#include(第七回短編小説大会情報窓,notitle) 官能表現等はありませんが、そういった光景があります。 ---- &size(25){フォートレス・フォレスト}; 作者:[[カナヘビ]] 作者:[[カナヘビ]] 荒廃した地。 生気をまるごと吸い取られ、骨と皮だけになったような印象さえ受ける大地が、地平線の彼方まで続いていた。 荒れた地に、少々の彩りを付け足すものがあるとすれば、2つ。 1つは、都会。大地の果てに微かに見える摩天楼の林は、無機質な鋼の外壁と、ガラスのドームに覆われていた。遠目でも眩しいほどに電飾が輝き、雲に覆われた大地の数少ない光となっていた。 1つは、森林。大地の果てに微かに見える新緑の森は、色に乏しい地に映え、やせ細った地は、緑に覆われていた。遠目に見える緑は地上で異色を放ち、無に覆われた大地の数少ない目の保養となっていた。 見る限り、動くものの気配はなかった。むしろ、対称的に存在する都会と森林以外、生き物など住めそうにない。ヘドロやゴミなどがあっても良さそうなものだが、それすらもない。各所に見えるのは、土が大きくえぐれた跡や、焦げた鉄片。何かが爆発したような跡が残っていた。 ふと、空を切り裂くような音。上空を、鉄の翼を持つ物体が飛んでいた。それは、1つにとどまらず、2つ、3つ、さらに数が増えていった。戦闘機である。 無数に飛ぶ戦闘機は、規則正しい三角形の編隊を組んで飛行していた。その前方には、森林があった。 1つは、翼からガトリング砲を出す。1つは、下部からミサイルを出す。1つは、突っ込む気なのか、エンジンから火を噴き始める。明らかに、攻撃態勢をとっていた。 一方。森林の周囲には、青く透き通った幕のようなものが現れた。それはドームのように森林を覆い、優しく包み込んだ。 攻めるものと攻められるもの。明らかに戦闘機は森林を攻め、森林は守りの体勢に入っていた。 光が弾ける。轟音と共にアメアラレと弾丸が発射され、落下音とともにミサイルが発射された。まるで空襲のごとく、爆発物が投下されていく。 ところが。森林はまったく受け付けない。落とされた数多の弾丸は、幕の表面で爆発し、森林の木の葉1枚たりとも、焦げるどころか落ちさえしない。いくら爆発が起きようとも、周囲の空気が焦げ臭くなるだけだった。 編隊は、休むことなく、容赦なく爆撃を続ける。しかし、それをあざ笑うように、森林は立っている。ひのこの1発でも浴びれば燃え落ちてしまいそうなのに、いくら爆発を受けても倒れない。まるで、何も起こっていないかのように。 その最中。森林の上空に、爆発物とは違う光が発生した。それは、単に光るだけのものから、緑、紫、黒など。これらの色をした球体が、無数に発生した。それは、戦闘機が落とした弾丸やミサイルの数を大きく上回っていた。 球体は、不規則な時間間隔をもって打ち上げられた。戦闘機を狙うでもなく、ただ、放物線を描き、弾幕は落ちてくる。 1つや2つならば、充分な速度をもった戦闘機は回避することは可能である。しかし、いくら速く動いても、雨を避けることはできない。それだけ多くの量が、打ち上げられていた。 戦闘機の周囲も、小さな青い幕で覆われた。だが、降り注ぐ球体をすべて受けきらないうちに幕は消え、機体は被弾する。 なんとか持ちこたえるもの、煙をあげるもの、バランスを崩して墜落するもの。様々な様相を見せて、編隊は混乱する。その反面、森林は傷1つない。 残った戦闘機は、続けて爆撃を続ける。森は迎撃を続ける。上空では、互いの攻撃がぶつかり合い、次々と爆発が発生していた。 ◇ 「始まったね」 上空を仰ぎながら、青年ノルウィゴウ・バルスは言った。 長めの緑髪に精悍とした顔立ち。まだ成人していないらしいその風貌からは、大人びてはいるものの、若干のあどけなさが感じられた。質素ながらも清潔に保たれた衣服を着ており、背中に、鞘に入った剣を携えていた。 「あれが噂の……。あの量は、まもるじゃ受けきれないって」 青年のそばで座るブリガロンは、頭を掻きながら言った。 「だから、ぼうだんの特性を持つ君が選ばれたのさ、ランダール」 「いや、ノルウェ。受けられるとかじゃなくて、あれは怖いっての」 爆撃戦をしかめっ面で見るランダールは、気が進まないようだった。 1人と1体は、少し大きめのジープに乗って進んでいた。茶色を基調とした迷彩色のそれを、ノルウェは運転していた。ランダールは、背中のトゲのせいで席に座れず、後部座席に足を乗せ、車の後部に座っていた。 「あっと」 爆撃戦から流れてきたのか、森林側が放った光弾が落ちてくる。ランダールは両手を合わせ、腕の緑の部分を膨張させた。たちまち、トゲの生えた盾のようになり、車の上部を完全に覆ったそれは、光弾を簡単に防ぐ。破裂を確認したあと、ランダールは腕をもとに戻した。 「走ってるってのに、こんなうまいこと落ちてくるものなのか?」 「考えるまでもないよ。落ちてきたじゃないか」 運転しながら、ノルウェは穏やかに答えた。 爆音の響く中、ひたすら走る1台の車。荒れ果てた大地の上を、なんのトラブルもなく走っていく。 「しっかし、ヒトって、ホント馬鹿だよな。もう森はここしかないのに、守るどころか伐採しようなんてよ」 ランダールはやれやれといった様子で言う。 「僕もそう思う。供給が足りないのは事実だけど、ここまでする必要はないよ。20年、30年と待って、森が増えていくのを見守るべきさ」 ノルウェはもっともだと言いたげだった。 「森だって、それを分かってるんだ。だから、ああして守ってる。明らかにポケモンの仕業だよ。ヒトが差し向けた戦闘機に対しても全力で守って、あんな風に対抗するなんて。頭のいいポケモンなんだろうね」 ノルウェの話に、ランダールは答えない。森に近づくに連れて増えてきた流れ弾を、ニードルガードで防ぐことに手一杯だった。ノルウェもそれを分かってか、それ以上何も問わなかった。 そこそこの音を出しながらも、たいして排気ガスを出さず車は走る。走行音と爆音のみが辺りを支配し、静けさなどなかった。 「上に弾幕が集中してるから、こっちにほとんど降ってこないね。これなら、なんとか切り抜けられそうだ。作戦通りだね」 ノルウェは微笑み、車の速度を上げた。その反動で、上方に集中していたランダールは、少しのけぞってしまう。 「うおっ。危ねえな……おっと」 体勢を崩しつつも、ランダールは持ち直して攻撃を防ぎ続けた。 森に近づくにつれ、流れた攻撃が多くなってくる。森がノルウェ達に気付き、直接攻撃を加えてくることも多くなった。当然、ランダールは防ぐことはできず、ノルウェのハンドリングで回避していた。上空とは比べ物にならないほど少ない量だったので、この程度で充分回避できていた。その度に、ランダールは体勢を整えていた。 「……見えた」 ノルウェは前方を注視して言った。 次第に森が近づいてくる。その外周は、常に動き、回転しているように見えた。木が動いていたのだった。 否、それは木ではない。2本の足が生え、1本1本が無数の顔を持ち、それらのほぼ全てが空を仰いでいる。 「ナッシーだね。かなりの数がいるよ。彼らが、まもる役と攻撃役を交代でしてたんだね」 運転しつつ、ノルウェは振り返る。ランダールは、多くなった攻撃をひたすら防いでいて、顔に汗も滲んでいた。 ノルウェは再び前を見る。 「ランダール。上の攻撃は何とか片手で防いでくれるかな。フェイントの準備をして欲しいんだ」 「いや、きついって! 両手でも結構押されてるんだぞ!」 「無理じゃないんだね。よろしくお願いするよ」 「だああああっ! 毎度無茶振りばかりしやがって!」 癇癪を起こしながらも、ランダールは左手を下ろした。小さくなった右手の守りで、かろうじて持ちこたえながら、左手で軽く拳を作る。 「足をしっかりつけて!」 声をかけると、ノルウェはハンドルを大きくきった。土埃がたちそうな甲高い音を出しながら、後輪が弧を描く。 「荒い! 荒いって!」 ランダールはバランスをとりづらそうにしながらも、なんとか右手で上空の攻撃を防いでいる。声を荒げながらも、ノルウェの意図を理解しているのか、その目は森に向けられていた。 ノルウェは巧みにハンドルを動かしながら、車を横に動かしていく。次第に車体は、森に対して真横に近くなっていく。 「ランダール!」 叫ぶと同時に、ノルウェは思い切りブレーキを踏んだ。急ブレーキのかかった車体は、限りなく短い制動距離で止まる。その勢いで、ランダールは真横に投げ出された。 「おああああ!」 悲鳴を上げつつ、ランダールは左の拳をまっすぐ森に向けた。彼の拳が青い幕に当たると、その周囲の一部だけ、幕が消滅した。勢いを失ったランダールは、その姿勢のまま地面に落ちてしまった。 守りを破られたナッシーは驚愕を表に出し、歩行が止まってしまう。その急な停止に他のナッシーは対応できず、停止した後ろから将棋倒しが発生した。 「早く!」 声をかけるのもそこそこに、ノルウェは足早に車から降りて、守りの消えた箇所から入り込んだ。ランダールは頭を掻きつつ、ノルウェについて行く。それから半秒と時間を置かずして、車は弾幕の集中砲火を受けたのだった。 ◇ 「ふう」 ノルウェは息をつき、周囲をじっくりと見回した。見渡す限り木々が広がっており、荒野の真ん中にあるとは思えないほど、生気に満ちていた。どこか遠くからは鳥ポケモンのさえずりが聞こえ、風が吹くたびに木の葉がざわついている。 ノルウェは近くの木に、手のひらを当てる。ざらざらとした質感で、不規則な凹凸が感じられた。精神を研ぎ澄ましてみると、木の中に水が流れていることを感じ取れるような錯覚さえ覚えているようだった。 目の高さにあった葉を、そっとつまむ。木とはまた違う質感で、こちらには規則正しく筋が入っていた。 「これが植物なんだね。僕の部屋の観葉植物とは全然違うよ。なんで、あんなプラスチックで満足してたんだろうね」 ノルウェは木々をまじまじと見ながら言う。その目には、愛おしさが宿っていた。 「土が湿ってるな。すげえ柔らけえぞ。それに……、変な匂いもする……」 ランダールは、直に踏みつける地面に違和感を覚えていた。 「変な匂い、か。確か、土臭いって言うんだっけ」 ノルウェは言うと、地面に手をついて、ゆっくりと息を吸う。束の間、匂いを嗅いだ後、微笑みながら立ち上がった。その際、手に付いた土を目にし、驚きながらも、嬉しそうに顔をほころばせるのだった。 「さて。行こうか」 ノルウェは言いながら、その表情が変わる。穏やかでありながらも、目の前のことを遂行するための、仮面を被ったような表情だ。 ノルウェは奥を見据え、踏み出した。ランダールも、足の裏の感触を気にしながらついて行く。 日が沈んでいるわけでもないのに、奥に入るにつれて周囲は暗くなっていく。葉のざわめきと爆音以外何も聞こえず、植物以外の気配はまるで無かった。ただ、ところどころに足跡があるのだった。見たことも無いようなものだけでなく、ノルウェも知っているようなポケモンの物もあった。 「隠れてるのかな」 辺りを見回しながら、ノルウェは呟く。草木1つ1つに目を配り、警戒しているようだった。 「隠れてるね」 ノルウェは斜に構えた。剣に右手をかけ、姿勢を低くする。突然のことにランダールは焦り、おどおどと周囲を見渡した。 「ど、どこだ!?」 騒ぎそうになるランダールに目配せし、ノルウェは鋭い目で森を見据える。視線を受けたランダールは、声をぐっと堪え、ノルウェに倣って辺りを伺った。 耳に聞こえるのは、変わらぬ音。葉のざわめき、風のうなり、爆音。何1つの変化も無く、微かな気配だけが、ノルウェの直感を刺激しているようだった。 目だけを動かし、辺りを探るノルウェ。その目は木々から下へと移り、自身の足元を映す。 突如、ノルウェは跳躍した。 「……へ?」 ランダールの間の抜けた声が発せられたかと思うと、地面から無数の草が伸びた。意思を持つかのようにうねる草は、ランダールの足に巻きつく。 「のおおおお!!」 悲鳴と共にランダールは転倒し、無数の草に覆われた。 一方、ノルウェは、ヒトとは思えない脚力で上昇し、上方にあった枝を左手で掴み、ぶら下がった。まもなく、今度は無数の蔓がノルウェに襲い掛かる。四方八方から迫る蔓の群生に、隙間などなかった。 ノルウェは左手だけで体を持ち上げ、枝の上に体を乗せた。しゃがみこんだ姿勢で右を見据えたかと思うと、剣を抜くと同時に一閃した。密に集まっていた蔓に、直線の切り込みができる。 ノルウェが更に体を屈めると同時に、周囲を蔓が通り過ぎていく。植物とは思えない重厚な音に、ノルウェは思わず顔をしかめる。 伸びきってしまったのか、蔓は一瞬停止する。その隙にノルウェは自身から見て右下を一閃し、蔓を切断する。そして勢いよく枝を蹴り、蔓の牢獄から飛び出した。 落下中、自身の体幹を使って体勢を整えていた。柄を右手で持ったまま、右足だけをつばに乗せ、剣を地面へ突き刺す形にする。地面に繁茂していたうねる草は、剣を恐れたのか円状に場所を広げた。 着地の瞬間。剣が地面に突き刺さると同時に足をつばから下ろし、両足同時に地に着いた。休むまもなく、剣を抜いて逆手に持ち、わき腹で構える。 「相変わらず、ヒト放れした身体能力だよなぁ。頼むから、おれのことも気にかけてくれぇ」 ランダールの情けない声。草に体をほとんど覆われたランダールは、見世物のように空中に晒し上げられていた。 草はノルウェに近づかず、一定の距離から近づこうとしなかった。ノルウェはくまなく周囲を見、時折、地面を足で叩くのだった。 「来たね」 ノルウェの言葉と共に、木のうろから影が現れた。ナッシーとは違うが、まるで木そのものであるようなその姿。根を無数の足のように使って移動し、手は前に差し出されている。実体の無い体が見える胴体には、赤い1つ目が怪しく光っていた。 「お、お、おば、おば……」 ランダールは明らかに動揺している。 「オーロットっていうポケモンだよ」 ノルウェは姿勢を変えずに言う。 オーロットは、静かにノルウェを見つめていた。ノルウェもまた、オーロットを見つめ返す。時間が止まったような膠着状態が続き、上空の爆音だけが虚しく響いている。 「攻撃の意思はないんだ。話がしたいから、草を引っ込めてくれないかな? そしたら、僕も剣を納めるよ」 ノルウェは話しかける。オーロットは変わらぬ表情でノルウェを見ていた。 ややあって、オーロットは両手を下げた。ノルウェの周りから草がたちまち無くなっていき、ランダールも地面に下ろされた。草が無くなったことを確認すると、ノルウェは剣を鞘に納めた。 「僕はノルウィゴウ・バルス。みんなからはノルウェって呼ばれてる。こっちはランダール・チェスノウト。僕の仕事仲間だ」 ノルウェは自己紹介する。ランダールは、体中をさすりながら立ち上がっているところだった。 オーロットは何も言わない。ただ、ノルウェをじっと見ていた。 「とりあえず、状況を説明するとさ。また、無能な軍が脳筋な攻撃を森に仕掛けるってことで、僕に指令が入ってさ。軍が無駄な攻撃を続けている隙に、陸路で森に入れってことだったんだ。森に入り、自然を再生させるための手段を探してくることが任務だね。正直、漠然としすぎてるけど、でも、何かが分かってるわけでもないし、そういうことで、ここに入ってきたんだ。決して、紙が足りないだの服が作れないだのと言ってるお偉いさん方の指令で来たわけじゃないからね」 ノルウェが説明する間も、オーロットは何も言わなかった。やはり、じっとノルウェを見ているのだった。 「多分、自覚はあると思うけど、この森って、有名なんだよ? 僕らの間じゃ&ruby(フォートレス・フォレスト){要塞森林};って呼ばれててさ。軍が全力で攻めたって堕ちやしないってね。まあ、話には聞いてたけど、実際見て驚いたよ。エナジーボール、シャドーボール、タネばくだん、ヘドロばくだん。これらを全員のナッシーが、たまなげで放ってたんだね。ものすごい弾幕だから、ランダールも苦労してたよ。そんな、活力溢れる森の秘密を、知りたいんだけどな」 やはり、オーロットは何も言わない。緊張感漂う両者の視線のぶつかり合いを、ランダールは固唾をのんで見守っていた。 突然。オーロットは背を向け、奥へと歩く。ノルウェは自然体でありながらも、緊張感を持ってついて行く。ランダールも、それに続いた。 進んでいくうちに、木々が無くなり、広場のようになっている場所につく。そこでは、無数のナッシーやオーロットの雌雄が交わりあい、互いに呼吸を荒げながら嬌声をあげていた。鼻にくる匂いにノルウェは微かに顔をしかめ、ランダールにいたっては顔を真っ赤に染めていた。 そして。広場の中央の小さな切り株に、タマゴが1つ載っているのだった。 オーロットは、切り株の前で立ち止まる。 「じきに、森は死ぬ」 しわがれた声。背を向けたまま。オーロットが話していた。 「え?」 ノルウェは思わず声を上げる 「日光の不足。大地のエネルギーの枯渇。ポケモンの減少。何より、リーフの石の消費増加。これらの問題が、立て続けに発生している」 オーロットは静かに言う。ノルウェはゆっくり頷く。 「なるほど。この森は今、ナッシーによって守られてる。いくら、まもるがあったとしても、たまなげなしじゃ、この森は時間をたたずして陥落してしまう。ところが、ナッシーが少なくなってきてて、これからも増やすのがとても難しいんだね」 「よくそこまで分かったな……」 ノルウェの物分かりの良さに、ランダールは驚きを隠せない。 オーロットは、静かにタマゴに近づく。 「我らが子作りに励んでも、大地のエネルギーは減り、限界が近づいている。ここに忍び込む生物を取り込んですら、オニスズメの涙にも満たない。全てのナッシーやオーロットが老い、その戦闘力を失う時は、刻一刻と迫っているのだ」 オーロットはタマゴを掴むと、ゆっくり振り返り、ノルウェの前に差し出した。突然のことに、ノルウェは目をしばたたかせた。 「自然を増やしたいと言うならば。自然と共存したいと言うならば。これを持っていくが良い」 ノルウェはまじまじとタマゴを見ていた。手を差し出しそうになるが、少し引っ込める。 「自分で言うのもあれなんだけど……。そんなにすぐに、僕を信用していいのかい? 例えば、この後すぐ、僕はここのみんなを皆殺しにするかもしれないよ?」 ノルウェは聞く。オーロットは手を引っ込めず、まっすぐノルウェを見ていた。 「ならば、問おう。なぜ、我と向かい合ったとき、即座に切り捨てなかったのだ? お主ほどの者ならば、あの程度の距離など、造作もなく詰められるはず。 ここに来たときもそうだろう。この数ならば、アギルダーの動きがごとく、ねじ伏せられたはず」 「初対面なのに、買いかぶりすぎじゃないかなあ」 ノルウェは苦笑しつつも、丁重にタマゴを受け取った。 「お主達の住む場所でこれを孵し、育成することができたならば、自然育成の道が見えるやも知れぬ。そしてそれは、我らが希望でもあるのだ」 オーロットの言葉に、ノルウェは小さく頷いた。タマゴを小脇に抱え、優しく微笑む。 「ありがとう。きっと、森を増やすよ」 礼を言うと、彼はオーロットに背をむけ、ゆっくりと去っていく。周囲の様子に赤面していたランダールも、警戒しながらその後に続く。広場を出て行く両者の背中を、オーロットはいつまでも見ていたのだった。 タマゴを持ち歩きながらも、ノルウェは周囲と地面の下に気を張っていた。1歩ごとに感触を確かめ、道を視認する。そう時間が経たないうちに森の端部に到着し、守りの幕から外に出たのだった。 「あ」 ノルウェは思わずぽかんとしてしまう。 周囲には、墜落した戦闘機やその破片がいくつも転がっていた。ミサイルやたま技が墜落した跡も形成されていた。 当然、彼らの乗ってきた車もその洗礼を受けていた。 「げっ」 思わずランダールは引く。 「ありゃりゃ……。これは、始末書じゃ済まないね……」 廃車どころか鉄屑と成り果てた車を見て、ノルウェは苦笑した。 ◇ 立ち並ぶ摩天楼の中では、至る所から電子音が聞こえている。外界とは違い、空気の澄んでいるドームの中は、人々の賑わいで溢れていた。 その中の一角。廃工場の跡地のような、巨大な黒い直方体の建物の中で、1つの命が産声をあげた。 「タマタマだね」 ノルウェは微笑んだ。 彼を見つめるのは、10個の目。それぞれ違う表情をした卵型の種の集団、タマタマというポケモンを、ノルウェはじっと見ていた。 「おれも始めて見たぜ」 床に座り込んだランダールが言う。 そこはノルウェの部屋らしく、ベッドやテレビなどと観葉植物が置かれている小さな部屋だった。その隅にある、黒光りする机の上で、タマタマはノルウェを見つめ返していた。 ノルウェは、タマタマの内の1つを持ち上げる。 「女の子だね。名前は……リーネ、かな」 ノルウェの言葉に、タマタマ達はピンと来ない表情をしている。 「育成係に任命されて、もう命名かよ。まあ、まだ言葉は話せないみたいだから、お前の育て方がそのまま出るだろうぜ」 「そうだね」 ノルウェは答え、リーネと呼んだ内の1つをそっと置いた。 タマタマは5つで意思疎通ができるようで、そろってノルウェの言葉に興味を向けていた。 「多分、君達はもう、たまなげは使えると思う。でも、それはただのたまで、威力も低いんだ。だから、これから僕と過ごして、色んな技を覚えるんだ。そしたら、君達も、自分を守る能力が身につく。君達がいた森と同じように、君達自身を守らないといけない。それが、君達の作る森を守る力になる。僕らと一緒に木々を植え、森を育み、自然を育てて欲しい。それが、ヒトやポケモンの生きる最後の希望になるから。いいね?」 ノルウェは諭すように話した。リーネは、表情からしてよく理解していないようだった。しかし、ノルウェのまっすぐな瞳に押されたのか、揃って頷いたのだった。 ノルウェは嬉しそうに顔を崩し、それぞれの頭を順に撫でていくのだった。 「ノルウェ。タマタマに語りかけるのもいいが、そろそろ始末書書けよ?」 ランダールが水を差す。 ノルウェはやれやれといった様子で首を振り、背中の鞘を外して壁に立てかけた。椅子に背中を預けると、引き出しから紙を取り出し、書いていく。その文字1つ1つを、10個の目が興味深々に追いかけていくのだった。 END ---- あとがき よく、「剣と魔法のファンタジー」という言葉を聞きます。 その言葉通り、剣などの武器や多様な魔法を駆使して、仲間と共に様々な困難を乗り越えていく、王道中の王道の物語です。 でも、僕の探索不足なのかもしれないのですが、「剣とポケモンのファンタジー」って、見かけないんですよね。 もちろんこれは、ポケモンが剣を振り回したり、ヒトがポケモンのコスプレをして戦うものじゃありません。ポケモンはポケモンとして、ヒトは武器を使って共に戦うというものです。 僕の中に、いくつかの時代設定とともにこの世界観があったので、今回思い切って書いてみました。せっかくなので戦闘シーンもどきも書いたのですが、やっぱり難しいですね。 作品について たま、ということで、一番最初に思いついたのがたまなげとタマタマ。この2つがどうしても頭から離れず、これらを題材にすることにしました。 たまなげは英語でbarrageと表記され、翻訳にかけると「弾幕」と出ました。さらに、たまなげの技説明は「まるいものを相手に投げつけて攻撃する」でした。そして、たまなげは、ぼうだんで無効化される。 ならつまり、丸いものに指定は無いわけで、色んなたまや爆弾の技をたくさん投げつけることができる。これが複数のナッシーとなれば、その量は膨大。この規模なら、戦争っぽいことができる! ということで、森と戦闘機が弾幕戦を繰り広げるという冒頭になったわけです。ポケモンの力ってすごい。 ところが、どうしても拭えないミスがいくつか。 1:ノルウェの部屋の描写をするにあたって、観葉植物が抜けていた。 なんで忘れたんだろう。見直し不足とかのレベルじゃない。 2:自然を守る団体にもかかわらず、始末書なんていう紙を使っている。 世界観未来なんだから、電子的なことできるだろうに。これはもう、僕の認識不足。 投稿する前に気付くべきなことばかり。未熟すぎて開いた口が塞がらない。多分、まだあると思います。 ワンクッションの挿入も、ありがとうございます。 結果は、予想をいい意味で裏切って3票。1票入ればいいかなと思ってたんで…。 コメント返しです。 >>11 とりあえず、投票ありがとうございます! >>タイトルからフォレトスでくるかと思っていましたが違いましたねw 数々の弾、たまなげ、タマタマのタマゴと、豊富なテーマの使い方に工夫を感じます。アクションも書き込まれていて迫力満点でした。 僕も、フォレトス出すかどうか本気で迷ったんですが、書いていて出る幕がなくなっちゃいました。そもそも、フォレトスも英語でForretressで、完璧な要塞要員なんですよね……。 たまなげは、たま技のなかでももっともマイナーな技。それを、今使わずにいつ使う? と思っちゃったわけです。 アクションについては、まだまだ文章力の不足を感じます。もっと精進します。 >>ポケモンらしさが散りばめられていて面白かったです。尾を引く終わり方もその後の展開が気になって、わくわくしました。 今回は、世界観やポケモンの登場の仕方から、ポケモンらしさは少なくなってしまいました。その、少ない表現を拾ってくださって、ありがとうございます。世紀末にポケモンを放り込んだら、やっぱり表現は難しかったです。 その後については……かなり、遠い未来になると思います。いつになるかわかりませんが、全く同じ世界観の長編を出せるまで、気長にお待ちください。 みなさん、投票、ありがとうございました! みなさんからの感想、指摘、評価、重箱の隅つつきなど、何かあればなんでもお寄せください。 カナヘビはみなさんの言葉を真摯に受け止め、より良い作品作りにむけて精進していきます。 #pcomment(要塞森林コメントログ); IP:122.218.127.18 TIME:"2015-03-08 (日) 19:46:24" REFERER:"http://pokestory.dip.jp/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%88" USER_AGENT:"Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 5.1; Trident/4.0)"