作者:[[PandraBox/C2]] ---- 近年様々なゲームとコラボをするカフェが増えてきた影響か、僕の町にもコラボカフェが出来た。 その名も「ポケダンカフェ」ポケモン不思議のダンジョンシリーズをモチーフにしたカフェだ。 『ジュプトルソーダ ラブラブ赤い実添え』『ゲンガーのイタズラソルベ~キュウコン様に叱られるから~』『おやかたさま満足セット(セカイイチ付き)』 『本日のおじいまかない料理』『どうですかクチート シュークリームおいしいですか』 などなど、魅力的なメニューが看板に書いてある。 オープンするや否や店の前には毎日長蛇の列が形成されていて、気になりこそすれどなかなか行く気にはならなかった。 そんなある日の事。たまたま大学の帰り道に通りがかると、人だかりもなく店内が空いているのが見えた。 これはチャンスだ! お金は千円しかないけれど、ドリンクくらいは飲めるだろう。 僕は意気揚々とカフェに入っていった。 「いらっしゃい! あれ? ワニノコじゃん。一匹でどうしたの?」 駆け寄ってきたリオルに声をかけられた。店員らしくフリルのついた可愛いエプロンを身につけている。 ワニノコじゃないよ、僕はニンゲンだよと言ってみた。 「え? ニンゲン? 何言ってるの、ほらこっちきて座りなよ」 ははあ、そういったコンセプトなんだな。ずいぶんと本格的なもんだ。 それにしてもワニノコといわれるのは嬉しい。最初に主人公になったポケモンだし、リオルはパートナーに選んだポケモンだ。 懐かしいな。時の歯車を集める大冒険の末に星の停止を食い止めたあの物語は、つい昨日の出来事だったように思う。 空の探検隊の追加エピソードで何回泣いた事やら。感動して次の日山へ登って日の出を見に行ったっけな。 「はい、これがメニューだよ。たくさん食べてってね!」 笑顔でメニューを置いて、リオルは向かいの椅子に座った。にこにこ笑っている様子は見ているだけで顔がほころんでくる。 それじゃあとワニノコらしく『あおいグミソーダ』を注文すると、リオルはメニューを下げて店の奥に入っていった。 ……ん? あれ? なんかおかしいな。ポケモンってしゃべるんだったっけ? いやでもここポケダンカフェだし。ああ、きっと音声が出る機械でもつけているんだろうな、リオルに赤い首輪がついていたし。 納得しつつも妙な違和感を感じながら待つこと数分。リオルがスキップしながら『あおいグミソーダ』を持ってきた。 「ワニノコ! お待たせー」 運ばれてきた『あおいグミソーダ』は海のような深い青をたたえ、上にちょこっとだけグミが浮いている。 一口飲んでみると、喉にしゅわしゅわ心地いい刺激が走る。今まで飲んだことのないような味で、なんだか懐かしいような切ない甘さだ。 今度は付いてきたスプーンでグミを掬って食べてみる。想像していたよりも固めで、ちょっと酸っぱい。いつまでももきゅもきゅ噛んでいられそうだ。 「ねぇワニノコ、おいしい?」 向かいに座り尋ねてくるリオルにもちろんだよと言いかけて、気がつく。さっきまで低かったリオルの目線が自分より少し高いことに。 そういえばテーブルも高くなったような。ソーダのグラスに手が届かない。手の力が抜けてスプーンが床に落ちる音がした。 まさか。まさかそんなことと、窓を見てみる。 映った僕の姿は、紛れもなく一匹のワニノコだった。 「おかえりワニノコ。これからはずーっといっしょだからね」 首輪のないリオルの言葉が、頭の中で何度も反響していた。