ポケモン小説wiki
ハンチング帽のバシャーモ の変更点


writer is [[双牙連刃]]

 こちらの作品は、陽月古本店の裏で構想を練っていた物語を形にした作品でございます。
 一風変わったポケモントレーナーの物語、お楽しみ頂けましたら幸いです。

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「バトル終了です。お相手、ありがとうございました!」
「いやぁ、完敗だよ。でも楽しいバトルだったし、こちらこそ興味本意で引き止めて悪かったよ。ありがとう」

 不意に声を掛けられて始めたバトルだったけど、満足行くバトルが出来て良かった。バトルを仕掛けてきたトレーナーさんも納得してくれたし、賞金も貰えたしで良いバトルだったな。
 っと、バトルが終わったんだしポケモンは戻しておかなきゃ。僕ももう一人立ちしたトレーナーなんだし、いつまでも今までみたいな訓練気分では居られないな。

「お疲れ様、ノ……じゃなかった、アブソル。戻って休んでてね」
「しかし、バトルした後だけど、やっぱり不思議な気分になるね。君のその様子を見ると」
「あ、あはははは……よく言われます」

 なんせ、僕の姿は……と言うか僕は、本来ならトレーナーをやってる筈のない者だしね。幾ら帽子やコートを着ても、誤魔化しきれるものじゃないもん、これ。

「そうだ、折角だし君の名前を教えてくれないかな? 嫌なら、無理にとは言わないけど」
「構いませんよ。僕の名前はパロ、駆け出しの、トレーナーです!」

 もちろんちゃんとトレーナーカードも持ってるよ。まぁ、まだジムバッジなんかは持ってないけどさ。
 そう、僕はパロ。トレーナー登録もして、夢はポケモンリーグ制覇! だけどまずはポケモンジム突破を目指して旅をしてる……。

「パロ君か……うん、ありがとう。じゃあ、これからも頑張って。……バシャーモの、トレーナー君」
「はい、ありがとうございました!」

 猛火ポケモンの、バシャーモです!

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 バトルを終えて、103番道路を現在の目的地であるフエンタウンに向かって歩いてる。天気も良いし、今日中にはフエンに……は流石に難しいか。とりあえずキンセツシティには着けるかな。
 なんて事を考えながら歩いてるんだけど、やっぱりハンチング帽とトレンチコートだけじゃ不味いかなぁ? 道行く人達が凄く見てるのが分かる。ズボンも履きたいところだけど、足の方の毛は多いから、ズボン履いちゃうとゴワゴワして動き難いんだよね。
 まぁ、ポケモンなのにトレーナーやってるなんて前例が無いだろうし、トレーナー続けるなら慣れていかないとだね。

「うわぁ、服着たバシャーモ!? こんなポケモンがこの辺りに出るなんて! えっと、ボールは……」

 うんまぁ僕もポケモンなのは変わらないけど、捕獲はされたくないかな。折角トレーナーとして旅を始めたんだから、まだまだ旅を続けたいし。

「えーっと、ちょっと待って貰えるかな?」
「わぁっ!? しゃ、喋った!」
「うん、喋れるよ。おまけで言うと、僕は野生のポケモンって訳じゃないんだ。誰かのポケモンって訳でもないけど」

 唐突に僕に話し掛けてきたのは、短パンを履いた男の子だね。この感じだと、新しいポケモンを捕まえる為にこの辺りを探索してたってところだろうね。

「えー? 違うの? ならなんでポケモンが一匹でこんなところ歩いてるのさ」
「旅をしててね、キンセツシティに行く為にこの道を進んでたんだ。君は……見た限りだとポケモンを捕まえに来てるみたいだけど、お父さんやお母さんは一緒じゃないの?」
「お父さんなら、この先の110番道路で釣りしてるけど? 大物釣るって言ってたけど、朝から始めて釣れたのコイキングだけなんだもん。退屈だからポケモン探しに来たんだ」

 そういう事ね。結構コトキタウンからは遠いし、一人で来たならカイナシティかキンセツシティだろうとは思ったけど、お父さんが居るなら大丈夫そうだ。後は軽く説明してキンセツへまた歩き出せばいいでしょ。

「あれ? なんでバシャーモがボールなんか持ってるのさ? トレーナーみたいに」
「あぁ、みたいじゃなくて、僕は……こういう事をしてるのさ」

 小さい子って大体こんな感じなのかなぁ? 僕がポケモンとは言え、知らない相手にここまで親しげに接する? 変に泣かれたりとかするよりはいいけどさ。
 持ってた二つの内一つのボールを腰に巻いたベルトから取って、投げる。今度はアブソルじゃなくて、もう一匹の僕に協力してくれてるポケモンを出す。アブソル、名前はノルンって言うんだけど……ノルンばかり働いてもらうと、後で文句言われちゃうからね。
 僕が投げたボールが割れて、姿を見せたのはカメックスのガメさん。僕がお世話になってたトレーナーのお祖父ちゃんのところに居たポケモンで、僕が旅に出る時に一緒に来てくれたんだ。ノルンも同じだけど。

「うわぁ、カメックスだ! すげー!」

 おぉ、憧れの眼差しでガメさんが照れてる。強面だけど優しいから、こういう視線を送られると鬱陶しく思う前に照れちゃうみたい。僕の時もそうだったっけな。

『バトルかと思って出てきてみたら、どういう状況なんだ?』
「まぁ、僕がトレーナーやってるって説明中かな? しないで逃げちゃうと変に追われちゃいそうだったし」
「え、バシャーモなのにトレーナーなの!? うっそだー!」

 いや、現に今ガメさんを出して見せたんだけど……ボールからポケモンを出しただけじゃ、小さい子には説明にならないか。覚えとこ。

「だってバシャーモってポケモンじゃん! ポケモンがポケモントレーナーなんて変なの!」
「あぅぅ……こういう時ってどうすればいいんだろ?」
『真面目に考え過ぎだな。適当にあしらって、さっさと先に進むのが妥当だろ』

 そういうもんかなぁ? でも、確かに難しい説明しても分からないか。ならここは、ガメさんの意見を尊重していこうかな?

「おーい、ショウター!」
「あ、お父さんだ」
「あぁ、釣りしてるって言ってたね」

 助かった。このままこの子に足止めをされ続ける事になるかと思ったよ。多分この子が居ないのに気付いて探しに来たんだろうね。
 あれ、でもなんか凄く慌てた様子で走ってきたぞ? ……あ、そっか。ガメさんが見えたから慌ててるのか。

「何やってるんだ! そんな強そうなポケモンに!」
「だってつまんなかったんだもん。お父さんコイキングしか釣らないし」
「誤解させてしまったようですいません。別に、この子とバトルをしようって訳では無かったんです」
「あぁ、これはどうもご丁寧に……わぁ!? ポケモンが喋った!?」

 誤解を解こうと思ったらまた驚かれる事に。まぁ、初対面は必ずこうなるだろうって覚えておこう。
 とにかく自己紹介して、これまでの経緯を話そう。そうすれば、多分分かって貰えるでしょ。

「……え、と、トレーナー……なのかい?」
「はい。っと、この通りです」

 本当、あって良かったトレーナーカード。身分証明になる物、これしか無いしね。

「おぉ、本当だ……偽物、じゃないよね」
「寧ろカードの偽物を作れた方が凄いと思います」
「確かに、考えてみたらそうだね。済まなかったよ、息子が迷惑を掛けてしまったようだね」
「いえ、ご理解頂けて助かりました」

 因みに件のショウタ君はガメさんが遊んでくれてて上機嫌みたいです。面倒見も良いんだよね、ガメさんて。

「にしても驚いたな。それ、コスプレとかじゃなく、本当にバシャーモなんだよね?」
「はい。ま、まぁ、凄く良く出来たコスプレだって言われた事もありますけどね」
「いやそう思った人が居ても納得してしまうよ。そこまで流暢に喋れるのに、ポケモンだなんて思わないもんなぁ」

 実際、ここまで喋れるようになるまで相当勉強したもん、大変だったよ。喋れないと、ポケモントレーナーどころか普通の旅行者も出来ないもんね。

「とにかく、ショウタに構ってくれてありがとう。居なくなってた時は本当に焦ったよ」
「いえいえ。それでは、大物を釣り上げられるよう健闘をお祈りします」
「ははっ、コイキング以外を釣らないと、またショウタに飽きられる事だしね。ほらショウタ、そろそろ行くぞ」
「えー」
「えー、じゃない。遊んでもらったんだからお礼言うんだぞ」
「はーい。じゃあバシャーモの兄ちゃん、バイバーイ」
「うん。あまりお父さんの事、困らせちゃダメだよー」

 手を振り返して、二人を見送った。きっと、こういう出会いも旅の醍醐味だよね。

『やれやれ、その調子だと、フエンに着くのに一週間以上掛かるぞ?』
「それは勘弁。今日中にはキンセツには入りたいし、歩き出そっか。ガメさん、ありがと」
『出来れば次はバトルで呼んでくれ。その方が気苦労が無くて助かる』

 最後はショウタ君の事丸投げする形になっちゃったし、ガメさんには感謝しないとね。
 あぁ、当然僕がそうだから、ポケモンが言ってる事も僕は聞き取れるよ。何か要望があったら直接聞けるのは、他のトレーナーには無い僕の利点だよね。
 さて、と。気を取り直して、キンセツへ向かおうか。103番道路はもう終わりだから、次は110番道路を北へだ。
 ここはサイクリングロードがあって、自転車が好きな人達が集まってるので有名だったかな? 僕は自転車なんて持ってないし、サイクリングロード高架下の道を行く事になるんだけどね。

「にしても……下も歩く人居るんだからもう少し整備してもいいんじゃないの、これ? 草とか生え放題なんだけど……」

 愚痴を言っても仕方無いか。ここを通るしかないんだし、気を付けて行こうか。
 草むらに分け入ると、やっぱり気配がする。まぁ、暮らしてるポケモンも居て当たり前か。あ、バトルしてるトレーナーも居る。なんてじっくり観察してないで、ささっと抜けちゃおうか。
 でも、これからは一緒に旅してくれるポケモンも増やしていかないとなぁ……ちょっとは分かってたつもりだけど、やる事山積みだ。けど、やっぱりワクワクしてるんだけどね。
 とにかく、まずはフエンであの人に会ってからだな。旅に出る事があったら何よりも先に私の所に来なさい! なんて約束させられちゃってるし。行かなかったら会いに行った時に何言われるか……うん、考えないようにしよう。

「よい、せっと。ふぅ、登った登った」

 途中、ポケモンかトレーナーとバトルになるかなーと思ったけど、皆忙しそうだったからスルー出来た。じっくり探索したりするのは、これから幾らでも出来るもん、今は足を動かそう。
 ここまで来れば、もうキンセツは目の前。一匹で来たのは初めてだから、ちょっとだけ緊張しちゃうな。

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 改めて来てみると……キンセツって大きいよなぁ。都市開発の一環とかで、街全体をショッピングモールと一体化させてるんだけど、大きいし広いし人がこれでもか! って言うくらい居る。ポケモンも居るけど……まぁ、トレーナー無しでうろうろしてるのは僕くらいだよね。
 さて、キンセツに着いたのはいいけど、どうしようかな? 時間を確認すると、まだ14時23分。ポケモンセンターに行くにしても、ちょっと早いかなぁ。

「ん? ……おー!? お前さん、パロじゃないか!」
「え? あっ、テッセンさん! お久しぶりです!」

 中庭でどうしようか考えてたら、知ってる人に会えたよ。挨拶しに行こうとは思ってたし、丁度良かった。
 ここキンセツシティにあるポケモンジム、キンセツジムのジムリーダー、テッセンさん。実は、僕がトレーナー資格を貰う時にポケモンセンターに推薦をしてくれた人でもある。あれが無かったら、正直トレーナー資格検定も受けれたか分からなかっただろうなぁ。

「いやー、その帽子やコートで一瞬分からんかったか! わっはっはっは!」
「なら、少しは変装の効果もあったかな。あれ? テッセンさん、まだ14時ですけど、ジムは大丈夫なんですか?」
「なぁに、心配要らんよ。最近は挑戦者も来ないし、ジムの連中も自主トレをやってるしな。お前さんはその様子だと、どうやら本格的にトレーナーを始めたようじゃな」
「はい、一昨日から旅を始めました。丁度一ヶ月経ったし、身支度とかフナさんの手伝いも終わりましたから」
「そうか、ゲンジの奴が逝ってからもうそんなに経つんじゃな……」

 ゲンジ……僕がアチャモの頃からお世話になって、こうしてトレーナーとして独り立ち出来るように必要な事を教えてくれた人。でも……一ヶ月前に、亡くなったんだ。お祖父さんだったし、まるで眠るように、静かに息を引き取ったよ。
 テッセンさんにこの前会ったのも、ゲンジお祖父ちゃんの葬儀の時だったっけ。……思い出すと、少し寂しくなっちゃったな。

「それはそうとして! ゲンジの最後の弟子がトレーナーの旅に出たか! こいつはお祝いしないとな! わっはっはー!」
「いや、挨拶はしようと思ったけど、そんなつもりは……」
「遠慮するなって! わしとしても、トレーナーになったところに立ち会った事じゃし、嬉しいんじゃよ。何と言ってもパロはホウエン、いや世界初の、トレーナーになったポケモンなんじゃからな!」
「そ、そう言われるとなんだか照れちゃうな」

 いいからついて来い! って言われて、断るのも偲びないからそのまま同行する事になった。何処へ行くんだろ?
 で……まさかレストランに連れて来られるとは思わなかった。いや、お腹は空いてたから助かるけども。

「ここは、ポケモンの食事も出しててな、利用するトレーナーも結構居るんだ」
「へぇー、そんなお店出来てるんだ。凄いなぁ」
「ま、その分注文しなきゃならないから、値段は高くつくけどな! わっはっは!」

 笑い事でいいのかなぁ? とは言え、もう入って席に着いちゃったし、ここから何も注文しないで出るって言うのは出来ないよね。
 折角なんだからお互いの連れてるポケモンにも食べさせようって事になって、ボールからポケモンを出した。僕はノルンとガメさん、テッセンのは……ライボルトみたいだ。
 折角なんだからお互いの連れてるポケモンにも食べさせようって事になって、ボールからポケモンを出した。僕はノルンとガメさん、テッセンさんのは……ライボルトみたいだ。

「わぁ、カッコイイですね!」
「そうじゃろー! わしが連れてるポケモンの中でも一番の実力持ちなんじゃよ。最近構ってやれんかったんで、今日は連れてたんじゃ」

 へぇー……流石にジムリーダーが自分の一番の相棒だなんて言うポケモンには敵わないだろうなぁ。ノルンは多分実力で差を付けられるだろうし、ガメさんに至っては弱点直撃だもんなぁ。

「ほほう? こいつを見て一唸りする辺り、バトルした時の対策でも考えとったか?」
「え? あ、いやその……」
「わっはっは! 恐縮せんでも、トレーナーはそういうもんじゃ。強いトレーナーになればなるほど、よりポケモンの事を理解しようとする。相手のでも、自分のでも」

 ポケモンの事を理解しようとする、か……お祖父ちゃんも、よく言ってたな。良いトレーナーは、しっかりポケモンの事を見ているものだって。……忘れないようにしないとね。

「っと、偉そうな事を言うのは性に合わんな。よし! 今は食べるのを楽しまんとな!」
「あはは、そうですね」

 それじゃ、ガメさん達にも食べたい物聞いて、注文しちゃおうか。うわ、でも結構良い値段するなぁ。なんでもいいぞーってテッセンさんは笑ってるけど、自分の分くらいは値段とも相談しようかな。

 ……待ち時間含み、1時間くらいかな? 食べ終わってレストランから出たよ。結局、迷いに迷ってオススメコースって言うコース料理を頼むのに落ち着いた。美味しかったなぁ。

「ふぅ、食った食った! っとぉ、パロはこれからどうするんじゃ? ひょっとして、ジムへ挑戦か?」
「あぁ、いいえ。今日何するかは決めてないですけど、ジムの挑戦はフエンに行ってから考えるように決めてるんです。会いに来いって言われてる人が居るんで」
「ほう? そうか、アスナちゃんじゃな! そう言えば、あの子もゲンジの弟子の一人じゃったわ!」
「はい。僕の前だと、アスナさんが最後の弟子だって、お祖父ちゃんも言ってました」

 アスナさん、お祖父ちゃんの葬儀の時に「本当のお祖父ちゃんと同じくらい好きだった」って言って声を出して泣いてくれてたっけ……一ヶ月ぶりか、早く会いたいな。

「そうかそうか、なら明日はフエンに向かうんじゃな」
「そのつもりです。それからの事は、追い追いで決めていこうかなって」
「なるほど。……そうじゃ! ならこいつをやろう! 遠慮は要らんぞ!」
「これって、ひょっとして……」
「ポケモンマルチナビ! 略してPMNとかポケナビと呼ばれとる奴じゃ! ……実を言うと、ちょっとばかし手違いで3つ程間違えて買ってしまって、貰い手を探しとったんじゃ」

 ま、間違えて買ったって、一体何があったんだろう? いや、聞くのも野暮かな。
 これ、欲しかったんだよね。マップとかテレビとか、色々な確認がこれ1つで出来て旅が楽になるし、追加の機能を入れたら自分の好きなような機能を入れれるし! いつか買おうと思ってたけど……本当に貰っちゃっていいのかな?

「い、いいんですか? これ、確か数万円しますよね?」
「貰ってやっとくれ。わしのは……ほれ、この通り。何個も必要なもんでもないし、持っとると便利じゃろ。使い方は分かるか?」
「あ、はい、大丈夫です。わぁ……」

 手渡されたポケナビは、赤と白のカラーリング。買うならこれだなって思ってた奴だ。
わ
「あ、別の色が良いならもう二つ、基本カラーのオレンジと青いのならあるぞい!」
「ほ、本当に三つ余ってるんですね……でも、この赤いのが良いです! ありがとうございます!」
「うむ! そんなに嬉しそうにするなら、わしもプレゼントのし甲斐があるわい! 折角じゃ、今ユーザー登録もしてしまうといいじゃろ。そんなに掛からんと終わる筈じゃよ」

 テッセンさんに促された通りにナビを開くと、本当に最初の設定画面が表示された。実は、前にフレンドリィショップで触った事はあるから操作自体はした事あるんだよね。
 表示された通りに色々な設定をしていって、最後は自分の写真を撮って登録すれば完了みたい。あ、テッセンさんが撮ってくれるらしいから、そのままお願いしちゃった。

「よ、っと。ほいっ、これで出来上がりじゃ」
「ありがとうございます! わぁー! 僕のポケナビかー!」

 戻ってきたポケナビの画面には、見た事のある通常画面が表示されてる。うん、大事に使わせてもらおう。

「で、早速じゃが……ダイヤルナビっちゅうとこを開いとくれ」
「ダイヤルナビ? そんなのありましたっけ?」
「新しく出来たアプリでな、お互いに登録した相手とならテレビ電話が出来るようになるんじゃ。ついでじゃし、登録しておいて損は無いじゃろ」

 あ、なるほどそう言う事か。確かにそれは便利だけど、テッセンさんてジムリーダーだよね? そんな人の連絡先とか貰っちゃっていいのかな?
 なんて思ってる間に電話っぽいアイコンを見つけてタッチ。手の爪の方は、色々持ったりする時に危なくないように、爪の先を削って取っちゃってるから、タッチパネルとか押しても大丈夫なんだ。

「これですよね?」
「そうじゃそうじゃ。それのダイヤル追加をタッチしとくれ」

 言われた通りにすると、登録者を探していますって表示された。しばらくすると、テッセンさんのアイコンが出てきたからそれを登録。タッチ式操作って、僕の手でも楽に出来て助かるよ。

「よーし! これで何かあれば、いつでもわしなら力を貸してやれるぞい! わっはっはー!」
「嬉しいですけど……こんなに良くして貰っていいんですか? 僕、特にお返しとか出来ないですけど……」

 僕のこの質問にテッセンさんのいつもの元気な笑い声は止んだ。代わりに、いつもとは違う穏やかな笑顔を見せてくれた。なんだか、お祖父ちゃんの笑顔と重なるような、そんな優しい笑顔。

「これは、わしの自己満足のようなものじゃよ。あいつが……ゲンジが残していった忘れ形見を、その旅の行く末を、あいつの代わりに見て、わしが向こうに行ったら教えてやろう、なんてな」
「テッセンさん……」
「それに、パロの晴れ姿も見んで逝きおった馬鹿もんの事じゃ、パロの事を心配しとるじゃろうしな。化けて出られる前に、貸せる手は貸しとこうと思ったんじゃよ! わっはっはー!」
「……ありがとう、ございます」

 きっと、お祖父ちゃんとテッセンさんって大事な友達だったんだろうなぁ。話してるテッセンさんを見てて、そうだって思ったよ。
 嬉しそうで、それと一緒に凄く寂しそうで、お祖父ちゃんが亡くなった事を本気で悲しんでくれたんだなって、そう思った。

「無理はせんでいい。けど、自分の夢は追いかけていっておくれ。ゲンジもきっと、パロが抱いた夢に何かを感じて、自分の最後の時間を使ったんじゃろうしな」

 少し出た涙を拭って、出来る限りの笑顔を見せた。泣き顔より、こっちの方がずっと良いもんね。

「はい、頑張ります!」
「うむ! 元気があってよろしい! っと、すっかり長く付き合わせてしまったかの? パロはこれからどうするんじゃ?」
「んー、折角だし、ちょっと街の中を見て回ってからポケモンセンターに泊まろうかなって思います。あれ? そう言えば、テッセンさんって何か予定があってジムから離れてたりしたんですか?」
「一応予定はあるかの? テレビキンセツで16時半からインタビューを受ける予定でな。それまで街の様子を見ておくかーと思っとる内に、お前さんを見つけたんじゃ」

 丁度貰った事だし、ポケナビで時間を確認。現在……16時18分。これ、不味いんじゃ?

「あ、あのー……テッセンさん、今の時間が……」
「ん? どうし……ぬぉ!? こんな時間になっとったのか!? い、いかん! パロ、また今度なー!」

 ありゃ、テッセンさん走って行っちゃった。まぁ、これは仕方ないよね。
 さて……もう少し見て回ったらポケモンセンターに行こうかな。今日は色々あったし、少しゆっくりしたいしね。

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「ポケモンセンターにようこ……あら? あなたは」
「今晩は。休ませてもらいたいんですけど、部屋って空いてますか?」
「確か、パロさん! あっ、宿泊ですね。部屋は……はい、大丈夫ですよ。今すぐご案内しますか?」
「じゃあ、お願いします」

 これ、僕がトレーナー登録したのがここのセンターだからすんなり出来たけど、他の所だとトレーナーカード見せないと利用出来ないんだろうなぁ……絶対無くさないようにしよう。
 案内して貰った部屋に入ると、シンプルなベッドや机のある部屋が出迎えてくれた。奥にはシャワールームもあるみたいだ。
 とりあえず、今日はもう出歩く予定は無いし、鞄は机に置いてコートと帽子はタンスのハンガーに掛けた。この何も身に付けてない状態だったら、絶対にトレーナーやってるなんて思われないだろうなぁ。いやまぁただのバシャーモだし当然か。
 腰のベルトからボールを外して、ノルンとガメさんも出した。こうしてポケモンを出してあげるトレーナーへの配慮なのか、間取りは広めだから大丈夫そう。

『おっ、と。ここは……ポケモンセンターか』
「うん。今日はもう出掛ける事も無いし、ボールの中よりも外の方がいいかなと思ってね」
『んー! はぁ……ボールの中も悪くないけど、とことん退屈よねぇ。ねぇパロ、何も無い時とか出てちゃダメ? バトルの時とか以外に出て来れないとか、私退屈で死んじゃう』

 やっぱりそうだよねー。多分、僕が反対の立場になっても同じ事言ってたと思うもん。世のトレーナーと一緒のポケモンはよく我慢出来るよね。

「街の中とかは難しいかもだけど、移動中とかは出すようにしよっか? けど、ノルンにも歩いて貰う事になるけど、いい?」
『それくらいなら全然オッケー。疲れたらパロにボールに戻して貰うだけだもんね』

 そういう事なら、明日少し試しながらフエンへ行ってみようか。問題があれば、直せばいいだけだもんね。一応、他の人に迷惑にならないように気を付けないとならないけどね。

「よし、それじゃあシャワーでも浴びちゃおうか。ガメさんもノルンもバトルに出たし、さっぱりしたいでしょ?」
『そうだな、なら頼むとするか』
『終わったらブラッシングもしてね』
「ふふっ、分かってるよ。それじゃあガメさんから行こうか」

 ポケモンの1日の疲れを労うのもトレーナーの立派な仕事ってね。これをしっかりやるかやらないかが、ポケモンとの絆を深められるトレーナーになれるかの指針になるって、お祖父ちゃんは言ってたっけ。
 まずはガメさんのシャワータイム。まぁ、ガメさんは毛とか無いから、殆ど流すだけなんだけどね。流した後にバスタオルで拭いて、ガメさんのシャワーは終わり。
 お次はノルンのシャワーだ。これも爪を引っ掛けないようにやるのが結構大変なんだよ? 慣れるまでどれだけ自分の頭を引っ掻いた事か……それもあって、爪の先は丸くしちゃったんだけどさ。
 満遍なくシャワーを掛けてからシャンプーを泡立てて、ノルンの体を洗っていく。もちろん異性だし、モラルの範疇でって事にはなるけど。

「よし、と。じゃあ、流すよ」
『パロも大分上手くなったねー。最初なんか、恐る恐る私の事洗ってたのにね』
「仕方ないでしょ? 勝手が分からなかったんだし。……っと、はいお終い」
『ん、ありがと。ドライヤーとブラシも引き続きよろしく』
「了解ですよ」

 タオルで水気を拭き取って、ドライヤーを当てて乾かす。で、ブラシで丁寧に毛を梳かせば……はい完成。毛触りもツヤツヤだし、バッチリでしょ。

『ほう……そこまで仕上げられるなら、トリマーでもやっていけるな』
「流石にそれは無理でしょ、鋏使えないし。まぁ、こうやって洗うのには、慣れてきたけどね」
『こうやってパロに洗ってもらうようになってから、毛の感じも良いのよねー。まぁ、まだ恥ずかしがってるところはあるみたいだけど』
「仕方ないでしょ? ノルンは牝なんだし、僕は牡なんだから」
『それでも今は私達のトレーナーなんだから、ちょっとくらい遠慮しなくてもいいのに』
『ふむ、もしそれが俺だったら?』
『辻斬りでメッタメタにする♪』

 あ、あははは……ガメさん落ち込んじゃった。まぁ、ノルンとは歳も近いし、お祖父ちゃんの所でもよく一緒に居たりで仲は良いしね。それでこうして旅にも付いて来てくれたし。
 ノルンとガメさん、それに僕もだけど、元々はゲンジお祖父ちゃんに拾われたポケモンなんだ。
 お祖父ちゃん、元はトレーナーだったんだけど、引退した後は新人トレーナーの育成をしたり、訳ありのポケモンの世話をして生活してたんだ。
 僕は、どういう訳か卵から孵ったら親も居なくて、一匹で宛ても無く放浪してるのをお祖父ちゃんに保護された。ガメさんは別のトレーナーに捨てられて、ノルンはアブソルだって事で人やポケモンから爪弾きにされて行き場が無くなってるのを、それぞれお祖父ちゃんに助けられたみたいだよ。

「さて、僕もシャワー浴びてこようかな。ガメさん達は……言われなくても寛いでるね」
『何かする事がある訳でも無いからな』
『あ、パロ。テレビとか見てていい?』
「いいよ。でも、リモコンとか壊さないでよ?」
『はーい』

 ……今はどっちも立ち直って、こうして僕と一緒に旅をしてくれてる。まぁ、ガメさんはカメックスになった後に野生になって、人のトレーナーに狙われる位なら僕と一緒に行く方が数倍良いって理由からで、ノルンは他のトレーナーの所に行ったり野生に戻るのは嫌だって言って、付いて来たんだけどね。
 うん、汗も流せたしさっぱりした。炎タイプなのにシャワー浴びるのは大丈夫なのかって聞かれそうだけど、やっぱり人前に出るんだから身嗜みは必要だし、炎タイプだからーなんて言ってられないもんね。それに、慣れたら別段問題無くお風呂とかも入れるようになったし。
 仕上げに腕の火をちょっとだけ出して体を乾かす。ドライヤー要らずだからこの辺は楽なんだよ。

「ふぅ、さっぱりさっぱり」
『おぅ、お疲れ』
『こうやって見ると、やっぱりパロは他のバシャーモとは違うよねー。シャワーとか全然怖がらないし』
「炎タイプが水が嫌いって、結構イメージとかの所為もあると思うよ? 慣れちゃえば平気平気」

 なんて今なら笑って言えるけど、アチャモの頃はどれだけ温かくてもシャワーから出る水が怖かったっけな。慣れって凄いよね。
 さてと、後は休むだけだし、軽く明日の予定でも確認しようかな。ノルン達にも、今なら出したままに出来るから説明出来るしね。

「さーてと、明日はフエンに着かないとね。フナさんからアスナさんへ、僕が旅に出たのは知らされてるだろうし」
『アスナか、確かフエンのジムを継いで今はジムリーダーをやってるんだったか』
『ここからだと結構歩くんだったっけ?』
「うん。あ、そうだった。確か地図もナビで〜っと」

 ポケナビを開いて、マップナビをタッチする。そう言えば、地図とか貰うの忘れてたな。

『その機械は……ポケモンマルチナビとか言うのだな? 持ってたのか?』
「ううん、今日テッセンさんに貰ったんだ。地図とか色々な機能あるし、便利で助かるよ」
『ふぅん、私にはよく分からないわ。あ、でもそれが地図なのは分かるわ。えっと、キンセツがここで、フエンはここね』

 ナビの画面を覗き込んできたガメさんやノルンにも見易いように持った。ノルンはそんな事しなくても、ベッドに腰掛けてる僕の背中に回り込んで、肩越しに見てるんだけどさ。

『通るのは、111番道路と112番道路だな。朝から出れば、邪魔が入らなければ昼前には着きそうだな』
「バトルなんかを挟んでも、夜までには着ける筈だよ。人が大勢居る訳でもないし、ノルンを出したままにするのも試せるね」
『試さなくたって、暴れたりなんかしないよ。ま、パロの邪魔する奴が居たら、くしゃっとしてもいいけど』
「しなくていいったら……って言うか、なんで僕に乗ってるの」
『あったかいから』
『相変わらず仲良いなお前ら……』

 ちょっとガメさんが寂しそうにしてる気もするけど、これは悪いの僕じゃないよね?
 とにかく、明日はフエンだ。アスナさん、多分待ってるんだろうなぁ……。

----
〜後書き〜
 という訳で、始まりましたトレーナーになったポケモンの物語。実際、アニポケのニャースとかを見てるといけるのでは? なんて考えから生まれた作品だったりします。
 ホウエンを舞台に始まったバシャーモ、パロの物語、お付き合い頂ければ幸いです!

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