*スイクンのスイクンによるスイクン視点のホウオウの最後の一日。 [#i990ece6] 久しぶりにポケモン小説っぽいものを書けたかな、と思います。 ---- エンジュにそびえる2本の塔。片一方は焼け落ち、もう片方は太陽の光を浴びて輝いている。 「はぁ・・・暇ですね・・・」 ため息をついたスイクンこと私。エンテイもライコウも昼寝してますし・・・ 「ホウオウ様はルギア様にまた連れまわされてるんでしょうねぇ。」 ホウオウ様にお仕えして早ウン百年・・・ホウオウ様はここ数年、歳を召されるごとに小さく、可愛くなってらっしゃる。 今朝など、どこのひな鳥が迷い込んだのかと、警戒してホウオウ様の寝室に入ってみれば、昨日より幼くなられたホウオウ様が布団の上でバタバタ暴れておられましたし。 ホウオウ様が言うには、もう生まれ変わるのだ、と。 私は塔の窓を閉じて、差し込んでくる日差しを遮った。 「エンテイもライコウも呑気なものですね。」 ホウオウ様は数百年~千年に一度、さいぼうぶんれつ?の限界が来ると炎で自分の身体を焼いて、全て生まれ変わるのだそうで。 その苦しみを速く済ませるために、身体を小さくしているのだそう。 私はまだホウオウ様のそんな姿を見たことはありません。生活を共に過ごしている中で、次第にホウオウ様の身体が小さくなる、というのはなんとも不思議な光景ですねぇ。 ホウオウ様は生命をつかさどるお方。その知識もバカになりません。 書物にしてみれば、セカイイイチの百科事典に匹敵するほどだ、と仰っていましたが、私にはそれ以上あるように思えます。 このウン百年・・・いろいろなことがありましたねぇ。 気付けば人間という生き物が、ポケモンと結婚したり、家族かそれ以上に深い関係を築いていたり。 ホウオウ様のもとにも、何度か人間が来たみたいですが、一人は追っ払って、もう一人はともに生活し、しかし先立たれた、と仰っていました。 人間は寿命が短い、そう仰るホウオウ様の姿は、どこか寂しげなものでした。 そんな人間と付き合うと、心苦しいものを感じる・・・だから人間の前にはあまり出たくない、とも。 「お腹すきましたね・・・」 私は水色の前肢を動かしてリンゴを転がすと、口元で拾い上げ、ぱくっと食べて種とヘタをゴミ箱に捨てる。 食べたこの真っ赤なリンゴも人間が品種改良を重ねて、おいしい食べ物にされたそうです。 品種改良が何のことかはわかりません。しかし、リンゴはおいしいです。ホウオウ様は、安い果実は全て人間が作り変えた、と仰っていました。 バナナや巨峰・・・などなど。ホウオウ様が仰るには、自然というものは、無きに等しい概念だ、と。 あるままが自然であり、人間が意図的に作物を作り変えても、それは自然であり、不自然なことでは決してない、と。 ところで、ホウオウ様には私たちのように仕える者のほかに、ホウオウ様と情報伝達を行うポケモンたちがいるそうです。 私が存じている範囲では、メタモン、ウィンディ、カイリュー。あと人間では、オオキド、というポケモン博士もいるみたいです。 そのオオキドという博士はホウオウ様の知識を書物にまとめようと、かなり苦労されています。一生かかっても終わらない、と。 ”ふぁぁ・・・なんだスイクン・・・昼寝でもしてりゃいいのに。” ライコウがぶいぶい言いながら起きてきましたね。口は悪いですが、子供みたいなもんです。 「リンゴ・・・食べてもいいよな?」 「どうぞ。昨日ウィンディさんがいただきものだから、と言っておすそわけしてくださったリンゴです。良く味わいなさい。」 「はいはい。」 ライコウは鬱陶しそうに私の話を聞き流すと、段ボールの中のリンゴを1つ咥えて、丸ごと齧った。 さっき閉じた窓を再び開けると、太陽がやや西へ傾きつつありました。 ふと1匹の鳥が尻尾をキラキラ輝かせてこちらへ飛んでくるではありませんか。 「フリーザー?」 よく見ると、その正体はフリーザーでした。やたらにバタバタ羽ばたいて、落ち着きがないですね。 窓に・・・窓に突っ込んできますね・・・ 私はとっさに窓から身体を遠ざけた。 「大変だよぉぉぉぉ!!!」 がしゃぁぁぁん!! 窓を窓枠ごと突き破って、フリーザーが部屋に侵入してきました。 「どうなされましたか?」 「そのっ!そのっ!」 落ち着きのないフリーザーを諭すように、私はちょいっと額を小突いた。 「そのね・・・ルギア様がホウオウ様を連れ出したまま帰ってこないんですよぉ!」 私はフリーザーの言葉に、嫌な予感がした。 ホウオウ様は朝早くに出られて、お昼過ぎには帰ってくる、そう仰っていました。 「今サンダーとファイヤーが世界中飛びまわって探しているんです・・・」 どうやら、私たちも探しに行かなければならないようですね。 「エンテイ!ライコウ!ホウオウ様を探しに行きますよ!」 ”おう!” ライコウもエンテイも私の言葉を聞くなり、すぐさま飛び出していきました。 心当たりでもあるのでしょうか・・・ 「さ、フリーザー。私たちもまいりましょうか。」 「そうね・・・」 私とフリーザーは塔を降りて、ゆっくり探すことにしました。 先ほどより西に傾いた太陽が照りつける中、私たちはあぜ道を進んでる。フリーザーも歩いてる。 「ホウオウ様はどこにいるのでしょうか・・・」 「ルギア様に何かなければいいのですが・・・」 私たちの悩みは似たり寄ったりのようで、どちらも仕えている主の心配をしてる。 「何か起きていなければ・・・お二方の思い出の場所にでもいらっしゃるのですかね・・・」 「思い出の場所・・・」 フリーザーが歩みを止めた。私もつられるようにして止まった。 「心当たりが?」 「はい。このすぐ近くの湖畔です。」 フリーザーはホウオウ様とルギア様のお話を始めました。 ルギア様はまだ20歳にも満たないほど若く、ホウオウ様は生まれるころからずっと気にかけてたそう。 一度、ルギア様が5つ6つの頃、フリーザーと大ゲンカしたことがあったらしく、そのままうずまき島を飛び出し、家出されたことがあったそう。 そして、いかりのみずうみで力が尽きかけていたところを、散歩していたホウオウ様と出会われたそうなのです。 そこで何があったかは、知らないけれど、それ以来、ホウオウ様はうずまき島へよく行き、ルギア様もよくスズの塔へ来るようになったそう。 私はフリーザーの話をもとに、いかりのみずうみへ向かうことにしました。 ライコウとエンテイはどこへ行っているのですかね・・・ #hr 優しい日差しが差し込む湖畔。湖の澄んだ湖面にキラキラ光が反射して、むなしい光景を作り出している。 「ホーちゃん・・・」 白と青のポケモン、ルギアは、小さな鳥になったホウオウをぎゅっと抱きしめる。 「ごめんねルギア・・・数年しか一緒にいられなくて。」 ルギアは瞳から涙をぽろぽろこぼして、首を横に振った。 「ホーちゃんは俺に全てを教えてくれた・・・」 「ううん・・・教えてなんかいないよ。全てルギアが自分で掴んだことじゃん。」 「逝かないで・・・」 「生まれ変わる・・・それは必要なんだよ。ルギアだって・・・」 ルギアの懇願に、ホウオウも赤い瞳を潤ませて首を横に振った。 「俺のこと・・・憶えていてほしい。無理な頼みだと思うけどさ。」 うん、と小さく頷くホウオウ。 #hr 走って飛んで、あっという間に湖畔にたどり着くと、私たちの目の前に、抱き合うホウオウ様とルギア様がいた。 「ホウオウ様!」 「ルギア様!」 ホウオウ様は朝よりまた一回り小さくなった気が私はした。おそらくホウオウ様自身で、思いのほか早い変化に驚かれているのだろう。 「ホウオウ様・・・ご無理はなさらないでください・・・」 「スイクン。今までよく仕えてくれた。けど、僕はもうすぐ命が終わる。今終わっても不思議じゃないくらい。」 私に見せたホウオウ様のその表情は、どこか、辛そうだった。朝、私に見せた明るい表情とは、雲泥の差がある。 「塔に戻られますか?」 けれど私はいつも通りに接しなければならない。それが仕える者の使命だから。 「戻る。」 ホウオウ様はそう仰ると、ルギア様が抱っこして、塔の方角へ歩き始めた。 今のホウオウ様は、もう元の体長の4分の1もなく、ルギア様が抱っこしていても、小さい、と感じるほどにまで小さくなっている。 「ホーちゃん・・・」 瞳を潤ませて、ルギア様はぎゅっとホウオウ様を抱いてらっしゃる。 ルギア様はホウオウ様のことを友達兼師匠と仰って、毎日のように遊びに行かれたり、ホウオウ様から世界のことを教えていただいていたり・・・ルギア様が最も慕っておられる。 ところで・・・ライコウとエンテイはどこへ行ったんですかね?ほんと。 「ホーちゃん憶えてる?」 「んー・・・」 「ホーちゃん?」 「大丈夫。」 傍でホウオウ様を見ているだけでも、もう限界が近いということを悟ってしまう。けれどホウオウ様はルギア様のお話にじっと聞き耳を立てている。 「初めて出会ったときさ・・・」 「うん。」 ルギア様は物憂げな表情を浮かべて、ホウオウ様をじっと見つめている。 「俺、めちゃくちゃ泣いてたよな。・・・力もなくて。空を飛んでて、帰れなくなって・・・」 「僕がルギアを見つけたのは昼の散歩をしてたときだったな・・・湖の傍でちっちゃなルギアが泣いてるのが見えて。」 私はホウオウ様とルギア様のお話にそっと聞き耳を立てて、お二方の思い出話をじっと聞いている。フリーザーはあたりを警戒して、話をあまり聞いてないみたい。 「そうそう。で、チョコレートくれたんだよな。甘くて・・・おいしかった。それで・・・」 「うぁっ・・・」 「ホーちゃん!?」 ホウオウ様のうめき声に気づいたルギア様はそっと私の背中にホウオウ様を置いて、ぎゅっと翼を握ってらっしゃる。 「ホウオウ様?大丈夫ですか?」 「また小さくなってる・・・」 フリーザーの言葉の通り、私の背中の重みは、かなり、軽かった。 「大丈夫だから。」 「塔まで戻れるかな・・・」 ルギア様のご心配。ホウオウ様は今のペースで行くと日没頃には、命を無くされそうだった。 私はここでホウオウ様をとどめるか、急いで塔にまで戻るかの決断を迫られた。 「大丈夫だよ・・・」 「でも・・・」 塔に戻ったところで、どうなるのか・・・今はホウオウ様の安定が優先である。 「そうだ。あそこの紅葉が綺麗な小道へ行きませんか?」 私は表面上、明るい声で申した。本当なら明るいトーンで言えるはずがない。 「そうだね・・・あそこならいいかも。」 ホウオウ様はぐったりされながらも、私の申し出に、賛成してくださった。 「ルギア・・・ちょっとスイクンと話したいことがあるから、後からゆっくりついてきて。」 「ああっ。」 私とホウオウ様は先に小道へ入る。無限の紅葉と、温かい日差しが、私の中の悲壮をまた一層、強めた。 「スイクン。」 ホウオウ様の意を決された声。 「はい。」 「ちょっと降ろしてくれないか?」 「はっ。」 私は前肢を折ると、コロコロとホウオウ様が背中から転がり落ちた。紅葉の落ち葉の中に、どさっと身体を落とすホウオウ様。 「大丈夫ですか?」 「大丈夫。」 微笑みかけるホウオウ様。その笑みは今までの中で最も優しいものだった。大きさは既に、ワカシャモより一回り以上小さくなっているように思えた。 「今まで・・・さんざん迷惑かけたと思う。」 「い、いえ。ホウオウ様がいらっしゃるから私はここに、命をつなぐことが出来たのであります。」 私はホウオウ様に命を与えられた・・・焼けた塔の地獄の中、命を落として、誰にも知られずに死ぬ定めにあった私を、救ってくれた。 「生きてて楽しい?」 「当たり前です。ホウオウ様と一緒に暮らしてる今が・・・一番・・・一番っ・・・」 途端に堰を切ったように涙があふれてきた。エンテイもライコウも、今が一番楽しい、そう言ってた。 特殊な力があるからじゃなくて、信頼できる仲間に囲まれて、生活できているから。 ホウオウ様は決して私たちを使いっぱしりにすることはなかった。仲間・・・そう、その言葉が一番ピタッと当てはまる。 従属的な精神を強要されてるのではなくて、自分から、ホウオウ様に仕えることを選んだ。当てもなく自由に生きる、その選択はしなかった。 「日没まで、持たなさそうだよね。」 「そんなこと・・・仰らないでください。」 首を振ってそう言うも、ホウオウ様はにこやかに、冗談めかして言う。 ホウオウ様はニコニコ笑ってる時に、結構深刻なこと言うから、エンテイもライコウもホウオウ様のニコニコには結構警戒してる。 「うぁっ・・・」 「ホウオウ様っ!」 私の目の前でびくっと震えると、ホウオウ様がまた小さくなった。もう50cmもないのではないかと思うほどに。 「たぶんね・・・次はポッポくらい小さくなるか・・・死ぬかだね。」 「そんな・・・」 ホウオウ様はまだニコニコしてらっしゃる。けれど、小さくなられた身体に、ご自分でももう限界だ、と自覚があるみたいです・・・ 「日没まであと何時間くらいありそう?」 「はい。えーと、・・・あと2時間ほどだと。」 そっか、とホウオウ様は頷いて、空をじっと仰ぎ見てらっしゃいます。 「そろそろかな。」 「え?」 何がそろそろなのかと思えば、ガサガサと紅葉の並木道の奥から、2匹の獣がそそくさと走ってきました。 ブラウンの毛むくじゃらに、虎みたいな・・・ってエンテイとライコウでしたね。 「エンテイ!ライコウ!」 「おっすスイクン。ホウオウ様に、これを。」 そう言ってエンテイが差し出したのは、くしゃくしゃの植物の乾燥した茎のようですね・・・ 「藁・・・ですか。」 「そう・・・藁があるとよく燃える、っていうのは嘘で、この藁があるとけっこう落ち着くの。」 へぇ。ホウオウ様の身支度・・・ということでしょうか。 ホウオウ様は藁を敷きつめて、その上に小さくなった身体をくしゃっと乗せた。もう翼もひな鳥ほど小さくなり、飛ぶことも満足にできないようになられまして・・・ 「ほーちゃん・・・」 ルギア様が私たち3匹集まったのに気付かれ、いつの間にか、集っていた手下3羽とともに、ホウオウ様を取り囲んでいる。 何もしないのも嫌になった私はそっとホウオウ様に顔を近づけた。 「スイクン・・・」 「ホウオウ様・・・」 ホウオウ様は私の吻をオレンジの翼で包み込んでくれた。 「今まで・・・ほんとにありがとう。」 「そんなこと・・・仰らないでください・・・」 また込み上げてきた感情にぽろぽろ涙をこぼすけれど、ホウオウ様はそんな私の姿を見せないとしてか、顔全体を覆ってくれた。 もう別れの時が近づいてる、けれど私はその時間を出来るだけ遠ざけたくて・・・わがままな子供みたいに、涙を流してる。 何分という間だっただろうか・・・ホウオウ様は私の涙が止まるまで、ずっと抱きついてくれていた。 涙が止まって、ホウオウ様から離れた時の、ホウオウ様の表情はいつになく優しく・・・穏やかだった。いつも優しいけれど・・・それよりも。 「ルギア・・・生まれ変わっても仲良くしてね。」 「あ、あっ、あったりまえじゃんかぁぁぁぁ・・・」 ルギア様はもう人目もはばからず、と言った感じでわんわん泣いてらっしゃる。ファイヤーもサンダーもどこから来たのかわかりませんが、目をうるうるさせて、大人しく俯いてる。 「ホーちゃん・・・抱っこさせて。」 「うん。」 そっとルギア様はホウオウ様を抱き上げると、子をあやす親のようにゆさゆさ揺すったり、時にギュッと抱きついたり。 「ホーちゃん・・・ホーちゃんも最初俺のこと抱っこしてくれたよね。」 「そうだね・・・まだ10年ほど前の話かなぁ・・・」 また懐かしそうに語り合うホウオウ様とルギア様。 「あの時は俺が・・・」 言いかけたルギア様、何かに気付かれたのか恥ずかしそうに俯いた。 「いつも泣いてるのは俺なのかな・・・ホーちゃんは年の功でなくことなんてめったにないじゃん。」 「うーん。そうだね。今日は久しぶりにわんわん泣いたかな。」 「ホーちゃん・・・」 ひな鳥・・・アチャモと同じくらいの体型になったホウオウ様を抱えてルギア様は紅葉に目を移す。 「うぁっ・・・」 「ホーちゃん!!!」 またホウオウ様は大きく脈動して、小さくなった。もうポッポと同じ程の大きさになってる。 「もう・・・ほんとに次で終わりだろうな・・・」 「ホーちゃんっ・・・」 ふと空を見上げれば・・・1番星が・・・キラキラと。まるで迎えに来ているようにも思えてしまう。 「俺・・・俺・・・ホーちゃんといられて、楽しかった・・・だから・・・」 「次も絶対にルギアと一緒にいるよ。」 ホウオウ様がにこっと笑われると、ルギア様は先ほどよりも強く、愛おしいものを守るように堅く、抱いてらっしゃる。 「ホーちゃん・・・」 辺りは暗くなり、もうあと数分で日没というところまで、ルギア様はホウオウ様と抱き合ってらっしゃった。 「そろそろ・・・降ろしてほしいな。」 「うん・・・」 ホウオウ様は藁の上にどしゃっと腰を下ろすと、空を見上げた。 「ホーちゃんっ!」 私は目を疑った。全く火の気のないホウオウ様の身体を取り囲むように、明るい炎が噴き出したから。 「エンテイ?ライコウ?僕に誰も近づけないで・・・この炎は生命を奪う火だから。」 ホウオウ様を覆う炎は、煙のようにゆったり蠢いてる。ホウオウ様の言葉の通り、火があたった部分は燃えずに、急激に枯れ始めた。 「ホーちゃんっ!!」 エンテイとライコウはホウオウ様の言いつけどおり、ルギア様の身体をじっと抑えている。 炎の中のホウオウ様はまだにこっと微笑んでいる。 「この火が・・・僕の命を奪い尽くしたら・・・また新しいホウオウが生まれるの。」 ホウオウ様を囲う炎は次第に大きくなりつつある。 「ホウオウ様?」 「ん・・・もうだめ。話しかけないで。」 それが私とホウオウ様の最後の会話だった。轟々と燃え盛る火は、全てを燃やしつくしそうな熱と、全てを照らす灯りへと変わり、ホウオウ様より大きく、覆い尽くした。 私はぽろぽろ涙を流すけれど、それすら一瞬で乾いてしまう。 炎はルギア様の身長まで大きくなると、勢いはおさまった。 「すごい火だね・・・」 「ああ。これが・・・ホーちゃんの命なんだ。」 すっかり辺りは暗くなり、ホウオウ様の火柱だけが、辺りをじっと照らしてる。ホウオウ様は姿すら見えず、燃え尽きてしまったみたいだ。 生まれ変わる、とわかっていても、ぽっかり心に穴が開いた気がする。 「あ、そう言えば・・・」 「ん?」 ルギア様が唐突に口を開いた。 「トキワの森って、ホーちゃんが生まれたときに出来たらしいよ。」 「本当ですか?」 すかさず聞く私に、ルギア様はうれしそうに頷いた。 「この前、ディアルガってインチキ神に会ったときに・・・聞いた。」 インチキ神って・・・ルギア様はディアルガ様と面識あるはずで、仲もよかったはずなのに・・・あ、冗談か。タチの悪い冗談ですね。 「ホーちゃんが生まれるときに出る炎は、生命を生み出すんだって。」 「へぇ・・・」 私たちはただ、その時を待った。 ホウオウ様が生まれる、その瞬間を。 燃え盛る炎。燃え尽きないのが不思議なほど、安定してる。 ”ぴぃ!!ぴぃぃっ!!” 突然、高い鳴き声が聞こえた。 「ん?」 「おい、変な声出すなよ。」 「俺じゃねえって。」 みんなは茶化しあうけれど、私にははっきりと見えていた。炎の揺らぎに現れた小さな鳥を。 ”ぴぃぃ!!” 炎の中から、ぴょこっと小さな雛が飛び出した。 「わぁ・・・ちっちゃい・・・」 心待ちにしていたホウオウ様は、先ほど、私たちに見せた最後の姿よりもさらに小さく、15センチほどだ。本当にぬいぐるみのヒヨコよりも可愛い。 けれど、ホウオウ様のその身体は、七色の翼と・・・かわいらしい黄色のとさか、少し頼りないけれど、それでもはっきりとホウオウという種であると、理解できた。 つぶらな赤い瞳も・・・よくよく見ればどこか凛々しい。 「ホーちゃんっ!」 ルギア様がギュッと小さなホウオウ様を抱き上げる。 「あちち・・・でもちょうどいい温かさで・・・可愛い。」 「ぴぃ?」 私はふいにルギア様の目つきが変わったことに気付いた。どことなく、険しさが消えて、本当に子供を見つめるような・・・目つきね。 「よし・・・俺が育てよう!」 「あ、待ちなさい!」 ルギア様が飛び立とうとした瞬間、ライコウとエンテイが飛びついて、ぴゅー、とホウオウ様は宙を舞った。 ルギア様が飛び立とうとした瞬間、ライコウとエンテイが飛びついて、ルギア様の翼から弾かれたホウオウ様はぴゅー、と宙を舞った。 「うぉぉ!」 「ナイスキャッチ!」 ホウオウ様を掴んだのは、ファイヤーだった。私はそっとファイヤーに近づく。 一同が慌てる中、ホウオウ様を掴んだのは、ファイヤーだった。私はお顔を窺おうとそっとファイヤーに近づく。 「放せ!俺がホーちゃんを育てる!うちなら温かいしそれにファイヤーもサンダーもいるし!」 「ダメだ!これまでのしきたりにのっとってスズの塔で俺たちが育てるんだ!」 どうやら養育の権利をめぐって争うみたいですね。 「はぁ。ったく仕方ないなぁ。」 「ぴぃ?」 ファイヤーはホウオウ様を優しく抱いて、私の前に座り込んだ。 「この可愛いひよこは、誰に懐くのかなぁ?」 「ひよこって言わないでください。ホウオウ様です。」 私の突っ込みにへへっと笑うと、ファイヤーはホウオウ様をじっと見つめる。 「ホウオウ様って言うと・・・なんか違和感感じるんだよなぁ。」 「そうですか?」 「うん。」 まぁ、ファイヤーの言うことにも一理あるけれど、私はホウオウ様に仕えるって言ったんだから、一応そこは義理を通さないと。 「ほれほれ。」 「ぴぃ、ぴぃ。」 ファイヤーは翼でホウオウ様をちょんちょんとつっつく。ホウオウ様は少し嫌そうな顔をしてる。 「やめなさいって。」 私は前肢で、座っているファイヤーの頭をぱしっと叩いた。 「ちっちぇーなーおい。」 「ぴぃ?」 言葉も忘れちゃったのかなぁ・・・少し寂しい思いはある。けれど、これからまたこのホウオウ様に仕えることを思うと、心がどこか愉しい。 「仕方ないな・・・俺が育てるか。」 「ダメだって。」 まぁ、ファイヤーは炎の鳥だし、ホウオウ様が強くなるには、環境面で一番いいかもしれないけどさぁ。 「スズの塔に居れば、人間ともごちゃごちゃ・・・」 「それを受け入れてるのが、ホウオウ様と、あんたたちとの違いかな。」 私の言葉に、ファイヤーはそっか、とため息をついた。 「ぴぃ!」 「わぁ!」 ホウオウ様は突然ファイヤーの胸元を離れて小さな翼をはためかせると、私の背中に飛びついて来た。 「ふふっ・・・スイクンを受け入れたみたいだな。」 ファイヤーはにんまり微笑んで、私のもとを離れた。 「ホウオウ様?」 「ぴぃ。」 私の背中のホウオウ様は暖かくて・・・ 「ぴぃぃ!」 「わぁっ!」 バランスを崩したのか、背中のホウオウ様がコロコロ転がって、どしゃっと落葉の上に身体を落とした。可愛らしい黄色の尻尾は落葉の欠片で汚れてしまった。 「す、すみませんホウオウ様。」 私は慌てて謝るけれど、小さなホウオウ様は短い首を存分に伸ばして、また私に近づこうとしてくださった。すかさず私は傍によって身体を落とす。 「ぴぃっ。」 ぴょん、と跳ねたホウオウ様は再び私の背中に乗っかった。今度は落とすまい、と私は慎重に起き上がる。 みなさん、議論に夢中で肝心のホウオウ様のことを見てるのは私だけみたいですね。 「わーっ!わかった。じゃあ俺がずっとスズの塔に居て、ホーちゃんの面倒見ればいいんでしょ?」 「それもダメです!うずまき島には誰が居るんですか!?」 「えーっ・・・じゃあ。代わりにピジョ」 「ダメですっ!!」 私はルギア様たちの口論に微笑んで、そのままホウオウ様に目を移す。 ルギア様はよほどホウオウ様と一緒に居たいようですね。けれど、私たちも、ホウオウ様に仕える役割があります。こればかりは譲れません。 これからまたずっと・・・数百年、一緒にいられるんですね。よろしくお願いします。ホウオウ様。 私は紅葉を踏みしめて・・・生命の炎が照らす夜道をゆっくり歩き始めた。大切なホウオウ様を守るように。 「ホウオウ様お腹空きましたか?」 「ぴぃ?」 end ---- もう少しストーリーを厚くするか迷ったのですが、無駄に行を増やしても・・・と思ったのでスカスカになってしまいました。 読んでわかるかと思いますが、「火の鳥」の影響をモロに受けています。 火の鳥=不死鳥→ホウオウという流れですね。そう考えると、ポケモンの話からまた遠くなりますが。 伝説のポケモンって設定があんまりないなぁ、と思います。だからどう発展させても自由?なのかなぁ。 でもそれを含めてもスカスカですよね。ごめんなさい。 ホウオウのサイズの設定間違えたので修正しました。 ご意見、ご感想など↓へ。 #pcomment()