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ポケットモンスタークロススピリット 第2話「選ばれし者」 の変更点


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作者 [[クロス]]
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 ポケットモンスタークロススピリット、[[前回>ポケットモンスタークロススピリット 第1話「始まりの時」]]は……

 戦乱の世に生を受け、オルドラン城とその城主リーンを守るために日々修行に明け暮れていた波導使いアーロンとその従者ルカリオ。ある日彼らの下へ、隣国の兵士が凶暴化しているという情報が入る。
 その原因を突き止めるべく調査へと赴いたアーロンが見たもの、それはかつて見たことの無い白き生き物と、時間を超える全身鎧に包まれた謎の生命体だった。そこで白き生き物から二つの不思議なペンダントと大いなる使命を託されたアーロンは、それを果たすべく城へと帰還する。
 彼は調査先で見た出来事を女王やルカリオへ詳細に説明し、自らは現代に残り、ルカリオには未来へと向かった敵を追うべく託されたペンダントを手に時間を超えるよう指示する。そして今ルカリオは漆黒の闇を進んでゆく。この世界を平和へと導くまだ見ぬ選ばれし者と出逢うために……

第2話 「選ばれし者」


 とある小さな村。一人の少年が自転車をこぎ、爽やかな風を切っていく。と、その時、死角から突然幼児が飛び出してきた。
 慌てて避けようとするも、あまりに突然のためゆっくりとは避けられない。やむを得ず急ハンドルをきると、その勢いで近くの貯水池へ向かってしまう。
 落下防止のための柵にぶつかり、少年の体は宙に弧を描いて飛んでいく。一瞬絶叫が木霊したかと思うと、水の弾ける大きな音が静寂に包まれた村を駆け巡った。

「ぷはっ……なんでガキが飛び出してくるんだよ……」

 貯水池に落ちたこの少年、名はツバサ。全身ずぶ濡れになった重い体を持ち上げ、なんとか池から這い上がる。
 真夏の太陽に照りつけられている道路であることも忘れ、どっと押し寄せる疲労に飲まれ、その場に倒れこむ。
 その瞬間、高熱のアスファルトによる焼かれるような痛みが背に走り、ツバサは慌てて飛び上がる。
 そんなことをしていると、先ほどの幼児の後ろのほうから一人のおばあさんが現れた。腰を曲げて、杖をつくその様子から結構な歳であることが伺える。

「ツバサ君、ごめんな~。おらいの孫が、勝手に飛び出すがら……」

「あ、一応大丈夫です」

 おばあさんは幼児の祖母であり、ツバサとは顔馴染み。彼の有り様を見て、孫が飛び出したのを謝罪する。一方のツバサは、顔馴染みのおばあさんに対する気遣いと、実際に受けた被害が葛藤し、彼に曖昧な返事をさせていた。
 家に帰って着替えるべく、ツバサがずぶ濡れの自転車を押しながら帰ろうとすると、おばあさんが彼を呼びとめた。
 疲労の影響でのそのそと振り返ると、おばあさんは彼の手を取り、何かを手渡した。手を開いてみると、見えたのはくしゃくしゃの紙。

「夏休みだがら孫さ買ってやったんだけど、おらいのお父さんもお母さんも仕事で連れてってやれねって言うがらよ。それツバサ君さあげっから」

「あ、ありがとうございます……」

 改めてくしゃくしゃの紙を見るツバサ。今ここで紙を調べるのは失礼だろうと思い、そのまま家に持って帰ることにした。



 家に帰り着替えたあと、改めてもらった紙を見てみる。ポケットに突っ込んで入れておいたのだろう。そのくしゃくしゃの見た目は、あまり内容に期待ができそうもない。
 さほど期待もせず、ツバサは紙を広げていく。と、その瞬間彼の表情が一変した。

「ポケモンのイベントのチケットじゃん。っしゃあー!」

 実は彼、ポケモンの大ファンであり、ゲームのやり込み具合も並大抵でない。だが、田舎出身であるために、イベントには一切行ったことがないのだ。
 まさかくしゃくしゃの紙が大好きなポケモンのチケットだとは思わず、彼は良い意味で裏切られたその喜びに、大げさなほどに飛び上がって喜んでいた。





 数日後、イベントが行われるという東京の会場にやってきたツバサ。慣れない都会に迷いつつも、ポケモンのためなら苦にならない。
 しかし、やっと辿り着いたイベントは来場者多数による混雑で、待ち時間が必要なようだ。
 これにはがっかりしつつも、近辺に設置された緑色のベンチに座り込み、入場の時を待つ。ふと周りを見ると、同じくイベントの入場待ちと思われる少年少女が別のベンチに座っていた。
 待たされているのは自分だけではないと考え、のんびり時間を潰そうとするツバサ。そこで、ベンチの傍に何かきらきらした物を発見する。
 何だろうと思って手に取ると、それは青色と黄色のペンダント。二つあることから、どこかのカップルが落としたペアのものだろうか。
 あとで交番に届けようと、リュックにそれを入れようとする。と、その時……

「(ついに見つけたぞ。お前が選ばれし者か)」

「うわあっ! な、なんだ!?」

 どこからともなく聞こえる不思議な声。驚いたツバサが声を上げると、周りの少年少女は何事かと彼に寄ってきた。

「(だいぶ頼りないが、この波導……適合者であることは間違いないな。一緒に来てもらうぞ)」

「お前誰だ! オレをどこに連れていくつもりだ! ……って、え……?」

 彼の問いに声は答えない。状況が把握できずに焦っていると、ベンチがまるでソファーのように座るツバサの重さを吸収してへこんでいく。
 いや、ソファーどころではない。ベンチは緑からその色を黒に変え、どんどんツバサを吸いこんでいくではないか。
 慌てて近くにいた少年少女が彼を引っ張るが、吸い込む力は彼らの力を遥かに上回っていた。

「(選ばれし者とはいえ、こいつ一人ではな……。お前たちも来てもらうぞ)」

 不思議な声はそう言うと、さらに吸い込む力を上げ、ついにはツバサのみならず、助けようとした少年少女をも吸い込んでしまう。それを陰から見つめる一人の少年。

「ふふっ、選ばれし者……か。面白そうじゃないか。僕も混ぜてもらうとするよ」

 口元には多分に邪気を含んだ笑みを浮かべている。ベンチが元の普通のベンチに戻る直前、その少年もまた、ツバサたちを追うように自らベンチに吸い込まれていった。










 水のように透きとおった青い空。わたあめのようにもくもくした白い雲。白い砂浜に押し寄せる波は、行ったり来たりと忙しい。
 そこに倒れている一人の少年、ツバサ。頭だけわずかに水を浴びている。気を失って倒れていた彼は、突然飛び上がるように起き上がった。

「ゴホッゴホッ! 海水飲んじまった……。おえぇ……」

 その声が、誰もいない海辺を駆け巡る。しかし、その滑稽な様子にツッコミを入れてくれる者もいない。
 空しさに打ちひしがれていると、今度はいつの間にか海辺にいることに戸惑い始める。確かに先ほどまでは、ポケモンのイベントに参加するために待っていたはずだ。
 いったい何が起こったのか、コダックのように頭を抱えて考える。そのうち頭痛が起きてきそうだ。
 その様子を水中から覗く影が二つ。一つは多くの触手をうねらせ、一つは鋭い牙を光らせている。

「すいませーん! 誰かいませんかー!」

 まずは此処がどこなのか知るため、人に尋ねることにしたツバサ。適当に大声で人を呼ぶと、海から青い物体が浮かんできた。
 水中に潜っていた人がいたのだろうか。人を見つけた安堵から、ツバサの顔から笑顔がこぼれる。
 彼が近づくと、突然、青い物体が爆発したように多量の水を持ち上げる。その迫力に押され、ツバサは全身に水飛沫を浴びながら、倒れるように尻もちをついてしまう。

「ふふふ……ガキ、俺たちを呼んだか?」

 現れたのは、水のような青い体に、大きな赤い水晶のような目。無数の触手を持ち、眼球の見えない血のように赤い目を持つ生き物だ。

「ポケモン!? あ、ありえねえよな……」

 目の前の生き物、それはツバサがゲームで見たことがあるポケモンそのものであり、ドククラゲという種族だ。
 大好きなポケモンに会い、普通なら何もかもを忘れるくらい喜ぶはずの彼だが、今の状況はとても喜べるものではない。
 彼の知っているドククラゲとは違い、人の言葉を話す上に、その目には見るだけで怯んでしまうほどの殺意がにじみ出ている。
 迫りくる恐怖に押され、立ちあがることもできず、ただ後ろへ体を逃がしていく。その時、どこからともなく聞き覚えのある声が耳に届く。

「さっそく現れたか。初めて戦うにはちょうどいい相手だな。おい、お前の名は?」

「あ……あっ……」

 声が名を尋ねるが、ツバサは恐怖でそれどころではない。恐怖で凍りつく体を必死に逃がさんと退いている。
 その様子に呆れたのか、声の主が重いため息をつくと、突如青きペンダントが光となって出現し、ツバサの首にかかる。
 それにも驚き、もはや彼は気が気ではない。今自らの身に起きていることは、現実的に考えれば怪奇現象としか説明が利かないからだ。

「(助けてやるから力を抜け)」

 “助けてやる”その言葉に我に返ったツバサは、声が青いペンダントから発せられていることに気がつく。
 それにすがるかのように、ペンダントをぎゅっと握りしめ、胸に押し当てる。その瞬間、ペンダントは眩い光を発し、彼の体を余すところなく包み込んでいく。

「うわああぁ!」

「(アーロン様、私に力を……。波導は我にあり!)」

 叫び声を上げて視界が奪われていくツバサの胸に響くのは、聞き馴染みのある英雄の声。
 光に包まれ、感覚が研ぎ澄まされていく中、ツバサの体が予想だにせぬ変化を遂げ始める。
 手は黒、腕は青色に変化し、そこからトゲが生えてくる。足には肉球がつき、胸はふさふさの黄色の毛に覆われ、そこから腕と同じトゲが生えてきた。
 頭の上に耳がつき、後頭部には四つの房のようなものが現れる。閉じられた瞼が持ち上げられると、一瞬その目は光を生みだす。

「“はどうだん”」

 両手を腰の右側に回し、青く光る弾を生成。勇ましい声を上げながら両手を前に突き出し、青き波導の弾をドククラゲを向けて発射した。
 狙いは寸分の狂いもなく、着弾するとうめき声を上げて倒れ、大量の水しぶきがあげるドククラゲ。その頭からはわずかながら煙があがっていた。

「(は……“はどうだん”!? ルカリオ……なのか? それもアーロンの……)」

「(その通りだ。オーラペンダントで、お前と融合させてもらった。共に戦い、奴を倒すぞ!)」

 そう、不思議な声の主は時を超えてやってきたアーロンのルカリオだ。アーロンの名前とその声を聞き、ツバサはすぐに彼の正体を掴んだ。
 状況が完全には掴めていないツバサだが、“彼と一緒なら戦える”そう思うことができる。ゲームやアニメで彼を知っているツバサは、彼に好意と尊敬の念を抱いていたからだ。

「(改めて聞く。お前の名は?)」

「(オレはツバサ。よろしくルカリオ。助けてくれてありがとう)」

 命を助けてくれたルカリオに、心からお礼を述べるツバサ。しかし当の彼はまったく聞いておらず、鋭い視線をドククラゲに……いや、それとは別のほうに向けていた。
 表情を崩さぬまま、両手を前に突き出すと、そこから無数の“はどうだん”を発射。その光景は、矢の雨ならぬ波導の雨と呼ぶにふさわしい。
 海上からは再び大量の水飛沫があがると、ドククラゲとは別の生き物がうめき声を上げながら飛び上がってきた。

「て、てめえ! 何故俺の居場所がわかった……!?」

 現れたのは鋭い牙を持つサメハダーというポケモン。これまた人語を喋るようで、彼もまたドククラゲ同様、血のような殺気に満ちた瞳の持ち主のようだ。
 自身の居場所がばれたことに驚いている様子。奇襲攻撃でもかけようとしていたのだろう。
 居場所がわかった理由を尋ねるサメハダーだが、ルカリオの口は一切開かない。戦闘に対して真剣で、必要以上は語らない。
 アーロンの従者として厳しい訓練を重ねてきた彼は、戦闘中は寡黙を貫き、極限まで波導を研ぎ澄ませる。
 その態度に腹を立てた海のギャングたち。口から高圧水流を放ち、形勢逆転を狙う。二体同時攻撃のため、ルカリオと言えど当たればただでは済まないだろう。

「(“ハイドロポンプ”!? ルカリオ危ない!)」

 敵の強力な攻撃を目の当たりにし、ツバサは叫ばずにはいられない。しかし、またもルカリオは無言のままだ。
 注意を促すツバサに感謝するどころか、その顔はうっとうしいと言わんばかりない不満を浮かべている。
 その間にも高圧水流は間近まで迫っている。ルカリオは避ける気がないのか、茫然と立っている。ツバサは焦りと恐怖で気が気ではない。
 ところが、攻撃が当たる直前に高圧水流はその向きを変える。あたかも磁石の同じ極同士が反発しあうように、技がルカリオを避けているのだ。
 その光景に、ツバサと敵ポケモンは唖然として言葉を失っている。一方のルカリオは、手を握ったり開いたりしており、何か感覚を確かめているようだ。

「おいおい、雑魚相手にどんだけ時間かけてんだよ」

 と、ここで聞きなれない声がどこからともなく割って入る。いかにも不満がたまっており、その口調は不良と呼ぶにふさわしい。
 その声に驚いたのか、海のギャングたちは右へ左へと忙しく首を回す。実体がなくなっているためそのような動きはないが、ツバサもまた今度は何が起こるのかと不安でいるようだ。
 この不安や緊張、ドキドキと言った感覚は、並みのお化け屋敷やジェットコースターの比ではないだろう。
 ルカリオは謎の声を聞き、ふっと笑う。それは笑顔とは程遠く、声の主が現れるのをあたかも知っていたかのようだ。
 すると突然、ルカリオの体がツバサの体へと戻ってしまう。その一瞬の出来事に反応できず、すっかり力を抜いていたツバサは鈍い音を上げて砂浜に倒れ込む。

「いってぇ……。マジなんなんだよ……」

「変身能力を使って一時的に融合しただけだ。こいつら相手など肩慣らしのようなもの。次は別の奴と融合してみろ」

 頭についた砂を落としながらぶつぶつと呟くツバサ。彼の耳に届いた声はルカリオのもの。はっとして後ろを見ると、そこには、腕を組んで半ば睨んでいるとも取れる、鬼監督とでも言うべき態度でツバサを見ていたルカリオが立っていた。
 憧れのルカリオだが、ひどく上から物を言われているように感じたツバサはむっとした表情を浮かべる。
 だが、その表情でいるのもわずかだ。突如再び首回りに光が出現し、そうかと思うと別のペンダントがかけられていた。
 先ほどと同じ要領で光に包まれると、今度は長いひげに二つのスプーンを持つ別の姿へと変貌を遂げていたのだ。

「最強ヒーロー、オレ、見参! 見せ場はいただくぜ!」





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[[ポケットモンスタークロススピリット 第3話「衝突」]]
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''あとがき''
今回のお話で、このお話の見どころの1つがわかっていただけたでしょうか?このお話は、変身システムが見どころの1つとなっています。
予定では戦闘シーンが多くなりそうなので、山場とそうでないところの魅せ方をしっかり考えていこうとしているところです。
また、原作のキャラを出した理由もお分かりいただけたでしょうか?主人公に感情移入しやすくなっていればと思います。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
よろしければ誤字脱字の報告や、感想、アドバイスを頂きたいです。

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