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ポケットモンスタークロススピリット 第22話「新たなる出会い」 の変更点


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作者 [[クロス]]
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 ポケットモンスタークロススピリット、[[前回>ポケットモンスタークロススピリット 第21話「真実の波導」]]までは……

 シンオウ地方行きの船に乗るため、ホウエン地方北東にある大島を旅するツバサ一行。途中ゾーンの力で変身能力――クロススピリットの力を得たリトの策にかかるも何とかこれを撃退。
 しかし安心したのも束の間、船に乗るための資金集めをするべく別行動を取っていた仲間のショウタらと再会した一行は、街のポケモンが誘拐され、怪しい飛行装置に運ばれているという事件の情報を聞きつける。
 これにゾーンが関係していると判断した一行は、休む間もなく事件を解決すべく動き出すのであった。

第22話 「新たなる出会い」


 紅蓮の大翼が空を切り裂き、眼下に広がる緑の絨毯が荒波の如く波打つ。あたかも台風の襲来とその後の静寂のような光景を生みだすのは先を急ぐ青き翼竜。しかし、静かに呼吸をするのみで声一つ発せず沈黙を守る彼の喉とは裏腹に、胸に宿した紅き心臓はドクドクと荒い脈を打っている。大型のポケモンだけにそれは大きなもので、胸に耳を当てずとも身体に触れていればその小刻みなリズムが伝わるほどだ。
 それでもなお二人の青年を乗せ、青き翼竜は緊張の面持ちで飛行を継続。そんな彼を心配した青年のうちの一人は、跨っている彼の首を優しく撫でながら声を掛ける。

「ボーマンダ、戦いになるかもしれないんだ。あんまり無理しないで」

「ははっ、心配するなショウタ。スピードを上げるぞ。しっかり掴まってろ!」

 体力は温存しておきたいが、万が一飛行装置に逃げられては追いつくのが難しくなる。それが分かっているボーマンダはショウタの心配を笑い飛ばし、紅蓮の翼を忙しく羽ばたかせ飛行速度を上げる。心臓の高鳴りは疲労のゆえんではない。無事飛行装置が飛び立つ前に現場へ辿り着けるかどうかの不安のためだ。
 また問題はそれだけではない。無事間に合ったとしても、捕われたポケモンたちをどのように救助するのかも考える必要がある。ゾーンに侵されたポケモンたちがそこにいる以上、彼らが捕われたポケモンを人質に取ることは十分に考えられるからだ。つまり、間に合った場合も安心はできないということ。
 そのような不安が胸で渦巻くボーマンダは、ショウタやツバサに心配をかけまいと気丈に振る舞いつつも、募る焦りに胸を高鳴らせつつ紅蓮の大翼を忙しく羽ばたかせる。一方のショウタらは彼の気持ちに気付いており、その気遣いに無言の感謝を述べつつ、間に合った際の救助法を思案し始めていた。



 それからしばらく経った後。あたかも身を隠すように木々に囲まれた平地にたたずむ一機の飛行装置が彼らの目に映る。紫を主とした塗装が施されたそれは、高さが10mもないのに対し、幅だけがやたらと広い長方形のプレートのような形をしていた。翼と思われる部分が見当たらないが、前方後方の両端が空気抵抗を減らすためか丸く設計されており、後部と思われる部分には噴射口が見られることから、そこで燃料を燃やして飛ぶのだろう。

「あれか。街のポケモンを誘拐して閉じ込めているという飛行装置は」

「うん。でもおかしいな。見張りのゾーンポケモンがいないよ。チャンス……と見ていいのかな。とりあえず警戒を怠らないようにしつつ乗り込もうか」

 ショウタの指示に従い、ボーマンダは翼をゆっくりと羽ばたかせながら飛行装置から見て死角になる後部付近の木の陰へと着陸する。ここからは入口を見つけ出し、敵に発見されよう侵入しなければならない。ボーマンダに礼を述べてから降り、緊張の面持ちで飛行装置を見つめるショウタ。
 一方のツバサは、このような見慣れない設計がなされた飛行装置が木々をなぎ倒すことなく着陸していることに唖然としてしまっていた。それに気付いたショウタが呆れたように溜め息を漏らして彼の肩を叩く。我に返った彼は苦笑しながら謝ると、ボーマンダに礼を述べてからショウタ同様の面持ちで入口を探すべく目を動かす。
 と、その時だった。突如飛行装置の後部から氷を連想させるような青白い炎が飛び出し、飛行装置が唸りを上げ上昇し始めたのだ。敵の目から逃れるため後部から様子を伺っていたツバサたちは噴射口から吹きつける熱風に吹き飛ばされまいと身を屈め、ツバサとショウタは腕で顔面を覆いながら飛行装置を睨みつける。
 一歩遅かったのだ。今まさに乗り込もうとしていた彼らだったが、飛行装置はその直前に動き出してしまう。見張りがいなかったのはこのためだったのだ。動き出してしまってはもはや乗り込めず、可能な限り追跡するしかない。ショウタはそう判断したが、ツバサは違っていた。
 既に動き出した飛行装置だが、上昇しているにも関わらず機体の下部からは何も噴射されていない。後部から青白い炎と同時に熱気を噴射しているだけで、上昇するなどありえない話だ。だが、それは現実世界での話。ここポケモン界であれば、一見力が働いていないように見えても特殊な力をかける方法はいくらでもある。ツバサが考えたその方法とは……

「(“サイコキネシス”……今ならまだ間に合う!)いくぞ、フーディン。変身!」

 首にかけたペンダントの一つ、サイコペンダントが眩い白光を放ち、ツバサの身体を包み込む。ツバサとフーディン、二人だけが存在する白き世界の中、二人はハイタッチを交わし、それと同時に二人の魂は一つとなる。“ここからはオレの出番だ”とでも言うかのように全身を勢いよく伸ばして光を弾き飛ばしたフーディンは、変身完了と同時に手にしたスプーンを合成させる。メタモンとの戦いで習得した物質変形能力だ。二つのスプーンはその力で形を変え、先端が物に引っかけやすい鉤爪のような形の伸び縮みする鎖状の棒へと生まれ変わる。

「武器としては扱いづれえ形だが、引っ掛けるならこれが最適だからな。おらよっ!」

 すかさず機体の右側へ回り込み、頭の上を過ぎるように右腕を振るって武器の鉤爪のような先端を機体の上部へと引っ掛ける。上手く掛かったかどうかを確かめる暇もなく、機体の上昇と共に身体が浮き上がったフーディンは、再び物質変形能力を使用して武器の長さを縮めていく。これによって彼の体は機体上部に掛かった武器の先端部へと近づくことができる。
 ショウタらと離れるのは危険だが、ポケモンが危険にさらされているのを黙って見過ごすツバサではない。先のメタモン戦での疲労がほとんど取れていない中、彼は迷わず単身ででも乗り込むことを決意した。その決意が分かっているフーディンもまた、彼の体ではなく心を気遣って全力で戦うべく特殊能力を使用して機体へと乗り込んだのだ。今やるべきことはツバサの身を気遣うことではない。捕われたポケモンを全力で助けることだ。
 彼が機体の上部――甲板へと着地したちょうどその時、ある程度の高さまで上昇していた飛行装置は後部の噴射を強め、いよいよ移動を開始する。行き先は不明。機体が移動を開始したとあって、強風のため内部に侵入し安全を確保するまでは変身を解けず、モンスターボールから仲間を出すことはできない。
 まずはどうにか内部へ侵入しようと試みるフーディン。しかし、ざっと見渡したところでは内部へ繋がる部分は見当たらない。いったい彼は今後どのような行動に出るのだろうか……





 一方その頃、ジョウト地方最西端にある、海を見下ろす切り立った崖に立つ者たちがいた。

「ついにジョウトの宝石は揃ったわね。これでシンオウ地方にいけるわ」

 淡々と話す大人びたこの少女、名前はリン。ツバサと同じ現実世界出身の人間であり、伝説の宝石の一つルギアシルバーの適合者である。

「ん? あれは……! リンさん、アルフさん、あれを見てください!」

 慌てた様子で何かを指さす少年アオガミ。同じく現実世界からやってきた者だ。その顔立ちはまだ幼さこそ残るが、言葉使いは丁寧であり、親の厳しい教育を受けていたことが伺える。
 彼が発見した者、それは青い海と空を背景に飛行し、崖下を過ぎ去ろうとする紫の物体。その上部――甲板では、一匹の黄色のポケモンが複数のポケモンに押し迫られ、機体の端へと追い詰められていた。

「これも&ruby(さだめ){運命};か……。いくぞリングマ!」

 重みのある声で一人シリアスな雰囲気を醸し出しているこの少年、名はアルフ。彼もまた現実世界の者であり、ホウオウゴールドの適合者である。彼は集団で一匹を追い詰めるその様子から、集団のポケモンをゾーンポケモンであると判断し、追い詰められたポケモンを助けるべく即座に行動を開始。
 今はボールの中にいるのだろうか。姿の見当たらないパートナーのリングマに声をかけ、飛行物体に着地すべく躊躇することなく崖を滑り降りる。とても常人とは思えぬその身のこなしにアオガミは驚嘆の声を上げるも、アルフの心には微塵の恐怖もない。その行動から彼はかなりの超人体質であることが思われる。宙に浮くと同時に腰のベルトから右手でモンスターボールを取り出し起動させてリングマを繰り出す。さらに左手で服のポケットから取り出したのは拳ほどの大きさの金塊。これこそ彼が変身に用いる伝説の宝石ホウオウゴールドだ。
 彼の意思に応じて不思議な力を解放した宝石は、黄金の光で彼とリングマを包み込み、その魂を結集させ新たな力を生みだす。変身完了と同時にリングマが飛行物体へと着地すると、機体は一瞬大きく揺れ、睨みあっていたポケモンたちは何事かと彼を見つめる。

「だ、誰だオメェは!?」

 始めに声を発したのは、とうけつポケモンのツンベアー。白熊のようなルックスを持ち、体長の大きさも相まって鋭い爪を生やした腕を振りかざして威嚇する様子は、小さなポケモンであれば恐怖のあまり腰を抜かしてしまうほどの迫力がある。この種族は主にポケモン界の地方の一つ――イッシュ地方に生息しており、このような場所にいるのはとても珍しい。
 ツンベアーの傍にいるのはその仲間である、そうおんポケモンのバクオングと進化前のドゴーム。そして、どぐうポケモンのネンドールと進化前のヤジロンだ。ツンベアーの進化前にあたるクマシュンの姿は見当たらないが、進化前の種族はそれぞれ五匹ずつおり、いずれも進化後に付き従うように立っている。そして彼ら全員に共通していること、それは目から青白い光を放つ恐ろしい形相をしていることだ。

「ガハハ! やはりゾーンポケモンか。俺様はアルフのパートナー、リングマ様だ。お前らまとめて叩き潰してくれるわ」

「遺跡のパートナー……だと……」

「遺跡じゃねえよ!」

 ツンベアーの迫力をものともせず豪快に笑い飛ばすリングマ。しかし、彼が自身と同時にパートナーの名前も名乗ると、逆側の端で追い詰められていたポケモンがリングマのパートナーを遺跡と勘違いして驚きの様子を見せる。それに対し苦笑いしながらツッコミを入れるリングマ。と言うのも、確かにポケモン界のジョウト地方には“アルフの遺跡”という遺跡があるが、彼の言うアルフとはパートナーである人間の名前である。

「わりぃわりぃ。オレはフーディン。助太刀歓迎するぜ。こいつらまとめてぶっ飛ばしてやるか」

 軽く謝罪しながら名乗りを返したのはツバサと変身したフーディン。リングマが乗り込む直前に光に包まれて人間と共に変身したことから、彼もまたツバサ同様現実世界からきた人間をパートナーに持つポケモンであると判断し、何ら疑うことなく共闘の姿勢を見せる。

「状況ヲ理解シテナイナ。マトメテアノ世ニ送ッテヤル」

「どけどけどけぇー! “かえんほうしゃ”」

 ぎこちない言葉使いでネンドールが物騒な言葉を口にしていると、突然何者かが上空から声を張り上げながら落下してくるではないか。藪から棒に口から炎を吐きながら落下する者の姿に度肝を抜かれたゾーンポケモンたちは、一塊になっていたところから炎に煽られるように移動を余儀なくされ二分されてしまう。それによって十分な着地スペースが確保されたため、火を吐いていたポケモンは悠々と着地を決める。

「何とか間に合ったみたいだな。さあ、俺も混ぜてもらおうか。ポケモンたちを苦しめやがって。覚悟はできてんだろうなぁゴラァ!」

「お前はバクフーン! 良いところにきやがったぜ」

「(なんかめちゃくちゃキレてるけど……。戦闘になると豹変する性格なのか? 戦う姿をまともに見たことなかったからなぁ)」

 現れたのはかざんポケモンのバクフーン。彼はツバサたちの仲間であるユウキのパートナーポケモンであり、おそらく今は伝説の宝石の一つグラードンルビーを使用してユウキと変身していると思われる。普段は妄想癖のあるユウキがバクフーンを好き放題にいじっているため、いじられる彼はやられ放題という有様だが、今眼前にいる彼からは微塵もそのような様子は見られず、それどころか性格が反転したかのようにドスの利いた口調でゾーンポケモンたちを威嚇している。そのあまりの変わりようにツバサは唖然としてしまうが、フーディンはと言うと彼の変化は特に気にしていないようで、共に戦えることを素直に喜んでいるようだ。
 フーディンがふと上空を見上げると、やや高いところに一匹の黄緑のドラゴンがこちらに向けて一本だけ指を立てて頷いたのが目についた。彼は仲間のポケモンであるフライゴンだ。おそらく事情を聞きつけてバクフーンをここまで運んできたのだろう。それぞれが己の持てる能力を発揮し、手を取り合って敵に立ち向かう。それこそが仲間というものだと分かっているフーディンは、あとは任せろと言うかのように右腕を上げてフライゴンに合図を送る。
 一方バクフーンの登場により二分されてしまったゾーンポケモンたちは、各個撃破すべくネンドールはフーディンを、バクオングはバクフーンを、ツンベアーはリングマを狙って攻撃態勢に入る。進化前であるヤジロンとドゴームはそれぞれ進化後に三匹ずつ付き従い、残りそれぞれ二匹ずつはツンベアーに従って動き出す。機体が風を切り、強風が吹きつける中、いよいよ戦いの火蓋が切って落とされる。

「うおおおぉ、燃えてきたぞ! ユウキ、頑張ろうぜ」

「戦いの試練をくださった武神に感謝を込めて……この勝負、くわっち~さびら!((沖縄弁で「いただきます」))」

「意味分かんねえよ! 今なんつった?」





「ベッダアアァ! 串刺じにじでやる。“づららおどじ”」

 リングマVSツンベアーの戦い。先制攻撃を仕掛けたのはツンベアーだ。リングマの頭上目掛けて氷点下の冷気を吐き出し、空気中の水分を凍結させることで氷柱を生成して攻撃する“つららおとし”はツンベアーの得意技と言えるだろう。中・近距離の攻撃に適したこの攻撃に対し、リングマは近距離技しか持たないため技で相殺して防御するのは難しい。
 とは言え、変身をしている身で一方的に攻撃を受けるはずはない。リングマは拳を固め腕に力を込めると、落下してくる矢の雨とも言うべき氷柱を重みのあるパンチで次々と破壊。氷が砕ける甲高い音が小気味よいリズムを刻みこむ。ノーマルタイプの技“メガトンパンチ”だ。

「そんなもの俺様には効かん!」

「“ごごえるがぜ”」

「だから効かんと……あれ、違う!?」

 パンチで氷柱を破壊し安心したのも束の間、ツンベアーは“こごえるかぜ”を使用し間断なく攻める。この技はその名の通り凍えるほどの冷風を吹き出し、相手の体温を低下させることで動きを鈍らせる技だ。風という形を持たない攻撃であるだけにリングマのパンチでも防ぐことはできず、反撃の術を持たない彼はやむを得ず身を縮めて守りの姿勢を取る。
 あたかも極寒の雪山にいるかのように凍える身を気合いで奮い立たせ、反撃の機会を伺って耐え忍ぶリングマ。すると突然寒風が止み、今こそ反撃の時とばかりに動き出した彼の下へ、今度はどこからともなくぐちゃぐちゃに湿った泥が顔面目掛けて飛んできたではないか。

「ぐえっ、きたなっ……どこから出したんだよこれ」

 リングマにかかった泥は、ヤジロンたちの繰り出した“どろかけ”の技によるものだ。地上を離れた飛行装置の上にいる今、いったいどこから泥を出したのかは不明だが、問題はそこではない。この技は技の命中率を下げる効果があり、リングマは顔面に泥を受けたことでそれを拭い去るまで目を開けなくなってしまったのだ。
 これを好機と見たドゴーム二体は胸一杯に空気を吸い込み、口から灼熱の“かえんほうしゃ”を繰り出す。身は凍え、顔面に泥をぶつけられたリングマにこれを避けることはできない。一直線に彼へと襲いかかる炎は何の妨害も受けぬまま直撃し、リングマは痛みに苦しみ悶える。もはや悶絶寸前とも伺える有様だ。
 それを見たツンベアーらは止めを刺すべく、一歩、また一歩とリングマへと歩み寄る。最後は一斉に殴りかかって始末しようという考えだ。そして至近距離まで近づき、いよいよ止めの技を繰り出そうとしたその時だった。

「散々やってくれるじゃねえか……。たっぷりお返ししてやるぜぇ!」

 身が炎上したまま白目を剥き出しにして怒りを露わにするリングマ。火炎の中から滲み出るその怒りの感情は、炎上しているという状態と相まって恐怖の象徴とも言うべき存在にさえ見える。しかし、敵の攻撃を浴び続けた彼が何故このような威圧感を出せるのか。その理由は彼の特性にあった。

「火傷状態にしてくれてありがとよ。おかげで“こんじょう”が発動したぜ。“ばかぢから”」

 そう、リングマの特性の一つ“こんじょう”。この特性は火傷、麻痺、毒のいずれかの状態異常になると攻撃力が上がるというもの。先程ドゴームらが放った“かえんほうしゃ”は追加効果で相手を火傷にすることがあるが、この効果がリングマ相手には裏目に出たのだ。
 敵は至近距離まで来ており、今ならば技を当てるのも容易い。ただでさえ力の強いリングマが特性によって攻撃力を強化できれば鬼に金棒。ヤジロンたちを乱暴に掴み、恐るべき握力で握りつぶしたあと投げ捨て、ドゴームたちには頭目掛けて拳を振り下ろしダウンさせ、無慈悲にも限界まで振り上げた足を落として踏みつぶす。そして彼より二回り以上大きな身体を持つツンベアーには無言で歩み寄って腹部に渾身のパンチを打ち込む。さすがのツンベアーも痛みに膝をついてうめくと、そこにリングマの両手を握って振り下ろすハンマー攻撃が彼の頭部に襲いかかる。
 そしてついにツンベアーも気絶し、戦いはリングマの勝利で幕を閉じた。彼は体中の痛みに顔を歪めつつも、無事勝利し、敵からゾーンの歪んだ気が消え去るのを感じると、両手を顔の前に合わせてこう呟いた。

「くわっち~さびたん!((沖縄弁で「ごちそうさまでした」))」



 一方バクフーンVSバクオング。ドゴーム三匹もバクオングの横に並んでバクフーンを取り囲む姿勢を見せている。ここで先攻を取ったのはバクフーンだ。雄叫びを上げて気合いを入れることで背中から炎を噴き出すと、胸一杯に空気を吸い込んだ灼熱の火炎を吹き出す。乗り込んできた際にも使用した技“かえんほうしゃ”だ。その温度は彼の感情に比例し、いつも以上の高温となってバクオングとドゴームたちに襲いかかる。
 それに対しバクオングはすかさず“まもる”を発動。半透明の緑色の光がバクオングを包み込み、業炎を弾き飛ばす。この技は連発できないものの、ほとんどの技を無効化できる強力な防御技だ。しかし、“まもる”の範囲は基本的に使用者のみに限定されるため、敵を取り囲もうとバクオングの横に並んでいたドゴームたちには効力が及ばない。ドゴームたちは“まもる”を覚えていなかったのだろう。戦闘開始早々業火が目前に迫っているという事実に唖然とし、何が起きたかも理解できぬまま炎に身を包まれていく。そして三匹のドゴームは身を焼かれ、彼らを汚染していたゾーンがすべて消滅する。気絶し倒れているドゴームたちを見て、バクフーンはやりすぎたかと苦笑いを浮かべるも、まだ戦いは終わっていない。

「はんっ! やるじゃねえか。グヒヒ、ならばこれで攻める。“ちょうおんぱ”」

 強力な技を目の当たりにし、力ずくでぶつかっては分が悪いと判断したバクオングは、体中についた穴から空気を吸い込むと、大口を開いて不快な高音を響かせる。バクオングは音を使った攻撃が得意なため、バクフーンはやはりそう来たかと耳を塞いで防御しようとするも、騒音とも言うべきその不快な音色は彼の想像を大きく上回っていた。両耳を塞いでいるにも関わらず、わずかな隙間から体内の臓器が揺れ動くほどの音波が吹き込んでくるではないか。そのあまりの不快さにバクフーンは頭痛を起こし、脳が混乱を起こしてしまう。するとどうだろう。先程まで威勢の良い様子を見せていた彼が、突然意味不明な言葉を発し始めるではないか。

「ユウキ大好きだ。愛してる。もっと……もっといじってくれ! 俺はお前にいじられるのが最高に気持ちいいんだぁーー!」

「グヒ、こいつただのドMか。ならばお望みどおり極上の苦しみを味わわせてやる」

 バクオングは不敵な笑みを浮かべると、再び体中の穴から空気を吸い込み始める。今度は音の技の中で最も強力な“ハイパーボイス”を使用するつもりだ。今無防備なバクフーンがこれを受けてしまえばひとたまりもないだろう。そして今、バクオングが口を開き“ハイパーボイス”で攻撃しようとしたその時だ。

「でえええぇい!」

 刹那バクオングの頭上にフーディンが現れ、念の刃“サイコカッター”を振り下ろす。彼はネンドールと対峙していたが、他の敵の動きにも気を配っており、バクオングが“ハイパーボイス”を使えば危害が及ぶのはバクフーンだけに留まらないと判断し“テレポート”でネンドールとの戦いを放棄して助けにきたのだ。
 この奇襲攻撃にはバクオングも対応できず、頭を押さえながら倒れ、大声でわめき出す。結局うるさいことに変わりはないが、攻撃として大声を受けるのとそうでないとでは勝手が違う。
 ちょうどその時混乱から立ち直り我に返ったバクフーンは、先程バクオングによって痴態をさらけ出されたことで白目を剥き出し、背中から半径2mはあろうかという特大の炎を噴き出して怒りを露わにする。フーディンの助けによってダメージを受けていない彼だが、今彼についた心の傷は並々ならぬものなのだ。

「燃え尽きろぉ! “ブラストバーン”」

 背中の猛火によりバクフーンの毛皮の色が藍色とベージュから太陽のように真っ赤な色に変化すると、全身が火だるまのように燃え上がり、炎エネルギーを口元一点に結集させ、バクオング目掛けて打ち放つ。炎は周囲にいるすべての者の鼓膜を破らんほどの爆音を響かせ、その爆風は対象であるバクオングのみならず、その延長線上にいたネンドールとヤジロンたちまでをも巻き込み焼き尽くしていく。炎タイプ最強クラスの技だけに、あわや飛行装置ごと焼き尽くしてしまうのではないかと心配してしまうほどだ。
 敵を火炎で焼き尽くして怒りが収まったのか、それとも疲労のためか。バクフーンはようやく攻撃を止めると、荒い息を上げながら未だパチパチと火花の散る音を鳴らしているバクオングらに目を向ける。当然とも言うべきか、彼らは黒焦げの状態で倒れていた。

「(やりすぎだろ!)」

「安心しろ。息はあるようだ」

「(そういう問題じゃねえ!)」

 ツバサがゾーンに汚染されていたポケモンの身を案じるため、フーディンが様子を見ると幸い彼らに呼吸はあるようだ。よく息をしていたなとポケモンの体の強さに感心しつつも、内心ユウキとバクフーンに対し不信感を抱き始めるツバサ。
 しかしフーディンが、敵ポケモンがゾーンから解放されて結果オーライだと言うため、渋々納得してバクフーンらへの不信感を拭い去ることに。自らに課せられた使命は重く大きなものであり、甘いことは言っていられないのだ。彼がそう自分に言い聞かせた頃には、機体は目的地の目前まで来ていた。





 激闘の幕が閉じられた後、飛行装置はついに目的地へと辿り着く。そこは科学ではその存在位置が説明しづらい逆三角の浮遊島。地上にある土地のように土でできたその浮遊島には、ドーム状の巨大な建物が建っている。
 いったいここは何の施設なのだろうか。そう怪しみながらも、飛行装置が浮遊島の開けたポイントへと着陸したため、一同は周囲に目を配り、安全を確認してから変身を解除する。そしてまだ行っていなかった自己紹介を軽く済ませると、この浮遊島の調査を担当する者と、先程撃退したポケモンと誘拐されて飛行装置へ乗せられていたポケモンの保護を担当する者へ分かれて行動することを取り決める。問題は誰が何を担当するかだ。そこで先に意見を述べたのがユウキだ。

「ウチはバクフーンとポケモンの保護をやるー。二人で共同作業して、そのうちくっついちゃって……きゃはー! ねえバクフーン」

「わっ、やめろ。頬を引っ張るな! 俺はオモチャじゃない!」

「ウチにこうされると気持ちいいんでしょー? フフ、かわいいー」

「だからあれは混乱で……」

 積極的に意見を述べてくれるのは大いに結構だが、彼女たちの様子を見てツバサは安直に任せることはできないと判断。アルフとリングマにも残ってもらい、他の仲間と合流すると同時にポケモンたちを元の場所へ帰してほしいと依頼する。
 それに対しアルフとリングマは快く承知し、ツバサはポケモンたちと共に施設の調査を担当することに。果たしてこの先、彼らを待つものはいったい……

「こらユウキ! やめろって言ってるだろ!」

「イチャイチャする……これも&ruby(さだめ){運命};か」

「意味分かんねえよ!」

 ツバサがポケモンたちと共にその場から立ち去ろうする時もなお、依然として見送るでも緊張感を持つでもないユウキとバクフーン。それに対して意味不明にもシリアスな雰囲気を醸し出し、“これも&ruby(さだめ){運命};か”と呟くアルフに、ツバサはツッコミの一言を残し置き施設へと足を運んでいく。彼の不安の種は正体不明の浮遊島だけに留まらない。





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[[ポケットモンスタークロススピリット 第23話「Professor Cloud System」]]
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''あとがき''
今回は新しい仲間であるアルフとリングマとの出会いであり、散開していた仲間のバクフーンも混ぜたゾーンポケモンとの戦いのお話でした。この回はいつになくサブキャラを立てることに重きを置いた回で、アルフとリングマ、ユウキとバクフーンの個性を感じていただけたらと思います。
今作はキャラが多いだけに一人一人の存在感が希薄になりやすいため、それを考慮してキャラを立てることには特に気を配っています。そのためサブキャラはやたら意味不明な言葉ばかり喋りますが、笑ってツッコミを入れながら自然と覚えていただけるものになっていれば幸いです。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
よろしければ誤字脱字の報告や、感想、アドバイスを頂きたいです。
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