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ポケットモンスタークロススピリット 第1話「始まりの時」 の変更点


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作者 [[クロス]]
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第1話 「始まりの時」


 何もない、ただ暗闇だけの世界。そこに現れた謎の物質。青白く発光するそれは、徐々に形を変えていく。
 胴体、腕、足、そして頭。その物質は人型を形成した。
 どこからともなく湧きあがる無尽蔵の力が、その存在に破壊を促す。ただすべてを壊せよと……










 鉛色の空。生温かい風が私の頬をかすめていく。決して気持ちのいいものではない、どこか重い風だ。
 理由はただ一つ。風の中に、負のオーラが混じっているからだ。寂しい、悲しい声が聞こえる。
 私の名はルカリオ。オルドラン城のリーン様にお仕えする、アーロン様の従者だ。テレパシーで人と会話し、生活を共にしている。
 背後に波導を感じる。清流のように清らかで、それでいて激流のごとく荒々しい波導は……

「ルカリオ、訓練の時間だ。下で待っている」

 凛とした顔立ちと、強くも優しくも見える瞳。やはりアーロン様だ。その姿を見るだけで、何故か私の気は安らぐ。
 一言だけ残すと、すぐに去っていく。一見無愛想だが、これがいつもの彼だ。自他に対して厳しい。
 彼を追うため、私は腰を上げる。足取りは軽い。訓練と言う名の日常が、私には合っているのかもしれない。



 その日の訓練を終えると、私はアーロン様に呼び出された。どのような用事かわからないが、これを断る理由はない。
 城の一室に入ると、彼は椅子に座り、私を見ながら手を別の椅子に向ける。そこに座れということだろう。
 言われたとおりに座り話を聞こうとすると、彼は横を向いていた。その瞳は、アメタマの歩く水面のように揺れていた。
 いつも冷静な彼が、このような表情を見せるのは珍しい。だが、何も言わずに彼の言葉を待つ。私は従者だ。要件を言うよう急かすような真似はできない。

「ルカリオ、最近隣国の兵士が凶暴化しているという情報を手に入れた」

 兵士とは人間ばかりではない。火や水、草といった属性を操る、私のような生き物も含まれる。

「そこで、この城を襲撃されては危険だとして、リーン様から直々に調査の命令が下されたのだ。私は明日からその調査へと向かう」

「でしたら、私も喜んでお供させていただきます。どうかご一緒させてください」

「いや、お前はここに残るんだ。調査へは私一人で行く。ここに残って、城を、リーン様をお守りしてくれ」

 アーロン様が重ねて命じられるので、私は従うことにした。彼のことが心配だが、それより与えられた任務を全うすることに専念したほうがよさそうだ。





 その晩、私はふと目を覚ます。窓を開けて夜空を眺めると、月が夜の闇を引き裂き、大地を照らしていた。
 しかし、どこからともなく現れた黒雲が、みるみるうちに光を遮っていく。
 そんな時だ。私はふと下に目をやると、誰かが走っていく姿が見えた。距離がありすぎて、何者なのか正確に把握できない。
 私は目を閉じ、右手を前に突き出す。波導を感じ取り、対象の正体を見破る。清流のごとく清らかで、それでいて激流のごとく荒々しい。アーロン様だ。
 この真夜中に、例の任務のため出発したらしい。アーロン様、どうかご無事で……。私は両手を胸の前に組み、目を閉じて祈るしかなかった……










 夜が明けると、アーロンは国境線へと辿り着いた。昨日と同じ、生温かい、どこか重い風が吹いている。
 いつものことなのか、彼は気にもかけずに近くの切り株に腰を下ろす。持ってきた巾着袋を取りだすと、中からピンク色の木の実を取りだす。
 モモンの実だ。木の実だけに小さいが、桃のような形をしたそれは、とても柔らかく甘い。誰もが食べやすい木の実と言えるだろう。
 一つ口に入れると、彼の表情が和らぐ。高い戦闘力を持つ波導使いの彼だが、意外にも甘党のようだ。
 一つ、また一つと口に実を放りこむ。好みの食べ物であっても、任務中はゆっくり食事を取っている暇はない。
 袋の中を覗き込むと、実は最後の一つしかない。それを知って気を落とす様子から、彼は短い食事の時間をとても楽しみにしていることがわかる。
 最後の一つを手に取り、口に放り込もうとする。と、そこで手が止まった。鋭い視線を国境線のほうへ向け、波導を研ぎ澄ませる。
 何かの気配を感じたようだ。素早く荷物をまとめ、身を返す。単独行動をしている身としては、警戒を怠ってはならない。
 木の陰からそっと覗きこむと、歩いてきたのは、足元が定まっておらず、傷だらけの青年だった。
 他国の方角から歩いてきたということは、何かの罠かもしれない。と、考えるのが普通だが、考えるより先に彼は足が動いていた。

「どうした、酷い傷ではないか! いったい何があった!?」

 自分の心配より、まず人の心配。アーロンは青年に問いかけながら、寝かせて波導を使う。波導はそれぞれ質は違うが、波導使いならば自らの波導を他者に与えて回復させることもできる。
 右腕で青年を抱きかかえ、左手で波導を使う。険しい顔で青年を見つめるアーロンに、青年は一瞬笑みを浮かべると彼の左手を退けた。

「もういい、私は助からぬ。波導の勇者アーロンよ。今から私の言うことをよく聞くのだ」

 見た目からはとても想像できない口調に、アーロンははっと息を飲む。正体も知られているようだ。
 警戒したアーロンは周囲を波導で調べるが、他の生物の波導はまったく感じられない。

「私は……敵ではない。うっ……がああっ……!」

 うめき声を上げると、青年は体中から光を発する。真夜中にいきなり光を当てられたかのように感じるほど、青年が発する光は強い。
 アーロンは手で目を覆いつつ、すぐに青年と距離を置き、光が止むのを待つ。
 その間にも、波導を使って青年の正体を調べようと試みる。しかし彼の波導はかつて感じたことのない強さで、アーロンが調べようとするのを阻止していた。
 やがて光が止むと、そこに青年の姿はなかった。代わりにそこにいたのは、同じ傷だらけの白い生き物。
 長い髪のようなものを持つ頭と、背中に黄色の輪のようなものをつけている見たことがない生き物だ。

「アーロンよ。今、世界は危機に瀕している。国同士の戦争などではすまぬ、この星が壊されようとしているのだ」

「お前……あなたはいったい……」

 “お前”と呼ぼうとしたところを、白い生き物が発する神々しい波導が、アーロンの口調を変えさせる。
 まるで女王リーンと話しているかのごとく、いや、それより遥かに上の威厳を感じていた。

「あれを見よ……」

 立ちあがり、白い生き物が指し示す方角を見ると、その上空には青白く発光する巨大な球体が、宙に浮かぶ逆さになった渦に入っていくのが見える。
 白い生き物の波導に押され気付かなかったが、球体の発する波導もアーロンがかつて感じたことのないほどに強大なものだった。

「ガレスが時を超えた……か。アーロンよ、お前に頼みがある。私の頼み……聞いてくれるな?」

 穏やかな声で問いかけてくる白い生き物。アーロンはこの白い生き物が長くないと悟り、改めて傍に腰を下ろし、その話を真剣な眼差しで聞くことにした。



 それから少し後、白い生き物は再び体から光を放ち始める。その光は美しくも儚く、弱々しい。

「これで伝えるべきことはすべて伝えた。最後に、これをお前に託そう」

 そう言うと、アーロンのもとへ二つの小さな光の球が近づいてくる。そっと両手を広げると、球は光を消し、その本当の姿を現す。
 かたや青、かたや黄の色をしたそれは、何かの首飾りのようだ。

「青をオーラペンダント。黄をサイコペンダントという。先ほど話した、人と生き物を融合させる物だ。あとは……頼んだぞ……!」

「待ってください! あなたの名は……!?」

「我が名は……世界を……守ってくれ……」

 白い生き物の光が強まると、やがてその姿は完全に光と化し、形を失う。
 そして巨大な球体になったかと思うと、九つに分かれてどこかへと飛び散ってしまった。
 まるで夢のような出来事に唖然とするアーロンだったが、すぐに気を取り直し城へと戻っていった。










 アーロン様がご不在の間は、どこか訓練も物足りないものに感じてしまう。隣国の調査に向かってから、もう三日が経つ。
 いったいいつになったら戻ってくるのだろう。アーロン様なしでも、城を守り抜くのが私の務め。
 それだと言うのに感じる不思議な感覚は、私を夜も眠れないものにしていた。
 彼が去ってから四日目の朝。私は部屋の窓を開け、外の様子を眺める。今日は天気がよく、遠くまで見渡せるほどに空気が澄んでいる。
 遥か彼方に見えるのは、伝説の生き物が住みつくとされる世界の始まりの木と呼ばれるものだ。
 一見木のように見えるそれは、実は岩なのだとアーロン様から聞いたことがあるが、私は直に見ていないためわからない。
 だが、あれを見ていると、傍にアーロン様がいて、にこやかな表情で私に話しかけてくれた思い出がよみがえる。
 訓練続きの私の日常に花を添える、私にとってかけがえのない時間だ。彼がどう感じているかわからないが……
 そんな風に物思いにふけっていると、遠くに人影が見えてきた。あれは誰だろう。
 波導を研ぎ澄ませ確認すると、それは隣国へ調査に向かっていたアーロン様だった。
 彼の表情が視認できる距離までくると、私は思わず夢中で手を振っていた。そこではっとし、すぐに深いお辞儀に切り替える。
 従者でありながら、幼子のように無邪気に手を振った自分が憎い。私はばつが悪く思い、恥ずかしさで顔を紅く染める。
 顔を上げず、目だけを動かしてそっと彼を見やると、私の行動を不快に思うどころか、笑顔でこちらに向け手を振っていた。



 始め私は、すぐにこちらに来てくれると思っていたが、それはあまりに幼稚な考えだったようだ。
 アーロン様は、女王様のいる間へ入っていくと、なかなか姿を現してはくれなかった。私はしぶしぶ日々の訓練を行った。
 訓練で汗を流すと、気持ちも爽やかになる。すると突然、先ほどまでアーロン様の帰りを待っていた自分が恥ずかしく思えてきた。
 彼は私を信頼し、この城の守備を任せてくれたのだ。それだと言うのに、私は彼の意に反して、帰りを待つ思いを募らせるばかり。
 果たすべき使命を全うし切れていない自分に気付いた私は、改めて城のため、アーロン様のために仕事をこなそうと一人誓う。
 そしてその晩のこと。私は、ようやく女王の間から戻ってこられたアーロン様に呼び出される。
 呼ばれた時刻に一室に向かうと、私はそこで衝撃的な光景を目にする。なんと、アーロン様が城に穴を開けていたのだ。

「アーロン様おやめを! 何をなさっているのですか!?」

「ん、ルカリオか。よく来てくれた。大事な話がある。席に座ってくれ」

 焦って止めに入ろうとする私を尻目に、彼は普段の冷静な態度で私に指示をする。
 何か早まったことを考えてしまったとわかった私は、また少し顔を紅く染め、言われたとおりに腰を下ろす。

「ルカリオ、今から話すことは深刻なことだが事実だ。真剣に聞いてほしい」

 席に着くと同時に、アーロン様の目の色が変わる。その迫力に押され、ごくりと生唾を飲み込むと、じっと彼の目を覗きこんだ。

「私は昨日までの調査で、驚くべき光景を目にしたんだ。それは……」

 彼が今回の調査で見た出来事、聞いたことを事細かに説明してくれた。その衝撃的な話に、私は返す言葉もなくただ頷くばかり。
 ガレス、ゾーン、オーラペンダント、サイコペンダント、人と生き物の融合……。聞きなれない言葉の数々に、私の脳内では嵐が起きていた。
 余談だが、この話は女王様にもしたそうで、長く女王の間にいたのはそのためだったそうだ。

「今の話、とてもすぐには信じられないと思うが……」

 信じてもらう自信がないのだろう。アーロン様は、まるでしおれた花のように、がっくりと俯いて顔を上げない。
 しかし、彼の言うことがすべて本当であるということを、私はすでに知っていた。理由は簡単。波導でわかる。
 アーロン様の波導は強力で、普段はその心情を垣間見ることさえできないが、今なら彼が真実を述べているか、嘘をついているかくらいはわかる。
 強い意志を持っていて、でも不安で揺れていて、アーロン様の心は、まるで砂の城のように脆かった。

「アーロン様、ご安心を。私はいつだって信じています。私たちが力を合わせれば、きっと平和は守れましょう。どうか顔を上げてください。アーロン様が落ち込んでいると、私も不安でなりません」

 正直、私に何ができるかわからない。ただでさえ、いつ強欲な隣国が仕掛ける戦争に飲まれるかわからない、この小国のオルドラン城を守るので精一杯なのに、まして世界を守るなど……
 だが、そんな私が自然とアーロン様を励ますことができたのは、他でもない、日頃彼に支えられているからだ。
 そんな彼のためにできることは何か。恩返しがしたい。なんだってしよう。いつの間にか、私はそう思っていた。

「ありがとう……。強くなったな……ルカリオ」

「いえ、これもアーロン様が稽古をつけてくださったからこそ……」

 彼は私の頭をくしゃくしゃに撫でながら褒めてくれる。久しぶりに褒めてもらい、私は率直に嬉しかった。
 同時に悲しかった。それは、今私を褒める彼の心情を思ってのことだ。その彼の心情とは……

「こうしていても余計辛くなるだけだ。ルカリオ、そろそろ……」

 そう、私を未来に送らねばならない。そのことによる罪悪感で、アーロン様は押しつぶされそうになっているようだ。
 何故共に行かないか。それは、謎の物質に汚染されたこの世界の者を始末しなければ、未来の汚染が拡大するからだ。
 アーロン様はここに残り、この時代の敵を倒しつつ、オルドラン城も守るという。私も課せられた使命を果たさなければならない。

「私のことはご心配なく。さあ、首飾りの中に入れてください」

 私はアーロン様を安心させるため、自信に満ちた穏やかな表情でそう呼び掛ける。
 彼もまた、私への信頼を示すようにゆっくりと頷くと、首飾りを私のほうへと向ける。
 その瞬間、私の視界がぼやけてきた。体がまるで砂のように細分化され、首飾りに吸い込まれていく。
 どこにも痛みはない。いや、あえて言うとすれば心だろうか。かすかに見える大切な人の悲しむ顔が、私の胸を締め付ける。
 視界が完全に失われた。目の前に広がるのは、一寸先も見えぬ暗黒の空間だ。おそらく、アーロン様が首飾りを渦の中に放り込んだのだろう。

「いつ……ず……おう……。私の……いする……よ……」

 ふと、アーロン様の声が聞こえた気がする。別れの辛さが、私に幻を聴かせたのだろうか。
 積み重なる悲しみを抑え、私はぐっと目を閉じる。そしてゆっくりと、胸に手を当てた。
 暗闇の視界に光が差し込む。見えてきたのは、いつも傍にいてくれた……。そうだ。私たちは決して離れなどしない。
 必ず再会すると胸に決め、私は首飾りに封印されたまま、選ばれし者のもとへと向かっていく。まだ見ぬ選ばれし者が、新たなる希望となることを信じて……





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[[ポケットモンスタークロススピリット 第2話「選ばれし者」]]
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''あとがき''
原作で登場したキャラをそのまま用いるのは抵抗がありましたが、それでも用いた理由は今後の展開でわかっていただけるかなと思います。
設定や表現力等むちゃくちゃかもしれませんが、これからレベルアップするよう努力していきたいと思います。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
よろしければ誤字脱字の報告や、感想、アドバイスを頂きたいです。
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