writer is [[双牙連刃]] ポケタン二作目です! 前作はシリアス感があまりなかったので、ちょこっと調整してみようと試みてます。 でもやっぱりギャグテイストです。はい、そんな作者ですよ。 なんだそりゃ! な方はバックボタンをプッシュして下さい。 ---- 貴方には護ってくれる人は居る? 居るんならね、その護ってくれる人の事、貴方はどう思ってる? 好き? それとも、嫌い? 好きならば……それは自分を護ってくれるから? それとも、本当に心から? 嫌いならば……おせっかいだから? それとも、自分の為にその人が傷付くのを見たくないから? あぁ、いきなり変なこと聞いてごめんね。僕がちょっと気になっただけなんだ。 何でこんな事聞いたか? うーん、単純に気になっただけなんだ。いやホントに。 気になった理由? そんな事まで聞くの? まぁ、僕が変なこと聞いたのが悪いんだけどさ。 ……兄弟に、出会ったんだ。あ、僕のじゃないよ。 とても繋がりあっていて、悲しい位に、それぞれの事を想い合う兄弟。 だから……全てが歪んでしまった。そんな兄弟。 僕は止められなかった。全てを知ったのに……見送る事しか出来なかった。 それが正しかったのかは僕にも、一緒に居たポケモン達にも分からない。 ん? 聞きたい? あんまり話したくないんだけどなぁ。 分かってるよ。それじゃ物語にならないもんね。 じゃあ、聞いてくれるかな。 あ、ちょっと待って。もう一つ聞いていい? 貴方には……護りたい人って、居る? たとえ自分が壊れてしまっても、護りたい人が……。 ---- 「ふぁ~あ~ぁ」 やっと今日の授業オールコンプリートー! 殆ど寝てたんだけどね。 いやはや、途中から先生が本気でチョーク投げてきた時はどうしようかと思ったよ。 まぁ、全弾尻尾で叩き落としたけどね。先生が涙目になったのには焦ったけど。 「カッツ君! 君は後で先生の所へ来なさい! 必ずよ!」 「いやぁん。先生、そんなに怒ったら綺麗な顔が台無しだよ?」 「き、綺麗だなんて……はっ! と、ととととにかく! 下校前に先生の所に来る事! いいわね!」 帰りの会が終わったと思ったら……ジューラ先生が凄い剣幕でこっち来てお呼び出し。まぁ、当然だね。まともに授業聞いたの朝の会と帰りの会だけだし。って授業のカテゴリーじゃないじゃん。 しかぁーし! ジューラ先生の弱点が『可愛い、綺麗、美しい』と言われることであるのは学校中に知れ渡っている事なり。(本人以外だけどね) ルージュラであるという先生のコンプレックスを利用したダメージ軽減法として僕がいつも使ってる手なんだよね。効果は絶大だったりして。 それにしてもいやぁんは気持ち悪かったかな。自分で言って自己嫌悪ゲージが一気にマックスになったよ。 それでも、やった報酬は大きいよ。これで往復ビンタの刑や悪魔のキッスの刑は免れたはず。悪魔のキッスの刑はトラウマになるからな。前にビルが受けてるの見ただけだけど。 「カッツ……大丈夫なの? 先生に呼び出されてたみたいだけど」 「いつもの事だよ。ビルだって知ってるでしょ?」 「知ってるけど……カッツが呼び出される度にあの時のことが……う、うわぁ、うわぁぁあああぁぁぁああぁあぁ!!!」 「お、落ち着きなよビル。……それほどの破壊力があったんだ。悪魔のキッスの刑って」 ビルが頭を前脚で抱え込んで叫び出した。怖い! そして煩い! どんだけトラウマなんだか……。 おまけでクラスの約半数の男子が下校時間なのに震えている……。よく見ると女子も僅かに混ざってるけど。 それほどの戦慄を生徒の心に残すとは……ジューラ先生恐るべし。 このままじゃ皆が恐怖で動けないな。まぁ僕が真実を言えば良いだけさ。 「皆どうしたの? 呼び出されたのは僕なんだから皆は早く帰ったら?」 静まり返っていた教室に僕の声が広がり、ジューラ先生の魔術は解けた。 皆がいそいそと帰り支度を始めたね。言わなかったらどうなってたんだろ? 今度試してみよっと。 そんな皆の様子を見ながら僕は廊下に出る。目指すは家……じゃなくてジューラ先生のとこか。めんどくさいなぁ。 トコトコと廊下を進む。現在二階建ての校舎の二階。先生が居る職員室は一階の玄関の近く。実は帰る気満々で、もう鞄は持ってるんだよね~。 廊下はこれから帰る生徒でいっぱい。遊ぶ約束なんかをしてる子もいる。いやぁ、平和だなぁ。 「カ~ッツ君♪」 「ん?」 後ろから目隠しされちゃった。やり口が古いなぁ。なんてツッコミは口が裂けても言わないけどさ。 「えへへ、だ~れだ!」 「フィーエ」 「もぉ~、もっと驚いてよぉ~」 驚いてと言われて驚くようなノリの良さを生憎僕は持ち合わせていないのさ。 で、僕に目隠しをした張本人を正面に捉える。エーフィが一匹。この子がフィーエである事は間違いようが無い。 この前の事件(初事件のほうね)の時に僕が助けた同級生。しかも学校で唯一のエーフィだったって聞いた時は驚いたね。だから間違えようが無いわけ。ま、僕も唯一のピカチュウなんだけどさ。 「カッツ君これから帰るんでしょ? 一緒に帰ろ!」 「帰りたいんだけど、その前に先生に呼ばれてるんだよね」 「先生? ジューラ先生に?」 「うん。だから先に帰っててもいいよ」 待たせるのも悪いし、何よりもフィーエと並んでるのってちょっと危険なんだよね。 僕とフィーエは別の教室なんだけど、なんとフィーエはその教室のトップ。というか学年トップクラス。何のトップかって? すらっとした体つきにきらきらと艶やかに輝く毛並み。そして極上の笑顔。ここまで言えば分かるよね。 なもんだから異性である僕がフィーエの隣に居るのが気に入らない奴もた~くさん居るんですよこれが。今までに向かってきた奴は全て尻尾の錆にしてやったけど。 これが危険な理由。ね? 危険かつハイパー面倒でしょ? 「そんなに掛からないんでしょ? 私、待ってるから一緒に帰ろうよ」 「いや、でm」「ね!」 僕に選択権は存在しないようです。こう、ね? 手を取られてニッコリスマイルなんかされたら僕のハートはクラっとしちゃうのよ。 男って……弱いよね。 しっかし、知り合ってから妙にフィーエに好かれちゃったみたいでね。今ではお昼のお弁当まで一緒に食べてますよ。(給食? 何それ美味しいの?) お陰で他の男子の逆恨み買いマックス。勘弁してほしいね。 ……待たせる前にちゃちゃっと終わらせますか。 「分かったよ。なるべく早く行くから校門で待ってて」 「うん! 職員室の前で待ってるね♪」 「……………」 はい僕もう何も言いません。勝てないもん。 ---- 結局20分もの時間を説教に費やしてしまった……。折角の午前授業なのにぃ。ジューラ先生、話長いよ。 覚えてる内容は全く無いけどね。目開けたまま寝てたに等しい精神状況だったし。 しっかし、フィーエを待たしちゃったなぁ……もう帰っちゃったかな? ゆっくりと職員室の扉を開ける。……やっぱり居ないや。そうだよね。でも……ちょっと悲しい。 ふぅ、僕もさっさと帰ろう。ビル辺りを誘って何か遊ぼうかな。 玄関の方へ向かいながらぼんやりと考える。一人で帰るのも久々だな。最近はフィーエ、前はビルと一緒だったし。 そういえば最近ビルは忙しいんですよ。あの事件を解決した(と思われてる)所為で、色々頼まれ事をされるようになったんだってさ。僕も、落とした大事な物探してって頼まれてるの手伝ったし。 そんな感じでビルと一緒の時間は減ったなぁ……。べ、別に寂しい訳では無いけどさ。 「え~い!」 「うわっ! わっ!?」 不意打ち……。玄関を出て直ぐに横からタックルされました。何やら柔らかい物が僕に覆いかぶさっているよ。 「カッツ君遅いからビックリさせちゃった。ねぇ、ビックリした?」 「ビックリした……」 フィーーーーエーーーーー! 心臓に悪いよぉーーーー! 何の奇襲かと思ったか! ビックリしたけど表情には出さない! ポーカーフェイスは紳士の嗜み。はい全然違いますね。僕の意地です。 に、してもだ。危険度指数レベル5(最大)の学校で僕に抱きつくという事の危険性を彼女は知らない。視線が! 視線が痛い! グラウンドにはまだたくさん遊んでる子が残ってるんだってばぁぁぁ! 「ふふっ♪ カッツ君ぷにぷにで気持ちいーよ」 「……フィーエ、そろそろ離れようか」 ぷにぷにで気持ち良い……それは僕のセリフですよ。フィーエが抱きつく力を強めると、僕の方にも君の体が押し付けられる事になるんだからね。 子供で良かった。大人がこんな事してたら大変だよ。公然猥褻だよね。 見ている皆に本当に謝りたい。どうか、僕を睨まないで。僕が望んでこうなったんじゃないの。フィーエがちょっと過剰なスキンシップをしてきてるだけなの。 「えー?」 「えーじゃなくて、……もう、早く帰ろう」 何が不満なんだろうね? ……もうちょっとだけこのままでも良い気がするけど。 不満は漏らしたけど表情は笑顔のままだ。この笑顔がフィーエの人気に拍車を掛け、僕の他からの恨みを増長させている。困った物だよ。 とまぁ、色々ありながらも結局フィーエと校門を出る事になりました。……カップルに見えるのかな? いや、僕とフィーエは付き合ってる訳じゃないよ。友達、そう、あくまでも友達です。 ---- さて、実は僕とフィーエの家は同じ方向です。フィーエの家の方が学校よりだから僕が送っていく形になるんだよね。因みに距離は歩いて二十分くらいかな。結構近いでしょ。 そんな帰り道の途中で、話をしていたらフィーエが突然前触れも無く……。 「そうだ。私の家の隣にね、お引越ししてきたポケモンが居るんだよ」 と、振ってきました。 引越しねぇ? 言っちゃあ悪いけど、この町、娯楽なんかは全く無いよ? もっと都会に引っ越していくポケモンは良く聞くけど、引越して来たっていうのは初耳だね。 「へぇ~、この町に引っ越してくるなんて物好きだね? どんなポケモン?」 「それがね、分からないの」 「分からない?」 変な話だね? 引っ越してきたのは分かるのに肝心の誰かが分からない、か。 「家具が家に運ばれてきたのは見たんだけど、住む人は見てないの」 「ふぅん……あれ? でも、引っ越してきたんなら挨拶位されるよね? されてないの?」 「う~ん、私が居る時は来た事無いなぁ」 「ふむ、それも変だね? 因みに、引っ越してきたのはいつ?」 「うんと、5日前」 それならある程度片付けとかも終わってる筈だよな? 挨拶をしない隣人か……ちょっと不気味だな。 極度の人見知り? それならまだ良いけど、訳有りで人前に出れないとかだったら危険かもね。 なんにせよ、どんなポケモンかくらいは分からないと安心出来ないよね。ここは……提案してみますか。 「ねぇフィーエ。これからその家に行ってみない?」 「え? なんで?」 「挨拶されないなら、こっちから行けば良いって話。でしょ?」 「あ、そっかそっか。そうだよね」 「よし決まり。で、その家って?」 「ここ」 気が付いたらフィーエの家の前まで来てました。話に花が咲くと時間てあっという間だね。 ふむ、この家の隣だから……ってもうフィーエが教えてくれてるんだけどね? 白い壁に緑色の屋根。高さからいって二階建て。ふーん、普通の家だね。 もっとこう……ドロドロしたような壁の色で、黒いオーラなんかが出てる家を想像してたんだけどな。いや、それじゃあからさま過ぎるか。 さてと、呼び鈴は……あるね。当たり前か。これを押してそのままダッシュ! って、チャイム押すとピンポンダッシュしたくなるような事はありません。普通に待つよ。 「……出て来ないね。留守なのかな?」 「それならしょうがないけど……扉は……開いてないか。留守だね、これは」 なんだ、つまらないな。実は暇潰しも兼ねてたから、何もないと後は帰るだけなんだよな。 開いてないドアの前に居ても仕方ない、か。 「ふむ……もしかして、まだ住むポケモンは来てないとか? 家具が入ったのは5日前なんだよね」 「そうかもしれないなぁ。どうしよっか? ついでだから私の家で遊ぶ?」 「へ? いや、僕は一旦帰るよ。鞄あるし、あとちょっと歩けば家だし」 「そっかぁ……じゃあ、後で公園で遊ぼうよ。私、鞄置いたらすぐ行くから」 「オッケー、公園ね。僕もなるべくすぐ行くよ」 そんな感じで話しながら無人……だと思われる家を離れる。後は家に帰るだけだね。 ……?! 尻尾が……ピリッとする!? 左から!? 咄嗟に左を向く。何だ!? 何も……無い? 違う! 影がある! という事は、上! しまった! 太陽の光で、見えない! 「くっ!」 「ふにゃっ!?」 後ろに居たフィーエを尻尾で横に逃がす。あのまま並んだ状態だと危険だから。 なんで危険かって? 僕の尻尾は自分の身に危険を及ぼす物にしか反応しないからさ。しかも実際、日の光の中で飛び掛ってきた相手の爪が光ってるしね。 フィーエを逃がしたのは良いけど、発見が遅かったな。僕が逃げるのは間に合いそうに無いや。尻尾も、フィーエを逸らす為に使ってるからアイアンテールが出来ない。 「ぐあっ!」 「へ? か、カッツ君!?」 僕の左肩から右脇へ袈裟懸けに痛みが走る。爪が僕の体に当たった証拠だね。 うわぉ、ま~っか~に~流~れる~、僕のち~し~お~♪ ……冗談にしないと耐えられないくらい痛い。スッパリいかれた。鞄の肩掛けベルトが切れなかったのが唯一の救いだよ。 しかーし! 僕のピンチはまだ終わっていないようです。着地した犯人がまたこっちへ走り出したっぽい。音しか聞こえないけど。 はい来た。今度は左の脇に爪が食い込んで、そのまま通り過ぎて行った。僕の体がどうなったかは想像出来るよね。 ヤッバイ。痛い。ピカチュウってそれほど耐久力無いんだよ。この連撃は不味いなぁ。 受けたのは間違いなく爪での『切り裂く』。受けた場所も体正面と左脇にノーガードで。 くっそぉ……白昼堂々と……襲われるとは……思ってなかった。せめて……犯人の……姿を……。 「いやぁぁぁぁ! カッツ君! 起きてぇ!」 フィーエの……叫ぶ……声が……聞こえなく……なって……。 ・・・・・・・・・・・・・・・・。 ---- 目を開けたらそこには綺麗なお花畑……では無さそうだな。 僕、再起動! どうやら生きてるね。ふむふむ、ようやくぼんやりしてた視界も元に戻ってきた。 ここ……どこよ? とりあえず目に付くのは勉強机に本棚。それに、僕が寝てるのはベッドか。後は……縫いぐるみが結構ある。 ピカチュウのが多いみたいだな。……なんか自分がいっぱい居るみたいでおかしな感じだけど。 ベッドからほんのり、優しい香りがする。これって……。 「フィー、エ?」 そうだ。フィーエに抱きつかれた時の香りだ。それがするって事は。 「ここ、フィーエの……部屋?」 だとすると……僕は倒れた後、フィーエの家に運び込まれたって事か。確かにすぐ隣だったしな。そう考えるのが妥当か。 しかし、何故にフィーエの部屋? に寝かされてるんだ? って、そもそも僕の予想でしかないんだよね。ここがフィーエの部屋って。 とりあえずベッドから起き……。 「つっ! いっ……たぁ……」 倒れた理由を忘れてた。僕襲われて、切り裂く受けて倒れたんだったな。 傷口に包帯が巻かれてる。む~、誰に? ……! そういえばフィーエは!? 僕が倒れた後、もしかしたら襲われたんじゃ!? 「ん……」 「あ……」 ベ ッ ド の 横 で 寝 て ま し た。 見た所怪我も無さそうだな。ふぅ、一安心だよ。倒れてまで助けようとしたのに、これで何かあったらどうしようかと思った。 「んん……、カッツ……君……起き……て……」 「心配、させちゃったか」 眠ってるフィーエの目から涙が……。無茶し過ぎたかなぁ。あの場合じゃ仕方ないよね。 「フィーエ、フィーエ起きて」 「むにゅ……あ、カッツ君! ……夢じゃないよね!? 本当にカッツ君だよね!?」 「うん。心配させてゴメン」 「うっ、うっ、よかったぁ……」 泣きながら抱き締められるって、何とも言えないや。心配してくれたのは嬉しいけど、泣かれるのは正直重いなぁ。 「クスン……、目の前でカッツ君は倒れちゃうし、カッツ君攻撃したポケモンはあっという間にどっか行っちゃうし、どうしようかと思ったよ」 「そっか、あいつはどっかに行っちゃったか……。ところで、ここはどこ?」 「私の部屋だよ。どうしたらいいか分かんなかったから、お母さん呼んできたの。そしたら、傷薬塗って寝かせてあげようって事になったから、ここに運んだの」 なるほどね。僕がどうなったかも、犯人がどうしたかもこれで分かった。 分からないのは、襲われた理由か。僕、これでも恨みを買うような事はしてないからなぁ。検討がつかないな。こればっかりは。 ま、これ以上ここで寝てても意味は無いし、帰らないと母さんも心配させる事になるか。 「あ、カッツ君! まだ動いちゃ駄目だよ!」 「そうも言ってられないよ。大分眠っちゃったみたいだし、母さんが心配しちゃうよ」 「カッツ君のお母さんなら下に居るよ」 「……は? 何で?!」 「だって私カッツ君の家知ってたから呼びにいったの」 さ、最悪だ。自力で帰ったんならまだしも、倒れて運ばれたなんて……。 知られてるよね。もう駄目だ、おしまいだ。 とにかく起きて事情を話さないと! 「あ~! だから起きたら駄目だったら!」 「放すんだフィーエ! 僕は母さんと話をしなきゃならない!」 「だめ~!」 「放して~!」 ベッドの上で一悶着。何としても弁解しないと後がもっと不味い事になる! くっ、傷の所為で力が弱まっててなかなかフィーエを引き剥がせない。こんな事をしてる場合じゃないんだよ。 ---- 気が付いたら僕がフィーエに馬乗りになってました。あれだね、寝てる状態でフィーエに押さえつけられてたから反転して体起こしたの。 あ、嫌な予感がする。予感というか、足音が近付いてくる。フィーエから早く降りなきゃ! 「どうしたの? なんだか騒がし……」 部屋の扉が開いて、その扉の前で一匹のシャワーズさんが固まった。 声の感じからして雌。そしてこの家に居るという事はフィーエのお母さんでしょう。 いやぁぁぁぁぁぁぁ! 最悪のタイミングだぁぁぁぁ! 「な~にをやっとるかバカ息子がぁぁぁぁ!」 次の瞬間に僕はベッドから飛んでた。聞き慣れた声と衝撃を受けながら。 僕を殴った張本人の名は、マグシー。マグシー=マグマラシが本当の名前。僕の母さんです。種族は炎タイプのマグマラシ。名前で分かるよね。 「アンタが倒れたって聞いて来てみれば寝てるし、起きたと思ったらいきなり助けてくれたフィーエちゃんを襲うとはね! この馬鹿!」 「ち、違う……話を……話を聞いて……」 「あぅ、カッツ君……大丈夫?」 ベッドから部屋の隅まで飛びました。怪我人に何をする! 傷口開くでしょ! 「全く……心配掛けさせるんじゃないわよ……」 近付いてきた母さんに抱き締められました。強く。イタタタタ! だから知られたくなかったんだ! 加減無くこういう事してくるから! あぁ、意識が薄れる……。息が出来ない……。 「カッツ君のお母さん。カッツ君、息出来てる?」 「あら、またやり過ぎちゃったか。フィーエちゃんもゴメンね? この馬鹿がまさか襲うとは」 「えっと、私襲われたんじゃなくて、カッツ君が起きようとするの私が抑えようとしてああなっちゃっただけなんだけど……」 「あらそうなの? 早とちりしちゃったわ~。奥さん。どうやらそういう事らしいわよ?」 「そ、そうでしたの。フィーエ駄目でしょう? カッツ君は怪我してるんだから優しくしなくちゃ」 「だってぇ~……」 あの、皆さん? 当人瀕死なんですけど。母さんは放してくれないし。 こうなったのも全て僕を襲った奴の所為だ! 絶対に見つけ出してやる! とにかく、考える事は多いな。襲われた理由に相手が何者か。まずはその辺りか。 ……そろそろ誰か、ぐったりしてる僕に気付いてよ。話しに花を咲かせるなぁぁぁ! 「それほど酷い怪我は無さそうだし、明日辺り病院へ行かせるとして……今日は息子がお手数をお掛けしてゴメンなさいね」 「いいんですよ。カッツ君はフィーエを守ってくれたようですし、これ位しないと」 「カッツ君本当に大丈夫?」 「……多分、ね」 はぁ……何はともあれ、僕以外に被害が出なかったのが幸いか。フィーエのお母さんにも誤解されずに済みそうだし。 母さん、そろそろ抱っこの状態を止めて欲しいんだけど。歩く位ならできるし。 もう、早く家に帰りたい。窓からは夕日が見えるよ。午前授業の分の時間はパァか……。 ---- 「それにしても痛々しいわね~」 「何で若干嬉しそうなのさ。てゆーか降ろしてよ。わざわざ紐で縛りつける事無いでしょ」 「こうでもしないとアンタ、母さんに甘えてこないでしょ~。たまには大人しく背負われてなさい♪」 フィーエの家から帰ってきはしたんだけどさ、帰る間も帰ってきてからも僕は母さんの背中から降りてない。降ろしてくれないから。 炎タイプである母さんの背中は確かに暖かくて好きだけど……いつもはこんな事絶対にしない。抵抗してでも降りてるさ。 いつも僕の為に働いてくれてる母さんに少しでも負担は掛けたくないんだよ。はぁ……こういう時、居ない者がどうしても居ればいいなと思っちゃうよね。 僕の家は母さんと僕、二人しか暮らしてない。理由? 父さんが死んじゃったからさ。 ……嘘です。僕は父さんの顔すら知りません。生まれてこのかた、父と呼ばれる者を見はするけど、僕自身にはそれに該当する者は居ません。母さんにも夫にあたるポケモンが居た事無いし。 分かるかな? 僕は……母さんと直接的な家族関係を証明するものが無いんだよ。血の繋がりとか、同タイプであるとかさ。 第一に、ポケモン同士でタマゴを宿すと、その子供は大抵が母親の方の種族を受け継ぐ。(一部には父親の方を受け継ぐイレギュラーもあるらしいけど) 僕が母さんの子供なら、ヒノアラシになってるはずさ。(そのイレギュラーじゃ無ければね) 僕がこの世で始めて目にした物は、何も無い草原と、僕が置かれていた切り株。……言いたくは無いけど、ようは捨てられてたんだよね。 そこからはよく覚えてないな。歩いて、泣いて、気が付いたら目の前に母さんが居た。 母さんの「来る?」の一声を聞いて、僕は母さんに付いていき、この家に着いた。それからは親子として暮らしてるわけさ。 僕と母さんしか知らない、僕達の……僕の秘密。 「あら、大人しくなったわね。寝たの? カッツ?」 「起きてるよ……」 「元気が無いわね~。まさか、また傷が痛むの!?」 「平気。ちょっと考え事しただけ」 「もぉ~、いちいち心配させるんじゃないの」 「ゴメンゴメン」 本当の親子じゃないかもしれない。でも……母さんと僕は、思い出で繋がってる。 僕と母さんが今まで一緒に暮らしてきた事、笑ったり(主に母さんが)、呆れたり(主に僕が)してきた事に偽りは無い。 親子は……血の繋がりだけじゃないと僕は思ってるからさ。 「さ、出来た。これ食べて、今日はもう寝ちゃう事!」 「は~い」 今日はカレーか。これも食べさせようとするんだろうなぁ。全く、ちょっと過保護なんじゃない? ……今日ぐらいは、良いけどさ。 ---- 日にちは替わって次の日。僕は強制的に学校を休まされ、付き添いの母さんと、何故かフィーエに連れられて病院へ来ました。 ……何故にフィーエ? 聞いたら、心配でいてもたってもいられなくなって、それを見かねたフィーエのお母さんが僕の付き添いを許可したみたい。学校もよくそんな理由で休みを許可したもんだよ。 「違うよ。学校には、風邪ひいたから休みますって言ったの♪」 「言ったの♪ じゃないよ。そんな理由で休んだら明日大変でしょ!」 「平気平気。お母さん薬屋さんだし。一日で治っちゃった事にするから」 「へ~、それでカッツの傷も治りが早かったのね~。アンタ、ついてるわね。将来は病気知らずよ」 「何の話をしてるの母さん!」 傷の治りが早かったのは事実だけどさ。もう診察は終わったんだけど、診察室で包帯取ったらビックリ。傷はもう殆ど治ってて、跡だけしか残ってなかったんだよ。その跡も毛が生えたら残らないってあのトドゼルガの先生言ってたし。 フィーエママの薬スゲーって思ったよ。どんな物使ってるんだろ……今度機会があったら聞いてみようかな。 「そうだフィーエちゃん。あの後、夜に出歩いたりしてないかい? 通り魔が出たんだから気を付けなさいね」 「うん。危ないからってお父さんから外出禁止にされる所だったよ。そんなのつまんないもんね」 「……通り魔、ねぇ……」 確かにそう考えるのが妥当か。でも、それなら何故昼間に? そういうのって普通人眼に留まりにくい夜とか、暗い所とかでしない? これは違う気がするんだよなぁ。でも違うなら僕を襲う動機が必要になるし、あの場に居たフィーエを襲わなかった理由も気になるところだよな。 ふむ、一度あの場所を見る必要がありそうだね。 「んー? アンタ何難しい顔してるのよ? 変な事考えてるんじゃないでしょうね」 「変なことって何さ? 昨日僕が襲われた理由だよ」 「そんなこと考えてたのアンタ。そんなのはね、コイルさん達に任せれば良いのよ。いつぞやのスリーパーの時みたいにアンタが苦労する事は無いの」 「そうだよ。それに、カッツ君は今は怪我してるんだから無理しちゃ駄目! ね、カッツ君のお母さん」 「そうそう、フィーエちゃんの言うとおりだよ。あ、フィーエちゃん。私の事はマグシーさんとかでいいわよ」 「へぇへぇ……」 ザ・口だけでショー! 僕が引き下がる訳無いでしょ。被害者は僕。すなわち、犯人について一番情報を持ってるのは僕なんだからさ。 現時点で分かってる事なんて、相手は三本爪で(僕の傷跡から推察して)素早くて……ぐらいしか分かってないけど。 これだけでどのポケモンか絞るのは……まず無理だよね。そんなポケモン結構居るし。 それにしても僕より素早いポケモンか……いや、ちょっと待てよ? あの時僕はアイアンテールを使えれば防げそうだったな。とすると……。 「カッツ何してんの? ほら、置いてくわよ」 「あ、ゴメン。今行くよ」 「カッツ君まだ大丈夫じゃないんじゃない? マグシーさんにおぶってもらったら?」 「冗談でしょ? 平気だよ。昨日散々おぶられたしさ」 「あらぁ、私はアンタなんか幾らおぶったって平気よ。なんたって自分の息子なんだから」 「はいはい。その息子が平気だって言ってるんだからいいでしょ。さ、帰ろう」 フィーエの順応早いなー。もうマグシーさんて呼んでるよ。本当に良いんですか? とかも聞いてないし……僕が聞いてなかっただけかな? 母さんは……そんなに僕をおぶりたいの? 何故に? そんなのはいいか。いつまでも病院に居てもする事無いし、外に出るか。 うーん、太陽が眩しいね。建物から出てすぐだと眩し過ぎるくらいだ。 だからだろうね。ほら、道端で倒れてるポケモンが……るおおおおぉぉぉぉぉ!? 誰か倒れてるー! 結構距離はあるけど、道端に誰か倒れてるのが見える! 大変だぁぁぁぁ! 「か、母さん! あそこ!」 「ん~? ……ぶっ! カッツ! フィーエちゃん! ダッシュよ!」 「ふぁっ!? 急にどうしたの?」 「見れば分かるよフィーエ! いや、フィーエは病院から誰か呼んできて! 早く!」 「えっ? えっ?」 「あ~もう! カッツ! お医者は私が呼んでくるからアンタは早くあのポケモンのとこへ行きなさい! フィーエちゃんはこっち!」 「了解! 不味そうだな、母さん急いで!」 「う、あぁ、待って~」 使いたくは無いけど……ボルテッカー発☆動! 加速つけるならこれが僕の覚えてる中では一番の技だ。 体中から放電しながら全力疾走! うぅ、完治してる訳じゃないからかなり辛い……。 よし到着。見える距離だったから良かったけど、よく発見できたな僕。目は悪くないけど。 っと、……ニャース? この辺りにニャースなんて住んでたっけ? それどころじゃないな、これは。凄い汗掻いてるし、おまけに胸を押さえて苦しんでる。胸の病気か何かなのかな? 「ねぇ君! 大丈夫!? 喋れる!?」 「……ぅ、ぅぅ……」 意識はあるっぽいけど返事がなーい! 医者でもない僕が勝手には動かせないし、うー! 母さん急いでー! 「に、兄さん……行かな……いで……」 「兄さん? っくそ、しっかりして、君のお兄さんが心配するでしょ!」 「ぅ……兄、さ……」 「ちょっと、冗談止めてよ! 意識を手放しちゃ駄目! 僕の声聞こえる!? 喋らなくていいから、息整えて!」 「くぅっ! ……」 待って待って待ってー! これ以上は僕、声を掛けることしか出来ないよ!? この子はずっと辛そうだし、も~! 母さんまだ!? 病院の方は……うおぉ! さっきのトドゼルガ先生来たー! 看護師のポケモンさん達も何人か来てるし、間に合うよね!? 間に合ってよ! 「倒れたのはこのニャースの子かい!?」 「はい! 汗が凄くて、息はしてるんだけど荒いし、意識もはっきりして無いみたい! 胸も苦しそう!」 「不味そうだね……すぐに運ぶぞ! 急ぐんだ!」 白昼の大惨事。って、血とかは出てないけどさ、もう大変だよ。 大勢の野次馬も集まってきちゃうし、倒れた子は辛そうだし、母さんとフィーエは息切らしてるし。 ……野次馬うざい! 先生とかが通れないじゃないか! 「邪魔だ! 道開けてー!」 僕の十万ボルトが炸裂して道が出来た。……このままついて行こう。見つけたのは僕だし、それに……何故かストレッチャーとかっていうのにニャース君が乗せられた時、僕の腕を掴んできたし。逃げられません。 あ、因みに言っとくけど、十万ボルトによるニャース君や周りの被害はゼロだからね? めちゃくちゃ集中して出したよ。つ、疲れる……。 ---- 「恐らくは彼、体が弱いんだろう。それなのに何か無茶な事をしてたのか、体力の低下に脱水症状、おまけに過呼吸まで起こしておった。一体何をしていたのか……」 「それで、この子は大丈夫なんですか?」 「呼吸も安定してきてるし、しばらくここに居てもらう事にはなるだろうが、命に別状は無いだろう」 「そうですか、よかった」 「ところで、このニャース君は君の友達なのかい? ずっと手を繫いだままのようだが……」 「いえ、完っ全に通りすがりで助けました。手は、この子が掴んだまま眠っちゃってそのままなだけです」 「そうか……他の患者の診察もあるので、君に少しこの場を任せようかと思ったんだが、それでは不味いね」 「あ、もう大変な事は無いんですよね? それなら僕だけで見てますよ。って、扉の前に母さん達も居るみたいだし、何かあったらすぐ呼びますんで」 「そうかい。協力、感謝するよ。何かあったら遠慮無くそこのナースコールを押しておくれ。看護士と共に私も駆けつけよう」 「分かりました」 あのトドぜルガの先生凄く良い先生だ。治療も適格だし(見た感じね)患者さんをしっかり診て、心配もしてる。いや~、僕も良い先生に掛かれて良かったよ。殆ど治った後だったけど……。 てゆーか母さんとフィーエ自重しようか。ガラス越しに見えるんだよ影が! 母さんは扉にしがみ付くみたいに中覗いてるし、フィーエは同じく覗こうとしてピョンピョンはねてるし、ミミロルか! そんで扉開けたトドぜルガ先生に驚いてミギャア! とか言ってるし! 病院ではお静かに! そして僕はいつまでこのニャース君と手を繫ぎ続けなければいけないんだろう。もちろんこの子が起きるまでだよね。……はぁ~。 「カッツ、その子はもう大丈夫なのかい?」 「うん。トドぜルガ先生はそう言ってた」 「でも何でカッツ君はその子の手、握ってるの? 知り合いなの?」 「違うよ。この子が掴んだまま眠っちゃっただけさ」 「ふ~ん。……羨ましいなぁ……」 「ん? フィーエ何か言った?」 「何にも言って無いも~ん」 何か怒らせたっぽい。何故に? 僕、何にもしてないよね? 「アンタも結構にぶチンね~。それは置いといて、その子、熱は無いの? 濡れタオルでも作ってこようかしら」 「う~ん、熱は無いっぽいけど、脱水症状って言ってたかな?」 「それならお水飲ませなきゃ。持って来るわ」 「いや、寝てる状態でどうやって……もう行っちゃったよ。ホントせっかちだな」 この状態で水なんか飲ませたら起きるし、苦しいだけでしょ。ちょっと考えて欲しいね。 フィーエはじとーっとこっち見てるし、息が詰まる。誰か僕を解放して。この空間から。 「ん……」 「あ、カッツ君、この子気が付いたみたいだよ」 「らしいね。君、喋らなくていいよ。今お医者とか呼ぶから。フィーエ、そこにぶら下がってるボタン押して」 「はーい」 さて、フィーエ対ボタンのバトル、始まり始まりー。 ボタンくらいエスパー能力無しで押したいのか、ナースコールを前脚で押そうとしています。 が、ぶら下がっている所為か、なんか押し辛そう。本来なら全体を握ってピッと一押しで簡単ですが、それが出来ないのが四足歩行系の痛いところ。 本来なら僕もそうだけど、小さい頃から後ろ足だけで歩いてた所為か、今では走るの以外はずっと二本足立ち。もう前脚と呼称されるそれは手でしかないです。ぶっちゃけ焦ると二本足立ちのまま走ってるし、完全に二足歩行だね。 さて、話しをフィーエに戻そう。流石に噛み付いたりはしないよね。誰が触ってるかわからないし。綺麗にはしてるだろうけど。 うん、前脚でナースコールに挑むフィーエがモジモジしてるみたいではっきり言って可愛い。いや、誤解しないでね? 僕はこれを狙ってフィーエにお願いした訳じゃ無いから。 「ここは……何処?」 う、痺れを切らしたのかニャース君が尋ねてきた。っていうか当然か。自分がいきなり見知らぬ所に居れば近くの誰かに聞くよね。 「ここはミネラタウン唯一の病院だよ。君、倒れて運ばれたんだけど……分かる?」 「倒れた……うん、歩いてたら頭がボーっとしてきて……息が苦しくなって……誰かが、僕を励ましてくれて……」 うわお、僕の声まで覚えてたよ。言われるとなんかくすぐったいな。僕も必死だったし、叫んでたし。 「君は……誰?」 「僕? 僕はカッツ=ピカチュウ。よろしくね」 「スニー……僕の……名前……」 「スニー君だね。よろしく」 「君の手……温かい……」 「あ、ごめんね。勝手に握ってて」 握ったのは僕じゃないけど、意識がいまいちはっきりしてないらしいから僕が謝っておこう。 お、やっと離してくれた。うぉー! 僕は自由だー! 神様パルキア様、ありがとー! 「……ありがとう……」 「え? どうして……」 「……少し……休ませて……」 「あ、うん、お休み」 な、何だか分からない内にまた寝ちゃった。ありがとう? 何で僕は感謝されたの? う~ん、さっぱり分からない。 で、フィーエを見てみれば……若干目に涙を浮かべながらまだ必死にナースコールと対決している。これって確か、どんなポケモンでも押しやすいのが売りだったような……。 「うぅ、硬くて押せないよー……」 あーはん? 劣化か何かしてボタンが硬くなってるのか。それは酷な事を言っちゃったな。これは病院のポケモンさんにも言っておかないと。 「貸して。僕もう手、自由だし、僕が押すよ」 「やだ! ここまで頑張ったんだもん! 私が押すの!」 いや、子供じゃないんだから……って僕ら子供か。いろんな事考えてると自分の事なんて忘れちゃうからな。感覚がずれちゃうんだよね。え、僕異常? 違うよね? 「分かったよ。えーっと、これで押せるよね?」 「へっ!? あ、うん……」 本体の方を僕が持って、んでもってフィーエの前脚に僕の手を添えて押す。これなら実質フィーエが押したも同然。問題はナッシング。 泣き止んだ代わりにフィーエの頬が軽く赤くなった。え、熱? まさか風邪を本当に引いちゃった? 「あ、ありがとう。カッツ……君」 「? これくらいなら別に幾らでも。フィーエ大丈夫?」 「え!? 何が!?」 「いや、顔赤いし、熱は……無いみたいだけど」 「ふにゃっ?!? だ、だだだ大丈夫だよ!」 ますます赤くなった。本人が大丈夫って言うなら後は僕は何もしないけど……本当に風邪引いたらそれはそれで都合が良いのか。フィーエ、今日は病欠(嘘)だし。それが本当になるだけだよね。 さてさて、ナースコールを押したし、後は待ってますか。事情を知ってる僕がどっか行ったら説明出来なくなるし。その内母さんも戻ってくるでしょ。……妙に遅いのが気になるけど。 ---- ~二日後~ そう、あの大騒ぎからもう二日ですよ。あの後は特に何も無く、スニー君も起きる事が無かったから僕達はそのまま家に帰ったんだ。 トドぜルガ先生にとんでもないお願いはされちゃったけどね……。やれやれだよ。母さんは帰ってきてから妙にニヤニヤしてるしさ、どうしたって言うんだろう? 僕を襲った犯人探しも進展全く無し。現場にも行ってみたけど、僕の血の跡がすこーしだけある以外は相手の毛も、爪の痕も足跡すら全く無かった。路上だったしね……。 あ~あ、やる事ばっかりで気が滅入るよ。影分身が実体化する能力とか身につかないかな? 「カッツ~! サッカーしようぜ~!」 「ごめん、疲れてるから休ませて」 「え~? 何だよ~折角オイラが誘いに来たのに~! カッツはオイラの事が嫌いになっちゃったの……?」 「はいはい、演技が上手だねビルは。そんな事全然思ってないのによく言えるもんだよ。感心するね僕は」 悲しそうな顔して僕を騙そうなんて百年早いね。それに自分で言った後、俯いた振りして笑いを堪えてちゃ嘘にすらならないし。 こっちはね、あっちへ行ったりこっちへ行ったりフィーエに絡まれたりでてんてこまいだって言うのに……やっぱり馬鹿友人一号ですよ。 「うはははははは! やっぱり駄目だ~! 我慢出来ない~!」 「慣れない事するからだよ。自分でやって自分で笑ってたら世話ないね」 「くふふふ……だ、だってカッツが最近オイラと遊んでくれないのは本当じゃん。放課後だってすぐ帰っちゃうしさぁ」 「それはお互い様でしょ? ビルだって忙しそうに探し物だの何だのやってるじゃないか。それに放課後はね、帰る前に寄る所があるんだよ」 「え~いけないんだぁ。学校終わったら真っ直ぐ家に帰りましょうって言われてるじゃん」 「全く守った事の無いビルに言われたくないね。それに、この寄り道は先生に相談してもうオッケーが出てま~す」 嘘じゃないよ。特殊な例だからどうなるかと思ったけど、お医者さんからのお願いだからね。許可出たのさ。 僕としては面倒事が増えてやれやれ、といつもなら思うところだけど今回はそうでもないんだ。 「え~っなにそれ~。なにしてるのカッツ?」 「ちょっとあるポケモンに会いにね」 「え? カッツ、オイラとフィーエ以外に友達居たっけ?」 僕はコケた。ビル……幾らなんでも僕にだって君達以外の友達は居るよ……。 「友達……ではまだないけど、ほっとけない子に会ってね。その子に会いに行くんだよ。そうだ。ビルにも紹介するよ。今日会いに行こうか」 「え! いいの! ねぇねぇ、どんなポケモンなのさ!」 「会ってからのお楽しみ。じゃ、放課後ね」 とりあえず納得したみたいだ。絶対だかんね~って言って去っていったよ。 ふぅ……今日もあそこに行くのは良いけど、ビルが騒がないように気をつけないとな。 そろそろ昼休みが終わる……睡眠時間の始まりだ。 ---- 襲い来る白墨を全て退け、時間は放課後。いや~今日も真面目に寝たな~。 「カッツさぁ、何で授業殆ど寝てるのに成績悪くないの?」 「秘密」 だって学校で教えてくれる事ってつまんないんだもん。タイプと相性とか、木の実の効果とかもう知ってるし。母さんが教えてくれたから。 だから僕の成績が落ちないのは母さんのお陰だね。感謝は忘れた事無いよ。 ずるいなぁ……とか言いながらビルが僕の横を歩いている。久々だなぁ。ビルと一緒にどっか行くのは。 行くのはね、病院。会いに行くのはそう、スニー君。トドぜルガ先生に頼まれたのはスニー君の事なんだ。 家族の事をスニー君から聞く事が出来なかったから、手を繫いでいた僕に白羽の矢が突きたてられる事になったんだ。 お願いの内容はね。なるべくスニー君のところにお見舞いに来て、その辺の事を聞いてくれないかって事。 同じくらいの年の子のほうがスニー君も話しかけやすいだろうからってね。衰弱してるスニー君を思っての処置、だって。 実は昨日も行ったんだけど、昨日はスニー君、眠ってたんだよね。看護師さんの話しではご飯の時は起きたんだけど、どうにも意識がはっきりしないらしいんだよね。 僕は少しの時間だったけどあの子と話す事が出来たからね。何を話すんでもしやすいだろうってさ。 「そう言えばさ、今何処に向かってるの?」 「ん? 病院」 言った瞬間にビルが反転した。いやいや、何してんの? 来た道戻ってもしょうがないでしょ。 反転したけどその場で止まっちゃったよ。……反転の意味は何? 「病院怖い病院怖い病院怖い病院怖い……」 「ちょっと、どうしたのビル? 行かないなら僕だけで行くけど?」 呟いてる事は分かった。なるほどね。病院が怖いのか。 確かに怪我や病気をした時しか行かないしね。あまり良いイメージは無いか。それにたまに呻き声とか聞こえるし。 「でもカッツが行くんなら行きたい……」 「無理しなくていいよ? 僕は別に明日も学校には行くしさ」 「やだっ! 行くったら行く!」 むきになって振り返ったと思ったらずんずん歩き出した。……よく分かんないけど行く気になったみたい。 置いてかれても困ることは無いけど、スニー君の病室とかビルに分かる訳無いからな。僕も早く行かなきゃ。 さてさて、病室の前まで来たのは良いけど、ビルを連れてきたのを激しく後悔してるよ。 問題は騒がしい訳じゃない。寧ろいつもの倍以上大人しくなってる。 そう、大人しすぎるんだ。病院に入った途端、耳を伏せて前脚で目を塞いじゃった。要するに怖くて動けなくなったのね。 注射怖い。それしか呟かなくなったし……もぉ、子供だなぁ。 さて、動かない物を動かすにはどうするのが一番でしょうか! 正解は……。 「何で僕がビルをおんぶしなきゃならないのさ……」 そう、自分で運ぶことだよね。重いし震えてるし呟いてるしで超めんどい。あぁめんどい! 一緒に行くって言う意見を尊重して連れてきたけど、病院の入口で待たせとけばよかったよ! ……通路を行く他のポケモンさん達の視線が痛い。ゴメンなさい、彼は怪我してる訳でも病気な訳でもないんです。だから見ないで。 その視線に耐えるのが辛かった……。本当に手間の掛かる友人だよ。 「ん……誰?」 お!? 扉開ける前なのに気付かれた!? ……いや、別に悪い事しに来た訳じゃないんだけどな。スニー君、結構感が鋭いのかな? 「覚えてるかな? この前自己紹介したと思うんだけど、カッツ。カッツ=ピカチュウ。ちょっとお見舞いに来たんだ」 「カッツ……あ! この前の! うん! ありがとう! 入って入って!」 お~、なんか凄く元気になってる。最初はあんまり元気になってないのかと思っちゃったよ。誰が来たか怪しんでただけっぽいね。 スニー君の許可も出た事だし、オープン・ザ・ドア! あ、スニー君が体起こしてる。 「こんにちは。元気になったみたいだね。よかったよ」 「うん。お医者様からはまだ無理しちゃ駄目って言われてるんだけどね。今日は来てくれてありがとう」 ベッドのスニー君が手を差し伸べてる。あぁ、握手か。ビル背負いながらじゃちょっと辛いけど、片手を何とか出せたよ。 僕の手を握ってるスニー君が笑顔だ。……あの、握手するのは良いんだけどさ。何でその後僕の手をこね回すのかな? くすぐったいです。ひっじょうにくすぐったいです。 「カッツ君の手って温かいね。……ところで、その背中の黒いのは……何?」 「あ、これ? 気にしないで。お見舞い品とかじゃないただの黒い毛の固まりだから」 黒い毛の固まりことビルをその場に置く。丸まってるから正に毛玉だ。いい加減ビクビクするの止めたらどうだろう。注射なんてされないんだから。 ビルが降りた事で背中が涼しい。炎タイプを持ってるから緊張状態になると体温が上がるんだよね。母さんもそうだったな。 その間もビルを見ながら僕の手をこね回すのを止めないスニー君。そんなにお気に入りですか。やられてるこっちはちょっと辛いですよ。 あ、降ろされた事でビルが動き出した。 「ふぅぅ……ここ、どこ?」 「病院の中の僕の目的地。スニー君、紹介するよ。僕の(一応)友達のビル=デルビル」 「えっ、あっ、カッツ君のお友達だったの!? えっと……僕はスニー=ニャースです。始めまして」 「病院の中!? うわぁぁぁぁ! 注射やだー! ひゃんっ! ふぁ?」 やっぱりこうなったか……弱めの電磁波で軽く麻痺させました。ちょっとは落ち着くでしょ。動きようがないなら。 「挨拶されたんだからちゃんと挨拶返しなよ……。大人しくなるまでそのままね」 「ふぁぁぁ、ひゃへれはい……」 「あ~……だ、大丈夫なの? カッツ君?」 「別に? いつもの事だよ。それにここ病院だから治療法は幾らでもあるだろう」 「別に? いつもの事だよ。それにここ病院だから治療法は幾らでもあるだろうし」 確かにね。そう言いながらスニー君が笑顔になった。良かった、笑ってくれたよ。ビルが無駄にならずに済んだね。 ……僕の手は、何時になったら開放されるか疑問だけど……。 ---- 後書き的な。(中書き) 再び登場カッツ君。今回もボケてツッコんでバトりますよ。 そして前作メインメンバー達ももちろん登場。なるべく笑わせにいきます。 まだまだ続きます! ……なんか、長くなりそうです。 ---- コメントはこちらへ #pcomment