸焼きにしてやる”と凶暴性をむき出しにした言葉を吐き捨て、灼熱の炎を吹きつける。 ところがそれを待っていたグラエナは、四肢にめいっぱいの力を込めてブーピックを蹴りつけ後方へと宙返り。彼を狙っていたはずの火は誤ってブーピックへと襲いかかり、その身を焼き尽くしていく。幸いブーピックは特性“あついしぼう”により炎技によるダメージを軽減することができるが、既に受けていたダメージと重なり重い音を立てて地面へと倒れ気絶してしまう。必要以上に敵を傷つけたくないグラエナにとっては実に好都合と言える勝利だ。 その後コータスの後ろを取ったグラエナは即座に前足を忙しなく動かし“あなをほる”を開始。黄土色の砂をかき分け、みるみるうちに地中へと潜っていく彼は、コータスが振り向くより先にその身をすべて地に隠してしまう。すぐ“あなをほる”の技と判断したコータスはその攻撃に備えるべく対策法を思案するも、グラエナがそのような時間を与えるはずもなく。動きが鈍いため回避が苦手なコータスに、足元から飛び出し腹部に頭突きをくらわせる。コータスの高い防御力はその甲羅にあり、そこを外れた腹部の防御力はさほど高くはない上に、炎タイプの弱点である地面技は効果抜群だ。 グラエナの頭突きに宙へ飛ばされたコータスは地を揺らす轟音と共に地面へ激突し、砂埃を巻き上げる。きまったとばかりにグラエナが口元をにやりとさせると、砂埃が消え去ったその場には気絶するコータスの姿があった。 「へへっ、やっぱりこのぐらい暴れねえと気が収まんねえぜ!」 フーディンはと言うと、ツバサの疲労のためにしばらく戦線から離れていたため、再び戦えることに満足した様子で戦闘を楽しんでいた。そんな彼にやや呆れながらも、今の自分たちにはポケモンたちを助けるための戦場こそが居場所であると考えたツバサは彼に調子を合わせていく。しかしながら戦いは目的ではないため、できる限り早期決着が望ましいだろう。帰還を待つ仲間のためにも一気に片をつけたいツバサは、フーディンに対し攻撃方法を提案することに。 「(敵は氷技の苦手なポケモンが多い。ここはキングドラに“れいとうビーム”を頼んで合体技を使おう)」 その提案をフーディンは一も二も無く承諾。キングドラへの合図代わりに“サイコカッター”の技で生み出した両手に持つ剣を交差させ天へと掲げると、その意図を汲み取ったキングドラは細い口先に冷気のエネルギーを結集させ、剣を目掛けて一直線に撃ち放つ。始めに敵の傾向を分析したことで、あたかも計画していたかのように素早く連携を行うことに成功。ビーム状の刀身を持つ念の刃はその姿を変え、透明で白く輝く冷気の刃“キュレムの剣”となる。現実世界出身であるが故にほぼすべてのポケモンを知るツバサが、今までの合体技に倣い、伝説のポケモンの強さにあやかって命名したものだ。 「一撃で決める! いくぜ、オレの必殺技!」 仲間との連携で勢いを得たフーディンが、魂より湧き出る活気を乗せて雄叫びを上げる。両腕を体の左側へ寄せると、右側に高速で回転して攻撃。回転斬りにより遠心力のついた冷気のエネルギーが刃を飛び出して波状に広がり、周囲の敵を瞬く間に凍結させていく。有無を言わさぬ圧倒的な力で敵を全滅させた彼は、二振りの剣を体の前で交差させるように二回振り回すと、剣をスプーンへと変換する。 これにて戦闘終了。フーディンの満足気な様子にキングドラたちはツバサとフーディン、彼らの持つ高い潜在能力を笑う、声に出して褒めるなど各々のやり方で称賛するのだった。 その後無事帰還を果たしたツバサたち。そんな彼らを見たリングマは“何故こうもあっさり勝てたのか”とキングドラに疑問をぶつける。それもそのはず、帰還した彼らの身にはこれといった傷が見当たらないのだ。また、フーディンが“サイコキネシス”の技で倒した敵を宙に浮かべて連れ帰ったにも関わらず、ツバサが疲労の様子を見せていない点からも、戦いが圧勝だったことは容易に想像がつく。 「リトは、始めは追撃を警戒し強敵である石像をしんがりとするが、お前たちを罠にかければ勢いを削ぐことで二度目の追撃はないと考えるだろうからな。ルギアが威圧したのも大きい。奴は大軍を扱う経験などあるはずもなく、また所詮ゾーンに操られた小心者だ」 リングマの疑問に丁寧に返答したキングドラは、さらにリトはゾーンポケモンを完全にコントロールはできておらず、そのため意のままに操れる戦力を得るべく石像を作ったのだろうと推察。あの動く石像とは指で数えるほどしか戦っていないにも関わらず、製作者と思われるリトの意図まで読み通す彼の洞察力に一同は舌を巻くよりない。確固たる証拠はないが、彼の推察を事柄に当てはめるとすべて辻褄が合うのだから。 「ツバサ、キミは良い仲間を持ったな。大志を胸に抱きし者には優れた者が寄り添う。これも&ruby(さだめ){運命};か……」 大器とも言うべき存在のキングドラを高く評価したアルフは、トレーナーであるツバサへ向けて称賛を口にする。その言葉を受けたツバサがゆっくりとキングドラへと視線を移すと、偶然にも視線が一致。互いに少し照れくさい様子でアルフに向き直ると、ツバサは大きく頷き、キングドラは礼を述べる。 そんな温かい雰囲気に包まれた場だったが、ここでバクフーンが肩をすくめ、低いトーンの声で申し訳なさそうに話を切り出す。 「戦いに勝てたのはよかったんだが、山の緑は枯れちゃったんだよな……」 その言葉に場の空気は一転。重くどんよりしたものとなり、一同俯いたまま言葉を失ってしまう。ところがただ一人、キングドラだけが顔色一つ変えることなく真っ直ぐにバクフーンの瞳を見つめているではないか。それに気付いたバクフーンが何を言い出すのかと首を捻ると、彼は笑いながら話を始める。 「メガニウム、お前の出番だ。その力で山の緑を復活させてくれ。これはお前にしかできない」 「キングドラ……。ええ、できるわ。大変だけど私だって頑張らなくちゃ!」 キングドラが敵を迎撃する作戦のメンバーに彼女を外していた理由がここで明らかとなる。彼は始めから大戦後こうなることを予測していたため、戦場となった土地の傷跡を癒すべく今まで彼女を待機させていたのだ。予想だにせぬ大役に抜擢されたメガニウムは、尻込みせずこれを承諾。戦いの後であったため夕方頃から始まった作業は翌日までかかるも、夜通し力を尽くした彼女の努力により山の緑は大戦前と何ら変わりない生き生きとした姿を取り戻す。 さらに倒してゾーンを除去したポケモンの治療も行った彼女は疲労困憊。すべてを終えた時には次の朝を迎えていた。立つのもやっとで、ついには腰が抜けるように倒れ込んでしまった彼女の頭を支えるように抱きとめるツバサ。そこへ一同が集結し、キングドラが口を開く。 「この戦いの最大の功績はメガニウムにある。皆、拍手を贈ってやってくれ」 その言葉に従い、太陽のように明るい笑顔で拍手を贈る一同。“やったな”と最も傍で声をかけ、笑顔の花を咲かせるツバサを見つめたメガニウムは、全員の前で抱かれることに恥ずかしさを覚えて顔を紅潮させるも、この上ない幸せを噛みしめる。あたかも二人が結ばれたのを祝福するかのような鳴りやまぬ拍手に、メガニウムは疲労も忘れてすっかり有頂天だ。無論、拍手の理由が彼女の妄想とは異なるのは言うまでも無い。 そんな様子を見て大きな声で笑って見せたキングドラ。彼はメガニウムの心理まで考慮し、このような演出を行ったのか。その答えは、彼のみぞ知るのだろう。 それからしばらく今後の予定について話し合ったオレたちは、ルギア、ボーマンダ、フライゴンが体内からゾーンが消え去り元に戻ったポケモンたちを棲み処へと帰す役目を担うこととなり、彼らはトレーナーと共にポケモンたちを連れてその場を去っていった。 残るは四人。いずれもここシンオウ地方の伝説のポケモンが持つ宝石を集めるため、そしてまだ見ぬ宝石の適合者と合流すべく旅を再開する。左右に草木の茂る道を行くと、すぐに分かれ道へとやってきたオレたちの前には親切にも長方形の看板が立っていた。北――ソノオタウン。東――クロガネシティと書いてある。現在シンオウの西部にいるオレたちは、ここから北部や東南部を調査しなくてはならない。 「えーっと、今はコトブキシティの近辺だから……。そうだな、オレたちは北に向かってみるよ。キングドラはそれでいい?」 「ああ、問題ない」 そこで他の仲間に広範囲の東南部の調査を任せ、オレはツバサに従って北部へと向かうことに。仲間たちも彼の意見に賛成のようで、一同シンオウ地方の中心部に存在する町“ヨスガシティ”で合流することを約束し解散する。 伸縮に優れるでもない尾を用い跳ねるという慣れない地上での移動を続けしばらく進むと、色とりどりの美しい花の咲き誇る小さな町へとやってきた。どうやらここがソノオタウンという町らしい。それにしてもなんて美しい町なんだろう。草花を撫でる優しいそよ風に全身を撫でられるだけで、疲労という名の気が浄化されるかのようだ。そう感じているのはオレだけではないようで、付近に見られる小さな人間の子供とポケモンや、花束を携えた人間のお姉さんも幸せ溢れる生き生きとした表情を見せている。そんなこの町に癒しを感じていたオレは、ツバサに軽く背中を叩かれ我に返った。 「お前ホントすごい洞察力だったな。まさに天才策士って感じでかっこよかったぜ! どうやったらオレもそんなふうになれるんだ?」 称賛と同時に質問をぶつける彼の瞳は、咲き誇る草花に負けず劣らず純粋で澄んだ美しさを誇っていた。そんな彼の質問にオレはふっと笑いだけ返すと、尾から冷気を吹き出し宙へと舞い上がる。“待てよ”と叫び、届くはずもないオレへ向けて手を伸ばすツバサ。そんな彼を差し置き、オレは穏やかな陽光照りつける雲一つない青き大海へと身を乗り出していく。 今回の戦いにおいて見せたオレの力。もちろんこれは生まれつき備わったものなんかじゃない。最期までオレを孫のように可愛がってくれたジーランス爺さんのおかげだ。今飛行に使っているこの技の応用だって原案者は爺さんなんだから。 “これからもずーっと応援してますからね、ルーク様” ああ、もちろんお前のことだって忘れちゃいない。オレはガレスを倒す。そしてこの戦いを必ず終わらせる。それまで、オレは負けるわけにはいかないんだ。例え“どんな手を使って”でも…… 「見ててくれリュワン。お前との約束、必ず果たしてみせる」 青空と言う名の大海を行く一匹のカイリューに、オレは一人誓いを立てた。 ---- [[ポケットモンスタークロススピリット 第27話「狐の嫁入り」]] ---- ''あとがき'' 今回のお話は前回の続きで、戦いの終わりまでを描く大戦の後編のようなお話でした。前回に比べると割と楽に書き進めることができ、完全に起承転結とは言えないものの、今回はそれを強く意識し人称を分けつつ四つに区切って書くようにしました。 前回は策略重視でかなりアクションを省いていたので、飽きがこないようテイストを変えるべく起承転結の転に当たるこの回の山場では、フーディンとグラエナのアクションに力を入れてみましたが楽しんでいただけましたでしょうか? また、前回に引き続き今回もキングドラに焦点を当てたので、彼の持つ才や抱く思いを味わっていただけましたら嬉しく思います。今後も少しでも多くの方にお楽しみいただけるよう精一杯執筆頑張ります! ここまで読んでくださりありがとうございました。 よろしければ誤字脱字の報告や、感想、アドバイスを頂きたいです。 #pcomment(above)