ポケモン小説wiki
シャワーズの籠絡(ろうらく) の変更点


作[[呂蒙]] 



 ここは、ハクゲングループ本社の会議室。会長のシュウユをはじめ、企画部と宣伝部の面々が集まり何やら会議をしている。セイリュウ国にはたまたま休日と祝日が5日ほど連続する時があり、どこの企業も何かしらの宣伝も兼ねたイベントを催す。やはり5連休ともなると皆どこかへ出かけるので、客足の増加が見込めるのだ。
「やはり、ここは我が社の最大の特徴であります、『ポケモン』を最大限に生かすべきであります」
 ポケモンを持つということは、役所への届けやら、ポケモン所持にあたっての許可書、毎年の健康診断などとにかく面倒なことが多い、そして金がかかる。それ以上に手続きなどが煩雑なため、敬遠されており、ポケモンを持つ人は少ない。世界には「ポケモントレーナー」なる職業もあるようなのだが、この国でトレーナーを志す人はゼロに近い。バトルに関しても法律でがんじがらめにされている。
 例えば「相手が嫌がっているのにバトルを無理強いしてはいけない」など、ゲームの世界では簡単に成り立っていることがこの国では通用しないのだ。たまに外国からやってきたトレーナーが逮捕されることがあるが、法律は「知りませんでした」では通用しないものなのだ。
 このハクゲングループはポケモンを労働力として使っている数少ない会社である。労働力といっても「人間様」がずっと監視していてムチでひっぱたくといった奴隷のような扱いではなく、きちんと人間と同じ扱いをされ、給料も出る。当然、手柄を立てれば出世もできる。
「うーむ……」
 ポケモンを利用するという案にはシュウユは乗り気ではなかった。去年は会社で働いているポケモンに頼んで、いろいろとパフォーマンスを披露してもらう、というのをやったのだが、社内のポケモンからは「いくら手当が出ても見せ物にされるのはごめんだ」という声が相次いだ。会長という職権で黙殺も十分可能であるが、ある意味この会社は人間とポケモンという両輪で動いているようなものなので、ポケモンの意見も十分尊重しなくてはならない。
「去年の催しで、ポケモンたちから出た意見も考えると、それはできん。ポケモンたちはウチの会社の財産であり、宝だ。見せ物にするのは反対だ」
「そうですか……」
 シュウユは部下たちに注文を付けた。
「ポケモンを使うという案には賛成だ。しかし、見せ物にすることはまかりならぬ。この条件に沿って新しい案を作ってくれ」
 ひとまず、会議は終わった。次の会議は一カ月後だ。部下たちはそれまでに、新しい案を作らなければならない。
「おい、どうするよ」
「どうするったって、何とかするしかないだろう?」
 何もしないと、夏に「ボーナス大幅カット」という名の弩級の吹雪がやってくるので、何とか、何とかしなければならなかった。

 その知らせは、ラクヨウにいる長男・リクガイの耳にも入った。一人で考えていても埒が明かないので、ニドキングを呼んできて意見を求める。件のイベントはラクヨウでも行われるので、その警備についてどうするか話し合っているところだったが、リクガイは構わずその場に乗り込んだ。
「こいつ、しばらく借りてくよ」
 そう言って警備部から連れ出す。そして、社長室まで行く。
「何だよ、仕事中なんだけど」
「お前はデスクワークとかは苦手だろ、そんなことよりだな……」
 リクガイは例の件について簡単に話をした。
「で、その難題をおれに何とかしろってか?」
「違う、何かいい案があったら言ってくれ。何でもいい」
「つってもなぁ……。ん? そうだ、あいつに聞けばいいじゃん、あいつはポケモンは実家に置いてきてないで、今も一緒に暮らしてるんだろ?」
「あいつ?」
「リクソンだ。ラクヨウの大学に通っているとか聞いたぞ」
「ああ……」
 兄弟なのにしばらく会っていなかった6つ年下の弟の顔が浮かんだ。今はどうしているだろうか? 下宿生活をしているとか聞いたが、元気でやっているだろうか? もう新学期が始まっていて、今は家にいないだろうから、携帯電話に電話をかけてみる。
『もしもし?』
「おー、リクソンか」
『リクガイ兄ぃ? 何か声を聞くの久しぶりだなぁ』
「次の休日にお前の家に行くがいいか?」
『あー、いいよ。家の住所、一応言っとくな。知らないと思うから』
 メモを取るリクガイ。何だか、下宿先の住所と違う気がしたが、こんなことで嘘をつくはずがないので、この時は気にしなかった。

 約束の日、リクガイは言われた住所のところにいた。そこには二階建ての家が建っていた。ごく普通の家だったが、それでも独り暮らしでは広すぎるだろう。呼び鈴を鳴らして家に入る。家の中には色とりどりの4足歩行のポケモンたちがいた。実家はこれ以上の光景であったので、別にリクガイは驚かなかった。
「おう、久しぶりだな」
「兄ぃも何だか随分変わったな、ちょくちょく里帰りはしてたけど、ずっとこっちか?」
「いや、帰ってはいたぞ?」
「あ、そうか。おれは一番混む連休の時は避けてたからな。で、今日はどうした?」
 あんまり学生の弟に仕事の内情は話したくは無いのだが、身内だし、ぺらぺらと会社のことを話すような口の軽い人間ではないのでその辺は安心だった。
「……というわけだ」
「はぁー、難題だな。まあでも、動物園の見せ物じゃないしなぁ……。おれでも同じことを言ったと思うぞ」
 結局、ここでも具体案は出なかった。普通に新製品の展示をするという案が出たが、それでは集客力が他の会社と変わらず、インパクトがないし、何よりもポケモンを使っていないというので却下になる可能性が高かった。
 ひとまずリクガイは引き上げた。リクソンの家には7匹のポケモンがいる。ひょっとすると時間がたてば誰かが良い案を思いつくかもしれない。
 
 リクソンは兄を見送った。力になってあげられなかったな、という思いはあった。しかし、妙案は思いつかなかった。視点を変えろと言っても限度というものがある。
 ここで、頼れるのは、やはりポケモンたちだ。シャワーズがリクソンの側にやってきた。尻尾をふりふり歩いている。自分の方に注意を引こうという仕草である。可愛らしい容姿の割にしっかりした性格で、リクソンの方がときどきお説教をされるくらいである。何だか立場が逆になっているような気もするが、案外、人間が圧倒的優位の立場に居続けるとお互いの関係はうまくいかないものである。
「どうした?」
「ねえ、私、こういうのがいいと思うんだけど……」
 話を聞いてみる。とりあえず、リクソンはリクガイに報告した。やはり、妙案を求めてやってきたのだから、伝えるというのが筋だろう。

 イベント当日。会場の特設フロアには、こんなコーナーがあった。そこは透明な板で仕切られた空間で、中では十数人の社員がデスクワークに励んでいた。案内板には「仕事をする社員」とある。来客は特に関心を示さなかったが、来客が連れてきているポケモンが興味を示し、そこで立ち止まる。
 いつもは家の中でお留守番。朝になるとご主人は外へ出かけていく、一体何をしているのだろうか。それは家の中とその周りしか知らないポケモンにとっては大きななぞであっただけに、興味をひくものだった。机の上の電話が鳴り、右手でキーボードを叩きながら、左手で受話器を取る。何やらロボットのような動きをしているニンゲン。それを見ているポケモンたちは何だってこんなことをしてるんだろうと思い眺める。そして、そのポケモン目当てに他の客も集まる。客入りは去年以上であった。会社からポケモンをかりださなくても、ポケモンを連れた客も増えたため、それ目当ての客も増えたのである。おかげで去年に比べ少額の手当てで済んだ。
 去年以上のコストパフォーマンスと利益。最高の成果が出たと言えるだろう。
 この連休中にリクソンは里帰りをした。この時にシャワーズの妙案のおかげで大成功を収めたという話を聞いた。
「私のおかげね」
 シャワーズは胸を張って言う。そしてさらに続ける
「水を操るのとおんなじよ、やっぱ頭は生きてるうちに使わなくっちゃっね」
「しかし、どこでそんな知恵を身に付けたのか、私はそんなことをした覚えは無いぞ?」
「リクソンを守るにはどうしたらいいかなって考えてたら、自然にいろんなことが考えられるようになったのよ。私はサンダースみたいにすばしっこいわけでも、グレイシアさんみたいに強力な技が使えるわけでもないしね」
「リクソンは幸せ者だな、こんな可愛らしいポケモンが守ってくれるんだからな」
 シュウユはそう言うと、キッチンからつまみとワインを持ってきた。
「祝杯でもあげようか、せっかくだしな」
 乾杯の後にグラスの白ワインを飲み干す。シャワーズは、何だかほろっとしてきた。
(今日は、この後、リクソンとあんなことやこんなことをしようかしらね、ふふっ)


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