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サマーバケーション! ~紅き心の内なる思い~ の変更点


writer is [[双牙連刃]]

前話へは[[こちら>サマーバケーション! ~青き海の独り歌、後編~]]

過ごした時間と心の距離、それは、比例しているとは限らない……。

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 海から帰ってきて三日、夏休みも10日目か。後20日か、気付けば結構経ってるもんだな。
今俺が居るのは黒子家のリビング。朝食の真っ最中、なんだが……。

「はい、零次さん」
「いや、自分で箸くらい使えるからな心紅」
「駄目ですよ。まだ包帯取っちゃ駄目って昨日病院で言われてたじゃないですか」

 スプーンに乗ったシリアルをこっちに向けたまま、ラティアス姿の心紅が目の前に居る。状況で言うと、俺は心紅に朝飯を食べさせてもらってるって事だ。
実は、思ってたよりも手の傷は深かったらしい。回復の薬を使ってもまだ完治してないんだ。で、病院行って診てもらったらそんな事を言われたという事。
手を握り込もうとすると鈍く痛みが走る。だから正直言ってこの心紅のやってくれてる事はありがたいんだが……ちょっと恥ずかしいよな、やっぱり。

「あらあら、零次君と心紅ちゃんはやっぱり仲良しねー」
「おばさんからかわないで下さいよ」
「ふぇ!? え、えっと、とりあえず零次さんはこれ食べて下さい!」
「わ、分かったよ」

 口の中に入ってきたシリアルは、牛乳の甘みと合わさって美味い。しかし照れながらだと味が濃く感じるのは何故だろうか。
因みに今リビングに居るのは、人の姿のおばさんと俺、そして心紅と……。

『うん、海草も美味しいけど、流貴さんの作る物も美味しいな』
「あら、ありがとうね海歌ちゃん」

 海で出会って、俺と一緒に来たラプラスの海歌(あまか)。俺なりにかなり捻った名前にしたつもりだ。歌が好きだし、海で出会ったって事でな。
何故出しっ放しにしているかと言うと、まぁ俺がボールに入れたままにするのが嫌だって言うのもあるが、肝心のアクアボールが今手元に無いのが一番の原因だ。
おじさんの職場に所謂アイテムオタクだという部下が居るらしく、そいつがアイテムの解析装置なるものを持ってるからちょっとやらせてみたいとの事で預けてるんだ。
創り主曰く、この世に他に存在していないボールらしいし、解析出来るかはなんとも言えないな。出来れば出来たで詳細が分かるから儲けだし。
あ、因みに司郎はまだだらしなく寝てる。まったく、休み中に生活リズム狂わすと戻すのに苦労するって言うのに……。
結局全部心紅に食べさせてもらった。こんな事滅多には無いし、たまにはいいか。
そうそうもう一匹、リオルは現在テレビを見ている。なんかもう完全にここの暮らしに馴染んでるな。

「ん、ご馳走様」
「うーん、今の零次君になら、オレンの実やオボンの実入りのサラダなんか作ってあげればよかったかしら?」
「いやあれ、人にも効くんですか?」
「効かない事無いと思いますよ? 食べるのもそうですけど、零次さんの手が早く治るように何かあるといいんですけどね……」

 病院で包むようにして包帯の下に巻いてもらった薬があるし、これ以上塗り薬を使う必要は無いって言われてるから放っておくしかないんだよな。長くて昨日から三日、それだけは絶対に外すなって言われてる以上外す事も出来ないし。
ふぅ、手が使えないとこんなに不便だとは思わなかった。幸い心紅やおばさんが居るからよかったけど、これで一人の夏休みを過ごす事を選んでたら大変な事になってたな。
いや、それだったらそもそも海に行く事もなかったか。巡り合わせっていうのは、なかなか不思議なものだよな。
どっちにしろ俺の手はこの様で、これは今はどうしようも無いって事だ。家で大人しくしてるのが最良だ。

「そうだ、貰い物のスターフルーツあるんだけど、皆食べる?」
「スターフルーツ? また珍しい物ですね。確か、熱帯地方の果物ですよ」
「そうなのよ~。旅行に行ってた家の奥さんからお土産って事で頂いたの。地方外なんていいわよねー」

 ほうほう、なるほど。この辺りじゃ手に入り難い事もあって満場一致で食べる事に決定。切り口が星の形になるからスターフルーツって名前になったんだってな。
で、結局心紅に食べさせてもらうと。ふむ、シャリシャリしてるし、梨とかリンゴに近い食感かな。悪くない。

「あら、美味しいわね」
「珍しい形ですし、見てても楽しいですね」
「うん、美味い。あ、でも食べてからあれですけど、司郎やおじさんに残しておかなくても?」
「大丈夫よ。まだまだ残ってるから」

 そういう事ならこれは食べてしまって大丈夫だな。って、もうリオルと海歌が殆ど食べてからじゃ遅いか。
しかし、司郎の奴起きて来ないな。家から出ない以上、暇潰しがゲームくらいしか無いんだが司郎が寝てるとそれも出来ない。どうしたものかな。
包帯巻きの手を眺めてると、すっと心紅の手が俺の手に触れた。どうしたんだ?

「痛むんですか? さするくらいしか出来ませんけど……」
「あ、いや大丈夫。ただ、少し退屈かなと思ってさ」

 こう、一生懸命に献身的に行動してくれるのはありがたいんだけど、いきなり手を取られると少々緊張する。なんか海からこっち、妙に心紅が積極的なんだよな。
まったく、こんなんじゃ何時まで経っても心紅が仲間を追えないよな。心紅も、俺の手が治るまでは行かないって言ってるし。
……そうだよな。心紅とは、それまでなんだ。アルトマーレへと旅立てば、もう心紅と会う事も無いかもしれない。仲間と一緒に行動するんだからそうなるんだろう。
でも、そう思うとかなり寂しい気になってくるな……なんだかんだ言ってこの一週間、ずっと一緒に行動してたんだし、今もこうして俺の心配をしてくれてるんだし。
いや、止めておこう。俺がしんみりしたら余計に心紅はここを発てなくなる。笑って見送ってやりたいし、あまり考えないようにしよう。

「……零次君」
「え? あ、はい。なんですか?」
「退屈だったらお散歩でもしてきたら? ちょっと曇ってるけど風があるし、割と過ごしやすいと思うけど」
「ふむ……そうですね。歩く事が出来なくなった訳でも無し、ちょっと行ってくるのもいいですね」
「でしょ? ゆっくり歩いてくれば、気分もさっぱりするわよ。家の中ばかりって、色々考えちゃうものね」

 どうやら俺の悪い癖が少々出ていたらしい。おばさんには見透かされたようだ。
ま、少し歩いてくれば変な迷いも無くなるだろ。行って来るとするかな。

「それじゃあ、ちょっと出てきます」
「はい、行ってらっしゃい。でも……一人だともしもの時に不便になるかもだし、心紅ちゃんも一緒に行ってきたらどうかしら」
「え、私ですか?」

 おばさん……また何を企んでるんだな。何も今心紅を引き合いに出す事無いじゃないか。

「いや、歩いてくるだけだし別にそんな……」
「まぁまぁ、心紅ちゃんだって零次君の事心配でしょう? リオル君や海歌ちゃんの事は私に任せて♪」
「それはそうですけど……お邪魔じゃないですか?」

 うっ、そこで何故上目使いなんですか心紅さん。そんなのされたら断りようが無いじゃないか。

「邪魔なんかじゃないけど……ふぅ、分かった、それなら行くか?」
「はい! 行きます!」
「うんうん、ちょっとと言わずゆーっくりしてきて良いんだからね♪」

 そう言ったおばさんに見送られながら、俺と心紅は外に出た。しかし、散歩するにしても何処に行こうかな?
ん……おや、心紅の服装がいつもと違う。いつもは白のワンピースに白いサンダルって格好なんだが、今日はクリーム色のハーフパンツに半袖のブラウス、それに茶色の革靴だ。何時の間にこんな像を作れるようになったんだ?

「心紅、その格好は?」
「あ、昨日流貴さんに「他の格好も練習してみない?」って言われてやってみたら、こんな格好も出来たんです。えと、似合わないなら変えますけど」
「いや……可愛いと思うよ。いつものワンピースも悪くないけど」
「そ、そうですか? えへへ、ありがとうございます」

 これは、心紅の力が増してるからなのか? それとも、元から出来た事が練習した事によって目覚めたとか? なんにせよ、ワンピース以外の格好が出来るのもいいじゃないか。
少しだけ頬を染めて笑う心紅。……不覚にも少し揺らぐほど可愛かった。いかんいかん、落ち着け俺よ。
とりあえず目的も無しに歩いてみる事にした。ま、子供の頃から遊び回ってた町なんだし、どう歩いたって迷子になる事は無い。
包帯で巻かれてる手をポケットに突っ込みながら歩くことになるが、見せて不快に思われるよりはいいだろう。さて、一応商店街の辺りまで来てみたぞ。
とは言っても、欲しい物があるでも無し、ただ来ただけだから用は無いんだがな。

「ここは、お買い物するところみたいですね。なんだか、あそこを思い出します」
「あそこ?」
「私が零次さん達にあった場所ですよ。確かあそこは、デパートでしたっけ?」

 そう言えば、雰囲気としては似てるかもしれないな。あれから一週間か……結構長かったよな。

「俺の上に心紅が落ちてきて、それを助けて一週間か。でも、思い出すなんてしみじみする程の時間は経ってないだろ」
「今まで、仲間と一緒に過ごしてきた時と全然違う体験をした一週間ですよ? 流れた時間よりも、ずっとずっと長く感じますよ」
「言われるとそうなのかもしれないな。俺も、夏休みに入ってからこっち、色々起こりっぱなしだ」

 司郎の家に泊まる事になって、リオルと出会って、心紅を助けて。そして、海で一波乱あった後、海歌を連れて帰ってきて……ついでに、親父達に何があったか帰ってきたら説明するように言われたりな。

「本当、ポケモンの知り合いばかり増える変な夏休みだよ」
「嫌なんですかー? それに、零次さん達はシロナさんともお知り合いになってるじゃないですか。新しく見つかった遺跡へ招待してもらうって約束までしてますし」
「まぁ、な。……その時は、リオルとの別れの時でもあるんだが」
「あ……そっか、リオル君は元々シロナさんのパートナーですもんね」

 ……それまでに、もっと色々して遊んでやらないといけないな。例え別れが来ると分かっていても、思い出は……その後も繋がっていくんだから。

「……零次さん、リオル君と別れる時って、どうするんですか?」
「ん? そうだな、笑って別れるつもりだ。後腐れを残したら、その後が辛くなるだろうし」
「笑って、ですか。……」

 心紅が俯いた、か。多分、自分と別れる時はどうするのかって意味が、今の質問にはあったんだろうな。
一週間……いや、心紅が仲間と逸れたのは俺達と出会う三日前だった。つまり、もう10日以上が過ぎている事になる。そろそろ、タイムリミットなのかもしれないな。
それが分かってるから、心紅もそれを聞いてきたんだろう。
しばし、無言で歩を前へと進める。なんかこう、話題を振るのにも、その話題が無くて困ってるところだ。

「零次さん」
「ん、どうした?」
「これは私の話なんですけど、聞いてくれますか?」
「……心紅が話したいんなら、聞き手にはなるぞ」
「ありがとうございます。といっても、ただの私の昔話なんですけどね」

 すっと心紅は空を仰いだ。うっすらと曇った空は淡く青くて、ほんの少しだけ……心紅は悲しそうな顔をしていた。

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「……私、親の顔も、何処で生まれたかも知らないんです」
「え?」
「物心付いた時には、一緒に旅をしていた二匹のラティオスがお父さんとお兄ちゃんみたいに接してくれていて、その二匹から聞いたんです。私が、拾われたって事を」

 突然始まった心紅の昔話、それは、俺には衝撃的な始まりだった。
その二匹から聞いた事実……心紅は、放棄された巣で見つかった、たった一つのタマゴが孵って生まれた。そう、教えられたらしい。

「元々私達の種族は、珍しかったりで狙われ易い種族なんです。だから私の両親も、タマゴの私を守る為にそんな事をしたんじゃないかって、そう教えられました」
「だとしても、そんな事をすれば逆に危険なんじゃないか? タマゴだけを残していくなんて……」
「零次さんは、心の雫っていう石を知ってますか?」
「心の雫?」
「はい。私達ラティアスやラティオスが、その生涯の果てに一つだけ残す、想いの結晶体」

 その石は不思議な力を秘めた言わば至宝。それを目当てで、ラティアス達を狙う者も居るそうだ。

「そしてその結晶は、若いラティアス達がその命を散らせた時ほど、その身に蓄えられていた力を内包して、より強く、より美しく輝くんです」
「なんだって? ……まさか」
「私を見つけてくれたラティオス達は、その巣の前で激しい戦いがあった跡を見つけていたそうです。恐らく、そういう事だったんだと思います」

 寒気がした。その事実を知っている者が心紅の両親を襲い、そして心紅のタマゴを見つけていたらどうなっていたか。……考えただけで、そいつ等に対しての嫌悪感が激しくする。
そんな、自身の利益の為に命を無下に扱えるものなのか? 俺には、理解出来ない。

「私は、運が良かったんだと思います。無事に同族に見つけてもらえて、こうして今まで生きてこられましたから」
「……」

 心紅もまた、人によって生き方を変えられた者だったのか……くそっ、こんな話を聞いてたら、本当に同じ人間で居るのが嫌になりそうだ。何処まで腐ってるんだよ……。

「だから私、正直言って人間の事が怖かったんです。あの、ラティアスさんに出会うまでは」
「……そうか、心紅達は四匹で一つの群れを作ってたんだったな」
「はい。以前にアルマトーレへ行った時に、一匹でその町に居たのがそのラティアスさんでした」
「どうして、そのラティアスは一匹で?」
「……私達が町を訪れる少し前に、お兄さんを亡くしたそうです。その町で」

 何があったかまでは聞かなかったけど、どうやらそれにも人間が関わっているらしい。過ぎた欲望の所為でとんでもない事態を起こしかけたのを、そのラティアスのお兄さんが命懸けで食い止めたそうだ。

「私、聞いたんです。人間が憎くないのか、怖くないのかって」
「それは、憎んでたんじゃ?」

 心紅は首を横に振る。じゃあ、憎んでなかったっていうのか? どうして?

「その事件の際に、ラティアスさん達を助けてくれたトレーナーが居たそうです。自分達の事を本当に心配してくれて、本気で助けてくれたって」
「そんな人が……」
「一緒に旅をしながら、その時のお話をたくさん聞きましたよ。一緒に遊んだり、冒険したり、その人と居る時間はとても楽しくて、心が踊ったって」

 話をしている心紅の表情も、何処と無くさっきまでよりも明るくなってきているような気がする。きっと、その話をよっぽど楽しそうにされたんだろうな。

「そして……そんな人が居たから、好きになれたから、お兄さんが亡くなったのを乗り越えられたって」

 歩いていた心紅が止まり、それに合わせて止まった俺と目と目があった。そして、心紅は笑いかけてくる。

「その話を聞いて、私も知りたくなったんです。怖い人間じゃない、ラティアスさんの言うような人と出会えたらどんな感じがするのかなって」
「そう、なのか?」
「はい。そして……私はやっぱり、運がよかったんだと思います」
「どういう事だ?」

 聞いた俺に答えが返ってはこなかった。また、心紅が進みだしたんだ。
不思議に思いながらも、俺は心紅を追った。急にどうしたんだ?

「ふぅ……いっぱい喋ったら喉渇いちゃいましたね。ちょっと休憩しませんか?」
「え? あ、あぁ……」
「ふふふ、ほら、行きましょうよ零次さん♪」
「わ、分かったから引っ張らないでくれって」
「ほらほら、早く早く」

 むぅ、完全にはぐらかされたな。行こうと言われてる以上、このまま引きずられて行く訳にも行かないし、足を動かすとするか。
そのまま心紅に連れられるままに来た場所は公園だった。まぁ休むには丁度良いし、飲み物も自販機から買えるか。

「えっと、飲み物を買うのって、なんて言いましたっけ」
「自販機か? 正確には、自動販売機だけど。ほら、あの白い箱だ」

 ふむ、これは……心紅が買ってみたいのか? 金を入れてボタン押すだけだし、問題無いか。
好きなのを選んで押させてみると、ガシャンと音を立てて飲み物が出てきた。フルーツオレか、まぁ定番かな。
俺も一緒のでいいか。同じく心紅に押してもらって、出てきたフルーツオレを持ってベンチに座った。うん、おばさんの言ってた通り、良い風が吹いてて心地良い。

「良い風ですね、零次さん」
「あぁ……でもなんでここに?」
「えっと、よく分からないけど、なんとなくここに来てたんです」
「そっか……」

 受け取った缶を傾けながら、公園の中を眺める。ジョギングする人、自分のパートナーと遊んでる人、まぁ色々だな。

「……なぁ心紅、なんで、さっき俺に昔の事を教えてくれたんだ?」
「海で零次さんは自分の昔の事を教えてくれたじゃないですか。それのお返し。それと……」
「それと?」
「私自身が、迷ってるんです。仲間を追うのが正しいのか、それとも……自分の気持ちに、素直に行動するか」
「? それは、どういう?」

 こっちを向いた心紅の顔は、何かを迷ってるようには見えなかった。けど、自分で迷ってるって言ってるしなぁ。

「零次さんの所為ですからね。私が出した答えには、ちゃーんと返事、してもらいますから」
「え、俺何かしたか? 特に何かした覚えは無いんだけどな?」
「……零次さんは、時々ちょっとずるいです。自分から色々やってるのに無自覚なんですもん」

 色々……やってるか? そうでもないような気もするんだが。
そうだ、今までの話を聞いてちょっと疑問が出来たんだった。聞いてみてもいいよな?

「心紅、ちょっと気になったんだが、聞いていいか?」
「はい、なんでしょう?」
「俺と最初に会った時、怖いとは思わなかったのか? 思い出すと、デパートでも人間が怖いみたいな事を司郎に言ってたよな」
「あぁ、それですか。実は……」

 ……なんとまぁ、俺が手を取ってやったときに、心紅の方にだけは俺の思念が聞こえてたらしい。それで、本気で自分を助けようとしてくれてる俺にだけは恐怖心が薄れたそうな。なるほど、そういうからくりがあった訳か。

「それで、零次さんとはリンクが上手くいきそうだなと思って、あの方法を使って私と心を繋がせてもらった訳です」
「なるほどな。って、あれって誰とでも出来る訳じゃないのか?」
「そうなんですよ。こっちを拒絶したり、なんていうか……心を開いてくれてる相手にしか出来ないんです。実際、海歌ちゃんと繋げるのもギリギリでしたね」
「ま、納得出来る理由だな。……逆に言うと、俺はそれだけ隙だらけだったと」
「え、えっとその……あははははは……」

 笑われたって事は、そうなんだろうな。我ながら情けなくなってくるぞ。
飲み干したフルーツオレの缶をゴミ箱に入れて、伸びを一つする。そして、聞いた話を頭の中で一つ一つまた思い出してみた。
両親を知らずに、人を恐れ、人の温かさに興味を持って、そして今……俺の隣に居る。
俺は、心紅にどう思われてるんだろうな。恐れられてないのは分かったが、心紅の見たかったものを俺は見せてやれてるんだろうか?

「皆が傍に居る。それが、零次さんの答えだと思いますよ」
「……ふぅ、それは反則だって、心紅」
「そうですね。だから、私も零次さんに伝えます。私の思いを」
「え……」

 頭の中に、温かなイメージが流れ込んでくる。これが、心紅の心?
感謝……それと、決意? 一体、何を決めたんだ?
それとこれは、なんだ? 言葉には出来ないけど、とても、とても大きな思いが、俺を包んでいく?

「は、恥ずかしいからここまでで許して下さい」
「ぅあ、あぁ」

 声じゃない、心っていうのはああいう風に伝わってくるのか。それをいつも心紅は感じていたと。なんだか、妙なものだな。
包み隠すことの出来ない、自分の純粋な意思の塊、とでも呼べばいいのか? なるほど、そんなものを見られてたのなら、今までの事にもかなり納得出来る。

「そろそろまたお散歩しましょうか。それとも、もう家に帰ります?」
「そうだな、それなら……もう少し歩こうか」
「はい!」

 なんだかんだ言って、こういう時間は大事なんだなと思う。いや、まぁ、あまりお互いの事を知る機会が無かったしな。
心紅もベンチから立って、俺達はまた歩き出した。今度は、笑い話なんかを口にしながら。
そのまま足が進むまま、コースなんか気にせずに町の中をただ眺めながら歩いていく。それでも、心紅が居るだけで随分楽しく感じるものだと思った。
笑って別れる、か。本当はどうなんだろうな。……どうやら俺は、別れってのを恐れてる。そう、昔から。だから……。

「なぁ、心紅。これはもしの話なんだけど」
「はい? なんですか?」
「心紅が仲間を追う時に、俺が、別れたくないって言ったら、どうする?」

 俺から足を止めて、少し真剣な顔つきをしてみせた。それとなく、雰囲気はあるかなと思ってさ。

「えぅ!? あ、えと、あぅ、その……」

 やっぱり戸惑わせちゃったか。そりゃそうだよな、急にそんな事言われたら、誰でも戸惑うか。

「いや悪い、冗談だ。これは心紅の生き方だからな、心紅の選んだ生き方を俺は応援するよ」
「……酷いです、零次さんの……馬鹿」

 あらら、怒らせちゃったかな? これは、謝っておくか。

「ごめんごめん。許してくれよ、な?」
「……じゃあ、許してあげる代わりに、一つ私のお願い聞いてください」
「ん? なんだ?」
「もう家に帰りますよね? その間で良いんで……」

 何やら少しだけもじもじした後、すっと心紅の手がこちらに差し出された。

「手を、繋いで歩いてください」
「へ? こんな手だけど、いいのか?」

 ポケットに入れてた手を出してひらひらとしてみる。包帯巻きの手なんて、あまり繋ぎたいと思わないと思うんだがな。

「それでもいいから繋いでください!」
「うぉっとと……」

 半ば強引に、俺達の手は繋がれた。触れた感じはラティアスの手なんだけど、握れない事は無いかな。
うっ、ちょっと周りの視線が集まってる。でもここで離すとまた怒られそうだし、ここは我慢して歩くかな。

「あ~っと、それじゃあ帰るか」
「はい、そうしましょう」

 照れくさいけど、こんな風に誰かと手を繋いで歩くなんて久方ぶりだから、悪い気はしないんだなこれが。
ちらっと心紅を見たけど、ぷいっと向こうを向いてる。むぅ、まだ怒ってるのかな? でもそれなら手を繋いで、なんて言わないか。うーん、よく分からん。
歩は司郎の家へと向けて、さっきまでより気持ちゆっくりにして歩いてる。もうちょっと、この余韻を味わいながら歩くのも悪くないだろ。道行く人の若干にやけた視線が気になるけど。
よし、この角を曲がれば司郎の家だ。そういえば司郎の事放置して出たけど、何も言って来ないよな?

「……さて、全く気付かれる事無くここまで尾行した訳ですが、二人の様子はいかがでしょうか、リオルさん?」
「リォ~ル~」
「そうですね、大変仲睦まじく見えますね。あぁ、妬ましい」

 ……聞いた事のある声と鳴き声が後ろから聞こえてきた。振り向かなくても分かる、こいつ等、何時から居やがったし。

「おいこら、何時から後ろに居た?」

 心紅なんか顔真っ赤になってるぞ? どうしてくれようか。

「公園で一緒にベンチに座ってるところにございます。その後の、零次の貴重なラブコメシーンもばっちりと拝見しておりました。あぁ妬ましい妬ましい」
「で? この世に何か言い残す事はあるか?」
「ふっ、手の使えない君に何が出来ると言うのだね零次君?」

 くるりと心紅と一緒に振り向いて、ニヤニヤしてる二匹のほうを向いた。なるほど、姿がゾロアークって事は、イリュージョンでステルスしながら尾行してたと。通りで気付けなかった訳だ。

「心紅」
「はい」
「……殺っちゃいな」
「ほう、エスパータイプであるラティアスの心紅に俺をけし掛けるのかね? 無駄むだぁ!」
「ほう、エスパータイプであるラティアスの心紅を俺にけし掛けるのかね? 無駄むだぁ!」

 どうやら忘れてるようだな。心紅がエスパーで……ドラゴンタイプである事を。

「司郎さんとリオル君のぉ……」
「ん!? あの、えっと心紅さん!? サイコキネシスとかではないんでしょうか!?」
「んな訳無いだろが! 尾行して覗き見してた天罰じゃ!」
「り、リィィィオォォォ!」
「馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 咆哮と共に、心紅の口からエネルギーの奔流が放たれた。確か、竜の波動とか言ったかな?

「やっだっばぁぁぁぁ!?」
「……安らかに憤死しろ、司郎&リオルよ」
「うぅぅ~、恥ずかしくってお顔が熱いですぅ~」

 あ、因みに周りに俺達しか居ないのを確認してからの実行なので悪しからず。
よし、もし口を滑らせておばさんにまで変な事を言ったら、今度は俺がどつきまわそうそうしよう。
っていうか、恥ずかしいって言いながら手は離さないんですね心紅さんよ……。

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後書き的な~
はい、最後は完全にギャグですありがとうございます。
一応大会作品に被らぬようにと配慮してみました。こってりとした作品達の口直しにでもお読み頂ければ幸いです。
そしてガンガン放出していかないと10月になってしまいますね…急がねば! ライト達もアップしてる事ですし!

次話へは[[こちら>サマーバケーション! ~ミッドナイトスクールコープス~]]

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IP:119.25.118.131 TIME:"2013-07-10 (水) 20:18:06" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%82%B5%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%90%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%EF%BC%81%E3%80%80%EF%BD%9E%E7%B4%85%E3%81%8D%E5%BF%83%E3%81%AE%E5%86%85%E3%81%AA%E3%82%8B%E6%80%9D%E3%81%84%EF%BD%9E" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 10.0; Windows NT 6.1; Trident/6.0)"

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