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ポケットモンスタークロススピリット 第20話「湧き上がる謎」 の変更点


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作者 [[クロス]]
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 ポケットモンスタークロススピリット、[[前回>ポケットモンスタークロススピリット 第19話「風のレグール」]]までは……

 旅の途中、ツバサ一行は神秘的な青白い光が大空に立ち昇るのを目撃する。青白い光と言えばゾーンの放つ光。見る者を魅了するその美しさとは裏腹に、生物の心身を汚染することで自我を奪い凶暴化させる性質を持つゾーン、これと戦うのがツバサに課せられた使命である。
 幾多の戦いを通しそれを強く自覚するようになった彼は、立ち昇る光を目撃するや否や、あたかも最初からそうするつもりだったかのように進路を変更するのだった。

第20話 「湧き上がる謎」


 青白い光の光源を求めてひた走るツバサ、フーディン、そしてグラエナ。いち早く現場へ辿り着くため道無き道を行く。緑のカーテンをなぎ払い、水の絨毯を踏みつけ、黄土の壁は手を取り合って乗り越えていく。
 遠くからでも目に付くほどだったその光は刻一刻と輝きを失うが、それと同時に彼らも確実に光源へと近づいていた。そしてついに、ツバサたちは探し求めていた光源の在処へと辿り着く。そこで彼らが見たもの。それは、つばが広く後方の両端が尖った青の帽子、肩から足首あたりまでを覆う青きマント、先端に水晶のようなものがついた杖、これらをまといし青き波導の青年。それ即ち……

「アーロン……アーロンなのか!?」

 その姿を目の当たりにし唖然とした表情で問いかけるツバサ。フーディンとグラエナもまたその発言を聞いて驚きを隠せないようだ。そう、そこにいたのは歴史上ルカリオと共に大戦争を止めるとされる英雄アーロンだったのだ。現在においてはゾーンの出現によりツバサの知っている歴史と異なっているためそのような経歴はないが、それでも彼と行動を共にするルカリオの師であり、親友でもあるアーロンが現代に現れたことは彼らにとっては衝撃的な出来事だった。
 そこへ、ツバサの高鳴る心臓の鼓動を察知しオーラペンダントから現れるルカリオ。始め彼は察知したものもあって周囲に矢の如き目を向ける。しかし、アーロンの姿を目にするや否や、臣下が王に取るように片膝をつき、彼に敬意を示す。

「アーロン様……どうしてここに……?」

「ルカリオ、ずっと……会いたかった」

 思わぬ再会に声が震えるルカリオ。それに響きのよい低い声で応えるアーロン。ゾーンの魔の手からポケモン界を守るため、己に課せられた使命を全うすべく時間を隔てて戦い続けてきた二人が、今こうして再会する。その感動たるや悲劇的な別れ方だったが故にひとしおのものである。仲間なのだから恥ずかしがる必要もないだろうと思い、思いっきりアーロンの胸に飛び込めとルカリオに促すツバサ。しかしルカリオは彼の言葉を受け、とんでもないとばかりに幾度も首を横に振る。そんな彼を目に焼き付けるように凝視するアーロンは、遠慮せずに来てくれとばかりに両腕を広げてみせる。それでも羞恥心故に首を縦に振ろうとしないルカリオを見て、ツバサたちは笑い声を木霊させるのだった。



 感動による胸の高鳴りもひとしきりついたところで、ツバサは仲間全員と共にアーロンとルカリオの話に耳を傾けることに。始めにルカリオは現代に来るまでの経歴をツバサたちへ簡単に説明し、次にアーロンが何故現代にいるのかを尋ねる。彼は過去に存在するゾーンと戦うために残り、ルカリオのみが現代へとやってきたのだ。過去の世界でゾーンの正体を知っているのはごく一握りであり、事実上彼一人でゾーンと戦わねばならないと言っても過言ではなかった。そんな立場に立たされていた彼がよもや現代にやってくるとは夢にも思っていなかったのだ。

「過去のゾーンならばすべて消滅させた。安心してくれ」

 整った顔立ちを笑顔一色に染めてそう語るアーロン。それを聞いたツバサは、さすがは波導の勇者だと感心する。一方ルカリオはと言うと、どのようにしてほぼ一人でゾーンを消滅させたのかが気にかかっていた。人一倍平和を望む彼のこと、使命のためならば自分を犠牲にすることなどいとわないだろう。それ故に彼の身のことが心配だったのだ。しかしその心配とは裏腹に、彼の身には外観からは何も変わった様子はなかった。

「あ、自己紹介がまだだったな。オレはツバサって言うんだ。あ、えっと……アーロンでいいよね?」

「ああ、構わない。ポケモンたち共々、ルカリオを支えてくれて感謝している。これからは私も協力しよう」

 こうして新たに一行に仲間として加わることとなったアーロン。波導の勇者としてルカリオと並び称される彼は人間でありながら高い戦闘力を有している。ゾーンに汚染されたポケモンとの戦いはもちろん、行く手に立ちふさがる数々の強敵と向き合う中で彼の助力は天の助けとも言うほどに大きなものだ。
 これで士気の上がったツバサ一行は旅の進行速度を上げようと意気込む。しかし、そこにアーロンが待ったをかけた。

「私はたった今時間を超えてきたばかりで食料を持っていない。ここは自然豊かな地のようだ。今のうちに補給をしておかないか?」

 感動の再会故に忘却の彼方へと消えていた光源の正体。それはアーロンが時間を超えてやってきたときに弾けて閉じた時空ホールの光だったのだ。彼の説明でそれを知ったツバサは改めてほっと胸を撫で下ろすと、彼の提案に応じて食料確保を行うことに賛成する。腹が減っては戦はできないということで、ポケモンたちも彼の決定に異論はないようだ。
 旅の途中のポケモントレーナーに食料を譲ってもらい空腹から回復した彼らだったが、今後の分まで譲渡されたわけではない。それ故一切の食料を保持していなかった彼らはさっそく分担して食料を探すことにした。

「フーディンとキングドラ、グラエナとキュウコンは北を頼む。ヘルガー、エネコロロ、メガニウムは東だ。私たち三人は北東に行こう」

 手際のよいアーロンの指示に感嘆の声を漏らす者、冗談交じりにツバサと比較する者などなど様々だが、いずれも彼を称賛する者ばかりである。ツバサもまた彼のリーダーシップに感心するも、内心面白くない様子。仲間同士争うなどと言った真似はしないが、こうも実力差を見せられると劣等意識を植え付けられかねない。ルカリオの大切な人であり、自身も慕っているはずのアーロンの登場で何故こんな気持ちになってしまうのか。ツバサは重い息をつきながら彼を一瞥すると、彼は皆の称賛の声に照れる様子もなく澄みきった海を思わせる美麗な青の前髪を軽く払っていた。





 仲間たちと別れてからオレはアーロンの指示通りフーディン、グラエナ、そしてキュウコンと共に食料を探していた。フーディンが変身なしでは技が使えないということもあり攻撃することこそないが、グラエナ共々野生のポケモンたちのことを省みず大声ではしゃぎながら歩くものだから困ったものだ。さらにはまだあどけなさの残るキュウコンが、彼らを真似して同じように振る舞い始めるものだから頭が痛い。三対一となっては止める術もなく、オレはやむを得ず出くわすポケモンすべてに頭を下げながら食料を探し続けていた。
 それにしても、アーロンの采配ときたら見事なものだ。別段難しいことをやってのけたわけではないが、先程のやり取りで彼が集団をまとめることに長けていることはよくわかった。これほどの人物が仲間となってくれることはこの上ない喜びである。ただ、ツバサとしては少々気分が害されていたことをオレは見逃してはいない。アーロンが悪いというわけではなく、オレたちツバサのポケモンの取る態度が幼すぎたと言えるだろう。これは注意しておく必要がある。
 しかしながら、このことをツバサの前で行っては彼のプライドが傷ついてしまうだろう。彼はまだまだ伸びる。そういう男だ。オレには分かる。その可能性の芽を仲間であるオレたちが摘んでしまうことのないよう、彼の目の届かない今のうちに仲間たちに注意を促しておくとしよう。

「お前ら、さっきのやり取りについてだが……」

 そう注意しようとした矢先のことだ。後方から身を震わせる殺気が近づいてくる。振り向いては間に合わないと判断したオレは、すぐさま尾に冷気エネルギーを結集させ、空気中の水分を凍結させて道を作り浮遊する。直後、オレを狙って撃たれた“はかいこうせん”が道端の木に命中。木は炎上し、パチパチと木の葉の焼け落ちる音が不規則なリズムを刻む。まさか振り向く間もないほど接近されていたとは迂闊だった。考えなければならないことなど山のようにあるが、とは言えそれで隙を晒すようでは元も子もない。
 敵の“はかいこうせん”を回避しながらそう思ったオレは、襲いかかってきた敵の情報を瞬時に把握すべく高所から敵の姿を一望する。視認できる青白いオーラをまといながら荒い足音を響かせるそれらは、言うまでもなくゾーンに汚染されたポケモンの集団だ。鋼鉄の巨体を持つボスゴドラや、火山のような瘤を持つ炎タイプのバクーダなどその数はざっと十体ほど。集団と呼ぶには数少ないものだが、オレが気にかかったことは敵の数ではない。
 襲撃を受けて即座に戦闘体勢に入ったフーディンら仲間のポケモンが反撃に出るべく、キュウコンは牽制として“ひのこ”の技を、現在技が使用できないフーディンと遠距離技を持たないグラエナは突撃あるのみとばかりに飛びかかっていく。それに対し敵は、炎の技で木々を燃やして壁を作る者、氷の技で木々や地面を凍結させる者に分かれ、こちらの行動を妨害してきた。
 この動きこそ、オレの気にかかったところだ。と言うのも、今まで見てきたゾーンポケモンはすべて破壊の衝動に駆られたように暴れ回るか、恐怖や恨みを煽るような行動を取っていた。それがゾーンという物質が生物に与える思考パターンのようなものだとオレは考えている。
 ところが眼前の敵はどうだろう。まるで組織化されているかのように役割を持ち、直接攻撃だけでなくフィールドを攻撃してこちらの動きを封じ込めようとするその行動はさながら足止めすることを目的としているかのようだ。まさか、ゾーンが与える思考パターンが進化したとでも言うのか。それとも奴らを操る者がこの近くに……
 様々な憶測が脳内を飛び交うも、結局明確な答えを見出すことはできない。眼前の敵を撃破することは決して難しいことではないが、仮に奴らの目的が足止めだとしたら、その目的を阻止すべく早急な撃破を行うことは容易ではない。

「もう……強いよぉ……」

「チッ、変身さえできればこんな奴らオレ一人で十分なものを……」

「Hey! キングドラ、何か良い策はないのか?」

 戦闘慣れしていないキュウコンはおろか、幾度もゾーンポケモンと刃を交えているはずのフーディンとグラエナも苦戦気味か。やはりフーディンが本来の力を発揮できないのはこちらに取って大きなハンデとなっているようだ。くっ、これを打開するにはどうすれば……
 上空から冷気のビームを放ちながら打開策を練ると同時に、敵の目的は何か思案を重ねて推測する。奴らの目的さえ分かれば、その心理状況を分析して的確に弱点をつくことができる。急を要するほどに劣勢でないことが幸いし、冷静な思考を取り戻すのにさほど時間がかからなかったオレは、思考を重ね、ある一つの結論に辿り着く。それは、奴らが足止めする意味にあった。
 足止めと言うのは別の作戦を遂行する際に行うもので、それを今されているということは、この場に奴らの真の目的は存在していないことを示唆している。ならば、奴らの真の目的とは何か。そこで真っ先に考えられるのは、オレたち最大の希望にして急所でもあるツバサの存在。彼の命を狙うことだ。戦力が分散されている今こそ、彼を狙うには絶好の機会と言える。まさか、これは最初から計算されていたとでも言うのか……。今、正体不明の、しかし確実に彼の下へと迫っている敵の存在が、オレの身を震撼させるのだった。





 一方その頃、仲間が襲撃を受けているなど夢にも思っていないツバサたちは、散開した本来の目的である食料探しをすべく歩き回っていた。そんな彼らの目についたのは、甘い果汁に満ちた桃色の木の実。人にとっても食べやすいモモンの実だ。ツバサは早期発見に喜びの声を上げるも、世の中それほど甘くはなかった。というのも実のなっている木は、10mはあろうかという崖の上にあったのだ。
 そこで、素人の人間が素手でよじ登るには少々困難な崖であると判断したルカリオは、変身を使用することで崖の上に行こうと提案する。彼ならところどころ崖から突き出した岩を利用すれば登るのも容易い。アーロンはと言えば、超人的な身体能力でルカリオ同様易々と登ってしまうだろう。それが分かっている彼はツバサにそのように提案すると、突然血相を変えて慌てた様子でアーロンが止めに入る。

「待てルカリオ。万が一足を踏み外したら大怪我は免れない。ここは私だけで採りに行こう」

「は、はぁ……」

 しばらく離れているうちに心配性にでもなったのか。はたまた自身をこの時間に送ったときの一種の罪悪感を引きずってのことか。かつてなら修行の一環として如何なることも共に取り組もうとしたはずの彼が思いがけない言葉を放つのに拍子抜けしたルカリオは内心違和感を覚えつつも、これも彼なりの思いやりだろうと自身を無理矢理納得させる。

「いいや、ここは変身なんてしないで三人とも自分で登って取りに行こう。そのほうが修行にもなる」

 そんなルカリオとは対照的に、異論を唱えたのがツバサである。彼は二人の意見そのどちらにも反対し、各々の力で登ろうと提案したのだ。戦いでもない崖登り程度で、お荷物扱いされるのは我慢ならない。決してアーロンとルカリオは彼をそのように思ってなどいないが、先程の他の仲間たちも含めたやり取りで不満を抱えていた彼は、意地でも自分の力でやり遂げると言って聞かないという強硬手段とも取れる態度に出る。
 これにはルカリオも呆れたように溜め息を漏らすも、その子供すぎる考えも彼なりの使命感から来るものだろうと解釈し直すことに。そしていつの間にか登り始めた彼を追い越すように、高い跳躍力と腕に生えた棘のようなものを武器に、崖にクサビを打ち込むように棘を刺しながら身軽な動きでよじ登り、ものの数秒で崖の上へと到達する。
 額から汗を垂らしながらそれを目撃したツバサは思わず苦笑い。仕方ないことだと何度も自分に言い聞かせつつ、頭上から突き出る岩に手を掛け、額の血管が浮き出るほどに力を振り絞る。その様子を崖下から眺めていたアーロンはふっと口元を小さく開いて笑みを浮かべると、忍者の如き俊敏な動きでルカリオにもひけを取らない速度で瞬く間に崖を登り切ってしまう。あと僅かなところまで来ていたツバサにはあたかも風が通り過ぎたかのようで、格の違いを見せられたかのように感じた彼は、崖に額を押しつけることで隠しながらも白目を剥き出しにして怒りを露わにする。知らず知らずに対抗心を燃やしていた彼が意地を見せるように崖の上に右手を掛け、もう一方の手も掛けようと伸ばしたその時だった。右手を掛けていた部位が突然崩れ落ち、そこに重心を置いていたツバサは支えを失ってしまう。しかし、彼が落下するその直前に右腕を掴む者がいた。ルカリオである。

「大丈夫か? もう少しだ。頑張れ」

 少ない言葉数で気遣い、そして励ましながら再び崖へとツバサの手を押しつける。ポケモンは見た目以上に大きな力を持っていることこそ知っていたものの、体格差を考えても決して軽くない自分の腕を掴んで支え、苦しい顔一つせずに励ましてくれるルカリオに感謝したツバサは、即座に体勢を取り直して遂に崖を登ることに成功する。
 登り終えると即座に座り込み、達成感と押し寄せる疲労感に浸る。後者さえも心地よいものと感じることができるのは、己の最善を尽くしたからこそだろう。しかし、それ以上に彼を満たしていたのは他でもない手を差し伸べてくれたルカリオの思いやりである。そのことに深く感動していたツバサは、改めて先程助けてくれたことに感謝を述べる。

「当然のことだ」

 ぶっきら棒にそう返すルカリオは、どこか照れ臭い様子でモモンの木に顔を向けながら座り込むツバサに再び手を差し伸べる。その手を、握手をするようにぎゅっと握りしめ立ち上がるツバサ。感覚でそれを確認したルカリオが彼に目を向けると、二人の視線が交錯する。その時まるで太陽のように明るい笑顔を見せたツバサに、ルカリオは心が温まる思いだった。
 そしてようやく本来の目的である木の実の採取を行うところまできた彼らは、眼前にそびえ立つ木に歩み寄る。ここからは争う要素もなく、三位一体となって迅速により多くの木の実を採取したいところ。ルカリオの優しさに触れたことで意味の無いアーロンへの嫉妬から解放されたツバサがそう考えながら木によじ登ろうと手を掛ける。アーロンは彼が登り終えるのを待ち、それに準ずるだろうと考えたルカリオは、同じくそれに準ずるべくツバサの背後で待機する。
 ところがどうしたことか。アーロンが木の前に待機することはなく、いつの間にか登っているといったこともない。息遣いが耳に入ることもないことから、自分を先に行かせて最後に登ろうとすぐ後ろにいるわけでもなさそうである。モモンの木は眼前に一本あるのみで、他の木に実がなっていることは確認できない。ともすれば、彼は背後で少し離れているということか。またしてもアーロンの不可解な行動に疑念を抱いたルカリオが、彼が今何をしているのか確認しようと左足を前に出し、その紅き瞳を右に寄せた時だった。
 刹那、ツバサに青きエネルギーの弾が襲いかかる。今まさに木を登ろうとしていたツバサを抱えるようにして右側へ倒れ込むように飛び出したルカリオは、ツバサが首にかけていたオーラペンダントに触れ、地面へ激突する直前に変身して彼と一体化。木に着弾したエネルギー弾の爆風に弾かれながらも、即座に前転して燃え上がる木から距離を取り、蒼炎をまとった右手を前に出す半身の体勢で背後に剣の切っ先の如き目を向ける。
 いったい何が起きたのか。あまりに突然の出来事に状況を判断しかねているツバサ。それに対し、即座に状況を理解し真実を悟ったルカリオ。彼らの視線の先に待つもの、それは目を大きく見開き、低速のリズムを刻むやけに響くわざとらしい拍手と同時に、上半身を揺らしながら高笑いをしているアーロンの姿だった。先程ツバサたちを襲ったのは彼が放った“はどうだん”である。
 いったい何故彼がそんなことを……。未だ状況を飲み込めないツバサが驚愕の心境でいると、ルカリオはいつになく殺気に満ちた面持ちでこう口にした。

「貴様、何者だ……?」

 彼の放った言葉。それは、今眼前で不気味な笑いを見せているその男が、彼が慕い、愛するアーロンではないことを意味していた。右手にまとった蒼炎、即ち波導の力が、男がアーロンとは全く異なる邪悪なオーラを宿していると語っているのだ。

「さすがは英雄。見事なものだ」

 彼に波導を使われては騙し通すことができないと悟ったのだろう。男はみるみるうちにその姿を変え、眼鏡越しに邪気に満ちた瞳を向ける少年と、ジェルのように柔らかい紫色の体を持つポケモンへと分離する。

「お前は……あの時の……!?」

「フフ……覚えててくれて至極恐縮だよ、波導の勇者ルカリオ」

 アーロンに化けていた謎の敵、その正体はツバサがグラードンルビーを求めて“灼熱の地底”へとやってきたときに出会った少年リトと、そのパートナーであるメタモンだった。その時は普通のポケモンバトルを挑んでくるのみだった彼らだが、ルカリオはこの時から何か不穏な空気を感じ取っており、後々仇となるかもしれないと危険視していた。そのことが今現実となり、彼らは恐るべき能力を習得してルカリオらの前に立ちはだかったのである。
 その能力とは、ツバサと同じ変身能力。彼に関わる多くの人物が変身能力を有している中、このリトもまた例に違わずこの力を獲得していた。今、一つの体から分離することでそれを見せたリトは、満足げな様子で言葉を続ける。

「僕もついに手に入れたんだ。このクロススピリットの力を。ゾーンを使ってね」

 その言葉に瞳孔を点のようにして驚愕の表情を浮かべるルカリオ。このリトという少年が、レックウザ曰く神の力とされるクロススピリットの力を習得している。その恐るべき事実は、彼のみならず一体化しているツバサをも驚かせる。ペンダントや伝説の宝石が宿すクロススピリットの力と酷似した変身能力を持つ者は今まで何人も見てきた。しかし、いずれも道具を必要としていないというだけで詳細な情報は把握できていない。だが、目の前の少年は確かに口にしたのだ。ゾーンを用いてクロススピリットの力を獲得したのだと。
 神の力とまで呼ばれたものが、あの邪悪な物質によって会得できるものなのか。では、そのゾーンとはいったい如何なるものなのか。誰が創ったのか。数え切れない疑問が浮かぶルカリオらの様子を口元に笑みを浮かべながら見つめるリトは、僅かに俯き表情に影を指すと、一瞬青白い光を放ち再びメタモンと融合してその姿を変化させる。

「ククク……何を驚いている? 今更何を知ったところで変わらないだろう。滅べ、旧世代の英雄よ!」

 メタモンは得意の“へんしん”の技を使用し、巨大な植物のつるの塊のようなポケモン、モジャンボへと形を変えると、体から複数の“つるのムチ”を伸ばし、ルカリオの四肢を拘束する。その敏速な変化に僅かに反応が遅れたルカリオは、技を使用することで拘束を逃れようと試みるも、現在使用可となっている技は、素早く拳を撃ちだすことで衝撃波を放つ“しんくうは”、両手の間から光の棒を生成して攻撃する“ボーンラッシュ”など、四肢を拘束された状態で使用できるものがない。
 そこへメタモンが、太いつるとなっている両腕を叩きつけるべくルカリオを至近距離まで引き寄せる。これでは成す術がないと判断したツバサは、即座にルカリオの心に語りかけた。

「(ルカリオ、今すぐ“はどうだん”を解放するんだ!)」

 はどうだん:威力90の格闘技。体の奥から波導の力を撃ち放つ。ルカリオの最も得意とする技。

 ツバサから“はどうだん”の使用許可を得たルカリオは、状況を打開すべく手首だけを動かし手のひらを敵へと向ける。技の使用許可は変身によって一つとなったツバサとルカリオの心の会話で行われているため、メタモンは“はどうだん”が撃たれようとしていることに気付いていない。それを波導で敵の心理を探ることで知ったルカリオは、瞬時に両手首へと青き波導のエネルギーを結集させる。そしてメタモンの顔面目掛けて間髪を入れずに複数のエネルギー弾を放った。
 四肢を捉えたことで勝利を確信し、攻撃することばかりに気を取られていたメタモンは守りの姿勢を取ろうと試みるも間に合わず、顔面に攻撃を受けてしまう。直撃したことで爆発を起こした波導のエネルギーが黒煙を上げ、その瞬間一瞬緩んだ拘束から抜け出し、バックステップで距離を取って再び半身の姿勢で対峙するルカリオ。顔面に複数の“はどうだん”を受けたのだから、易々と立っていられるはずはない。ならば、今こそ一気に畳みかける時。
 そう判断したルカリオが左足を前に繰り出し、ステップを踏んだその時、黒煙の中から再び彼を拘束せんとする深緑のつるが襲いかかる。慌てて両足を揃えたルカリオは、攻撃を避けるべく大きく宙返り。空気を裂きながら迫りくるつるは彼の足に触れる直前まできたものの、触れたのは波打った空気のみで間一髪回避することに成功する。
 右半身を落とす姿勢で着地したルカリオは、再び攻勢に出るべく両手を腰の右に回し、波導のエネルギー弾を生成。紅蓮の瞳で黒煙が薄くなっていくのを確認しつつ、“はどうだん”の発射タイミングを伺う。
 ようやく黒煙が晴れ、メタモンの姿が視認できるようになると、顔面に複数の“はどうだん”を受けたはずの彼は始めと何一つ変わらない様子で不敵な笑みを浮かべていた。

「(前にあったときはガキみたいだったのに恐ろしく強くなってるな。まるでオレたちの攻撃が効いてない)」

「(いや、奴はこちらの攻撃を見て守りの姿勢を取ろうとしていた。恐らく何らかの理由で痛みを感じていないだけだろう)」

 口調はおろか、戦闘力まで激変しているメタモンに驚きを隠せないツバサ。しかし、彼の予想とは裏腹に確実にダメージは蓄積されているはずだと指摘するルカリオは、次なる攻撃方法を思案する。その傍ら、激しい動きの割に予想以上にツバサの疲労が蓄積いないことに気付く。確かに成長しているツバサと戦うことに自信を持ったルカリオ。彼の戦いはこれからだ。





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[[ポケットモンスタークロススピリット 第21話「真実の波導」]]
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''あとがき''
今回はいかにミスリードをしながらも適度なヒントを出して緊張感を高めるかということに重点を置きました。数々の謎に疑問を持ち、恐怖し、それに立ち向かおうとするポケモンたちの心理を楽しんでいただけたでしょうか?
この回で正式に敵キャラクターとして登場したリトとメタモンは、ありそうな敵キャラのイメージに一クセ加えることで、物語を引っかき回すような位置づけにしています。ポケモンらしさを損なわないようにしつつ、メタモン特有のクセを使った魅力を出していきたいと思っています。
そして本作の見所の一つである戦闘シーン。今回はその冒頭のみに止まりましたが、次回は徐々に能力を解放していくことで攻撃のバリエーションが増えていくツバサたちと、特有の能力で他に見られない戦闘スタイルを持つリトたちの変身能力を持った者同士ならではの戦いを繰り広げる予定です。どうぞご期待ください。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
よろしければ誤字脱字の報告や、感想、アドバイスを頂きたいです。
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