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ポケットモンスタークロススピリット 第15話「自由への道」 の変更点


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 ポケットモンスタークロススピリット、[[前回>ポケットモンスタークロススピリット 第14話「宝石の行方」]]までは……

 人やポケモンを凶暴化させる謎の物質ゾーンと戦うためポケモンの世界へとやってきたツバサは、二つの不思議なペンダントの力でフーディン、ルカリオと融合――変身する力を得る。ある時、彼と同じくポケモンと変身する力を持つ見知らぬ四人組に出くわしたツバサは、彼らが差し向けてきたポケモンを撃退し、さらに四人組の仲間だったポケモンを自らの仲間とすることに成功する。
 そしてツバサと仲間たちは新たな宝石を求め、次なる地――シンオウ地方を目指し旅を続ける。


第15話 「自由への道」


 ショウタたちと別れたオレは、北東にあるというシンオウ行きの船が出る港町を目指して旅を続けていた。
 今日もうららかな快晴だ。こんな日こそできるだけ距離を稼いでおきたいというもの。傍らにいるフーディン、ルカリオと談笑しながらも無意識に足が速くなっていく。

「ちょっと待て。ずいぶん歩くのが速いな」

 足を速めたオレについてくるのが億劫に感じたのか、やや遅れたルカリオがオレを止める。一方フーディンを見ると先程までと変わらぬ表情であることから、オレの歩く速度に不満はないようだ。
 ゲームでは、ルカリオの進化前であるリオルでさえ、一晩で三つの山と二つの谷を超えるとポケモン図鑑の説明にあったはずだが、彼はあまり速く歩くのが好きではないのか。普段の彼なら少しでも先に進もうとするはずだ。

「どうしたんだ? お前らしくない」

「いや、歩く速度に文句があるわけじゃない。向かっている方角についてだ」

 向かっている方角? オレたちは北東の港町を目指して、仲間たちと別れる時は一番左の道を選んだ。緑に囲まれた自然豊かな道で、空気もおいしく、歩きづらい道を選んでしまったわけでもないのだが……

「私たちは南からやってきたはずだ。北東の港町を目指す者が、一番左の道を選ぶというのは不自然じゃないか? 海が見えるどころか、この先は……」

 "あれを見ろ"とばかりにこの先の道を指さす彼に従い、オレとフーディンがそちらへと視線を移すと、そこに見えたのは雄大な山地。あ、これってもしかして……

「っしゃー! 山だ! 雪山だ! 燃えてくるぜーー!!」

「話を聞いてるのかお前は!」

 完全に道を間違ったことに気付いて頭を抱えるオレに対し、何故か先にある雪山を見て燃え上がるフーディンと、彼にツッコミを入れるルカリオ。勢いで道を選んだことに後悔しつつも、彼らと一緒ならば何とかなるだろうと思えてくる。
 オレは間違って一番左の道を選んだ……つまり北西への道を行っている可能性が高いことから、どこか適当なところで東向きに方向転換をすれば大丈夫だろう。と、そんな楽観的な思考で状況を捉え、オレは再び歩みを進めていく。

「おい、どこに行くつもりだ!?」

「どっかで右に曲がれば大丈夫でしょ」

「この先は雪山だぞ。目が見えているのかお前は!」

 "目が見えているのか"とは失礼な。これでも目は良い方だ。と、そういうことが言いたいわけではないことはわかっている。雪山はもちろん現実世界にもあるし、危険であることは言うまでもない。さすがにオレでもわかる。
 ただ、どうせ長距離を移動するなら楽しいほうがいいし、野生のポケモンもたくさん見てみたい。それに、厳しい環境ほど助けあいが必要なため、オレたちの結束を強めるのに良い機会とも言える。
 今でも十分結束力はあるつもりだが、これを強めるのに限りなどない。より強固な結束を築くことで、どんな強敵だって倒せるはずだ。ガレスも、あのバシャーモと髪の長い奴も……くぅ~燃えてきたぞ!

「Hey! 何ニヤニヤしてんだ? どんな妄想してたんだよ」

「妄想じゃねえよ! ってかいつの間に出てんの!?」

 何故か勝手にボールから出てきたグラエナが話しかけてきた。オレの強敵を倒すところをイメージした顔が、こいつには妄想してニヤけた顔に見えたらしい。オレは妄想などしていない! 断固として否定する!
 と、こんなこと言う奴に限って危ないんだっけか。まあそんなことはどうでもいいとして、何故グラエナは勝手にボールから出てきたのだろう。

「エキサイトしてる場合じゃないぜ。周りをよく見てくれ」

「え? な、なんだこりゃー!?」

 強敵を倒すところを妄想……じゃなくてイメージしていたオレには、すっかり周りが見えていなかったらしい。いつの間にか辺りに白い霧が立ち込め、視界が悪くなっている。まるで猛吹雪の中にいるかのようだ。
 グラエナはこの危険な状況を知らせるためにボールから出てきたというわけか。よほど気を取られていなければ簡単に気付くはずのことだが、彼が出てこなければオレはどこかに頭をぶつけていたかもしれない。

「ありがとな、グラエナ」

「&ruby(どういたしまして){You are welcome};.」

 感謝の意を込めて笑顔で礼を言い、同時に彼の頭を毛の流れに沿って撫でる。目を細めてふさふさの尻尾を揺らす様子から、撫でてもらうことは彼にとっては気持ちがいいのだろう。その喜ぶ姿がオレにとっては、何者にもまして愛しく思える。
 ところで、さっきまで一緒にいたフーディンとルカリオはどこに行ったのか。手が届くくらい傍にいるグラエナの姿は問題なく見えるが、後ろ十数メートルくらいにいたはずの彼らの姿がまったく見えない。

「おーい! フーディン! ルカリオ!」

「ん? 強敵の気配……そこか。メー……何!?」

「おっと、二度もその攻撃はくらわねえぜ! メーン返し!」

「ぐはっ! やられた……」

「お見事!」

「くだらん小芝居をしている場合か!」

 オレの声を聞いたフーディンが居場所を見つけ、木の棒でオレを叩こうとしたのを真剣白刃取り。そして棒を奪い取っての反撃。うんうん、我ながら良い動きだったな。ちゃんとフーディンもそれらしく倒れてくれてグッジョブ。グラエナもナイス拍手。
 おっと、ルカリオが呆れているからこれぐらいにしておこう。木々に囲まれた道を晴天の中歩いていたのだから、この白い霧は明らかに人為的なものだ。と言うことは敵……奇襲か!

「その棒をよこせ。……フンッ!」

 ルカリオはオレの手から迅速に木の棒を取ると、それを勢いよく投げつける。彼の手を離れた棒はすぐに視界から消え去り、それ以降何も反応を返さなくなった。

「この方角でいいようだな。いくぞ!」

 オレたち三人は首を傾げながらも、突然棒を投げた方向に向けて走り出したルカリオに続く。ほとんど視界が遮られているため、何かにつまずいてしまわないか不安だったが、走り出して間もなくオレたちは霧の外へと出ることに成功する。
 霧の外へ出た安心感と同時に、変身しなければ波導を使えないはずのルカリオが、何故閉ざされた視界の中、正確に道を捉えることができたのか疑問が浮かぶ。それを聞いたところ本人曰く、棒を投げた方向が草むらであれば、草がざわめく音がしたはずとのこと。
 棒が一本しかなかったことから若干運任せな行動だったようにも思えるが、あの状況で迅速な判断を下したことは、さすがルカリオと言うべきだろう。

「ツバサ、敵がいることは間違いない。仲間を出してくれ。応戦の準備だ」

 ルカリオの指示を受けたオレは、すぐに腰につけたモンスターボールをすべて取り出し、そこからポケモンたちを繰り出す。加えてキングドラの指示により、開けた場所へと移動を開始する。この場所では道の左右両側に草木があり、敵を捉えづらく奇襲を受けやすいのだそうだ。
 辺りを見回すキングドラが首を動かすのをやめ、応戦するに適した開けた地形にやってきたことを確認すると、一同鋭い目つきで周囲に睨みを利かせる。来るのは誰だ。こんな策略まで使ってくる奴が、縄張りが荒らされるのを警戒した野生ポケモンのすることではない。

「いったい誰だ!? 隠れてないで出てきやがれ!」

「最強ヒーロー、オレ、見参!」

「なんであんたが出てくんのよ!」

 おいおい、このタイミングでいつもの決め台詞をフライングして言うのはやめてくれ。エネコロロが代わりに鋭いツッコミを入れてくれたが、今はオレたちが、敵が現れるのを待つ立場だ。明らかに言うタイミングを間違っている。
 呆れる者、笑う者、表情を崩さない者、と周囲の反応は様々だが、当の本人は至って真剣な面持ちで周囲に睨みを利かせている。というわけだから、これ以上ツッコミを入れるのはやめておくとしよう。



「いた……。二つのペンダントを使う少年……」

 ん? この大人しいというか、感情のないようなこの声は……。刺すような眼差しを声がする上方へ向けると、いつぞかに会った二人の女と、そのパートナーで草タイプのドレディア、氷・ゴーストタイプのユキメノコが宙に浮かんでいた。

「ああ、テメエらは……! …………誰だっけ?」

「ちょっ、忘れたなら"ああ"って言わないでよ。ユリとドレディア、それにレイカとユキメノコだよ」

「フフッ、ヒゲのボウヤ、なめてくれるじゃない」

「誰がヒゲのボウヤだゴラァ!」

「どう見てもボウヤには見えんだろ……」

 さりげなくキングドラがツッコミを入れているが、確かにフーディンはボウヤには見えない。と、そんなことはどうでもいいが、こんなムカつく奴ら忘れるなよ。こいつらはオレと同じ変身能力を持っていて、この前襲いかかってきたエアームドとバシャーモの仲間だ。それにしてもこいつら、どうやってオレたちの居場所を……
 ユキメノコの目が光っていることから、おそらくエスパー技の"サイコキネシス"を使って浮いているのだろう。こいつらが来たとあれば、先程巧妙な策略が仕掛けられていたのもよくわかる。
 おそらく前回のエアームドとの戦いを聞いていて、多少用心して戦おうと考えたに違いない。こいつらの強さ自体未知数と言っていいが、誰か作戦を練るような頭の良い奴までいたことには正直驚いている。

「あら、そこのベイリーフさん……あなた、もしかしてあの時の貧弱なチコリータさんかしら?」

「うっ……」

 うわ、すげえ嫌味な口調。あのドレディア、見た目に合っていると言うべきか、合っていないと言うべきか微妙なところだが、典型的な嫌味なお嬢様口調してやがる。こんな奴相手じゃベイリーフも気で押されると言うか……
 まあこいつはベイリーフが強くなったことを知らないだけだ。前とは全然違うところを見せたら驚くに違いない。

「いったい何の用だ。邪魔をするようなら私の炎で消し炭にするぞ!」

「消し炭……怖い……あなたたちはやはり悪魔……」

 一歩前へ踏み込み、紅の瞳に殺気をにじませ敵を威嚇するヘルガー。その迫力は仲間のオレから見ても気迫だけで押されてしまいそうなほどだ。しかし相手側はそれに対し微塵の恐怖も抱いていないようで、表情一つ変えず、高所にいることと相まってこちらを見下すような目つきで見ている。
 敵はヘルガーの威嚇にも動じていないのだから戦闘は避けられないはず。さてオレはフーディンとルカリオ、どちらと変身すべきか……。相性だけで考えるとルカリオだが、奴らが空中から攻めてくるとすれば現状まともに攻撃できない。

「ルカリオ、今回はオレがやらせてもらうぜ」

「ああ。くれぐれも油断はするな」

「おい! えーっと、名前忘れたけどテメエら、話し合いはこれぐらいにして早く始めようぜ!」

「いい加減名前くらい覚えなさいよ、この戦闘バカ! 初対面のあたしでさえ覚えたわよ!」

 奴らと初対面のエネコロロが名前を覚え、二度目になる、それも先程ベイリーフに教えてもらったはずのフーディンが忘れている。確かゲームのポケモン図鑑では、フーディンという種族は知能が高く、あらゆることを記憶しているとあったはず……
 ま、こんな奴らいちいち覚えてやらなくてもいいか。先程の策略はなかなかのものだったが、今こうして態勢を整えたオレたち相手にたった四人、それも戦闘にかけては実質二人で挑もうとしている時点で間違っている。そんな奴ら雑魚と言っていい。

「言われなくてもすぐに始めてあげるわよ、ヒゲのボウヤ」

「だから、誰がヒゲのボウヤだ!」

「オレはもうつっこまんぞ……」

 あのユリって女、パートナーのドレディア共々ホント嫌味口調だな。オレも話しているだけで腹が立つが、キングドラは奴とフーディンのやり取りを見て既に呆れているらしい。
 さっきの話からすると今回はフーディンが戦う気満々なようで、こちらへ近づいてすぐに変身して戦おうと促してきた。よし、それじゃあさっそく……

「気の早い方たちですわ。今から戦いのルールを教えてあげますからよくお聞きなさい」

 何、戦いのルールだと!? こいつら、いったい何をするつもりだ……

「ルールは簡単。こちらはユキメノコが先に出るから、そちらはフーディンさんとグラエナさんでいらしてくれるかしら?」

「ワタシに勝てたら……次はドレディアと……。そっちは……ベイリーフと……ヒゲ……」

「名前覚えろや!」

「あんたもでしょ!」

 まったく、なんで有利なこっちがいちいち人数制限、しかも出る奴決められて戦わなきゃなんねえんだか……。奴らを叩く絶好の機会である今を、ハンデを与えてみすみす逃すわけにはいかない。
 仲間の表情を伺ってもほとんどが相手のルールに従おうという様子を見せていない。当然だろう。命も危うい危険な戦いだというのに、あからさまなハンデ戦を自ら選ぶわけがない。

「愚か者が……。こちらは戦闘可能な人数が六人もいる。そちらは二人。この有利な状況を捨てるはずがないだろう」

「Hey! 待ってくれルカリオ。お前やツバサやフーディンを信用してないわけじゃないが、あいつらの戦闘力はお前らより遥かに上だ。そんな奴らをまとめて相手するのはデンジャーすぎる!」

「グラエナの言うとおりだよ。ドレディアたちなら連携技も使ってくる。そんなのを受けきれないよ」

 大半が奴らのルールに従うつもりがないと考える中、グラエナとベイリーフが強くオレたちを諌めてきた。元は奴らと行動を共にしていた彼らは、その強さがよくわかるのだろう。奴らの強さがあのエアームドやバシャーモと同等と考えれば、この状況とて一概に有利とは言えないのは確かだ。
 現にエアームド戦ではショウタのボーマンダの助けなしではオレたちは負けていたし、少しずつフーディンとルカリオの力を引き出せるようになってきたオレも、まだ一対一で奴らと張り合えるほどまで強くなったわけではない。
 タイプの相性上、奴らが一番警戒しているであろうヘルガーとの戦闘を避けるために作ったルールであると考えられるが、そのヘルガーとて一度に強敵二体も相手にはできないはず。
 ここはグラエナとベイリーフの諌めを聞き入れたいところだが、ユキメノコ戦はグラエナが相性で有利なためともかく、ドレディア戦が気にかかる。ベイリーフとドレディアは同じタイプであり、相性で優位に立てておらず、さらに気にかかるのはオレとフーディンが連戦することだ。
 オレたちの危険を見れば、奴らに警戒されているであろうヘルガーが動き出しそうだが、そうすれば奴らも連携して攻めてくる。それで乱戦になってしまったら、例え勝てたとしても何人かが大怪我を負うのは必至だろう。それは避けたいところ。
 ならば答えは一つのみ。このルールが奴らの罠であることは分かっている。だが、ここはその手に乗ってやろう。オレが頑張れば奴らの勝算が立たなくなる。いつまでも誰かに頼ってられるか。ここはオレがやってやるぜ!

「そのルール、乗った! お前らはこのオレがぶっ飛ばす!」

「な、正気か!? これは罠だ。奴らはまとめて私の炎で……」

「わかってる。でもここはオレを信じてくれ。いくぞ、グラエナ! フーディン!」

「アイサー!」

「へっ、暴れてやるか。最強ヒーロー、オレ、見参!」

 まんまと罠にかかったとでも思っているのか、奴らは薄ら笑いを浮かべているが、この判断が無謀だなんて言わせねえ。乱戦になれば力技で押しこまれる。みんなを怪我させるわけにはいかない。
 もちろんオレと一緒に戦う奴には迷惑かけるけど、オレが奴らと対等に渡り合えば、あとはグラエナなり、ベイリーフなりの力を合わせて総合力で勝てる。見てろよくそ野郎。お前らのくだらねえ作戦なんか、オレたちの結束力でぶっ潰す!





「おい、お前ら! あの鼻垂れ小僧がこっちに来ねえようによーく見張ってろ!」

「了解した。お前も気を抜くなよ」

 フーディンの指示を受けたキングドラたちが、敵側で待機中のドレディアがルールを破って襲いかかってこないよう睨みを利かせ始めた。これでほぼ奴がルールを破ることはないだろう。そもそもこのルール自体奴らが勝つためのものなのだから。
 バトルフィールドは、傾斜のなく、固さも柔らかすぎず固すぎない普通の土地だ。戦闘中動き回る範囲には木一本とて立っておらず、岩のような障害物もない。地形での有利不利はなく、純粋に個人の力とテクニックが問われるフィールドと言える。
 だがこの戦い、あくまで二対一だ。こちらは味方と上手く連携を取ることで、力を二倍にも三倍にもできる。特にユキメノコ戦ではゴーストタイプの敵に対し、悪タイプのグラエナが相性で有利だ。しかしながら、そのゴーストタイプがエスパータイプのフーディンの弱点を突くため、一方的に有利なわけではない。
 ここはオレたちが敵の攻撃を避けながらサポートに回りつつ、相性で有利なグラエナに攻めてもらおう。間違っても弱点を突かれてオレたちが即ダウンすることだけは避けなければならない。

「あなたの前世は悪魔……。わたしは……負けられない……」

 オレの前世が悪魔? こいつ頭大丈夫か。見た目はオレより年下でガキのくせに、それとは相反して気味が悪いくらいシリアスだな。まあいい。確かレイカって言ったな。こんなネガティブな空気が漂うガキ、オレがすぐにぶっ飛ばしてやるぜ。

「変身!」

 オレとレイカが同時に変身を開始。こちらはサイコペンダントから快晴の空の雲を思わせる純白の、あちらは体から神秘的でも不気味でもある青白い光を放ち、共にポケモンと融合する。まったく、こんなすげえ能力を敵まで持ってやがるとは……
 道具をまったく使わずに変身する奴らの変身法が気になるが、今は聞いている場合ではない。フーディンと融合したことで全身に力がみなぎってきた。さて、いよいよバトル開始だぜ!

「Hey! ここはオレが突っ込む。サポートよろしく!」

「ったくしゃあねえ。バッチリサポートしてやんよ。一気に決めてやれ!」

 よし、さすがポケモンたちのほうも状況を把握して役割の方をちゃんと理解してるみたいだな。さて、オレたちはサポート担当だがどう援護しようか。使える攻撃技の種類が少ないし、ここは補助技を使うか。
 ユキメノコは種族上特殊技のほうが得意だ。特にタイプと一致するゴースト技の"シャドーボール"または氷技の"れいとうビーム"等は威力が高く、警戒を怠ってはならない。悪タイプのグラエナにはゴースト技は効果がいま一つだから、この場合警戒すべきは氷技か。

「いくわ」

 グラエナの接近を見て、宙に浮いてこちらの様子を伺っていたユキメノコが動き出す。雪女を連想させるその姿が氷技を放つ光景は、見る者の背筋を凍らせるのに十分な迫力があるだろう。
 と、氷技による攻撃を想定していたオレの読みは外れていた。敵は着物の袖のような部分から少しだけ出ている左手を体の前で軽く払うと、そこから高威力の電気技"10まんボルト"を放ってきたのだ。

「電気技!? まあそれでも問題ねえ。"ひかりのかべ"」

 その攻撃からグラエナを守るべく、フーディンが右手に持ったスプーンを電撃の軌道上に向け、空中に光の線を走らせ正方形を描く。さらにスプーンを持った腕を振り上げると、光の線を底辺とした半透明の黄色のブロックを形成する。
 "ひかりのかべ"は味方の周りに見えない壁を作り、特殊攻撃を受けたときだけその威力を半減する技だが、彼の"ひかりのかべ"は少し変わっていて、地上空中問わず、空間に障害物を作るものになっている。
 普通のものと違い壁をすり抜けられない点が劣るが、効果の対象となる技であればフーディンの力の及ぶ威力である限り無効化できる。また補助技であればオレの体に対する負担もほとんどなく、素早く壁を形成できれば敵の攻撃を防ぐことはそう難しくないはずだ。
 この一風変わった技に敵であるユキメノコは目を見開いて一瞬驚いた表情を見せるも、この後に続くグラエナの攻撃を警戒して上昇する。どうやら敵もポケモンの特徴をよく理解しているようで、高所にいれば遠距離戦があまり得意でないグラエナが攻撃しづらいと読んだようだ。

「結構高いな。ならハイジャンプでどうだ!」

 上昇した敵へ"かみつく"攻撃を決めるべく、後ろ脚に力を入れたグラエナが敵を目掛けてジャンプする。その脚力は予想以上で、ギリギリどこか余裕で敵の位置まで届く。さては空中にいれば余裕と思って、グラエナの脚力を計り間違えたな。

「わたしの氷は……溶かせない……」

 ところがユキメノコは焦るどころか目を閉じている。まずい、ギリギリまで引きつけるつもりだ。フーディン"ひかりのかべ"を中間に……

「Oh Noーー!!」

「グラエナー!」

 くそ、やられた。グラエナを引きつけほぼ零距離で"れいとうビーム"を撃ったユキメノコ。あいつ、最初からこれが狙いで……。その威力の前にグラエナの体は瞬時で凍りつき、ついには半径一メートルほどの氷の球になってしまった。
 攻撃の要としていたグラエナがいないのでは一気に劣勢となってしまう。ここは反撃するより先に彼を助けねば。しかし、攻撃技がまともに"ねんりき"程度しか使えないようでは……。ここはやるしかないか。

「(フーディン、今すぐ"ほのおのパンチ"を使ってくれ)」

 ほのおのパンチ:威力75の炎技。火炎をまとった拳で攻撃し、敵を火傷状態にすることがある。

「サンキュー。さっそく溶かしにいくぞコラァ!」

 何故"コラァ"をつける!? まあそんなことはどうでもいいとして、早く氷の球と化したグラエナを助けねば。
 そんなオレたちの行動を読み、ユキメノコは攻勢に転じる。あいつの攻撃を防ぎながら氷を溶かすのは容易くできることではない。まったく面倒な奴だ。

「オラオラオラァーー! 早く溶けやがれこのくそ氷が!」

 ユキメノコの接近を知っても、とにかくグラエナを助けなければ話にならない。そのために"ほのおのパンチ"で何度も火炎の拳を氷の球にぶつけているがまるで溶けないではないか。それどこかこちらの手が冷え、これでは"れいとうパンチ"になってしまう。
 ついにはまったく氷が溶けないまま、ユキメノコが攻撃の射程距離まで来てしまう。くそ、これではグラエナを助けるどころではない。逃げることで精一杯だ。グラエナには自力で氷を何とかしてほしいが、あいにくビクとも動かずにいる。仮に氷を溶かしたとして、彼が戦線復帰できるかどうかさえ疑われるほどだ。

「逃がさない……」

 うわ、また"10まんボルト"か。電気技は攻撃速度が速く、あのユキメノコ自体、体に力を入れるでもなく左手を払うだけで強力な電撃を放つのだから恐ろしい。その攻撃速度を前に"ひかりのかべ"の成形が不可能と判断したフーディンは、氷の球と化したグラエナの背後へと回る。って、これって……

「ぎゃああああ!!」

「ふぅ……あぶねえあぶねえ」

 "あぶねえ"じゃねえだろ! グラエナやられてっから! 他の技ならともかく、電気技では氷の中にいても感電してダメージを受けてしまう。凍結中のグラエナを盾にするという白状な行動を取ったフーディンの思考が理解できん。

「お、痺れたけど今ので体が温まってきたぞ! Yeah!」

「(え?)」

「電気が生み出す熱量で体が温まったんだろ? 作戦どおりだな! 着物野郎、こっからが本番だ!」

 どうやら今の行動は氷に閉じ込められたグラエナを温めるためだったらしい。確かに電気は熱を生み出すが、これを狙ってやったと言われるとだいぶ怪しい……。敵は半ば呆れた表情でため息をついているが、まあ結果オーライってことにしておくか。
 とはいえ氷の球はまったく解凍されていない。ならば、敵が呆れているこの隙に解凍作業再開だ。だが、"ほのおのパンチ"でさえまったく溶けないこの氷。いったいどうすればいいのか。溶かすのが駄目なら割ってみるか。だが、パンチでも……。ええい、こうなりゃやけだ。ぶってもぶっても割れないなら……

「ぶってぶって、ぶちまくる!」

 連続で"ほのおのパンチ"を氷に打ちつけるとヒビが入ってきた。よし、これならいける。敵はこの氷は溶かせないと言っていたが、正直ただのハッタリに過ぎないと思っていた。しかし、奴の氷技の威力は想像を遥かに超えている。
 ならばそれに対抗するには、こちらも敵の想像を超えた行動をしなければ。溶けないなら割ってやる。渾身の一発を打ちこむと、ついに氷の球はまるでガラスが割れるかのような甲高い音と共に砕け散った。

「よっしゃー!」

「哀れな……」

「何だと?」

 グラエナを助けた喜びに浸ったのも束の間、なんとユキメノコがオレたちを哀れと言うのだ。その直後、奴は変身を解除し、またあのレイカって奴が出てきた。いったい何がしたいと言うのか。
 奴らはオレたちと違い、変身なしでも通常どおり技は使用できる。だが、戦闘中に自ら変身を解くことが命取りになることくらいわかるはずだ。そこまで見くびられる覚えはない。
 この事態には参戦しているオレたちに止まらず、やや離れた位置から観戦していたキングドラたちも驚きを隠せない様子。一方敵側のユリとドレディアは、苦笑いを浮かべている。何なんだいったい。

「グラエナが可哀想……」

「は?」

「まーた始まった。Hey! そんなに哀れんでくれるなら、いっそオレたちの前に立ちふさがるのやめてくれ」

 また始まった? こいつ、前から同じようなことを? これを敵の隙と見て攻撃に出ることも可能だが、すっかり調子を狂わされたオレとフーディンは、止むなく一時変身を解除する。
 この状況についてよく知っているような素振りを見せているグラエナに話を聞くと、奴が哀れみの様子を見せるのは今に始まったことではないらしい。これだけ聞いてもよく分からないが、グラエナの言うとおり哀れみの様子を見せるくらいなら、いっそオレ立ちの前に立ちふさがるのをやめてほしい。
 ゾーンと戦わなければならないオレたちにとって、こいつらの存在はただ邪魔なだけで、好きで戦っているわけじゃない。ショウタのボーマンダを傷つけられたときはさすがに恨んだが、結局は無事だった今、もしこいつらと手を組めるならそれに越したことはないのだ。

「わたしと一緒なら……あなたは幸せになれる……」

「おいおい、人前で脳内ドリームワールドを膨らませるのはやめてくれ」

「普通に妄想でいいだろ!」

 レイカの奴が風狂なことを口走ると、グラエナは呆れた様子を見せる。その切り返しが面白おかしかったようで、やや離れた位置にいながらも十分会話に入れる距離にいたキングドラがツッコミを入れる。
 それにしても意味が分からない。奴はいったい何のつもりでこんなことを口走るのか。グラエナは自らの意思で奴の下を離れ、そしてオレの下へとやってきた。オレと会うまで彼が奴とどんな付き合いをしていたのかは分からない。だが、過去は過去。今は今だ。

「さっきから意味のわかんねえこと言ってんじゃねえぞ! グラエナが迷惑がってるじゃねえか!」

 困っているとき、落ち込んでいるときは哀れみの目で見られて助けられるのも悪くはない。しかし、今普通に過ごしている者にとって、変に哀れみの目で見られてはプライドが傷つくというもの。レイカの言葉に腹を立てたオレは無意識に叫んでいた。
 グラエナの場合、奴が今のような調子になることに慣れているようでプライドを傷つけられることはないようだが、迷惑なことに変わりはないだろう。それでも彼はレイカの気持ちを汲んで説得に入っているが、奴はまるで彼の話を聞いていない。

「わたしとグラエナは……前世では一緒だった……」

「はあ? 前世だか来世だかコーンスープだか知らねえが、こいつの自由を奪うな! この束縛女が」

「どっからコーンスープ出てきたのよ!」

 えーっと、前世と来世に対応した今を表す言葉ってなんだっけ? 勢いでコーンスープと言ってしまったオレに、エネコロロが鋭くツッコミを入れてきた。なんか真面目に言った自分が馬鹿らしい……

「わたしが……束縛女……? 許さん……貴様だけは絶対に許さん!」

「へっ、許さなくてケッコーケッコーコケコッコー。ノーセンキューってやつだ。こいつの自由はオレが守る。例え格上の戦闘力を持つテメエが相手でもな!」

「(ツバサ……)」

 オレの言葉に物静かな態度が一変。レイカは狂気を露わにし、再びユキメノコと融合を始める。この状況に尻尾を垂らし、がっくりと項垂れるグラエナを見たオレは、精一杯の笑顔を浮かべ、優しくその頭を撫でる。"大丈夫だよ"という励ましの気持ちを込めて。
 再び襲いかかってくるユキメノコに応戦すべく、オレもすぐさまフーディンと変身を再開する。さっきは一方的にやられたが、今度はそうはいかねえぜ。

「グラエナ……罪からは……逃れられない……」

「……分かってるさ。だが今は、あんたを倒させてもらうぜ!」

「ごちゃごちゃうっせえんだよ着物野郎。今度はぶっ飛ばす。覚悟しやがれコラァ!」

「滅びなさい……」

 ユキメノコは両手を引っ込め、袖のような部分に隠すと、袖口をこちらへと向ける。すると突然袖口から烈風が吹き出してきたではないか。しかも冬山の咆哮とも言うべき身も震える寒風。これは"こごえるかぜ"か。
 グラエナは飛ばされないように伏せ、オレたちも身を屈めて耐え凌ぐ。しかし妙だ。温度的な寒さに加え、この風に当たると熱が出るときのような、背筋がゾクゾクと震えるような不気味な寒さを感じてしまう。まさか"あやしいかぜ"!? くっ、だがどうして一度に二つの技を……

「気をつけろ! レイカのユキメノコは一度に三つまで技を使うことができるんだ!」

 何? 一度に三つまで技を使えるだと!? 同じ技を両手から出すことぐらいできるが、違う技を二つ同時に放つことさえかなり高度な技術を要するはずが、奴は三つまで繰り出せるのか!
 まったく、さっきの急変ぶりもそうだが、ホントにこいつら化け物だな。ガレスだけでも厄介なのに、こんな化け物が何人もいるかと思うと寒気がしてくる。
 そう言えばエアームドも"つるぎのまい"と攻撃技を一度に使っていたはずだ。それも高度な技の使用法と言えるだろう。真似しようったってそう簡単にできるものではない。これまでエアームド、ユキメノコがそれぞれ違ったテクニックを持っているのだから、ともすればドレディアとバシャーモも……。ホントに頭が痛くなってきた……
 ゾーンとは違う未だその目的さえ知らない謎の敵との戦いを思って頭を痛めていたオレだったが、ふと気がつくと先程の寒風や不気味な風が止んでいる。思考の世界から戻り、目の前の様子を見ると、オレたちはいつの間にかグラエナと一緒に"ひかりのかべ"の中にいた。これなら二つの風の技を防げるってわけだ。

「ふぅ~寒いなぁじいさん」

「そうだなぁ。技の炎で温まろうかいじいさん」

 こんな昔話が……ってどっちもじいさん役かい! つーか、こんなところで焚火をしてる場合かー!

「(ワタシの……同時攻撃を……壁一枚で……信じられない……)」

 漫才はこれぐらいにしてとっとと反撃に出るとしよう。フーディンは威力75の技を解放したから、ユキメノコの弱点をつける炎技"ほのおのパンチ"が使える。一方グラエナは"かみつく"が使える。攻撃にはどちらも申し分ないものだが、如何せん相手が浮いているために近距離技が当てづらい。さて、どうしたものか……

「(近距離技で攻めるなら一撃で決めるしかねえな。そこでオレに秘策がある。まあ見てろ)」

 心身を共有しているフーディンから心の声をかけられ、オレはその言葉に従うことにした。とは言っても"まあ見てろ"と言われたわけで、オレに何かできるということでもない。
 いや、グラエナに何かをさせるだけの作戦でなければ、フーディンが動くのだからオレが動くも同じ。ここはきちんと作戦内容を把握し、万全の態勢を持って作戦実行に臨みたい。

「(わかったよ。オレの作戦はこうだ。ゴニョニョ……)」

 なるほど……ってそんなことできるのか!? 彼から告げられた作戦はオレには想像もできないものだったが、もし成功すれば一撃で相手を倒す……仮にそこまでいかなくとも大ダメージを与えるのは間違いない作戦だった。
 その準備には多少時間がかかるため、敵の動きを止める必要がある。それについてはオレから作戦を提案するとしよう。グラエナは遠距離技を覚えていないため、フーディンのみが遠距離技で攻め続けても相手を回避に専念させることは難しい。そもそもフーディン、グラエナのどちらも自由に動けなければ先程の秘策は成功しない。
 攻撃を止めるではなく、完全に動きを止める。それに適した相手を麻痺状態にさせる技"でんじは"をフーディンは使えるが、これでは簡単に見破られてしまう。そこで……

「そこで突っ立ってろよ。"リフレクター""ひかりのかべ"」

 フーディンが両手に持つスプーンをユキメノコへ向けると、奴の周辺に四つの光の線が走り正方形を描く。直後素早くフーディンが腕を振り上げると、青色と黄色のブロックが形成される。敵の四肢の関節を取り押さえたのだ。
 技の成形速度は戦闘開始時を上回っており、しかもフーディンは簡単に破られないよう一度に二種類の技を使用したのだ。って、これって一緒にやったことだし、オレも結構すごいのかな? な~んてな。

「あのボウヤ、二種類同時攻撃を一度見ただけで修得したというの!?」

「ワタクシにも真似できないユキメノコの得意技が……」

「(くっ……なんていう奴……)」

 観戦していた敵側の二人も、技を受けたユキメノコも相当驚いてるらしいな。正確には補助技の同時発動であり、ユキメノコのように三つ同時に使用できるわけではない。だが、正直オレもあっさり修得したことには驚いており、これがオレのフーディンが持つ戦闘センスなのだと思うとこの上なく心強い。
 相手の関節を押さえるのはオレが考えた作戦だが、二種類同時発動により敵は予想より遥かに混乱している。今こそあの秘策、使う時だ!

「そんなんで驚いてんじゃねえよ。今からもっとすげえ技見せてやるぜ! グラエナ頼む!」

「アイサー! とっておきの剣を作ってやるぜ!」

 敵が混乱している隙に、フーディンは二つのスプーンを薄紫色で半透明の剣へと変形させる。この超能力で生み出す特殊武器は、前に一度見た"サイコカッター"の技だ。心の刃と言われるこの技を、斬撃としてに止まらず、剣として使用するのはゲームからは分からないものだが、彼の手にかかればあらゆる技が発展を遂げる。
 その心の刃二つを地面に置くと、グラエナは待ってましたとばかりにその剣に噛みつく。間違って刃で怪我をしないでくれと心配してしまうが、そんな心配など無用であると言わんばかりに彼は一心不乱に刃を噛みしめる。

「(安心しろ。オレだって残酷なことがしてえわけじゃねえ。心の刃だけにオレの意思で本当に斬るか、単純に攻撃として使うか決められるから心配すんな)」

 なるほど。使用者の意思で切れ味が変わる仕組みになっているのか。まだまだポケモンには分からないことがたくさんあると言うが、本当にそうだと思う。この刃だって見た目は敵を斬るものだ。だが実際は違う。敵の"心"を斬る刃なのだ。
 グラエナの噛みつきにより、薄紫色の刃は徐々に色を変え、ついには透明さが失われ、代わりに光沢のついた漆黒の刃へとその姿を変える。エスパー技に悪技を混ぜることなど不可能に思われたが、どうやら予定通り完成したようだ。これで奴を倒せる!

「Hey! お待ちどうさん。完成したぜ"ダークライの&ruby(つるぎ){剣};"」

 グラエナが噛みついたのは、刃に悪タイプの力を入れるため。つまり、彼は"かみつく"の技を使用していたわけだ。その力が刃へと沁み渡り、今、漆黒の剣が完成した。
 "ダークライの剣"それは、エスパー技の剣である"サイコカッター"の上位互換性能を持つ悪タイプの剣となった刃を、伝説のポケモンであり悪タイプの"ダークライ"になぞらえてつけた名前だ。一種の合体技と言ってよく、この効果は短時間で失われてしまう。その前に早急に敵を倒さねば。

「そうは……させない……」

 どうやら敵も二種類のブロックを破壊したようで、知らぬ間に態勢を整えていた。対物理性能を持つ"リフレクター"と、対特殊性能を持つ"ひかりのかべ"を併用することで、楽には割れないようにしたつもりだが、意外と早く破られたのはさすがユキメノコと言ったところか。
 奴は開いた左手を前に突き出し、その上に握りしめた右手を乗せる。そしてそれを腰の右側へと回すと、両手に冷気のエネルギーを結集させ始めた。間違いなく氷技がくる。それも凄絶な力のものが。

「哀しき戦い……終わらせる……」

 感情のこもっていない静かなその声とは裏腹に、先程の"こごえるかぜ"を遥かに上回る烈風を放ってきた。氷タイプ最強クラスの威力を持つ"ふぶき"だ。技の元の威力の高さに加え、使用者が使用者だけにあれを受けている間は到底反撃などできない。
 "ダークライの剣"の効果が失われるその前に、何としてでも一撃を与えたい。そのためにできること、それはただ一つ。

「オレの背中に掴まれ」

「イエッサー!」

 "ふぶき"が直撃するその前に、この場を移動する。

「なっ……なに!?」

 ユキメノコの背後にな。フーディンの技"テレポート"で瞬間移動したのだ。オレたちは空を飛べない。だが、この技を使えば空中に移動することはできる。

「オレたちの勝ちだ! くらえ!」

「"ダークライの剣"」

 フーディンとグラエナ、それぞれ一本ずつ剣を手に持ち、咥え、落下しながら刃を交差させる。慌ててユキメノコが振り向いた頃には時すでに遅く、"ダークライの剣"が奴を斬り伏せていた。





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[[ポケットモンスタークロススピリット 第16話「あなたと歩む道」]]
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''あとがき''
今回のお話は今作二度目となる山場の回でした。山場と言う割にはかなりネタ満載ではありますが、結構キャラクターの個性を出せたかなと思っています。やはりメインキャラクターは設定を練り込んでいるだけに書きやすかったです。
しかしながら前回のお話で反省した情景描写は相変わらず未熟なもので、これからも引き続きより一層の努力が必要だなと反省しております。一人称は情景描写より心情描写に向いていると思いますが、一人称でももっと情景描写を書けるようになりたいものです。
キャラクターの個性については、味方キャラの個性を強くしようとするのはもちろん、実は今回の敵だったレイカ&ユキメノコ等の敵にもある一定の法則で性格分けをしています。人数や台詞がヒントになりますが、こちらのほうも個性を立たせることで山場を盛り上げていきたいと思います。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
よろしければ誤字脱字の報告や、感想、アドバイスを頂きたいです。
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