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ポケットモンスタークロススピリット 第25話「策略合戦」 の変更点


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作者 [[クロス]]
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 ポケットモンスタークロススピリット、[[前回>ポケットモンスタークロススピリット 第24話「ゼロ」]]までは……

 生物を汚染し、凶暴化させる謎の物質ゾーン。そのゾーンでポケモンを汚染する浮遊島の施設へとやってきたツバサは、そこで古びた書物“Professor Cloud System”を発見する。そこにはゾーン誕生にまつわる日記が記されていた。
 その後さらに情報を集めようとルカリオと共に移動したツバサは、突如不気味な石像の襲撃を受けるも変身してこれを撃破。しかし、程無くして忽然と姿を現したクロススピリットの力を得た少年リトと融合したメタモンの強襲を受け、絶体絶命の窮地に立たされてしまう。
 そこに現れたのはかつて雪山で遭遇した謎の人物クロナ、そしてグレイグ。そのパートナーであるムウマージ、ハッサムの協力によりメタモンの脅威から逃れたツバサは、クロナの指示によりフーディンと共に施設の動力炉へと移動。これを破壊する。
 破壊直後自爆装置が作動したことでツバサは再び窮地に立たされるも、フーディンが潜在能力を解放し、重力の変化を無効化させる“ねんりき”と“サイコキネシス”の合体技“クレセリアの鎧”を発動。脱出時には変身が強制解除されてしまったものの、白銀の翼を持つ巨大なポケモンに救われ、彼らは命からがら脱出に成功するのだった。


第25話 「策略合戦」


「う、ううっ……」

「ツバサ……ツバサ……! よかった。やっと目を覚ましてくれて……」

 ここはどこだろう。テントの中みたいだが……。いつの間にか横になっていたオレの目の前では、メガニウムが堰を切ったように涙を流し、頬を擦り寄せてくる。その瞬間鼻孔を甘い香りが貫き、それをきっかけに茫然としていた意識が戻ってきた。そして続けざまに感じたもの、それは熱。頬に垂れてきた涙のゆえんのようだ。無論これはオレのではない。今無言で頬を擦り寄せてくるメガニウム、彼女から零れ落ちたものだ。その涙は頬に一筋の線を描くと同時に、曖昧になっていた今とこれまでに繋がる記憶の橋となる。そうだ、オレは浮遊島の施設を破壊して、その後の自爆装置の爆発から逃れた時に意識を失ったんだったな。

「二日間も起きなくて……心配したんだよ……」

「そうだったのか……。ごめんなメガニウム。もう大丈夫だよ」

 二日間も目を覚まさない重症だったとは……。当然ながら目を覚まさないとあれば食事も取ることはできない。その中でこうしてひ弱な人間のオレが目を覚ますことができたのは、他でもないメガニウムのおかげだろう。彼女が自身の持つ癒しの力で付きっきりで看病してくれたに違いない。
 ようやく涙は収まったものの、未だ瞳を潤ませた状態でこれまでの不安を訴えてくるメガニウム。その様子を見ていたたまれなくなったオレは、離れた彼女の頬を無言で抱き寄せていく。体格の違いにより飛びかかれないことを自覚しているであろう彼女に謝罪の念を込めながら、その頭だけでもと優しく抱きしめる。
 ああ、なんて幸せな時間だろうか。連戦が続き、戦いのことばかりが頭を埋め尽くしていたオレにとって、かけがえのない仲間のくれる愛情を肌で、心で感じることができる今と言うこの瞬間ほど幸せな時間はない。その幸せに包まれたオレは、安堵により再び意識を手放していく。ごめんな、まだ体の重りは取れていないみたいだ。





「あ、キングドラ!」

「ツバサの様子は?」

「やっと目を覚ましてくれたよ。でもまだ完治はしてないから寝ちゃった」

 ここはシンオウ地方南部の山間。浮遊島を爆破したツバサとフーディンを助けたのは、伝説の宝石の一つ――ルギアシルバーの適合者リンと魂を融合させたルギアであり、二人を乗せた彼がやってきたのは他の仲間も集うシンオウの地だった。そこに集結したのはホウエン地方の宝石を集めていた者たちと、ジョウト地方の宝石を集めていた者たち。人とポケモンを合わせその数総勢22。新たな地へと舞台を変えたオレたちの戦いは、いよいよ山場を迎えつつあった。
 テントを後にしたメガニウムは涙を払うように首を左右に振り、外で待機していたオレにツバサの様子を報告する。ツバサが眠っている間に周辺を見て回っていたオレは今後について思案していると、風を切る僅かな羽音を聞きつけ視線を空へと移す。
 するとそこへ現れたのは紅い膜で覆われた瞳が特徴的なポケモン――フライゴン。女好きでおちゃらけた態度の多い彼にしては珍しく慌てた様子で口を開いた。

「大変だよ! 変な石像と、ゾーンポケモンと思われる大軍が迫っている!」

 焦る者、怒鳴る者、意気込む者とその報告を受けた一同の様子は三者三様だが、共通してがやがやと騒ぎ立て始めた。そんな中オレは無言で中央に歩み出る。くるりと先端が巻かれた尾から氷点下の冷気を吹き出し、足元に氷の台を作るようにして高く飛び上がり注目を集めたオレはゆっくりと口を開いた。

「安心しろ。想定の範囲内だ。敵はどちらから来ている?」

「南西の山間を進んでるよ。もうすぐここまで来る!」

「了解。今から作戦を指示する故、各自それに従って行動してくれ」

 オレが焦る様子もなく淡々と言葉を並べることに、一同の唖然とした視線が集まる。その中で一匹、オレの言葉を待たずして口を開いた者がいた。メンバー唯一の伝説のポケモンであり、ツバサとフーディンを助けたルギアである。高所へ上がったオレさえも見下ろす巨体は威厳に満ちており、並のポケモンであれば一目で逃げ出してしまうことだろう。

「私が迎撃しよう。ギャース! と叫べば近寄ることもできまい。近寄れば敵はドギュグルバーだ」

「意味分かんないわよ!」

「たぶん爆発の効果音だ……」

 威厳ある表情を崩さぬまま美しい白銀の翼をオレに向け、威風堂々と話すルギア。しかしその言葉遣いにエネコロロからは鋭いツッコミが入り、彼女の脇にいたヘルガーは呆れた様子でルギアの言葉に注釈を付け加える。
 一方のルギアは何故かしてやったりとばかりに胸を張り、威風堂々たる態度を崩さない。どうやら彼には羞恥心というものがないようだ。内心苦笑しつつもオレは場をわきまえて水に流し、再び話の筋を戻すべく言葉を返す。

「あんたは確かに強いだろう。だが、敵を侮っては駄目だ。指示に従ってもらう」

「む……。まあいい。ここで仲間同士争っていてはかっこよくないからな」

 言葉を荒げるでもなく淡々と言い放ったオレの態度に、ルギアは一瞬顔をしかめるも、自らのポリシーに従って事を荒げぬよう言葉を慎む。大方彼はいつ何時もかっこよくあるのがポリシーなのだろう。そのかっこよさというのが一般的にイメージされるそれと同一のものかは定かではないが、一言で静まる様子から彼なりに自身の持つ美学を大事にしているのは間違いない。
 そんなルギアの紳士的とも取れる行動には感謝したいところだが、突然指揮を取ろうとするオレの振る舞いに不満を抱く者も少なからずいるようで、特に初対面となるジョウト勢は皆揃って表情で不満を露わにしていた。しかしながら事態は急を要し、全員に気を配っている時間はないと考えたオレは仲間たちに一瞥を加えるも特に謝罪するでもなく、すぐさま作戦の指示に入る。

「ボーマンダ。フライゴン。お前たちは空中で敵を警戒し斥候を排除。グラエナは戦線とベースの連絡役を務めてくれ」

 ボーマンダとフライゴンが持つ飛行能力を買い、空中から襲いかかる敵への対応を指示。ちなみに斥候とは敵の情報を探るため派遣される兵士のことである。グラエナはその脚力を見込み、前線とテントを張って休憩していたここベースキャンプとの連絡役に抜擢。いずれも指示に異論はないようで、ボーマンダとフライゴンは即座にパートナーである少年少女ショウタとヒトミと共に変身し、大空へと飛び立っていく。

「ルギア、キュウコンは共に谷間で待機し、敵を正面から迎え討て。ただし前進しては駄目だ。ルギアは咆哮を、キュウコンは幻影を用いるなどして相手を食い止めてほしい」

「ちょっと待ちなさいよ。狐はまだ幼いのよ? それをたった二匹でどうするつもり?」

「戦闘力は問題じゃない。幻影を使えるのが大事なんだ。それでルギアをサポートしてもらう」

 大軍を相手にたった二匹で正面を守る、それもかたやまだ幼く戦闘力に不安の残るキュウコンが担当することにエネコロロが疑問を提示してきた。当然その反論を予測できていたオレは、キュウコンの戦闘力ではなく種族上持つ特殊能力を買っていると返答を返す。そしてさらにこう付け加えた。

「あとはルギアが何とかしてくれるだろう。ギャースと咆えればドギュグルバー……だろ?」

「ああ、もちろんだ。私のかっこよさが引き立つなかなか良い作戦を考えるじゃないか。まあ、私に任せたまえ。キランッ!」

「いちいち効果音がうるさいわよ!」

「ルギ様、マスターかっこいい!」

「か、かなり個性的な人たちだね……」

 ルギア、そしてそのパートナーである少女リンの個性溢れる行動にエネコロロがツッコミ、メガニウムが苦笑する。ポケモンとトレーナーは似るものなのか、ルギアの振る舞いに一人興奮するリンという少女は、ツバサが目を覚ますまでに会話した時の淡々と話す大人びた振る舞いを忘れ周囲が見えていないようだ。
何はともあれ、ルギアの性格は推察通りだったようで、オレの言葉は彼の士気を盛り立てることに成功。その頼れる高い戦闘力からいち早く彼の性格を分析する必要があると優先度を高めていたことは間違っていなかったようだ。
 そこにふっと笑いが漏れる声が耳に入ったオレは横を見やると、端から見ていたヘルガーとルカリオが互いの顔を同時に見やっていた。彼らのことだ、オレの言葉がルギアの士気を盛り立てるためのものであったことに気付いたのだろう。

「ヘルガー、バクフーンは西へ移動し火の手を上げろ。山の木を使ってもらって構わない」

「承知した」

「ちょっと待ってくれ。そんなことしたら山火事として大事に発展しかねないぞ」

 単に迎撃するに留まらず、山の緑を燃料に火計を仕掛けるように言うオレの指示に、バクフーンが異論を唱える。おそらく山火事を起こせば世間にゾーンの脅威を悟られ、社会は大混乱に陥ってしまうと考えているのだろう。他の者についてまでは認識していないが、確かにオレの中で今までゾーンポケモンとの戦いが一般人の目の前で行われたことはない。
 一方焦るバクフーンに対し、最低限の言葉だけで承諾の意を示したヘルガー。おそらく彼はオレの意図が分かっているのだろうと横目で見やると、当然だとでも言うかのような自信に満ちた瞳で彼が合図を送ってきた。

「トクサネシティがガレスの攻撃で破壊されている。町一つが消えているんだ。もうある程度世間に知られていることは間違いないだろう。それを承知で奴らも動いている。ならば今更世間の目を気にする必要はない」

「だが、火事を起こせば山のポケモンたちが……!」

「敵は100体を超える大軍で迫っている。大半のポケモンはその異様な気配を感じ逃げているはずだ。そうでなければ奴らに捕まりゾーンで汚染されている。それらを倒し、汚染から救うのがオレたちの役目だ。異論はないな?」

 後々を思い、完全に納得できずにいるバクフーンだが、なるべく論理的に説得しようと話したオレの言葉を前に沈黙してしまう。例え山一つ燃えようとも、ポケモンたちが化け物と化し、ただ暴れるだけの存在となってしまえば決して生きているとは言えないのだ。あくまで人とポケモンの命を最優先とするオレの信念は揺るがない。
 その気持ちが通じたのか、迷いを振り払うように首を左右へ振り、一度縦に振って承諾の意を示すバクフーン。それを受け取るように同じく頷いたオレは、残る仲間たちの指示に移る。

「リングマ、エネコロロ、カメックスは南へ向かってくれ。各自己の持てる技を出しつくし、大勢の者が潜んでいるように見せかけるんだ。山での戦いは水さえ断たれなければ高所へいる者が有利となる。敵を背後に回り込ませるな」

「高所を取ったら逆落とし。これも&ruby(さだめ){運命};か……」

「メモメモっと……。分かりました。遺跡さん、頑張りましょう!」

「遺跡じゃねえよ!」

 指示を受けそれぞれ意気込む中、オレの指示を紙にメモしたのはカメックスのパートナーであるアオガミ。彼はジョウト勢で唯一まだ宝石を手にしておらず、この二日間の行動から少しでも自分にできることはないかと探し行動する頑張りやという印象がついている。やや幼さの残る顔立ちから周りの者より年下であると思われるが、真面目で丁寧な言葉遣いは良い意味で年齢不相応だ。そんな彼が一人シリアスな雰囲気を醸し出しているアルフを遺跡呼ばわりするため、間髪を入れずにアルフがツッコミを入れる。ポケモン界にはジョウト地方にアルフの遺跡という場所があり、それと彼の名前をかけてすっかりネタにされてしまっているようだ。

「リングマウンテン、オイラも精一杯頑張るよ」

「普通にリングマさんと言わんか! っていうかマ被ってるし!」

「さんづけならぬ山づけね……。はぁ、なんであたしのとこだけ馬鹿ばっかなのよ……」

 一方ポケモンたちのほうも、トレーナーに同じくカメックスが一歩リードのようだ。そのやり取りにすっかり呆れ顔のエネコロロ。作戦に異論はないようだが、本当に大丈夫だろうか。一抹の不安がよぎるものの、仲間を信じなくては作戦が成り立たない。しかしながら不安の表情を見せるのは指揮官として好ましくないと考えたオレは、真剣な表情を崩さないよう意識する。

「グラエナを通して指示は伝える。各自それまで戦闘を続けてほしい」

 作戦の指示も大詰めを迎え、まだ指示を与えていないメンバーは、フーディン、ルカリオ、メガニウムの三体だ。しかしオレは彼らに目をくれることもなく出撃の指示を下す。各々が役割を遂行すべく急ぎ持ち場へ向かいベースキャンプが静けさを取り戻すと、やはりと言うべきかメガニウムが不満を表に出して抗議を始める。

「ねえ、なんで私にだけ指示がないの? 私だって戦えるよ!」

「別に戦えないなんて思っちゃいない。お前はいざと言う時のために体力を温存してくれればいい。フーディンとルカリオもツバサが回復するまでは戦線に出るんじゃないぞ」

「分かってるっつの。ったく、鈍っちまうぜ」

 メガニウムをなだめて説得し、フーディンとルカリオにも釘を刺す。明確に役割が与えられていないことに劣等感を感じてしまったのか、メガニウムは無言でテント内にて休んでいるツバサの下へと去っていく。今はこれでいい。この戦いの大手柄を立てるのは他でもない彼女なのだから。
 ようやく指示を終えたオレは一つ溜め息をつき、天を見上げる。青い空、白い雲、平穏で何事もなさそうな時間。その中で再びオレの戦いは始まる。オレは負けるわけにはいかない。ガレスを倒し、あいつの想いに報いる。その時まで……





 ベースキャンプから1kmほど離れ、キングドラの指示通り山間の西へとやってきたヘルガーと、伝説の宝石を使いユウキの魂と一体化したバクフーン。辺り一面には刺々しい葉のついた松の木が生い茂っている。木を燃料にして火計を行うには相応の火力がいるが、二体は炎タイプのポケモンだ。口から1000℃を超える炎を出すなど造作もない。さらに、予想通り計略を後押ししてくれる北風も吹いている。これにはバクフーンが感嘆の声を上げるも、ヘルガーは策士なら当然のことだと冷静に切り返す。
 そんな彼らの下へ飛び込んできたのは山に木霊する雄叫びだ。早速敵の登場かと目つきを鋭くさせた彼らは即座に作戦を実行すべく崖際に足を運び、目を凝らす。するとそこには、青い卵のような形をした頭部が特徴的な岩タイプのポケモン――ラムパルド、水・ノーマルタイプのビーダルなど、予想通り全く種族の異なるポケモンたちがこぞって谷間を進んでいた。連絡にあったゾーンポケモンと見て間違いない。彼らがそのまま進めばキングドラたちのいるベースキャンプへ辿り着くのにそう時間はかからないだろう。

「今だな」

「ああ。いくぜ! “かえんほうしゃ”」

 ヘルガーの合図に背中と口から爆炎を噴き出し応えるバクフーン。その岩をも溶かす灼熱の業火は爆音と共に周囲の松へと燃え移り、瞬く間に山火事を起こしてしまう。これには進行していた敵も肝を冷やし、何事かと慌てふためく。
 それを密かに眺めていたヘルガーは冷たい笑みを浮かべると、猛火を浴び、燃え盛る火柱と化した複数の松の木を“アイアンテール”の技で薙ぎ倒す。するとどうなるか、もはや言うまでもないだろう。無数の火柱が先を競うように転がり落ち、谷間のゾーンポケモンに襲い掛かる。松が絶壁を転がる轟音に続いたのは、谷間に木霊する悲鳴だった。



 一方その頃、谷間の南へと来ていたエネコロロ、リングマ、カメックス、アオガミ、そしてグラエナ。無論リングマが宝石を用い、パートナーのアルフと変身しているのは言うまでもない。敵の悲鳴から早速ヘルガーらが功績を立てたことを知った彼らは、負けてはいられないと意気込む。まずアオガミがキングドラの指示を確認すべくメモ用紙を取り出しそれを読み上げる。彼の音読にしばし耳を傾けたエネコロロたちは、その終了と同時に行動を開始。
 ヘルガーらの計略を逃れ進行を続けるゾーンポケモンへ真っ先に攻撃を仕掛けたのはカメックス。背中の甲羅より突き出た二本の噴射口から“みずでっぽう”を繰り出す。すると敵はびしょ濡れになり、足場はすっかり水浸し。
 そこへ続けざまにエネコロロが放ったのは電気タイプの技“10まんボルト”。全身から高圧電流を撃ち放ち、眩い閃光がうねるように谷間へと落下していく。地を削り、砂を巻き上げながら敵に襲い掛かるそれは、カメックスの攻撃で濡れた体に効果抜群だ。
 さらに駄目押しでリングマが“ばかぢから”を発動。崖際に立つや否や、筋肉の塊のような太い腕を地面へ振り下ろし、その振動で崖の岩を削り落とす。するとあたかも雪崩のように溢れ出した岩は、谷間の敵へと一直線に転がっていく。

「Oh~ここまでやっちゃうか……。えぐいなぁ」

 計略の実行役ではないグラエナは傍からそれをうかがい率直な感想を口にする。

「何言ってんのよ。こんなんで終わるわけないでしょ?」

「ちょ、マジかよ! ユーアーサディスト! ……アウチッ!」

「ふざけてんじゃないわよ! いいからあんたはとっと報告に行く!」

「アイサー!」

 エネコロロにどつかれたグラエナは、急かされてベースキャンプへと報告に戻る。途中後ろを振り返ると、谷間へ向けて口から敵を凍結させる冷気の光線“れいとうビーム”を撃ち放つエネコロロの姿が目に映る。その表情は至って真剣そのものだ。
 グラエナはやれやれと一人苦笑いの表情を浮かべると、風のように軽い身のこなしで一度戦地を後にした。



 出撃後しばらくして後、ベースキャンプに戻ったグラエナから戦況を聞いたオレは予想通りの結果に一瞬満足げな表情を浮かべるも、すべて撃破はしきれないだろうと考え表情を戻す。尾から冷気を吹き出し足元に氷の台を作り近辺を守備しているキュウコンたちの様子を伺う。
 するとそこには計略を逃れたゾーンポケモンとおぼしき群れと、キュウコンの作り出したゴーストタイプのポケモンの形をした幻影、そして後ろ姿からも威厳漂うルギアの姿があった。さらに上空を見上げると、飛行能力を持つ敵をこれでもかと忙しなく追いかけ回すボーマンダとフライゴンの姿もある。

「先へと進みたくばこのかっこいい私を倒してみせよ。ギャース!」

 作戦通り咆哮などの威圧で敵を寄せつけないルギア。キュウコンの生み出した幻影はあくまで戦闘力を持たないため、それを気付かせてはならない。当然それを知るルギアは伝説のポケモンならではの迫力を見せ、期待通りの成果を上げている。言葉遣いに威圧は感じられないものの、その巨体は敵を圧倒するのに好都合であると言えるだろう。

「タチサレタチサレ。ココカラタチサレ」

「どうした? 退かぬのなら撃つぞ。見るがいい! 強く! 正しく! 美しく! そして何よりもかっこいい! そんな私の“エアロブラスト”を! いくぞ、キュイイィン!!」

 ……ここにきてオレがキュウコンの幻影が醸し出す恐怖感に救われたと思ったのは言うまでもない。そんな彼女の努力もあり、敵は進むに進めず退却を決意。ゾーンにより破壊本能だけを残されたかのようなポケモンたちだが、破壊を続けるための体を無意味に壊すことはできないと考えているのだろうか。いや、もしかするとガレスやリトあたりがゾーンポケモンをある程度コントロールする力を得たのかもしれない。いずれにせよ推測の域を出ないため地上へと戻り、グラエナにこう伝言を託す。

「敵はまもなく完全に退却するだろう。追撃はせず、退却の確認後速やかに撤退するよう伝えてくれ」

「イエッサー!」

 グラエナに指示を終えたオレは彼が立ち去るのを確認すると、近辺を守備する者たちへベースキャンプに戻るよう伝えるべく“れいとうビーム”で宙に氷の道を作り飛び上がった。



 グラエナが再び戦地へと戻ると、計略を実行していた二組は既に合流しており、攻撃によりゾーンを消されたポケモンが横たわる谷間で彼の到着を待ちわびていた。そんな彼らにグラエナがキングドラの指示を伝えようとすると、それより先にリングマが口を開く。

「ちょうど良いところに来た。これから追撃をかけ、俺様たちの力で敵を壊滅させようとしていたところだ。お前も攻撃に加わってくれ」

「Hey! それなんだが、キングドラは敵の退却を確認後速やかにベースキャンプに撤退してくれって言ってたぜ」

「なんだって!? いったい何故この好機をみすみす逃さねばならんのだ。一匹でも多くのゾーンポケモンを捕らえてこそ大勝利よ。ガハハ! 俺様についてこい!」

 リングマの意見を聞いたグラエナは、キングドラの指示を伝達。ところがリングマはその指示とは正反対である自身の意見を押し通し、その場にいた仲間へ追撃を呼び掛ける。ここまですべて作戦通りであり、ほぼ勝利が確定した今こそ攻めの好機とも言えるだろう。しかし問題は、これを皆で勝ち得た絶好の機会と捉えるか、キングドラの作戦による勝利と捉えるかにあった。
 前者と考えたアオガミとカメックスはリングマの意見を推し、これまで地形から風向きまですべて読み尽したキングドラの知力に底知れぬものを感じていたバクフーンは彼の指示に従うべきと提案。エネコロロは横目でヘルガーの様子を伺うばかりで、答えを出せず仕舞いでいるようだ。その見られているヘルガーはと言うと、皆が静まるまで沈黙を保っていたが、それが確認され初めて口を開いた。

「私もキングドラの意図は分からんが、今回の指揮は奴が取っている。追撃を止める気はないが……リングマ、お前が責任を取れるのか?」

 落ち着いた声音でリングマへと語りかけるヘルガー。そんな彼に僅かにたじろぎながらももちろんだとリングマが返したため、ヘルガーは追撃に加わることを宣言。それと同時にエネコロロも追撃賛成派へと加わり、少しでも数は多いほうがいいだろうということで渋々グラエナとバクフーンも加わることに。
 そうと決まれば一刻も早く敵に追いつこうと考えた一同は、まだそう遠くへは行っていないであろう敵へ向けて駆け出した。



 それから数分の後、谷間を抜ける直前で見えてきたのは退却する敵集団の後ろ姿だ。何体かこちらに気付いたもののひたすらに逃げようとするその姿を見たリングマは、地を振るわせるほどの雄叫びを上げ猛攻を指示。勢いに乗り、敵を壊滅させようとしたその時だ。

「きゃっ! いったい何なの!?」

「Hey! 外に出られない。閉じ込められたみたいだ。それに何だよ! いつの間にか地面に変な模様が!」

「これは、陰陽太極図!? 周りを見ろ。あの石像どもが連携して結界を張っているんだ!」

 ヘルガーの声を受け一同が周囲を見回すと、いつの間にか騎士のような形をした八体の石像が槍を手に持ち立っているではないか。この石像、実は浮遊島の施設内でツバサたちの前に立ち塞がったのと同じ型のものである。それが円を描くように立ち、白黒の勾玉が混ざり合うような模様――陰陽太極図を地面に浮かび上がらせ、内部にいるヘルガーたちを閉じ込めているのだ。

「ククク、ルカリオがかからなかったのは残念だが……。まあいいだろう」

「貴様は……リト!?」

 そこへ現れたのは、ゾーンの力により変身能力――クロススピリットを得た少年リト。傍らにはパートナーのメタモンもいる。この度ゾーンポケモンの集団を差し向けてきた張本人は彼らであり、追撃を警戒して彼らが用意した罠にリングマたちは飛びこんでしまったのだ。
 目を見開き焦りを見せるヘルガーの表情に一瞬笑みを溢したリトは両腕を前に突き出すと、曲線を描くように手を動かす不可解な動きを開始。すると八体の石像が同時に動き出し、手にした槍の切っ先を囲まれたリングマたちへと向ける。
 刹那、石像の槍から高圧電流が放たれ、瞬く間にリングマたちへと到達。その攻撃速度に防衛本能で反応したカメックスの“まもる”により一時的に攻撃を凌ぐことに成功したが、結界の外から攻撃される以上反撃の余地がない。さらに唯一変身能力を持たずに戦地へときたアオガミの存在は大きなハンデとなっており、彼を守るため攻撃に対し回避の行動は許されない状況となっている。

「人間相手に電撃だなんて酷いぞ!」

「分かってないね君は。痛みを感じる暇もなく消してあげようというこの僕の紳士的な振る舞いを!」

「なんだとー!」

「フフッ、いいよ。僕が憎らしいんだろう? もっと憎むがいいさ。それが僕の力になる」

「(相手の憎しみが力に……だと? いったいどういうことだ)」

 パートナーのアオガミにさえ容赦のない攻撃を仕掛けるリトの行動にカメックスが憤怒の感情をぶつけるも、リトは涼しい顔をしたまま髪の毛を整え余裕の表情を崩さない。そんな彼の言葉に引っ掛かるものを感じたヘルガーは訝しげな表情で彼を見つめる。
 果たして“相手の憎しみが力になる”その言葉が意味することは何か。そして窮地に立たされた彼らは結界を破り無事帰還することができるのだろうか……





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[[ポケットモンスタークロススピリット 第26話「海竜の誓い」]]
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''あとがき''
今回のお話は主人公勢と敵勢による集団戦のお話でした。事実上初登場となるキャラクターも多く、その個性を引き出しつつ物語を進めるのに苦労しましたが、皆さんに楽しんでいただくことができたのならば作者として嬉しく思います。
扱うキャラクターが多かったので台詞と地の文のバランスを保つのが大変でしたが、台詞は個性を出すために必要な最低限に抑え、展開もそのポケモンの種族ならではの行動ができるよう連携を考えて動かすことができたのではないかと思っています。
キングドラの作戦通りに進み優勢かと思われた主人公勢が、リトの計略により形勢が逆転するところで終了したこの回。次回はこの続きからになりますので、敵味方キャラの策略が交錯し、いつもと異なる展開を見せるお話にぜひご期待ください。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
よろしければ誤字脱字の報告や、感想、アドバイスを頂きたいです。
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