ポケモン小説wiki
ベノムトラップを朝食に の変更点


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#include(第十二回短編小説大会情報窓,notitle)

※微官能作品です。直接的行為はありませんが、ちょっぴりえっちで変態的です。

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 火山の裾野で暮らしていた野生時代、山を通り行く旅のトレーナーと、彼らに連れられるポケモンたちの幸せそうな様子に憧れた。
 あの頃から私に言い寄るポケモンの雄は種族を問わず多かったが、相手にする気にもなれなかった。恋をするなら人間の男、それも細身のイケメン王子と心に決めていた。
 しくじって女性トレーナーにゲットされてしまったが、彼女は百合っけもある両刀使いで、触れ合いながら色々な楽しみ方を教えてくれた。
 こうして立派に進化をこなせたのも彼女のお陰だ。感謝している。けれど男性トレーナーとの逢瀬への憧れは、ずっと私の中にくすぶり続けた。
 そんなわけで、ある日彼女と見ていたネットの交換情報サイトで男性らしいトレーナーからの募集を見つけたとき、私は速攻で自らを交換の札にしてもらったのである。
「初めまして、エンニュートのゴ-ジィさん。私が君の新しいトレーナー、カシューです。よろしく」
 期待を込めてムーンボールの窓から声の方を向くと、そこで微笑んでいたのは色白細面で柔和な表情をした黒髪の青年。よっしゃ、期待以上のイケメンだ。いずれくる夜に尻尾の挙動が止まらない。
「これから一緒に暮らすに当たって、大事なことを伝えておきます。よく聞いてくださいね」
 うんうん、何だって聞いちゃう。シッポリと愛してさえくれるなら。
「私は君たちが恋をしたいなら、その気持ちを尊重したいと思っています。夜遊びは節度を守ってくれさえすれば好きに楽しんでくれて構いませんし、タマゴが産みたくなったら相談して頂ければ適切に対応します」
 フリーセックスへの理解も充分にある人のようだ。トレードされて大正解だった。もちろん遠慮なくお言葉に甘えて、私のカシューさんへの恋を尊重してもらおう。

「――ですが、それはあくまでもポケモン同士の場合のみ。人間との垣根を踏み越えるのは節度に反すると判断します。これはもちろん、私自身も含みます。そういう趣味は全然ありませんのでご理解ください」

「……ぜんぜん!?」
 愕然と硬直して、オウム返しに呟くしかなかった。

 ○

「ふざっけんじゃないわよ! 一体全体何なのよこの面子は!?」
 ボックスに入れられてからもしばらく唖然呆然となっていた私だったが、その晩に紹介された彼の手持ちたちの姿を見て思わず憤然と声を荒げた。
「あら、何かおかしいかしら? 互いに弱点を補い合える構成になってるし、物理と特殊も丁度3頭ずつ。概ねバランス取れてるけど?」
 水色のタテガミをフワリとなびかせて頭の星飾りを傾けるアシレーヌのノアに、私は猛然と毒吐く。
「戦力の話なんかしとりゃせんわ! ルックスよルックス! 全員ケモナーな人間からしたら垂涎モノの、綺麗どころの雌ばかりってどういうことよ!? これでトレーナーがノンケとかもう犯罪でしょ!!」
「えっと、何の罪状?」
 オドリドリのクランが、ぱちぱちスタイルの黄色い嘴で無邪気にツッコむ。その隣ではハッサムのデミアが、紅玉色に艶めくくびれた腰とふっくらした下腹をくねらせながら、
「おいおい、綺麗どころってそれ、俺も入ってんのかよ!?」
 などとボーイッシュな声で照れていた。
「フフ、デミアのボディラインなら充分イケてるんじゃない? あたしの脚線美ほどじゃないけどね~」
 アマージョのアマンダが、薄紫の優美な足を自慢するように掲げる。そんな仲間たちの様子を、袖の長毛で口元を隠した上品な仕草でクスクスと笑いながら、コジョンドのファーヴァは癖のある声で言った。
「雌ばかりアルは、たまたま集まった仔がみんなそうだったってだけネ。あなたと交換になったギンコも含めてのことヨ。まったく、マフォクシーの雌を交換に出したら、相手にいた炎ポケがエンニュートだけだったなんて、カシューさんの女難の卦も相当ネ」
 聞いた覚えのない訛りだ。どこの地方の言葉だろうか。
 それにしても、前任者もマフォクシーの雌とあってはますます綺麗どころだらけだが、なるほどそれも含めてタイプ属性も戦闘スタイルも千差万別。戦力を煮詰めた結果この顔ぶれになったのは本当っぽい。が、
「たまたまっていうけど、カシューさんがイケメンだからみんな寄ってきたんじゃなくって?」
 と問い詰めると、それぞれ意味深な笑みを浮かべて視線を逸らした。クランは素直に頷いていたが。
「ほらご覧。こんなにモテるのに最初からお断りだなんて、何か事情でもあるんじゃないの?」
「あ、それは、カシューさんのパパがミミロップと駆け落ちしたから……」
「クランっ!?」
 ノアに叱責されて、慌ててクランはお喋りな嘴を羽根で隠す。デミアがククッと喉を鳴らせて哄笑した。
「隠したってしゃあねぇだろ? 旦那をポケモンに寝取られたお袋さんを見てっから、カシューさんは俺たちが不毛な恋で不幸を起こさないよう配慮してんだよ」
「だからって、素直に人を想うポケモンの心を否定するなんて、そんなの不健全だわ! 昔は人もポケモンも一緒だったから、結婚するのは自然なことだったってよく言うじゃないの!! みんなは平気なの? あれだけのイケメンがずっと側にいて欲求を我慢するなんて!?」
「アイヤ、カシューさんにも言われた思うアルが、ポケモン同士の夜遊びは禁じられてないネ。溜まった欲求はその辺の雄を引っかけて晴らせばいいアルヨ」
「そうそう、ちゃちゃっと搾り取って、ね」
「は~い。クランもえっちしてま~す」
 くっ、ファーヴァとアマンダはともかく、いかにも天真爛漫そうなクランまで……? では、一見堅物そうなノアと、雄っ気のなさそうなデミアはどうなのかと目を向ける。
「まぁ、他のパーティとの交流で嗜む程度には、ね」
「とまぁ、みんなはそれぞれに夜遊びしてるわけだがな。俺ぁ行きずりの蝶々を捕まえて食うような柄じゃねぇよ」
 お、デミアだけは処女仲間だったか。と思ったのも束の間、
「うんうん、デミアちゃんはいつも、ライバルのシュバルゴさんとだけだもんね~」
「ファストガード透かしの自主練とかいって、同タイプ同士ふたりっきりで毎晩熱々ネ」
「ままま待て待て、熱々とかそんな、そりゃ確かにピスタチオの奴とは色々してっけど、あれはあくまで本当の伴侶を得た時のための練習であってだな……」
「だからそれを夜遊びっていうんでしょうに。ファストガードをパパから教わったストライクが産まれるのも時間の問題かしらね~」
 散々からかわれて、朱い顔を鋏で覆うデミア。練習だろうが決まった相手がいるのであれば、単なるリア虫であろう。羨ましい。
「ハァ……何よもう、みんな雄を経験済みなのね……」
「え、てことはゴージィさんって……?」
「ヤトウモリの頃から人間との恋を夢見てたもの。ポケモンの雄なんか眼中になかったわよ」
 と言った途端、取り囲む瞳に炎が灯る。
「……ゴージィちゃん、処女?」
「え? うん、まぁそうだけど」
「ちょっと見せて!」
「? 何を……って、うわぁっ!?」
 突然、パワーウィップで胴を腕ごとぐるぐる巻きにされ、私は床に転がされてアマンダに腹を踏みつけられた。ファーヴァの袖毛とクランの足が私の両足と尻尾を掴んで強引に開く。そして更にデミアの硬い鋏が私の&ruby(ほと){火門};((日本神話におけるイザナミの女性器の呼称。))を捕らえて押し開いた。
「ちょ、デミア!? あなたまで何を……やめてぇ!?」
「悪ぃ。俺も興味を抑えきれん」
「や~、やっぱり使ってないと綺麗なものアルネぇ」
「い、いや、前のトレーナーのチアさんとは貝合わせしてたし、自慰だってしてるんだからそんなに使ってないわけじゃ……」
「じゃあ、元々綺麗なんだねっ! もっとステキ!!」
「誉めなくていいから離してよぉっ!?」
 抗議が聞き入れられることはなく、4対の視線が一ヶ所に収束される。
「どっちにしろ、挿入の経験はねぇんだよな?」
「ねぇねぇ、奥の方はどうなってるの?」
「ちょっと指を突っ込んじゃおうか」
「それは可哀想アルヨ。まずはワタシの袖毛の先を挿れてみるネ」
「焼くわよ!? あんたら全員焼いちゃうわよ!? やめて、やめてぇぇぇぇぇぇっ!?」
 致命傷を負う前にと決死で精神を集中し、オーバーヒートを噴出させようとした、その寸前。
「そこまでにしなさぁぁぁぁ~い!!」
 歌声のように高らかに響く叱責が、弾ける飛沫を伴って雌たちをなぎ払った。私ごと。
「ぎゃああああああ~っ!?」
 拘束から解き放たれながらも吹っ飛んで悶える私を、ノアのヒレが抱き上げた、
「大丈夫? ゴージィ」
「…………」
 全然大丈夫じゃない、っていうか恥部を弄られたことより、泡沫のアリアを浴びたダメージの方が断然大きかったのだが。
「まったく、いくらエンニュートの処女が放つ強烈なフェロモンに煽られたからって、新入りを無理矢理襲っちゃダメでしょう!?」
「アイヤー、血迷ってしまったネ。ゴージィさん申し訳ないアル……」
「ごめんなさぁい」
 怒りに水を差された頭で、素直に頭を下げるファーヴァたちを冷然と見据えていたが、やがて奮然と口を開く。
「結局、みんな全然欲求解消できてないってことよね、これ」
「すまん。返す言葉もねぇわ」
「それもこれも何もかも、カシューさんがみんなの性欲処理を放棄してるのが悪いんじゃないの! 私を襲うぐらいなら、そうよ、みんなでカシューさんを襲って強引に奪っちゃいましょうよ!!」
「ダメよ」
 断然と、ノアは私の提案を退けた。
「酷い目にあったゴージィは釈然としないでしょうけど、でも、それだけはダメ」
「何でよ!? みんなだって……?」
 助けを求めるように他のみんなを見渡したが、誰もがノアの言葉に納得している様子で整然と頷いている。
「あのね、ギンコちゃんがここにいられなくなったのが、カシューさんを襲ったからなの」
「ギンコって、私と交換になったっていうマフォクシーさん?」
 私の問いに、クランが頷く。アマンダが解説を受け継いだ。
「ギンコもあなたと同じ、人間との恋に憧れるカシューさん一筋の娘だったの。けれど知っての通り、その想いは届く望みのないものだった。業を煮やした彼女は、就寝中のカシューさんに夜這いをかけちゃったのよ」
「まぁ、抜け駆けネ。ワタシたちとしても見過ごすわけにはいかなかったヨ。寸前で飛び込んで取り押さえたアル」
「性別がどっちかも、ポケモンか人かも関係ねぇ。相手の性を身勝手に冒涜したなら、そいつは強姦ってもんだ。嫌われ、放り出されても仕方ねぇよ」
 ファーヴァもデミアも、暗い面持ちで語る。なるほど、それでファーヴァはカシューさんのことを『女難』と言ったわけか。まったくデミアの言う通りだ。ついさっき私がされた行為も含めて。
「解ったでしょう? そんなことがあったばかりなのに、私たちがまたカシューさんを裏切るわけにはいかないの。もちろんあなたが勝手なことをするのも許さないわ。参考までに言っておくけど、ギンコは私が徹底的に洗浄してからチアさんのところに送った。肝に銘じておきなさい」
「せ、洗浄って……」
 泡沫のアリアに洗われたばかりの我が身を抱き締めて、私は慄然とおののく。
 でもやっぱり釈然としない。したことは悪いんだろうけど、そうまでしてカシューさんを求めてにべもなく切り捨てられたギンコさんが可哀想。私も同じ想いを抱えているからか、どうしても同情しちゃう。
「……要するに、カシューさんから求めてもらうのであれば、問題はないわけよね」
 心を定めて、私は黒い脚で立ち上がった。
「私にいい考えがあるわ!」
「重ね重ね言うけど、カシューさんに迷惑をかけるような考えなら、事前に洗浄させてもらいますからね」
「覚悟の上よ。しっかり洗ってちょうだい」
「?」
 怪訝そうな仲間たちの顔を寄せ、計画をそっと耳打ちする。
「アマンダとデミアには特に腕を振るってもらうわよ。クランもファーヴァもお手伝いお願いね。明日の朝には、カシューさんを私たちの虜にするわよ!」

 ○

 熱した油が沸き立ち、香ばしい香りを薄闇の中に籠もらせる。
 ヨワシの切り身や野菜、キノコなどが炙られパチパチと音を立てる中、近づいてくる足音が群を成して響いた。
「おはようございます、カシューさん」
「今朝はゴージィさんの発案で、カシューさんのためにスペシャルメニューを用意したアル。さぁ、こっちに来るよろし」
「ほう、それは楽しみですねぇ」
 腹を擦りながらペタリペタリと進みくるのはノアで、小刻みなピッチを軽やかに響かせるのはファーヴァの足音。静かにゆったりと床板を踏みならすのがカシューさんか。
 彼らが歩み入った座敷には、覆いをすっぽりとかけられた大きな食卓。その傍らでは、アマンダが頭の&ruby(ヘタ){蔕};を後ろに束ね、露わになった肢体から甘い香りを漂わせている。
「フフ、準備は万端よ~」
「盛りつけはクランがやりましたー!」
「自信作に仕上がったぜ。腹一杯食べてくれ!」
 アマンダと共にテーブルを囲むクランとデミアも、元気のいい声を張り上げた。
「ゴージィの姿が見えませんが?」
「彼女は今、料理の総仕上げ中です。食べ出す前には姿を現しますよ。まずは席についてくださいな」
 ノアに促され、腰を落としたカシューさんの影が、食卓を包む覆いに射した。
「それじゃ、御開帳アルネ~!!」
 長い胴をテーブル上に伸ばして、ファーヴァが覆いを剥ぎ取る。
 充満していた芳醇な香りに満ちた蒸気が、部屋中に解き放たれた。
「……!? これは……!?」
 煙の向こうに、カシューさんの茫然となった顔が見える。
 デミアの鋏で巧みに裁断されたヨワシの切り身や野菜の数々。
 アマンダによって香りづけられたそれらを、クランの芸術的なセンスで盛りつけられ、
「エンニュート焼き膳、出来上がりました~!!」
 胸や腹の上で焼きながら、食卓上に仰向けになった姿勢で私は言った。
「よく焼けてますよ。さぁ、召し上がれ」

 ○

 ほんの数瞬、強ばった表情を見せていたカシューさんだったが、
「……なるほど、確かに食べ出す前に姿を現しましたね。そういう趣向でしたか」
 すぐに穏やかな笑顔を私に向けた。
「はい。故郷じゃ評判ですよ。エンニュートの炎で焼いた料理は精がつくって」
 なんて評判は今作った。とは言え実際、私らの生成するガスに強精効果があるのは本当である。それを燃やして作った炎で炙り上げた料理にも、当然その効果は期待できるはずだ。手近な雌で解消しなければ治まらないほどの……!
「ゴージィの身体は、盛りつけ前に私が洗浄しています。中毒の心配はありませんのでご安心を」
「それはお疲れさまです。ゴージィも、料理のためとはいえ大変だったでしょう」
 うん。自ら申し出たこととはいえノアの洗浄は地獄だった。労いの言葉が身に沁みて嬉しい。
「それでは、頂きましょう」
「待つネ。まだ最後の仕上げが残ってるアル」
 タレ差しを掴んだファーヴァが、私の上に身を乗り出した。
「ねぇファーヴァ、それ……ホントにやるの? さすがにちょっと……」
 ヒレで口元を覆って、ノアが顔をしかめる。
「ゴージィが言うにはこれが正しい作法ネ。それに、ワタシもこの効果には興味アルヨ」
 躊躇うことなく、ファーヴァはタレ差しを傾けた。
 注ぎ口からこぼれ出した琥珀色の液体が、緩やかな弧を描き、開いた脚の間に滴り落ちる。
「……っ!」
 たちまち、加熱した胎温でタレが沸き立ち、刺激的な泡を火門の上に弾けさせた。
「ここにつけて食べるよろしヨ」
「…………」
 彩り鮮やかな料理で身を飾り、股間にタレを満たした私のあられもない姿が、カシューさんの興味深げな相貌に晒される。
 ポケモンの股間に食べ物をつけて食べる行為に彼が難色を示すようなら、ただ美味しく食べて欲しいだけなのにと泣き落とす算段だった。恋愛や性交渉に関わることではないという態度をあくまでも貫きさえすれば、私たちの好意を蔑ろにされることはない、とみんなに言われてはいたが。
「……随分と変わった作法ですが、そういう流儀なのですね。では改めて、頂きます」
 言われていた通り、カシューさんは至って平然と微笑んだまま一礼すると、箸を手に取り腹の野菜へと伸ばした。
「アン……ッ!?」
「あ、刺してしまいましたか?」
「あ……いえ、平気です。そのまま、タレにつけてお召し上がりください」
 しっとり油の染み込んだ野菜で柔らかな腹の肉をぬるりと撫でられ、思わず官能の喘ぎを漏らしてしまった。
 更にその野菜が、タレに濡れる火門へと擦り付けられる。
「あ……っ、あぁぁ……」
 身体の芯を貫く喜悦。気持ちいい……。火門の奥底から求愛のフェロモンが猛烈に湧き出し、野菜に絡みついていく。
 ファーヴァ特製のタレとアマンダがかけてくれた甘い香りに私のフェロモンまで加えて濃厚に味付けされたその野菜を、カシューさんは息を吹きかけて軽く冷まし、口内へと迎え入れた。
 シャキシャキと頬が動き、私が焼いた野菜がカシューさんの口の中で並びのいい真っ白な歯に租借され、細い喉を抜けて嚥下される。
「ふぅ……とても美味しく焼けていますよ。さて、次はヨワシを頂きましょうか」
 ヨワシの切り身を焼いているのは胸元だった。ほっそりとした箸先が色づいた魚肉を掬うと、その下で高鳴る鼓動さえも持って行かれたような錯覚に捕らわれる。熱を増した火門を切り身が弄り、またカシューさんの唇へ。
「あぁぁ……」
 食べられてる。野菜やヨワシの肉に込めた私の熱が、香りが、想いが、カシューさんに口付けされ舌に舐られて、彼とひとつになっていく。私、カシューさんに食べられてるんだ。
「素晴らしいです。身の奥まで火が通って、かつ不要に焦げ付いてもいない。ゴージィが食材を気遣いながら丁寧に焼き上げた成果がよく出ていますよ。タレの味わいと香料の香りが食材と一体になって、より上位の存在へと進化させたかのようだ。これほどの料理にしてもらえたなら、裁かれたヨワシも本望でしょう」
 嬉しい……私、カシューさんに誉められてる。焼き具合を認められたこと以上に、まるで私自身が美味しいと言われたかのように思える。
「みんなも頂きなさい。本当に美味しく焼けていますよ」
 カシューさんに誘われて、一斉にみんなが私の上に身を乗り出した。できれば愛しのカシューさんだけに食べて欲しかったのだが、カシューさんの手前だし約束もあるのでそうはいかない。この後フェロモンでメロメロになったカシューさんとみんなで愛し合うため、全員しっかりと精をつけてもらわなくては。
 一番器用なファーヴァがほいほいと料理を取って火門のタレに浸しては、小さなクランや熱いのが苦手なデミアに装っていた。ノアは火門のタレを使うのに抵抗があるようで、ひとり取った料理に塩を振って食べている。タイプ的に毒が苦手なのだと思うが、同じく毒弱点で炎にも弱いはずのアマンダは、タレをたっぷりとつけて味わっていた。タイプによる刺激の強弱ではなく、強い刺激をどう感じるかという性格の差のようだ。
「ゴージィ、焼き方お疲れさま」
 気付けば、カシューさんが私の顔の側に座っていた。
「あなたの分も装ってあげましょう。自分がどれだけ良い仕事をしたか、存分に味わってくださいね。ほら、口を開けて」
 促されて開いた口に、ヨワシ肉がタレをつけて運ばれる。カシューさんが口を付けた箸で。
 間接キスだ。まぁ、私の火門につけた料理ではあるのだが――あ、つまり私、間接クンニもさせちゃってたんだ。
 口の中で、熱と旨味が爆発する。うん、我ながら上出来だ。これをカシューさんに食べさせてあげれて、今同じ喜びを分かち合っている。幸福感をしっかりと噛み締め飲み込んでいく。
「ぷはー、もうおなか一杯アル」
「葉っぱ一枚残さず食べちゃったね~」
 クランの言う通り、いつしか腹の上には油の跡しか残っていなかった。
「ゴージィ、こちらへ。吹いてあげますよ」
 起きあがるまでもなく、カシューさんの腕が細身に似合わぬ力強さで私の身体を抱き上げ、机から彼の膝の上へ。
 フワリとしたタオルの感触が胸元を覆い、そして。
「ひぁあ……っ!?」
 生地越しに彼の掌が、私の首元を、胸を、脇を、腹を愛撫し、塗りつけられた油を拭っていく。
「く、くすぐった……はぅ、はひぃぃっ!?」
 天に昇りそうな心地よさに、私は何度も彼の腕の中で身悶えする。
「ほら、タレも拭うから、開いて」
「ほえ、ひ、ひらくって、なに……いひゃぁあぁぁっ!?」
 愛撫の手が私の股間へと下り、火門の縁へ、更には奥までをもタオルを差し挿れていく。
 あぁ、私、とうとうカシューさんと――――
「んぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ~っ!?」
 意識が蒸発するほど激しく、私は絶頂感に酔いしれた。

 ○

「皆さん、良い朝餉をありがとうございます。正午頃に街に出て対戦相手を募集するので、体調を整えておいてくださいね」
「ふぁあぁい……」
 陶然と至福に浸りながら、私は座敷を出て行く背中を見送る。
 余りに気持ちよくて、幸せすぎて。
 我に返るのに、結構な時間を要した。
「……あれ?」
「『あれ』じゃないわよ。まったく、フェロモン仕込みの料理で落とすはずがまんまと落とされちゃって。あなたの負けよ、ゴージィ」
 ノアの声に、ぎょっと私は覚醒した。
「え、えぇ~っ!? なんで、どうして!? 私のフェロモンが効かなかったっていうの!?」
「アイヤ、多分効いてたネ。きっとズボンの下はビンビンのはずアルヨ。ただ、その欲求をワタシたちに向ける気が初めからないってだけのコトネ」
「そ、それでも効いてはいるのよね!? だったら今求めれば……?」
「おやめ。それじゃギンコと同じ道よ。身体が反応してさえいれば合意したも同然だなんて、男心への冒涜だわ。いつまでも処女なんかやってないで、場数を踏んで勉強なさいな」
 整然とアマンダに諭され、私は悄然とうなだれる。
「みんなには、分かってたの? こうなるってこと」
「ゴージィ、夕べあんたが言った通り、俺たちゃカシューさんに惚れて集まってんだ。誘惑なんざこれまでもあの手この手と仕掛けてきた。一服盛ったぐらいでモノにできてりゃ世話ねぇよ」
「ならどうして止めてくれなかったのよ!? こんなの私の独り善がりでしかなかったんじゃない!?」
 八つ当たり気味に喚いた私に、真剣な眼差しを向けたのはクランだった。
「ゴージィちゃん、クラン、お料理のお手伝いできて楽しかったよ。ゴージィちゃんの身体に綺麗に盛り付けたお料理を、大好きなカシューさんと一緒に美味しく食べれて、嬉しかった。これ、クランの独り善がりかな?」
「う……」
 そんなわけはない。
 互いに想いを通わせ合った、誰が見ても立派な絆の形だ。
「ゴージィちゃんはどう? 嬉しくなかった?」
 ぐうの音も出ない。
 身も心もすっかり、満腹にしてもらえたのだから。
 微かに緩めた頬を応えと受け取ったのだろう。ノアが私に語りかける。
「私に言わせればね、いくら事前に洗ったって、毒ポケの身体で焼いたお料理を、総排泄孔のタレ皿につけて食べるなんて有り得ないわ。人間の感覚だって大差ないでしょうよ。それでもカシューさんは、嫌な顔ひとつせずに食べてくれた。ポケモン盛りに劣情を抱く趣味もないのにね。私たちが一所懸命作ったから、あなたが真心を込めて焼いたから、全部受け入れてくれたのよ。身体でつながらなくたって、心はちゃんとつながっていてくれる、彼はそういう人だって、私はあなたに解って欲しかったから……」
「解った。全部納得したわ」
 私は頷く。
 同時に、ギンコさんへの同情心もなくなった。これほど愛されてなお許されぬ行為に走った彼女は、それこそ独り善がりだったのだろう。
「だけど諦めはしないからね。いつかカシューさんから求めてくれるように、精一杯尽くしてあげるんだから!!」
 宣言した私に、ノアがヒレを差し伸べる。
「改めてようこそ、私たちのパーティへ」
 周囲で一様に微笑む仲間たち。
 男心に疎い私だけど、みんなの気持ちならよく解る。
 誰も諦めてなんかいない。未来が変わる時を信じて頑張ってる。
 私もヒレを掴んで立ち上がり、パーティの輪に加わった。
「フー、ゴージィさんの料理のおかげで、身体がカッカと漲ってるネ!」
「このムラムラは、今日の対戦相手にぶつけようぜ!」
「お~!!」
 気勢をあげる仲間たちと、足並みを揃え歩き出す。
 カシューさんとの今日へ。カシューさんとの明日へ。
 私たちの恋を巡る戦いは、まだ始まったばかりだ。

(締)

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