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トラベラー   第3・4・5章 紅蓮 の変更点


筆者[[フロム]]

注意!今回の第5章には
  &color(red){流血、死亡表現};があります。
      免疫のない方、健全な良い子のみなさん帰りましょう

 
 
 
 
 
 



 
 
 

 
  
**トラベラー第3章 砂漠の行商 [#f32f2a92]



 
置いてあった鏡の前に立ち、自分の姿を見てみる。
やっぱり黄色い体にギザギザ尻尾、全部夢だったかと思ったけど現実なんだな…。
でも昨日とは違って、左手の人差し指に包帯が巻かれている。それを見て少し苦笑とため息をもらす。 
あの料理教室で切った傷はあんまり深くないけど、ちょっと痛い気がする。
昨日はまな板が真っ赤になったのを見てくらくらしたけど、今は指に巻いてある包帯を見るとくらくらする。
そこまで大したことではなかったんだけど二人して大騒ぎしてたから疲れた。
「指は大丈夫かい?」
「昨日は大げさに騒ぎすぎましたね…」
 
 「包帯はどこじゃ!?」ガタガタガタガタ!ゴトゴト!
 「血がぁぁぁぁ!」
 「ああ救急箱ー!どこじゃー!」バタンバタン!ガチャガチャガチャ!
 「ま…まな板が…!」
 「ひっ!真っ赤に染まっとる!」
 ゴトゴトガチャバタゴチャガタガタゴト!

 
「確かに…ちょっと取り乱してしまったの」
おかげでちょっと寝不足気味。
いつまでも流血料理教室のことばかり言っていてもしょうがない。
「ばば様、昨日言っていたナグフってどうやって行けばいいんですか?」
「おお、そうじゃった言っていなかったの、ナグフはここから…」
         ガラガラン!ガランガラン!
話の途中で、外から大きな鐘の音が聞こえてきた、何だろう?。
「商人が来たみたいじゃ、ちょっと一緒に来ておくれ」
こんな砂漠の中まで商売に来るんだ…商人魂ってすごいな。
ばば様と一緒に外に出て見ると、見慣れない牛のような生き物の引いた大きな行商荷台があった。
「あの荷台を引いてる奴は、無族((ゲーム中のノーマルタイプと同じ))のケンタロスって言う種族なんじゃ」
ケンタロスか、覚えることはたくさんあるな…。荷台の中から、赤いトサカのある鳥((ワカシャモ))のような人が出てきた。
「久しぶりじゃの ルシャ 、元気にしとったかの?」
あのトサカ鳥の人はルシャさんって言うのか。
「久しぶりって言っても10日ぐらいしかたってないじゃねえかい」
「歳を取ると人恋しくなるもんなんじゃよ」
「そんなもんか…まあいいや、ところでばば様の後ろにいる子供、ばば様の孫…じゃないよな?」
僕のことか、けどばば様って何歳なんだろ?。
ばば様がふふふと笑ってからこう答えた。
「この子は「勇者様」じゃよ」
「勇者ぁ?このちっこいのが?」
ルシャさんは僕の頭をくしゃくしゃと掻いた。
「本当じゃよ、6日前には水晶のお告げに出てきて、今はわしの目の前に居るのじゃ」
「そういうことだって思っとくことにするよ、それより何か足りなくなった物とかは無いかい?」
これこれと…あとはあれがないの、こんなのもあるけどどうだい?
 
 
 
二人は商談に入ってしまったのでやることもない。
ただ待っててもつまらないので、さっきのケンタロスという動物の所に行ってみた。
眠いのだろうか?ケンタロスは大あくびをしている。近づいて行くと話しかけられた。
「なあ、まだ話は終わらなさそうかい?終わらないのなら寝てたいんだけど」
「あなたみたいな人も話せるんですね…」
ちょっとびっくりした、馬車につながれた馬はいつもこんなこと思ってんのかな…。
「?」
「あ、いや何でもないです」
ケンタロスは自分には全く当り前のことを聞かれたので首をひねっている。
「あの、こういう仕事つらくないんですか?」
「ああ…まあつらいかな、でも俺は手先が器用じゃないから、この仕事の方が性に合ってるんだよ」
たしかに、蹄だし。
「結局、好き嫌いはどうでもよくなってくるんだよ、働かなきゃ食って行けないから。でもルシャとは話が合うから結構楽しいよ?」
大人って大変だな…。
母さんに感謝しないと。
「でもさ、こんな仕事をやってる奴が居るから手先が器用な奴はカチャカチャやってられるんだよな。
 そう考えると俺らは結構役に立つことをやってるって思ってさ。意外と悪くもないんだ、この仕事」
最初はだるそうだったけど、今は笑いながらやりがいを話してくれている。
僕もこんなふうに笑いながら仕事をやって行きたいな。
「ユウト、戻ってきとくれ!」
どうしたんだろうか、ルシャさんとばば様のいる荷台の脇に走る。
「何ですか?」
「ルシャはこれからナグフに行くそうじゃ、一緒に乗せてってもらったらどうじゃ?」
「え?いいんですか?」
「坊主一人くらい乗せたって変わらんさ、ブルさんはパワフルだから」
ブルさんか、あんまり似合わない名前だな。あの人。
それにしても一人で砂漠を横断するなんてことにならなくてよかった…。
正直言って、まったくナグフの街にたどりつける自信がなかった。
「まかせとけ、出発するならできるだけ早い方がいいんだ、今すぐに出るがそれでいいか?」
やることは…無いな、もともと手荷物のひとつも持たずにきたんだし。
じゃあ、と言って荷台の座席に上ろうとした時、ばば様に呼び止められた。
「剣を持ってないじゃないか、取ってくるんじゃ」
たしか昨日寝る時にベッドの脇に置いといたんだっけ…。
「すいません、忘れ物したんで取ってきます」
座っていた座席から飛び降り、小走りにドアの前まで行き扉を開ける。
寝室にはひとつしかベッドはない、昨日は、ばば様が「客人は素直にもてなされておくもの」と言って、椅子に座り眠っていた。
脇を覗くと、思っていた通りにそこに剣がある。しゃがんで剣を持ち立ち上がる時に、窓に置かれている物に気付いた。
写真ではない、絵のようだがとても似ている。
そこにはばば様が描かれていた、今よりもずっと若い。
隣には人間に近い姿をした人が立っている、でも全体的に緑色で胸の部分からは赤いつのような物が出ている。
女の人のようにみえるが、多分男の人だろう。後ろには祭りか何かの後だろうか、飾り付けられた大きな木。
手に取って見てみる、長い年月の間ここに置かれていたのだろう、絵具の色があせて所々薄汚れている。
裏には「ジュナイル ウィル 創世の祭り後」と書かれている。筆跡からすると、ジュナイルが女の人の字のようだ。
じゃあジュナイルがばば様で、ウィルというのはこの絵でばば様の隣にいる人か。
創世の祭り?一体なんだろう…。
………考えても分かるわけもないか。
ルシャさんを待たせてるんだから早くしなくちゃ。
手に持っている絵を元あった場所に戻し、剣の鞘に着いたベルトを腰に付け、部屋を出る。


「遅かったのう」
「ちょっと探すのに手間取ってしまって」
ばば様は、はて?というような顔をした。
荷物もなにもないし、あの部屋に物がどこかに行ってしまうような場所もないからだろう。
「ユウトこれを取っておき」
そう言うとばば様は手に持っていた巾着袋((簡単な作りでできた布製の袋、物を入れてから紐でとじる))のような袋を手渡した。
手に持つと少し重く、ジャラジャラと音がする。
「これ、何ですか?」
「お金じゃよ、ユウトの世界では使われておらんかったか?」
使われてたけど、お金って言うとお札の方が思い浮かぶんだよね。
ジャラジャラって言うと1円玉がいっぱい!なイメージが…。
「分かります」
「計画的に使うんだよ、無駄遣いはダメじゃ」
でもこの袋の中のお金ってどのくらいなんだろう、結構重いけど…。
「じゃあさらばじゃ、小さき勇者よ」
「お世話になりました、ばば様ありがとうございました」
荷台の座席によじ登る、座席は木でできていたが余り座り心地はよくない。
「じゃあ改めて出発って言うわけだな」
「待たせてすいません」
「いいっていいって、じゃ ブルさん!ハイヨー!!」
鞭こそは打たなかったが、その掛け声は西部劇のように思えた。
砂煙をあげてドンドンばば様の家から離れていく。
しばらくしたら見送っていたばば様の姿も見えなくなった。
 
 
 
 
「いや勇者ってホントなんなんだろうな?」
「僕も分かんないです」
今はガタガタと揺れる荷台の上、ナグフに向かっている途中だった。
砂漠を走っているにも関わらずガタガタ揺れる。
地面が他の所より硬いのだろう。
ばば様は僕の「新しい素敵な名前」のことはさっぱり忘れてくれたようだ、よかったよかった。
しかし多少の違いはあっても、一面まっ黄色で殺風景だと本当に出られるのか少し心配になってくる。
「そんな心配はいらないさ、ここの地理は俺もブルさんも詳しいからな」
「どうしても迷ったら、ルシャが地図を持ってたから平気だよ」
地図があるんだ、でも砂漠の地図なんてどうやって作るんだろう?。
「見るかい?」
ルシャさんは座席の後ろにある荷物の山から、賞状入れみたいな筒をガサガサやってから取り出した。
手渡された筒を開けると、中には古びて端っこの方が丸まってる汚れた地図があった、ほこりをかぶってたから大分使ってなかったのかもしれない。
「……?」
丸まっていたのを開いてみた。
なんだこりゃ?全然精巧とかの話じゃない、落書きみたいだった。方位と目印のような物が下手くそに書かれてるだけで、僕にはさっぱりわからない。
「どうだ?、全然読めないだろ」
ルシャさんも持ってるだけで全く使う気はないんだろう、これじゃあ。
「ルシャさんは読めるんですか?」
「それを読むのはさすがにムリだな」
じゃあ意味ないじゃん。
「それは俺の勤めてる行商団の先輩からもらったんだよ、すごく絵が下手なんだ」
恐ろしく下手だな…このくらいなら小学1年生でも描けそう…。見てても読めないので、丸めて筒に押し込む。
ルシャさんに地図を入れた筒を渡すと、荷物の山に投げてしまった。
「地の利は我にあり、俺はガキの頃からここで遊んでたからな」
「危ないですよ」
今は頭の中に地図があっても、昔は右も左もわからないだろう。
「一回迷ったな、ホントに死ぬかと思った」
やっぱり。
「その時はどうしたんですか?」
「もう干からびちゃいそうだったよ、この砂漠は涼しいとこもあるけどそれは一部だからな。
 俺の迷い込んだとこは運悪く灼熱の砂漠だったからとにかく暑かった、周りが歪んで見えたよ」
歪んで見えるって…僕そんなとこに落っこちなくてよかった。
「んで、もう喉も乾いて疲れが限界に達してその場で倒れたまま動けなくなっちまったんだ、怖かったぜ、死ぬかと思った。
 意識が遠くなってきた頃、誰かが俺を見つけてくれたみたいなんだよ、走ってくるような音がした。
 それで安心したら急に気が抜けて意識がなくなったんだ、誰が見つけてくれたと思う?」
「お母さんとかお父さんですか?」
「残念違うよ、ばば様だったんだ、意識がない俺をあの小屋まで運んでくれたみたいだ。
 目が覚めたら俺は寝室のベッドの上で、ばば様は椅子に座って寝てた」
今と変わらないな、ばば様。
「散々怒られちまったよ、わしが通りかからなかったら…とか、命を粗末にするな!とか、あのときはおふくろよりうるさかったぜ。
その事があってからはちょくちょくばば様の所に行ってたから、自然に道も覚えちゃったんだな」
そんな事があったんだ。
ルシャさんが耳に口を近づけて、小声で言った。
「実は俺が行商を始めたのは、ばば様が買い物とかで困らないようにって思って始めたんだ」
親孝行、いやこの場合は「ばば孝行?」な話だなぁ。
「ばば様には言うなよ?恥ずかしいから」
「はーい」
でも後で言っちゃおうかな…。
「出る前にばば様から聞いたけど、種族も地理のこともなにも分かんないんだって?」
「来たばかりだから僕のこの姿のことも分からないです」
フュクルさんは雷族のピカチュウとか言ってたような気がするけど、その雷族とピカチュウってのがわからない。
「そっか…よし」
そう言うと、ルシャさんはまた後ろの荷物の山をゴソゴソやり始めた。
10秒ほどしたら、今度は紙とペンのような物を出してきた、何をするのだろうか。
「俺が絵と解説付きで説明してやるよ」
「絵、描けるんですか?」
「バカにすんな、絵ぐらいかけるわい」
先輩の落書き地図を見た後だから、ちょっと疑問だ。
「じゃあ見てろよ…」

 
 
 
 
**トラベラー第4章 交易街ナグフ [#t7a4aa10]
 
 


 
実物を見たことなかったけど、ルシャさんの絵は上手いと思った。
スラスラっと描いて、「これが〇族の〇〇っていうやつだ」と次々に説明してくれた、ざっと100数種類ほど描いたのではないだろうか、速い、そして上手、いい仕事してる。
雷族って言うのが意味分からなかったけど、説明でやっとわかった。
空間中に散らばる&ruby(エレメント){属性要素};を収束、変化、精製する能力によって分けられる。
雷族と言うのは空間に漂う熱の属性要素を、電気エネルギーに変化させることができるようだ。
何族かは体に宿る&ruby(エレメント){属性要素};と空気中の&ruby(エレメント){属性要素};を収束する力で分けられる。
だが例外はとても多い、炎族なのに属性要素を岩の技に変えることができるなんて人も多いそうだ。
さっき試してみたが、さっぱりできない。稲妻が出なければバチバチともパチパチとも言わない。
「じゃあ見せてやるよ」とルシャさんが深く息を吸ったと思ったら口から火を吐いた。
その一瞬は驚きもあったが荷台の上でそんな事をしたら燃え移るに決まってる。積み荷の布でバタバタ火を叩く消火活動でくたくたになってしまった。属性要素の収束とかは結構コツがいるみたいだ。
それからこの世界に流通するお金はポケ(P)と呼ばれていて、多少の違いはあるが1Pは1円とほぼ同じくらいの価値らしい。
最後に余りいい話ではないが、こんなことを聞いた。
この世界は、主に北と南の大陸と西にある「災厄の地」と呼ばれる島からなる、今僕たちが居るのは南の大陸だ。
南の大陸は危険思想を持つ宗教などは何もなく比較的平和なようだ、しかし北の大陸は昔から戦が絶えない血の気の多い場所らしい。
今は戦乱は起きていない、それは北の大陸が現在の「皇帝」によって統一・支配されたからだ。
皇帝側の軍は各地の民族を圧倒的な力で服従させ、独裁を行っている、また皇帝一族に反抗した者は全て殺されてしまうらしい。
余りよくない終わり方だが今は平和になっている、だがそう簡単に争いの血は絶えない。今「皇帝は南に戦争を仕掛けようとしている」という噂が流れているようだ。
実際にはまだ噂で程度で北から軍がくるなんてことは起こっていないらしいが、南の大陸も対策を立てたりするので議会が開かれたりもしているらしい。

  
 
「よし、着いたぜ」
「おっきい門ですね…」
交易が居の入り口には巨大な門が立っていた。見上げるほどではないのだが、それでも大きい物は大きい。
「そこの行商の方、ナグフに用かね?」
緑色の帽子をかぶったリングマに呼び止められた、大きな体でまさに門番という感じがする。
「おう今行く、ユウト少し待っててくれ」
どうやら関所も兼ねているようだ、ルシャさんは目的とか積み込んである物などを聞かれてるのだろう。
「よし、入っていいぞ」
OKが出たようだ、街に入るので荷台から降りる。
「入っていい」と言われても一回一回閉めるのは大変なようで、許可が下りる前から門は開いていた。
門から入ってすぐ、荷台などを預かってくれる所があったので荷台はそこに預けてきた。
ブルさんは「眠いから」と荷台と一緒に一休みしている。

「ここは人が多いからな、迷子になるなよ?」
少ししか進んでいないが、それでも同じような建物やお店が立ち並ぶので街のどこに居るのかわからなくなる。
今はルシャさんと二人で街を見て歩いている、さすが交易街、賑やかだ。
こちらの店に面した通りでは自分の店の商品を売り込む声があちらからもこちらからも聞こえ、あちらの路地ではいくつもの楽器を一人で引き、異国情緒溢れる音楽を奏でている人が居る。おにいちゃあん、と前を走る兄を追いかける小さな女の子、思わず頬がゆるむ。
木の実や果物を売るお店を通り過ぎようとした時、陽気な声で呼び止められた。
「そこのお兄ちゃんたち、今が旬のオボンの実を買ってかないかい?」
お兄ちゃんたちと言ったら僕らのことだろうか?
「オボンの実?」
「そう、熟れててすっごくおいしい。ひとつ…よし、まけて27ポケぐらいかね」
オボンの実って定価がどれくらいなんだ?まけるとどのくらいの値になるんだ?
「え…っとー…」
まけたのに口ごもられてしまったお店の人もこれには困ったしようだ。
「まさか…高い…?」
高いかどうかも分からないのでこっちがさらに困る。
「あの、いや、そういうわけじゃ…」
「どうした?ユウト」
やり取りをしているうちに先に行ってしまったが、遅いので戻ってきたようだ。
「どうしたんだい?おっさん」
「ああ、オボンの実買ってかないかい?今が旬で美味い、まけて27ポケにしとくよ」
ふむ…といったような仕草を見せてからこう言った。
「いくら旬だっていっても、27ポケは高けえな」
心に槍が突き刺さるのが見えるような気がした。
「オボンは定価が大体24ってとこだぜ、それじゃあ、まけてることになんねえな」
少し睨みを利かせてルシャさんがこう言い放った、怖い。
「う…じゃあ21ポケ…」
計略はことごとく見破られ、おまけに睨みつけられたお店の人はぼそぼそ呟くように言った。
「おいおっさん、ちょっとどいてくれ」
「え?」
「いいから」
しぶしぶというよりもバツの悪い顔をして体をずらした。
後ろには店の前に並べられた物よりもはるかに多い量のオボンの実が入った箱が置いてあった。
「こんだけゴロゴロとあるんだったらもっとまけてくれたっていいじゃないか?」
「20…」
「もうひとこえ」
「ぐぅ…19!」
「よし、ふたつくれ」
ルシャさんは鉄の硬貨((10円分相当))を4枚出し、おつりに石の硬貨((1円分相当、作るのに手間がかかりそうだ))2枚をもらった。
「意外とまけてくれるもんなんだ」
そう言ってくれたが、僕はそこまで押しが強くないから難しそうだ。
「ああ、それとおっさん、俺らの後ろにいる人たちにも同じ値段で売ってやれよ?不公平だからな」
後ろを振り返るとオボンの実を抱えた人がふたりいた。
「話、聞いてたんですけど」
「さっき買ったあれ、定価より増してたんですってねぇ」
「ぁ…あれはっそのっ…」
「「買い直させてちょうだい!」」
ものすごい剣幕で睨むおばさんたち、怖い。
それをにやにや笑って見ているルシャさん、ちょっとあの人がかわいそうになって来た…。
「ほら」
先ほど値切って買ったオボンの実を渡された、少しかじってみる。
「どうだ?美味いか?」
そう言ってルシャさんも一口かじる。
オボンの実はとてもなめらかで口の中でとろけるようだった、店の人の言う通り新鮮でみずみずしい。
味は、なんて言えばいいんだろうか?「苦いような甘いような渋いような酸っぱいような((現実でそんな食べ物が出てきたら口の中が大変なことに))」とにかく、不思議な味がした。
「なんて言えばいいんですかね?この味」
「さあ?色々混ざり過ぎて誰にも説明できないみたいだぞ」
おいしい事はおいしいんだけどほんとに何味なんだろ?
「そろそろ行こうぜ、おっさん!オボン美味かった、ありがとよ!」
人の群れに向かって叫ぶ、今あの店は「やれ安い」「やれ美味い」とお客が群がっている。
「どういたしまして!」
嫌みや皮肉をこめていたであろう言葉を聞いてから、次の場所を見に行った。

 
「ふう…」
「やっぱ広いな、この街は」
1時間ほど街を見てまわっただろうか、今は街の中心にある広場で休息を取っている。
街には様々な店が溢れていた、雑貨、生活用品、食品、装飾品など全て見ていたら日が暮れてまた昇ってしまうくらい時間が必要だろう。
それに、少し賑やかすぎないか?ガヤガヤ、ドヤドヤ、とどこまで行っても人の群れ、走り回る子供たち。
この広場でも子供たちが15人ほど暴れまわっている((はしゃいで走りまわったり、賑やかに遊んでいる事。テロリストや暴徒的な意味ではない))。
街の人がみんな明るく陽気で賑やかなのはいいが、ちょっと疲れてしまった。
元居た世界とはまるで反対だ、元居た世界の都会の人は何かが欠落してしまっている気がする。みんな冷たく無関心だった。
こちら側とあちら側、どちらの世界の人の方が幸せなんだろう?
こんなこと考えるなんて、らしくないな…。
近くにあった石像に寄りかかる、そんな事を考えていたら広場の入り口から何かの一団が入って来た。みんな目立つ派手な装飾品を身につけているが、あの一団は何なんだろうか?
「なんだ?あいつら」
ルシャさんも首をひねっている、どうやら彼も見た事がないようだ。
団の中の一人が前へ出てきて、大声で叫びだした。
「さあさぁ!寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!退屈な毎日をスリルに変える、拍手飛び交う、私たち自慢の大道芸!見ないと損だよー!」
ちょっとうるさかったがなるほど大道芸((サーカスなどとは違い街の広場や大きな道などで行われる。))か、ちょっと派手なのも分かる。
「あいつら大道芸だったのか、ちょっと見て行こうぜ」
もちろん、何も言わなかったらこっちから誘うつもりだった。
二人で芸人たちの近くへ駆け寄った、速くしないといい場所が取られちゃう。
「さあ、お集まりのみなさんまずはウチの看板である彼女の華麗なる技を見てもらいましょう!」
リーダーが声をかけると、奥から僕と同じような容姿、ピカチュウの女の子が出てきた。
そして客から離れたところに大きな板が置かれ、中心に印が付けられる。
「リタ!頼むぜ!」
リタと呼ばれたあのピカチュウの女の子は、仲間の芸人からナイフを受け取ってから応じた。
「じゃあ、行きます!」
合図とともに板に向かって走りだし、側転から体を捻り、2回連続でバク転を繰り出す。
「ハッ!」
そして3回目のバク転で大きく跳び上がり、そのまま空中で回転しながらナイフを投げ、鮮やかに着地する。
ナイフは回転しながら投げたというのに、板の中心に付けられた印に深々と突き刺さっている。
「「おおおおー!」」
みんなリタの動きに目を奪われていて確認するまでに時間がかかったが、中心に刺さっているのが分かると大きな歓声と拍手が巻き起こった。
僕は手が痛くなるほど拍手をしながらずっとリタを見ていた。
いや、リタに見とれていた。
ありがとうと客に笑顔を振りまく彼女がすごくかわいい…
「ユウト…?なるほど…今お前あの子に見とれてただろ、うっとりして」
顔が熱い、見られてたの?
「見とれてないですよ!」
嘘だけど嫌なので否定してみる。
「顔赤いよ」
「うっ…これはその」
「そんなに否定すんなって、若いって…いいねぇ」
大人って若者の青春が好きだよね、なんかいやだねぇ。
くだらない話をしていたら板も片付けられて、次の芸の準備が終わっていた。
 
 
 
**第五章 紅蓮 [#d35ede1b]
 

芸が終わった後はしばらく手がヒリヒリしてたっけ。 
あの後はまた街を歩きルシャさんと話をした。
食堂のおばさんは気のいい人で話が弾んだなぁ。
しばらくしてもど戻ったらブルさんがまだ寝ててその格好が可笑しかったから大笑いしたんだっけ。
一人で宿に泊まる事を言われた時「子供だなあ」って言われて腹を立てた。
 
でもそれは今の話ではない、過去の話だ。
 

眠りから覚め、異様な音がする事に気付く。
今はもう時間が大分回っている、人は皆夢に堕ちている時間。
だが音は外から絶え間なく聞こえてくる、何だろうか。
パチパチ…パチパチ…拍手なような音、だがそれとは違う何かが燃える時の音に似ている。
毛布を剥ぎ、身を起こす。
不審に思い、窓を開けて街を見渡す。
 
言葉を、無くした。
漆黒の空に&ruby(くれない){紅};が混じっている、しかしその紅を包み込むような黒煙も噴き上がる。
街は紅蓮の炎に包まれていた。
 
寝台の横に立てかけていた剣を引っつかみ、宿の階段を駆け降りる。泣きそうになった、何に対して悲しめばいいのか突然過ぎて何も見当がつかない、視界が滲んだ。
階段を降り切っても誰もいない、いや出入り口の所に誰か座り込んでいる?宿の中は暗く、輪郭ぐらいしか分からない。
足元に気をつけながらも、出入り口に急いで近寄る。近くに寄って誰だか分かった、宿の主人である元気なガルーラのおばさんだった。
おばさんは目を開けていない、でも寝ているにしてはおかしい。
「おばさん!?」
方に手をかけ揺さぶって見る、でもおばさんは瞳を閉じたままピクリとも動かない。
手に何か液体が付着したのが分かった、その液体はなぜか生温かい、暗がりの中でもはっきりとわかる、血液が僕の手にべっとりと付いていた。
「っ…!」
おばさんの体には一筋の赤い線が刻まれていた、何か鋭利な物で切りつけられた跡。
もう一度体に触れて見る、先程と違い冷たい、命が凍りついてしまっている。
怖くなった、恐怖に駆り立てられ叫びながら外へ転がり出る。
激しい運動をした後でもないのに息が切れる、肺から酸素が絞り取られて行くようだった。
気分の悪さと息苦しさに耐えきれずに道端に座り込む。
周りを見ればほぼすべての建物に火が付いている、何も傷がない建物の方が少ない。
何か黒く細長い物が近くに転がっていた、手で持ち目線の高さに合わせる。
それが何かすぐに分かった、誰かの「手」だった。驚き、脇に投げ捨てる。
そこにはもっと大きな黒い塊が落ちていた、しかも塊があるのはそこだけじゃなかった。
道に何個も落ちている、中には燃焼の激しくない物もあり、黒い塊が何か分からせる物もあった。
黒い塊は、全部街の人達の「&ruby(むくろ){骸};」。
ほとんど転ぶように走り出し、どこに行くのかも分からないまま逃げだした。
周りの姿は目に入らない、音よりも早く通り過ぎていく。目に入ったとしても何にもならない。
ただ地面を蹴りつけ前へ進む、それしか感じなかった。
恐怖、憎しみ、様々な感情が混ざり合い僕の中を、体も心も駆け巡って行く。
息苦しさが増しわき腹が痛くなる、今どんな感情なのかも分からない。
気分の悪さに嗚咽を漏らす、体を動かすのを精神が拒絶しているのか手足が鉛のように重い。
拭っても拭っても目からは滴が零れる、激しく燃え盛る音、木々の爆ぜる音が耳を締め付ける。
 
どの道をどれほど走ったのだろうか、呼吸は浅く、速い。
心臓が悲鳴を上げ、体を折りその場にへたり込んでしまう。
涙は止まることなく溢れだしてくる、肺が締め付けられる、激しい嗚咽と吐き気に襲われる。
頭を上げると灰色の石像が見えた、ここは昼間に大道芸をやっていた広場か…。
息を整え、無理やり体を起こす。
遠くで何か荷台の様な物が燃えていた、歩み寄る。
荷台の近くに何かが散乱している、いつか見た覚えのあるナイフ、赤と緑の派手な装飾品。それはあの芸人一座の物だった。
荷台の近くに横たわる小さな黄色い姿、それが誰なのか分かった。血の気が引いて行く、体が氷でできてしまったかのように寒気がする。
僕は駆けだした、あんなに早く駆け回っていたはずなのに、なかなかたどりつかない。それでもやっと駆け寄ると彼女の体に飛びつき両腕で抱き起した。
「リタ!」
誰が見ても助かる見込みはない、心臓を突き刺されている。鮮血が傷口から溢れ、それが僕の体も赤く染める。
「リタァ!リタ…!」
彼女の体を強く揺さぶる、それでも反応は無い。
体がどんどん冷たくなっていく、命が血液とともに外に逃げて行く。
さらに乱暴に体を揺さぶる、怪我人にはそういう事をしてはいけないのかもしれない、でもそれ以外に何をすればいいのか分からない。
「……ぁ…ぅ…」
か細く呻いてから彼女は重い瞼を開けた、目は虚ろでもう僕の事や周りの事は見えていないのかもしれない。
ここじゃない何処か、幸せな場所が見えているのかもしれない。
小さな手を震わせながら伸ばしていき、僕の顔を撫でる。
「………」
彼女の顔がほころび、微笑んだ。
でもそれが続く事は無かった、彼女はピンと張った糸が切れるようにふっと腕を下ろし、瞼を閉じる。
彼女はただの「物」になってしまった。
彼女の体をそっと地面に下ろす、目から落ちた滴が彼女の頬を濡らす。
「ユウト…」
ルシャさんの声が聞こえた、自分を知っている人がまだ生きている、誰でも構わない誰かに支えていないと崩れ落ちてしまいそうだった。
燃え盛る炎に照らされる、全てから逃げ出して漆黒の暗闇の中に溶けてしまいたい。
ルシャさんは右の腕が焼けただれていた、それだけじゃなくて体の様々な場所に切り傷や刺し傷がある。
刺し傷は腹を貫通している、おびただしい量の血が流れ円形に広がっている。
吐血もしたのだろうか、口の周りが赤く色づいている。
「ルシャさん…」
その場に立ち尽くした、昼間の元気に満ちた姿は影もない。
「ユウト、逃げろ…」
消え入るように呻く、体から力が抜けて行く。
もう立ち上がる事も出来ないようだ、見れば左の足首が異常な方向に曲がっている。
言葉は何も浮かばない、思考は炎の中に描き消えて行く。
ルシャさんが損傷していない左腕を伸ばし僕を手繰り寄せ、抱きしめる。
鼓動は弱弱しく、いつ止まってもおかしくない。
ルシャさんは激しくせき込みそしてかすかに呟いた。
「死ぬな…」
鼓動は止まった。
 
涙は枯れてしまったのだろうか、流れてこない。
しかしその瞳は目の前から歩いてくる人影を見つめていた。炎の熱で陽炎のように揺れながら、ゆっくり歩いてくる。
ルシャさんに教えてもらった、あれはバクフーンだ。
そいつは右手で銀色に光る日本刀を携え、夜の闇に溶けそうなマントを身につけていた。その顔は感情が欠落したかのように無表情。
目をこらさなくてもその体に血液が付着しているのが分かる。
あいつが殺したのか。
混じり合い揺らいでいた感情に一つの強い意志が芽生えた。
それは憎しみ。

 殺してやる

「うおおぁああ!!」
鞘から剣を引き抜き、叫びながら突進していく。
力任せに腕を振り、切りかかる。
左右上下、切り方も形も関係ない、ただあいつを殺せればそれでいい。
しかし相手はこちらの動きに合わせて長刀を動かし、斬撃を防ぎ、受け流していく。
金属同士がぶつかり、甲高い音と火花を散らす。
左右に滅茶苦茶に剣を振る、だが剣は空を舞い、長刀に防がれる。
防ぐだけではない、相手も切りつけてきた。
空気を裂く音と共に長刀の動きから巻き起こる風が鋭く僕を追い詰める。
身を動かしてなんとか避けようとするが避け切れずに、何本も細い赤い線が出来た。
刀が横に動く、それをしゃがんで避け、長刀は空を切る。振り切られた刀が頭の上をかすめた、体毛が何本か切れ目の前で舞う。
しゃがんだ状態から、相手の心臓をめがけて大きく踏み出し剣を突き出した。だが目にも止める事の出来ない程の速さで、長刀を使って受け流し、後ろに回られた。
殺られる。
反射的に、振り返りながら剣を立て斬撃を受けるが、力の差で後ろに弾き跳ばされる。
仰向けに倒れたが、起き上がり相手を視界にとらえる。
だが遅すぎた、向き合った時には&ruby(エレメント){属性要素};の収束が終わり灼熱の炎を僕に向かってぶつけるところだった。
口から特大の炎が吐き出される、防ぐ術は無い。炎は朱色に激しく僕を照らし、熱風が吹きつける。
最後に、涙が一筋流れた。 
 
瞬く、だが目を開くまでの一瞬の間に僕と炎の間に誰かが立ち塞がった。
立ち塞がった誰かは、またバクフーンだった。両手で構えた大剣で炎を受け止め、なぎ払うと炎は書き消えた。
なぜか体から力が抜けて片膝を着く、座り込んでいる場合じゃないのに…
あのバクフーン、街を焼き払った奴と面影が似ているような気がする。
大剣を構え直し、叫ぶ。
「バッシュ!」
低く、だが体に、心に響く声、バッシュと呼ばれた者は体を震わせた。そして頭を押さえ呻きだした、何が起こっている?
「ぐ…あ……お前は…!」
体を折り、その場に崩れる。その期を逃さず目の前のバクフーンはバッシュと呼ばれた相手に跳びかかる。
だがバッシュの瞳に暗い物が宿る、邪悪な表情が浮かび、直ぐに体を起こす。
豪快に振り下ろされる大剣、それを受け止める強靭な長刀、激しい火花が二人の顔を照らしだす。
激しい憤怒と暗い憎しみ、ふたつの感情がぶつかり合う。
数秒の間鍔迫り合いが続き、お互いの剣がギリギリと音を立てる。
一層激しい音を立て、どちらとも相手と大きく離れる、どちらとも相手を弾き飛ばしたというのが正しいだろう。
大剣を持ったバクフーンは、離れても直ぐに体制を直し地面を蹴りつけ目の前の相手に向かって行く。
再び大剣を振って切りつけるがバッシュには当たらず、はためくマントの裾を切り裂いただけだった。 
振り切られた大剣を戻すまでの間に、バッシュはバクフーンとは真逆を向き、走り出した。
「くっ…待て!」
バクフーンは大剣を持ち直しバッシュを追いかける。だがバッシュが走る方向は行き止まりだ、どうするつもりなんだ?
バクフーンはあと僅かで届く距離まで追いつくと、大剣を振りかぶり大きく踏み出した。
だがバッシュは一瞬身をかがめると、信じられない脚力で民家の屋根まで跳び上がり、着地する。
大剣は相手を両断することなく空を切り、煉瓦が敷き詰められていた地面を破壊した。
バッシュは不敵な笑みを浮かべると、そのまま屋根の上を走り去って行く。
「バーッシュ!」
叫びだけが赤い炎と夜の闇の中に響く。
僕の手から剣が滑り落ち、大きな音を立てた。
視界が霞む、炎の熱に当てられたのだろうか、意識が薄くなって行く。
体が重い、僕はうつ伏せに倒れ込んでそのまま意識を失ってしまった…
………
……

 
 
 
  
 
 
 トラベラー   第6・7章 ソルジャーへと続く… 
  
 

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- コメントテスト -- [[フロム]] &new{2009-05-28 (木) 00:40:15};
- ワクワクしてきました。続きが楽しみです。 --  &new{2009-07-12 (日) 23:17:38};

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