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ポケットモンスタークロススピリット 第23話「Professor Cloud System」 の変更点


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作者 [[クロス]]
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 ポケットモンスタークロススピリット、[[前回>ポケットモンスタークロススピリット 第22話「新たなる出会い」]]までは……

 人やポケモンを汚染し、凶暴化させる謎の物質ゾーンから生まれた究極生命体ガレスを倒すこと。各地に散らばる伝説の宝石を集め、シンオウ地方にあるテンガン山にこれを納めること。これらを目的に旅を続けるツバサ一行は、シンオウ行きの船に乗るため、ホウエン地方北東にある大島を旅していた。
途中ゾーンの力で変身能力――クロススピリットの力を得てメタモンと変身したリトの策にかかるも何とかこれを撃退。リトはツバサの仲間であるフーディンを見て“PCS&ruby(ダブルゼロ){00};”という謎の言葉を残し去っていった。
 しかし安心したのも束の間、船にのるための資金集めをするべく別行動を取っていた仲間のショウタらと再会した一行は、街のポケモンが誘拐され、怪しい飛行装置に運ばれているという事件の情報を聞きつける。
 この事件を解決すべく飛行装置に乗り込んだツバサとフーディンは、突如動き出した飛行装置の上でゾーンポケモンに取り囲まれるも、ジョウト地方で伝説の宝石を集めていたアルフとリングマ、そして別行動を取っていたユウキとバクフーンと合流しこれを撃破。飛行装置は見慣れぬ浮遊島へと到着し、ツバサとそのポケモンたちは浮遊島の建物を調査することになった。


第23話 「Professor Cloud System」


 安全を確保し、作業効率を高めるため、オレはモンスターボールとペンダントからすべてのポケモンを繰り出し、共に調査を進めることに。そこへ、ペンダントから現れて早々ルカリオがあることを提案してきた。それは、オレが休む間もなく戦い続けているため、今回は変身を行わずにポケモンたち全員でオレを囲み、周囲を警戒しながら探索しようというものだった。
 この島自体その存在が謎に満ちており、そこへ建っているこの施設はいったい誰が何のために建てたのかは定かではない。ただ一つ言えることは、浮遊島の存在そのものが不可思議であり、このような怪しい場所に危険はつきものということだ。即ち変身しながら探索するのが吉と思われる。しかしながらオレはリトと戦ってからというもの、続けざまにこの浮遊島へと向かっていた飛行装置の上でゾーンポケモンと戦い、そして今この施設を探索しようとしているため体力の消耗が激しい。ルカリオはこれを気遣ったのだ。この意見にはオレを除くすべての者が賛同し、共に提案を推してくる。
 その気遣いには心から感謝したい。とは言え、変身もせず共に行動していては足手まといになりかねないというもの。そう考えたオレはやんわりと断り、探索を始めようとする。ところが、エネコロロが進行方向に立ち塞がり険しい表情を向けてくるではないか。

「別に、あたしはあんたがどうなろうがどうだっていいのよ。でも、せっかくヘルガーが、みんなが言ってるんだから言うとおりにすればいいじゃない」

「心配だからって言えばいいのに」

「狐、黙れ!」

 始めこちらへ向けていた視線を逸らし、淡々と言葉を放つエネコロロ。その言葉は冷たいが、彼女の真意がそこにあるのではないことをオレはよく知っている。キュウコンに言われてムキになっているあたり分かりやすいが、何より彼女の“前に立ち塞がる”という行動がその真意を示しているのだ。他でもない、オレを心配してくれる気持ちを。
 彼女の行動もあり、オレは考えを改め提案を承諾。傍にフーディンとルカリオがいる以上、万が一の時に変身しても遅くはないはずだ。オレの身を案じてくれた仲間に礼を述べ、立ち塞がって強く諌めてくれたエネコロロには礼と同時にその体を撫でてあげる。すると彼女はゆったりとくつろいだ穏やかな表情を浮かべ始めた。やっぱり撫でられるのは気持ちがいいのだろう。

「ねえ、いつまでそうしてるの?」

「へ!? あ、いや、これは……早くやめなさいよ!」

「はいはい、すみませんでした」

 メガニウムに声を掛けられ、はっとしたような表情を浮かべるエネコロロ。やめなさいって、結構気持ちよさそうにしてたくせに。しかしながら、いつまでもこうしているわけにもいかないのは確かだ。気持ちを切り替えていこう。
 ようやく探索を始めることにしたオレたちは、埃を被っている古い蛍光灯に照らされた一本道の通路を進んでいく。誰かがいるような気配はなく、通路ではオレの靴音だけが響き渡る。……不気味だ。敵の一人や二人くらい出てきた方がまだ気楽なくらいで、いつどこから奇襲を受けるか分からないと思うと心臓の激しい鼓動が止まらない。
 結局誰かが現れることもなく、少し進むとオレたちは開けたホールへとやってきた。高級ホテルにあるような上品な物とは違い、冷たさを感じる機械音を鳴らす自動ドアの先には巨大なスクリーンがあり、演説などに使われるようなお立ち台がある。この部屋も通路同様薄暗いものの、一瞥したところスクリーンに目立った傷や汚れは見当たらないことから、さほど古い物ではないようだ。

「皆きてくれ。ここにコンピューターがある」

 オレが見回している間にポケモンたちが動いていたようだ。ヘルガーの声に一同お立ち台に集まり、そこにあったディスプレイに視線が集まる。オレが見回した位置からは死角に当たり何も見えなかったが、まさかコンピューターが取り付けられていたとは……
 ヘルガーが起動させたようで、画面には英文と思われる文字が羅列している。あいにくだが、こんなものを見てもオレには解読できそうにない。そんなことより驚いたのは、ヘルガーがコンピューターを使えることだ。

「ヒリュウが使っていたからな。体の都合上ほとんど入力はできないが、基本的なことは心得ている。それにしてもこの文は読めんな」

 台を支えに立ったヘルガーが前足で内蔵されたキーを押すと、スクリーンにディスプレイと同じものが表示される。一つのコンピューターに仲間全員が食い入るように見ては窮屈なため、不便なく見られるようにしたわけだ。すると、先程まで画面が見られずにいたグラエナが藪から棒に声を上げる。

「Hey! これは施設について書かれているみたいだぜ」

 驚いた。誰一人読めなかった英文をグラエナはいとも容易く読んだというのだろうか。しかしながら考えてもみれば彼は英語を交えた言葉を話すし、英文が読めることに驚くのは今更なのかもしれない。
 一先ずコンピューター内にある英文のデータは彼に解読を任せるとしよう。ヘルガーとキングドラがそれを聞くと言うので、残りのメンバーはあまり離れすぎないよう気を配りながら別の部屋を探索することにした。
 ホールから離れても問題ないと思われる距離は二部屋分ほどだろう。幸い隣は通路ではなく、木製の本棚が立ち並ぶ狭い書庫のような部屋であったためここを調べることに。まずは手当たり次第手に取ってみようか。
 ポケモンたちもそう考えたようで、早速各々読み始めたようだ。本を扱いづらいキュウコンとエネコロロには、メガニウムが“つるのムチ”を使って面倒を見てくれるようだし、オレも早く何か読んでみよう。と、そこで目についたのは部屋の角に落ちていた一冊の本。結構厚いな。いったいどんな本なんだろう。タイトルはっと……

“Professor Cloud System”

 プロフェッサークラウドシステム? また英文で書かれていたため直感で読めないと判断。とは言え、せっかく手に取ったのだから中のイラストや写真くらい見ておこうかと思い直したオレは、とりあえずさっとページをめくってみる。すると、どうやら全文に和訳がついていることが分かった。ならば、とりあえずこれを読んでみようかな。そう決めたオレは一度本を閉じ、一ページ目から開き直した。



 本日より、すべての生命の常識を抜本的に変えるため、科学技術の髄を持って次世代を担う最強の生命体の開発に取り掛かる。研究により、既にアドレナリンを基にした人工物質の生成は完成に近づきつつある。これさえ完成すれば、不死の生命体を作ることができる。人間に注入すれば、たちまち痛みを受けつけぬ体となれる。これさえあれば最強の生命体が犯罪を取り締まり、病魔に苦しむ人たちをその痛みから解放してやれるのだ。
 それにしてもこの物質は実に美しい。サファイアの如き青白く神秘的なこの美しさこそ、世界を変える物質に相応しいものだ。そうだ、まだ名称を決めていなかったな。はて、何にしようか……。そうだ“ゾーン”と名付けよう。すべての生命を、極限を超えた新たな命とするこの物質に相応しい名前だ。
 これから生まれる者は、世界中から慕われる者となっていくはずだ。わしはこの開発に携わるにあたり、決して己の名を知らしめたいのではない。すべては世のため、人のため。そして……。新しく誕生する命は我が子のようなものだ。その親として責任を持つべく、わしの名を入れぬわけにはいかぬ。よってこれから誕生する生命体を“Professor Cloud System”と名付ける。命は広がりゆくもの。いずれ彼のような存在が増えることもあるだろう。そのトップに立つであろう彼の開発コードを 私は“PCS&ruby(ゼロワン){01};”と名付けようと思う。



 青白い物質“ゾーン”……だと……。するとこれは、ゾーン開発者の日記……

「ツバサ、どうかしたのか?」

「…………」

「おい、聞いているのか!」

「……え!? あ、うん。ごめんごめん。なんでもないよ」

 こんなところにゾーン開発者の日記があるとは思わなかった。あまりに衝撃的な出来事に、オレの心は平静を保てなくなっていたようだ。ルカリオに声をかけられるもすぐに反応できず、あろうことかこの本から知り得たことを彼に隠してしまった。とは言え、彼のおかげで平常心を取り戻したオレは、気を取り直して仲間にこの本について知らせることができる。しかし、オレはそれをしようとしなかった。何故ならゾーンの他にもう一つ気にかかる単語があったからだ。それは“PCS&ruby(ゼロワン){01};”のこと。リトが口にした“PCS&ruby(ダブルゼロ){00};”と酷似している単語だ。
 ゾーン開発者の日記と思われるこの本に、何故リトがフーディンの能力を見て口にした単語と酷似したものが書かれているのだろうか。まさか、フーディンがゾーンと関係しているとでも? ありえない。彼はサイコペンダントの封印から目覚めてオレと変身して戦う仲間であり、ゾーンとの関係性は敵対関係にあるのみだろう。
 僅かとは言え、仲間に対し疑念を抱いてしまった自分を恥じたオレは自らの頬を何度も叩く。オレが読んだのはまだ冒頭部分に過ぎない。まして、たかが一冊の本、いったい何の情報になるだろう。こんなもの何の役にも……。そうは思えど、不思議と本から手が離れない。もう少し読んだら捨てればいいのだ。せめて、人を惑わすこの魔の書物とも言うべきものを仲間の目にさらすわけにはいかない。そう考えたオレは、密かにこの書物をリュックに入れてしまっておくことにした。

「ここは私たちのような生き物に関する資料しかないようだな。ツバサ、あちらにも行ってみないか」

 ルカリオに呼びかけられたオレは、首を縦に振って移動を始める。悪い意味で心揺さぶられる本に出会ってしまったが、まだこの建物に関する情報は不足しており、もっと多くの情報が求められるところ。あんなものがあったのだから、他の部屋にも何かしらの情報があるはずだ。一人期待と不安に胸を高鳴らせながら、オレはルカリオと共に隣の部屋へとやってきた。
 次の部屋は先程の場所と違い何もない部屋で、円形であるのが特徴、広さはテニスコート一つ分といったところか。ただ空間がそこにあるのみで、何も見当たらないというのはいささか怪しい。とは言え、何も見当たらない場所にいてもいたずらに時間だけが過ぎていくのみというもの。他に繋がる通路もないのだから行き止まりと判断してホールに戻ろうか。英文の解読も終わっているかもしれない。
 この判断にルカリオも同意を示し、共に部屋を後にしようとしたその時だった。液体が滴り弾けるような味気ない水音が耳に入る。今のはいったい……。反射的にオーラペンダントを使用し、一体化するオレとルカリオ。そこへ突如襲いかかったのは耳に障るガラスの割れる甲高い音。その不快な音色は耳から頭の中へ入り縦横無尽に駆け回る。それと同時に、部屋の天井から破片と共に落下してきたのは三体の石像。なんだこいつら……槍を持ち、鎧をまとっているような騎士の姿……その大きさこそ170cmほどと見られ、ガレスより遥かに小さいが、外見は酷似しておりさながら小型化したガレスのようだ。
 背後の通路から複数の足音が迫っている。ガラスの破片と石像が落下した音で、仲間が異変に気付き駆けつけたのだ。ここは全員で一致団結し倒すしかない。ところが次の瞬間耳に入ってきたのは、ヘルガーの驚くべき言葉だった。

「全員待機! ツバサ、ルカリオ、今すぐそいつらを破壊せよ!」

 正体不明の敵を相手に何故単独で戦おうとするんだ……。オレが唖然としていると、それを見かねたのかルカリオがヘルガーの意図を説明すべく言葉を差し込む。彼によれば、屋外と異なり空間の制限が大きい屋内では、数の多さが行動の妨げとなり不利な状況を招く恐れがあるためだという。なるほど、確かに言われてみればそうだ。ならばオレも全力を尽くし、こいつらを倒すのみ。
 オレが納得したことで雑念が消え、美しい湖のように澄んだルカリオの心は、霧を払ってその鏡のような透明さを取り戻したようだ。それに伴い、体温が低下しているのがわかる。精神を統一するとこうなるのだろうか。声一つ発することなく槍を向ける不気味な敵を撃破すべく、一瞬紅蓮の瞳から光を発したルカリオが波導をみなぎらせる。そして直後冷たい機械音と共に入口が閉まり、ヘルガーたちとの接触が断たれたのを合図に戦いの火蓋が切って落とされた。



 三体の騎士の石像は、奇妙にも重そうな体には見合わない俊敏なサイドステップでツバサと変身したルカリオを取り囲む。一方ルカリオは取り囲まれるのはやむを得ないと判断しており、不利な状況を打破すべく一体の敵に狙いを絞る。見た目はすべて同じ敵だが、ダメージを与えれば波導に何らかの変化が生じるだろう。それで個体を判別し、集中攻撃で包囲網を破るのだ。
 彼を取り囲む石像の立ち位置は、それぞれを線で結ぶとちょうど正三角形になるように立っており、ルカリオに技を放っても互いを攻撃してしまうことはない。このことから闇雲に飛びかかるだけの凶暴な生物ではないことが伺える。力のみならず知恵もあり、危険度の高い敵であると判断したルカリオは、敵の体を破壊することも辞さない意思をツバサへ伝え、彼もこれを承諾。敵からはゾーン特有のまがまがしい波導が感じられるのみでポケモンや人間ではないことが確認できる。そうとなれば遠慮などいらないだろう。
 石像が矛先をルカリオに向けると、それと同時にルカリオは四肢に波導の蒼炎を纏い、目を閉じながら自身の左方向に側転で移動。直後敵は彼の移動前の位置に向けて槍の先端部から眩い光を散らす高圧の電撃を発射。対象は移動しているため当然それは床を捉えるのみで、電撃は僅かに床を焦がして消え去る。ルカリオは波導で敵の狙いを読み取り、その直前に回避行動を取っているのだ。その後も石像は二回、三回と電撃を放つも、ルカリオはすべてレーダーのように使用した波導で敵の狙いを見切り難なく避けていく。瞬時に精神を統一し、体温を下げることでエネルギーの消費を抑え無駄のない動きを見せる彼の様子からは、ツバサの成長に伴い本来の力を発揮しつつあることが伺える。いや、今となれば変身はプラスとして働き、本来の力以上のものを発揮していると言っていいだろう。そんなルカリオは徐々に狙いの石像へ近づき、ついに石像の持つ槍の攻撃範囲までやってきた。

「(くる……っ!)」

 接近されたことで電撃ではなく、槍の突き攻撃に切り替える石像。しかし、それこそがルカリオの狙いだった。先程までの電撃同様波導を用い、敵の狙いが心臓部にあたる左胸であることを読み取った彼は、僅かに体の軸を右側にずらし、飛んできた槍を回避してその柄を小脇に挟み動きを封じる。石像は即座に槍を引き戻そうとするが、ここで易々と放すルカリオではない。伸びきった石像の右腕に火炎を纏いし脚で蹴りつける“ブレイズキック”の技を見舞い、石像の右腕を付け根の部分からへし折ってしまう。石の砕けるゴツゴツとした音と共に右腕を失った石像は、痛みにうめくでもなく左腕でルカリオに掴みかかろうとするも、ここにきて彼が掴まれるはずもなく。彼が味方に密着しているために電撃を放てない他の石像を素早く一瞥し距離を確認すると、ルカリオは石像が掴みかかるより早く破壊した右腕とそこに握られた槍を用い、石像の胸部を串刺しにする。槍の先端が部屋の壁に突き刺さって地震のような轟音と揺れを一室にもたらし、石像を動くに動けないところまで追い詰めたと確信したルカリオは、後ろ向きのまま手だけを他の石像へ向け、そこから青き弾を撃ち放つ。攻撃の妨害を阻止すべく牽制として放った“はどうだん”だ。その狙いは正確で、技は勢いよく空を切って石像へ命中。後頭部の房のようなものを立て、レーダーとして用いた波導により牽制が成功したことを知ったルカリオは、一瞬歯を食いしばって体を力ませると串刺しにした石像の右側へ移動し、その頭に自身の右手を押しつける。すると次の瞬間、大音量の爆発音が部屋を所狭しと駆け巡り、同時に石像の頭から足先まで原型が分からぬほどに砕け散る。密着した相手に手から衝撃波を放つ技“はっけい”によるものだ。

「(くっ……視界が……。ゾーンの反応は外殻ではなく内部にあったのか……)」

「(ううっ、気持ち悪い……吐き気が……)」

 圧倒的な力で石像を粉々に砕いたルカリオだったが、すべて彼の思い通りとはいかなかった。石像は体内に宿したゾーンを燃料に動いており、外殻を破壊したことで内部のゾーンが飛び散りそれが彼に降りかかったのだ。全身にゾーンを浴びたルカリオは一瞬視界がぼやけたことに動揺を見せる。それは、彼と変身し心身を共にしているツバサがダメージに耐えられず、変身が強制的に解除されてしまう恐れがあるためだ。
 しかし、ここで倒れるわけにはいかない。そう自分に言い聞かせ変身を維持しようとするツバサをルカリオは静かに励ますと、残る二体の石像を破壊すべく、やや姿勢を低くして重心を落とし、拳を握りしめた両腕を胸の前に持ってくる構えを取って戦闘を再開。
 早期決着こそツバサの負担を軽減すると踏んだルカリオは、敵が接近してこないのを見て、積極的に攻勢に出るべく重心を落としたまま駆け出す。得意技の“はどうだん”で力押しも可能だが、行動の中で技の使用はツバサにもっとも負担がかかるためその使用を最低限に抑えるためだ。
 これを見た残る二体の石像は、一体は再び槍の先端部から眩い光を放つ電撃を発射し、もう一体はルカリオの接近に備え、腕を引いて突きの構えを取る。そしてやはりと言うべきか、波導を用い軌道を読むことで接近しながらにして電撃を回避するルカリオに、踏み込みながら渾身の突きを繰り出した。槍はルカリオに命中し、石像は彼の腹部を貫くことに成功。ところが彼の体は徐々に透明度を上げ、鼻を軸に左右真っ二つになったではないか。そして音もなく霧のように消滅すると、石像の背後から貫かれたはずのルカリオが無傷の状態で現れ、石像の頭を目掛けて烈火を纏った蹴りを叩きこむ。重い音と共に炎上した石像が床にうつ伏せになると、ルカリオは即座に馬乗りになって左腕で肘を押さえた右手を石像の背に密着させる。

「終わりだ」

 ルカリオが重く低い声でそう呟くと、直後またしても室内に鼓膜が引き裂かれそうな爆音が響き渡り、今度は爆発による黒煙が室内を漂い始めた。この爆発と煙はルカリオが石像に対し、密着状態で“はどうだん”を放ったことによるものだ。しかし、さながらポケモンの特性“ゆうばく”の如くやられ際に体内に宿したゾーンを浴びせることで敵にダメージを与える石像に密着して攻撃すればダメージは避けられないだろう。
 とは言うものの、ツバサの体力が限界に近付いている今、二度も同じミスをするルカリオではない。攻撃によって生まれる爆風に乗ってその場を離れ、石像から飛び散るゾーンから身を逃していたのだ。それだけではない。室内を漂う黒煙によってルカリオを見失っている残る一体の石像に背後から忍び寄り、左腕で締め上げるように頭を押さえ、右手に生成した青き波導の弾を後頭部に叩きこみこれを破壊。その後宙を舞うように飛び上がり、両手と右膝を床につけたルカリオが部屋の中央に着地しこう呟く。

「抹殺……完了」

 直後頭を失った石像が倒れ込み、鼻につく焦げの臭いと、思わず咳き込んでしまう黒煙が消え去ろうとしていた室内に再び爆発を起こす。これが戦闘終了の合図となり、戦いはルカリオとツバサの勝利で幕を閉じた。





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[[ポケットモンスタークロススピリット 第24話「ゼロ」]]
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''あとがき''
今回のお話は、浮遊島の探索をすることになったツバサ一行の動きを、見所を二つに分けて書きました。一つ目はタイトルにもなっている本のことで、リトが口にしていた単語の指すもの、その片鱗が垣間見えるようなものになっています。本作は主体となる物語のみならず、キャラクターが個々に持つ物語も用意していますが、今回の件は本作の主体となる物語の核心に迫るものでもあるので、今後どのような展開を迎えるのかご期待ください。
そしてもう一つは謎の石像とルカリオの戦闘シーン。本作は流血などの危険要素を省いて書いているので、主人公たちには普段敵を必要以上に傷つけることはさせないようにしていますが、今回は物語も中盤を迎え、いよいよ核心に迫るハードな展開となってきたという流れの雰囲気を汲んで、山場ではない回でありながら戦闘もハードな雰囲気を出すことに重きを置きました。メタモン戦では目立った活躍が見られなかったルカリオですが、今後もかっこよさたっぷりのシーンにご期待いただければと思います。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
よろしければ誤字脱字の報告や、感想、アドバイスを頂きたいです。
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