[[ファーメルンの草笛3]] ↑前回 これでこっちの話は終わりです。 後半、大分砂吐きっぷりに磨きが掛かってますが…気にしないで下さいね。 こっちの話が短いのは仕様です。2日で彼は死んでましたから。 ……なんか自己完結気味w ---- 5 足取りは重い。 信じていた、信じていたい春菜先生の行動に僕は疑問を感じているのだから、それも無理はないのだろうが。 アクセサリーショップでの仕事を終えた僕は、真っ先に春菜先生の診療所へと足を運んでいた。 先生に会って、薬の正体を確かめるために。 ……それから? それからのことはわからない。 僕はただ、薬に含まれる黒い粒々と黒点病との関連性がないことが判ればそれだけでいいのだ。…先生が、悪い薬を処方していたワケではないことだけが判れば。 ……夕刻。暮れなずむ黄昏色が、たどり着いた丘を切なげに彩っていた。 そこからは、先生の診療所が見下ろせる。 ―と。 そんな僕の目の前、まるで死霊みたいにゆらゆらと体を揺らしながら近づいてくる姿があった。 ……尖尾だ。 尖尾が、先生の診療所から戻ってきたところだったのだ。 「やあ尖尾。君も先生の世話になってたの?」 「ん…」 声を掛けると、少し気落ちした表情が顔を上げた。 気分でも悪いのか、と言わんばかりに紫色の毒々しい彼の体躯だけど、それは生まれつきだ。 彼の体を眺めていると、それに相対するように尖尾は首を傾げてこちらを見上げていた。―その視線は、真っ直ぐに僕の瞳……の下に出来上がった見事な隈に注がれている。 さすがに気になるか。苦しげにため息を漏らしてみせる。 「酷いでしょ? 僕もここの所凄い疲れててさ。先生のところに薬を貰いに通ってるんだ」 言いながらも、僕は見逃してはいない。――見つめてくる尖尾の瞳。その下に出来上がった、黒い隈を。 彼も黒点病なのか。 だからこそ、あてつけのように言ってみた。 「コレ、黒点病っていう病気らしいよ。先生が特製の薬を作ってくれるからなんとかなるけど……何時治るんだろうねぇ?」 「……!」 何かを知っているのか、否か。 驚きに目を見開いた尖尾の表情からは、それは読み取りきれなかった。 だけど、何かを知っているのは確かだった。 ……先生に会って、祠を調べたら…次は尖尾に話を聞くことになりそうだな、と感じる。 だけど。 僕は、固まってしまった。 尖尾が去っていって、歩き出そうとした矢先だ。 診療所から見下ろせる、小高い丘。その場所で。 ……そこから、診療所を取り囲むようにして群生している四色の花畑が目に入ったからだった。 四色。 白。 赤。 黄。 青。 ……夢の中。ロズレイドによって解説されたシキ草の色種の花々が、その花畑では煌いていた。 道理で見覚えがあるはずだ。四色に咲き乱れるシキ草。 僕は、この診療所を見渡せる丘で確かに目にしていたのだ。全ての根源、シキ草を。 診療所に入る前に、僕はその花畑に近づいていった。……『もし』近場にシキ草の生える花畑があるなら、と。僕には確かめたいことがあったのだ。 丘を駆け下りて、万感の想いを胸に抱きながら、その花畑に踏み入れた。 僕を取り囲む、四色の花々。まさに色(シキ)草だ。 ……そのうちに生える、四色の花々を適当に摘み取って、ようく目を凝らして眺めてみた。 黒い、点々。 ぶつぶつと。気味の悪い出来物の様に、摘み取った花々には黒い点々が浮かび上がっていた。 白も、赤も、黄も、青も。 そのどれにも、表面に黒色の何かが取り付いていた。 ……慌てて周囲を見渡してみたけど、それはもう明白な事実だった。 あっちを見ても、こっちをみても。生えているのはシキ草だけ。そして、そこら中に生えている全てのシキ草には……黒いモノが浮かび上がっているのだ。 この畑に生えているシキ草は、全て黒点病に掛かっている。それこそ、例えるならここは黒点病の病巣だった。 馬鹿な。 ありえない。だって、だって。 「驚いた? 丙君」 そんな時だった。 考えるのに夢中になっていた僕は、彼女が近づいてきた気配に全く気付くことが出来なかった。 驚いて、背後へと振り返る。 視界に一杯に広がる四色の草花。……その中に溶け込むような、新緑の体を揺らしながら、彼女は……春菜先生は僕に歩み寄ってきていた。 「丙君。なんで私の薬草園に居るのかなあぁ~……?」 「や、薬草園?」 先生の口調は、出来の悪い生徒を叱るような優しげなものだ。だけど、そこから漏れた言葉に、僕は言葉を失う。 「せ…先生が、このシキ草を育てていたんですか?!」 「勿論よ。貴方も、尖尾君も、黒点病に掛かった患者はみーんな……ここで取れた薬草を使った薬を飲んでいるのよ?」 「……」 先生の表情は、あくまで明るい。……だけどその口から告げている事実は、あまりにも残酷だった。 僕が、尖尾が飲んでいた薬。 ――真っ先に僕が連想するのは、あの薬だった。 黒い粒々の混入された、白い粉薬。 先生は、ただにっこりと笑った。 「君もたくさん飲んでくれたものね、黒点病の薬。どうだった? おいしかったかな?」 「せ、先生…?」 ふざけているのか。何かの悪い冗談だといって欲しい。答えを求めて……いつしか僕は叫んでいた。 「この畑で取れるシキ草を使って、僕たちの薬を作っていたんですか?!」 「正解よ。粉薬に入ってる、黒い粒々がその証拠~」 ……あっけない。簡単に事実を認めた先生は、やっぱりにこにこと笑みを浮かべている。 風に揺れるシキ草が、左右に揺れてさざめく。……気付けば、夕立が去りかけていた。 ――まさかとは思っていたけど。 粉薬に混入されていたあの黒い粒々は、本当にシキ草に発生した黒点病のモノだったのだ。 草を磨り潰して作る、黒点病の薬。黒点病を治す薬ではなく、飲んだポケモンを黒点病に犯す薬。 それが、黒点病の薬の正体だったのか。 「シキ草にも色々あってね? 私が薬に使っているのは、これなの」 僕の様子なんて、取るに足らないと思っているのだろうか。……先生はおもむろに、白いシキ草。――四季草を手に取っていた。 愛しそうにその草を撫で上げながら、黒点病に冒されたソレを掲げる。 「磨り潰して薬にすれば、これは本当の意味での万能薬になるの。そして、葉体が黒点病に犯された状態で薬にすれば……うふふ、説明不要よね?」 「…っ」 嫌味な先生だ。その効果は、僕を初めとして尖尾、集落のポケモン達が享受してしまっている。 手遅れなのか否か。……どうも、先生から直接聞き出すしかない。 「次はこれね。草笛にすると、面白いのよ」 そう呟いて、先生が手にしたのは…今度は赤いシキ草。――思飢草だった。 ………ロズレイドが草笛にしていた、アレ。 「な、…まさか」 嫌な予感に、背筋が凍った。 実際に、僕はそれを聞かされている。ロズレイドによって。 「これはねぇ……草笛にして患者に音色を聞かせれば、安眠の効果が与えられるの。――でも、黒点病に犯された葉体を草笛に使えば……」 「う…嘘でしょ、先生」 「ふふふ、ふふふふ」 先生が、赤い花弁を口に押し当てている。―体が金縛りに遭ってしまったかのように、僕は身動きが取れなくなってしまっていた。 やがて……春菜先生がソレを吹き始める。 高く、透き通る、美しい草笛の音色。 草ポケモンなだけあって、その技術は素晴らしい。 ――視界が、ぼやけ始める。 白が。赤が。黄色が青が。 僕の視界から、少しずつ消えていく。 先生が吹き鳴らす邪悪な旋律に、僕は完全に捕らえられていた。 (駄目だ。眠ってはいけない) 首を振って、体を揺さぶって必死になって自我を呼び起こそうとするけど、それは不可能なことだった。 僕が黒点病に犯されているからだったのだろうか。 少しずつ、体が動かせなくなっていく。自分の物ではなくなっていく。僕の体が。僕の意識が。 黒点病に犯された葉が巻き起こす音色は、完全に僕の心の奥に染み付いていた。 夢によって。薬によって。 ……なんで、もっと早く気付けなかったのだろう。 これから僕は、あの夢を見る。見ることになる。 「おやすみなさい、丙君」 春菜先生の、その優しい呟きを聞いたのを最後にして。 僕は、気を失った。 &br; 終章 &br; 静かな夜のさざめき。草木の揺れる音。大地に降り注ぐ月光。 「……ぁ、れ」 あるとき唐突に、僕は目を覚ました。 ずずず、ずずず、ずずずず、と地面を引きずる音が聞こえる。 ……いや。引きずられているのは、僕の体だった。 草木の生える、森の中。両足を掴まれているらしい僕は、頭をずりずりと引きずられながらどこかへと運ばれていた。 (なんだ…?) 何が起こっているのかを確認しようとして、周囲を見渡そうとするのだが……何故か、僕の体は全く言うことを聞いてくれなかった。 首も、手足も、喉も。 自由に動くのは瞳だけ。そんな不可解な金縛りに、僕は掛かっているのか。 僕を引きずっているらしいポケモンは、暗い暗い森の中を迷わずに進んでいる。……どこか、目指している場所があるのだろう。 ……と。 突然、そいつが動きを止めていた。暗い。状況を確認しようにも、瞳だけではどうにもならない。 「結局キミは、ここに来てしまったんだね。……丙」 ……。 聞こえてきた声には、聞き覚えがあった。 「四季草の声は教えてあげたのに。君は道を間違えてしまった。ふふふ、まぁ予想通りといえば予想通りだけど」 ……。 何を偉そうに。夢の中でも勝手に雑学自慢していっただけのクセに。 「でもま、薬を飲んだからこそ。シキ草をその身に宿したからこそ、キミには私の姿が見えているんだ」 ……。 また、勝手に雑学自慢を。 「わかるかな。わからないよね。いいんだよ。今日はキミで三匹目だけど……少しでも縁のあるポケモンの方が、なんだか趣があるもの」 ………。 ロズレイドの声が、近い。 彼から香ってくる花の香りに、僕は体を震わせた。 ……馬鹿な。ありえない。 「私はこれから、150匹のポケモンたちをここへとおびき寄せる。……そう、ファーメルンの草笛吹きの様にね。ふふふ。ふふふふ」 寄生? ……いや、シキ草は宿木ではないはず。じゃあ、なんでロズレイドから、こんな香りが。 「私は感謝されるべきだったんだよ。幾数匹のポケモン達を救い、その英雄として、ね」 シキ草が。ロズレイドから、シキ草の香りがしてくる。 「キミたちはね、その最初の三匹なんだ。光栄に思ってくれ」 分からない。彼が……ロズレイドが、なんでこんなことをするのか。 それに、なんで彼からシキ草の香りが漂ってくるのか。 「そろそろ、怖くなってくるだろう。 ――ラクに、なろうか」 言葉は、冷たい。 悪夢でも、なんでもない。僕はこれから、文字通りに解体されるのだろう。 僕だけじゃない。 黒点病に犯された、集落に住むポケモン達全員が。 尖尾。 僕はこんなにも知っておきながら、同じ境遇にある君に…何も残してあげられない。 でも、どうか。どうかキミだけは……生き残って欲しい。 春菜先生の正体を見極めて。黒点病の真実を解き明かして。――この悪夢のような出来事から抜け出して。 でも。でも、でも……。 &br; 「目を、開けてくれないか」 ………言われるままに、瞳を開けて。 僕は最後の最後、後悔をした。 怪しく輝きを放つ、彼の両腕。鋭利で切れ味よさそうなソレが、僕の瞳に差し込まれんとする……その刹那。 最後に見た、彼の体の表面は。 黒点病に犯されたシキ草のように。 黒い出来物によって埋め尽くされていた。 &br; ファーメルンの草笛 【五つ目の“シキ”草】完 ---- これで色々と終わりです。ありがとうございましたー。 ……蛇足ってイウナ! ---- - Ifストーリーでも再び底へ突き落とされるとは…。更新がすごく早かったせいもあり、一気に物語に引き込まれてしまいました。&br;やはり「黒点病」からは逃れられない運命なのですね。そう、被害者も、加害者も。…誰もが。&br;して、結局ロズレイドは一体…? -- [[&fervor]] &new{2008-09-07 (日) 23:30:04}; - 今回は前回以上に謎が多い結末でしたね。まだ悲劇を繰り返すみたい -- &new{2008-09-08 (月) 02:08:32}; - で話が続きそうですね。この流れはSIRENやひぐらしみたいで面白いと思いますよ。応援しています(途中で送信してしまいました) -- &new{2008-09-08 (月) 02:09:53}; - 続編で謎が明らかになると思いきや、かえって謎が深まっていきましたね。もしかして春菜先生の前に言っていた『大事な人』ってこのロズレイドの事なんでしょうか? -- [[ハルパス]] &new{2008-09-08 (月) 07:42:35}; - ロズレイドは、シキ草の怨念の集合体なのでしょうかね。黒点病は薔薇が罹る病気……だからロズレイドなのか、と調べてみて納得しました。&br;が、真相は闇の中ですね。明かされない事の恐怖を味わいたい自分と、真相を知りたい自分とが葛藤してます(笑)&br;今回も楽しませて頂きました。応援しています。 -- [[水無月六丸]] &new{2008-09-08 (月) 17:17:07}; - 過去に住民がシキ草の恨みを買った時点で、もう悲劇的な結末は運命づけられていたのかもしれませんね。&br;どんな側面の物語でも結局はシキ草の怨念の恐ろしさを再確認することになりそうです。&br;いろいろな解釈が出来るのも、すべての謎が明らかにされていないからでしょうね。そう言った書き方はなかなか難しいと思うのですが、お見事です。 -- [[カゲフミ]] &new{2008-09-08 (月) 18:25:32}; - ・・・。謎は謎のままですか・・・。いや、かえって怖いです。本当のラスト・・・なんでしょうか。(さらに別視点からの続きに期待している私も確かにいるようですが。)すばらしいですね。応援してますよ! -- [[孔明]] &new{2008-09-08 (月) 19:32:46}; - 夢と現実の境目があいまいになり、ついには夢に現実が侵食される……ダークライ好きとして、こういった構成の物語には引き込まれます。&br;彼が悪夢から逃げ出す手段はあったのですかねぇ…… -- &new{2008-09-08 (月) 20:28:01}; - 毎回コメントありがとうございます。感謝でしゅ。&br;>&fervor様&br;IFってイイですよねー。想像膨らまさせるにはこれが一番! 親友の無事を祈りながら死ねるなら、こっちの方がある意味幸せ幸せー。&br;>ハルパス様&br;むにゃ、どうでしょう。春菜先生の言動から察するに、シキ草が関係しているのは間違いなさそうですけど。(ぇ&br;>水無月六丸様&br;ぁ……黒点病の事、分かってくれている方が居てくれて良かったw そうなんですよね、薔薇が懸かる病気なんですよねー。だからロズレイド。赤いし青いしな。&br;真相は闇の中ですけど、このままもいいかもしれませんね。全部明かしちゃうと味気なくなっちゃうかもです。&br;>カゲフミ様&br;過去に買っている恨み。消えてしまえば良いんですけどね。(?)一応、四季草には四つの側面があるみたい…です。&br;とはいえ、中途半端に書いてるだけだったりs(殴&br;>孔明様&br;謎は謎のまま。それはある意味幸せな事です。……うん。イイ事言った!(ぇ&br;>名無し様&br;む…。ダークライ好きですか。私も好きです。マイナーかと思っていたら、案外好きな方が多い様ですね。&br;場に存在するだけで、眠った相手に悪夢を見せる能力……うーん、スバラシイ。 -- &new{2008-09-09 (火) 12:17:42}; - まだ気持ちよくないエンドでしたね。こういう話を書けるのはうらやましいです。シキ草が4種類出ましたが、その全部を出す気だったりしますか?春菜先生が尖尾になにかを渡すときの菫姉さんのセリフに複線らしきものを感じたんですけど、もう少ししたらそれも明らかになるのですか? 質問ばかりになってしまいましたが、今回の話も面白かったです -- &new{2008-09-09 (火) 19:16:51}; #comment IP:133.242.146.153 TIME:"2013-01-30 (水) 14:44:16" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%83%A1%E3%83%AB%E3%83%B3%E3%81%AE%E8%8D%89%E7%AC%9B4" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0; YTB730)"