筆者[[フロム]] 序 開幕、迷い込み… 沈黙と黒が包む闇夜、月は雲に隠れてしまいうっすらと見えるだけ。 カシャァ、カシャァ、何かの回る音だけが響き渡る、不規則だが少しはリズムがあるようだ。 もう春だって言うけど、やっぱり夜はまだ寒いや…。 僕は今、自転車をこいでいる、今から出かける訳じゃない。塾から帰っているところだ。 辺りが静かすぎるせいか、車輪の回る音が不思議なほど夜の街に響く。 行く前にちょっと喧嘩しちゃったけど、母さんはまだ怒っているのかな…。 本当にちょっとした理由で起こった喧嘩だった、それなのになんか両方熱くなって、 「バーカ!」なんて罵って出てきちゃった、あやまらなきゃ…。 そう言えば、今日は数学の宿題が有るんだっけ、塾でやっちゃえばよかったな。 美術の作品の仕上げもしなきゃ、あそこの曲線はどのぐらい曲げようか。 こんなことを考えてる僕は、もちろん普通の人間の男の子。 天才でなければ、皆が振り向く容姿をしている訳でもないし、目を見張るスポーツマンでもない。 ましてや、地球を守るヒーローでも、勇者でも、何でもない。 本当に、何でもない、 「ただのひとつの小さな存在」、 それだけだった。 まさかゲームに出て来る勇者みたいに世界を旅をするなんて、思ってもいなかった。 でも非現実、非日常は、なんでか現実になった。 トラベラー 「ユウト…」 今、声がした?声の聞こえた方向を向いてみるが、人っ子一人どころか野良犬もいない。 だけどおかしい所はあったし それ に気づくのはたやすいことだった。 「あれっ…?」 いつもはただ黒いだけの草の茂みが、なぜか光っている。 「光る」と言っても懐中電灯の明かりとは全く違う、光を放つのではなく、反射して輝いているように見える。 自転車を横に止めて、少し眺めていた、夜の闇の中で光はないのになぜか輝いている。 気になって、輝いている茂みをちょっと覗いてみた、枝で見づらかったが何かの様な物が落ちていた。 茂みに手を突っ込んで、その石を取りだしてみた、ガサガサと音をたてたが、特に難なく取れた。 「うわぁ…キレイ…」 白っぽい それ は、確かに闇の中に輝いている、宝石みたいな感じだけどなんて言うのかな?。 知っている物の中からふさわしそうな名前を探してみる。 …そうだ、クリスタルかな?、僕の好きなゲームに出てくる、魔力を秘めた伝説の宝石。 色的には、何のクリスタルかな…白く輝くから、 光のクリスタル かな?。 そんなくだらないことを考えていて、クリスタル?の光が強くなっていくのに気付かなかった。 「えっ?あれっ!?」 気づいたころには、周り全てが白く光り、自転車も周りの家も、何も見えなくなった。 なんだか、体が浮いているような感じがした。 手に持ったクリスタルが、いっそう大きく輝き、その光の中に僕は吸い込まれた。 全てが白く包まれて行く、夜の闇も無機質な地面も。 そう、全て。 何だろう…どこか高い所を飛んでいるような気がする。 自分の意志ではなく、何か大きな力に導かれるように。 白い光は薄れていき、出口のようなものが見えてきた。 「へっ!?」 視界に移るのは、一面金色の砂漠、でも、それは近づいてくる。 「うわああああああ!?」 反射的に声を上げた、近づいてきてるんじゃない、僕が「落ちて」いるんだ。 序 開幕、迷い込み 完 #comment