&size(25){ドラゴン・ソウル 序}; 作者:[[カナヘビ]] ※この作品には流血及び死亡表現があります ---- 雲に覆われ、薄暗い景色が広がる大地。 荒廃した大地は黄土色に荒れ、ごつごつした地表がえんえんと地平線まで続いていた。 そこにポツンと建つノッポな塔。20メートルはあろうかというその塔は、その存在だけで異彩を放っていた。 そして、その周りでひしめく無数のドラゴンポケモンたち。大地を埋め尽くさんばかりにうごめくその集団は、今まさに塔への侵入者と戦っていた。 護るものが多勢なのに対して、侵入しようとしているのはたった3体だった。 「くそ、きりがない!」カイリューがドラゴンクローを連発しながら言った。 「本当ね!」そばにいたチルタリスが竜の波動を放ちながら言う。 「ったく、何体いるんだよ!」近くのガブリアスがドラゴンダイブを敵にかましながら言う。 敵はあまりにも大勢だが、3体はほとんど押されることなく互角に戦っていた。無数の逆鱗や流星群すらも彼らは軽くあしらっていた。 あたり一面ドラゴンタイプ。ボーマンダ、フライゴン、クリムガン、サザンドラ、そして彼ら3体と同じ種族。ドラゴン技が飛び交う戦場は、遠くから見れば小さな戦争にさえ見えた。 「あぁ、じれってぇな!相手してられるか!」ガブリアスは叫ぶと、辺りに逆鱗をまき散らしながら軍勢を強行突破し始めた。 「あ、リガー!」カイリューが気づくも、すでに彼ははるか遠くまで行っていた。 「さすが非伝説ドラゴン最速ね」チルタリスが周囲の相手をしながら言った。「ケレル!あたしたちは空から行きましょう!」 「そうだな!ちょうどザコの相手にも飽きてきたところだ!」 2体は一瞬で飛翔した。普通ならば飛翔の準備が必要なのだが、彼らはそれを含めても飛翔までに1秒かかってなかった。 飛行中にも遠隔攻撃が飛んでくる。竜の波動、怒り、息吹といった技が飛んでくるが、2体は余裕でよける。 やがて、空を飛べるドラゴンが追いかけてきた。 「気を付けろリプス!種族値の上じゃあいつら全員俺らより速いぞ!」ケレルが忠告する。 「そうね。98や100に対して80だもの。でも、全力を出せば大丈夫でしょ?」 「当然!6Vをなめんなよぉ!」 2体は一瞬で加速し、追手のドラゴンを全て突き放した。 地を這う咆哮。入り乱れる怒声。全ての騒音も、彼らの前では蚊の鳴く音に等しかった。 まもなく塔の前に着地した。そびえ立つ塔は下から見るとかなり高く見えた。 「飛んでくのは無理ね。階段から行きましょう」リプスが提案する。 「ああ、そうだな」ケレルは賛同した。 2体はその足で一歩ずつ進んでいく。既にリガーが通った形跡があった。 「やっと…、やっと終わるんだな」ケレルは言った。 「そうね。ガゼルドを倒したらね」リプスが返す 「何言ってるんだよ!?俺たち6Vだぜ!?しかも先にリガーが行ってる。弱点のドラゴンが3体もいるんだ!勝てるに決まってる!」 「でも…」リプスが言葉に詰まる。「あたし達、ガゼルドの強さ知らないでしょ?もしかしたらすごく強いかもしんない…」 「今まで結構敵を倒して来たじゃないか!大丈夫さ!俺たちは虫ポケじゃないんだ!勝てるさ!」ケレルは自身満々に言った。 「そうよね…。そうね」リプスは頷く。「ねえ、ケレル」 「なんだ?」 「あのね、その…、えと、この戦いが終わったら…」 「終わったら?」 「あたしと…」 「リプスと?」 「……いえ、なんでもないわ。なんでも」 「気になるけど、まあいいや。さ、行こう」 2体はその後黙々と進んだ。塔の螺旋階段は異常に長かった。 そして、開けた屋上に出る。 「!!」2体は驚いた。 前方に立ちはだかる黒いオノノクス。倒れているリガー。 「リガー!」 2体はすぐさま駆け寄ったが、少なくとも生きてはいた。しかしかなりのダメージを負っているように荒い息をしていた。 「ようやく仲間が来たか…。待ちくたびれたぞ」オノノクス…ガゼルドが言った。 「リプス、リガーを頼む」ケレルは言って進み出た。 対峙した2体のドラゴン。巨大な二つの体躯が向かい合う。 「ガゼルド・ハクソラス。俺はお前を倒すためにここに来た。覚悟してもらおう」ケレルは言った。 「勝つ気まんまんだなあ。覚悟だと?する必要はねえさ…」ガゼルドは余裕の表情を見せた。「オレサマは、やられもしなきゃ、負けもしねえ」 「どうかな?」ケレルは竜の波動を放つ体制に入る。「種族値的には確かにこっちが下さ。だがな、俺は6Vだ。そんじょそこらのカイリューと一緒にすんなよ?」 「そうかそうかそれはやっかいやっかい…で?」ガゼルドは棒読み口調で言った。「だからなんだ?このオレサマに勝てるのか?」 「……!」あまりに余裕の表情にケレルは怯んだ。「何をたくらんでいる?」 「何を、だと?勝つための画策に決まってるだろ?誰だって、勝つことが決まってるときは思わず笑いを漏らすものだろ?」 「なんだと…?」ケレルはにわかに汗を浮かべる。 「つまり、オレサマが勝つことは決まってるんだよ」 ガゼルドはその華奢な指でケレルを指差した。 否、彼の後ろを。 ケレルは振り返った。 そこにあった光景。 リガーが立ち上がっていた。先ほどの荒い息はどこへいったのか、元気そうだった。リガーはその立派な手首のヒレを突出し、リプスの首に突き付けていた。 リプスの首に、突き付けていた。 「!?」ケレルの顔は驚愕の表情へと変貌する。 「リガー、何を…!!」ケレルは思わず言った。 リプスは恐怖に体を震わせていた。首筋から一筋の血が流れる。 「悪いな、ケレル。これがオレの正体だ」リガーは言った。「ガゼルド直属の部下にして、諜報員だ」 「なんだと…!」ケレルは思わず足を踏み出す。 「おっと!」リガーはさらにヒレを密着させる。「近づくなよ?リプスのこの綺麗な首に切り傷を残したくなかったらな」 「お前…!!」ケレルは歯を食いしばる。 「ケレル…」リプスは涙を流していた。 突如、背中に走る強い衝撃と痛覚。 ケレルは耐え切れずに吹き飛ばされた。 「うわっ!」ケレルはリガーを飛び越えて不時着する。 ガゼルドが逆鱗を放ったのである。凄まじい攻撃力を誇るオノノクスの逆鱗など、ケレルとはいえ耐えられるわけはなかった。 「くっ…」かろうじて目を開けると、目の前にはオノノクスが漫然と立っていた。 「3体なら勝てると思ったろ?残念でした。オレサマには優秀なスパイがいたのだよ」ガゼルドは笑いをこらえているようだ。 ガゼルドは手を天にかざし、気を高める。ドラゴンクローの構えである。 「危険な要素は、相性以外の弱点をついて倒す。それがオレサマ流」ガゼルドは言った。 ケレルはガゼルドの後ろの2体を見た。相性以外の弱点。それを利用し、自分たちを陥れたポケモン。 それは、親友だと思っていた、かけがえのない存在。 ドラゴンクローが振り下ろされる。 走馬灯。 冒険。友情。妥協。喧嘩。談笑。共闘。 欺きのための、偽りの感情。 「裏切り者ぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!!!」耳をつんざく、自分の声。 鮮血が飛ぶ瞬間。甲高い悲鳴が聞こえ、意識が遠のく。 激痛が身体を覆い、意識はそこで沈んだ。 いやだ 死にたくない まだ やらなきゃいけないことが 世界を 救わないと …… 続く ---- あとがき メジャードラゴンのオンパレードじゃないか!と思った方。ご安心ください!次回以降はドラゴンはほとんどといっていいほどでません(笑) もちろん、主人公はケレルです。ここから先、彼とナシュルの森がどう関係してくるか、お楽しみにしておいてください。 ただ、みなさんが想像しているような展開には絶対にならない自信があります。死んだケレルがなぜ主人公か?実は題名にも伏線を仕込みました。そんじょそこらの厨二題名ではなく、ちゃんと意味があります。みなさんの予想のはるか斜め上を行く意味が(笑)。 次回の舞台は当然ナシュルの森。期待せずお待ちください。 #pcomment(ドラゴンソウルコメントログ,10) IP:114.51.90.252 TIME:"2012-04-09 (月) 21:30:45" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%B4%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%BD%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%80%80%E5%BA%8F" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; Trident/5.0; YTB730)"