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ポケットモンスタークロススピリット 第24話「ゼロ」 の変更点


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作者 [[クロス]]
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 ポケットモンスタークロススピリット、[[前回>ポケットモンスタークロススピリット 第23話「Professor Cloud System」]]までは……

 人やポケモンを汚染し、凶暴化させる謎の物質ゾーンから生まれた究極生命体ガレスを倒すこと。各地に散らばる伝説の宝石を集め、シンオウ地方にあるテンガン山にこれを納めること。これらを目的に旅を続けるツバサ一行は、シンオウ行きの船に乗るため、ホウエン地方北東にある大島を旅していた。
 途中ゾーンの力で変身能力――クロススピリットの力を得てメタモンと変身したリトの策にかかるも何とかこれを撃退。リトはツバサの仲間であるフーディンを見て"PCS&ruby(ダブルゼロ){00};"という謎の言葉を残し去っていった。
 しかし安心したのも束の間、船にのるための資金集めをするべく別行動を取っていた仲間のショウタらと再会した一行は、街のポケモンが誘拐され、怪しい飛行装置に運ばれているという事件の情報を聞きつける。
 この事件を解決すべく飛行装置に乗り込んだツバサとフーディンは、突如動き出した飛行装置の上でゾーンポケモンに取り囲まれるも、ジョウト地方で伝説の宝石を集めていたアルフとリングマ、そして別行動を取っていたユウキとバクフーンと合流しこれを撃破。飛行装置は見慣れぬ浮遊島へと到着し、ツバサとそのポケモンたちは浮遊島の建物を調査することに。そこでツバサはゾーン開発者の日記「Professor Cloud System」を発見する。その後さらに調査を進めていたツバサは、ゾーンを燃料に動く謎の石像と遭遇。ルカリオと変身しこれを撃破するのだった。


第24話 「ゼロ」


「(なんとか片付いたな……ううっ……)」

「(大丈夫か? 扉が開き次第変身を解こう。もう少しの辛抱だ)」

 連戦により著しく体力を消耗していたツバサにとって、石像が体内に宿していたゾーンを浴びるのはかなり堪えるものだったようだ。私は彼の様子に気を配りながら、扉が開くのを待つ。戦闘開始時に自動で閉じたのだから、戦闘の終了と共に開くはずだ。仕組みが分からないながらそう踏んでいた私は、部屋に漂う焦げの臭いに少々咳き込みながら四肢に纏っていた波導の蒼炎を消去する。一切の波導の使用を断つことで、少しでもツバサの体力の消耗は抑制できるはずだ。
 それから一分ほど経つも、閉まった扉は一向に開く気配がない。これはどうしたものか。何か操作が必要と考えられるが、扉の側には開閉装置と思われるものも見当たらない。

「お前たち、そこにいるんだろう!? そちらから扉を開けられないか!」

 私たちの方からは開く手段がないと判断し、扉の向こうで待機しているであろう仲間へ向けて声を張り上げる。こちら側にないのであれば、向こう側に開くための装置があると考えられるからだ。
 ところがどうしたことだろう。扉が開かないどころか、仲間の応答もない。焦りを覚えた私はすぐに扉を叩いて声をかけるも結果は同じ。嫌な予感がする……。そう感じたのは私だけではないようで、ツバサもまた危機感を覚えたことで停止していた波導使用の許可が下りた。彼のために避けていたが、こうなれば技を使用して扉を破壊するよりない。そう考えて扉から距離を置き、再度四肢に波導の蒼炎を纏おうとしたその時だ。

「逃がしはせんぞ!」

 頭上から紫色の何かが声を張り上げ落下してくるではないか。敵は間近に迫っており、波導の使用を停止していた私が回避行動を取ろうとした頃には時すでに遅し。
 馬鹿な、戦闘中に感じた波導は三体の石像のみで、奴らはすべて完全に破壊している。それに加え、他の部屋に繋がる扉は一つしかなく、その扉は今現在閉まっているのだ。なのに、いったいどこから現れた……

「ククッ、また会ったなルカリオ」

「(また会った……だと……。するとこいつは……メタモンか!?)」

 私の両脚に圧し掛かり、頭部の側面から伸びるハサミのような二つの腕で腹部と左腕を押さえつけてきたのは悪タイプと毒タイプを併せ持つドラピオンという生物に変身したメタモンだ。奴はリトと言う人間と変身しており、身体の構成をあらゆる生物のそれに変形させる能力を持っている。その精度はほぼ完璧だ。
 そんなメタモンに拘束されたのだから、事態が急を要するのは言うまでもない。必死にもがこうとするも体はびくともせず、メタモンは刃のように鋭く長身の尾を振り上げ私の頭部を狙うべく切っ先を向けてくる。その尾はドラピオンと言う種族に見られるものではない。恐るべきことに、奴は通常メタモンと言う種族に見られる変身能力に止まらず、身体を部分的に変形させる能力を獲得しているようだ。現在奴の尾はハブネークと呼ばれる生物のものになっている。これも変身能力――クロススピリットによるものか。
 右上から襲いかかる怪しくきらめく刃を、私は上半身を左へ傾けることで間一髪回避するも、状況の不利に変化はない。敵の尾は冷たい金属の床に一撃で穴を開けており、あたかも水の中に手を入れるかの如し。緊張に歯を食いしばり、額から汗を垂らしながら上体を元に戻すと、メタモンは再び私の頭部を切り裂くべく尾を揺らめかせる。回避されぬよう"フェイント"の技の要領で見せかけと攻撃を織り交ぜてくるつもりだ。

「(今なら頭ががら空きだ。あそこを狙おう)」

 ツバサの指示を受けた私は、それに従い即座に拘束を免れている右腕を敵の顔面に向けると、手の平から青き波導の弾を撃ち放つ。1メートルにも満たない近距離から放たれたそれは発射後まもなく着弾し爆発するも、メタモンは焼け石に水とでも言うかのようにまったく痛がる様子もない。おかしい……。前の戦いから気にかかっていたが、奴はまるで痛みを感じていないようだ。初めメガニウムがまだチコリータだった頃に戦った際は、奴が痛みを感じていないような様子は見られなかったはず。すると、これはゾーンの力によるものか……

「(く……そ……体が……)」

「(大丈夫か!? もう少し耐えてくれ……!)」

 尻尾の攻撃は回避できても、下半身に圧しかかるメタモン本体の重みからくる痛みからは逃れようがない。一刻も早く体勢を整え、こいつを始末しなくては……
 だが、私の焦る気持ちとは裏腹に事態はますます深刻さを極めるばかり。メタモンは私の下半身へ重みをかけるのを怠らず、今にも頭を切り裂かんとばかりに狂気に歪んだ表情で尾を揺らめかせる。私はこのような時のためアーロン様と修行を積んできたのだ。こいつの好きになどさせてたまるか。

「くらえ!」

 メタモンが尾を振り下ろす直前に正確に切っ先で攻撃すべく尾の向きを整えるわずかな硬直を狙い、それを見計らって右手から"はどうだん"を発射。その後すぐに着弾した"はどうだん"は爆発してわずかに黒煙を上げる。先程は煙など出なかったはず。これは手応えありだ。

「フフフッ……さすがルカリオ。この状況でまだそこまでやれるか。リトが英雄と認めるだけのことはあるな」

 黒煙が消え去ると、メタモンの尾は体の構成のモデルとなっているドラピオンのそれへと戻り、ハブネークの刃のような尾ではなくなっていた。どうやらこいつの特殊能力で変形した部分は攻撃を受けると元に戻るようだ。もっとも、それは一時的なものであり、しばらく時間を置けばまた部位を限定した変形をするに違いない。つまり、まだまだ気の休まる状況ではないということだ。
 私の攻撃に痛みを感じるどころか、褒め言葉を漏らしながら口元をにやりとさせたメタモンは、ならばこれはどうだと言わんばかりに下半身への圧力を強めてきた。くっ、このままではまずい……。メタモンには聞こえていないが、私の心の中ではすでにツバサの痛みに叫ぶ声がこだましている。変身が解けるのももはや時間の問題だ。

「どうだ。さぞかし痛かろう。額から脂汗が出ているぞ。フフフ……降参しろ。我らの仲間にしてやるぞ?」

「誰が……貴様らの誘いなどに……ぐああっ……!」

 ツバサの声は私にしか聞こえていないものの、私に焦りが出ているのは既に見破られていたようだ。性悪くも徐々に私たちを痛めつけてきたメタモンの攻撃は、ついにツバサの許容量を超える痛みをもたらし、私たちの変身は意図に反して強制的に解除されてしまう。
 ツバサの体は拘束されている私の隣へと投げ出され、無防備な状態がさらけ出されてしまっている。今の私には技の使用もできず、彼を守ることは叶わない。メタモンは再び自身の尾を刃の如きハブネークの尾へと変形させると、かっと目を見開き狂気に顔を歪ませる。このままではツバサが……そんな……

「まずは貴様からだ。消えろ!」

「ツバサァァーー!!」

 ここでツバサがやられたらすべてが終わってしまう。既に仲間として強い信頼関係を築きつつある者を失うその恐怖から、私が自身の脳が揺れ動くほどの叫び声を上げたその時だ。
 突如稲妻の如き眩い閃光がメタモンを襲い、奴はその衝撃で宙へ放り投げられ壁へと激突し鈍い音を室内へ響かせる。いったい……何が起こったのだ……。私はすかさず閃光の光源を求めて視線を向けると、穴の開いた壁の前に瞳を青白く輝かせた紫色の浮遊生物と黒髪の女が立っていた。

「消えたくなければここを去れ!」

 こいつは……あの時の!? かつて雪山で遭遇した彼女たちは、恐るべき戦闘力でゾーンポケモンを一掃した者たちだ。その強さは未知数で、人間のクロナは陶器のようになめらかで白い肌と腰のあたりまで伸びた漆黒の髪を備えた美しい見た目とは裏腹に棒手裏剣を使いこなすことができる。その仲間であるムウマージもまた非常に強大な力を有している。強いことは間違いないのだが、それがどの程度か計り知れないところが恐ろしくもある存在と言えるだろう。そんな彼女たちとメタモンが対峙するのは恐らく初めてと思われる。その証拠として壁に埋もれた体を起こし、体勢を立て直したメタモンがこう呟いた。

「ほう……これは驚いた。まさかこの力を持つ者がまだ他にもいたとはな……」

「…………」

 この力……クロススピリットのことだろうか。波導が使用できず心を探ることができないためメタモンの言葉が何を意味しているのかは定かではない。しかし、奴はこの時点でムウマージらが持つ強大な力に気付いたようだ。
 そんなメタモンだが、まずは目的の一つを確実に達成すべくツバサへ向けてハサミのような腕から無数の白い針――"ミサイルばり"を繰り出してきた。戦闘不能に陥った者に攻撃とは下劣な……。幸い虫タイプの攻撃であるため、格闘タイプと鋼タイプを併せ持つ私にはほとんど効果がない。私とて残る体力は少ないが、ツバサが完全にやらせるよりは幾分いいだろう。そう考え、空を切り裂く針の前に仁王立ちしようと立ち上がろうとした時、何かが俊敏な動きで横を過ぎ去っていく。その正体は先程電撃を放ったムウマージ。技で敵の攻撃を相殺しようというのか。ならば何故遠距離からやらない? 攻撃は目前に迫っており、相殺するための技を放つ時間はない。
 ところがムウマージはその青白く輝かせた瞳を閉じ、口元を妖しく開くと棒立ちのまま"ミサイルばり"を全身に受けていくではないか。いや、違う。目を凝らして見ると攻撃は彼女に当たる直前ですべて消滅している。いったいこの技はなんだ……

「くっ……特殊能力か。しかも変身無しで発動するとは……」

 メタモンの察しでは、今のはムウマージの特殊能力によるものであるそうだ。そうだ、確か以前会った時も彼女の仲間であるハッサムという者が変身する前から光を屈折させて姿を透明にする能力を使用していたはず。すると彼らは変身無しで技とは異なる特別な能力を使用できることになる。ゾーンを連想させる青白い瞳と相まって、不気味さの際立ったその存在は恐怖の対象と見ずにはいられない。
 ムウマージに警戒心を抱いたのは当然私だけではないようで、メタモンは怒りで地団駄を踏みながら身体の構成を変える"へんしん"の技を使用。全身が刃物のように鋭利な体であることが特徴的な鋼・悪タイプの生物――キリキザンへと変身する。

「……ハッサム!」

 ゴーストタイプであるムウマージに有利なタイプを持つキリキザンへと姿を変え、攻勢に転じようとしたメタモン。ところが変身直後ムウマージが声を上げたと同時にメタモンは後頭部から再び壁へと打ちつけられてしまう。鈍い音と体が壁にめり込む様子からかなりの力で叩きつけられたのがわかる。今度はいったいなんだ……

「どこに行くつもりだ? ムウマージに手は出させぬぞ!」

 既にムウマージの仲間であるハッサムが透明化能力で姿を隠しながらメタモンのすぐ側まで接近していたようだ。この能力、私の波導を持ってすれば看破するのは難くないが、一般の者たちには非常に脅威と言えるだろう。不意打ちとも言うべき攻撃を受けたメタモンは壁にぶつかった際に閉じた目をかっと見開くと、そこから青白い光を放ち始める。今の攻撃で奴の闘争心がさらに掻き立てられたようで、波導を用いずとも怒りのオーラがひしひしと伝わってくるほどだ。そんなメタモンが反撃しようと刃の如き腕でハッサムを斬りつけようとしたその時だ。

「フンッ、俺に勝てると思ったのか?」

 一瞬鉄の臭いが鼻を横切ったかと思うと、一本の棒手裏剣が振り上げられたメタモンの腕に襲いかかり、奴はそれを回避すべく瞬時に腕を下ろす。そこに現れたのは棘のように鋭く立った赤い短髪の少年グレイグ。ハッサムの仲間だ。その登場に彼を殺気立った目付きで睨みつけたメタモンだが、この隙をハッサムは逃さなかった。敵が一瞬目を逸らした隙を見て、その顔面に弾丸の如きパンチ攻撃"バレットパンチ"を叩き込む。
 ところがやはりメタモンは痛みを感じていないようで、痛みにうめく声を上げるでもなくハッサムへと向き直り、頭部から突き出ている刃の如き角で串刺しにすべく頭を狙って頭突き攻撃"アイアンヘッド"を繰り出す。その攻撃は単なる"アイアンヘッド"とは格が違い、急所に当たればひとたまりもないだろう。だがハッサムには奴の挙動は想定済みだったのか、冷静な表情を崩さぬまま頭だけ逸らして攻撃を回避。切れ味の良い刃物が物を切るようなさくっという音と共にメタモンの頭が壁に突き刺さる。今が攻撃の時と見たハッサムは、頭が壁に突き刺さって隙をさらしているメタモンの腹部を何度も殴りつける。続けざまハサミのような手で頭を鷲掴みにすると、壁に突き刺さった頭を引き抜き、頭の角度を変えて何度も顔面を壁へと叩きつけていく。鈍い音が断続的に響くその攻撃はえげつないことこの上ないが、この戦いの厳しさとメタモンの脅威を十分に理解した的確な攻撃と言えるだろう。ハッサムは攻撃の最中背中の羽をせわしなく動かし体温を調節していることから、この攻撃はかなりの熱量を消費していると思われる。
 一方のメタモンもやられてばかりで終わるほど甘い奴ではない。"へんしん"の技を使用して四つの腕を持つ格闘タイプの生物――カイリキーへと姿を変えると、四つの腕で壁への激突を食い止める。それを見たハッサムは真顔のままメタモンの頬を目掛けて拳を打ちつけようとするもその腕は右腕、左腕と順にメタモンに掴まれてしまう。そこへ伸びきったハッサムの腕の関節を狙い、メタモンが残る二つの腕を振り下ろす。格闘タイプならではの力強さで関節を打たれてはその骨はひとたまりもないだろう。そのあまりに痛々しい光景に私は顔を歪めつつ、ムウマージに助けにいかないのかと尋ねるも、彼女は微塵も表情を変えることなく無言で戦いを見守るのみ。そんな彼女は突然音も無く動き出すと、私が攻撃で破壊しようとしていた壁をすり抜け、間もなくしてフーディンを連れて戻ってきた。

「おいおい、面白ぇことになってんじゃねえか。オレもまぜろよ!」

「馬鹿を言うな。ツバサは今この有様だぞ」

「そこのフーディン。この先に施設の動力炉がある。こいつを連れてそれを破壊し、自爆装置が作動したら"テレポート"を使って脱出しろ。奴は俺たちで片付ける。ポケモンたちをゾーンで汚染するこの忌々しい施設を灰にするぞ」

「はあ? いきなりなんだこの野郎。つーか最低限のことだけ言うなよ!」

 戦いにまざろうと勝手に意気込むフーディンを制止していると、ずっと黙りこんでいたクロナが突然口を開く。彼女の話によればここは我々のような生物をゾーンで汚染する施設のようで、彼女たちはそれを破壊すべくここへやってきたのだと言う。施設の役目さえ知らなかった私たちだが、その用途が分かれば破壊することに異論はない。クロナは私たちが変身無しでは技さえ使用できないことを見抜いているのか、フーディンにはツバサを連れて動力炉の破壊を、私には仲間を連れて施設を退去するよう指示を下す。
 フーディンの話によればヘルガーら他の仲間も既に扉の前で待機しているそうで、扉の頑丈さ故に音も技も通さなかったため連絡手段が途絶えてしまっていたそうだ。幸いムウマージにはゴーストタイプ特有の物体通過能力があり、それを使えば行き来できるのだと言う。ならば話は早い。一刻も早く施設を破壊し、ここから脱出するのだ。
 フーディンもとりあえず話は理解したようで、私の説得もあって渋々承諾。ツバサにはまだもう少し頑張ってもらうしかないが、彼ならばきっとやってくれるはずだ。そう信じ、私たちはそれぞれの役目を果たすべく動き出した。





 クロナから施設の破壊を依頼されたオレは、疲労困憊の状態でフーディンに背負われ施設の最深部を目指して移動する。体は鉛のように重いが、今はそれぞれができることをやらなければならない。ならばオレはそれに応えるのみ。
 冷たい足音が響き渡る100メートルほどの通路を進んでいくと、開けた場所へとやってきた。この施設では見慣れたメタリックな構造でできているそこは、中央に大黒柱のような何かが鎮座しており、他の通路や部屋に繋がるドアは見当たらない。どうやらここが探していた動力炉のようだ。

「おい、ついたぜ。あの柱をぶっ壊せばいいんだよな。変身できるか?」

「あ、ああ……もちろ」

「危ねえ!」

 フーディンの問いかけにオレが精一杯の声で応答しようとしたその時、突然彼はオレを放り投げてきた。まともに受け身も取れないままうつ伏せの体勢で床に叩きつけられたオレは激しい痛みに顔を歪めるも、ふとフーディンに目をやると青白い液体を浴びずぶ濡れになっているではないか。これは、まさかゾーン!? 天井から降ってきたのか!? あんなものを全身に浴びたら体が……

「な、なんだこれ……。気持ち悪ぃけど体に力が満ちてくる……。てっきり何かの罠なのかと……。ツバサ、悪かったな。大丈夫か?」

 ゾーンを浴びて何ともないのか……。それどころか体に力が満ちてくる……だと……? 馬鹿な。オレもルカリオもあれを浴びて激しい頭痛を起こしたほどだ。それも大した量でないにも関わらず。いったい、これはどういうことなんだ……。まさか、ホントにこいつは……

「おい、立てるか?」

「え? あ、うん……大丈夫だ」

 何馬鹿なことを考えているんだオレは。こいつは誰よりもオレの傍にいてくれる大切なパートナーで、強い繋がりを持つ仲間なんだ。そんな存在に疑いをかけるなど人としてやっていいことじゃない。オレはこいつのためにももっと頑張らないと。
 オレは選ばれし者なんかじゃない。でも、何に頼り切るでもなくこの自分自身の力でポケモンたちの役に立ちたいんだ。それこそオレがこの世界に来た意味。ポケモンたちと共にある意味なんだから。改めて意思を固めたオレは、ふらふらになりながらも立ち上がり、黄色のペンダント――サイコペンダントを握りしめた。オレにはフーディンがいる。絶対大丈夫だ。自分を安心させるようそう言い聞かせ、オレはペンダントの力でフーディンと融合する。

「変身!」





 一方その頃、メタモンの相手をハッサムからムウマージに切り替え対峙していたクロナとグレイグ。彼らはツバサ同様変身能力を持つ者たちだが、何故か変身しようという意思は見られない。そんな彼らだが、交代しながら戦えば変身せずともメタモンと互角に渡り合えるだけの力は持っている。何故なら彼らは変身無しで技とは異なる特殊な能力を発動できるからだ。
 ムウマージはハッサムと異なり接近戦を得意としていないため、距離を置きながら飛び道具系の技の撃ち合いに持ち込んでいた。メタモンもまたムウマージの攻撃に対抗すべく、様々なポケモンへと姿を変えては間合いに応じた戦い方を見せている。その動きには微塵の焦りも感じられない。彼らを足止めしている隙にツバサたちは動き出しており、戦闘の勝敗に関わらずメタモンとリトの敗北は決定的になりつつあるのだ。にもかかわらず一向に動じないその様子に疑問を抱いたグレイグは、いぶかしげな様子で口を開く。

「貴様らの敗北は決定的だ。なのに何故平然としている?」

「クックック……」

 グレイグの問いかけに薄気味悪い笑みをこぼしながら変身を解除するメタモン。そして現れたリトが彼の問いかけにこう答えた。

「もうここに用はない。今は一人でも邪魔な奴を消した方が得なんだ。動力炉の壁は特殊な作りになっていて"テレポート"でも脱出は不可能。動力炉を破壊したら自爆装置が作動し、彼らは消滅するよ。僕に盾突いた罰だ」

「なんだと……!? まずい。クロナ、俺はあいつを止めにいく」

「よせ。……もう遅い。ここでお前が死んだら……俺は……。撤退だ!」

 ツバサたちを止めに行くには時間がないと判断したクロナは、どこからともなく煙玉を取り出しそれを使用して姿をくらます。玉から噴き出す白煙が消え去った時には、既に彼らの姿はなかった。





 得意の"サイコカッター"で両手に持つスプーンを薄紫色の剣に変形し、それを使用して動力炉を攻撃。一振りで動力炉は爆発を起こしたため、"ひかりのかべ"で爆風から身を守り安堵の声を漏らしたのも束の間、直後けたたましい警告音がケンタロスの大群が移動するかの如く鳴り響く。どうやら動力炉が破壊されたことで危険因子を排除するため自爆装置が作動したみたいだ。へっ、ここまでは情報通りだな。あとは"テレポート"を使って脱出するだけだ。
 作戦の成功に口元をにやりとさせたオレは剣をスプーンへと戻し、さっそく瞬間移動技"テレポート"を使用。ところがどうなってやがる。体は建物の壁で止まり、外へ出れねえじゃねえか。

「(何やってんだツバサ! 外に出たら"リフレクター"で足場を作れば落ちねえだろうが!)」

「(そんなの分かってる! オレは躊躇なんかしてない!)」

「(なんだと!? じゃあこの壁……越えられねえってのか!)」

 くそ、いったいどうなってやがる。"テレポート"で脱出できるんじゃなかったのか? ここまですべてクロナの情報通りだっただけに、何故こんな大事なところで行き詰まるのか理解できねえ。ちくしょうあの女、さてはハメやがったな!?
 誤報か陰謀か。"テレポート"で脱出が不可能となったことで、オレたちは自らの足での脱出を余儀なくされた。爆弾は動力炉の下部に設置されているのか、機械的な音が規則的に鳴っているのが耳に入る。どうやら既にカウントダウンが始まってるみたいだな。制限時間はどれほどなのかは知らねえが、事態が一刻を争うのは言うまでもない。嫌でもそれが分かるためがむしゃらに脚を動かすも、そんなオレの前に槍を手にした二体の騎士のような石像が立ち塞がる。なんだこいつ? ポケモンではなさそうだな。ツバサによれば先程ルカリオと一緒に同じ奴と戦ったらしい。雑魚のくせに邪魔しやがって。オレの足止めをするつもりか。
 今は戦っている場合じゃねえから無視を決め込もうとするが、まるで意思を持っているかのように奴らも懸命に立ちはだかる。

「(フーディン、後ろだ! もう時間がない!)」

 取るべき行動を思案していると、突然ツバサが声を張り上げる。はっとして後ろを振り返ると既に爆弾は爆発していて、青白い弾が音も無く空間ごと施設を飲み込んでいた。これは、前に見たガレスの攻撃と同じ……。一般的な爆風ですべてを焼き尽くすものとは異なり、あたかも空間を切り取るようにすべてを飲み込んでいく。これに巻き込まれたら最後、その空間が戻ることはない。
 何とかしてこれから逃げるべく、徐々に近づく爆風から体を引かれながらも前へと歩みを進める。くそっ、まるで重力の向きが変わったみたいだ。程無くして石像は体が宙へ浮き、音も無く爆発に飲み込まれていく。オレも徐々に足取りが重くなり、ついには体が引きずり込まれてしまう。"サイコカッター"を床に突き刺し持ち堪えようと試みるも、剣が火花を上げながら引きずられ、体は留まることを許されない。やがて体は宙へ浮かび上がり、意識は漆黒の闇へと落ちていく。ちくしょう、ここで終わりかよ……。ツバサまで巻き込んじまって……すまねえ……





「ゼロ……ゼロ! あなたはこんなものではないはずです。立ちなさい。立つのです!」

 ゼロ……だと……? オレをこう呼ぶのはあいつしか……

「あなたの力はこんなものではないはずです! ゼロ、その力を解放しなさい! あなたには……あなたには、この私がついています!」

 ああ、すまねえ。オレはこんなところでくたばってられねえんだよな。みっともねえ姿を晒したことは謝るぜ。オレの力はまだまだこんなものじゃねえ。見てろよ。うおおおおっ! いくぜーっ!!





 サイコキネシス:威力90のエスパー技。超念力であらゆるものを意のままに操ることができる。
 クレセリアの鎧:"ねんりき""サイコキネシス"の合体技。重力変化無効。二段ジャンプが可能になる。

 ゾーンに吸い込まれる直前で重力の変化を無効化するクレセリアの鎧を発動し薄紫の羽衣を纏ったオレは、再び地に足を付け施設を脱出すべく駆け出す。勝手に技の威力のリミッターを解除した上に、こんな合体技を使うのだからツバサの体力が長く持つはずはない。それに一度に二つも技を使えば、さすがのオレと言えどツバサの体力に関わらずこれ以上同時に技を使うのは無理だ。ここで頼りになるのは己の脚のみ。己が成し得る最速で脱出すべく、息を荒げながらひたすらに鉄の床を駆ける。頼むぜツバサ。脱出するまで持ちこたえてくれ……!
 再び駆け出した直後、先程と全く同じ石像がオレたちの前に立ち塞がり槍を向けるも、現れて早々敵はゾーンの爆発に飲み込まれて消えていく。どうせ消えるなら出てくるなと言いたいところだが、敵の存在が皆無に等しくなるのはラッキーだ。おかげで早くも出口が見えてきた。すっかり汗臭くなった体を外気に晒しながら振り返ると、爆発はすぐそこまで追ってきているのが分かる。ちっ、いったいどこまで広がるんだ……
 浮遊島の端までやってきたオレの前に広がったのは、燦々と降り注ぐ夕陽に照らされた赤い海。遠くを見やっても陸地が見えないことから、ここから自力で海を渡らなきゃならねえわけか。だが、もはやツバサの体力は残りわずか。ここから"リフレクター"を使って陸地までいけるかどうか……。いや、迷ってる暇はない。背後からはゾーンがオレたちを飲み込もうと迫っている。
 選択肢など無いことを悟ったオレは"クレセリアの鎧"を解除し、決意を固めて浮遊島から飛び降りる。空を切り裂き、冷たい風に身を包まれながら落下していくと、急激に体が硬直し落下の体勢を整えることもできなくなってしまう。これは、まさか……

「(フーディン、ごめん……)」

「おいツバサ、しっかりしろ! くそっ……ちくしょーー!!」

 ついにはツバサの体力は底をつき、変身は強制解除されてしまう。このままじゃ高速で海面に激突し、オレたち二人とも木っ端微塵だ。もはや打つ手のなくなったオレは咄嗟にツバサを抱えると、ひたすらペンダントに助けてくれと祈りを込める。だが、ペンダントからは何の反応もない。程無くして海面が間近に迫り、オレは覚悟を決めて目を閉じる。ジーノ、すまねえ……
 そうオレが諦めかけたその時だった。海面に激突する直前、白銀の羽を持つ巨大なポケモンが現れ、オレたちを背に乗せて完全に爆発に飲み込まれた施設を後にする。そう、オレたちは助かったんだ。安堵からくるものか極度の眠気に襲われたオレは、そのまま体の欲求に身を任せ意識を手放した。



 "ゼロ、よくやりました"




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[[ポケットモンスタークロススピリット 第25話「策略合戦」]]
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''あとがき''
今回はツバサたちだけでなく、クロナとムウマージ、グレイグとハッサムも混ざってリトとメタモンと戦うお話でした。かなりハードな展開なので、描写も一部えぐいところがあったのはお許しください……。今作ではあまり見られない戦闘シーンになりました。
そして何より今回のサブタイトル。それが何を意味するのか、おそらく最後まで読んでいただければ予想はつくと思うのですが、物語も中盤を迎えたことでどんどん核心に迫っていくドキドキ感を意識して書きました。
これからは伏線を張る部分も多少あるものの、ほとんどが今までの伏線のヒントやそれを拾っていくことになると思うので、いったい何が隠されているのか注目していただければと思います。
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