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ポケットモンスタークロススピリット 第21話「真実の波導」 の変更点


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作者 [[クロス]]
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 ポケットモンスタークロススピリット、[[前回>ポケットモンスタークロススピリット 第20話「湧き上がる謎」]]までは……

 ツバサ一行が目撃した青白い光。その光源にいたのはルカリオの師であり、過去の時代でゾーンと戦っているはずのアーロンだった。新たに彼を仲間に加えた一行は、彼の提案で食料確保をすべく散開する。しかし、これは敵の罠だった。
 キングドラ、フーディン、グラエナ、キュウコンらの前に現れたのはゾーンポケモン。そしてツバサ、ルカリオと行動を共にしていたアーロンはみるみるその姿を変え、かつて伝説の宝石の一つグラードンルビーを求め“灼熱の地底”へと向かった際に出くわした少年リトとそのパートナーのメタモンへと変化したのだ。ゾーンの力によって変身能力を得た彼らがアーロンに化けてツバサとルカリオの命を狙うも、間一髪のところでそれに気付いたルカリオがツバサと変身して応戦。新たな敵との戦いの火蓋が、今、切って落とされた。

第21話 「真実の波導」


 “はどうだん”を複数受けても全く怯む様子を見せないメタモン。しかし、その挙動から確実にダメージは蓄積されているはずと推測するルカリオは、一度中断した攻撃を再開するべく、再び両手を腰の右側に回して青き波導の弾を生成する。そして雄叫びと共に撃ち放たれた“はどうだん”は、空を裂きながらメタモンに向けて一直線に飛んでいく。
 それに対しメタモンは、つるの塊のようなモジャンボの姿というスピードの鈍さを考慮し回避ではなく守りの姿勢を取ろうと試みる。しかし、ただの防御で終わらないのがこのメタモン。飛んでくる青き波導の弾を太い左腕で弾き返し、カウンター攻撃を狙う。ルカリオは鋼タイプのため格闘技に弱く、自らの強力な“はどうだん”を受けてしまえば大ダメージは必至だ。
 だが、易々とその術中に落ちてくれれば苦労はしない。それが分かっているメタモンは弾き返した“はどうだん”をルカリオがサイドステップで避ける位置を狙って右腕を伸ばし、力を込めて“パワーウィップ”を繰り出す。その攻撃は確実に敵を捉えようとするも、一瞬ルカリオの口元が緩んだのを見たメタモンは瞠目し、しまったとでもいうような焦りの表情を見せる。
 直後“パワーウィップ”がルカリオを捉えたと思いきや、攻撃が当たると同時に彼の体が二つに分かれてまるで霧のように薄くなって消えていく。そして完全に消え去った刹那、彼は突然メタモンの背後から現れ、烈火をまといし足で蹴りつける“ブレイズキック”でその後頭部に襲いかかる。元々の鈍足さと腕を伸ばしきったことで生じた隙により、回避も防御も叶わないメタモンはうつ伏せになるように倒れ、体が火ダルマのように炎上し始める。
 そこにさらに追い打ちをかけんとするルカリオは、倒れた敵に馬乗りになるよう飛びかかり、手を密着させて“はどうだん”を発射。弾は即座に爆発を起こし、ルカリオは密着状態での攻撃による反動と体の芯まで響く爆音から身を逃すため、爆風に乗って後方に飛び上がり退く。
 片膝を落として着地し、後頭部についた房のようなものを立たせて波導をレーダーのように使用するルカリオ。彼の“かげぶんしん”による回避からの“ブレイズキック”、追撃の“はどうだん”という流れるような一連の攻撃はメタモンに致命傷とも言うべきダメージを与えたに違いない。ツバサはそう考えたが、ルカリオは敵がまだ立ち上がると読んでいた。
 爆発により発生した黒煙の中からうごめく一つの影。それは一歩一歩確実に近づいている。やがてある距離まで近づくと、その姿はシルエットのような影から明確な姿へと形を変える。現れたのは青き波導の勇者アーロン。メタモンは一連の攻撃を受けながらも痛みにうめくこともなく、アーロンの姿となって再び立ちあがったのだ。

「(あれほどの攻撃を受けたのに……まるでゾンビだな……)」

「(くっ、再びその姿になるとは……!)」

 攻撃に手応えを感じていたツバサは、敵の姿に驚愕の様子を隠せない。一方のルカリオは、メタモンが再度アーロンの姿となったことに動揺を見せ始めていた。波導により目の前の男が本物のアーロンでないことは明白。だが、瞳に映るものは紛れもなくアーロンそのもの。
 波導の使用も技の使用と同じく体力の消耗があり、ルカリオにとって己の身以前にツバサの身を案じて無駄な使用は控えなくてはならない。そのため彼は必要以上の波導の使用を控えているが、そうなると感覚として認識されるのは本物と何一つ変わらないアーロンの姿。外見はおろか、声までも完全にコピーしたメタモンの変身を波導無くして見破るのは容易ではない。とは言え、一度偽者と分かればそれ以降騙されることがないというのが普通なのだが、ルカリオにとって最愛の存在であるアーロンに化けられると、その身を傷つけるようで攻撃しづらいのだ。
 もちろんメタモンとリトがその心理を完全に読み尽しているのは言うまでもない。ルカリオの高い戦闘力を削ぐべくゾーンの力で強化されたメタモンの能力を活用した、対ルカリオ戦におけるリトの秘策だった。

「(さっきのモジャンボもそうだけど、あいつ目の前にいない奴にも変身できるのか!?)」

「驚いているようだな。ゾーンの力を使えば、私はリトの頭の中でイメージしたあらゆるものに変身が可能だ。リトはお前と同じ現実世界の人間。あらゆるポケモンを知っている。これがどういう意味か分かるか?」

「(現実世界の人間だと!? 馬鹿な、私が連れてきた者に邪悪な波導を持つ者はいなかったはず。いったいどうやってこの世界に……)」

 リトが現実世界の人間であり、それがメタモンの能力を引き出す大きな要素となっている。アーロンに変身することで声や口調も変化したメタモンの言葉でそれを知ったツバサとルカリオは動揺を隠せない。しかし、気押されるばかりでないのが彼らだ。
 メタモンが現代には存在しないアーロンを姿から声まで明確に再現しているのは、リトが現実世界の人間だからということ。このことから敵の言葉がハッタリではないと確信しつつも、同時に一つの疑問が浮かび上がる。知っているものすべてに変身できるなら、伝説のポケモンに変身すれば高い能力が得られるはず。それを何故しなかったのか。そこから見える能力の限界。それは、メタモンはまだ伝説のポケモンには変身できないということ。つまり、彼らの変身は本当の意味で完璧ではない。

「さすがはルカリオだ。そしてそれに選ばれし者。お前たちの推測通り、私たちはまだ伝説のポケモンには変身できない。だが、いずれ完璧にしてみせる。私たちは英雄なのだからな」

「(心を読まれた!? 波導を使ったのか……)英雄英雄などと、貴様らの遊びに付き合っている暇はない」

 アーロンに変身することで波導が使いこなせるようになった敵に心を読まれ一瞬焦りを見せるも、即座に気を取り直して攻撃に出るルカリオ。ダッシュと同時に拳の側面を合わせ、それを垂直に引き離し、間に光の棒を生成する。地面タイプの技“ボーンラッシュ”だ。
 “はどうだん”の撃ち合いでは戦況が変化しないままじりじりと体力を削られてしまうと判断した彼は、ツバサのことを考慮し猛攻で早期決着を狙う。一方のメタモンは攻撃を受けたことによる傷こそあるものの、体力の消耗や痛みが全くないことを利用し長期戦に持ち込もうと画策する。両者の思惑が交錯する中、“ボーンラッシュ”と波導の杖による打ち合いが始まった。
 突きや払いといった腰を落とし、体の軸を動かさない棒術の基本とも言える攻撃で攻めるルカリオ。接近戦は早期決着こそ狙えるものの体力の消費が激しいというリスクがあり、普段彼は好んでこの間合いで戦うことはしない。それ故“ボーンラッシュ”を使っての打ち合いに慣れていないツバサのことを考慮し、あくまで基本的な動きで攻めることで運動量による消耗を極力回避しようという考えだ。

「(ルカリオはピンチになればさらなる力を解放する。ここはツバサの体力を削ることだけを考えればいい)」

 しかし、基本技だけで打ち破れるほどメタモンも甘くはない。リトの立てた作戦の下、ルカリオの攻撃を受け流すように防御し続けるのみで一向に反撃の一手を加えず、ルカリオを焦らす行動に出たのだ。
 これに痺れを切らしたルカリオは、ツバサに声をかけると共に思いきった攻撃に出る。あえて大振りな振り下ろしを行い、鍔迫り合いに持ち込んだのだ。武器のぶつかる鈍い音と共に、火花を散らして力をぶつけ合う両者。
 互いの持つ力は互角なれど、僅かにルカリオたちの力を入れる動作が早かった。始めから攻撃を受け流して長期戦に持ち込む算段だったメタモンたちは、なるべく力を入れないよう立ち回っていたためだ。ルカリオがツバサを気遣っていることを読んでいた彼らは、まさか敵が鍔迫り合いという体力の消耗が激しい戦いに持ち込んでくるとは思ってもみなかった。力と力のぶつかる戦いは、目に見えない心理戦も兼ねている。その心理戦において、ルカリオらの一手が勝っていた。ところがこの後、メタモンが思わぬ行動に出る。

「ルカリオ、やめてくれ……。そいつに操られるな……目を覚ますんだ。私は……お前と戦いたくはない!」

「(アーロン……様……)」

「(騙されるな!)」

 腕の力を抜かず、声と表情のみを変化させるメタモン。彼が見せる姿は、アーロンが瞳を潤ませた弱々しい表情と、涙声で訴えかけてくる様子そのものだ。その完璧な演技によるシチュエーションは、アーロンとルカリオが時間を超えて離れ離れになる時を彷彿とさせるものがある。
 あたかも催眠術にかかったかのように目を虚ろにするルカリオに、ツバサの声は届かない。そして徐々に力が緩んでいくことを確認したメタモンは、甘い誘惑を解き、狂気を滲ませた瞳を見開き、恐ろしい形相へと変貌すると、杖の柄でルカリオの左胸を目掛けて渾身の突きを入れる。
 一瞬見えたアーロンの姿は消え去り、代わりにやってきたのは呼吸を大きく乱されるほどの胸の痛み。それと同時にルカリオの体は宙を舞い、痛々しい音を立てながら地面を滑っていく。彼の体が静止した時には、そのあまりの痛みに変身が解除されてしまい、隣にツバサが倒れ込んでいた。変身中の疲労や受けたダメージは、ポケモンのみならず変身状態を共に構成している人間にも同様に蓄積される。外傷こそつかないものの、急所を突かれた攻撃にツバサの体が耐えられなかったのだ。

「こんなはずでは……。すまない、あの程度の策にかかってしまうとは……」

「ゲホッゲホッ……(ルカリオの気持ちを利用しやがって……)くそ、卑怯だぞ!」

「戦いに卑怯も何もありはしない。そうだろう? さあ立て。かかってこい。でなければ……こちらから行くぞ!」

 胸を突かれたことで咳きこみながら罵声を上げるツバサに対し、青白い光に包まれ、姿をネコイタチポケモンのザングースへと変化させながら挑発で返すメタモン。いかなる手段を用いても、勝つための行動こそ最良のもの。そうとでも言うかのような彼の言葉に、ツバサは怒りの感情を隠せない。しかし、その感情とは裏腹に急所に攻撃を受けた直後では再度変身することができない彼は、鋭い爪を蓄えた腕を掲げながら歩み寄るメタモンに対し、無力と知りながら生身の姿で戦おうと立ち上がる。
 変身もできない無力な身と知りながら何故そこまで戦おうとするのか。ツバサとの変身が解除されてしまい、技や波導が使用不可となったルカリオがそう疑問し、彼を逃がそうと腕を伸ばしたその時だ。

「なにっ!? くっ、貴様は……!?」

「残念だったな。足止めは抜けてきたぜ。ツバサ、今だ!」

 ゾーンポケモンに足止めされていたはずのフーディンが現れ、メタモンの両脇を押さえてその動きを封じたのだ。彼とその仲間を足止めするようゾーンポケモンに指示をしたのはリトとメタモン本人。足止めまでの動きにミスはなく、今ツバサの変身が解け勝利を確信していた彼らだったが、その油断が思わぬ誤算を招いたのだ。
 フーディンの登場に待ってましたとばかりに口元に笑みを浮かべたツバサは、右腕を後ろに引き、持てる力のすべてを出しつくして拳をメタモンの左頬に打ちつける。その瞬間フーディンによる拘束は解け、メタモンの体は右肩から吹き飛ぶように倒れ込む。頬にめり込むように入った拳。ツバサはこの一撃に確かな手応えを感じていた。

「間に合ってよかったぜ」

「お前なら来てくれると信じてたよ」

 倒れ込んだメタモンや唖然とするルカリオを他所に、爽やかな笑顔でハイタッチを交わすツバサとフーディン。それとちょうど相反するように怒りと悔しさを滲ませ、地面に拳を叩きつけるメタモン。

「馬鹿な……リトの策は完璧だったはず。この俺の演技にも僅かなミスもなかったはずだ。ゾーンポケモンめ、なんて使えない奴らだ。奴らのせいで作戦が乱れただと? ありえない。そんなことがあっていいわけがないだろう!」

 もう勝てないわけでも、ツバサの一撃が身に響いたわけでもない。完璧だったはずの自らの作戦が完璧にいかなかったことが彼らのプライドを傷つけたのだ。それも作戦の欠陥や自らの失敗ではない。指示したゾーンポケモンの不手際によるものだ。英雄と自称する彼らは完全主義と言ってよく、それを穢されたことによる憤怒の炎は周囲の気を揺らし、緑をも震撼させる。

「仲間を仲間とも思わねえお前らが、アーロンのようになれるわけがねえ。お前らなんかにアーロンとルカリオの気持ちが分かるのか? こいつの気持ちを踏みにじったお前らは絶対に許さねえ!」

 メタモンらの放つ憤怒の震撼に微塵も恐れる様子を見せないツバサは、首に巻いたマフラーを脱ぎ去り額に巻き付けて締め、天にも届かん咆哮で胸に彼ら以上の熱い炎を燃やす。両者の炎は似て非なるもの。かたや憎しみを、かたや思いやりを糧としている。
 そのツバサの想いに呼応するようにサイコペンダントが眩い白光で彼とフーディンを包み込む。純白に包まれた無の世界。そこに現れた二つの魂が出逢う時、新たな力が誕生する。

「最強ヒーロー、オレ、見参! 今度はこのオレが相手だ!」

 急所に攻撃を受けたはずのツバサが奇跡の復活……ではない。彼の想いを感じ取ったサイコペンダントがより一層の力を与えたのだ。そのことはペンダントが単なる変身道具ではなく、命を持ったものであることを物語っている。
 敵はもちろん、ツバサ自らもそのことに驚きを見せるも、漲る確かな力を信じ再び戦いに身を投じていく。パートナーの熱意とペンダントの力を感じ取ったフーディンもまた、それに応えるべく得意の“サイコカッター”で両手に持つスプーンを半透明の紫色の刀身を持つ剣へと変形させて攻撃体勢に入る。
 その彼らに対抗すべくメタモンもすぐに立ちあがり、目のような模様が特徴的なとりもどきポケモン――シンボラーに変身する。シンボラーはエスパーとひこうのタイプを併せ持ち、相性上フーディンが得意とする“サイコカッター”のダメージを半減することができる。だが、彼が変身先にシンボラーを選択した理由はこれだけではない。シンボラーはタイプや分類からも分かるように飛行能力を持ち、フーディンには攻撃しづらい距離から攻撃できるのだ。
 さっそくその利点を活用しようとメタモンは両翼を忙しく羽ばたかせて上昇し、ツバサのキングドラも得意とする凍える冷気の光線“れいとうビーム”を撃ち放つ。距離の都合上反撃が難しいと判断したツバサは剣を交差させて防御の姿勢を取ろうとするも、フーディンに止められ防御を中断。驚くべきことに、構えを解いた直立の姿勢を取り瞳を閉じるという無防備の状態をさらけ出したのだ。
 刹那、彼らの下へ迫りくる紅蓮の炎。一匹のポケモンが草むらから飛び出し、黄金色の九尾を荒々しく揺らしながら繰り出したものだ。その火炎は冷気より僅かに早く彼らの下へ到達し、その身を包みこんでゆく。直後遅れて飛んできた冷気の光線は炎上する彼らから熱エネルギーを吸収し始める。火炎と冷気、二つの相反するエネルギーがぶつかり合い、生み出されたのは白い霧。包み込むものを隠ぺいするそれは、いかなる目も見通すことを許さない。しかし、それもわずかな時間。エネルギーの激突により人工的に生み出されたため、現象が発生するに足るエネルギーの供給が途絶えればそれを生み出すものはない。そして、それに伴い見えてきたのは驚くべき光景だった。

「やったぁー! 上手くいったね!」

「炎を……身に纏うだと……!?」

「“エンテイの鎧”。キングドラの知恵で生み出された、炎や氷の技のダメージを大きく削減する防御用の合体技だ。地形や状況からお前が炎か氷の技を使うのは読めていた」

 足止めを受けた際、ゾーンポケモンが意図的に自然を攻撃する様子から、敵は勝つためには環境の破壊も辞さず、使用技で可能であれば緑の豊富なこの地形を炎の壁や氷の檻のようにして動きを封じてくることをキングドラは推察したのだ。そして同時にツバサの身に危険が迫っていることを察した彼は、敵の目的はあくまで足止めであるという理由から自らの身に危険は少ないと判断し、フーディンとキュウコンを率先してツバサの下へと送ったのだった。
 そして彼が二体に授けた策、それが“ねんりき”と“かえんほうしゃ”の合体防御技“エンテイの鎧”。フーディンの類稀なる戦闘センスと、偶然戦闘中にキュウコンが新たな技を会得したことを確認した彼が期待を込めて発案したものだ。火炎をまといし者が力強さを身に着けるよう、伝説のポケモンであるエンテイになぞらえて命名されている。

「ふ……フンッ、所詮防御技だ。“ねんりき”なくして持続できないそんなものをまとっていては攻撃ができないだろう。僅かにこの俺を驚かせたのは褒めてやるが、所詮は犬知恵に等しい。これで終わりだ。“サイコショック”」

 両翼を抱え込むように閉じ、それを払うように大きく広げ、場にいたルカリオやキュウコンをも巻き込む幾つもの白銀の弾を撃ち放つ。白い尾を引き、さながら隕石のように落下するそれは、念力が実体化したものだ。エスパータイプの技である“サイコショック”ならばタイプ相性でこそ威力が半減されてしまうものの、“エンテイの鎧”の効果を受けず、自らのタイプ補正により技の威力も上がるため十分なダメージが見込める。
 今フーディンは“ねんりき”を使用しており、これを防ぐには技を中断し “エンテイの鎧”を解除せざるを得なくなる。そう判断したメタモンだが、対するフーディンに焦りの色はなかった。

「お前ら、オレの後ろにこい!」

 フーディンの呼び声を聞き、素早く彼の背後へと回り身を屈めるルカリオとキュウコン。直後隕石の如く降り注ぐ“サイコショック”の雨を前にしたフーディンは、僅か数秒ほどメタモンを凝視するや否や、手にした二振りの“サイコカッター”の剣を合成、変形し直して一本の槍状の武器へと作り変える。そして剣の時より長さの増した武器を、手首を回して風車の羽のように回転させながら巧みに攻撃をさばいていく。これにはメタモンも唖然とするよりない。技が着弾したことで地面は爆音と共に土を巻き上げるが、フーディンらには一片の傷もないのだ。
 すべての攻撃を弾き終えたことを確認したフーディンは“ねんりき”の使用をやめ“エンテイの鎧”を解除。直後、助走をつけて槍状になった“サイコカッター”をメタモン目掛けて槍投げの要領で放り投げる。空を裂きながら一直線に飛行するそれを確認したメタモンは、内心フーディンをあざけりながら羽ばたきの速度を緩めて高度を落とし、攻撃の軌道から身を逸らす。槍状になった“サイコカッター”はフーディンが超能力を使用する上で大事なエネルギー源であるスプーンを変形させたもの。技を使用した状態のそれが手から離れた今、彼は丸腰だ。
 そう判断したメタモンが再び“サイコショック”を撃つべく両翼を抱え込むように閉じた次の瞬間、対象であるフーディンの姿が一瞬で消え去ってしまう。そして代わりに背後から雄叫びが響いてきた。

「こっちだ。でやああぁぁ!」

 現れたのはフーディン。彼は“サイコカッター”でスプーンを変形させた状態で“テレポート”を使用し瞬間移動したのだ。“一つ技を使用している状態で何故……”メタモンがそう驚いたときには、フーディンに握られた武器の柄が鈍い音と共にメタモンの頭を捉えていた。
 高速で落下し、その身が地へと墜ちたときに爆音を轟かせる様子は、さながら雷が落ちたかの如し。“テレポート”でルカリオらの下へと戻り、舞い上がった砂塵に目を細めながら敵の様子を伺うフーディン。彼らならまだ十分立ち上がってくる可能性はある。そう考えるフーディンの顔に余裕の表情はない。

「くっ、技の二つ同時使用だと……」

「甘いな。“ねんりき”を使った時点でオレは“サイコカッター”によるスプーンの変形を解いちゃいないぜ」

 砂塵の中から飛んでくるリトの声を聞いたツバサはまだ立ち上がるのかと驚愕するも、フーディンはその声を聞いてほっと胸を撫で下ろす。リトの声が聞こえるということは、即ち変身が解けているということ。反撃するならばわざわざそのようなことはしないはずだと。

「それに加え“サイコカッター”でスプーンを合成し槍を生成した。剣ならいざ知らず、槍に変形するものは見たことがない。これはおそらくメタモンの変身能力を自らに適応させて習得したもの。となれば、こいつ……まさかPCS&ruby(ダブルゼロ){00};の一人……」

「(PCS&ruby(ダブルゼロ){00};……?)」

「ククク……これも因縁というやつか。面白い。波導の勇者、PCS&ruby(ダブルゼロ){00};……ツバサ、君が恵まれているのはよく分かった。次に会うのを楽しみにしているよ」

 謎の言葉を残し、リトは大型の鳥ポケモン――バルジーナへと変身したメタモンに乗り逃走を図る。すると舞い上がっていた砂塵は嵐のように吹き荒れ、フーディンらが彼らの動きを追随することを許さない。できることは、砂粒が雷雨の如く吹き付けてくる痛みに耐えることのみ。
 やっと治まったと思った時には既に敵の姿はなかった。PCS&ruby(ダブルゼロ){00};とはいったい何なのか。その謎を残したまま……





 その後遅れてツバサの下へとやってきた散開していた仲間たち。ヘルガーたちもまたゾーンポケモンの足止めをくらっていたという。新たな敵により組織化されつつあるゾーンポケモンの脅威に、誰しもが身の引き締まる思いである。これからの敵はますます凶悪なものとなるだろう。それに対抗するには自らを心身共に鍛えるよりない。
 戦いのためお預けとなっていたモモンの実を採取し、今回の出来事についてまとめ、今後について議論をしながら食事にありつく一同。その表情は決して陰鬱なものではなく、互いを労いながら今後の意気込みを語る明るいものだ。ただ一人を除いては……

「おい、つまんねえ顔してねえで食えよ」

「あ、ああ……」

 仲間からやや離れた位置で座り込み、憂鬱な表情を浮かべ手にした実を凝視するルカリオ。その様子に気付いたフーディンは、背中を軽く叩きながら声をかけるという彼なりの方法でルカリオを励ます。やっと会えたと思ったアーロンが敵の化けた姿だったのだから無理もない……と、彼の表情のゆえんを察するフーディンだが、落ち込んでいても何も始まりはしない。同時にそう考える彼は何とかルカリオの気持ちを盛り立てようと画策する。
 徐々に力をつけ、変身能力――クロススピリットの力をものにしてきたツバサ。だが、彼はまだまだ未熟であり、自分やルカリオの支援なくしてこの戦いを勝ち抜くことはできないだろう。それが分かっているフーディンは、ルカリオの気が晴れないことにもやもやとしたものを募らせる。

「おーい、みんなー!」

 その時だ。突然上空から聞こえる声に反応し、揃って首を上に向けるツバサたち一同。そこには資金集めのため散開していた仲間の一組――ショウタとボーマンダの姿があった。彼らの姿を捉えたツバサは思わず苦笑い。それもそのはず、彼は散開した目的である資金集めを一切行っていないのだ。これでは何のために散開したのか分からないというもの。
 しかし、紅蓮の翼をゆっくりと羽ばたかせながら下りてきたショウタらの表情はそれどころではないと言った様子。いったい何があったのか。

「旅の途中町で大勢のポケモンが行方不明になっているという事件を聞いたんだ」

「そこで調べたところ、この先に気絶したポケモンを怪しい飛行装置に運ぶ変なポケモンがいた。あれはゾーンポケモンに違いない」

 一難去ってまた一難。ショウタたちの話を聞いたツバサは休む間もなく立ち上がる。そしてそれに準ずるべくフーディンもまた立ち上がる。そしてルカリオへのみ聞こえる声でこう呟いた。

「PCS&ruby(ダブルゼロ){00};……オレはそんな支配など受けない。立ちふさがる&ruby(うんめい){敵};があるならば、斬り拓く……までだ」





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[[ポケットモンスタークロススピリット 第22話「新たなる出会い」]]
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''あとがき''
今回のお話は前回に引き続きリト・メタモンとの戦いでした。メタモンたちの特有の能力を活かした心を攻める作戦と、徐々に強くなっているツバサたち……特にフーディンの強さの光る戦いはお楽しみいただけたでしょうか?
リトとメタモンそれぞれの立場や種族の特徴を生かした嫌らしい作戦の展開は彼らならではのもので、彼らがどのような手でツバサたちを攻めるのか。それにツバサたちはどう対抗するのか。リトの残した謎も含め、今後も注目していただければと思います。
またフーディンやルカリオの活躍はもちろん、今回リトの策を読んで対策(エンテイの鎧)も考案したキングドラを始め、他のポケモンも見せ場を用意していますのでお楽しみに。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
よろしければ誤字脱字の報告や、感想、アドバイスを頂きたいです。
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