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ポケットモンスタークロススピリット 特別篇「君の言葉こそ」 の変更点


※お読みいただく前に
このお話は本編の時系列とは一切関わりがありません。あくまでバレンタイン特別篇としてお楽しみください。

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作者 [[クロス]]


 白き妖精が舞い踊る日。一人の少年とそのポケモンたちがとある田舎のポケモンセンターで足を休めていた。

「あーあ、雪ばっかり積もって寒いったらねえな」

 そう言って広間を陣取り、横になるこの少年――ツバサ。ポケモンの世界に広がった謎の物質ゾーンを駆除するために戦っている彼だが、今の彼にそのような様子は微塵も感じられない。

「この辺りは雪山も近いから仕方ないよ」

 そんな彼の様子に、仲間のメガニウムが苦笑する。戦いの旅を続けるが故の疲労を理解しつつも、貴重な休息を楽しんでほしいのだ。

「こんな日は雪合戦だろ! いくぜー!」

 そんな中、声を張り上げ外へ突っ切っていく者がいた。エスパータイプのポケモン――フーディンだ。メンバーで随一の戦闘バカとして名高い彼は、雪積もる日でもその姿勢を崩さない。一方彼の言葉に、おすましポケモン――エネコロロが異論を唱える。

「なーに言ってんのよ。今日はバレンタイン。あたしがとっておきの……」

「よし、私も付き合うぞ!」

 と、彼女の話が終わるのを待たずして黒いポケモンが外へと駆け出す。ダークポケモン――ヘルガーである。

「オレもいくぜー! 燃えてきたぁー!!」

「しゅっぱ~つ!」

 そんなヘルガーに続くように、ツバサ、そして炎タイプのキュウコンが声を上げ、その他男性陣もまた揃って外へと飛び出していく。
 これにはエネコロロも崩れるように床へ倒れこみ、思わず溜め息を漏らす。実は彼女、先程駆け出したヘルガーに特別な想いを寄せているのだ。一方そんな彼女に似た心境にあるメガニウムは彼女のもとへ寄ると、苦い顔を浮かべてこう言った。

「仕方ないね。ツバサがキッチンを借りたみたいだからチョコレート作ろうっか。材料もあるみたいだしさ」

 エネコロロがヘルガーに想いを寄せるのに対し、メガニウムはツバサに想いを寄せている。同じ恋する乙女同士、放ってはおけないのが彼女の心境だ。

「張り切ってるあたしがバカみたい……」

 メガニウムの言葉に、エネコロロは独り言のようにそう言い残すとキッチンの方へと消えていく。ああは言っても、チョコレート作りで巻き返そうと決心したのだろう。そう考えたメガニウムは、自分も負けられないと彼女に続いていくのだった。





&size(20){''君の言葉こそ''};


「うおおおぉぉーー!! いくぜ、オレの必殺技!」

「ああもう、うっさい! どんだけでかい声してんのよあいつは!」

 ブリザードが吹き荒れる昼下がり、男の熱い雄叫びが木霊する。フーディンの声だ。建物の中――キッチンにいたエネコロロは、その声に腹を立て地団駄を踏む。彼女がここまで腹を立てるのには他に理由があった。キッチンは人が使うために設計されたものであるため、彼女には扱いづらかったのだ。また四足歩行である彼女に料理の経験など皆無に等しい。ましてチョコレートの作り方など、これまでの旅を通して小耳に挟んだ程度である。
 一方メガニウムはツバサと会う前から人と旅をしており、料理の経験が豊富だ。何よりエネコロロとの決定的な違いは、四足歩行でありながら草タイプの技"つるのムチ"を手のように使うことで器用に調理できる点である。このことが妬ましいエネコロロはただただ怒りを募らせていた。ヘルガーを喜ばせたいものの、まともに調理することさえ叶わない。これではアピールするどころか、自分の評価が下がるばかりではないか。思考が負のスパイラルに陥った彼女は力なくうなだれてしまう。
 そんな彼女の不安を察したメガニウムは、自分よりずっと小さいエネコロロに目線を合わせるべく首を下げてこう言った。

「私たち仲間でしょ? 一緒に作って上達していこう。ね?」

 この言葉に、うなだれていたエネコロロの表情が晴れる。自分は何をネガティブになっているのか。傍には仲間がいるではないか。そんなふうに思い直した彼女は、落ち込んでいるところを見られたのが急に恥ずかしくなってきた。

「わ、分かってるわよ! ちゃんと手伝いなさいよね!」

 素直じゃないなぁと内心苦笑するメガニウムだが、その言葉に笑顔で首を振り応える。このエネコロロが所謂ツンデレであることは周知のことで、この態度が彼女なりの感謝の意を示すものであることが分かっているためだ。
 そして再び始まったエネコロロのチョコレート作り。キッチン台の上に飛び乗ると、メガニウムが用意した布巾で前脚を拭き準備万端だ。

「もう一度最初からやってみよっか。まずは板チョコを割って……」

「それくらい分かってるわよ」

 メガニウムの指示を待たず作業を始めるエネコロロ。後ろ脚を曲げたお座りの姿勢をとると左前脚でバランスを取り、右前脚を叩きつけて割っていく。板チョコはその性質上割れやすいため、かろうじてできているようだ。しかし、満足げな表情で終えた彼女の足元に散らばったチョコはお世辞にも上手く割れているとは言えない。四つに割った程度の大雑把なものだったからだ。やはり四足のポケモンには難しいかと頭を悩めつつも、メガニウムは次のステップへと進める。

「生クリームの準備終わったよ。これをチョコにかけるから混ぜてもらえるかな?」

 先んじて準備を進めていたメガニウムは、エネコロロの割ったチョコレートをボールに入れると、そこに温めた生クリームを注ぎ込む。"つるのムチ"を使った一連の動作は、さながら人間が行っているかのように手慣れたものだ。一切のぎこちなさを感じさせないそれは、不慣れなエネコロロをサポートするには十分過ぎると言えるだろう。
 一方エネコロロは、頼まれた混ぜる作業を行うべく木べらを咥える。物を握ることのできない彼女にとって、木べらを使うにはこうせざるを得ない。すると混ぜる際には、首を回さなければならず……

「ああもう首痛い! しかも全然混ざんないわよこれ……」

 首の痛みを訴えるばかりか、全くと言っていいほど混ざっていない。おまけに生クリームが飛び散るという有様だ。これにはメガニウムも苦笑するしかない。しかしながら、ここで自分が混ぜる作業を行えば彼女に何をさせればいいのか分からなくなる。それでは本末転倒だ。
 そこでメガニウムは"つるのムチ"でボールを押さえると、もう一度頑張るようエネコロロを励ます。押さえてもらえば、ボールが動いて力が分散することはない。それに気付いたエネコロロは再び木べらを咥え頷くと混ぜる作業を再開した。



 それから数十分後……

「できたー!」

「まっ、ざっとこんなもんよね」

 彼女たちの前には、一口サイズに切られたチョコレートがあった。ようやく完成したことにメガニウムは安堵の息を漏らす。一方のエネコロロはというと、全て一匹で作ったかのように得意げだ。それもそのはず、チョコレートを作る最後の作業となる冷やすこと。彼女はこれを氷タイプの技"れいとうビーム"を使うことで、瞬時に終わらせたのである。これが素早く完成させることができた決め手であり、メガニウムにはできない芸当だった。

「実はあんたのと少しでも違いが出るように隠し味を入れておいたのよね」

「え、いつの間に!?」

 得意げなエネコロロはそこでさらに思わぬことを打ち明ける。なんとメガニウムとの差別化として隠し味を入れたというのだ。彼女がチョコレートを作り終えるまでずっとキッチンにいたメガニウムはほとんど目を離していない。それにも関わらず特に変わったものが入ったところを見なかったため驚きを隠せなかった。

「ふふ、これで喜んでもらえること間違いないわね。どっちがより美味しいって言ってもらえるか勝負するわよー」

「うーん、チョコ作りは気持ちだから勝負じゃないと思うんだけどなぁ」

 ノリノリのリズムを刻みながらその場を後にするエネコロロ。その様子からよほど自信のあることが伺える。対するメガニウムはチョコレート作りを勝負事にするというのは本意でない様子。しかしながらエネコロロが仕掛けてくる以上避けようがない。すっかり調子をよくしたエネコロロの態度に重い溜息をつくと、メガニウムもまた夜になるまで休息すべくキッチンを後にした。



 ブリザードも止み、静かな闇に包まれた夜。

「今日がバレンタインなの覚えてた? みんなのためにチョコレートを作ったよ。よかったら食べてね」

 遊び疲れて横になっていた一同を集めるメガニウム。紙で包まずチョコレートそのままを純白の丸い皿に乗せた彼女は、集まった仲間たち一人一人にそれを渡していく。両手両足を持たないキングドラを始め、皆が食べやすいよう配慮した親切かつシンプルな盛り付けだ。皿の上には一口サイズのチョコが二つあった。

「一つはあたしで、もう一つはメガニウムが作ったのよ。さあ、早く食べて食べて!」

 隠し味の効いている自分のチョコレートの方が美味しいに違いない。そう確信するエネコロロは早く結果を知りたくて仕方がない。そんな彼女に急かされるように一同はココアパウダーの乗ったものを先に食べることに。ツバサの合図で一斉にそれを口へと放り込んだ一同は、程なくして目を輝かせてはしゃぎ出す。

「イエーイ! ベリーナイス! つまり美味いってこと!」

「これは驚いたな。こんなに美味しいチョコを作れたとは……」

 英語と日本語を混ぜた口調が特徴のグラエナはその場で踊りだし、チョコが好物のルカリオはかつてないほどの美味に舌鼓を打つ。

「それは私が作ったんだ。みんなありがとう」

 予想以上の好評ぶりに照れながらも感謝したのはメガニウム。料理経験が豊富なだけに安定と信頼の腕前といったところだろう。一同納得したように頷いている。
 一方気になるのはエネコロロの手作りだ。彼女に料理をするイメージを持たない一同は、どんな味を出してくれるのか興味津々だ。当のエネコロロもまた皆の反応が気になって仕方がない様子。

「さあ、召し上がれ」

 自信に満ちた表情でエネコロロが言う。その言葉を合図に一同は一斉にチョコレートを口に放り込む。見た目から分かることは、メガニウムのものと異なりココアパウダーが乗っていないことのみ。しかし、隠し味という勝算を持ったエネコロロは先程を上回る反応に期待が高まっていた。ところが……

「なんだこれ、しょっぱいぞ!」

「え……?」

「塩味が強すぎて甘味が感じられんな……」

 キングドラ、ヘルガーの反応を皮切りに一同からは揃って塩味が強すぎるという反応ばかり。実はエネコロロが入れた隠し味とは塩のこと。甘味を引き出すために入れたつもりが、メガニウムの目を盗むことに気を取られ量を誤ったのだ。それにより想定以上の塩味を出してしまったことで、一同が顔をしかめる味となってしまったのだった。これには当のエネコロロも愕然とし、目を伏せて沈黙してしまう。

「オレはしょっぱいチョコも好きだけどな。エネコロロもメガニウムもありがとな。美味しかったぜ!」

 そこへ寄ってきたのが一同のトレーナーにあたるツバサだ。彼はエネコロロのチョコレートもまたメガニウムのそれと同等に評価し、屈託のない笑みを浮かべながら二匹の頭を撫でる。彼に想いを寄せるメガニウムはこのことに大満足。照れを隠せない様子で、この上ない幸せを堪能している。一方のエネコロロは、想いのヘルガーを始め大半の評価が最低レベルのものであったことにショックを隠し切れない。ツバサも気を遣っているに違いないと考えたエネコロロは、彼の手を離れるとゆっくりとその場を去っていく。

「(絶対……絶対認めてもらうんだから……)」

 一同に背を向けたエネコロロは目に涙を浮かべ、今夜中にリベンジすることを誓う。ただ一人ツバサだけはそんな彼女の心境を察するも、何もすることができずただ見守るしかなかった。





 皆が寝静まった丑三つ時。雪で冷えて澄んだ空気は、一面に広がる漆黒のキャンパスに映る星々を鮮明に映し出す。そこに一匹佇む者がいる。体色が闇に溶け込むヘルガーだ。彼は紅蓮の瞳でただただ星を見つめ続ける。小さく揺れる瞳の中には一際輝く一つの星がまたたいていた。
 そこへやってきたのがエネコロロだ。その口にはハート型の入れ物に入った先程とは異なるチョコレートが咥えられている。そんな彼女が踏みしめる雪の音に気付いたヘルガー。一瞬目を大きく開け驚いた様子を見せるも、彼は穏やかな口調で話しかける。

「雪合戦か?」

「なわけないでしょ! これ……受け取ってくれる?」

 ヘルガーがボケると素早くツッコミを入れるエネコロロ。普段から一同のツッコミ役となっている彼女の切り返しは早い。チョコレートを咥えたままいつも通りにツッコミを入れられるのは彼女がテレパシーを使えるためだ。

「わざわざ作ってくれたんだな」

「べ、別にあんたのためってわけじゃ……。不味いって言われちゃ終われないでしょ」

 その反応にヘルガーはクスクスと笑う。何がおかしいのかと頬を膨らませるエネコロロ。バカにされたと感じたためだ。そんな彼女の反応にヘルガーは黙って何も応えない。そして沈黙を貫いたまま器用に入れ物からチョコを取り出すと、豪快にもガブリと一口で食べてしまう。そして目を閉じた彼は、口の中に広がる甘い誘惑を堪能していく。それが予想以上に長く続いたため、エネコロロは痺れを切らす。

「なんとか言いなさいよ!」

 思わず声を荒げるエネコロロ。しかし次の瞬間、ヘルガーの思わぬ行動に彼女の目は丸くなる。すっと彼女に寄ったかと思うと、ヘルガーは自らの額を彼女のそれと突き合わせたのだ。こうなると互いの距離は目と鼻の先。いや、額に至っては零距離だ。

「えっ……」

「ありがとうエネコロロ。すごく美味しい」

 優しく、でも確かに聞こえる声でそう言ったヘルガー。今彼との距離はとても近く、見つめた先の瞳に映り込んでいるのは自らの姿のみ。この状況にただただ驚くエネコロロの体は次第に火照っていく。それはヘルガーが炎タイプであるためか、想いの者であるためか。答えは言うまでもない。

「ずるいんだから……」

 彼は純粋に感謝しているだけで、そこに恋心はない。その証拠として、ヘルガーの表情には恥じらいが微塵もないのだ。ただ、ただ自分だけが恥ずかしさで燃えている。でも、かまわない。あたしはあなたのことが好きだから。そんなふうに思わせるヘルガーがずるい。そうは感じながらも抑えきれない恋心が、エネコロロを幸せで満たす。今の彼女の中に愛されたいという気持ちはない。純粋にヘルガーを愛する気持ちだけがそこにはあった。
 しばらく見つめ合った二匹は、やがて離れると揃って天を仰ぐ。

「ヘルガー、これからもずっとずーっと一緒にいてね」

「仲間だろう? 当然だ。これからもずっと共に生きよう」



'''星降る夜での出逢いは忘れられないけど'''
'''あたしは素直になれず ずっと臆病だったよね'''
'''それでも君はただ優しく 笑ってくれたから'''
'''心の扉を開いて 歩み寄れたんだ'''

'''君から特別な 愛はなくても'''
'''かまわない あたしはずっと君のこと好きだから'''

'''君があの時に教えてくれた'''
'''誰かを信じることはずっと'''
'''今でも忘れることはないんだ'''
'''これからもずっと共に生きよう'''
'''そんな君の言葉こそ輝く星'''



 次の日の朝。

「おはようエネコロロ」

「あ、おはよう。昨日は……その……」

 昨晩のことがよほど嬉しかったエネコロロは、ヘルガーに礼を言おうとする。ところが……

「っしゃあ! 今日も元気にいくぜ。出発だー!」

「いくぞー!」

「って、最後まで聞きなさいよーー!!」



~Fin~



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''あとがき''
今回はクロスピ初の特別篇ということで、本編を知らない方にも楽しんでいただける読み切りとして製作しました。
本編をお読みくださっている方は今後の展開を、このお話で初めてクロスピを読んだ方には本編をお楽しみいただくきっかけとなれば幸いです。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
よろしければ誤字脱字の報告や、感想、アドバイスを頂きたいです。
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