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フライゴントーク8.5 異国を旅して の変更点


作[[呂蒙]] 

<注意>
 この小説には、健全な青少年にとっては好ましくない表現が含まれています。18歳未満はお読みにならないでください。また、そういった表現が苦手な方もお読みにならないでください。
 注意を無視された場合生じた不都合には作者は責任を負いかねます。
 
 あと、ナイル君に奉仕してくれる方募集中です(嘘)


 アナウンスが機内に流れると、ぼくらの乗った飛行機は高度を下げ始める。上空を覆っていた雲を抜けると、眼下には、光の海が見える。数分後、ドスンという衝撃とともに、飛行機はスピードを落とし、のろのろと、搭乗塔までぼくらを運んでいった。
 時間は午後8時40分。出国してから、8時間弱で着いたのかというと、そういうわけじゃない。日本とこの国には、8時間の時差がある。だから、えーと、16時間くらいかかったのかなぁ? 途中で乗り継ぎもあったしね。
 さすがのご主人も、顔に疲れが出ていた。そりゃそうだ。一晩中起きていたことになるんだからね。ぼくも、さっきの飛行機の中で、少し寝たけど、それでもやっぱり眠い。何故ちゃんと寝なかったかって? だって、飛行機の中ってジェットエンジンの音でうるさいし、座席も狭かったからね、とてもじゃないけど、熟睡はできないよ。
 スーツケースを引っ張り、空港の中の両替所で、ご主人は手持ちのユーロをこの国の通貨に両替する。空港の両替所はあまりレートがよくないらしいので、後は明日街中の両替所か、銀行で両替するといっていた。
 空港から町の中心部まで、バスを使う。バスの中は旅行客でそれなりに混んでいた。でも、ポケモン連れは少なかったな。やっぱりタクシーを使うのかな?
 しばらくして、バスは街の中心部にあるターミナルについた。うとうとしながらもバスから降りて、預けたスーツケースを受け取る。ご主人が
「おい、ナイル、あれ」
「うん?」
 見ると、夜風に揺られて、国旗がはためいていた。緑と白と赤の三色旗。ぼくらの国のものとはデザインが全然違う。にしても、ちょっと寒いな。いつも住んでいるところと比べると、かなり北だから当然といえば当然だけれど。
「ああいうのを見ると、異国に来たって実感するよな」
「うん、でも、感動するのもいいけどさ、早くホテルに行こうよ……」
「何だよ、もうちょっとこう、感動してくれてもいいのに」
 ああ、はいはい。そうだね、うんうん。ぼくは早く横になって眠りたかった。それに、ご主人だって眠いんでしょ? さっき眠いとか言っていたしね。しばらく歩いて、地下鉄の駅の近くだというホテルに着いた。ご主人が言うには、このホテルに三泊する予定で、宿代はクレジットカードで支払ってしまったという。う~ん、なんというか科学、いやテクノロジーの力ってすごいね。
 このホテル、昔のお金持ちの邸宅を改装したものらしい。部屋の鍵を受け取ると、ホテルの3階にある部屋にぼくらは入った。ダブルベッドがでんと置いてあった。その上には、バスタオルと体を洗うためのタオルのセットが二組置かれていた。その他は暖房と机と椅子がおいてあるだけの質素な部屋だった。トイレと洗面台はあったが、シャワーは共同だという。
「まあ、安いところなら、こんなもんだろ。……」
 ご主人は、そのあと、何やらぼそぼそっとつぶやいていたが、後にご主人の懸念は当たってしまうことになる。それにしても、長旅だったなぁ……。

 バタバタしてしまったけど、飛行機に乗り遅れることだけは避けられた。飛行機が離陸すると、後ははっきり言って暇。乗り継ぎのために立ち寄る空港まで約10時間。機内食や飲み物が出るというささやかな楽しみがないわけではないけれど、基本的に暇。暇を持て余すぼくの横で、ご主人はガイドブックをめくり、情報の収集に余念がなかった。だから、ご主人は暇ではないと思う。だって、やることがあるんだから。
 飛行機が水平飛行になると、1度目の機内食が用意される。遅めの昼食というわけ。離陸は午後1時で、それからもう1時間以上経っているからね。肉か魚かを聞かれ、ご主人は魚を頼んでいたけれど「途中で無くなった」という理由で、肉料理に勝手に変更されていた。「だったら、聞くなよ」とご主人はブツブツ文句を言っていた。どうやら、今回の旅はあまり幸先がよくないみたいだ。
 食事を食べてしまうと、この後は本当に暇。食事の後に、ソフトドリンクが出されるんだけれど、それだって、すぐに飲み終わってしまう。長距離の国際線だから、この後もう1回機内食が出るらしいんだけど、まだ何時間も先だしね……。
 飛行機は海を越えて、世界一広い国の上空を飛んでいる。
「そういえば、ナイル」
「え?」
「この国の最高指導者って、髪が薄いやつと、ふさふさなやつの繰り返しなんだぜ?」
「本当に?」
 ご主人がそんなことを言う。そんなことがあるのかなぁ……って本当だ! ご主人が、この国のガイドブックで使えそうなところをコピーして持ってきていたのだけれど、そのコピーの1枚がこの国の歴史のコーナーで、歴代の指導者の写真があって、本当に薄いのとふさふさの繰り返しだ。偶然かもしれないけど、元スパイが大統領になっちゃう国はどこか違う。もっとも、ぼくらは今回の旅では、この国には、飛行機の乗り継ぎで立ち寄るだけだから、空港の外には出ない。
「それにしても、エコノミークラスって狭いね」
「安いチケット買ったやつに優雅な旅はさせないってことだろ?」
 今日はたまたますいているからいいけれど、ぼくなんか、翼があるから、隣の客に迷惑かけるよ……。本当に混んでいそうなときは、ぼくは留守番だね。こればっかりは仕方ないもん。
「なんか、退屈しのぎのゲームとか、本とかないの?」
「本はガイドブックがあるぞ。ゲームはない。壊したり、盗まれたりすると困るから」
「やっぱり……」
 確かにご主人の言う通り。せっかくの旅行なのに、ゲームに興じるというのは、どこかバカげている。
「そういえば、家にマグマラシのエロ本があったな。あれ持ってくればよかったかな? お前にとっちゃ、いろんな意味で良いアイテムになっただろうし」
「え!? いや、あれ買ってきたのご主人じゃん」
「ふ~ん、お前が夜な夜なあの本を読んでいたの、オレは知っているんだぞ?」
 うっ、ばれてたのね……。そういう年頃なんだもん、しょうがないじゃない。まあ、持ってきたら持ってきたで、税関で見つかったら、最悪の場合、没収される恐れもあるからなぁ……。そんなことされたら、恥ずかしいし、それ以上にダメージが大きい。
 そんなこんなで、飛行機は無事に空港に到着した。この空港で、ぼくらは別の飛行機に乗り継がないといけない。つまり、まだまだ旅は続くというわけ。
 乗り継ぎの乗客は、バスにのせられて、空港内を移動し、ターミナルビルに誘導された。普通だったら、乗り継ぎの時間まで待っていればいいんだけど、この国はやっぱり一筋縄ではいかないというか、普通じゃなかった。乗り継ぎのはずなのに、なぜか身体検査。荷物を調べられ、靴までエックス線検査にかけられる。あーあ、大変だね、まったく。その後で金属探知機のゲートを通る。薄暗いターミナルビルを歩いて、搭乗ゲートの前の椅子に座って、搭乗開始の時刻を待つ。しかし、本当に暇だなぁ……。空港だから、当然旅行客と思われる人が多いんだけど、中には寝袋に入って、床に転がっている人もいる。ご主人が言うには、飛行機によっては、乗り継ぎの時間が12時間くらいになる場合もあるから、そういう人たちなんじゃないのかとのこと。大きいリュックサックのようなものが寝袋の側に置いてあった。これが「バックパッカー」とかいう人たちなんだろうか?
「ナイル、ちょっと荷物を見てろ」
「え? あ、うん」
 ご主人は、やおら立ち上がると、どこかへ行ってしまった。といっても、2、3分で戻ってきたけどね。手にはガラスの瓶に入ったフルーツジュース。2本あるから、ああ、買ってきてくれたんだ。ありがとう、ご主人。
「腹減っただろ? これを飲めばちょっとは違うだろ?」
「あ~、ありがとう」
「ルーブル持ってきておいてよかったわ。備えあれば憂いなし、だな」
 冷たく、甘いジュースが喉を通る。疲れが全部消えたかというと、そういうわけでもないけれど、でも少しは楽になった。疲れている体には甘いものに限るね。
 搭乗開始直前に、搭乗ゲートが変わったという多少のバタバタはあったけど、それでも、ぼくらは乗り継ぎの飛行機に無事に乗ることができた。
「ねえ、ご主人」
「ん?」
「なんか、さっきと比べると、飛行機小さいね。内装もショボい気がするし」
「そりゃあ、さっきのと比べたら、飛ぶ距離も短いからな、しょうがないだろ?」
 とはいっても、やっぱりそれなりの距離を飛ぶ国際線。ちゃんと機内食は出るらしい。いや、やっぱりお腹すいているからさ……。食事のことが気になるのは仕方ないじゃない。
 これから、ぼくらが向かうのは今夜の宿がある都市。かつて、ヨーロッパにあった「二重帝国」の首都の一つ。二重帝国がどういう国だったかは小難しい話になるから、割愛するけど、その場所は、かつての列強の首都に恥じない美しいところだという。ご主人はそういう方面はかなり詳しいんだけど、あれこれ説明すると、見たときに感動が半減するから、とかいってあまり詳しくは説明してくれなかった。かつての帝国の片割れは、今は、農業国で、あまり知られてはいないけど、美食の国だという。あの三大珍味の一つ、フォアグラもこの国の特産品の一つらしい。
 大分年季の入ったレザーシートに座って、離陸の時を待つ。さっきは、日本語のアナウンスもあったけど、今度は英語と、後は現地の言葉だけ。まあ、外国の都市と都市を結ぶ路線だから、自然とそうなるよね。ぼくはともかく、遠くの国からはるばるやってきたご主人は、周りの乗客と全然違う。悪く言えば、浮いている。多分、同じ国の人は乗っていないんだろうな。
 今度の飛行機は、3時間かからないくらい。ポケモンだったら、飛行機よりも早く飛べるやつもいる……らしいけど、実際、余所の国に勝手に入ったら、最悪撃ち落とされると思うんだ。まぁ、やったことないから分かんないけど、ぼくらが飛行機を乗り継いだ国の指導者なんか、見るからに容赦なさそうで、おまけにマッチョ。ラリアットされたら、一撃でやられそうな気がするから。
 そんなこんなで、飛行機は無事にかつての二重帝国の首都の片割れに到着した。もっとも、今は共和国だから、皇帝だとか王様はいない。
 ご主人は、ぼくらの国と違うデザインの国旗や、入国審査、両替所で手にしたこの国で使われている通貨を手にして、外国に来たという実感を噛みしめているようではあったけど、やっぱり眠いらしく、空港から宿までの道中では、外国に来たことに感動しているかと思えば、眠いと言いだしたり、なんだか忙しかった。
 ぼくらは、無事に宿「ホテル・リラ」にたどり着くと、その日は疲れていたこともあり、さっさと眠ってしまった。

 翌朝、ぼくが目覚めると、ご主人はもう起きていた。寝るときに閉めたカーテンは開けられていて、外からはやさしい朝の日差しが差し込んでくる。日本よりもかなり北にあることもあってか、朝は涼しいように感じた。
 外には、見たことのない風景。ああ、これがヨーロッパなのか。ご主人曰く、かつての大国の威光を今に伝える都市。それがぼくらが今いるところ、ということだった。
 アスファルト舗装ではなく、石畳の道に街路樹、ベージュや朱色の屋根を持つ家。ぼくらがよく目にするのっぽで無機質な感じの高層ビルは一つも見当たらなかった。地震が全くないこの国で背の高いビルが造られなくて、地震の多いぼくらの国で背の高いビルがあちこちにあるというのは、何かおかしな気もする。道を歩く人たちも髪は金色だった。もちろん、染めているわけではなくて、ご主人とは人種が違うということ。人間でこうなのだから、ポケモンもきっとどこか違う、と思う。まぁ、実際にじろじろ観察するわけにもいかないから、確かめようがないけどね。
「じゃあ、ナイル。お待ちかねの時間だ」
「え?」
「飯だろ、飯。朝飯はついてるからな、ここ」
 朝食「は」だから、昼と晩は自分たちで何とかしないといけないというわけ。ご主人は昨日の夜にもらった朝食券を2枚手に、1階にある食堂に降りていった。ぼくはその後についていく。
 かつての二重帝国の朝食はとびきり豪華……なわけではなかった。朝食は食べ放題だったけれど、内容はパン、シリアル、野菜やフルーツにヨーグルト、後はジュースだとかミルクだとか、コーヒーといった飲み物だった。それでも、食べ放題なのはありがたかった。お腹すくからね、そりゃあ。どうせご主人のことだから、あちこち街歩きをするのは目に見えているし。
 でも、こうしてのんびりとコーヒーを飲みながら、朝食をとるのってはある意味、贅沢な事かもしれなかった。だって、普段はもっと慌ただしいもん。
「飯食ったら、手持ちのユーロを両替して、それから街歩きだな」
 ああ、やっぱりね。でも、知らないところに来たら、街歩きって楽しみの一つでもあるよね。ご主人は外国に出かけたとき、絶対にタクシーを使わない。ボラれて嫌な気分になりたくないかららしい。だから、バスや地下鉄を使うことになる。
 ホテルを出て、街中の両替所で手持ちのユーロの一部を両替する。100ユーロ紙幣が約30000フォリントになって返ってくる。
「おお、お金持ちになった気分だ」
 ご主人がそんなことを言っている。0の数が多いからそんなことを思うけれど、実際は12000円くらい。ぼくらの国とは当然お札のデザインも色も違う。改めて全然知らない国に来たんだな、と思う。まあ、ご主人についていけば問題はないよね?
「で、今日はどうするわけ?」
「どうって、観光に決まってるだろ?」
 いやいや、そんなことは分かってるって。どこかへ行くかって聞いているのさ。
「まぁ、王宮とか、聖マーチャーシュ教会とか見所は多いんだけどな、まあ、まずは……」
 ご主人は地下鉄の駅に歩いていった。ここで、今日一日使える乗り放題の切符を買う。1枚1650フォリントだから、えーと、大体700円弱ってところかな? 元が取れるかというよりも、いちいち切符を買わないといけないのが面倒だからという。まあ、確かにね。で、とりあえず、地下鉄に乗る。駅と駅の間が開いていないこともあって、2、3分もすれば次の駅についてしまう。
 駅に入り、異国を楽しむご主人。どういうわけか、この国の地下鉄は、地下深くに作られている。そして、エスカレーターは長いうえに急で、しかもハイスピード。これにはしゃぐご主人。全く、いい歳して。でも、結論から言うと、飽きてしまったのか、それとも疲れてきたのか、はしゃいでいたのは最初の1、2回だけだった。
「それにしても、随分深いところに通されているんだね」
「なんか、空襲や核攻撃があっても、避難できるようになっているらしいぞ、本当かどうかは知らんけどな」
 本当かな、それ。地下深いところにあるホームにたどり着くと、すぐに赤い車体の地下鉄が滑り込んできた。次の次の駅で降りる。ここはケレティ駅というところらしい。
 地上に出てみると、重厚なつくりの駅舎が存在感を放っていた。この駅がこの国のターミナル、というわけ。他の国からやってくる国際列車のほとんどはこの駅に到着する。駅舎は美しかったけど、対照的に駅の周りは雑然としていた。多くの人が出入りするから当然といえば当然なんだろうけど、身なりのいいビジネスマンに小ざっぱりした格好の旅行者、大きなバックパックを背負ったバックパッカーから客引き、乞食まで階層、年齢に関係なくいろんな人がいる。
「しかし……」
「ん?」
「野生のポケモンとかはいないんだな……」
「野生は警戒心が強いらしいからね。人間が多いところにはいないでしょ?」
「ふーん、人馴れとかはしないのか?」
「そりゃあ、するのもいるだろうけどさぁ、基本的には警戒しているらしいから、こういうところにはいないでしょ?」
「なるほどねぇ」
 納得したのか、それともあんまり興味がないのか、ご主人はそれ以上のことは言わなかった。ところで、なんでここに来たのかというと、次の目的地へ、ここから出る夜行列車に乗るから、その下見と説明も兼ねて、ということだったらしい。日本とは違って、改札というものがないので、駅舎の中には切符を持っていなくても、入ることができる。じゃあ、ただ乗りできるかというと、もちろんそんなことできるわけもなく、列車内で目的地までの切符を持っているかの検札がある。この時に持っていないと罰金をとられるというわけ。外国人だからといって、容赦はしない。まあそれが決まりだからね。
 鬱陶しい客引きをシカトしながら、ぼくたちは、地下鉄でホテルの最寄り駅に戻った。
「ふん、タクシーなんか必要なものかよ。オレにはここにタクシーがあるからな」
「えー、まさか背中に乗せろとか言う気じゃないよね?」
「できないのか? お前の翼はただの飾りか?」
「……」
「エビフライで穀潰しとか、救いようがないやつだな、まったく」
 そこまで言う? まあ、いいけどさ。地下鉄の車内でぼくらはこんな会話をしていた。ホテルの最寄り駅に戻ると、早速、街歩きを始めた。……にしても、石畳の道って、何だか歩きづらいなぁ……。そのことをご主人に言うと
「じゃあ、飛んでればいいだろ」
 と、一言。あのねぇ、飛ぶのも楽じゃないんだよ。歩きづらい道をしばらく歩くと、ぼくらの前に、2本の塔の上に大きなタマネギを乗せた建物が現れた。
「ねえ、ご主人。タマネギを乗せた建物があるけど、あれは何?」
「あれは、この街の名所の1つ『ドハーニ街シナゴーク』だな。ユダヤ教の寺院で、今から160年ほど前に建てられたそうだ」
 ぼくには、さっぱり分からないけど、人間の心の拠り所の一つが宗教で、宗教的な建造物が、名所になっているってのはよくあることらしい。で、観光客からいくらかの拝観料を取るわけ。清貧をモットーにする宗派もあるようだけど、それはそれ。お金がないと建造物の維持ができないのだという。
「まあ、宗教なんて、悪く言えば世の中のごたごたを生み出す元凶の一つだわな。野生のポケモンの世界みたいに生きるか死ぬか、強いもんが勝つ。そんな世界の方が世の中のシステムとしてはシンプルだな。快適に生活できるかどうかは別として、ね」
 うーん、まあ、そういうもんかな。野生の世界って言われてもピンと来ないけど。そもそも住宅街にいるポケモンってのは、人間と一緒に生活しているのがほとんどだからね。
 シナゴークつまり寺院の周りには黒ずくめの人たちがいた。某アニメの危ないことをやっている人達……ではなく、ご主人がいうには、あの格好が信徒の衣装のようなものなのだという。に、してもあんな格好じゃ、夏暑そうだよなぁ……。
 一通り、見物すると、ご主人は次の目的地に行くことにした。でもなぁ、観光もいいけどお腹すいたなぁ……。すると、そんなぼくの気持ちを察したのか、ご主人はこんなことを言ってきた。
「さて、次の場所に行こうか……と言いたいところだけど、その前に腹ごしらえしようか?」
 やったね、お腹すいていたし、食事も旅の楽しみの一つだよね。さっすが、ご主人。ご主人は、案をぼくに提示してきた。その案は3つ。
「その1、地元の人で賑わっている小ぎれいな食堂。その2、ファストフード店。で、もう1つは……」
「もう1つは?」
「いたって単純。飯代が勿体ないから昼飯を抜く」
 まぁ、最後の一つは論外だね。地元の人で賑わっているとは、どういうことか? ご主人が言うにはそれなりの値段でそれなりの物が食べられる店である確率が高いということだった。でも、ぼくらは夕飯も何とかしなくちゃいけないわけだ。昼は比較的軽く済ませて、夜はしっかり食べるという食習慣のご主人のことだから、夕飯をどこかの食堂なりレストランで食べるに違いない。と、すると、ファーストフードにした方がいいかな?
「それじゃ、昼飯を食べに行きますか。オレはあんまりお腹すいていないけど」
 朝ご飯たらふく食べていたもんね。ぼくらは、地下鉄2号線に乗り、一駅目のフェレンツ駅で3号線に乗り換える。このフェレンツ駅は1号線、2号線、3号線の地下鉄3路線が交わる便利な駅。きっと、また使うことがあるかもしれない。3号線に乗り換えて2駅目のニュガティ駅というところで降りる。
「さぁ、降りるぞ」
 ご主人の後について降りる。この地下鉄の駅は、地下25メートルというとんでもなく深いところにある。だから、地上に出るまで結構歩くのだけど、そこでお世話になるのが、この国の名物「高速エスカレーター」というわけ。結構なスピードでぼくらを運んでくれるので、迂闊にエスカレーターで歩いたりすると、危ないかもしれない。
 地上に出ると、道路を挟んで、またも重厚なつくりの駅舎がぼくらの前に現れた。駅舎の両脇に、2つの尖塔とドーム型の屋根を持つ教会のような建物が建っている。駅の内と外は、特に遮るものがなく、上を見上げると、線路と、プラットホーム全体を覆う大きな天井。天井の何割かはガラスになっていて、そこから日差しが差し込んでいる。
「この駅は、かの有名な建築家・エッフェルが設計したものだ」
 ご主人がそんなことを言っている。で、その建築家が造った駅の敷地内にこれまた、世界的に有名なファストフード店があり、ぼくらはそこで昼食をとることにしていた。駅舎の外を少し歩くと、重厚なつくりの駅舎に似合わない大きな看板があった。目立ったからすぐに分かった。ぼくらの国でもおなじみのエンブレム。重厚なつくりで歴史の重みを感じさせる駅舎との調和……は全然取れていなかったけど、世界的ファストフード店にはそんなものはどうでもいいらしい。国や宗派に関係なく、儲けが出そうなところに店を構えて、布教活動に励む。それが、このファストフード店のマスコットの流儀なのかもしれない。
 店内は、パッと見、豪華だったけれど、よく見るとそんなでもなかった。美食の国らしく、ハンバーガーの他に、コーヒーやデザートの種類も充実していた。メニューを見てご主人は
「じゃあ、イチゴタルトとレモンパイと、コーヒーにしよう」
 と、言いだす。それじゃあ、昼ご飯じゃなくておやつだよね……。まあ、さっき「あんまりお腹すいていない」って言っていたしね。どうしようかな……。すると、メニューの中に「期間限定・フォアグラバーガー」とあるのを見つけた。そういえば、この国の特産品の一つだったね、フォアグラ。世界三大珍味を使ったこの一品、どんな味なのか気になったけど、ぼくが何を思っているのか察したのか、ご主人がこっちを睨んでいる。その目が「あんまり高いものを頼むんじゃない」と言っていたから、しょうがないのでチーズバーガーに、デザートを一品、コーヒーを頼んだ。日本にでも食べられるものを食べてもしょうがない気もするけど、まあいいや。夕飯に期待だね。
 料理を注文して、渡されたレシートを見ると、ぼくとご主人で2350フォリント。900円強ってところかな? 案外デザートが安かった。ご主人はコーヒーを飲んで
「水っぽくなくていいな。普通のコーヒーにしちゃ、結構味が濃いぞ」
 と言って、満足していた。美食の国では、安いコーヒーでも手を抜かないのかもしれない。食事とトイレを済ませ、ぼくらは再び街歩きを楽しむことにした。
「しかし、全部名所を見るのは不可能だな。2、3か所に絞らないと……」
 ご主人が言う。急げば、もっといろんなところを回れるかもしれない。でも、そうすると、1か所あたりにかけられる時間が少なくなってしまう。そうすると、名所がどういうところだったか、記憶に残らないし、無駄に疲れる。いいことがないわけだ。あちこち歩き回るから疲れるのは当然だけど、疲れが明日に残らないようにすることも必要だった。
 ご主人は、地図とにらめっこしていた。ぼくらがいるところから、一番近い名所は、聖イシュトバーン大聖堂というところらしいんだけど、ここは時間がないので断念し、王宮と聖マーチャーシュ教会、国会議事堂を回ることにした。
 例によって、地下鉄で移動をする。地下鉄のホームは閑散としていた。電車が出てしまった直後なのかもしれない。この国の地下鉄には、日本でおなじみの時刻表というものがない。代わりに天井からぶら下がっている電光掲示板に次の地下鉄が来るまで何分かかるかが表示されている。カウントダウンがされていき、電光掲示板の数字が「0:00」になったら、地下鉄がホームに滑り込み、ドアが開いて乗れるようになるというわけ。もっとも遅れることもあって表示が「0:00」になっても、地下鉄が来ないこともある。
 ぼくらは、フェレンツ駅で地下鉄を降りた。ここで、今度は市内を走るバスに乗り換える。ご主人はスリが出没するという理由で、出来れば使いたくはなかったらしいんだけど、ぼくを見て「まあ、そんなのが出たら、お前がぶちのめしてくれるだろ?」と言いだす。まあ、人間の1人や2人、武装してなければ、ね。駅前の広場で、16番バスに乗り換える。このバスは、この広場から、市内の名所を通って、王宮と聖マーチャーシュ教会の側を通ってくれるぼくらにとってありがたい路線だ。
 バスは駅前の広場から数分おきに出ているみたいだ。これだけ頻繁に走っているってことは需要はあるんだろうね。目当ての16番のバスはすぐにやってきた。この市内には、網の目のようにバスの路線が張り巡らされている。便利なようにも思えるけど、余所者のぼくらからすると、路線網が複雑すぎて分かりづらい。まあ、とにかくバスには乗れたから良しとしよう。ここで、午前中に買った一日乗り放題の乗車券が役に立った。この切符、地下鉄にしか使えないと思ったら、バスでも有効みたいだ。旅行客にとってはありがたいね。
 ぼくらを乗せたバスは、客を乗せるとすぐに動きだした。
「翼が邪魔なんだけど……」
 座席に座れてよかったなと思ったのもつかの間。横に座っているご主人が文句を言う。しょうがないじゃない。我慢してよ。ポケモン連れの客もちらほらいたな。バスに入りきらない特大サイズのやつはいなかったけどね。ぼくは特大サイズではないからね?
 市内中心部を走り、市内を流れる大きな河を越える。この河を越えるときに通った橋が、通称「くさり橋」で、正式名称は「セーチェーニ橋」というらしい。ご主人が言うには、このつり橋、夜はライトアップされて、それが目当ての観光客も多いらしい。
「この橋、夜景がきれいらしいね。見に来る?」
「そうだなぁ、うーん、どうしようか? 夜は飯食ったら、部屋で酒を飲んで寝ちまいたい気もするんだけどな。どうしようかな?」
 ご主人はすぐには決められないようだった。この橋を見下ろす高い丘の上に立っているのが、後で見に行く予定の王宮だ。それにしても、結構高いね、この丘。
 住宅街を抜けて、バスは聖マーチャーシュ教会に着いた。教会の周りには、色んな人がいる。観光客と思しき人、近所に住んでいると思しき人、客引きに、あとは物乞い。
「ねぇねぇ、ご主人」
「ん?」
「あれ、何やってんの?」
 教会前の広場にイコン(聖像画)を持って、十字架をきっている人がいる。そして、足元には、何故かお椀が置いてある。まぁ、お椀が置いてあるって時点で、お察しだけれど……。
「ありゃあ、神に祈りをささげて、ついでに喜捨を求めてるんだろ」
「えーっと、つまり『同情するなら金をくれ』?」
「お前、随分古いこと知ってるんだな……。まぁ、何だろ。時々駅前にお椀を持ってる坊さんが立ってるだろ? あれと似たようなものなのかなぁ?」
 ご主人、随分自信なさげ。ただ、その後で、宗教なんていうのは、宗派ごとに教えが違うから、こうだと断定するのは危険なことらしい。本質を見誤るから、とか言っていたけど、結局のところはあまり興味がないから分からないらしい。
 聖マーチャーシュ教会の中でひときわ目立つ建造物が教会の南側に立つ、白い尖塔。15世紀に大幅に増改築されて、今ある姿になったらしい(今あるって言っても、そのあとで、修復されたりしているけどね)
 ご主人が言うには
「マーチャーシュってのは、15世紀に君臨したこの国の王様だな。名君だったとかで、1000フォリント紙幣の肖像画にもなっているぞ。その一方で、隣国の君主ウラド3世は、冷酷だとか残虐性が強調されて現代に伝わっているけど、それはこの人が、デマを流したからだな」
 マーチャーシュは、国内外に敵を抱えながら、何とか国を治めたけれど、その死後、隣国トルコの侵攻を抑えられず、この国の大部分は、トルコに占領されてしまい、その占領は140年以上続いたという。この教会もそうした歴史に翻弄されながらも、ぼくたちに、壮大な姿を見せてくれている。
 この教会の特徴は、さっき言った南側の白い尖塔と、精巧なモザイク画にステンドグラス。その芸術を見上げて、言葉を失う。本当に言葉が出てこない。素晴らしいとか美しいなんていう並な言葉で表現するのは失礼な気がする。といって写真に撮る人もいない。まぁ、そもそも写真を撮るのは、マナー違反というのもあるけど、こういうのは写真に撮るものではなく、実際に目で見て記憶に留めておく、というのが正しい鑑賞の仕方という気もする。もし忘れてしまったら、また見に来ればいいのだから。
 ここの入場料は、1人1700フォリント。これで、この教会と敷地内にある砦を見ることができる。ぼくとご主人で3400フォリントだけど、ご主人が言うには「安い気がする」とのこと。手持ちの資金はケレティ駅の両替所で、追加で両替をしたからまだまだ大丈夫。
 教会の内部は、何本もの太い柱で支えられた空間が広がっている。柱には色とりどりの模様が施されていた。
「なんか柱だけ、オリエントな感じがするな」
「そうだね」
「この教会、モスクになってた時期もあるから、その時のものかもしれないな」
 教会の中は、まだ一部が修復中だった。緻密な作業を要求されるから、短期間で全部修復するのは難しいのかもしれない。
「おい、ナイル。あれ」
「え?」
 ご主人が、指さす先にはフレスコ画があった。これは、19世紀から20世紀にかけて君臨した隣国の皇帝、フランツ=ヨーゼフの戴冠式を描いたものだという。
「でもさ、何で、隣の国の皇帝の戴冠式の絵があるわけ?」
「この国は1867年に、隣の帝国と同じ君主を戴く国として連合を組んだわけだ。フランツ=ヨーゼフが隣の皇帝兼この国の王様になったというわけだな。この連合が後世『二重帝国』と呼ばれる体制になったわけだな」
 時々、ご主人は説明してくれたけど、ステンドグラスやフレスコ画を見上げている時は静かだった。静かというよりも言葉が出てこないと言った方が正しいのかもしれない。歴史の重みに圧倒されている、そんな感じだった。
 周りをきょろきょろと見渡すと、人間に連れてこられているポケモンたちは、みんなお行儀がいい。ちょっとどきっとする外見のやつもいるけど。信仰心あふれる敬虔なクリスチャンなのかな? え? でも唯一神イエス=キリストの他に神はなしだとすると「感情のカミサマ」とかどうなっちゃうのかな? うーん……まぁ、いいや。
 歴史がギュッとつまった宝箱のような教会を後にし、ぼくらは、王宮に向かった。
 再び、バスに乗って、今度は王宮を目指す。王宮は市内の高い丘の上にある。でも、こんなに高い丘の上にあるって、何だか不便な気もするな。バスは無事に目的地に着いた。
「随分、高い丘の上にあるんだね……」
「そりゃあ、王宮ってのは、ただの家じゃなくて、軍事要塞だからな。高い丘の上にあった方が守りやすいんだろ。でなければ、かつてのコンスタンティノープルみたいに、城壁で何重にも囲むかしないとな。戦争が多かったから、利便性よりも守りやすさを重視したってところだろ」
 この国は、かつてはかなり強い国だったんだけど、いろんな国と接しているから、自分たちが強い時はいいけど、弱くなってくると周りからボコボコにされてしまう。陸上に国境がある国の辛いところといえるかもしれない。
 この王宮は、今は博物館になっていて、宮殿といわれて想像するような豪華さは何一つなかった。
「この王宮は、何度も戦火で破壊されて、最終的に今の形になったのは1950年代のことらしいな。きらびやかな感じがしないのもそのせいかもな」
 ご主人が言う。ふーん、なるほどねぇ……。しかし、ここでご主人が「ちょっと疲れた」とか言いだす。まあ、あっちこっち歩いたからねぇ。疲れたときに異国でも楽しめるものは、やっぱり食事。ここは美食の国。食を楽しまなきゃ損するよね。
 王宮の見物を終えて、一度宿に戻ることにした。王宮は高い丘の上にあって、麓に降りるには、3つの手段があった。一つ目は麓までのケーブルカーを使うこと、もう1つはバスを使うこと。で、もう1つは麓まで歩くこと。でも、ご主人はここでこんなことを言いだした。
「ようやく、お前が役に立つ時が来たな、ナイル」
「は?」
「ようやく」って何? まず、その物言いが気に食わない。で? ぼくにどうしろと?
「オレを乗っけて、下を流れている大河を越えて、対岸の地区まで行くんだよ」
「はぁ、まあ、いいか……」
 ぼくは渋々、ご主人を背負って、丘から対岸の地区まで飛ぶことにした。断ると「お前の翼はただの飾りか」とか言われるし、乗せたら乗せたで「揺れる」とか「もうちょっと静かに飛べよ」といろいろと注文をつけてくる。うるさいなぁ、もう。途中の河で落としてきちゃおうか?
 ばっさばっさと羽ばたいて、対岸に無事到着した。その間に見えた眼下の風景や、対岸に建つ国会議事堂はしっかり両目に焼き付けた。そういえば、ご主人、カメラは持ってきたけど、あんまり使ってないね。全く使っていなわけじゃないけど、撮った写真は今までで10枚ちょっと、多分20枚も撮っていないと思う。来る途中の空港と、観光名所で数枚、ぱちぱちと写真を撮っただけ。写真を撮りまくって、いかにも観光客ですよ的な感じに見られるのが嫌だと、ご主人は言う。スリとか鬱陶しい客引きを誘引してしまうっていうのが理由だった。わざわざ写真に撮らなくても、結構記憶に残るし、旅の支出をまとめるときに、一緒に旅の記録をつけるから、それで十分なのだという。
 一度、宿に戻ってから、財布と、後で使うエコバッグをもって宿の近くにある食堂に行くことにした。え? 何故エコバッグがいるかって? 食事の後で買い物する予定だからだよ。外国のお店は、買い物した時に袋をくれないからね。まあ、袋があるところもあるけど、そういうところはほとんどが有料。
 歩いて数分、一軒の食堂に入った。ここはカフェテリアになっていて、好きな料理をトレーにとって、その分だけ、料金を払えばいいようになっている。
「この国に来たら、この料理を食べなきゃな」
 ご主人が選んだのは、グヤーシュつまり日本風に言うとシチューだね。この国の代表的な料理で、ご主人は付け合わせにパンとそれに塗るためのバターを頼んでいた。食事の後、宿の部屋でお酒を飲むとかで、夕飯は少し少なめにしているようだった。
「ご主人」
「ん?」
「今のところ、何も起きてなくてよかったね」
「まぁ、そうだな」
 ご主人は、ちぎったパンにバターを塗りながら、答えていた。
「まぁ、なんだ。よくハプニングが起きなきゃ旅が面白くならないとか言うやつがいるけどさ、実際は何も起きない方がいいんだよ。絶対その方がいい気に決まっている」
 多少、飛行機や列車が遅れるってのはまだいいとしても、スリとか置き引きに遭ったら、もう観光どころじゃないよね。警察に被害届を出さなきゃいけないって言うのもあるけど、気持ちがささくれ立って、旅行を楽しもうなんて言う気にならないからね。ご主人は、その点かなり用心していた。不用意にポケットに何かを入れることはしなかった。入れるにしてもズボンのポケットではなくて、上着の内ポケットだった。ご主人が言うには、ズボンの尻ポケットに長財布を突っ込んでいるなんていうのは、持っていってくださいって言っているのと同義だということだった。用心しすぎると楽しめないかもしれないけど、招かれざる客にせっかくの旅行をぶち壊されるよりはずっといい。
 食事を済ませると、地下鉄に乗る。向かうは昼間行ったケレティ駅。ケレティ駅近くのスーパーでお酒とつまみ、ミネラルウォーターを買って宿に戻った。わざわざ、お酒を買って、ホテルの部屋まで持って帰るなんてしなくても、お店で飲めばいいじゃんという意見もあるかもしれないけど、お酒が入って、ふらっとした状態で部屋まで帰るのは面倒という理由で「部屋飲み」にしたんだ。まぁ、用心しているというのもあるだろうけどね。
 さすがは一国の首都。いろいろなものが集まってきている。チーズやサラミなどの加工品は種類も豊富で、ぼくらの国で買うよりも値段が安いものが多かった。ご主人が持参したエコバッグは、それなりの重さになった。食べ物はそれほどでもないけれど、飲み物はそれなりの重さになってしまうからね。
 ポテトチップスやサラダ、サラミにチーズ、お酒を並べて、晩酌が始まる……と、思いきや、ご主人がこんなことを言いだす。
「待った、先にシャワーを浴びるか。そしたら、酒を飲んだ勢いで寝ちゃっても問題ないだろ?」
「あー、まぁ、確かに……」
 ホテルにある共同のシャワー室で、それぞれシャワーを浴びる。シャワー室にはボディソープとシャンプーが備え付けてあった。まぁ、ぼくはシャンプーは必要ないけどね。毛がないから。
 部屋に戻り、今度こそ晩酌が始まる。
「では、改めて」
 持参した栓抜きで、瓶のふたを外し、備え付けのグラスにお酒を注ぐ。
「あれ、ご主人。ワインは買ってないんだね。この国の特産なのに」
「ワイン、あんま好きじゃないんだよな……。やっぱ、酒といえば、ビールでしょ?」
 え? ぼくはお酒を飲めるのかって? 飲めるよ。ぼくだってもう人間で言うところの「大人」なんだから。うん、やっぱ、お酒には味の濃いおつまみは欠かせないよね。
 チーズを食べ、クルトンの乗ったサラダを食べ、サラミを食べ、お酒を口に運ぶ。
 グラスをテーブルに置き、ご主人が一言。
「疲れているせいか……酔いの周りが早い気がするな……」
 まあ、それでも、結構な勢いで飲んでるよね。なぜお酒を飲むかというと、酔いに任せて寝てしまうため。だって、夜更かしして、明日の観光に影響が出るのはよくないでしょう?

 こうして、ぼくらはいつしか寝てしまっていた。……寝た時の記憶がないんだよね。朝、目が覚めると、ご主人と向かい合わせで眠っていたんだということが分かった。うーん、それにしても、飲みすぎたかな。それとも起きたばかりだからなのか、頭がぼーっとするぞ……。
 ふと、下に目をやると……。うーん、何というか、この状態で外に出るのはまずい、非常にまずい。何とかしないと……。とりあえず、ご主人を起こそう。ポケモンが困った時、何とかするのが、主人の務めだよね?
「ご主人、朝だよ~」
「ん、んん~、ふあぁぁ……。なんだよ、もぅ……。まだ、目覚ましの時間じゃないぞ……」
 目覚ましの時間よりも早く起こされたのが不満なご主人。でも、不満だろうと、ご主人にはご主人の務めってもんがある。それは果たしてもらわなくちゃならない。
「なんかあったのかよ……って、それ、もしかして……」
「そう、朝立ち」
「……収まるまで待っていればいいだろ?」
「ご主人、冷たいね。これを晒したまま、待ってろって言うの?」
「晒すって、この部屋には、おれとお前しかいないんだから、気にすることもないだろ?」
「そう、だから、だよ」
「……抜けって言うんじゃないだろうな?」
「あったりー、話が早いね」
「……」
「ほらほら、早くしてよ。ポケモンに奉仕するのは、主人だったら、誰でもすることだよ?」
「そ、そうかもしれないけどって、おい、離せよ!」
 とりあえず、ご主人の髪の毛を引っ掴んで逃げられないようにする。
「お、お前……飼われているくせに、主人にこんな恥ずかしいことさせるとか……」
「んふふ、ドラゴンの掟に主従の別はないんだよ?」
「ど、独眼竜みたいなことを、むうっ!?」
 どことなく論理がおかしい気もするけど、気にしない。ほらほら、早く抜いてよ。とりあえず、自分のモノをしゃぶらせる。口の奥まで、モノを突っ込むのは無理っぽいから、奉仕させるだけにしておこうかな。
 ご主人は口を塞がれていて、言葉を発せない状況だったけど、その目は「覚えてろよ」と言っているようだった。まあ、ずっと口が塞がれているのはかわいそうだから、一回外してあげるかな。
 ご主人は息が荒かった。ぜいぜい言っているけど、まぁこのくらいだったら平気だよね。
「さあ、どうする? ご主人」
 もっとも「どうする」と言っても、逃げるなんて無理だからね。ぼくを倒そうなんて言うのも不可能でしょ? いくらぼくでも、生身の人間ごときにやられるわけがない。そこまで、弱くないからね。
 結局、選択肢あってないようなものだった。ご主人は、渋々ではあったけど、口で奉仕をしてくれた。懸命だね、ご主人。
 ぼくのモノに奉仕をしてくれるご主人。裏筋を舌を這わせ、時折、トウモロコシでも食べるかのように、モノに甘噛みをする。
「うあっ、あっ……。ご、ご主人……」
 もう、ここまで来ると、後には引けない。甘噛みの刺激って、こんなにすごいものだったんだ。ご主人は、モノの先端を口の中に入れて、奉仕をしてくれる。うう、先っぽ、舐められてる。じゅるじゅるという聞きなれない音。涎が糸を引いて、ベッドのシーツに滴り落ちる。うっ、もう、そろそろ、出るかも……。はっきり言って、もう、我慢したからといって、止められる状態じゃなかった。
 ぼくがモノを口から抜くと、ぼくの体は絶頂に達したようで、モノの先端から白濁を勢いよく放った。
「ぐううっ、あっ、あっ、出てる、出た……」
 モノから飛び出る精液。快感が何回かに分けてぼくに襲い掛かる。いやぁ、溜まってたんだなぁ……。まぁ、でも、サザンはもっと凄かったな……。勢いがなくなったけど、それでも、モノの先っぽから精が出続けている。モノをつたって、シーツに滴り落ち、ご主人の涎と混ざり合う。
「あー、まだ出てる……。気持ちよかったぁ……」
 と、ここで、ご主人の顔に白濁をぶっかけてしまったことに気付く。ごめんね、あんまりにも気持ちよかったから。あーあ、真っ白だね。
「おい、ナイル……」
「あはは、ごめんね、ちょっとヤりすぎちゃった」
 この後、ぼくらは、家から持参したバスタオルを手に、朝のシャワーを浴びることになったのだった。部屋から共用のシャワー室に行った際に、まず、廊下に誰もいないことを確認し、こそこそと他の部屋の客を起こさないように足音を殺していったことは言うまでもなかった。
いや、やっぱりさ、こんな姿見られたら恥ずかしいからね。
 

 おわり 



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