ポケモン小説wiki
ポケットモンスタークロススピリット 第10話「ロジカルシンキング」 の変更点


&size(20){''ポケットモンスタークロススピリット''};
作者 [[クロス]]
まとめページは[[こちら>ポケットモンスタークロススピリット]]
キャラクター紹介ページは[[こちら>ポケットモンスタークロススピリット キャラクター紹介]]

 ポケットモンスタークロススピリット、[[前回>ポケットモンスタークロススピリット 第9話「記憶」]]までは……

 人やポケモンの自我を奪い凶暴化させる謎の物質ゾーンと戦うためポケモンの世界へとやってきたツバサは、二つの不思議なペンダントの力でフーディン、ルカリオと融合――変身する力を手に入れる。
 彼に課せられた使命はゾーンと戦う他に、世界を救うために必要とされる伝説の宝石を集めること。仲間がその一つであるレックウザエメラルドを手に入れるべく情報集めに奔走する間、ツバサはとある島で自身のポケモンたちと修行に取り組んでいた。

第10話 「ロジカルシンキング」


 ショウタたちと別れ、ポケモンたちとの特訓を終えると、辺りは一面静かな闇に包まれていた。微量の水しぶきを上げながら陸へと迫る波は、穏やかながらもその単調な音を響かせており、辺りの静寂をより一層深めているように感じられる。
 調査に向かったショウタたちは未だ戻ってきておらず、このまま彼らをここで待つべきか否かを思案していると、キングドラがこの場に留まるべきではないと主張してきた。というのも、彼らが戻ってくる時間を聞いていなかったからだ。
 真面目そうなショウタのこと、おそらく何も情報を得ないでは戻ってくることはないだろう、と、そこまでキングドラは推察する。なるほど、確かに彼の言うとおりかもしれない。義理立てて待つのも悪くはないが、ホウエン地方特有の温かい気候のおかげで決して寒くはないとは言え、わざわざ野宿するのは得策ではないだろう。
 結論が出たオレたちは、近くのポケモンセンターに泊まることにした。そこでなら居心地のよい室内でゆっくり休める上に、食事のほうも不自由なく食べられる。そう思うとセンターへ向かう足も速くなるというもの。正直なところ特訓で動いたこともあってハラペコであり、一秒でも早く食べ物にありつきたかったのだ。



 ポケモンセンターに着くと食事を済ませ、ふかふかのベッドがある寝室で休憩を取ることにした。小さな島のポケモンセンターだけに、施設自体小さいが、それ以上に今日は宿舎として利用するトレーナーが少ないようだ。おかげで二段ベッドが四つもある部屋をオレとポケモンたちで貸し切りにできた。
 どこか修学旅行の宿というシチュエーションを思わせる状況に、何かゲームをして遊びたくなってきた。そう思ったオレはリュックの中身をあさるが、中身はからっぽに等しく、到底みんなで遊べるものなどない。そもそもこのリュックはポケモン界に来るために荷物をまとめたわけではなく、さらに不要なものは排除される仕組みになっているのか、空間を移動した際にほとんど中身が消えてしまったようだ。
 ポケモンセンターのおかげで宿や食事にあまり苦労しないこの世界では、持って歩くものはそう多くを必要としない。最近は戦いが続いていたこともあり、リュックの中身のことなどすっかり忘れていたが、消えた中身はどうなってしまったのだろうか。そもそも、オレはこれからずっとこの世界で……

「おい。おいツバサ!」

「え? あ、ごめん。どうかした?」

 物思いにふけっていたオレは、ヘルガーの呼び声ではっと我に返る。今はいろんなことを考えるのはやめておこう。わからないことが多い上に、どうせ一人で考えても答えなど出はしない。
 そんなことより、厳しい戦いがあるにしても、ポケモンたちと一緒に過ごせる今を大切にしよう。焦点が定まらず泳いでいた視線をヘルガーの顔へと合わせる。話はちゃんと目を見て聞かないとね。

「ぼーっとしすぎだ。頭痛でもするのか?」

「あ、いや、そんなことないよ。ちょっと考え事をしてただけ」

「そうか。私は外に出て少し星を眺めてくる。遅くならないようにするつもりだが、遅かったら先に休んでいてくれ」

 わずかに口元を緩ませ、期待に満ちた表情で部屋を後にするヘルガー。彼は星空が好きなのだろうか。なんかロマンチックで素敵だなぁ。ゾーンとの戦いがある厳しい現実の中で、自分の時間を持ち、心に余裕を持つことは大切なことだと思う。
 しっかり者の彼が精神面のコントロールも怠っていないことはさすがと言える。オレももっと頼られるような、しっかりした人になりたい。そのためにも、ポケモンたちを見習わないといけない面はたくさんあるようだ。
 ヘルガーを除く他のポケモンたちはと言うと、仲良くポケモンしりとりをしていた。ポケモンがポケモンしりとりをする様子は不思議なもので、見ているだけでも面白いがせっかくなので混ぜてもらうことにしよう。





 センターを一人後にし、暗闇に包まれた海岸にやってくると、私を待っていたのは満点の星空。一つ一つは点のように小さく見える星が、漆黒の海から穏やかに波打つ水の音と、わずかに吹き寄せる風の微弱な音とマッチングし、見る者を圧倒させる絶妙なハーモニーを生み出している。
 一つ一つは気にかけるほどでもないものが、組み合わされることで大きな魅力を生み出す。その様子はまるでトレーナーとポケモンたちが手を取り、互いを高め合っているかのようだ。
 そんな風に思った私は、ふとわずかな寂しさを感じてしまう。せっかく見られる星空だ、ツバサを連れて二人で見ればよかったと思ったのだ。後悔先に立たずか……
 私にとって星空を眺めることは単なる趣味とは言え、他では得られないほどの幸せを感じることができる。ツバサは星空が好きだろうか? 彼の魅力に感じ入った私ではあるが、この短期間で彼を詳しく知ったわけではない。無論逆もまた然りだろう。
 彼のことはもっと知りたいと思うし、私のことも知ってほしい。ただ、どうも私は誰かを誘ったり、二人で語り合うことが苦手なのだ。つい堅苦しくなってしまう。ツバサもそれは迷惑に思うことだろう。
 だが、それを考慮しても彼を連れてきたほうがよかったかもしれない。幸せな時間である星空を眺めるこの一時において、彼が隣にいたらその幸せは二倍にも三倍にもなるだろう。
 そして何より、できることなら私が誘うことでツバサも一緒に幸せを感じてほしいものだ。彼の役に立ち、少しでも彼を幸せにしてあげたい。短期間で私に自然とこう思わせる彼の魅力には、じっくり考えると改めて驚かされてしまう。
 彼のことを考えていると、やはりと言うべきか、私がどう思われているかが気になってくる。詳細を知るところではないが、ゾーンとの戦いにおいて非常に重要な役割を果たすであろう人とポケモンの変身については、ツバサとのそれを可能としているのはフーディンとルカリオだけだ。
 それはおそらくペンダントによるものと思われるが、では変身できない私や他の三体をどう思っているのだろう。と、そんなことは考え込んでも無意味か。ツバサがフーディンとルカリオばかりを重要視しているとは思えないし、まして誰かを一番と思うようなこともないだろう。
 元のトレーナーであるヒリュウとそのパートナーであるバシャーモのおかげとでも言うべきか、幸いにも私は腕が立つ方だ。だが、ツバサがいずれ変身を完全に自分のものにしたとき、私の力はフーディンやルカリオのそれに及ばなくなるだろう。
 そんな中私にできることは何か、正直なところ明確には見えてこない。ただ、フーディンやルカリオに嫉妬するつもりはないし、他の三体と活躍の場を争うつもりもない。いずれも大切な仲間なのだから。
 私は私なりに己の思うところを行動に移そうと思う。知恵を生かして様々な思考を巡らすことも悪くはないが、たまにはがむしゃらに生きることもまた、あの夜空で瞬く星のように私を輝かせてくれるのだから……

 さて、そろそろセンターに戻ろうか。と、その時だ。岸に沿って遠い向こうにぽつんと忘れられたように立つ建物から青白い光が四方に広がっているではないか。その幻想的な光景は見る者の心を踊らせ、その目を引いて離さない。
 ところがどうしたことだろう。突然耐えがたいめまいに襲われてしまう。私に持病などというものはなく、現在の体調も至って良好である。必死に体を動かしセンターへ向かおうとしたが、十歩も動けぬままその謎のめまいに私は成す術もなく意識を失ってしまうのだった。





 ポケモンたちとの遊びを終えると、明日に備え早めに床につくことにした。彼らを先に寝かせ、全員にふかふかの布団をかけてあげながらそれぞれの表情を堪能する。顔も形も違うが、今こうして触れ合っているとみんな可愛いものだ。
 もちろんじっと眺めているわけにもいかないので、部屋の明かりを消すべくスイッチの前に立つ。と、ここでヘルガーが戻っていないことに気づく。さて、どうしたものか……

 “遅くならないようにするつもりだが、遅かったら先に休んでいてくれ”

 待っているか先に寝てしまうか迷っていると、ふと彼の言葉を思い出す。彼は遅くなった場合は先に寝るようにと言っていたのだ。その言葉も含め、ヘルガーのことについて他のポケモンたちに話してみる。
 すると、いずれも先に寝てしまったほうが良いと言うではないか。みんなちょっと冷たいような……。そんな風に思っていると、それを読み取られたのか、キングドラが、気を遣いすぎないことも信頼に繋がると口にする。
 他の者もそれに同調するように頷くと、オレの心はまるで白い紙に絵の具が塗られたかのようにあっさりと彼らの意見と言う名の色に染められてしまう。確かに彼らの言うとおりなのではないかと。
 結論が出るとスイッチを切り替え消灯。明るかった室内は一瞬にして静寂な闇に包まれ、程無くしてポケモンたちの寝息が耳に入ってくる。一方のオレはと言うと、しばらく経ってもなかなか寝付けなかった。
 特訓したこともあって寝付けないほど体力が有り余っているなどと言うことはないはずなのだが……。どうやらポケモンたちは全員完全に寝付いてしまったようで、一人眠れないからと言って彼らを起こすことははばかられる。
 なんとか寝付くべく体を左右に傾けるなどして足掻いてはみるが、まったくもって寝付くことは叶わない。と、ふと空きのベッドが目につく。ヘルガーはまだ帰ってきていないのか。
 ポケモンたちに気を遣いすぎるのも良くないと言われ納得したオレだったが、まだ帰ってこないとなるとどうも心配でならない。彼を信頼していないと思われるかもしれないが、どうせ寝付けないのだからそれを理由に探しにいくことにしよう。



 ポケモンセンターにも戸締りがあるものだが、オレはこっそり窓から抜け出してきた。小さな施設であるおかげで部屋が二階以上の高さになかったことが幸いだ。ちょっとした冒険気分に気持ちを高揚させつつ、オレは夜の闇へと身を投じた。
 施設の側の海岸にやってくると、ヘルガーを探すべく外灯を頼りに周囲に目を凝らす。彼の体毛がこの漆黒の闇に溶け込む黒色であるがゆえに探しづらいが、これでもオレは目がいい方だ。
 ところが、彼の姿がまったく見えてこない。意図的に隠れでもしない限り、砂浜に座っているなどすれば見つかるはずなのだが……
 この状況に先ほどまで冒険気分で高揚していた気持ちが、不気味な胸騒ぎを起こし始める。特訓中にゾーンに汚染されたポケモンは見ていないものの、ヘルガーに万が一のことがあっては困る。その不安が、圧しかかるようにオレの顔を俯かせていく。
 これではいけない。心配のあまりに事態を悪い方向へと考えすぎるのは良くないことだ。そう思って気持ちを取り直そうと顔を上げる。その時、神秘的な青白い光が目に飛び込んできた。建物からあふれるそれを周囲の闇がその美しさを助長しており、思わず見入ってしまうほどだ。
 しかし、直後背筋が冷え鳥肌が立ってしまう。何故なら、その見入ってしまう神秘的な光は、少し前に見たガレスの出していた光とまったく同じ色だったからだ。まさかあそこにガレスが、そしてヘルガーはあいつに……
 最悪のシナリオが脳内で展開されると、それを振り払うべく全力で駆けだす。

 “もう二度と、あいつの好きにはさせない”

 その思いがオレを光のもとへと押し出した。



 光があふれていた建物にやってくると、そのタイミングに合わせるように消灯され、周囲は暗闇に閉ざされる。中の様子を覗いてみようと思っていたオレは、突然の消灯に慌てて身を隠す。
 中の様子はまだ見ていないが、かすかに人の声が聞こえた。再度中を覗こうと目を細めるが、周囲の明るさが急変した影響で目の前がぼやけてしまう。これでは建物内の様子を見ることができない。なんとか目の状態を元に戻すべく手の甲で優しく目をこする。その時だった。

「人間がこんなところで何してやがる」

 両腕を体の後ろで縛られ、身動きが取れなくなってしまったのだ。恐る恐る首を背後へと回すと、そこにいたのは灼熱の火吹きポケモン、ブーバー。殺気に満ちた瞳と人語を操ることからゾーンに汚染されたポケモンであるのは間違いないだろう。
 この窮地を打開しようと変身して対抗しようと考えるが、あいにくフーディンとルカリオはこの場にいない。ヘルガーのピンチと考えたオレは、彼を心配する余り自らの力不足を忘れて行動していたのだ。
 今更ながら不利な状況であることを理解したオレは逃走を試みるが、ブーバーの火傷しそうなほど高温な手にきつく縛られる腕は、ちょっとやそっとの力では振りほどくことができないと思われる。さらに、下手に怒らせれば“かえんほうしゃ”の一撃でやられてしまう。生身の、それも本当に普通の人間であるオレを仕留めることなど、奴にとっては赤子の手を捻るようなものだ。
 しかしながら抵抗しなければいずれ始末されるのは言うまでもない。そこで思いついたのが、急所を狙い、敵が怯んだ隙に逃げるという作戦。ゲームでは急所に当たるとダメージは二倍になる。ゲームで存在した上に、当然ポケモンも生き物なのだから急所がないわけはない。
 ブーバーは人型のポケモンであるため、人間と同じ部位が急所であると考えられる。腕を縛られ背後を取られたこの状況で取れる急所は足の甲のみ。思いついたら即行動。
 決意を固めたオレは全力でブーバーの足の甲を踏みつける。すると、悲鳴に似た声が響き、顔を後ろへ向け背後を確認するとブーバーは地面に倒れ込んでいた。作戦成功。逃げるなら今しかない。
 ところが顔を前に戻した瞬間、稲妻模様の体が特徴的なエレブーが現れ、指を一本オレの額へとつける。直後、全身に痺れるような感覚が走り、オレの意識は成す術もなく闇へと蹴落とされてしまうのだった。





「……バサ……目を……せ!」

 聞き覚えのある低い声がオレを呼んでいる。この声はいったい誰だっただろうか。その声に誘われるようにオレは意識が戻っていくのを感じた。

「ツバサ、無事だったか!」

 はっと目を開けると、視界に入ったのは探していたヘルガーの姿。だが、彼の体が反転している。首を振って改めて意識をはっきりさせると、なんとヘルガーは後ろ脚を天井から伸びた鎖で縛られ宙釣りにされているではないか。
 慌てて助けようとすると、自分の体が動かない。残念なことにオレも両手両足を縄できつく縛られており、柱に張り付けられていた。どうやら互いに捕まっているらしい。意識が戻ったことで誰かに助けられたのかと勘違いしていたが、単に捕虜となってしまっただけのようだ。
 助けにきたはずが捕まってしまうという情けなさに、悔しさと敵に対する怒りが込み上げる。それを反映するかのように鋭い目つきで周囲を見渡すと、そこにはエレブー、ブーバー、ドードーがいた。このようなことをするのだから、いずれも汚染されたポケモンだろう。
 さらに目に入ったのは巨大な水槽の中で青白い光を放っているネオンポケモン、ネオラント。どうやら怪しげな光を放っていたのはあいつらしい。

「クックック、ネオラントの光で誘いこまれるのはポケモンだけだったはずなんだがなぁ」

「人間の体は弱くて使えないんだけど……フフフ、その子の怒った顔なかなか素敵じゃない」

 救助にきながらあっさり捕虜となったオレをエレブーがあざけるように笑うと、その調子に合わせるように何やら意味深な言葉を放つネオラント。“人間の体は弱くて使えない”? これはいったいどういうことだろうか。
 この敵がオレたちを害さずに逃がすわけはなく、命を狙っているのは言うまでもない。ならば、何故すぐにでも始末しないのだろうか。ゾーンに汚染されると自我を失い暴走すると聞いたが、では何故奴らは言葉を口にするのだろう。
 暴走と聞くとひたすらに暴れまわる野蛮な生物をイメージしてしまうが、すぐにオレたちを始末せず何か利用しようとするその動きからは、奴らのどす黒い知性が感じられる。

「さて、これから面白いゲームをしてやる。あいつを出せ」

 ブーバーの荒い指示を聞き、ドードーが嘴を使って器用に二つのレバーを引く。すると、耳触りな金属音を立てながら、宙釣りにされたヘルガーの真下の床が開き、マグマのようなドロドロした高温の液体がその顔を覗かせる。
 さらに冷たく響きわたる鎖の金属音と共に、ヘルガーの隣に同じく宙釣りにされた別のポケモンが現れた。淡い紫色の耳としなやかな体が美しいエネコロロだ。しかしながら、長らく宙釣りにされていたのかその表情にはまるで覇気が感じられず、本来美しいことで知られる毛並みは黒いすすがかかっている。

「お前、真っ黒だな。それでまだ無事だったのか」

「ううっ……な、何よあんた。あたしにくたばってほしかったわけ?」

 驚いたことにあのエネコロロは喋るようだ。覇気のない様子から一変、ヘルガーの声を聞くや否や強気の口調で反応している。その様子からゾーンに汚染されたポケモンではなく、喋ると言ってもテレパシーで喋っていることがわかった。
 彼女の言葉にヘルガーはゆっくりと首を横に振り“無事で何よりだ”と付け加える。わざと気に障ることを口にし、彼女の気力を取り戻そうとしたのだろう。強気な性格を見越しての的確なサポートと言える。

「さて、ゲームのルールを説明してやるか」

 この状況でも焦らないヘルガーに感心したのも束の間、無情にもゾーンポケモンの言うゲームが始まろうとしている。

「ここに二つのスイッチがある。それぞれ奴らを鎖ごと落下させるものだ」

 奴らと言うのは言うまでもなくヘルガーとエネコロロ。彼らの下にはマグマのような灼熱の液体が煮えたぎっており、落下すれば命はない。

「人間、お前の指示でどちらかのボタンを押す。もちろんヘルガーを助けたいよなぁ。あいつの心配する様子からわかるぜ。お前、あいつの主人だろ? クーックックック」

「その顔……フフフ、いい目をしてる。大丈夫。チャンスとしてドードーに一度だけ質問することを許すわ」

「一つ忠告してやるが、片方は本当のことを、片方は嘘ばかりを言う。ケケッ、せいぜい楽しむんだな。制限時間は十分。ルールを破ればお前らまとめてドボンだぜ!」

 なんていう奴らだ。オレにヘルガーとあのエネコロロのどちらかを選べと言うのか。それぞれの命がかかっている中で、二択を迫られるなどあまりに残酷すぎる。しかし、力ずくで解決しようにも縛られた状態では体はびくとも動かない。
 そうしている間にも時間は刻一刻と迫り、どうすべきか目を閉じて考える。悔しさと申し訳なさのあまり目に滴が込み上げるが、オレはヘルガーを守りたい。エネコロロごめん。でも、オレはヘルガーのことが……

「冗談じゃないわよ! ちょっとそこの奴、こんな奴よりあたしを助けなさい!」

「黙れ! ごちゃごちゃうるせえと、てめえらまとめて落っことすぞ!」

 窮地に立たされたエネコロロが自分を助けるようオレに向かって叫ぶと、ブーバーが鬼のような形相で一喝。何やらヘルガーがエネコロロに話しかけているのが見えるが、その声はここまで届かない。エネコロロが静かになったところから、声を出さないように言ったと思われる。
 必死で助けを求める彼女の姿が、オレに、ガレスの攻撃から逃げのびたあの夜の出来事を蘇らせる。できることならみんな助けたい。しかし、今のオレではどんなに頑張ってもそれができないのだ。だから、どうか恨まないでほしい。
 そう心の声で語りつつ、エネコロロに謝罪すべく目を向けたその時だった。隣にいるヘルガーが何かを訴えるような目つきでこちらを凝視していたのだ。余計なことを言えばまとめて始末される。それを察した彼は、声にならない言葉で何かを訴えていた。
 その瞳に、オレは彼に認めてもらったあの時を思い出す。あの時は自らの傲慢な態度を謝罪しているとばかり思っていたあの言葉が……

 “私のことをあまり優先するな”

 そうだ。確かに彼はこう言っていた。今がその時だと言うのか。その短い言葉と、今目の前で決意に満ちた表情で頷く彼からは“エネコロロを守れ”との声が聞こえてくるかのようだ。ならば、彼のその思いに応えなければならない。それが今オレにできることだ。
 未だ揺れる心を何度もヘルガーの瞳を見ることでエネコロロ救出へと引き戻す。ブーバーがマグマに入る様子はアニメで見たことはあるが、炎タイプすべてが平気なわけではないだろう。少なくともヘルガーという種族は火山で暮らすような種族ではない。
 それを思うとヘルガーがマグマに消えていく最悪のシーンが脳内で展開され、思考が停止してしまう。そもそもエネコロロを救出したところで、その後オレと彼女が助かる見込みがあるのかも疑わしいところ。となると、このゲームとやらにまるで勝算が立たない。
 これでは駄目だ。首を左右に振り、目を見開いて意識を現実に引き戻す。ヘルガーの意思に沿い、今できることをやらなければ。希望を捨てたらすべて終わりだ。
 このゲームにおいて狙った方を確実に救出するには、ドードーへの質問というチャンスを生かすよりない。ただ面倒なのは、あのドードーは一度も喋っておらず、ブーバーの言う本当のことを言う側と、嘘ばかり言う側の区別がつかないことだ。
 質問は一度だけであることから、二つの頭に対し同じ質問だけができるということになる。ここは質問と予想される解答を頭の中でシミュレーションするしかない。

 まず“エネコロロを助けるスイッチはどちらか”と尋ねるとしたらどうだろう。正解が右のスイッチなら本当の奴は右、嘘の奴は左と言う。正解が左ならその逆を言うことになる。これでは答えが見えてこないため却下。

 では“お前は嘘をつく奴か”と尋ねるとしたらどうだろう。本当の奴なら違うといい、嘘の奴も違うと言う。どちらも違うと言われれば頭ごとの特徴を把握できない。そもそも、二度目の質問は許されないためスイッチに関する情報が得られず、頭ごとの特徴を把握するための質問は却下。

「残り時間はあと三分だ。さあ、時間が迫ってきたぜ。クーックックック」

 エレブーの狂気染みた声が耳に障る。くそっ、いちいち思考錯誤の邪魔をしやがって……
 いったいどのような質問をぶつければいいのか。質問と予想される解答を繰り返しシミュレートするも、未だに答えに繋がる質問案は浮かばない。焦燥に駆られた心は心拍数を上げていき、心臓の鼓動が嫌でも時の流れを刻んでいく。許された時間は着実に減っていくのだった。





----
[[ポケットモンスタークロススピリット 第11話「星の巡り合わせ」]]
----
''あとがき''
久しぶりの投稿ということで、今回のお話を書くのにはだいぶ苦労しました。サブタイトルである“ロジカルシンキング”については、論理的思考と訳されるものです。
前置きが長くなってしまいましたが、今回はこのロジカルシンキングを使った頭脳戦を展開したいと思い、それが使える状況へと運んでいきました。
小バトルの回が多くなりがちな本作において非常に珍しい回ですので、ぜひツバサと一緒にこの問題に挑戦してみてください。答えのほうは自分で見つけたい方のためにも書き込まないようお願いします。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
よろしければ誤字脱字の報告や、感想、アドバイスを頂きたいです。
#pcomment(above)

トップページ   編集 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.