[[狸吉]]作『カラタチ島の恋のうた』より 『ポイズンテールの約束』 &color(#FF0000){※注・この小説には暴力、強姦、惨殺等極めて過激かつ陰惨な場面があります。苦手な方はご注意ください。}; ---- #contents ---- *★01★ [#zadbaec1] 真夜中。 どんよりと赤黒い雲に星明りを遮られた空の下。 深く暗い森の静寂を乱す、慌ただしい足音と激しい息づかいがあった。 朽ちた倒木の下を乗り越え、葉の尖った茂みを潜り抜け、長い下生えを書き分けて進む影。 草葉の間に溶け込むように流れていく黒とグレーのストライプ……マッスグマ。 ひたすらに前へ前へと駆け続けながら、彼女は不安に滲んだ表情で背後の気配を窺っていた。 人間たちの開発のために住み慣れた山を追われて数ヶ月。 居心地のよさそうな山の噂を旅のポッポたちから聞いて、そこへと向かう途中だった。 この森を通過すればいよいよ目指す山に入れる、というところまで来たというのに。 なんと言う運の悪さだろう。ならず者ポケモンの集団に襲われるとは。 逃げろ! 襲撃者たちに立ち向かいながら叫ぶ彼女の夫、ウインディの声に追われてマッスグマは宵闇の中を疾り抜けた。 大丈夫。夫は強い。 安全な場所に身を潜めていれば、すぐにあの逞しい温もりが迎えに来てくれる。 そう信じる心で彼女は疲れに痛む四肢を叱咤し繰り出していく。 ふと、その耳がビクッと背後に向けられた。 追いかけてくる足音。 ふたつ、みっつ。 ……夫のものでは、ない・・・・・・!! 最悪の想像にマッスグマの顔から血の気が引く。そんな、まさか。 しかし躊躇している暇などあろうはずもない。 取るものもとりあえず身を隠そうと周囲を見渡す。 一番深そうな茂みを選び、大急ぎでその闇の中へと忍び込んだ。 じっと息を殺して。 決して動かないように。 強く、固く、言い聞かせて―――― ★ 風の音すら聞こえぬ静寂と暗闇の中、どれ程の時間が立っただろうか。 やがて痺れを切らしたマッスグマは、様子を見ようと暗闇から身を起こした。 一歩一歩、静かに慎重に歩を進めて。 茂みの中から恐る恐る顔を出し、何もいないのを確認すると、思い切って身を乗り出し…… バシッ!! 脇からぶつかってきた衝撃で、彼女の体は跳ね飛ばされた。 優しく守ってくれる茂みたちから遠く引き離された、森の中にぽっかりと開いた広場へと。 咄嗟にマッスグマは体勢を立て直しその場から逃げ去ろうとした。 が、その頭上から漆黒の影が襲い掛かり爪を振り下ろす。 たちまち押し倒され、彼女はその場に組み伏せられた。 千切れた草と土に塗れた顔で見上げたマッスグマの眼が愕然と見開かれた。 彼女の前肢を捻り上げて押さえつけながら瞳をニヤつかせているニューラ。 そして先に彼女を跳ね飛ばし、今牙をギラつかせて背後から歩み寄ってくるグラエナ。 間違いなく彼らは、夫が食い止めていたはずのならず者たちだった。 それでは、夫は一体…… ぺきり。 木立を踏み折って、もう一頭のならず者ポケモンが現れた。 この暗く澱んだ闇の中に浮かび上がる白い身体。その頭部に、鮮血を滴らせ黒光りする刃を携えたポケモン、アブソル。 悠然とマッスグマの前に歩み寄り鼻先で嘲笑うと、アブソルは口からぶら下げていた〝それ〟を彼女の目前に放り出した。 紅く湿ったその塊が何であるのか、理解したその瞬間。 「……ッ!? ギャアアアァァァァァァアァーーーーーーッ!!」 恐ろしく悲痛な絶叫が彼女の喉笛から迸った。 マッスグマが見たのは、彼女の夫ウインディの見慣れた顔だった。 顔だけ、だった。あるべき首から下が、毎夜彼女を抱きしめてくれていた熱く雄々しい身体が、どこにもなかった。 あまりにも無残な姿に変わり果てた夫の亡骸に縋り付こうとするが、ニューラに上体を押さえ付けられどうする事も出来ない。 ぽろぽろと涙が泥塗れの頬を伝い地面へと落ちていく。 なんで……どうしてこんな事に…… だが。 彼女の悪夢は、まだ始まったばかりだった。 ずん。 白くがっしりと太いアブソルの脚が、マッスグマとウインディの頭との間を遮るように立ちはだかる。 その上から、くかかかっ、とアブソルの嫌らしい哄笑が落とされる。 はぁはぁ、とニューラの臭い荒息が頬に吹き付けられる。 じゅる、とグラエナが涎を啜る音が背後から聞こえる。 三者共に。 雄の欲望を、股間に漲らせていた。 ひぃ、とマッスグマの喉が鳴る。 ぞくり、と悪寒が全身を総毛立たせる。 ならず者たちの要求は明らかだった。 逆らえば間違いなく殺される。 逃れるすべはどこにもない。 従うより他に、道は、ない・・・ ガクガクと震えて砕けた後肢の間で。 彼女の操が、迫り来る陵辱の恐怖に、わなないていた。 *★02★ [#b311beca] 「ギャアァッ!!」 鋭い悲鳴がマッスグマの口から漏れる。 グラエナが彼女の尻尾に噛り付いて引っ張り上げ、力を失っていた腰を無理矢理立たせたのだ。 ニューラに上半身を押さえ付けられたまま、グラエナによって尻を突き出すような格好を強制され、苦痛と羞恥にマッスグマの顔が歪む。 あらわにされた彼女の操が、文字通り風前の灯火の如く紅く揺らめく。 夫以外の侵入をいまだ許した事のないその操にアブソルの鋭い視線が容赦なく突き刺さる。 襞を。割れ目を。蕾を。隅々までたっぷりとアブソルは視姦すると。 今度は鼻を近づけ、芳しい花の香りを嗅ぐ様に適度に成熟した雌の匂いを堪能し。 舌を、這わせた。 「うあ……ぐっ……」 顔を伏せたマッスグマの口から苦悶の呻きが漏れる。 ぬめぬめと湿った生暖かい感触が秘所を這いずり回ると、彼女の後肢がビクリ、ビクリと痙攣し、指が反り返る。 腰を振っておぞましい感覚から逃れようとすれば、噛み付かれている尻尾から激痛が走る。 結果それは獣欲に滾った雄たちの目の前で〝尻を振る〟事となり、ますます彼らを悦ばせるだけだった。 興奮した雄の吐息と視線がアブソルの舐虐とからみあい彼女を責め苛む。 「くぅっ……! っ……! ……!」 蕾を唇で弄ばれ、秘裂の奥に舌先を挿れられ、その度に篭った呻きが断続して繰り返される。 だがどれほど激しく攻め立てられても、その呻きが嬌声に代わる事はない。 その反応を怪訝に思ったアブソルが彼女の顔を覗き込んだ。 彼女は、草を咥えていた。 歯を食いしばって噛り付き、屈辱の涙が滲み出る瞼を固く閉じて。 嬌声など上げるものか、心まで犯されるものかと、ささやかな抵抗を続けていた。 その様子を見て・・・ くかーーーかかかっ!! 加虐心を決定的に煽られたアブソルが高々と笑う。 縞模様の背に爪を立てて圧し掛かり。 震える柳腰をがっしりと抱え込み。 まだ緩みきらぬ、彼女の貞操を守る城門へ向けて、己が&ruby(ペニス){肉の破城槌};を打ち挿れた。 「うぐぅーーーーーーっ!!」 真芯を貫かれた想像を絶する激痛と陵辱される嫌悪に、一際鋭い呻き声がマッスグマの喉笛から絞り出る。 唾液の潤いに乗って1撃目の先端は容易く扉をこじ開けるも、固く閉ざされた膣壁にそれ以上の侵入は阻まれた。 仇の侵略など許すものかと、最後の抵抗を試みているかの様だった。 だがアブソルは構わず力任せに肉槍を突き込む。2撃。3撃。 破瓜の時さえ優しく労りながら契ってくれた夫との行為とは比べ様もない乱暴な振舞いに、たちまち膣壁は悲鳴を上げて引き裂け処女の如き鮮血を流す。 その血を潤滑に、更に秘奥へと肉槍は侵攻していった。 、草を噛み締めているマッスグマの口の端が切れ血が滲む。 それでも瞼を瞑ったまま、彼女は堪え続けた。 夢であるように。幻であるように。 苦痛が過ぎ去って目を開ければ、大丈夫? うなされていたよ、と心配そうな眼で問いかける&ruby(ウインディ){夫};がそこにいるのだと願いながら。 そんな精神の逃避さえも許さず、アプソルはマッスグマの首筋を咥え強引に持ち上げる。 ぶちぶちと草が食いちぎられ、彼女は反り返る格好を強いられた。 咥えた身体を引き寄せながら、心の壁まで打ち砕かんとアブソルが破城槌を唸らせる。 「うあっ……」 喘いで開いたマッスグマの口から草が、血の糸を引きながらはらりと落ちる。 止めとばかりに、アブソルは破城槌を秘奥の深淵へと深々と叩き込んだ。 頑なに閉ざされていた彼女の瞼が、押し開けられた。 愛する夫は確かにそこにいて、彼女を見つめていた。 光を失った虚ろな眼で。 己の命を奪ったけだものたちに身体を許している妻の、あられもない姿を。 曝された残酷な現実を知覚した瞬間。 彼女の中で、大切なものが、粉々に砕けて崩れ落ちた。 「あ……ああ……イギャアァァァアアアァァァ!!」 絶叫を上げ、マッスグマの全身が震える。 カッと燃える様に熱くなった彼女の奥底に、血以外の何かが……夫以外を濡らす事など許されぬそれが溢れ出し、彼女の中のアブソルを浸す。 ぐちゅり、ぐりゅりと濡れた秘所が淫猥な音を立てて掻き回される。 一突きごとに背筋を昇って襲い来る白濁の閃光に、彼女の理性が引きずり込まれていく。 嫌だ。 助けて。 助けて……あなたぁぁっ!! どんなに助けを求めても、空しく開いたままの夫の口からの応えはなく。 とうとう彼女は、堕ちた。 「ア……ハアァァッ! アァッ! ンアァッ! ァアァンアァァ~ッ!!」 狂気を含んだ淫らな嬌声を上げ。 心ならず随喜の涙を迸らせながら。 憎き雄に自らの雌を浅ましい快楽のままに擦り付ける。 忌まわしき隠獄の泥沼の中で、彼女は果てた。 くかかかかかかか! くかかかかかかかか!! ついにマッスグマを屈服させたアブソルは喜悦の高笑いを上げながら一層激しく腰を躍動させ、そして。 か……はあぁっっ……!! 呻き声と、どくり、どくりと脈打つ響きと共に、&ruby(スペルマ){災い};をぶちまけた。 あ……あ……あぁ…… 恥辱に溺れながらマッスグマが悶える。 夫と2人で愛を育んだ彼女の聖地は、アブソルの白き災いに呑み込まれ、踏みにじられ、完膚なきまでに穢され尽くした。 夫の目の前で――― 「あああ!! うわあぁぁぁああぁぁぁ……」 号泣するマッスグマの上で、アブソルが勝ち鬨の雄叫びをこだまさせた。 ★ しばらく征服の余韻に浸っていたアブソルだったが、やがて満足しきったのか彼女から身を離した。 瞬間、流れ落ちた災いが股間をおぞましく撫で下ろし、穢された事実を彼女に突きつける。 ああ、でも、これで終わったんだ……と彼女はボロボロに傷ついた腰を下ろそうとした。 だが、再びその尻尾はグラエナによってぐいっと引き上げられる。 もう悲鳴も上げられず、マッスグマは前のめりに突っ伏した。 血と汚れに濡れた尻にニューラの冷たい爪の感触を受け、彼女は悟った。 3匹とも満足させるまで、この災いは終わらないのだ。 ここまで穢された今、もう抵抗しても意味はない。 これ以上傷を深めない内に、早く……済まさせた方がいい。 あなた、ごめんなさい。淫らに堕ちた私を許して…… 夫の亡骸に心の中で謝りながら彼女は自ら脚を広げ、ニューラを迎え入れる体制をとった。 ケヘへ、と下卑た笑いを漏らしながらマッスグマの尻によじ登ったニューラは、アブソルの欲望の痕が滴る陰裂に…… ではなく、その上の菊門に、夫のさえ挿れた事のない処女地に、その股間のピックを宛がい、突き立てた。 侵入した肉幹に生えたトゲが勃起し、彼女の直腸壁に突き刺さる。 「ァガアァァァァァーーーッ!?」 予期していなかった場所を貫かれ引き裂かれ、またマッスグマの絶叫が上がる。 すると今後はグラエナが後肢を使って、泣き叫ぶ彼女の頭を抱え込んだ。 そのまま付け根の、異臭を放つ汚らわしい欲望を苦痛に開いた彼女の咥内へと捻り込む。 「ガぽっ……ぐ……ふ……」 喉の奥まで押し込まれ噛み返す事も出来ないまま、雄たちの間で彼女は咽び泣いた。 奈落の底はまだ、見えそうになかった。 *★03★ [#x2f265a5] 押し込められた異物と堪えきれぬ汚臭で息が出来ない。苦しい。 絶え間なく繰り返される抽送にはらわたが切り刻まれる。痛い。痛い。 前後から身体が揺すられる度に、引き裂かれた操から忌まわしい廃液が滴り落ちる。 もう、嫌だ。酷すぎる……夫だけの操だったのに。この身体に喜びを漏らしていいのは夫だけなのに。仇たちにこんな…… 未練がましく鼓動する我が身がいっそ恨めしい。早く楽になって夫のところに逝ってしまいたい……。 心の奥底から湧き上がる死神の誘惑を、けれど彼女は振り払う。 駄目。死ねない。 例えどれ程傷付けられようと、辱められようと、死ぬわけにはいかない。 まだ、全ての希望が摘まれたわけでは、ないのだから。 こいつらが満足して、私を解放さえしてくれれば…… だが。 マッスグマを弄ぶニューラたちの肉宴を見物しながら侵略の疲れを癒していたアブソルが。 その微かな気配に気付き、振り向いて眼を細めた。 おもむろに腰を上げ身を振るうと、その場所へと向けて歩き出す。 茂みへ。先程までマッスグマが隠れていた、その場所へ。 グラエナの脚の間からアブソルの動きを垣間見たマッスグマの喉が驚愕に呻いた。 決死にじたばたともがいて前肢をグラエナと自身の間に差し入れる。 そのまま渾身の力を込めてグラエナの身体を引き剥がし、澱に塗れた怒張を引きずり出すと、声を上げてアブソルを制そうとする。 「やぉ……うぷ、げぼほぉっ!!」 声より先に苦い逆流が飛び出し彼女の口を塞ぐ。 吐瀉物に塗れのたうつマッスグマを尻目に、アブソルは茂みに首を突っ込み、ガサゴソと探り、そして。 引きずり出した。 「ピィィィィィッ!」 甲高い悲鳴がマッスグマに破滅の刻を告げた。 それは決してその存在を襲撃者たちに覚られぬ様、逃げている間ずっと腹に抱えていた宝物。 茂みの中で、じっと息を殺して、決して動かないように、強く、固く、〝言い聞かせて〟いた、その相手。 彼女の最後の希望。ウインディとの愛の結晶。まだ卵から孵ったばかりの、ほんの小さな……ジグザグマ。 それが今、アブソルの残忍な笑みの端に尻尾を咥えられ、小さな脚で宙を書きながら揺れている。 最悪だ。 我が子を取り戻そうとアブソルににじり寄ろうとするが、尻穴を貫いているニューラに腰を押さえ込まれる。 這いずってでも進もうと伸ばした前肢をグラエナが踏みつける。 駄目!! 突き立ったグラエナの爪に肉が裂けるのも構わず振り払い、抜き差しされる尻の痛みを堪えて四肢で立ち上がり、ひび割れた声でアブソルに叫ぶ。 やめて! 私になら何をしてもいいから! その子だけでも見逃して! この先の山に逃がしてあげて! お願いよおぉぉぉっ!! 振り絞る様なマッスグマの必死の訴えに、アブソルは冷笑で応える。 ポッポたちから聞いたのか?あの山の事を……。 !? 木々の陰から見える彼方の山陰、彼女たちが向かっていた目的地を指し示したアブソルに、絶句したマッスグマが涙と汚物でぐちゃぐちゃになった顔を上げる。 なぜ。どうしてポッポたちの事を……。 ……くっ。 くくうーーーっくっくっく!! くくーーーくっくっく!! キェェェッヘヘヘ!! ぐわあっははははは!! 哄笑が豪雨の如く、呆然とするマッスグマの頭上に叩き付けられた。 うまい木の実が山中に生っていて、ポケモンたちがみんな仲良く暮らしてるよってか!? バカめ! ポッポたちを脅してその噂を流させたのは俺たちだよ! お前らみたいに噂に釣られたカモを、直前のこの森で待ち伏せるためにな。ちなみに…… 絶望に打ち震えるマッスグマの耳元に、ニューラとグラエナが口々に止めの真相を注ぎ込んだ。 ……あの山にはな、食ったら泡を吹くような毒の実や毒キノコしか生えてねェんだよ。ケケケッ! 残念だったな。お前らには、初めから希望なんてどこにも無かったんだよ……。 「あ゙ああああああぁぁぁあぁーーーっ!」 伸ばした指の先で、彼女が我が子の未来を託そうとしたその山に無残に亀裂が走り、崩壊していく。 助けて、助けて…… どうか、子供の命だけは…… うわごとの様にか細く擦れながらそれでも諦めずに縋り付こうとするその哀願に向かって、アブソルは頷いた。 咥えていたものを地面に叩き付けるほど大きく。 同時にニューラが腰を打ち込んでマッスグマを深々と穿つ。 「ピァッ!」「ヒギャアァッ!」 母と子の悲鳴が重なる。 雄たちは顔を見合わせ、楽しそうにせせら笑った。 これはいい遊びだ、と―――― 石にでもぶつけられたのか、頭から血を滴らせたジグザグマの身体が再び高々と振り上げられ、紅い飛沫が弧を描く。 「ピアアァァッ!!」「グギャアァァーッ!!」 そしてまた和音となる悲鳴。 小さな手足が切なく痙攣する。 母の叫びは我が身を貫かれる痛みゆえか、それとも目の前で我が子が傷付けられる痛みゆえか。 やめて……もうやめてよぉ…… 悲痛な哀訴を嘲笑いながら、3たび加虐は繰り返される。 「ガッ!?」 クゥッ! ハアァァ…… 上がった声は母親の悲鳴と、その尻の上で気をいかせたニューラの呻きのみだった。 ぽろり、とアブソルがジグザグマを口から放す。 幼い身体は無造作に地面に転げ落ちた。 もう、ピクリとも動かなかった。 「---------------ッ!!」 言葉に表現できぬほど凄まじい怒号が天を貫く。 恍惚としていたニューラを腰の上に乗せたまま、唐突に彼女は身を捻った。 地面とニューラの頭が鈍い音を揺るがしぶつかり合う。 尻に食い込んだまま失神したニューラを更に旋回して振り回し、掴みかかろうとしていたグラエナに激突させる。 衝撃で外れた際に抉られた股間からおびただしい血と白濁液を垂れ流しながら、マッスグマは仁王立ちに立ち上がった。 極限を超えた極限まで追い詰められた者だけが放つ、憤怒の闘気を身にまとって。 ぎらぎらと燃え上がる瞳がアブソルを見据え、噛み締められ震える牙の間から荒々しい息吹が漏れる。 そのまま彼女は全身全霊を込めた爪を咆哮と共に振り上げ、飛び掛っていった。 罠に陥れ、夫を殺し、自身を辱め、あげく子供の命まで弄び、希望の全てを奪い去った、憎い憎い仇へと向けて。 だが、振り上げた爪が下ろされるよりも早く。 アブソルは事もなげに首を振りぬき、刃を閃かせていた。 ★ 地面に広がる命の色の湖の中を。 死にゆく者が、掻き回す。 落とした欠片を拾い上げて組み直せば、幸せだった日々が戻ってくるのであるかの様に。 けれど、それはただ、虚しく指の間を零れ落ちるばかりで。 やがてその足掻きも、儚く潰えた。 ★ 息絶えたマッスグマをつまらなそうに見下ろしていたアブソルは、ふと、ある事に気付いた。 子供の……ジグザグマの亡骸が、ない。 しまった。母親に気を取られているうちに誰かに掠め取られたか……? どこにいるとも知れぬ盗人の気配を探ろうとしたアブソルの鼻先を、ぽつり、と冷たい雫が打つ。 ぽつり、ぽつり、ぽつぽつ、徐々に強まっていく雨足に水を差され、アブソルは憎々しげに舌打ちした。 まぁいい。ガキの肉は惜しいが、そっちに拘っているうちに隠してあるウインディの肉まで盗み食いでもされたら間抜け極まる……。 気絶したままのニューラを口に咥え、アブソルは広場を後にして森の奥へと消えた。 残ったグラエナは、雨に曝されていくマッスグマの屍を咥えた。 何を思ったかわざわざウインディの首の前まで持っていくと、そこで彼女に覆いかぶさり、その冷たい骸を貪った。 アブソルが切り裂いた傷痕に牙を立てるのみならず、その前にアブソルが貫いた、残滓こびりつくその傷痕へも股間の毒牙を付きたてて。 死してなお彼女は穢された。 魂となって夫のそばへ寄り添うことすら許さぬと言わんばかりの、それは冒涜だった。 欲望のままに亡骸を弄び続け、やがて尻尾を震わし下の方の欲をたっぷりと満たし終えると、グラエナはウインディの顔を睨んで勝ち誇った笑いを浴びせかけた。 そして再びマッスグマの残骸を担ぎ、アブソルたちがウインディの胴体を貪っているであろう森の奥へと駆けていった。 連れ去られる妻を、夫の光なき瞳が見送る。 無念そうに開いたその顎の横に、雨水をつたわせながら。 雨音と宵闇は徐々に深まり、やがて全てを包み隠していった。 *★04★ [#uc1d9db7] 「あら、先生。虹ですわ」 明け方。 傍らからの朗らかに弾む声に男が西の空を振り仰ぐと、確かに木々の隙間と隙間を七色の帯が貫いていた。 「うむ。夕べ夜半に降っておったからの。程よく土も湿って作業もやり易かろうて」 黒ずくめの背に背負った籠を揺らし、頬にしわを寄せて男が微笑む。 籠の中で音を立てた数本の草。それはいずれも強い毒性で知られる草ばかりだった。 周囲を見渡せば、この森にはそのような毒草があちこちに生えている。 この森の奥にそびえる山へと行けば、更に珍しい毒草や毒キノコの類が数多く実っているという。 ゆえに野生の鳥獣や毒に耐性のないポケモンたちは決して寄り付こうとしない山なのだが、毒物を専門に扱うこの男にとっては文字通り宝の山だった。 「噂通り質の良い草が取れるわ。この分ならかなりの収穫が見込めそうじゃのう。……&ruby(トモエ){巴};?」 応えがない事に気付き、男が振り返る。 数歩後ろで彼のポケモンである巴が、首をもたげて道から外れた森の奥深くの暗がりを凝視したまま険しい表情で立ち尽くしていた。 「どうした? 巴」 「……先生、こちらに!」 突如巴は雨露に濡れた茂みへと身を潜らせた。 「!」 慌てて男は跳躍し、樹上へと駆け上がる。 眼下に緑に茂る草が掻き分けられていく影を認めると、とても人間業とは思えぬ軽やかな身のこなしで枝から枝へと飛び移り後を追う。 一直線に進む彼女の行く手に眼を凝らし、男は息を呑んだ。 木々がぽっかりと切れた森の広場。 その真ん中に置かれた赤い肉塊。 それは伝説ポケモンと言われるウインディの、切断された生首だった。 見たところまだ崩れた様子もなく、殺されて間がないのかも知れない。 それは即ち、生前はさぞ逞しかったであろうと思われるそのウインディの首を取るほどの手だれが、まだこの周囲に居る可能性が高い、という事……! 「止まれ巴! 危険だ! 迂闊に進んではならぬ!」 しかし彼女が揺らす草葉の動きは止まることなく広場へと突き進んでいく。 ますます尋常ならざる巴の行動に眉をひそめ、男は木々を蹴って彼女より一足先に広場へと降り立った。 すかさず鋭い眼差しで周囲を探る。 危険な気配は……ない。ひとまずそう判断して安堵の溜息をつくと、改めてウインディの亡骸に向き直った。 雨に洗われたその首を間近で検めて見ると、思ったほど殺されてすぐと言うわけでもない様だった。おそらく切り落とされたのは昨夜のうちだろう。 オニスズメなどの屍肉喰らいに啄ばまれていないのは、こいつを仕留めた相手を恐れて近付こうとしないのか、 もしくは夕べの雨に羽根を濡らされて乾かしている最中か、といったところだろうか。 持ち上げて確かめようと手をかけたところで、ガサリと藪を揺らして巴が這い出てきた。 既に師父が先についている事に気が付いていたのだろう。脇目も振らず身体に光る雨露を滴らせて彼の側へとやってくる。 「一体どうしたのだ巴? この首に何か……」 「ここです、先生!」 首を覗き込んだ巴が振り向いて言った。「まだ生きています! 早く!」 「な……!?」 余りにも想像を絶する彼女の発言に男は唖然とした。 どう見ても首だけになっているこのウインディがまさか生きている、と……!? 否。 彼女が鼻先で指し示しているのはウインディの、虚ろに開かれた口の中だった。 勘違いに気付いた男は慎重に顎をこじ開け、奥へと手を伸ばした。 冷たく湿った肉壁の中で、指先に近付く微かな、しかし確かな温もりと鼓動。 それをそっと掴み取り手を引き抜いた。 手の中のものを確かめてみれば、それはモンスターボールに入るサイズへと縮小した、小さなジグザグマの仔供だった。 全身に、特に額に深い傷を負い気絶してはいたが、その命はいまだ力強く生を求めて息衝いていた。 「この仔の気配を感じてここに来たのか?」 男の問いに巴は頷く。 「助けを求める声が聞こえたような気がして……でもどうして口の中なんかに?」 巴が首を傾げる。「ウインディがこの仔を食べようとしたところで首を切られて、そのまま出られなくなったのでしょうか?」 「いや、そうではなかろう」 ウインディの首とジグザグマを見比べながら男は言った。 「骨相からしてこのウインディとジグザグマ……おそらく父仔だ」 「えぇ!?」 「我が仔を敵から守ろうとして口の中に隠したまま切られたか……いや、違うな。切られた後で仔供の方が父親の口の中に潜り込んで身を隠した、と見るべきであろう」 その通りだった。 彼らが知る由のない事だが、昨夜アブソルに捕らえられ地面に叩き付けられ、このままでは殺されると思ったジグザグマは、 本能的に息を止めて身を硬くし、死んだふり―いわゆる「狸寝入り」をしたのである。 母親のマッスグマは当然、我が子が死んでいないことに気付いていた。 だから大声を上げオーバーに腕を振って、アブソルたちの注意を自分に引き付けたのだ。 そうして作られた一瞬の隙を突いてジグザグマは飛び起き、一番近い隠れられる場所へ、即ち父親の口の中へと身を縮めて潜り込んだのだった。 それはまさしく、せめて我が子の命だけでも未来につなごうとした母親の願いと、何が何でも生き抜こうとした子供の執念が呼び起こした奇跡だった。 だがその奇跡の命を男はそっと地面に降ろすと、おもむろに立ち上がり踵を返した。 「せ、先生!?」 慌ててジグザグマを抱き上げようとした巴を、男は冷徹に制した。 「捨て置け」 「先生!? そ、そんな!!」 巴の抗議の声に、男はかぶりを振ると更に冷たく言い放つ。 「その仔は野生のポケモンで、ここは野生の領分だ。そこからこの仔を取り上げるというのならばそれ相応の理由がなければならぬ。この籠の中の毒草然り。普通ポケモンを捕獲するのも使役する用があるからだ。ではその仔をこの場から持ち去る理由がどこにあるとお前は言うのだ?同情など理由にはならぬぞ。情けなどかけておったら限りがないわ」 「し……しかし、このまま放っておいたらすぐに死んでしまいます!」 「それも自然の運命と言うものよ。その仔が自ら我らの領分まで救いを求めに来たというのならいざ知らず、野生の領分にあるものを無闇やたらに狩り漁るなど許されぬわ」 師父の厳格さの前に、巴は返す言葉をぐっと詰まらせ唇を歪ませる。 ばさっ…… ばさばさっ…… ふと鳥たちの羽音が、彼らの周囲の木々の梢から聞こえてきた。 「どうやらオニスズメたちが羽根を乾かし終えたようだ。彼らとて腹は空くし、養わなければならぬ雛鳥もおろう。 その彼らから朝食の一欠片を奪うことがお前にとって正しい事だとでも言うのか?」 「……」 「彼らに任せておけば、すぐにでもその仔を父親の元へと運んでくれるだろう。そう考えた方があるいは幸福やも知れぬぞ?」 ……とまぁ小難しい事を言ってはいるが、実のところ男の本音は『面倒事を背負い込みたくない』である。 傷つき衰弱しているこのジグザグマの仔を本当に助けようと思ったら、今すぐ町へと引き返してポケモンセンターで適切な治療を受けさせなければならない。 折角貴重な毒草を求めてこんな人里離れた奥地まではるばる歩いてきたのに、山に入る前に引き返す事になるのは御免だった。 巴も付き合いの長い師父のことを理解してはいたが、あえてそこを指摘する事はしなかった。 ただ守るべき幼子を包み込むように掻き抱き、直向きに男に情けを訴え続けた。 「出来ません先生……そうすればどうなるか分かった上でこの小さな命を手放すなんて事は私にはっ……!」 「巴っ!」 「お願いします先生! お慈悲を! どうか!!」 「!!」 頑なな巴の態度に業を煮やした男は彼女のモンスターボールを開いて突きつける。 これ以上抵抗するのならば強引にでも連れて行くという意思表示だった。 巴もまた譲らぬ意思を露わにし、一層きつくジグザグマを抱きしめて男を睨み返す。 緊迫した視線を交し合いながら、そのまま彼らは数瞬の間対峙していた。 やがて。 溜息をついて肩を竦め、男は静かにモンスターボールを降ろした。 「やれやれ、〝窮鳥懐に入れば猟師も殺さず〟という事か」 「……」 「……いや、寧ろ〝袖刷りあうも他生の縁〟と言うべきかな。ここでお前がこの仔を見つけたのも天が定めたもうた運命なのであろうのう」 「先生、それでは……」 顔を輝かせた巴に、男は微笑んで頷く。 「うむ。こちらに連れてきなさい。薬を塗ってやろう」 「あぁ……ありがとうございます先生!……すみません、ここまで来て……」 「なに、また来ればよいだけのことだ」 懐から秘伝の薬が入った小瓶を取り出し、差し出されたジグザグマの仔に薬を塗布する。 まず額に開いた傷口に。そして鬱血した背筋へと。 ピクリ、と悶える応えに男が頬を緩ませた、その時だった。 ばささささーーーっ…… ついに空腹を堪えられなくなったオニスズメたちが、男たちの頭上を飛び越えてウインディの首に次々と群がっていった。 男も巴もそれを追い払おうとはしなかった。 屍肉喰らいが死体を食べるのは自然の摂理だし、またそうすることが死者への供養でもあるからだ。 一片、また一片、ウインディの苦しみや悲しみがオニスズメたちに啄ばまれて天へと運ばれていく様子を彼らは厳かな面持ちで見送った。 不意に巴は懐に重みを感じた。 薬が効いたのか、ジグザグマの子が普通の大きさに戻ったのだ。 うぅ、という呻き声と共に、閉ざされていた瞼がうっすらと綻ぶ。 「坊や、大丈夫? 眼を覚ませる?」 優しく穏やかな声に導かれ、ジグザグマはゆっくりと眼を開けた。 最初にその瞳に映ったのは何十羽ものオニスズメたちと、その羽根の間に見え隠れする……見慣れた赤い髪。 はっと気が付き前肢を父の方へ伸ばそうとするが、彼を包む硬く太い尾がそっとそれを阻んだ。 「行っては駄目よ。辛いでしょうけどお父様とはここでお別れなの。解って」 かけられた声に身を震わせた彼は、目の前の大きな尾にぎゅっとしがみついて顔を埋める。 彼は敏い子だったから、自分の現在の状況を瞬時に正しく理解していた。 大好きだった父も母ももう自分を守ってはくれない事も、 今は自分を包み込むこの温もりを信じて身を任せなければ生きていけないという事も。 父を見送る瞳から涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。 「いい子ね」 赤い舌が柔らかく蠢いて、濡れていく彼の頬を撫でた。 「これからは私があなたの親代わりになって側にいてあげるわ。宜しくね、坊や」 母の様に、太陽の様に、安らかな温もりが彼へと注がれる。 その声に応えようと、ジグザグマ坊やは相手の顔を振り仰いだ。 ★ 「ちょ、ちょっと坊や!? 大変です先生、この子また急に白目を剥いて!?」 「ファファファ! まぁ無理もあるまい。九死に一生を得たと思ったら目の前にいたのが貴様のその顔ではな!今度こそ一巻の終わりだとでも思ったのに違いないわ!」 「そ、そんなぁ……あぁ、でも、本当に食べてしまいたいぐらいに可愛らしいこと……」 腹を抱えて嘲笑う師父をよそに、アーボックの巴はジグザグマの強張った頬に優しく口付けをした。 ---- 巴「そんなわけで、皆さまコメントよろしくお願いします」 #pcomment(ポイズンテールコメント帳)