ポケモン小説wiki
ドラゴンを追いかけて の変更点


 ポケモンの世界。そこでは十歳になると、人はポケモントレーナーとなることが許される。旅をするも、穏やかな生活を送るもポケモンと一緒だ。人とポケモンは互いに手を取り合い、助け合いながら生きている。互いに無くてはならぬ存在と認めた彼らの前には人とポケモンという種族の壁などなく、あるのは良きパートナーとして信じあう絆だ。
 そんな世界に、緑に囲まれた自然豊かな村がある。そこにいるのは、白いシャツに水色のミニスカート、右手に大きな虫取り網を持ち、草むらで寝転がりながら広大な海原の如き空から燦々と降り注ぐ太陽を体いっぱいに浴びるちょっと野性的な少女がいた。名はユウナ。まだ九歳だ。
 自然に満ちたこの村を走り回り疲れたのだろう。目を閉じ、両腕を広げて寝ていたそんな彼女の上を通り過ぎて行く者がいた。口の中からその姿を覗かせる鋭利な牙、頭から左右に生えた合計六本の角、力強く羽ばたき大きな体を浮かばせる真紅の翼、大海の如き青色をした長く強靭な尻尾。そう、それはドラゴンポケモンだ。
 陽光の温もりを感じなくなったことに気付きはっと目を開けたユウナは、太陽の光を遮り、自らに影を落として飛び去る見たことのない巨大なドラゴンに目と心を奪われていた。
 “あんなかっこいいのを仲間にしたい”。まるで宝石のような輝く笑顔を浮かべ、心の中でそう語ると、思い立ったが吉日とでも言うようにそのドラゴンを追いかけて走り出す。疲れていたことなど何処吹く風。今、ユウナの目にはあのドラゴンしか映っていないのだ。未知なる出逢いに胸を躍らせ、待てと叫びながら地を蹴り続ける。
 こうして始まった追いかけっこ。そう、これは少女ユウナとドラゴンの出逢いの物語である。





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作者 [[クロス]]


 ドラゴンを追いかけ、木々の生い茂る森へとやってきたユウナ。現在時刻は午後二時を回ったところでまだまだ明るいはずなのだが、木の枝が伸びて葉が茂り、蔓の伸びたこの森は白昼でも薄暗くなっている。
 しかし、そんなことなど気にもかけないユウナは時折“ドラゴン出てこい”と叫びながら、虫取り網を片手に悠々と森の奥へと歩みを進めていく。その姿は“一人探検隊ごっこ”とでも言うべきもので、彼女が可愛らしい少女であることを忘れさせる、男の子のような行動である。

「おーいドラゴン。あたしが仲間にしてやるって言ってんじゃんか。早く出てこいよ~」

 森の中で聞こえるのはユウナの声ばかり。彼女が黙っている間は、森の中を流れるせせらぎの穏やかな音色が響き渡るのみで、彼女の呼び声に“ここにいるぞ”とドラゴンが応えるはずもなく。先程まで元気いっぱいに叫んでいたかと思うと、頬を膨らませて不機嫌な表情を露わにする様子は、彼女がまだ幼子であることを端的に表していると言えるだろう。
 そんな彼女が、なかなかドラゴンが見つからない腹いせに一本の木に蹴りを入れる。運よく木の上にいたドラゴンが落ちてくるかもしれないとでも思ったのだろうか。世の中そんなに甘くはなく、それどころか不快な羽音が聞こえてきたではないか。その木はどくばちポケモン・スピアーの巣だったのだ。
 巣を荒らしに来た外敵と勘違いし、集団でユウナに襲いかかるスピアー。それを見て肝を潰し、ひたすらに逃げ惑うユウナ。動かなくても、喋らなくても木も生き物。乱暴を働けばこんな痛い目に遭ってしまうのだ。



 一方ユウナが追いかけているドラゴンは切り立った崖の上にへたり込むように座って目を閉じ、翼を折りたたんで疲れた羽を休めていた。このドラゴンの正体はボーマンダ。ちなみに♂である。
 彼は進化したことで得た真紅の大翼を自慢するかのように、今どこへともなく飛び回っている最中だった。ボーマンダという種族は如何なる飛行ポケモンよりも空を飛ぶことそのものを楽しむという特徴がある。その特徴に彼も例外なく当てはまっており、目的地の無いフライト旅行が楽しくて仕方がないのだ。

『な、なんだあれは……?』

 その時、羽休めをしていた彼に突然何かの集団が目に入る。眉間にしわを寄せ、目を凝らして見ると、崖の下で黄色のポケモンが群れで何か大きく丸い物体を追いかけているではないか。その様子は彼にとってどうと言うことでもないが、先程から“追え”だの“助けて”だのといった叫び声が鬱陶しい。
 のんびり羽休めもできないのかと呆れて溜め息をついたボーマンダは、たたんでいた紅蓮の翼を伸ばし羽ばたかせると、四肢に力を入れて飛び上がり崖下へと向かう。地上間近まで迫ると、その立派な翼を忙しく羽ばたかせ、砂を巻き上げる風圧を起こす。巻き上がった砂に押されるようにポケモンの群れと謎の物体が、ボーマンダを中心に左右に別れるのと同時に、彼は鋭い爪を生やした四つの足を地に付ける。
 いったい何者かと警戒心を強め、騒ぎ出したのはスピアーの群れ。敵を追いかけていたところによそ者のボーマンダが堂々と現れたのだから怒り心頭だ。ところが、そんな彼らの怒りを前にビクともせず、それどころか貫かれそうな鋭い視線で睨みをきかせるボーマンダの姿を目の当たりにしスピアーたちは仰天。
 そんな彼らに対し、ボーマンダは羽休めの邪魔をされた怒りを込めながら、鋭利な牙の生える口を大きく開き、そこから灼熱の“かえんほうしゃ”を撃ち放つ。虫タイプであり、炎攻撃を苦手とするスピアーがこれを受けて平気でいられるはずもなく、続けざまに放たれたボーマンダの凄みを利かせた咆哮もあり、彼らは尻尾を巻いて逃げだすのであった。

『さて、お前はなんであいつらに……』

「ふふっ、はっほふははへはほふはほん(へへっ、やっと捕まえたぞドラゴン)」

 スピアーたちを追い払ったことで、彼らに追われていた者に声をかけようとするボーマンダ。ところが彼の言葉は途中で遮られ、加えて大きな網が彼の頭にかぶせられる。そう、この追われていた謎の物体とはボーマンダを追って森にやってきた少女ユウナだ。やっと見つけたドラゴンを虫取り網で捕らえ、ご満悦の表情……ではなかった。
 スピアーの群れに襲われたことで、顔がまるでトマトのように腫れ上がっていたのだ。そこには少々野性的ながらも可愛らしい少女の顔はなく、ボーマンダの目には手足の生えたトマトの化け物にしか見えない。しかも、その化け物が自分に虫取り網をかぶせて目だけ笑っているのだから恐ろしいことこの上ないものである。

『消えろや化け物がぁー!』

 先程スピアーたちを追い払うのに使った業炎を口から放ち、虫取り網ごと焼く勢いで攻撃すると、トマトの化け物と化してしまったユウナはただの棒きれとなった虫取り網を投げ捨て、水色のミニスカートの裾を揺らしながら声にならない叫び声と共にその場から去って行った。





 翌日。一晩明かした崖の上の周辺を散策するように飛び回っていたボーマンダは、再び羽を休めるべく崖の上でへたり込んでいた。本日も晴天のため飛び回るにはちょうどよく、周囲を見て回れた彼は、明日にはここを離れてまた宛てのないフライト旅行を再開させようと考えていた。
 そんな彼の下へやってきたのがユウナだ。ちなみに彼女の装備は昨日と変わらず虫取り網のみ。端から見れば成長のないことに呆れるよりないが、そこは彼女が幼いということでご理解いただきたい。彼女は、今度こそ自分が追いかけてきたドラゴンを捕まえてやると意気込んでやってきたわけで、ボーマンダも彼女の気配に気付いて崖下に目をやる。
 ユウナはボーマンダを知ってやってきたわけだが、ボーマンダは彼女に見覚えがない。いったい誰なのかと内心不思議に思いつつ、ユウナの幼い外見からトレーナーでないと察しがつくため特に警戒した様子は見せないことにした。

「ボーマンダってかっこいいね」

『えっ?』

 突然の彼女の褒め言葉に、何処のガキが羽休めの邪魔をしにきたのかと思っていたボーマンダはほんのりと頬を紅く染める。彼の過去および現在において異性との付き合いはなく、仮に人間からでも“かっこいい”と言われることには照れてしまうのだ。
 昨日トマトの化け物と認識したものがこの少女であることを知らないボーマンダは、見知らぬ少女からの思いがけない言葉に困惑の表情を隠せない様子。しかし、この後続く少女の言葉にボーマンダの態度は一変する。

「昨日は助けてくれてありがとね。あんた強くて優しいから、あたしの仲間になれ!」

『いきなりあんた呼ばわりかよ! つーか、お前が昨日の化け物か。このくそガキが!』

 幼い少女とは思えない生意気な口ぶりに、ボーマンダの紅く染まりつつあった頬は、照れではなく怒りで決して鮮やかではない濃い赤色に染まる。しかし、頭から湯気を立てるような彼の怒りの言葉は彼女には咆哮にしか聞こえず、それを聞いた彼女はその迫力にますます惚れ込み、意地でも仲間にしてやろうと意気込む。
 人とポケモンゆえに言葉が通じないため意思の疎通がまったくできておらず、ボーマンダの意図に反して満面に笑みを浮かべているユウナは、もう一度ボーマンダを網で捕らえるべく崖をよじ登り始める。その思いがけぬ行動にボーマンダは先程の怒りを忘れ、目を見開いて驚愕の表情を見せるも、同時にその口からは呆れからくる溜め息が漏れる。
 “どうせ登れるわけがない”。大人だってそう易々とは登れないであろうこの崖をよじ登ろうとするユウナに対しそう思っていたボーマンダは、相手にしていられないとばかりに無視を決め込んで再びへたり込む。ところが、彼女の声はだんだんと近づいてきており、まさかと思い再び崖下に目をやると、もう半分ほどの高さまで登ってきているではないか。
 予想だにせぬ少女の身軽さに驚き呆れるも、半分から先がより急になっているため途中で諦めるに違いないと思い直し、深呼吸をしたあとリラックスした体勢で目を閉じる。
 案の定と言うべきか、いくらも経たぬうちに少女の号泣する声が耳に入ってきた。大方登ってきたはいいものの、その先が急で登れず、また高所から下を見下ろした恐怖で降りるに降りられなくなってしまったのだろうと思い再度崖下に目をやると、やはりその通りでちょうど崖の半分の辺りで少女が目を真っ赤にしながら泣き叫んでいる様子が目に入る。
 生意気なガキは助けてやればまた調子に乗る。先程のやり取りでそれが分かっているボーマンダは、もう関わっていられないとばかりに真紅の大翼を羽ばたかせその場を去ろうとする。ところがどうしたことだろう。耳に入ってくる少女の泣き声で心が乱れているのか、頭の中が、少女が泣き叫んで助けを求める姿でいっぱいになっていくではないか。
 自分もお人よしで不憫な奴だと溜め息を漏らしつつも、その場から逃げることを諦め、彼は少女の近くまで移動し翼を忙しく羽ばたかせてホバリングすると、器用に尻尾を崖にぶら下がる少女の胴に巻きつけて保護し、そのまま高度を下げて地上へと降り立つ。そしてようやく少女が泣きやむと、ボーマンダは安堵の息をつく。
 と、その時だった。突然ボーマンダの視界に網目状の何かが現れる。言うまでもなくこれは虫取り網で……

「ドラゴン、また助けてくれてありがとう」

『網をかぶせながら礼を言う奴がいるかボケ! どんな教育受けてんだこのくそガキ!』

 人に限らず、ポケモンにも教育がある。それは主に親から教わるもので、生き抜くための知恵だったり、他者との接し方だったりと人間のそれとあまり代わり映えしない。その教育を親からしっかり受けているこのボーマンダにとって、ユウナの行動は理解し難い……と言うよりしたくなかった。腹立たしいだけだ。
 すぐに網を破るべく猛火を口から放つと、ハトが豆鉄砲を食らったような表情を浮かべながらユウナは森の外へ向けて走り去って行ってしまった。





 そして翌日。この日の空はややぐずつき模様だが、雨が降るほどではない。気温が晴天の日に比べてやや肌寒いが、飛ぶのに支障が出るほどでないと判断したボーマンダは、この日別の土地へ向かうことを決めていた。森にある豊富な木の実を食すことを終え、あとはこの小川の水を飲んで喉を潤したら出発だ。
 そう思って森に清らかな音色を響かせるせせらぎに首を伸ばし、その清水を口に運ぼうとした矢先、突然背中から翼にかけて激痛が走る。攻撃を受けたことによる衝撃で彼の体は小川へと投げ出されてしまい、押し飛ばされた彼の体に小川の水は弾かれ、周囲に飛び散って地上にいくらかの水たまりを作る。幸い彼が巨体であることと、川底が浅いおかげで沈むことはなかったが、体温が急激に低下し、体がまるで鉛のように重い。
 しかし、不思議なことに川の水がぬるいものに感じられる。直後、襲撃者に対抗するため翼を羽ばたかせ川から飛び上がろうとしたとき、ここで水の温度がぬるく感じる理由に気付く。その理由とは自身が氷技を受けたためで、川の水は氷に比べれば温かいからだ。翼が凍ってしまい動かないと分かれば、這い上がって川から上がるよりない。
 ドラゴン・飛行というタイプ上もっとも苦手とする氷技を受けたことによるダメージの大きさに耐え、重い体に鞭打つように必死に川底から這い上がって顔を上げると、そこには黒ずくめの服を着た中年の男一人と、そのパートナーと思われしアイスクリームのような見た目の氷ポケモン・バイバニラが不敵な笑みを浮かべて彼に目を向けていた。
 その男は密猟者であり、森に棲む珍しいポケモンを捕まえて売りさばこうとやってきたところボーマンダを見つけたのだ。ボーマンダは数少ないドラゴンタイプであり、珍しいポケモンと言える。それ故捕獲が困難なのだが、この男はたまたまドラゴンポケモンが苦手とする氷ポケモンをパートナーとしていたのだった。

「無駄な抵抗はすんなよ。下手に動けばこいつの“れいとうビーム”で氷漬けにしてやんだからな」

『イヒヒ、氷漬けにしちゃうぞ』

『(くそっ。体が重すぎる。これではまともな威力で技も出せない。今抵抗してもやられるだけか……)』

 男に対し鋭い矢の如き視線を向けて抵抗を試みるも、男の言葉に恐怖し、抵抗しても無駄と判断したボーマンダは抵抗の意思がないことを示すべく力なくへたり込む。そんな彼を蔑むようにあざ笑う男とバイバニラ。ボーマンダは歯を食いしばり、目をぎゅっと閉じて彼らの魔の手が迫る恐怖を押し殺す。今は駄目でも、必ず逃げるチャンスが来るはずだと信じて。
 その時だ。近くの茂みから突然子供の拳ほどの大きさの石の礫が飛んできたではないか。その礫はバイバニラの背後を襲って彼を小川の中へと押し飛ばし、続けざまに男の後頭部を襲って彼らを小川の中へと追いやってしまう。
 突然の水が弾ける音に驚いて目を開いたボーマンダは、眼前に広がる様子を見て今がチャンスと判断し、男たちが川に落ちている隙に体を小刻みに震わせて熱を生み出してわずかではあるが体温を上昇させる。そして礫が飛んできた茂みをちらりと伺うと、そこには虫取り網を手にした、昨日まで自分を捕まえようとやってきた生意気な少女ユウナの姿があった。二度に渡り彼女を危機から救ったボーマンダだが、今回は彼女に救われたのだ。
 その事実を思い彼女に苦笑いの表情を向けるも、ボーマンダはすぐさま川に落ちた男たちへと視線を移す。自慢の翼に苦手とする氷技の“れいとうビーム”を受けたためにまだ飛べるほどは回復していないが、敵が川に落ちて動きに制限がある今なら十分反撃できる。大空のように青く強靭な四肢と尻尾で体を支えて踏ん張り、鋭利な牙を覗かせた口腔内から業火を吐き出した。これには先程強気でいた男も腰を抜かし、また相性の関係上炎技を苦手とするバイバニラも炎を恐れて水の中から出られない。

「いいぞー! やれやれー!」

『(お前に命令される覚えはねえっつの……ま、いいか)』

 目だけを動かし隣を一瞥すると、ユウナが無邪気に飛び跳ねながら自身を応援している。まるで既にボーマンダを仲間に加えたかのような素振りにやや呆れるも、助けてもらったこともあって構わないでおくことにした。
 そしてしばらく炎を吐き続けた後“かえんほうしゃ”の技を中断すると、火炎を恐れて水中に潜り続けていた男とバイバニラが水中から顔を上げる。彼らは長時間潜らせ続けられたためすっかり息も絶え絶えであり、やっと陸に這い上がったかと思うと気絶してしまった。
 その様子を見て安堵の息を漏らすと、ボーマンダは傷の癒えぬ体をユウナに向け、言葉が通じないと知りながら礼を言おうとする。ところがその時、彼の目の前が網目状の何かに覆われてしまう。これは言うまでもなく……

「やったードラゴンを捕まえたぞ! あんた、あたしの仲間になれ!」

 ボーマンダの頭を虫取り網で覆ったことで捕まえたと認識し、その後網を手放して両手を上げて万歳をしながら飛び跳ねて喜ぶユウナ。そんな彼女を見て、彼はやれやれと言ったように溜め息を漏らす。“もう怒る気もしない”と思うボーマンダ。それは彼女に対する呆れからくるのか、それとも……

『誰がお前の仲間になんかなるもんか。お前が俺の仲間になれ!』

 通じない言葉でそう彼女に向かって叫ぶと、それが咆哮にしか聞こえないはずの彼女が飛び跳ねるのをやめ、ボーマンダに向かって笑顔で頷く。それはまるで目の前に美しい花畑が広がったようで、彼女の笑顔と予想外の行動にボーマンダの胸は熱くなる。
 自分を追いかけてこんな幼い少女が危険を省みず何度も森へとやってきた。そして三度目になる今日、突如襲いかかってきた密猟者に微塵も恐れることなく立ち向かい自分を助けてくれた。初めはただの生意気なガキだと思っていた彼女の印象が少しずつ変わっていき、今目の前で笑顔を咲かせる彼女は、冒険心と常に前向きな気持ちを忘れない何かとても偉大な存在のように思え、彼は己にとって彼女が無くてはならない存在となっていることに気付き始める。
 そう思うとボーマンダも幸せな気持ちになり、頭に網を被せられていることなど忘れて笑顔と言う名の花を咲かせる。きっとユウナも自分をかけがえのない存在と思っているだろうと信じて。










 あれから数年後。

「ごめ~ん。待たせちゃったね」

「ああ、待った待った。これだからお転婆娘は困る……」

 白のブラウスに水色のミニスカートを身に着けた短い茶色の髪の少女が、大空の如き青色の巨体を持つドラゴンに走り寄り、軽い身のこなしで颯爽とその背に乗り込む。
 胸が膨らみ女性的な体型になった少女と、口の中から鋭利な牙を覗かせ、真紅の翼と長く強靭な尻尾を持つドラゴン。一見不釣り合いに見える二人だが、そのやり取りには親しみ慣れた明るく軽い雰囲気が漂う。
 少女はドラゴンにまたがると、その首を左手で二度優しく叩く。それに反応してドラゴンが首を回すと、少女は不満げな表情でドラゴンを見つめる。

「なーんか言ったぁ?」

「はいはい、何でもありませんよお姫様」

 少女の顔色を伺って、彼女が何を言いたいのか悟ったのだろう。ドラゴンは首を前に戻すと、溜め息を漏らしながらやれやれと言った様子で彼女の機嫌を取る。

「それでよろしい。さっ、行くよ! ほら、もたもたしない!」

「もたもたしたのはお前だろうが! まったく……こんな特別扱いはユ、ユウナだけだからな!」

「フフフ、ありがとうバウム。あんたもあたしの特別だよ」

 “バウム”と言う名のドラゴンが再び長い首を後ろへ回し、“ユウナ”と呼ばれる少女と視線を合わせる。そして互いに至福の表情を浮かべると、ドラゴンは真紅の大翼を羽ばたかせ、少女と共に海原の如き大空へと舞い上がる。
 あの日少女はドラゴンを追いかけ、ドラゴンは少女に追いかけられた。その二人は今、互いに手を取り合い何かを追い求める。彼らの行く先に何が待ち受けているのか、それを知る者は誰もいない。だからこそ面白いのだろう。人もポケモンも、生きている限りずっと出逢いを、ときめきを追い求めるのだ。それこそが今を生きるということなのだから。





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''あとがき''
まず、最後までお読みいただき誠にありがとうございます。今回初の短編小説に挑戦してみようというわけで書いてみましたが、お楽しみいただけたでしょうか? 拙い文ではありましたがお楽しみいただけたなら幸いです。
このお話は長編と違い企画を温めていたわけではなく、ふと思いついた幼い少女と大きなドラゴンポケモンという、一般イメージ上では対とも言える存在のやり取りが書きたいと思い筆を走らせました。とは言え、一般的なそのイメージをそのままに書くのはつまらないと思い、少女側はややぶっ飛んだ感じのキャラに仕上げてみました。
ボーマンダのほうは割とシンプルでよく見かけそうなキャラにしましたが、野生的でぶっ飛んでいるとは言えあくまで幼い少女であるユウナと絡ませるにあたり、どこかお人よしで、ユウナを助けるかどうかと言ったちょっとした迷いも交えて書くことで、純真無垢で心情にあまり変化がなく心情描写の書きづらいユウナと役割分担をしてもらいました。
なお、ボーマンダの台詞が『』からラストのみ「」に変化していますが、数年間の間に絆を深めることで言葉が通じるようになったという意図した演出です。
起承転結を意識しつつ書いたものの、まだまだこれと言った手応えを感じるには至っていませんが、これからも長編だけでなく、また機会を見て短編も書いていけたらと思います。二度目になりますが、最後までお読みいただきありがとうございました。

よろしければ誤字脱字の報告や感想、アドバイスを頂きたいです。
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