ポケモン小説wiki
プロローグ-空の彼方の桃源郷- の変更点


書いた生き物 [[九十九]]
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ぽかぽかした春の陽気に、ポケモン達は唖然と空を見上げた…………
いつの間にか、お日様の光が遮られ、巨大な浮遊島が悠然と漂っていたのだ…………
一匹のコラッタが空を見上げてぼうっとしていたら、空から何かが降ってきた……それを拾ってみると、なんと、古ぼけてはいるが、高価な金貨だということが判明した。
ポケモン達は色めきたった、やれ我こそはと思うもの達は、その浮島を"宝島"と呼んだ…………
ポケモン達は、いろいろな手段を用いて、宝島に乗り込もうとした。もちろん、どんなお宝が眠っているのかという期待と、隙あらばそれを全て独り占めにしてしまおうという邪なもの存在した…………
そして、巨大な宝島に辿り着いたポケモン達は、誰一人としてかえってくることはなかった…………
巨大な島は、悠然と空にそびえ、動くことはなかった…………
まるで何かを待つように、誰かに宝島を攻略して欲しいかのように…………
しかし、生きて帰ってきたポケモン達がいない未知の世界に、ポケモン達はぞくりと背筋を震わせて、やはりやめておこうというものが多かった…………
だが、冒険心と、夢を見る心と、謎を解きたいというポケモン達は、まだ存在していたのだった………………
自分の家が貧乏で、一攫千金を狙おうと、宝島を目指すピカチュウのペペス……彼は宝物がきっとあると信じて、宝島を目指した……
何か嫌な予感がして、ペペスの後を追うように同行した、ミュウのパイン……彼女は不安だった。悪いポケモンが、ペペスを壊してしまうのではないか、そんな夢を見て、恐くなって、せめてペペスだけは守ろうと奮起する……
仲良し友達である一匹、シャワーズのポプリは、宝島と聞いて、真っ先に飛びついた…………彼女は、昔から御伽噺である宝島について、不思議な疑問を抱いていた。なぜいつも宝をとる前に島が崩れてしまうのか、宝島ならば宝があるはずだ、ならば、それを自分が確かめに行こうではないか…………
仲良し友達の一匹、エーフィのウーゾは、空をぷかぷかと浮かぶ不思議な島に、興味をもっていた…………彼は、エスパータイプの勘が自分に告げていたと思った。何だか分からないけど、楽しそうだ……よく分からないものに興味津々、嬉々として、一緒に行こうというポプリと一緒に、知的な探検の旅に出かけたのだった…………
どこに生まれたのか、なぜ生まれたのか分からないポケモン、ゾロアのガーナは、単純に記憶を求めていた…………彼は苦悩し、そして願った……なぜ生まれてきたのか、自分は記憶を失う前はどこに住んでいたのか…………それらを知る鍵が、あの浮かぶ島にあるかもしれない、どんな強い敵が現れても、絶対に負けはしない…………ポケモンバトルに勝たないと、先に進めないと信じて、宝島へと向かっていった…………
記憶を失ったガーナと一緒に暮らしていた、チラーミィのタルトは、くすりと微笑を浮かべた…………彼女はまるで全てを見透かしているかのような瞳を空に向けて、ただただ微笑むばかり…………タルトは思っていた。きっとお宝よりも素敵なものが見つかるだろうと。そしてそれが、ガーナの閉じてしまった心を開くきっかけになるだろう…………そう思って、ガーナと一緒に空を目指した…………
六匹のポケモンの、それぞれの思い。
それらを全て受け止めるかのように、ずんとそびえる宝島…………
何があるのか、何が起ころうとしているのか、答えを知るのは、宝島のみだった………………
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「あの飛行物体、動かないのかな…………」
ふわふわと雲の切れ間を移動しながら、二匹のポケモンが周りを気にしながら会話をしていた。現在高度3000m…………空気も薄くなり、殆ど冷気に近いものが二匹を襲うが、二人は何の外変化も無しに会話を続けている…………
異常気象というよりも、空は雲の中に入るたびに、冷気が体を蝕み、凍りつくような寒さと、切り裂くような痛みが襲うのだ……しかし、空を飛んでいるにもかかわらず、無傷のまま二人は飛び続けた……これは完全に、念力の力で気圧や温度を調整しているのだろう……
「寒くない?」
一匹のポケモンがそう尋ねる。
不思議な形をしたピンク色のポケモン、猫なのか、ねずみなのか、犬なのか……どのような種族なのかも分からないそのポケモンは、ミュウといった。ミュウの放った言葉は、隣にいる黄色いねずみ、ピカチュウに向けられたが、小刻みに襲ってくる微弱な風を受けながら、殆ど無感動な声で、ニコリともせずにピカチュウは短く呟いた。
「暑くはないよ……」
灰色の答えだった。白でも黒でもない……そんな答えを聞いて、ミュウはため息をついた……昔から変わったやつだと思っていたが、こんな空中でそんなことを言い放つやつだとは思っても見なかったのか、ミュウのため息は念力の対象外にいくと、凍てついて、そのまま雲に吸い込まれていった……そんなため息を聞いたピカチュウは、何ともいえないような表情で、ミュウに問いかける……
「嫌なら、来なければよかったじゃないか、パイン」
「私がいなくて、どうやって高度20kmの宝島に辿り着くつもりだったの?ペペス」
パインと呼ばれたミュウは、ため息をついた。ペペスと呼ばれたピカチュウは、失言か、と思って思わず口に手を当てて俯いた。現在高度7000m、パインの念力の力で、二人の体は空に浮かぶ宝島に向かって一直線……高度を上げれば上げるほど、雲が多くなってゆく。こっちだこっちだといわれてその方向へ飛行してきたが、本当に方角はあっているのかとパインは少々不安になった……
「これは失礼しました」
「そんな風にいまさら取り繕わなくていいですよ……」
いきなりしおらしくなってそんなことを言うペペスを見て、パインは思わず苦笑いをしてしまう。ペペスはいつも何を考えているのか分からない、今回、空に浮かぶ島に行きたいと願ったのも、家が貧乏で、家族に楽をさせてあげたいというだけではないのかもしれない、だが、そんなことをおくびには出さないペペスの性格は、灰色で、掴み所がなく、何を考えているのか分からないといわれていてもしょうがないのかもしれない。
だが、パインはそうは思わない。確かに白か黒か分かりにくい性格をしている上に、灰色などという曖昧でぼやけた嗜好は分かりにくいかもしれないが、得体が知れないポケモンよりかは幾分か信用はできたし、何よりも、そんなことで何を考えているか分からないなどといっても、それは他人がペペスのことを分かろうとしないだけなのである。変わっているといっても、誰でも個性的な面を持っているために、その表現はおかしいだろう、皆変わっているのが一番いいのだ……ペペスはその中でも、中点に立っている部類に入るのだ、上澄みでも、澱でもない所に、ペペスは立っていた。
そんなペペスを横目に見て、パインは寂しそうな顔をする。不思議そうな顔をするペペスをよそに、ため息を一つついた。
昨日の夜に、変な夢を見てしまったのが原因であろう。異常な暗闇の中で、ペペスが変わってしまう、いや、変えられてしまうというえげつない内容の夢だった。所詮夢とすっぱり切り捨てればいけるが、今現在でも胃がむかむかしているために、一概に夢だ幻だと切り捨てることができない…………
気持ちのいい風を受けて、本来ならば伸びの一つでもするところなのだろうが、そんな気分にもなれないくらい厳つい顔つきをしていたのか、それとも変なオーラでも読み取ったのか、心配そうにペペスが話しかける。
「顔色が優れないみたいだけど、大丈夫なの?」
無理をしないで欲しいという友達からの警告。そんな彼を見て、大丈夫と小さく頷く。ペペスは灰色でも、仲間思いなのだ。仲間想いに色はない、灰色だろうが水色だろうが、友達を思ってくれる気持ちは本物だった……そんなペペスのことが、パインは大好きだった。
別に宝物が欲しくて同行したわけではない、彼女はペペスが心配だったために、動向を願い出たのだった。親には内緒で、家をこっそり抜け出して、宝島を目指そうとした彼の、悲壮な顔つきはほうっておけなかった。宝物を探したい、その一身が、彼を突き動かしていたのだろう……
時間は午前三時、これはよいこも悪いこも普通のこもお休みの時間だ……そんな時間に出て行った理由なんぞは、親に見つかるととめられるからというペペスらしい理由で、それについていったパインも、とめればよかったなんて思えなかった。宝物を見つけるまで、宝島を探索するなどと言い張るのだ。その瞳は真剣で、そんなものある訳がないと、一笑に伏すことができなかったのだ。
ならば、とめるよりもついていって、彼を守ってあげようという気持ちになったのだ、大切な友達が、宝物に目がくらんで帰ってこなくなるのは、自分が死ぬよりも重く辛いことだとパインは濁った感情を呑み込んだ。こんなことをいったら、ペペスに起こられるからだろう、大切なのは、何よりも自分の命なのだから……
命の大切さは、言葉では語れないという、硝子の様に脆かったり、ダイヤモンドの様に固かったり、人によって捉え方はそれぞれ、多種多様にあるだろう、間抜けな比喩の表現でも、それはたとえればその通りになるのかもしれない。陳腐でうすぺらい言葉を並べても、元をたどればそれも一つのたとえになるのだから、言葉というのはある意味凄いものだと思ってしまう。
少なくとも、今の自分達の命は、綿毛のように軽いものであるということは確かだった…………
「おかしいな、さっきから飛んでいるのに、一向につく気配がない……」
訝しげに首を傾げて、ペペスは辺りを見回した。確かに、とパインは考え込む。現在の高度から、変わった記憶がない。高度が変われば、それに合わせて念力の調整をしなければ、たちまち身体に悪影響が出てしまうからだ。今、二人は念動波の薄い膜に包まれて、空を悠然と飛行しているが、成層圏のあたりまで来てしまうと、念力を最大に展開しなければ、永久に凍り付いてしまうだろう。
空に浮かぶ不思議な島は成層圏に位置する高度二十キロメートルの辺りに存在するにもかかわらず、地上を影で覆って、何の変哲もなく浮かんでいるのだ。
空から降ってきたという金貨にも、凍りついた外傷や、摩擦などで燃えた形跡など一切見当たらない。摩訶不思議な現象を目の当たりにして。高度7000mまで来た二人は、不思議な影を確認した。
「何あれ?」
「未確認飛行物体かもね…………」
「何でこんな空中でUnidentified Flying Objectgが出てくるんですか??」
「違う違う、Unidentified Flying Objectじゃないよ。Undefined Fantastic Objectさ……」
などという不思議な会話も、風に阻まれて殆ど聞こえない。二人は飛行しながら、慎重にその不思議な物体を捕らえた……
刹那――凄まじい氷の槍が、二人にめがけて飛んできた。
「っ!?」
「緊急回避します、目を瞑って!!」
言われるがままにペペスは目を瞑り、パインは目を閉じて両手を前に突き出す、目には見えない念力が。二人に降り注ぐ氷の塊を、次々と水に代え、そして蒸発させてしまった…………
「はぁ、はぁ…………」
荒く息をついて、パインはだらりと両手を力なく下ろした。もうあけてもいいですよとパインが言うと、ペペスは恐る恐る目を開ける。何もない、ただ見えるのは、雲と、そして巨大な宝島だけだった…………
「うぅん、失敗失敗~…………お宝は見つからないし、変なポケモン達は何かこっちくるし、ひいふうみいよおいつむう、うぅんざっと六匹かぁ、めんどくさいなぁ、ほんとにめんどくさいや……」
「な、何あれ??」
「分かりませんが、攻撃してきたということは、少なくとも友好的ではないということでしょうね…………」
高度が若干落ちたので、高度を上げなおして、改めて攻撃をしてきた生物を見つめる。変な被り物をしている、不思議なポケモンだ。このあたりでは見かけないだろう……不審に思っていたにひきに、そのポケモンは陽気に話しかけた……
「狭い狭いこの世界、そんなに急いでどこ行くの?」
「急いではいませんが、あなたが邪魔をしたために急がなくてはならなくなりましたね……」
「おやおや、人の所為にしないで欲しいな、それに、君達はこのおんぼろ島に何の用だい?」
そのポケモンは、ペペスとパインにはっきりと言い切った。おんぼろ島に何のようだと…………それを聞いたペペスは信じられないといった顔で驚愕し、パインは何かを知っていると確信した。二人はまるで違うことを考えていたが、とにかくこのポケモンを捕まえて、洗いざらいのことを聞き出そうと考えた。
しかし、考えよりも先に、ペペスが言葉を発してしまった。何よりも、宝島じゃなければこの浮いている島は何なのかという疑問が、幼いペペスにはどうしても知りたいことの一つだったからだ。
「おんぼろ島!?宝島じゃないのか!?」
宝島と聞いたそのポケモンは、暫く沈黙していたが、やがて声を出して笑い始めた………まるでペペスが何も分かっていないことを馬鹿にする笑いというよりも、テストで珍回答をもらってそれに笑っている先生のような笑い方だった。
「宝島ねぇ、なかなか面白いこというけど、馬鹿じゃないの?あれが君たちには宝島に見えるんだから、地上のポケモンって言うのはほんとに変わってるね……」
風になびいていた被り物が、ひらりと取れて、そのポケモンの全容が露になる。不思議な綿毛に、長い首、青い身体は、透き通る春の空をそのまま模したかのような色だった…………
「!!チルタリス!?」
「ご名答、僕はチルタリスのハミング……さてさて、龍眼島に近づく愚かなポケモン達よ……儀式の最中だから、あそこには誰もいれるなって言われているから、大人しく帰って眠ってな!!」
「くるよ、パイン、大丈夫!?」
「無用な戦闘は避けましょう、最大全速でこの空域を振り切ります!!」
ハミングと名乗るチルタリスは、ぐっと首を屈めてこちらに飛行突撃を繰り出した。パインは瞳を細めてすぅっと右に移動すると。そのまま振り切ろうと全速力を出した。
「おっとー、駄目駄目、逃げるなんてフェアじゃないよ」
「!?パイン、前々!!」
「え?」
いつの間にか、突進していたハミングが二匹の眼前に現れて、ニコニコと微笑んでいた。いきなり現れたために、パインは思わず急停止してしまった。冷や汗が体中から流れて、言い換えることのできない恐怖が目の前に鎮座していることに苛立ちを募らせた……
「ぐっ……」
「逃げようったってそうは行かないよ、確かにまだまだあの島にはつきそうにもないけどね、もしついちゃったら結構困るね、だから、ここで大人しくやられちゃって欲しいな……」
ハミングは笑顔を崩さずに空恐ろしい言葉を二匹にたたきつけた。ペペスは生唾を飲んで、目の前のドラゴンを見つめていたが、パインは先程ハミングが言っていた言葉を反芻して考えていた。宝物が見つからない。その言葉の意味をよくは知らないが、目の前のポケモンを振り切る餌にはなりそうだと思い、ふっかける事にした……
「宝物を探すのではなかったのですか?私達に使っている時間があるとは余裕なのですね……」
「うぅん、精一杯強がってるって感じが滲み出てるね、恐らくまだ僕を振り切る算段でもしているのかな??そうだね、確かに探し物はあるけど、それは他の仲間がやってくれそうだから、僕は君達を追い返すことに集中するとしよう……」
完全に見透かされて、パインは耳まで真っ赤になった。心理戦も通じないとなれば、後は緻密な計算と、自身の肉体の状態、そして、ここから先を抜けるという運のみの力で、目の前のチルタリスを何とかしなければならなくなった。そうなれば、とパインは、目を見開いて未だに何が起こっているのかいまいちわかっていないペペスに大きな声で問いかけた。
「ペペス!!」
「は、はい!?」
「私は二人分の密度を支えるので精一杯です。ですので、攻撃してください。回避は私が行います……恐らく、二人係では止めるのが精一杯ですが、やれるだけのことはやりましょう、何よりも、宝島に番人はつきものですから……」
驚いていたペペスに矢継ぎ早で今の状況と、攻撃と回避の役割を早急に伝えて、ハミングを見据えた。もう攻撃態勢に入っているハミングは、口から青白い炎をぼっ、ぼっ、と漏れさせている。何をするのか分からないが、とりあえず敵意をむき出しにして、自分達を空中から叩き落すということだけは理解ができた……
そんなパインの感情を読み取ったのか、はたまた自分自身が危険だと思ったのか、その真意は不明だが、ペペスはもう驚くこともなく、いつもの灰色の顔で、ゆっくりと頷いた。
「分かった、頑張れそうにないけど、やってみるよ……」
「それでこそペペスです……さぁ、来ますよ!!」
パインの声とともに、雲がぐらりと歪む。不思議な島に着くまで、まだまだかかりそうだとペペスは一人ごちて笑った…………
不思議な感覚が忘れかけていた感情を蘇らせる、全身の血が滾って、ざわめき立つ……そうだ、その通りだ、こうでなくちゃ、面白くない。
子供のころに忘れていた情熱が、今になってぼこぼことマグマのように沸騰する…………
冒険は、こうでなくっちゃ!!
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空と飛ぶという感覚は、水の中を泳ぐのとあまり変わらないと、シャワーズは思った……
「大丈夫?体が凍りつくとか、変な感覚とかはない??」
横にいたエーフィが心配そうな顔をした。念力で空を飛んでいるために、どちらかというと疲れるというのはエーフィのほうかもしれないが、顔色を見る限りあまり疲れているようには見えず、だからこそ心配しているのだろうか、シャワーズはそんなエーフィの気遣いに微笑みながら、目の前にそびえる大きな浮遊島を見て、口元の端を吊り上げた……
「大丈夫だよ、ウーゾ君こそ、平気なの?」
ウーゾと呼ばれたエーフィは、ずれた眼鏡を静かに押し上げて首を縦に振る。空を飛ぶということは、鳥や竜のすることかもしれないが、修行を積めば、念力を持つものでも空が飛べるという実践もついでに試してみようという感じである。
「大丈夫さ、俺はそんなことで倒れませんからね……どっちかというと、ポプリのほうが心配なのさ。……結構高いところを飛んでるからね、もしかしたら気持ち悪くなるとかあるじゃないか……」
気分は、雨のように、雪のように、流れる水のように変わるものだ。星を見て、綺麗だと思う気分もあれば、月を見て禍々しいと思う時だってある。人の気分は、いつでも、どこでも、どんな時でも、絶えずころころと変わっていく、時計の秒針が時を刻むように……
そんな不思議なものが、気分だ。生き物の大半は、気分というものでくるくる変わるのだから、生き物は面白い。ウーゾはくすりと微笑んで、雲だらけの空を見上げた。今時分たちがいる高度を、周りの景色で大体把握する。雲だらけのこの場所は、現在高度24000m……直に空気も薄くなってくるだろう、ちょっとだけ身震いをしてから、気を取り直して巨大な島に目を向けた。
「あそこは成層圏の入口付近まで近づかないと、どうやらお目当ての陸地は踏めないわけだ……ポプリ、辛いかもしれないけど、頑張っていこう」
「ええ、大丈夫ですよ、宝島といえば、お宝ですから、私はお宝を見るまで、諦めはしません!!」
強い口調で、ウーゾの隣にいる、ポプリといわれたシャワーズはぎゅっと握りこぶしを作った。
彼女はとても御伽噺や、冒険者の絵本に疑問を持っていた。読んだ本の内容、どうしてそうなったのか、そういうストーリだったからかもしれないが、彼女が読んだ本というのは基本的に物語の締めが、どうにもこうにも消化不良で終わるものばかりだった。
海賊と戦って、宝箱を開ける前に洞窟が崩れてしまったとか、お姫様になって、舞踏会に出かけたら、踊る前に魔法が切れ掛かって帰ってきたとか、少なくとも、王道でそんなものばかり呼んでいた彼女は、一つの疑問を抱いたのだ。要するに、続きはどうなったのか?
彼女はすっきりさせないときがすまない性格だった、そして、彼女に呼応するかのように、突如現れた宝島……ポプリの心は期待と不安に弾んだ。きっとお宝があるに違いない、なんていったって、宝島なのだから。そしてそれは、自分が確かめなければいけないのだ……
冒険心とも、一攫千金とも違った、真実を求める興味に、ウーゾも便乗した。彼の場合は、意味不明なものに興味をもっただけだった。なぜいきなり空にこんなものが現れたのか、どうして金貨がふってきたのか、そして、成層圏で止まって、なぜ移動しようとしないのか、疑問は考えれば考えるほどどんどん溢れて、知的好奇心を満たすには十分だった。ウーゾは思った。何だか分からないけど、あの宝島には何かがある、何だか分からない何かが、そんな彼は、自分の好奇心を満たすために、ポプリに同行したのだ。
少なからず、自分の考えを一平単に押し付けてしまったような罪悪感を、二人は同じように感じていた。子供のころから仲良しで、殆ど一緒に育ってきた兄弟のようなウーゾとポプリだからこそ、同じような考えで、同じようなタイミングで、同じように言葉を紡ぐ。
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「ごめんね、何か勝手な考えに巻き込んじゃったみたいで……」
「ごめんなさい、私の我侭につき合わせてしまって……」
お互いの言葉が耳に入るのを確認して、ぽかんと口をあけて、数秒後に、盛大に笑い出す。雲の切れ間に届くような笑い声が、上空で響き渡って、暫くの沈黙が訪れる。同じように、同じことを考えていると分かって二匹は少しだけ安心した。
やっぱり、同じような考えを持ってくれている。だからこそ、安心して隣を預けられる。
二匹は微笑んで、なら心配はない。やっぱり同じこと考えてましたね、という会話を、飛行しながら他愛なく続ける。現在高度5000m。異常気象も裸足で逃げ出す、天界の聖域だ。
よく陸地のポケモンは思う、空を飛べたらどれだけ幸せだろう……なんて他愛ない願いを思って、毎日空を見上げているという話を聞いた事があった。それは果たしてどうなのだろうか、ウーゾは常に思っていた、陸地のポケモンは、空を飛ぶポケモンに跨って、空を飛ぶことができるのだ。遊覧飛行をさせてくれる親切な鳥ポケモンやドラゴンポケモンも存在する。
陸に住むものが、空をみあげたら、きっと驚きと感動と、そして小さな達成感に、ほんの少しの不安が生まれるだろう。冒険という幻想がなくなった昨今では、空を飛ぶことが幻想に繋がるような、そんな気がしていた。しかし、水の中にすんでいるポケモンが、空を飛んだらどんな反応をするのだろうか?恐らく、驚くだろう、そして、その驚きも、徐々に消えてしまうのだろう……
水陸両用のポケモン、つまりウーゾの隣にいるポプリのことだが、シャワーズというのは水陸両用のポケモンだ。陸でも活動できれば、海でも活動できる。だが、それにはやはり共通として必要なものがあるだろう、それは、水だ。
生き物は水を摂取しなければ干からびる。空にいようが、陸にいようか、海にいようが、それは全ての生き物においての共通する生存手段なのだろう。水というのは、それほど大事なものなのだ。
そして、その水を自分達の棲家にしている、水中のポケモン達は、空を飛んだらどんな反応をするのだろうか?
水の中を泳ぐのと、空を飛ぶのとは、何が違うのだろうか?空を飛んでいる水の中の生き物がいたら、それはびっくりしてしまうが、少なくとも天地が揺るぐほど大きなことではないはずだ。
水の中を泳ぐ、空を飛ぶ、違うようで、本質的には一緒だ。空を飛ぶポケモンに、空を泳ぐという比喩を使っても、多分当たっているだろう。水の中でも、空の中でも、結局は同じなのだ。海、そういう表現を使っても、すぐに分かる、空は水色、海は青色、結局、どちらも海なのだ。
空を飛ぶポケモンにとっては、空は海であるし、海を泳ぐポケモンにとっても、海は海なのだ。どんなポケモン達も、それぞれに海を持っているのだ。陸上で生活しているポケモン達も、それぞれの心に漣を立てる海が存在する。それは心のよりどころだったり、思い出にすがる空間だったり、人を揶揄な表現をして馬鹿にする悪戯心だったり。さまざまな海をもっている。
そして、精神体は、その海の中を泳ぐ、海は、どこにでも存在するのだから…………
「ウーゾ君?大丈夫??」
気がつくと、ポプリが心配そうな顔つきでウーゾを見つめていた。ウーゾはすぐにかぶりを振って、前を見つめなおす。わけのわからない表現考察は後回しにした。今は宝島に集中するべきだろう。現在高度7000m…………ふと、前方に不思議な布切れがひらひらとはためいているのを見つけた。
「ん?何だあれ??」
ウーゾは不審げに眼鏡をくいっと押し上げた。彼の持っている眼鏡は、こうかくレンズ。伊達眼鏡でも、御洒落眼鏡でもなく、実用的に使っている眼鏡だ。視界がぐぐっと押し広げられて、前方の未確認飛行物体を捉える。どうやらこちらに近づいてくるらしい…………
「こっちにきてます?」
「ああ、物凄い速度でこっちにくる、どうやらぶつかってくるらしいね……」
冷静にそんなことを言うとポプリが驚きの声を上げた。そんな声とは対照的に冷静なウーゾは、こちらに来る物体の詳細を確認しようと、眼力を働かせた。巨大な物体ではない。大きさはドラゴンタイプの中堅位だろうか、飛行しているということは、浮遊か、それとも翼がついているかのどちらかに絞られる。そしてこの突進速度…………恐らく後者だろう、翼がついていないと、速度は出ない。それらからはじき出される結論とともに、ウーゾは念力で浮かせている二人分のエネルギーを大きく右に曲げて、突撃を回避した。
「うひぃっ!?」
素っ頓狂な声を上げて、ポプリは瞳を大きく開いて、高速で通り過ぎる物体を遠目から見つめていた。
「よ、よけれたんですか?」
「恐らくもう一回くるだろうね、なんにせよ、友好的な感じじゃないのは確かだ」
そんな言葉のあと、馬鹿の一つ覚えのように高速で再度こちらに向かってくる物体を肉眼で捉える。しかし、少し空間を置いて、その物体が急停止する。強い風と一緒に、変な物体の布が綺麗に飛んでいった…………
「おおっと、何回も同じ手を使いはしないよ。君達は馬鹿じゃない、知能のある生き物だからね……」
「どうやら、俺の予想は当たっていたようだね…………」
ウーゾは不適に微笑んだ。空中というのは身動きが取れないものだが、念力を操るウーゾにとっては、いろいろな動きをするなど朝飯前だろうが、少しばかり顔に冷や汗を掻いていた。どうやら二人分を支えて長時間飛行していたために、少なからず疲弊しているのだろう。
「さて、君達は勇気ある冒険者か、それとも墓荒らしか、それともただの興味を持った愚か者か、どれに該当するのかな?」
目の前のドラゴンは、クックと笑いながらウーゾとポプリを見つめた。他のポケモンが見れば、ボーマンダというだろう、それが二匹の目の前に立ちふさがるポケモンだ。
「どうやら友好的な挨拶ではないようですね…………」
さすがにポプリも分かっている、攻撃をするポケモンが友好的な挨拶を心得ているはずがない。そんな言葉を聞いて、ボーマンダは不思議そうに笑顔を向けるだけだった。
「質問に質問で返すのは感心しないね…………」
「難しい質問をすうほうが悪いのさ……まぁ、返してあげるよ、僕達は、興味を持った愚か者さ……」
それ以外に表現をする方法がない。ポプリは宝物に興味などない。宝があるという真実を突き止めたいだけなのだ。そしてウーゾは、知的興味を満たせればそれでいい。そんなウーゾの返答に、ボーマンダはそうかい、などと笑った。
「愚か者にこられると厄介だね、今あそこは大切な儀式の最中だ。宝物も探さなくてはいけない。だからこそ、君たちみたいなのにあの竜眼島をあらされるといろいろ厄介だ…………君達個人には何の恨みもないけど。強烈な空の叫びとともに、生温い地上に逃げ帰れ!!」
うんともすんとも言わさずに、ボーマンダは強靭な爪を振り上げて突撃する。どうやら逃げるか戦うかの選択肢しかないらしい。混乱するポプリをよそに、ウーゾは嫌に冷静だなと自分が気持ち悪くなった。
「ポプリ!!僕は操縦で手一杯だ。攻撃は君に任せるよ」
矢継ぎ早にそれだけ伝えると、微細な操作に入る。ポプリは何が何やらといった感じでおたおたしていた。そんな彼女を見かねたウーゾは、一言だけ、彼女に伝えておいた。
「真実を確かめるためには、多少の危険も伴うだろ?最初の画竜点睛が、目の前にいるポケモンだ、宝島に番人はつきものだ…………ということは、お宝がある可能性が高くなったんじゃない??」
彼女は曲がりなりにも自分が行きたいといったのだ、それなりの責任はあるだろうし、覚悟もしている、それ以上にわくわくしている。彼女のわくわくを刺激してあげればすむだけだ。
「!!そうですね、分かりました。よけに専念してください、攻撃は私が行います」
「オッケイ、さ、行くよ!!」
お互いのことを知り尽くしていると、どんな風に言葉を伝えれば動いてくれるかなんて、すぐに分かってしまう。やっぱり彼女と僕は、愛称抜群だった。
そして何よりも、この危険な状況に、ウーゾもポプリもわくわくしている。自分達の海を泳ぐだけで満足していた、昨今のポケモン達が忘れていた感覚が、二人の海に大波のように押し寄せる。
冒険は、こうでなくては!!
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記憶がないというのは、不便だと、彼は思った。
「何考えてるか当ててあげようか?ガーナ」
横からひょいっと顔を出して、チンチラのようなポケモンがにこりと微笑んで、ガーナと呼んだポケモンをまじまじと見つめる。黒と赤に、透き通るような青色の瞳、空を思わせるような瞳の中に、チンチラのようなポケモンの姿が映し出される。灰色をと白の体毛に、おでこと首の辺りに跳ねたくせっけのようなものがチャームポイントの、新種のポケモン。
互いの瞳にうつった。互いの顔を見合わせる。どこに言っても、どの草むらを探し回っても、こんなポケモン見たことがない。新種と呼ばれる二匹のポケモン。その種族は、ゾロア、チラーミィ……
「興味ないかな、自分の考えることも、自分の考えを当てようって言うタルトの言葉もね……」
ガーナはそんなことを言って、すいすいと空に向かって走る速度を上げる。タルトと呼ばれたチラーミィは、残念そうに肩をすくめて、ガーナの後を追った…………現在高度8000m進めば進むほど息が苦しくなり、肌寒くなってくる。雲を避けて進む二匹の視界には、真っ白な雲と、まだ薄暗い空しか見えていない。
二匹は今、空を走っている……何とも奇妙な感覚だったが、二匹の足場には、不思議な黒い雲がもやもやと立ち込めて、それをしっかりと踏みしめて、二人は上へ上へと上っていく…………
「便利だね、ガーナのこういう力は…………」
タルトはのほほんとそんなことを言いながら、自分の足場をぐっぐと跳ねて踏みしめる。この不思議な雲は、全てガーナの力が生み出していた。
暗雲を生み出し、人を惑わせ、自身の姿を大きく変える…………まるで幻影のように姿形を変えるこの能力と、自分の名前以外、ガーナは何も知らなかった。気がついたら一人で草原に倒れていて、そこにタルトがやってきて、助けてくれたのだった。それ以来、二人は一緒に住んで、一緒に行動するようになった。記憶喪失というのは他人が思うよりも厄介なもので、歩くことや、走ること、そして、食事の仕方、どうやって眠るのか、それらの全てをまるで生まれたての赤ん坊のようにすっきりと忘れ去っているのだ。
「便利だったら、今すぐ記憶を直して欲しいところだけどね…………」
「そりゃ無茶だ。考えてることと建前が全然違うじゃないか…………」
そんなことを言って、タルトはくすくす微笑んだ。そんなタルトを見て、ガーナは不思議な顔をして首を傾げるだけだった。
記憶がなくなってから、随分とタルトに世話になった。食事と作法や、他人とのコミュニケーションのとり方、地に足を蹴って走る方法、短期間でいろいろなことを教えてもらい、それを見につくまで一緒にいてくれた。迷惑をかけているのではないかと、ガーナは不安になったが、そんなガーナを見て、タルトは困ったように肩をすくめるだけだった。
二人が一緒に暮らしてから、随分たった頃だった。突如空に現れた、宝島……成層圏を我が物顔で陣取っている浮遊島に、ガーナの頭はかつてないざわめきを感じ取っていた。動物としての、野性の勘が告げていた。あの島には、何かがある…………恐らく、自分にとって、大切な何かが。
いてもたってもいられなかった、多きそぎで支度をして、ガーナは空に向かって走り出した。自分の足が千切れるまで、雲を生み出し、雲を飛び越えて…………そのうしろには、いつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべた、タルトの姿があったのだ…………
「タルトは、どうしてついてきたの?」
「子供をほうっておく、保護者がいるかい?」
「聞いた僕が馬鹿だった…………なんでもない、忘れていいよ」
タルトはいつもほんとのことをガーナに話そうとしない、自分のことは話さなくて、人のことはどんどこ聞いてくるのだ。これではいくらなんでも不公平ではないかと思っていたが、家に泊まらせてもらっている分、ガーナは何も文句は言えなかった。ため息と一緒に吐いた息が、白く尾を引いた…………現在高度48000m、どんどん息が苦しくなってきているが、ガーナもタルトも平然と空に駆け上がる。普通生き物がすむところではない高度まで上がると、息苦しくなるか、嘔吐でもしてしまうものだが、ガーナの力のおかげなのか、二人とも何の苦もなく上り続ける……
「もしかしたら…………」
「?」
「宝物よりも、素敵なものが見つかるかもしれないからね…………」
吐いた息と一緒に紡がれたタルトの独り言は、聞こえるか聞こえないかの境界をさまよって、ガーナの耳に届く前に風の音に掻き消えた。
「なんていったの?もしかしたら…………何?」
気にしないで、独り言、などといって、タルトはガーナの横にひょいっと追いついた。ガーナが暗雲を生み出しながら進んでいるために、彼を追い抜くことができなかった。追い抜こうものなら、一気に地上に真っ逆さまだろう。
「ふぅん、まぁいいけどさ…………」
すっとそっぽを向いたガーナは、再び真っ黒な雲を作り上げて、ひょいひょいと乗っていく…………タルトもそれに続いて、二人は無言のまま雲を上り続けた……
「結構いい景色だね……」
「そう?雲しか見えないのが、いい景色なの?」
ガーナの感想を、無造作にくしゃくしゃにして捨てる紙くずのように、タルトは心にもないことを言った。その一言で、ガーナは一気にしかめっ面になった。
「景色を愛でる心がないね…………」
そんなことはない。といって、タルトは困ったように肩をすくめた。
「少なくともガーナよりはあるさ……君と私の考え方の違いかもしれないけどね……私はこんな何もない殺風景な景色は、景色と認識したくないからね……ポケモンがいて、森がって、空があって、山があって、町があって、それで初めて神経が景色として認識するのさ。こんなのは景色じゃない」
そんな言葉を饒舌に話しているタルトを横目で見て、訝しげな顔をしたガーナは、一言だけ、言った。
じゃあ、今見ているこの空は、何なの?
その言葉を口にするまでもなく、先にタルトが答えを言った。
「ただの絵の具の色さ」
ひどく曖昧で、不定期で、ほんとかどうかもわからない、そんな感じの答えだった。しかし、そんな答えを聞いて、ガーナは益々顔を不快に顰めた。
「曖昧な答えだね、それじゃあ、この世界がキャンバスの世界ってことになるの?」
「まさか、ここは現実世界さ、生憎と、こんなわけ分からん景色でも、私の脳はこれを景色と断定してしまうらしいね、非常に心苦しい。まぁ、空にあんなものが浮かんでいるからね、嫌でも景色として入ってきてしまう…………」
そういって、天空を指差す。釣られるようにガーナが顔を上げる。薄暗い空にそびえる、巨大な島。大陸といっても差し支えないかもしれない…………それを見て、ガーナはまた自分の心がざわめくのを感じ取った…………
帰郷の様なざわめきを感じている。この感覚はいったいなんだろうか。地上から見上げる分には何も変わらなかったが、近づくにつれて、心が色めきたつ……
自分が知らないのに、なぜか懐かしく感じる、あの島には何かがある……ガーナはそれを無意識に感じ取り、自然と口の端を吊り上げて笑っていた。
「珍しいね、笑うなんて」
やけに大きな声が、隣で聞こえる。タルトの言葉は冗談か本気か、それは分からなかったが、肩をすくめているところをみた感じ、冗談かもしれない。
「さあ、最近面白い出来事がなかったからね……」
「今面白い出来事なら近づいてきてるよ、ほら、あれ」
高度9000mを越えたあたりからだろうか、謎の布切れが、ふわふわと漂っている、いや、ガーナとタルトに向かって、非常にゆっくりと近づいてくる……
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「……落し物か?」
「こんな天空で物を落とすなんておかしいと思わない?それに、近づいてきてる。あれは明らかに生き物さ……」
くすくすと微笑んでいるタルトを尻目に、ガーナは雲を作って、自ら謎の布切れに近づいた。
「おや、自ら近づくとは、勇気があるのか、それとも好奇心で近づいたのか、なんにせよ、そっちまで飛行する手間が省けたよ……」
ばさり、と布が風と一緒に吹き飛んで、一匹のポケモンが姿を現した。巨大な四肢を持ち、両の翼を広げて、にやりと不適に笑っている。ガーナは頭の片隅に、以前生き物図鑑をタルトに見せてもらったときのことを思い浮かべていた。ドラゴンタイプに、今目の前にいるポケモンと似たようなポケモンが存在したのを思い出して、記憶と照らし合わせて姿形を照合する……
「カイリューか……」
図鑑でなら見たことがあったが、実際に見るのは初めてだった。ガーナは不思議な顔をして、目の前のカイリューを凝視していた。
「ガーナ、おかしいと思わないのかい?」
追いついてきたタルトが、ため息混じりにそんなことを口にする、おかしいというのは、決して揶揄な表現ではなく、一つの疑問に対する、小さなささくれのようなものだった。別段ほうっておいてもいいかもしれないが、あとでほっておくと大変なことになる、そんな感じのささくれだ。
「まあ、確かにおかしいけどさ……」
タルトの言葉に、ガーナは頷く。こんなところに布切れを羽織ったカイリューが現れて、何をしようというのだろうか、少なくとも、優雅な遊覧飛行というわけではなさそうだ。
「ふぅむ、なかなかに知恵の回る子供達だ……だが愚かな、興味と好奇心と、中途半端に回る知恵で、遥か天空の墓場にまで足を踏み入れようとは……」
「墓場?宝島じゃなくて、墓場?」
カイリューの言葉に対して、疑問を口にしたのはガーナだった。墓場とはどういう意味だろう。ガーナの頭には不思議な言葉が浮かんで消える、宝島という言葉の意味、そして、カイリューの放った、墓場という意味。どちらも嘘ではなく、ほんとのような気がして、ガーナは何ともいえない表情になった。
「フム、私たちが向かおうという場所はお墓だったのですか、それは残念です」
タルトが残念そうに肩をすくめるのを確認して、カイリューはにこりと微笑んだ。
「ならば、このまま大人しく地上に帰ってくれるのかな?」
そういって下を指差し、自分の背中をちょいちょいと指差した。つまり、下に戻るというのならば送ってくれるということだろう。確かに、宝島ではないという事実が分かってしまえば、宝物を探すという目的のものは何の意味もなくなる。だが、ガーナもタルトも、宝に興味などなかった。
「と、いっていますが?どうします?ガーナ?」
「冗談じゃない。宝島だか墓場島だか知らないけど……こんな高いところまで来て、得体の知れないポケモンに帰れといわれてはいそうですかって帰るほど、僕はいい子ちゃんじゃない……それに、心はまだざわついている……」
そういって、ガーナは全身の毛を逆立たせて目の前に鎮座するカイリューに敵意をむき出しにした。タルトはそんなガーナを見てため息をついた。やれやれとも、こまったなとも違う、やっぱりな、という顔をした。そして、カイリューに顔を向けると、だそうですといわんばかりの顔をして、肩をすくめた。
「だ、そうですよ。まぁ、いきなり現れたポケモンに帰れといわれて帰るほど、確かにポケモン出来ていませんからね。私も、ガーナも、そんな胡散臭い言葉には惑わされません。それに、宝島ではないという証拠もありませんからね。貴方の言葉はあだごとにすぎません」
まぁ、宝物に興味はないけれど、と言う言葉は、言わないでおいた。言ってもいわなくても相手の反応は変わらない。要するに、ガーナとタルトを敵として認識するのだ。
「そうか、賢いし頭も回る、聞き分けのよい子だと思っていたが、私の誤算は、こんな時間に空を駆け上がる子供たちが、よい子なはずがないということだな…………」
非常に残念そうに言葉を吐き出して、ばさりと翼を上げて、威嚇を仕返す。
「宝物も探さなければいけない。君たちにはここで翼を捥がれて落ちてもらうとしよう。今あの島に上陸されると少々面倒なのでな…………」
詩的な言葉を呟いて、カイリューが口にエネルギー光線を溜め始める……翼を捥がれて落とされるのは、神話の話だった。おろかな生き物はあろうことか、蝋で固めた翼で、神様に近づいたのだ…………そして、神様に近づきすぎた愚かな生き物は、蝋で固めた翼を捥がれて、地に叩きつけられて命を落とした。
だが、ガーナもタルトも愚か者ではない。知恵があれば、戦うことも出来るし、危険だとわかれば逃げることも隠れることも出来る…………
何よりも、宝の島を前にして、すごすご引き下がるほど、お利巧さんではない。
「翼を捥がれて地に落とされるのは、お前だドラゴン!!」
「面白おかしく翼を捥いであげましょう!!」
いつの間にか翼が捥がれる話に発展して言ったが、カイリューは不適に笑うばかり、どうやら子供の力で自身の強靭な皮膚は破れないと高をくくっているのか、勝負にならないとあざ笑っているのかは不明だったが、少なくともガーナは普通の子供ではない。
「行きましょうか、ガーナ、宝島の番人レベル1ですよ」
タルトがそんなことを言って、自分の尻尾を揺ら揺らと提灯の炎のように揺れさせる。ガーナは頷いて、攻撃態勢に入っているカイリューを見て、クス、と笑う。
面白い、どの道戦わなければ先に進めないというのならば、自分は喜んで戦いに身を投じよう。レベル1だろうが100だろうがどんと来い…………
冒険は、これくらいでなくっちゃ!!

続く……
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コメントお好きにどうぞ……
- ここで挿絵のある小説は初めてみますね~。
とても新鮮な感じがします。これからもがんばってください!
――[[もっちもち]] &new{2010-07-26 (月) 00:13:01};
- 挿絵、お上手です!

早くも新種のチラーミィが使われているとは驚きです。
まだ、実際ではどんな技が使えるのかが分からないので難しいキャラですが、予想を立てるのも楽しいかもしれませんね。

3組のグループから紡がれる先が楽しみです
――[[EV]] &new{2010-07-26 (月) 01:02:51};
- 続きがwktkすぎる
―― &new{2010-07-26 (月) 17:00:47};
- と,,,とてつもない文のクオリティ,,,!
読めば読むほど続きに期待です!
―― &new{2010-07-27 (火) 00:02:35};
- 三点リーダを多用しすぎている気がします。
けど、物語は面白いです。執筆応援しています。
―― &new{2010-07-27 (火) 14:55:53};

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