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ポケットモンスタークロススピリット 第13話「竜の施し」 の変更点


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作者 [[クロス]]
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 ポケットモンスタークロススピリット、[[前回>ポケットモンスタークロススピリット 第12話「激昂の鎧鳥」]]までは……

 人やポケモンを凶暴化させる謎の物質ゾーンと戦うためポケモンの世界へとやってきたツバサは、二つの不思議なペンダントの力でフーディン、ルカリオと融合――変身する力を得る。ある時、彼と同じくポケモンと変身する力を持つ見知らぬ四人組に出くわしたツバサは、彼らが差し向けてきたポケモンを撃退し、さらに四人組の仲間だったポケモンを自らの仲間とすることに成功する。
 しかし、突如現れた謎の生命体ガレスの攻撃により彼が滞在していた島――トクサネシティは消滅。ツバサは同じ現実世界からやってきた仲間を失ってしまう。その後、彼に課せられたもう一つの使命、世界を救うために必要とされる伝説の宝石を集めるため旅を始めることに。
 仲間から得た情報で伝説の宝石の一つレックウザエメラルドを手に入れるべく“裂空の頂”を目指していたツバサだったが、かつての四人組の一人コウジと変身したエアームドの襲撃を受けてしまう。途中仲間のボーマンダの援護により優勢となったツバサだったが、あと一歩のところで敵の救援に現れたバシャーモの攻撃によりボーマンダは瀕死の重傷を負ってしまう。敵は去ったものの、傷跡の残らない不可解な攻撃で仲間が倒れ、ツバサたちは悲しみに暮れていた。

第13話 「竜の施し」


 バシャーモの不可解な攻撃により、オレたちを助けにきたボーマンダが瀕死の重傷を負った。オレが弱いせいでルカリオの力を引き出せなかったことが、彼が重傷を負ってしまった一つの原因であることは間違いない。
 今、大切なパートナーが無残な姿で倒れ伏すのを目の当たりにし、ショウタは何を思っているのだろう。大切な者を失う悲しみ。ボーマンダをこのような姿にした敵に対する憎しみ。おそらく、その胸の中にオレに対する恨みはないだろう。
 せめて、せめてショウタが思いっきりオレを殴ってくれれば多少は罪滅ぼしにもなるだろうが、彼に限ってそんなことはない。その優しさがかえってオレの胸を締め付け、この場にいることが居たたまれなくなってきた。

「お前のせいではない」

 言い知れぬ思いが込み上げ、ひたすら自分を責めるオレの気持ちに気付いたのだろう。共に現場を目撃したルカリオが、オレの左肩にそっと手を置き、低く穏やかな声でそう語りかけてきた。
 わかっている。悪いのはオレではない。すべて敵であるバシャーモ、そしておそらく彼と変身していたであろうヒリュウというあの少年のせいだ。ただ、オレはこの世界にやってきた意味を思うと、自分を責めずにはいられない。
 ルカリオによれば、ペンダントが適合するにふさわしい選ばれし者としてオレを選んだという。つまり、オレは強い存在として、危機が迫るこの世界のすべてを守るためにやってきたのだ。
 その“選ばれし者”という肩書きがオレには荷の重過ぎるものであり、そう思われることが非常に苦痛でならない。ユウキ、バクフーン、ヒトミ、フライゴンに続き、ボーマンダまで目の前と言っていい状況で命を絶たれていくことが、オレが無力であることを証明している。

「ボーマンダ……!」

 目の前の様子など見えず、完全に自分の世界に入りひたすら己を責めていたその時、ふとショウタの、ボーマンダを呼ぶ声を聞き、はっと我に返る。ボーマンダに覆いかぶさるようにして泣き続けていた彼が突然立ち上がり、ボーマンダと距離を置いたのだ。
 彼がボーマンダから離れたことで、倒れているボーマンダを隠すものがなくなり、その無残な姿が視界へと入る。と、そこでショウタが距離を置いた理由がわかった。なんと、ボーマンダの体が白く発光しているではないか。
 その光景は神秘的ながらも彼の命が尽きそうであることを象徴しているようで恐ろしく、さすがのショウタもその不気味さにたじろいだのだろう。相次ぐ不可思議な事態に息を呑みつつも、ただ恐れおののくばかりではいられないと考えたオレは、オレたちの知恵袋とも言えるキングドラにこの事態について尋ねることにした。

「これは……おそらく魂が天に……」

 その答えは婉曲的ながらもわかりやすく、また予想通りでもあった。一同成す術もなく立ちつくし、光昇る天とは対極にある地に向けて顔を俯かせる。しかし、その中でただ一人だけが、光昇る天を仰いでいた。キングドラだ。
 その様子に気付いたオレは彼に視線を合わせ、次いでその彼の視線を浴びる天へと目を向ける。直後、フッと軽い笑い声が漏れたのが耳に入った。またしても彼だ。こんな時に、いったい何故笑い声が出るのか……

「あれを見ろ! あいつがくる。これでボーマンダは助かった!」

 唖然とする周囲をよそに、一人この先の展開が見えているかのように笑うキングドラ。そんな彼の言うとおり、大空を見上げると小さな何かが風船のように膨らみ巨大化しているのが見えた。いや、正しくは急降下して接近していると言うべきだろう。
 その接近する何かの正体を知るのにはさほど時間はかからなかった。地上へ降り立ったとき、その巨体から放たれる威圧感とも威厳とも言うべき迫力は凄まじく、身を震わせずにはいられない。現れたのは、エメラルドの如き美しい緑色の体を持ち、東洋の竜を思わせる伝説のドラゴン、レックウザ。
 このレックウザこそオレたちが探し求めていた存在であり、当初の目的地である裂空の頂の主である。レックウザエメラルドを手に入れるために彼の元へ向かおうとしていたオレたちにとって、彼自らがこちらへ来てくれることはありがたいことだ。ただ、このことがボーマンダの命が助かることといったい何の関係があるというのだろう。

「レックウザ、あんたならこのボーマンダを救う術を知っているだろう?」

 レックウザが味方であることは言うまでもないが、この伝説のポケモンを相手にまるで普通のポケモンを相手にするように、それもまるで友人と話すかのように緊張感の欠片もなく淡々と語る彼の様子には驚きを隠せない。
 だが、他でもない彼のことだ。レックウザと知りあいでないにせよ、その能力の程度は知っていてもおかしくはない。そんな彼の問いかけにレックウザは頷くと、巨体の割には小さな、とは言ってもキングドラのようなサイズでも鷲掴みができる大きさの両手を前に突き出すと、その間から淡い緑の光を放つ球体を生み出す。
 その球体は拳ほどの大きさまで膨らむと、ゆっくりと宙を舞いショウタの元へと降りてきた。それを受け止めるように両手を開くと、球体は彼の手に収まり、それと同時に発光が停止。手に収まったそれこそ探し求めていたレックウザエメラルドであり、透明で濃い緑色の本体が見る者の心を洗うかのような美しさを放っている。

「“それを用い、想いし者と一体となれ”」

 キングドラがレックウザの言葉を通訳して伝える。その言葉を受け、地獄へ落とされたと言っていいショウタの心に光が射し、レックウザに向けて深く一礼すると、彼はすぐにボーマンダの元へと歩み寄る。白目を剥き出しにし、口を開いているボーマンダ。傷一つない体でその状態となった彼は、まるで魂を抜かれた抜け殻のようだ。
 そんな彼を労わるようにその背をさすり、次いで授かった伝説の宝石レックウザエメラルドをその心臓に宛がう。その瞬間再び宝石は発光し、淡い緑の光で彼らを包み込む。だが、先程発光したときとは違っていた。宝石は先程を遥かに上回る輝きを放つばかりか、後ずさりしてしまうほどの突風を巻き起こすではないか。
 その光と突風の衝撃に目を開くこともできず、気を抜けば吹き飛ばされてしまいそうなオレたちは宝石から顔をそむけ、手のあるものは片手で目を覆う。この力はいったい……



 ようやく光と突風が止み、ショウタたちへ目を向けると、そこには紅蓮の大翼を広げ、大空へ届かんばかりの咆哮で自らの力を誇示するボーマンダの姿があった。そう、彼は生死の境から見事復活を遂げたのだ。
 しかし、ここで不自然なことに気付く。ボーマンダの背中をさすっていたはずのショウタの姿がない。まさか、ショウタはボーマンダの代わりに……

「なるほど。そういうわけか」

「つまり、パワーアップしたってことだよな。Congratulations!」

 ヘルガーとグラエナの声が耳に入り、次いで他の一同もにこやかな表情を浮かべている。ちょっと待て。ショウタはどうなった。

「ショウタはどうって、こりゃ最高じゃねえか!」

「いつまでもそんなアホ面してないでツバサも喜ぼうよ!」

 フーディンよ、何が最高なのか……っていうか、待て。ベイリーフの奴さりげなくひでぇこと言ったぞ。誰がアホ面だ。こっちは心配してんだよ!

「レックウザによれば、伝説の宝石はすべて私たちのペンダントと同じく変身能力を持っているらしい」

 ルカリオの言葉で、ようやく状況を理解するに至った。ったく、こっちはレックウザの声なんて唸り声にしか聞こえねえんだから通訳しろよ。と、ポケモンたちに文句を言いながらも、なんか良いこと聞いたように思う……って、宝石も変身能力を持ってるだとぉー!
 現状では変身能力を使いこなせていないため、ややデメリットのように思いがちだが、変身できることは立派なパワーアップである。それがショウタたちに起きたのだ。この戦いの旅において、強力な仲間がいることほど好ましいことはない。
 だが、疑問は残ったままだ。この宝石の能力は眼前に広がる光景が成り立つ理由を証明しているとは言えないはずである。そもそもボーマンダの身に何が起こり、どうして変身することで死の淵から這い上がってこれたのか。

「“魂を抜かれたボーマンダの体に、ショウタが融合することで復活した”と言っている。となると、あのバシャーモは相手の魂を……」

「そ、そうなるよな……。怖ッ! でもさ、ボーマンダの魂は抜かれたわけだから、ショウタがあの体を使ってるってこと?」

「いや、“変身はすべてを共有するものだ”と言っている。つまり、ショウタの魂の力を宝石が増幅し、それをボーマンダに分け与えたというわけだろう」

 う、最後らへん話が難しいんだけど……。ルカリオとレックウザを交互に見ながら話を繰り返し、なんとなく宝石の秘密を掴めたように思う。話が難しく、最後までわからなかったが、とにかくボーマンダは助かり、ショウタと変身できるまでに強くなったということで落ちつけることにする。
 だが、一方でバシャーモの不可解な攻撃に関して疑問が浮かぶ。相手の魂を抜くなどといった凶悪な技など本来存在しない。しかし、現実としてあのバシャーモはボーマンダの魂を抜いたというのだ。
 人とポケモンが融合し、増幅された力をぶつけ合う。勝った者が生き残り、負けた者は魂を抜かれる。その事実に、改めてこの戦いの恐ろしさを胸に刻まれたように思う。これはもはや、ポケモンバトルではないのだと……

「よっしゃー! これからバンバン活躍するぜー!」

 何はともあれ、レックウザの登場で事態は好転した。先々を思うと不安や恐怖を感じずにはいられない事実を今回の戦いで知ったが、こちらが強化されたこともまた事実だ。ボーマンダの力強い言葉がその証拠と言えるだろう。
 目の前で仲間の無事を喜び、誰しもが笑顔という名の花を咲かせている。その光景こそ幸せの象徴であり、これからも何とかやっていけるだろうと思わせてくれるものだ。ショウタが強くなったのだから、オレも負けてはいられない。その気持ちを表現するように両手の拳を胸の前でぶつけ、オレは一人静かに闘志を燃やすのだった。





 ボーマンダの無事を全員で喜んだあと、ショウタは変身を解き、ツバサはグラエナたちをボールに戻した。仲間が無事で、しかも強化されたのは嬉しいが、いつまでも喜んでばかりはいられねえしな。
 レックウザもいつまでも地上にいるわけには行かないようで、そろそろ裂空の頂に戻るらしい。まああいつみたいな伝説のポケモンが普通にいたら、ニュースになって野次馬どもが集まってくるだろうしな。そんなのに付き合っていられるほどオレたちも暇じゃない。

「お前たちに伝えておきたいことがある。伝説の宝石の一つ、カイオーガサファイアは既に何者かの手に渡っている」

「なんだと!? おいおい、管理はどうなってんだ。大事なものじゃねえか」

「まあまあ落ちついて」

 なーにが“落ちついて”だか……。ショウタの奴、自分が宝石手に入れたからって浮かれてるんじゃねえっつーの。宝石に変身能力があることは知らなかったが、それがあると知った以上、宝石そのものがとんでもない代物だってことはよくわかったはずだ。
 もともと世界を救うため、テンガン山に納めればいいってことぐらいは知ってたが、何故それで解決になるのかも知らねえしな。まあ世界を救うほどの物なんだし、変身能力があっても不思議ではねえんだけど……

「今回もリトではないだろうな?」

「いや、まさかでしょ。つーか、あいつはまた立ちふさがったらオレがぶっ飛ばすって言っただろ?」

「宝石は生きており、用いる人とポケモンを選ぶ。適合者のみが触れることを許されるものゆえ、邪悪な者の手に渡ることはないだろう」

 つまり、あんまり気にすんなって言いたいらしい。伝説のポケモンほどの奴が邪気に気付かないわけはねえし、レックウザの言っていることは辻褄が合ってるんだろうな。すぐ取られる場所に保管してたのが気になるが、まあ良い奴に渡ったなら問題ねえだろ。
 ゾーンや伝説の宝石は強化能力があり、本来並み程度の力の奴にとんでもねえ力を与える。だが、オレにもサイコペンダントがあるんだ、どんな奴が現れてもオレが倒す! そう心に決めてれば、何も恐れることはない。そういうもんだよな。

「俺が力を貸してやれるのはここまでだ。最後に一つだけ言っておく。人とポケモンの融合、&ruby(クロススピリット){魂の出逢い};は神の力だ。決して使い方を誤るでないぞ」

「クロススピリットは神の力……? それってどういう……」

 自分が言いたいことを言うと、レックウザはツバサの質問をシカトして大空へと飛んでいった。変身してねえといちいち通訳が必要だから、喋るのがおせえんだよなぁ。だからシカトされんだよ。
 ツバサとショウタは首をひねってるし、ルカリオとボーマンダは深刻な顔してやがる。神の力だがなんだか知らねえが、オレたちはこの力を悪ぃことに使おうってんじゃねえんだ。“任せとけ”って言えるくらい自信を持っていこうぜ。
 レックウザの一言で他の奴らの気が沈むだなんて、そんな情けねえ話はねえからな。オレはツバサたちの肩を叩くと、“オレがいるだろ”とばかりに自信満々の表情を見せ、こいつらの気持ちを鼓舞したのだった。





 レックウザと別れた後、ルカリオの推奨を受け、次なる目標をシンオウ地方と定めたオレたちは、ボーマンダの背に乗り空を飛んでいた。現在いるホウエン地方からシンオウ地方まではかなりの距離があり、現実世界から突然やってきたためにお金を持っていないオレたちにとっては、無理をして長距離移動をすることはできない。
 あくまでポケモンセンターを拠点とし、そこを転々とする形で移動していきたい。そう考えたオレたちは、旅を急ぐことはせず、特訓を重ねながらゆっくり進むことにした。
 空の柱から北東へ向けて飛び続けたオレたちは、大きな島を発見する。いや、もしかすると陸続きになっているのかもしれない。空を飛んでばかりではボーマンダも疲れるだろうと判断し、とりあえずその島へと降り立つことにした。

「ここはどこなんだろうな。何か場所がわかる看板みたいなのがあれば……」

「あったぜー」

 あるんかい! まるでオレたちを待っていたかのように都合よく立っていた看板を見つけると、早速現在地を確認する。どうやらここはホウエンの最北東にある大陸のように大きな島のようで、ここから先さらに北東に進み海を渡ればジョウト地方に繋がっているようだ。
 ゲームではホウエン地方の最北東にあるのはトクサネシティであり、それ以降に島は表示されていなかったはずだ。やはり現実とゲームというのは多少の差があり、ジムやコンテスト会場といったものがなければ地方の端に存在する島や町などは表示されないのだろう。
 看板のおかげで大まかな位置情報を掴めたオレたちは、徒歩でさらに北東へと進むことに決める。しばらく進み、小さな丘にやってくると遠くにポケモンセンターが見えた。よし、もう夕暮れ時だし今日はあそこに泊まるとしよう。そう思って表情を緩ませると後ろから肩を叩かれる。

「ねえ、ポケモンセンターに行く前に軽く一勝負しない?」

 肩を叩いてきたのはショウタであり、なんとここでバトルをしようと言う。不意の提案だが、売られた喧嘩はなんとやら、とはよく言ったものだ。おそらくショウタも慣れない変身で苦労するだろうから、そんなに激しいバトルにはならないだろう。
 本人が“軽く一勝負”と言っているのをそのままの意味で受け止めたオレは、もちろん受けて立つと彼の提案に応じる。相手が変身するのだから、こちらも特訓のために変身して戦いたい。前回ルカリオと変身しているため、今回はフーディンと一緒に戦うとしよう。

「ツバサたちは強いけど頑張ろうね。僕も頑張るし、何よりキミならできるよ」

「ああ、俺に任せろ!」

 ボーマンダもやる気十分のようで、勝つ気満々のようだ。もちろんオレたちだって負けはしない。まだまだ使いこなせていないとは言え、相手は変身して戦うのは初めてなのだ。まあ手加減してやりたいところだが、フーディンと一緒ではそれは叶わないだろう。
 ルカリオが審判のように離れた位置に立つと、オレとフーディン、ショウタとボーマンダがそれぞれ向かいあう。共に変身のアイテムを取りだすと、それを掴んだ右手を正面に向けて伸ばす。そしてこれが戦いの合図だ。

「変身!」

 ショウタと声が重なり、サイコペンダント、レックウザエメラルドがそれぞれ光を放ち、トレーナーとポケモンを一体化させる。光を弾くように、それぞれ腕と羽を広げると変身完了だ。

「最強ヒーロー、オレ、見参!」

 出た出た。やはりこれを言わなければオレのフーディンは始まらないのだろう。彼は決してナルシストなどではないことから、どこか子供っぽいところがあるのかもしれない。いずれにせよ、オレたちが本当に強くなれば彼の言葉どおりの存在になれるだろう。
 オレは“選ばれし者”や“ヒーロー”といった大それた評価を受けることを好まないが、オレにとって自分のポケモンはヒーローとも言える存在である。単に変身の意味で力を合わせるだけでなく、ポケモンが望む形を共に描くというのが良きパートナーとしてあるべき姿だろう。そう思ったオレは彼に調子を合わせるように、闘志を燃やし始める。
 同様にフーディンも両肩を忙しく回して気合いを入れる。対するボーマンダは様子を見るためだろうと推測されるが、紅蓮の翼をはばたかせ宙へと浮かびあがった。
 初めての変身では、彼らが使用できる技はおそらく“ずつき”程度だろう。“ずつき”自体技の威力がゲーム上で言うところの70なので、こちらがメインで使用する“ねんりき”の60を上回るが、使用者と技のタイプが一致しているこちらは60という数字を超える威力を出せる。
 まずは挨拶代わりに先制攻撃といこう。フーディンは風を切って短い草の茂る丘を駆けると、ボーマンダの下方を取るべく接近する。そしてこの技だ。

「いくぜ! “ねんりき”」

 両手に持つスプーンから薄紫色の光を放つと、その光はボーマンダの全身を包み込み、体の自由を奪う。本来この技は相手を投げ飛ばして攻撃するものだが、敵の体が重い場合は易々と放り投げるというわけにはいかない。
 接近できれば“ねんりき”の力も強まるため、ボーマンダを地上へと落とすべく重力をかける。抵抗するために敵は翼を忙しくはばたかせているが、わずかにこちらの力が上回っており、徐々にではあるが確実に落下しているため作戦は成功していると言えるだろう。

「へへっ、どうだどうだ!」

「くっ……負けてたまるか! これでもくらえ!」

 初めての変身時に使う技なんてたかが知れている。どうせ“ひのこ”だろう。顔をしかめてやや苦しそうにしながらも、ボーマンダは口から火花を漏らし始めた。やはり“ひのこ”かと思い内心笑うと、心が通じているフーディンもまた予想通りの攻撃に口元を緩ませる。

「やめとけやめとけ。“ひのこ”なんかがこのオレに……」

 ところが、直後異変に気付く。敵であるボーマンダの目が笑っているのだ。零距離でもないのに“ひのこ”なんかで勝算が立つわけは……

「“かえんほうしゃ”!」

「んなもん使えるわけ……って、うっそだーーーー!!」

 ここで“かえんほうしゃ”だとーーー!? あぢいいぃぃ!! もう駄目だ! 助けてくれーーー!!

「こんがり焼けたかな?」

 ゴホッゴホッ……。なんて意地汚い奴。はいはい、こんがり焼けましたとも。“軽く一勝負”と言ったくせに、マジでやりやがった……。完全に不意打ちを受けたオレたちは成す術もなく豪快に焼かれ、見事立派なフーディン焼きに……

「ぺっ……ま、まいった……。ち、ちくしょー!」

 フーディンが黒焦げになりながら唾を吐いて負けを認めたため、すぐに変身を解除。“かえんほうしゃ”の一撃で負けを認めるなど情けないが、油断しすぎたせいで高威力の技を直撃で受けてしまい、これ以上バトルにならないダメージを受けてしまったのだ。
 それにしても何故ボーマンダが“かえんほうしゃ”を……。あいつら初めての変身だぞ? マジありえねえんだけど……。見た目は大人しそうな好青年だが、実はショウタはマッチョだったとか?

「よくわからないけど、ボーマンダと一緒にドキドキしながら戦ってただけで、とにかく楽しかったよ」

 くっ……こっちは散々苦労してるってのに、ショウタときたらさらりと“楽しい”とか言ってやがる。くっそー……なめやがって……!

「うーむ、どうやらペンダントと宝石では同じ変身でもやや仕組みが違うようだな」

「真面目に解説すなー! 少しはオレを気遣えよ!」

「ショウタ、体のどこにも痛みはないんだろう?」

「うん。全然ないよ」

「シカトかいっ! つーか痛ぇのオレだから!」

 ルカリオが状況を分析するところを、炎技を受けたからなのか腹を立ててなのかフーディンが頭から煙を出しながらわめいている。こいつら漫才コンビかよ。と、ツッコミを入れたいところだが、オレ自身フーディンのように外傷はないとはいえ頭痛が酷い。
 ボーマンダの“かえんほうしゃ”を頭から吹きかけられたのだから当然だろう。これを気遣わないルカリオは完全に鬼畜と言っていい。と、心の中で文句を言ったところで、現在波導を使用できない彼には無視されるのがオチである。
 結局その後も彼らはオレとフーディンが見えていないかのように会話を進め、再度変身して実験を行った結果、ペンダントによる変身と違い、使用できる技の数は通常通り四つなのだそうだ。
 しかしながら人間の使用者の負担が非常に少なく、敵の攻撃によるダメージ以外は受け付けない。こちらと違い、自らの使用する技で体に負担がかからないのだから、宝石による変身は早期強化が図れるというわけだ。
 この違いの理由は不明だが、物が違えば仕組みも変わるのだろう。と、わかったところで早くオレたちをポケモンセンターまで運んでくれ。と言うか、オレ人間だけど治療受けられんの? まさかのベッドに放置か……

「あーあ、バトルしたから腹減ったぜ」

「僕もお腹すいたよ」

「では、あのポケモンセンターとやらへ急ごうか」

 腹が減ったとかなんとかで、あいつらはポケモンセンターに向けて走り出す。って、おい! オレたちどうなんだよ!

「お前ら鬼畜だろぉーーーーー!!!」

 美しい夕陽を浴び、爽やかな風吹きぬける丘に、オレたちの怒号が響き渡るのだった。





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[[ポケットモンスタークロススピリット 第14話「宝石の行方」]]
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''あとがき''
今回は伝説の宝石の秘密が明かされるお話でしたが、なんとなくご理解いただけたでしょうか?今作は変身システムを使用していますが、その中でもそれぞれ微妙に仕組みが違います。
サブキャラクターであるショウタの変身は即効性を、メインキャラクターであるツバサの変身は成長要素を、と思いこのような仕組みにしています。一見宝石による変身のほうが使い勝手が良さそうですが、最終的には規定数である4つを超えた技を使用できるツバサが強くなっていくと思います。
暗い雰囲気のお話が続いたため、途中からネタを展開していきましたが、不自然な流れと感じず、笑っていただけたでしょうか?書いている最中もなかなか納得のいく描写が書けずに悩むことが多々ありましたが、これからもツバサ同様腕を磨いていきたいと思います。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
よろしければ誤字脱字の報告や、感想、アドバイスを頂きたいです。
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