writer is [[双牙連刃]] 前話へは[[こちら>サマーバケーション! ~強き者~]] 待ちに待った日が、どうやら零次達にも来た模様。行く先々で珍事が起こっている彼等、果たして今回は何が起こるのか…。 ---- 今日は気持ちの良いくらいに澄み渡った青空……とは言えないが、しっかりと晴れてくれた。やっぱり、遠出するときはしっかり晴れてくれた方がいいからな。 夏休み8日目……ついにこの日がやってきた。そう、今日からなんと三日間も海へ行く事になった。二泊三日の小旅行だ。 昨日から司郎はずっと浮かれたままだし、心紅もワクワクしたままになってる。そして……。 「お前の分の荷物は俺が持っていくからな」 「リ~オ~♪」 このリオルも出掛けるとあってずっと上機嫌になってる。そう、シロナさんのリオルだ。 なんでここ、司郎の家にリオルが居るかと言うと、二日前にシロナさんとある約束をしたからだ。 もう一度会う時、あなた達を遺跡に招待するまでこの子を預かってくれないか、ってな。 実はあのトレーナー達を撃退した後、シロナさんとそこで別れようとしたんだけど……その時に凄くリオルが別れるのを嫌がって、俺から離れようとしなくなってしまったんだ。 そこでシロナさんが出した妙案がさっきの約束。俺達を遺跡に招待する約束を忘れないようにって事をこじ付けにな。 そんな事があって、俺はリオルと行動を共にするようになった。一応ボールも受け取ったんだけど、基本的に出しっ放しだ。 今回は足りなかった物を取りに来るって事は出来ないからな、この家に来た時より念入りにチェックする。 「あ、零次、トランプとかゲームとかも持って行こうぜ! 電車の中とか暇にならないように!」 「ん、それもそうだな」 『えっと、私は何を持てば良いんでしょうか?』 「心紅は着替える必要無いしなぁ。言葉の勉強したいならそういう関係を持てばいいんじゃないか?」 『遊びに行くのに、ですか?』 うーん、それもそうだな。じゃあ、心紅はリオルと一緒に特に何も無しで。 よし、準備はこんなもんだろう。あまりあれこれ持っていくと重くて仕方なくなるだろうし。 「よし、これくらいでいいだろう」 「おっしゃあ、出発だぁー!」 「……お前、ゾロアークの姿で街中をうろつくつもりか?」 「あ……ち、ちっと待ってて」 やれやれだ……。 司郎も着替え終わって、やっと俺達は部屋から出た。おっとおじさんもおばさんももう準備出来てたみたいだな。 「お待たせしました」 「いや、そんなに待ってないよ。私も何を着ていくか迷っていたからね」 「父さんアロハか~。俺もそうすれば良かったかなぁ?」 「それ以前に持ってるのか?」 「持ってない」 なら選択肢はいつもの、しかないだろうに。しかし、おじさんもう海行く気満々だったんだろうなぁ。まさかアロハシャツなんて準備してたとは。 おばさんは半袖のブラウスにジーンズ。出掛け易い格好で纏めたって感じかな。 「楽しみねー。心紅ちゃんも、この三日間は皆と楽しんでね♪」 「あ、はい!」 心紅も返事や簡単な挨拶なんかはマスターした。ま、俺と話すにはテレパシーの方が楽らしいからそれでしてるけど、もう十分に会話は出来るみたいだ。 それじゃ、リオルをいつもの位置にセットして、出発としますかね。 皆嬉々として話しながら駅までの道を行く。おじさんもおばさんも随分楽しみにしてたみたいだな……仕事をしてれば、ポケモンも人もこの辺は変わらないか。 この三日間はゆっくりと羽も伸ばせるし、夫婦水入らずにしてあげる算段も考えておこうか。 やっぱり楽しいと歩も進むのか、あっという間に駅まで着いた。ここから快速電車で二時間揺られて、俺達は海に着く。 「流石にここではリオルにボールに戻ってもらわないとな」 「リオッ!」 分かったとでも言ったんだろう、肩から飛び降りたリオルは俺の前で止まる。それに俺がボールをかざすと、リオルはボールの中に吸い込まれていった。 『リオル君も一緒に乗れれば良かったんですけどねぇ』 「こればっかりは仕方ないさ。出せそうだったら電車の中で出してやるよ。怒られない程度に、な」 それじゃ、改札へ行こう。……姿は人間とはいえ、ポケモンの集団(+α)が電車に乗ろうとしてるのってちょっと不思議な感じだな。 無事に改札を突破して、ホームで電車を待つ。同じ目的の人も居るのか、旅行バッグを持っている人も結構居るな。やっぱり、夏は海に一度は行きたいものだ。 『わー……人がいっぱいですね。電車って、こんなに人が乗れるんですか?』 「混み合ってると座席に座れない事もあるけど、大体全員乗れるらしいな」 というか、無理やり乗ると言ったほうがいい状況もあるらしいが。あまりぎゅうぎゅう詰めの電車には乗りたいと思わないな。 おっ、電車がホームに入ってきた。乗った事無いからか、こういうのを見るだけで凄いと思ってしまう。 ははっ、司郎も心紅も目が輝いてるぞ。これからあれに乗れるんだから、そんなにはしゃぐ事も無いだろうにな。 目の前に止まった電車の扉が開いて、この駅が目的地の人達が降りてくる。一頻り降り終えたのを見計らって乗った車内はかなり空席がある。これなら立乗りにならなくて済みそうだ。 「おっ、あそこ丁度対面式の席になってるからあそこにしようぜ!」 「そうだな」 「それじゃ私達はこちらに座るか、流貴」 「えぇ。……久々ね、あなたが名前で呼んでくれるなんて」 な、なんかもうすでに良い雰囲気になってますねご両人。っていうかおばさんって流貴(るき)って名前だったのか……。人間に化ける前からその名なのかな? あれは邪魔出来ないし、俺達は俺達で電車を楽しむとするか。 電車が動き出したのが揺れで分かる。夢中で車窓から外を見る二人を俺は眺めながら、心地良い揺れに身を預ける二時間が始まった。 「おぉ! 早ぇ早ぇ!」 『自分で飛ばないでこの速さで動けるのは凄いですね!』 「おいおい、あまり騒いだら周りに迷惑になるんだから静かに驚けよ」 でも、町並みが流れていくこの風景は電車に乗らないと見れないし、俺達には珍しいのは確かだ。 ……少し周りを伺うと、どうやらそんなに混んでる訳じゃないし、あいつも出してやっていいかな。ほんのちょっとだけな。 「出てこい、リオル」 「……リオ?」 どうして出されたか分からないようだから、俺の膝に乗るように促した。どうせなら皆で景色を楽しもうじゃないか。 リオルに見えるように窓の外を指差すと、釣られてリオルも外を見る。流れていく景色、リオルの目にはどうやって映るんだろうな。 俺の膝の上で外を見つめるリオルを眺めてると、こうしてポケモンと一緒に暮らすのも悪くないかなとも思う。ま、トレーナーって選択肢だけがポケモンと一緒に生活する為の選択肢じゃないよな。 不意に俺を見上げてリオルは笑った。俺もそれに笑い掛けて、束の間のゆったりとした時間は過ぎていく。 「あれ、零次リオル出したの?」 「少しだけな。車掌の見回りとか来たら流石に戻すけど」 「……零次さん、後ろ……」 ……わーお、振り向いたら車掌さんが笑いながらこっちを見てた。迂闊だったな。 「す、すいません、すぐに戻します」 「本来ならそうして頂くんですが……その様子なのに、戻されちゃうのも可哀そうですね」 リオルは楽しげに外をずっと眺めている。確かに、ここで戻すのは少し気が引けるかな。 「大人しい子のようですし、私が引き返して来るまではそのままにしてあげて下さい」 「あははは……ありがとうございます」 ふぅ、大目に見てくれて助かった。リオルに事情を説明すると、小さく鳴いて返してきた。どうやら承諾してくれたようだな。 「そのリオル、そうやって見るとずっと零次と一緒に居たみたいだよなー。もうさ、シロナさんに言って本格的に貰っちゃったら?」 「そうはいかないだろ。今だって預かるって名目で一緒に居るんだし、ポケモンを所持するのにはトレーナーになるしかないんだし」 「気になったんですけど、零次さんはトレーナーにならないんですか? ポケモンの事が嫌いだからって事は無いですよね?」 あ、心紅も電車の中では普通に喋る事にしたのか。まぁ、心紅が話してないのに俺が返事とかしてたら変だもんな。 俺がトレーナーにならない理由、か……。 ――ポケモンなんて、強ければそれでいいんだよ! 「え……? 今のは……」 「あ、い、いや、なんでもないんだ。はは……」 「ど、どした零次? 顔青くなってるけど」 ……思い出したくも無い事なんて、誰にでもある。俺にもそれは例外じゃない。 俺は、違う。絶対に……あんな風になってたまるか。 少しだけ、俺のイメージが心紅に伝わってしまったらしい。恐らく、俺が思い出した声を聞いたんだろう。 「……あまり気にしないでくれ。って言っても、無理かもしれないけどな」 「あぅ……わ、分かりました」 「え? またなんかテレパシったの? 俺だけ除け者かよー」 「大した事じゃない。気にするな」 少々司郎が不貞腐れたがまぁいい。心が繋がってるっていうのは本当に不意に変な事まで伝播していかんな。心紅が喋れるようになったんだし、そろそろ解除してもらうか。 変な雰囲気にしちゃったか。まったく、あいつの事を考えるとろくな事が無いな。 「おっ、そろそろ海が見えてくるんじゃないか? ほら、窓見てみろよ」 全員の視線が俺から逸れた。誤魔化し、出来たかな? さっきの事は後で心紅に話そう。 場の空気を変える為に適当に言ったんだが、どうやら嘘にはならなかったようだ。 「おぉぉぉ! うーみだー!」 「わぁ~、綺麗ですね!」 「あぁ、晴れてるし気持ち良さそうだな」 青々とした空と海が、俺達の眼前に広がる。夏の景色の定番の一つだよな。 もうしばらく電車に揺られたら、俺達は目的の町に着く。……嫌な事は置いといて、楽しむとしようか。 ---- 天は高く、体を打つ風は確かに潮風。海辺の町に居るって感じだな。 「着いたー! よし、海に直行!」 「落ち着け司郎。まずはホテルに行って荷物を下ろしてからだ」 「海は逃げないんだ、少し落ち着けって」 「でも、元気なのは司郎さんの取り柄ですよね♪」 おじさんの先導で、俺達一行が目指すのはこれから三日間世話になるホテル。予約で取れたのは二部屋だから、一部屋はおじさん達が使って、もう一部屋を残りの俺達が使うって事らしい。 さて、もう一人……じゃなくて、もう一匹のメンバーも出してやろう。結局、あの後またボールに入ってもらった訳だし。 「さっ、リオル。ここからは出てても大丈夫だぞ」 「リオーッ!」 出したり引っ込めたりしてばっかりだったからな。ん? なんだ肩車じゃなくて隣を歩きたいのかな? よじ登ってこないな。 「ふふっ、リオル君も一緒に歩きたいみたいですね」 「あ、やっぱりそうなんだ。それじゃ、逸れないようにちゃんとついて来るんだぞ?」 コクリとリオルが頷いたのを見て、少し先から早く早くと呼んでる司郎の後を追った。まったく、高校生なんだからもうちょっと落ち着きを……いや、遊びに来てるのにそれを言うのも野暮か。 燦々とした太陽の日の下を、こうして家族で歩くなんて何時ぶりかな。と言っても、俺は黒子家の一員じゃなくて居候なんだが。 でも、実際一週間も一緒に暮らしてると結構慣れてくる。元々付き合いがあったのも総じて、俺がこの家族の一員だと言っても違和感無いだろうな。……元の姿に戻らなければ、だけど。 親父達も親父達で楽しんでるんだろうし、俺は俺の居る場所で楽しもう。今は黒子家の一員として。 「見えた、あそこが私達が泊まるホテルだ」 「うわぁ~、凄く高いです! 何階建てなんですか!?」 「確か、15階立てだったかな。9階以上はスイートルームになるから、そこには手が出せなかったがね」 「スイート? えっと、どういう意味なんですか?」 「簡単に言うと高級な部屋って事。一般の部屋より家具もサービスも、おまけに値段も段違いってところかな」 「流石にスイートを二部屋も借りられる程には稼げていないのでね……」 寧ろ稼げていたらセレブの仲間入りを果たしてるだろうな。それでも二泊も出来るんだし、おじさんの働いてる会社も儲かってるんだろうな。 確か……カントー地方にある大手ポケモングッズ製造会社と直接取引してるって言ってたっけ。セルフカンパニー、だったかな? そんなところと提携してるんだし、十分に大手だよな。 そこの課長なんてやってるんだからおじさんは凄い。しかも素はゾロアークでそれなんだよな。ポケモンの方が人材としては優秀だったりして……。 まぁそれはいいか。今はホテルの部屋に荷物を置くのが最優先だ。 入り口に入ると、ロビーで寛いでる宿泊客が数人見える。自販機や売店もあるようだし、飲み物なんかはここで買えそうだな。 何故かおじさんに一緒にフロントへ来るように言われたのでついて行く。あぁ、そういう事か。 「すいません、予約をした黒子なのですが……」 「黒子様ですね、少々お待ちを……」 予約客のデータの管理もパソコンでやられてるようだな。フロントのスタッフの方が操作してるのが分かる。 「お待ち致しておりました、こちらがお部屋の鍵になります」 「ありがとうございます。507と508か、それじゃ、こっちは零次君に預けておくよ」 やっぱり。507号室の鍵を渡されたんでそのまま受け取る。ま、利用するメンバーの中で俺が一番無くしそうに無いと思われたんだろう。 確かに司郎に渡すのは少々不安だし、リオルと心紅は渡されても困るだろうしな。三日間は俺が預かっておこう。 待ってたメンバーと一緒にエレベーターで五階へ。へぇ、ガラス張りの外が見れるエレベーターか。もっと上まで行けば眺めも壮観だろうな。 「おー……この高さから見る海ってでかいなー」 「本当だな。夕方なんかの眺めも綺麗そうだ」 「夕日の沈んでいく海って、ちょっと寂しい感じもするけど凄く綺麗ですよ。私も大好きです」 それはその時の楽しみにしておいて、眺めてる間に五階に到着だ。今は昼間の海を楽しむ為に準備しなくちゃな。 部屋の前でおじさん達と別れて、俺達は自分達の部屋に入った。外側から開けるのに鍵が必要で、閉めるのはオートロックみたいだな。気をつけないと外に締め出される訳か……鍵、無くさないように持ってないとな。 白を基調とされた広々とした部屋が俺達の前に広がる。窓も大きくて開放感があるし、景色ならここからでも楽しめそうだ。 「わー! 広いですね!」 「シャワーとかも全部付いて俺の部屋の倍くらいある……さ、流石ホテル」 「一般家庭の一部屋と同じならビジネスホテルで事足りるしな。しかし……」 これは問題だ、ベッドが二つしかない。いや、通常のホテルならこれが普通だろうし、予想しておけばよかったな。 「ふむ……寝る時どうする? リオルはまぁどうやっても寝れるだろうけど、一人溢れるよな?」 「あー、確かに。ま、夜になってから考えればいいんじゃね? それより今は海だよ海! 早く行こうぜ!」 まぁ、悩んでても仕方ないか。いざとなったら毛布だけ借りて俺が椅子で寝ればいいし。 荷物を部屋の片隅に纏めて置いて、必要な物を取り出してと。司郎が待ち切れないようだし、すぐに移動とするか。忙しない奴だよまったく。 部屋から出たら真っ直ぐにエレベーターに向かった司郎は放っておいて、隣の部屋のおじさん達に一言言っていかないと。 ノックをするとおばさんが顔を出した。流石にまだ元の姿に戻ってるって事は無いよな。 「あら、零次君。どうしたの?」 「これから皆を連れて海に行ってくるんで一声掛けておこうと思って。おばさん達はどうします?」 「あぁ、私達は少し休んでから行くわ。連絡は零次君の電話にするから、向こうで合流しましょう」 「分かりました、それじゃあ行ってきます」 「はい、気をつけてね」 これでよし、と。あ、もう司郎が居ない。リオルも。待ってたのは心紅だけか……知らない土地をあまり勝手に動き回らないでほしいんだがな。 「聞くまでもないだろうけど、リオルは司郎と?」 「はい、行っちゃいました……」 「……あいつ等が迷子になる前に追いつくとするか。下で待ってるといいんだけどな」 ん? 歩き出そうとしたら心紅に服を掴まれた。どうしたんだ? 「あ、あの……零次さんって以前はトレーナーだったんですか?」 「……いや、俺は生まれてこれまで、一度もトレーナーであった事は無いよ」 「じゃあ、あれは……」 電車の中のあれか。説明するのに、ちょっと時間が掛かるんだよな。知った以上心紅は気になるだろうし、ちゃんと話しておいた方がいいだろう。 「そうだな……今晩、少しゆっくり話しするか。その時に、あまり面白い話ではないけど教えるよ」 「そう、ですか? ……今は司郎さん達を追わなきゃですもんね。分かりました」 「あぁ。それじゃ、行こうか」 「はい!」 そういえば、心紅と二人で行動するのはこれで初だな。必ず司郎と一緒に居たし。っていうかこの夏休みが入ってから司郎が傍に居なかった事が無かったな。うーん……。 とにかく今は司郎を追おう。リオルが一緒に居るし、変な事をしてることは無いだろう。 エレベーターでロビーまで戻ってきたんだが……居ない。むぅ、誰か見てなかったかな? フロントに聞くのが一番か。 「すいません、リオルを連れた高校生なんて出て行きませんでしたか? 俺達、そいつの連れでして」 「おや、先程黒子様と一緒に居た。えぇ、海水浴場は何処かと聞かれたのでご案内致しました。随分楽しみにしているご様子でしたよ」 「って事はもう向かったって事か……あの、俺達にも教えてもらえますか?」 「分かりました。と言っても、当ホテルからそれほど遠い訳ではありませんし、標識等もありますので迷う事は無いと思われます」 そう言って簡単に海岸までの道を教えてくれた。ふむ、ここから五分くらい歩いたところか。聞いた感じ、迷う要素も無いし大丈夫かな。 「ありがとうございます。あ、部屋の鍵は?」 「お預かりする事も可能です。如何なさいますか?」 「それじゃあお願いします」 「はい。では、お客様の名前だけ控えさせて頂きますね」 渡されたメモに名前を書いて渡した。さっき受け取った時はおじさんが受け取ったし、こうしておけば俺でも受け取れる訳だ。 さて、追うか。俺っていうリミッターが無い以上、司郎が暴走してないといいんだがな? リオルがその役をやっててくれるといいんだが、厳しいだろうし。 「司郎さん大丈夫でしょうか? なんなら、私が上から探しましょうか?」 「いや、その辺は司郎も弁えてるだろうし、ラティアスの姿で飛び回ると合流が難しくなるかもしれないだろ?」 「うっ、確かにそうですね。……零次さんの力になれると思ったのになぁ」 あら、心紅が俯いちゃったな。何か変な事言ったか? 「いやあの、ラティアスだって事で追い掛け回されたりしたら心紅が楽しめなくなるかもしれないだろ? そんなの、俺だって嫌だしさ」 チラッとこっちを見て溜め息って。ど、どうすればいいんですか俺は。 「だからさ、笑おうぜ。ほら、折角これから海行くんだし、下なんか向いてたら勿体無いぞ」 「……ぷっ、あははは!」 うぉっ、顔上げたと思ったらいきなり吹き出して笑い出した。今度はどうしたんだ? 「ご、ごめんなさい。零次さんは一生懸命私の為に言ってくれてるのは分かるんですけど、いつもとあまりにも調子が違って」 「いや、俺、女の子とだけ一緒に居る事なんて滅多に無いからな。どうも慣れなくて」 「私、見た目は変えててもポケモンですよ? それでもですか?」 「異性である事に変わりは無いだろ? 司郎ならデリカシーなんて物に縁が無いから心配する事も無いけど、心紅には色々事情もあるし……」 「……やっぱり、零次さんは変わってます。零次さんみたいな人、今まで私見た事無いですよ」 むぅ、変人みたいに言われるのはちょっと心外だな。まぁ、他の奴よりちょっとずれてる時があるのは自覚あるけど。 「さ、早く海水浴場行きましょ。司郎さんもきっと待ってますよ」 「あ、あぁ、ってあまり引っ張らないでくれよ。急いだって海水浴場は逃げないって」 「海水浴場は逃げなくても、楽しい時間はあっという間に過ぎちゃいますよ? 早く早く♪」 やれやれ……そういう事なら少し急ごうか。言った通り、海に居られるのはこの三日間だけなんだし。 心紅が繋いだままにした手を少し恥ずかしく思いながらも歩いて、それらしい賑わいを見つけた。どうやら着いたみたいだな。 「わぁー、人がいっぱいですね」 「実に夏めいた光景、ってところかな。ふむ、どうせ司郎ももう着替えてるだろうし、俺も着替えてくるかな」 「じゃあ私は、像を水着に変えて待ってますね」 「分かった、すぐに戻るよ」 一時的に心紅と別れて、脱衣所の中に入る。おっ、全部鍵付きロッカーか。こういうところのセキュリティは特に大事だから助かるな。 一応司郎の携帯にコールしてみたら、ロッカーの一つから着信音が流れてきた。うん、間違いなくここに到着はしてるみたいだ。 必要な物以外はロッカーに入れて、海パン姿になる。後はロッカーの鍵を抜いて、ストラップがリストバンドになってるからそれを腕に巻く。うん、これでいいな。 あ、携帯はどうするかな……おじさん達から連絡が入るんだった。まぁ、そんなに海に入る気は無いし防水だし、持って行くか。 脱衣所から出て、心紅の赤い髪を捜す。目印が分かり易くて良いよな。 「あっ、零次さーん」 どうやら向こうが俺を先に見つけてくれたみたいだ。声の方を向くと、確かにそこに心紅の姿があった。 オーソドックスな水着の上、腰の辺りに布を巻いてるパレオって言ったかな? そのタイプの水着を纏ってるイメージにしたみたいだ。因みに着ている物の色は勝手に白くなるらしい。 「どうですか? テレビで見かけて可愛いなと思ったんでこれにしてみたんですけど」 「え、あぁ、凄く似合ってるよ」 「本当ですか!? ありがとうございます!」 いやあの、その姿で腕を組まれたりすると色々不味いと思うんだ。その、人目を引くって意味で。 一体、心紅の人の姿のモデルは誰なんだろうか? その、プロポーションが良いからこういう事をされると(主に男性からの)視線が痛い。そして俺は、多分ラティアスの姿でこれをされても戸惑いを隠せない。 「よ、よし、まずは司郎とリオルを探そう。ここに居るのは間違い無さそうだから。だからちょっとだけ離れてもらえるか?」 「あぁ、動き難かったですね。分かりました」 一息ついた所で司郎探しだ。といっても、砂浜には人だらけだし、もし泳いでたりしたら見つけるのが難しくなる。どうしたもんかな? まずは一緒に居るであろうリオルを探すか。リオルなら、俺の姿を見つけたら真っ先に向かってくるはずだ。 ふむ、サンダルを持ってきたのはやっぱり正解だったな。砂に直に足をつけたらかなり暑かっただろう。こっちに居る間はサンダルで動くのも悪くない。 それにしても大繁盛だな。日焼けしてる人から泳いでる人、ははっ、ナンパなんかして……なんだ? あれって確かグレッグルって言ったかな? それの突きを食らってる人が居る。尻って……。 「へぇ、泳いでる人ばっかりじゃないんですね」 「楽しみ方は人それぞれだからな。ほら、あれを楽しみにしてる人も居る筈だぞ」 俺が指差したのは海の家。それに露店も何軒か出来てるな。昼は焼きそばにでもしようか。 「良い匂いがしますね。あそこは、食べ物を売ってるんですか?」 「あぁ。それと休憩なんかも出来たかな? 用途はそんな辺りだな。後で何か食べようか」 「はい!」 良い返事だ。財布はロッカーに置いてきたから、食べる時は取りに行こう。 ふむ、適当に歩き回ったけどまだリオルにも司郎にも出会わないな。どこまで行ったんだ? 「あ、あの波打ち際に居るのリオル君じゃないですか?」 「ん? あぁ、確かにリオルだ。おーい」 俺を声を掛けたら、振り向いて姿が見えた途端に走ってきた。間違いなく一緒に来たリオルだな。 「リオ~」 「ん? どうしたんだ? なんか元気無いな?」 「……どうやら司郎さんと逸れてどうしようか困ってたみたいですね」 なん、だと? おいおいじゃあ司郎は迷子ってるって事かよ。参ったな……。 「リオル、覚えてる限りで良いんだが、司郎と一緒に居た場所分かるか?」 「ル~……」 「探して歩いちゃったから分からなくなっちゃったそうです。これはどうしようも無いですね……」 手掛かりも無しか。いや、一つだけあったな。あの海パン、相当目立つしそれで探すか。 ったく、海に来て早々に迷子の捜索とか勘弁してくれ。そうだな……奴の行動パターンを考えよう。 まず、テンション上がって目的地に猛進。これはさっきだな。 そして舞い上がって周りが見えなくなって孤立。これが現在。 最終的に寂しくなって向こうもこっちを探し出す……ま、こんなところだろうな。基本的に構ってやらないと拗ねるし。 そして奴がこっちを探す上で、こっちにはとても優秀な目印がある。そう、心紅だ。現在渚の視線を釘付けにしてる以上、その範囲内に居れば野次馬精神旺盛な奴なら間違いなく釣れる。 なんだ、そう考えるとこっちがわざわざ動かなくてもいい気がしてきた。奴も適当に遊んでるだろうし、俺達も遊んでるか。 「よし、決めた。まずはほっといて俺達も楽しもう」 「え? いいんですか?」 「元々奴が暴走した結果だし、その内現れる気がするから気にしない事にした。現状は、探すより探させた方が見つかる可能性、高いと思う」 「……それって、私が見られてる事ですか? さっきから気になってはいたんですけど」 「そういう事。誰しも綺麗なものには目が行くってところか」 ん、特に意味を込めて言ったつもりは無かったんだけど心紅が赤くなったな。そんな反応されると俺も少し恥ずかしいんだが。 とにかく、一先ず奴の事は放置で海を満喫しよう。なんでも楽しんだ者勝ちだって言うし。 リオルも元気付けてやらなきゃならないし、遊ぶとしますか! ---- それぞれに注文した物を受け取って、海の家に設けられてる休憩スペースに腰掛ける。時間はそろそろ昼食時だし、休憩するには良い時間だろう。 「ビーチバレーって楽しかったですねー。リオル君が上手でびっくりしましたよ」 「あぁ、ちょっと教えただけであれだけ動けるとは思わなかった。頭も良いし、シロナさんが優秀なトレーナーだって事の証明かな」 得意げな顔をしてるリオルにご褒美って事でたこ焼きを買ってやった。俺と心紅は焼きそばだ。まぁ、食べるのに使う物が選考基準だな。 うん、こういう場所で食べると更に美味く感じるのは間違いない。心紅達も美味しそうにしてるし、買った甲斐もあるってものだ。 「でも、結局司郎さんは見つかりませんでしたね」 「そうだな……結構派手に遊んでたんだがな?」 「……それは、新手の放置プレイ? それとも虐め?」 あ、やっと現れたか。涙目になられても、本来の原因は自分にあるんだから仕方ないだろうが。 「なんだよー! 俺抜きで渚の話題を独占か!? 俺にも焼きそば買って下さいお願いします!」 「元々お前が勝手に行くのが悪いんだろうが。ほら、冷める前に食うんだな」 「あれ、零次さん、司郎さんの分も買ってたんですか? 見つけてなかったのに?」 「まぁ、昼飯時になれば飯目当てでここに来るだろうとは思ってたからな。来なかったら心紅と半分ずつ食ってもよかったし」 「あ、ありがたや~」 受け取った途端にバクバク食いだした。まったく、品の無い食い方だ。 「あ、それとちゃんとリオルにも謝れよ? お前と逸れて困ってたんだからな」 「ぐふっ、うぅ、悪かったよリオル。本当に申し訳なかった」 頷いてたこ焼きを口に運んでいく。別に怒ってた訳じゃなかったからそんなもんだろう。 「で? 今まで何してたんだよ?」 「あぁ、なんかこの海水浴場、海の中で綺麗な石とか貝殻拾えるらしいんだわ。だから潜って探してた」 「へぇ、収穫はあったんですか?」 「そーれがじぇんじぇん無いんだわ。なんかもっとよく聞いてみたら、見つけたら幸運ってレベルのもんなんだってさ」 「ほう、そんな物が……そんなの探して潜ってたんなら見つからない訳だな」 「海から上がったら、なんか髪の赤い美女とそれをしっかりエスコートしてる男のカップルがヤバイなんて噂が飛び交っててびっくりしたわ! 間違い無くお前達だと思ったし」 それで探し回って現在に至るって事らしい。そ、そんな噂が立ってるとは思わなかったな……。 まぁ、狙い通りに合流出来たんだからいいか。これからはいつものメンバーで行動だな。 「あ、そういえば母さん達は? 一緒じゃないの?」 「ん? あぁ、おじさん達なら休んでからこっちに合流するって言ってたから、多分ホテルで昼食取ってから来るんじゃないかな? 先に連絡してくれる事になってるし」 「ほーん、それならいっか。よし、これ食ったらまた潜るかなー」 「石探しにか? よくやるな」 「だってレアじゃん! あ、見つけたのを誰かにプレゼントするとその相手と親しくなれるーなんて曰くもあるらしいぞ」 へぇ、縁結び的なものか? 本当に関係あるかどうかは分からないが面白いな。 でも俺は特に探す気無いかな。携帯持ってないといけないのもあるし。 「それなら、そろそろ休憩終わりにするか。あまり休んでても勿体無いし」 「そうだなー。よっし、いざ海へ!」 「元気な事だ。張り切りすぎて溺れるなよ?」 「平気平気。あ、またここ集合でいいよな?」 「そうだな。心紅とリオルはどうする? まぁ、リオルは見えるところに居させる事になるけど」 「そうですね……私は、少し海に入ってきます。折角ですし」 「そっか。じゃあ、心紅も気をつけて」 「はい。行ってきます」 あ、海に入るって大丈夫なのか? 多分泳ぐんじゃなくていつもの浮いてる力で進む事になるんだよな? こう、見た目的にちゃんと泳いでる風になるのか? ……それを言ったら普段の歩いてる姿もそうか。まぁ、心紅なら特に心配無いだろう。 それじゃ、俺はリオルと一緒か。ビーチバレーなんかはしたが、俺もリオルもまだ海に入ってないんだよなぁ。折角だしちょっと入りたいには入りたい。 「リオル、泳いでみたいか?」 「ル~……リオッ!」 しまった、通訳が居ないからリオルの言う事が分からない。頷いてるし、入りたいって事でいいんだよな? それならどうするかな。ん? 無料レンタルか……おぉ、防水ケースなんてあるじゃないか。それに、浮き輪もある。この辺借りていけば、俺やリオルでも楽しめそうだな。 「よし、それなら……行くか」 「リオ!」 まずはリオルに浮き輪を装備させてと。これがあれば溺れる心配は無いだろう。ちょっと不思議そうにしてるリオルを促して、海へ入る。 うん、体に触れるこの冷たさが心地良い。暑い時にはばっちりだ。 浮き輪のお陰でリオルは波間に浮いた。その手を取って少しだけ沖の方に引く。足がつかなくなって少し慌てたみたいだけど、慣れると楽しそうにちゃぷちゃぷと水面を突いて遊び始めた。 さて、俺は少し泳ぐか。多少潜るのにも十分な深さがあるようだし、行ってみるか。 勢いをつけて海中に体を沈める。目を開くと、海草の揺れる海底が見えた。へぇ、海水浴場でも結構水タイプのポケモンも居るんだな。 こっちから手を出さなければ危害を加えてくる心配も無いだろう。リオルの足だけ見逃さないようにしながら海底の方まで進んでみた。 ふむ、多少ゴミなんかあるかと思ったんだが綺麗なものだな。まだ小さいポケモンなんかも居るし、水も綺麗だ。 ん? なんだ……沖の方へ泳いでいく大きなポケモンが居る。あれは確か……ラプラス? 穏やかな性格が災いして、トレーナーに多くが捕獲されて個体数が少なくなったポケモンだって聞いた事があるんだが、まさかこんなところに? そのままラプラスの姿は小さくなっていく。なんとまぁ、珍しい物見たな。っと、そろそろ息継ぎしないと普通に溺れるぞ。不味い不味い。 「ぷはぁ! ふぅ……」 俺が海面に顔を出すと、ぱちゃぱちゃ足を動かしながらリオルが寄ってきた。あ、可愛いかもしれない。 「ははっ、楽しいか?」 頷くリオルは笑顔だし、つれて来てよかった。でも、あまりこういう懐かせるような事していいのか迷うな……シロナさんの迷惑にならないといいんだがな。 それにしても、今のラプラス……どうしてこんな目立つところに? こんなに人が居る場所に近いと捕まる心配もあるのに。 ……考えても分からないか。群れから逸れて彷徨ってる、とかじゃないといいんだけどな。 おっと、リオルが顔を覗き込んできてた。心配無いって事を伝えるために頭を撫でてやってと。 水面に仰向けに寝そべる様に浮くと、太陽の温かさを肌で感じる。はぁ、こうして浮いてると頭の中が空っぽになっていく感じがするな。波の音が実に心地良い。 ん? なんだ? 歌……? 体を起こして耳を澄ませた。今、波の音に混じって確かに歌みたいなものが聞こえたような……気のせいか? もう、聞こえないか。でも、あれは確かに旋律だった。あれは一体? おっ、リオルに突かれた。どうしたんだ? 「リオッ、リオゥ!」 「どうした? ……あれは!」 砂浜の波打ち際、見た事のある赤い髪の女の子が二人連れの男に声を掛けられてる。不味いな……心紅は注目を引いてたんだし、やっぱり離れるべきじゃなかったか。 「お前はゆっくりでいいからついて来てくれ、先に行くぞ!」 泳ぎはそんなに上手い方じゃないが、そんな事言ってる場合じゃない。出せる全力を持ってして泳ぐ。 よし、心紅に手を伸ばしているが、なんとか間に合った。割って入らせてもらおうか。 「失礼、俺の連れがどうかしましたか?」 「零次さん!」 「なんだぁお前? 俺達は今からその子と遊ぼうかってところなんだよ」 「連れだかなんだか知らないけどよぉ、邪魔すんじゃねぇよ!」 やれやれだ。人が集まると、やっぱりこういう馬鹿な奴等も集まってるって事か。一人はがたいの良いスキンヘッド、もう一人はそいつの腰巾着ってところか。 一度目を閉じて、ゆっくりと開きながら睨み付ける。悪いが、引く気はまったく無い。 「な、なんだその目は……お、俺達とやろうってのか?」 「そ、そんなに睨んだってなぁ、お前みたいな奴が兄貴に勝てる訳無いだろうがぁ!」 「言うなら来てみろ。ただし、それ相応の覚悟を持ってしてだ」 これでも空手の基礎は習得してる。それに、とっておきもあるからはったりは通用しない。 俺一人に、明らかな怯みを見せる大人二人。この程度なら、とっておきを使う必要も無いだろう。 「野郎嘗めやがって!」 「中途半端だな。無駄だ」 殴りかかってきた拳を軽くいなして、鳩尾に肘打ち。これが俺の使えるカウンターとして一番威力が出る。 まともに喰らったんだ、一時的な呼吸不全とダメージで動けなくなる。下がった顎目掛けてアッパーでも決めてやろうかと思ったが、そこまでする必要は無いだろう。 「ごほっ!? うげ……」 「あ、兄貴ぃ!?」 「失せるんだな。大の大人が高校生如きにのされたんじゃ、立つ瀬も無いだろう」 「ち、ちくしょう! 覚えてろよ! 兄貴重てぇ!」 「ふん、断る。お前達みたいな奴の事、覚えるだけ無駄だ」 まったく、心紅の見た目は俺と同年代だぞ? それを捕まえて何をする気だったのやら。 振り向いたら、心紅はその場にへたり込んでた。そりゃ、いきなり知りもしない男二人に言い寄られたら誰でも怖いよな。 「大丈夫だったか?」 「は、はい……海から上がったら急に話しかけられて驚いちゃって」 「俺も無用心だったよ。ただでさえさっきまで注目を浴びてたんだから、ああいう輩が近寄ってきてもおかしくなかった。ちょっと怖い思いさせちゃったな」 「いえ、平気です。それに……また零次さんに助けてもらって、嬉しかったです」 そう言って心紅は笑った。よかった、あまり嫌な思いをする前に仲裁出来たみたいだな。 「零次君、大丈夫かい!?」 「あ、おじさん。いらっしゃってたんですね」 「あぁ、ここに来て君の携帯に連絡を入れようと思ったら騒ぎを見つけてね。心紅ちゃんも大事無いかい?」 「はい、大丈夫です」 「それはよかった。もう少し早く来ていれば、私も元身で加勢したんだがね」 「いや、それは色々不味いと思われます……」 ゾロアークが人を襲った、なんて事になったら文屋が大喜びするだろう。それは非常に不味いし、下手したらおじさんがハンターなんかに狙われかねないぞ。 おばさんも合流して、監視の目が増えたからもうああいう奴等が近付いてくる事も無いだろう。とりあえず、一安心かな。 そしてまた渚を騒がせた事で噂が流れてそうだな……。あの二人、今度同じ事してくれたら完膚無きまでに心を折ってやろう。 「ん? そういえばうちの司郎は何処に?」 「あぁ、それなら海見てればその内出てきますよ」 「なんだって? ……あ、居た」 飽きもせずに石探しを続けてるらしい……こんな広い海水浴場で石一つ見つけるのがどれだけ大変か分かってないんだろうなぁ。まぁ、放っておくが。 リオルも追いついてきたし、さっきの騒ぎがあった以上あまり離れずに行動しよう。あ、おばさんも来た。どうやら飲み物持ってきてくれたみたいだ。助かるなぁ。 ま、なんだかんだもう四時間くらいここに居るんだし、司郎がバテたらホテルに戻るか。どれ、リオルを洗ってやったりするとしようかな。 ---- 「いやー、母さんのご飯も美味いけど、ホテルの飯も美味かったなー」 「司郎は、もう少し食事マナーを覚えるべきだな。自由に食べ過ぎだ」 「零次さんに聞きながら食べましたけど、きちんとしたお店で食べるのって大変なんですねぇ」 あの後、日が傾いてきたのを切にして俺達はホテルに帰ってきた。司郎は、結局石を見つけられなかったから明日も探すって意気込んでたけどな。 夕食も済ませて俺達は自分達の部屋に居る。もう出歩く気も無いし、皆人間の姿から元の姿に戻ってるけどな。ま、何かあったら俺が出ればいいだけだし、別に構わないだろう。 「これからどうするー? まだ寝るにしても早いよなー」 「あ、眠ると言えば、これどうするんです? ベッド二つしかありませんけど。布団なんてありませんよね?」 「そうだな。ま、俺はこの椅子でも良いし、司郎か心紅のどっちかがリオルと一緒に寝てくれればいいぞ」 いや、なんで全員で俺の顔見るんですか? 悪くない提案だと思うんだけどな? 「それじゃあ寝てる間に零次が疲れるじゃんよ。無し無しー」 「いや、でもそれじゃどうしようも無いだろ?」 「うんにゃ、もう一個あるでないですか。……リオルと一緒に寝るなら、誰と一緒に寝ても変わらんでしょー」 「は? まさか……」 「そう! 俺と零次とで別れて、リオルか心紅、どっちかと一緒に寝ればいいのだよ! 幸い、ベッドでかいし」 「え、えぇ!?」 もっともな反応だ心紅。そう簡単に言ってくれるなっての……。 「あのなぁ……心紅が異性であるってのを考慮した上での発言なんだろうな?」 「ほぇ? そんなの別に気にする事無くね? ずっと同じ部屋で寝泊りしてきた訳だし」 「で、でもそんな添い寝みたいな事はしてません!」 「いいじゃんよー、零次とは最初会った時に似たような事になってるんだし、俺だってそんなに気にしないし」 なんかもう、司郎の邪気の無さに驚きだ。悪タイプなのにな。 「……それでいいか? 心紅」 「えぅ、は、はい……」 「じゃあ決まりー。今日はどうする? どっちでもいいけど」 「そうだな、心紅が好きな方を選んでくれていいぞ」 「えと、それなら寝るまでに決めておきます。も、もうちょっと考えさせてください」 まぁ、心紅がそう言うなら任せよう。どっちを選んでも、あまり心紅は寝られないかもしれないが。 そうなったら俺も付き合おう。心紅だけで一晩過ごすのは、結構可哀想だ。 「さーて、そんなら寝るまでトランプでもする? あ、俺なんか菓子欲しいなぁ」 「お前……さっき飯食ったばかりだろうが。まだ食う気かよ?」 「いや、なんか甘いもん食べたいなーって」 ……やれやれだな。それに、もうゾロアークの姿になってるって事は俺に行ってこいって事か? 期待した目をしてる……横着と言うかなんというかなぁ。 「しょうがないな、行ってやるよ。ただし、自分の食いたい物の分は金出せよ」 「うっ、そりゃそうだよな……んじゃあプリンなんかお願いしやす!」 五百円玉を渡してきたんで受け取る。まぁ、これくらい出して当然だろう。 それなら下まで行ってくるか。プリンくらいなら、ロビーの売店でも売ってるだろう。 「あ、それなら私も一緒に行っていいですか? ちょっと夜風に当たりたいんで」 そう言った心紅の顔が俺を向いたと思ったら、不意に真面目なものに変わった。なるほど、そういう事か。 「それなら、ついでに少し散歩してくるか。別に構わないだろ」 「オッケー。甘い物食べれるならそれでいいぜー」 それなら、リオルは司郎に任せて少し出るとしよう。着替える必要の無い心紅ならすぐに出れるし。 心紅が気になってるのはもちろんあの事だろう。今晩話すって約束したもんな。 エレベーターを降りていくと、広がった夜の海に吸い込まれるような錯覚を覚える。夜に見るのは少し怖いかな。 「零次さん……話して、くれますか?」 「そう焦らなくたって話すよ。少し、静かなところまで行こうか」 「……分かりました」 エレベーターを降りると、そこにはロビーが広がる。あ、もう売店閉まるのか……困ったな。 「おや、葛木様ですか」 「あ、あなたはフロントの……」 「申し遅れました、当ホテルの支配人を勤めております賀等(がとう)と申します」 「そうだったんですか」 「その様子ですと、売店に御用だったようですね。……何かご入用でしたら、10分ほど歩いていただく事になりますが、コンビニエンスストアがございますよ」 「助かります。それでは、少し出させてもらいますね」 「分かりました。お帰りをお待ちしております」 はぁ、支配人だったのか。通りで接客も丁寧な訳だよ。コンビニか、あって助かった。 外に出ると、昼とはまた違う静かな潮騒が俺達を包んだ。時間帯によってこんなに感じ方が違うとは思わなかったな。 さて、少し語りを始めようか。さっきから心紅は待ってるみたいだし。 「心紅、電車の中で何がお前の方に流れたのか聞いていいか?」 「……声、です。ポケモンなんか強ければいいって」 「やっぱりか。……思い出さないようにしてても、忘れられる訳じゃないってことか」 「あの声は誰のものなんですか? 凄く暗くて、恐ろしいような……」 「……俺の、兄貴」 俺には、4つ上の兄貴が居る。いや、もう居た、かもしれないが。 「居た? どういう事ですか?」 「居なくなったんだ、もう五年も前の事さ。俺がまだ小学生の頃だったからな」 そう、兄貴は家を出て行った。独りよがりな強さを求めて。 それまでは、優しい兄貴だったよ。皆を引っ張っていくような明るさもあったし、困った友達が居たら何があっても助けようとする強さもあった。 でも、その兄貴はある時を境に居なくなった。 兄貴が居なくなった年……何があったか分からないけど、兄貴はポケモン勝負に勝つ事に異様に執着し始めた。 兄貴がトレーナーを始めたのは、小学3年くらいだったかな。相棒はワニノコで、実力もかなりあったよ。でも、勝敗を気にする事はなかった。 相棒のワニノコも、よく兄貴に懐いてた。……多分、今の俺よりもポケモンに懐かれやすかったと思う。 でも……兄貴は変わった。 何が起こったのか、聞いても兄貴は答えなかった。ただ強く、誰にも負けない強さを、そう何度も呟いてるのを見た事がある。 親父や母さんもすぐに兄貴の変化には気付いた。でも、兄貴は両親の話もまったく聞かなくなるまで勝負の世界にのめり込んでたんだ。 「心紅、お前が聞いた声はな、俺が最後に聞いた兄貴の声なんだよ。今でも、掠れる事も無くはっきりと俺の中に刻まれたままのな」 「その後、お兄さんは……?」 「誰にも何も言わずに、相棒と一緒に姿を消したよ。ワニノコ、いや、居なくなる時には進化してアリゲイツだったかな。あいつも、兄貴に怯えながらも逆らう事は出来なかったんだと思う」 「そんな事があったんですね……」 「もう過ぎた話さ。音沙汰の無くなって五年、もう生きてるかも分からなくなったよ」 多分、もう兄貴と再会する事は無い。漠然とだけど、俺はそう思ってる。親父達がどう思ってるかは知らないけどな。 「あの、私がトレーナーにならない理由を聞いて、お兄さんの事を思い出したんだとすると」 「ご明察。兄貴のようになりたくない、なって堪るかって思いで俺はトレーナーにならないって誓いを立てたんだ。親父達もそれでいいって言ってるしな」 「そうだったんですね。すいません、嫌なこと思い出させてしまって」 「気にしなくていいさ。司郎にも話した事無いし、さっき言った通りもう五年も前の話だしな」 兄貴と同じ道は絶対に歩まない。それが、兄貴を慕ってたからこそ俺が選んだ道だ。今は、友人にポケモンが居る事もあるしな。 ゆっくりと歩きながら話してたから、聞いた時間よりも少し掛かってコンビニに着いた。まずは司郎のリクエストを回収して、と。 そうだな……ついでに色々買っていくか。飲み物なんかはあって必要無くなる事は無いし。 「心紅も食べてみたい物なんかあったら遠慮無く買っていいからな。来たついでだし」 「ありがとうございます」 心紅と一緒に皆で食べれそうな物を見繕って会計を済ませた。ホテルを出た時も日の沈みかけだったけど、もう完全に沈んじゃったか。 ま、こっちはわざわざ買出しに出てやったんだから少しくらい待たせてもいいだろ。焦って行く事もないさ。 「良い風ですね。あ、月も綺麗に出てますよ」 「本当だな。こんな夜なら、散歩するのも悪くない」 「……人影も無いし、元の姿に戻っても大丈夫かな」 「え?」 心紅が目を瞑ると、それまでの人の姿が光の粒になるように消えて、ラティアスの姿に戻る。 「急にどうしたんだ?」 「深い意味は無いですよ。ただ、こうして元の姿で零次さんの隣に居たくなっただけです」 「はぁ……まぁ、大丈夫かな?」 月明かりに照らされてる心紅の毛は、淡く輝いてより一層その姿を美しくしているように見える。 これも、兄貴とは違う道を選んだ結果なのかな。トレーナーではなく、ただの友人としてポケモンの隣を歩む道。……悪くはないかもな。 「……あれ? 零次さん、何か……聞こえませんか?」 「え? ……これは」 昼間、海水浴場で聞いた歌? 人の言葉じゃないけど、この旋律には覚えがある。 「何処から?」 「あっちの、海岸のほうからみたいです。行ってみます?」 「行ってみたくはあるけど、どうやって砂浜に出ようか……」 「ふふっ、零次さん? 私が何か忘れちゃったんですか?」 あ、そうかラティアス。飛んでいくのはお手の物って事か。 「頼めるか?」 「はい。零次さん一人くらいなら大丈夫です」 伏せるようにして、俺が乗りやすいようにしてくれた。ここは、心紅の厚意にあやかるとしよう。 跨ぐのもどうかと思うし、サンダルとはいえ踏む訳にもいかないから、心紅の上に這うような形で乗った。 ふわりと浮き上がり、歌が聞こえてきている海岸へと向かいだす。む、ちょっとバランス感覚が必要かな。 「零次さん、乗り難くないですか?」 「だ、大丈夫大丈夫。心配しないでくれ」 そこまで離れた場所な訳じゃないし、多少頑張ればどうってことはない。 近付くにつれ、歌ははっきりと聞こえてきた。潮騒に溶けるような、透明感のある綺麗な声だ。でも、ポケモンの鳴き声みたいだな。 「あ、零次さんあそこ!」 「あれは……ラプラス」 夜の海に一匹だけ、水平線を見つめるようにしながら歌っている……。凄く、寂しげだな。 心紅がそっと近くの岩場に降りてくれた。どうやら、まだこっちに気付いてる様子は無い。 その場に腰掛けて、しばしラプラスの歌に耳を傾ける。何処か懐かしいような、不思議と安らぐ感じのする歌だな。 こいつ、もしかして昼間見掛けたラプラスと同じ奴か? ……そう考えた方が合点は行くか。 どうやら歌い終わったようだ。歌声が止んで、辺りがまた潮騒に包まれていく。 「どうします?」 「そうだなぁ……」 無闇やたらに接触するべきじゃないかもしれない。俺が人間である以上な。 でも、やっぱり気になる。少しだけ、話をするくらいならいいか? その場で立ち上がって、ラプラスの方に近付く。こそこそすると逆に警戒されるかもしれないから、ここは真っ直ぐにラプラスの方へ向かおう。 ……当然気付かれるか。俺達の方を向いて驚いてる。どうやって切り出すかな? 「驚かせて済まない。でも、あまりにも綺麗な歌だったから近くで聞きたくなったんだ」 「あなたに危害を加えるつもりは無いんで、少しお話しませんか?」 サンキュー心紅。どうやら心紅の姿を見て、立ち去るのは止めてくれたようだ。 怯えてはいるようだし、これ以上近付くのはまだ無理なようだな。なら、このまま話そう。 ん、こっちの向かって鳴いてる。これは、心紅に翻訳してもらうしかないか。 「心紅、なんだって?」 「えと、私を捕まえるつもりか、だそうです」 「……トレーナーがやってきた事を思えば当然の質問かもな。心配しなくて良い、俺にそんなつもりは無いよ」 買った物を傍に置いて、両手を上げてみせた。こうすれば、何も持ってないのは分かってくれるだろう。 疑うような視線を投げ掛けながらも、少しだけ寄ってきてくれた。もう少しだな。 「なぁお前、昼間もこの近くに来てたか? さっきの歌、昼間にも聴いた気がするんだ」 俺の一言にラプラスは驚いてる。どうやら当たりだったみたいだな。 また何か言ってきた。今度はやけに焦ってるみたいだな。 「うーん、これは直接話せたほうが良さそうですね」 「心紅? そんな事出来るのか?」 「試した事は無いんですけど……ちょっと待ってくださいね」 そう言って心紅はラプラスに近付いていって……警戒していたラプラスの額に、自分の額を付けた。あれって、俺もやられたあれか? 『き、急に何をするんだ!?』 「うぉ、これは?」 「えっと、私を仲介する事で、ラプラスさんと零次さんの心を繋げたんです。これなら零次さんにも、ラプラスさんの言葉が分かりますよね?」 「あぁ、大丈夫みたいだ。凄いこと出来るな?」 「今まで試した事は無かったんですけどね。上手くいってよかったです」 俺は心紅とのやりとりで慣れてるけど、ラプラスの方は何が起こったのか分からなくて少し混乱してるみたいだな。 「とりあえず落ち着いてくれ。別に異常な事をした訳じゃないんだ」 『異常は無いって……!? お前、私の言葉が分かるのか!?』 「言葉って言うより、思っている事を私が伝えているって形ですね」 「と言う訳で、これで俺も普通に話が出来るって訳だ」 『そ、そうなのか……ならもう一度聞く。お前、私がこの辺りに居るのを誰かに話したか!?」 さっきのはそういうのを聞いてたのか。誰にも話してないのを伝えると、どうやら安心したらしい。そっか、心が繋がってるんだから嘘をついたりしたらすぐにバレるか。 「で、どうしてこんなところに一匹で居るんだ? 人間を警戒してるなら、こんな所に居るのは危険だと思うんだがな」 『居たくて居る訳じゃない。ただ、その……』 「もしかして、群れから逸れちゃったんですか?」 『違う! いや、違わないというか……』 なんか歯切れが悪いな? どうしたんだ? 『む、群れから独り立ちして、仲間を探してたんだ』 「独り立ち? そんな事するのか?」 「うーん、私達はそういう事した事無いですけど、する種族が居てもおかしくないとは思います」 『私達ラプラスは数が少ないから、より多く子供を残す為に多くの場所へ行こうとしてるんだ。その為に、群れから離れて新たな群れを作る事もある』 へぇ、なるほどな。つまりは種を残すのに適した場所を探して回ってるって事か。 『それで、私や私の兄弟も独り立ちしたんだが……その……』 「何処へ行けばいいかも分からなくて、ここで途方に暮れてた、とかか?」 『うっ……』 「図星、だったみたいですね」 ……俺はどうも事実を的確に言い当て過ぎるらしい。また涙目にさせてしまった。 でもそうすると俺達にはどうしようもないよな。心紅の時みたいに力を貸せそうにないし、出来るとしたら応援くらいか? 『だ、だっていきなり仲間になってくれないかなんて言えないし、話の切り出し方も分からないし』 「その割には俺達には普通に話してるよな?」 「それは、零次さんがちゃんとお話を聞いてくれてるからじゃないですか? 元々零次さんはお話しやすいですし」 「そうなのか?」 「そうですよ」 はっとしたような顔をした後、ラプラスは何か考え出した。俺って話しやすいのか? 確かに、言ってる事をきちんと聞こうとはしてるけどな。 少しラプラスの様子を見てたんだが、突然首を上げた。 『な、なぁ、どうやったら相手と簡単に話が出来るんだ!? 教えて欲しいんだ』 「え? う、うーん、意識した事無いからなぁ。そうだな、まずはさっき俺がお前にしたように、相手に話をしたいって事を伝えるところから始めればいいんじゃないか?」 「そうですね。お話って、自分の言いたい事を言うだけじゃ成り立たないから、まずはお話したいって事を伝えるのが大事ですね」 『そうか、なるほど……他には何か無いのか?』 「他か? そうだな、声を掛けるきっかけを作るとか? ほら、挨拶してまずは声を掛けるとか」 何故だか急遽コミュニケーション能力の授業が始まってしまった。まさか、ポケモンにこんな事を教える事になるとは思わなかった。 ラプラスの質問に、心紅と一緒に答えを考えながら答えていく。それをラプラスは熱心に聞いている。さっきまで警戒されてたのが嘘みたいな状況だ。 思い出すと、司郎からの使いで外に出てきたんだが寄り道だったり談笑ばかりになってきたな。もう一時間くらい経っちゃったか……でもなぁ。 『へぇ~、心紅と零次も知り合ってそんなに経ってないんだ。でも凄く仲良さそうだな』 「今は一緒に生活してるようなものだし、自然と仲も良くなったよな」 「はい。零次さんも司郎さんも良い人……って、人は零次さんだけでしたね。でも、一緒に居て凄く楽しいですから♪」 『へ~、なんだか羨ましいなぁ』 こんな感じで話に華が咲いちゃった訳だ。ラプラスも楽しそうだし、終わりにする切りが見つからないんだよな。 『うん、こんなに楽しく話したのは久しぶりだよ。ここに来てから、本当はずっと心細くて』 「それで、さっきの歌か?」 『そう、お母さんから教わった歌なんだけど、歌ってるとなんだか落ち着いて来るんだ』 「綺麗な歌でしたよね。なんて言うんですか?」 『安らぎの歌……お母さんはそう言ってた』 ラプラスは目を瞑って、また静かに歌いだした。 波音に溶けるように広がるこの感じ、なるほど、名前通りの歌だ。不思議と落ち着いてくる。 歌い終わったラプラスの目には、少しだけ涙が流れた。心細いって本音を言ったし、寂しかったんだろうな。 『皆……元気かなぁ』 「俺が言えた義理は無いだろうけど、そういう時は元気だって事を信じてやるんだ。そうすれば、また自分も頑張ろうと思える」 心紅も聞きながら、胸に手を当ててる。そっか、心紅にも一緒に過ごしてきた群れがあるんだもんな。そういう点では、心紅とラプラスは似てるのか。 『ありがとう零次、ちょっと元気出たよ。……人間にも、色々居るんだね』 「ま、俺みたいのは少ないけどな。……そろそろ戻らないと、流石に不味いか」 「そうですね。司郎さんもリオル君も、きっと待ってます」 『……行っちゃう、のか?』 ふぅ、そんな寂しそうな顔されたら行き難くなるじゃないか。連れて行くにも、モンスターボールなんか持ってないしなぁ。 「また、明日の夜にここに来るんでどうですか? 明日も来れますよね」 「あ、それもそうだな。ラプラス、お前が良ければだけど」 『来て、くれるのか?』 「「……もちろん!」」 俺達がそう言うと、ラプラスは泣きながら、確かに笑った。……必ず来てやろう。 よし、ホテルへ帰るか。ん、どうやら心紅がそのまま乗せてホテルまで飛んでくれるらしい。落ちないようにしつつ、乗せてもらうとするかな。 何にしても、初日で色々あったなぁ。明日は何があるか、今から楽しみにしておくとするか。 ---- 後書き的な 投下が遅れた理由=長さ! 大イベントという事でいつもの2.5倍ほどあります。時間掛かる訳だ…。 この調子で夏が終わるまでに全て上げられるのか!? う、うーん…。 次話へは[[こちら>サマーバケーション! 青き海の独り歌、後編~]] 次話へは[[こちら>サマーバケーション! ~青き海の独り歌、後編~]] #pcomment IP:119.25.118.131 TIME:"2012-09-01 (土) 16:52:52" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%82%B5%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%90%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%EF%BC%81%E3%80%80%EF%BD%9E%E9%9D%92%E3%81%8D%E6%B5%B7%E3%81%AE%E7%8B%AC%E3%82%8A%E6%AD%8C%E3%80%81%E5%89%8D%E7%B7%A8%EF%BD%9E" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; Trident/5.0)"