writer is [[双牙連刃]] 皆さんいかがお過ごしでしょうか? 季節は夏、そしてもうすぐ(もう既に?)夏季休暇、夏休みが始まりますね。 新・光の更新もやらなきゃな~とは思ってるんですが、折角夏が来たという事で短期集中連載風に一つ作品を書いていこうかと思います。(頑張って挫折しない!) よろしければお付き合い頂けますとありがたいです。…夏の間に終了させないとなぁ。それでは↓から、どうぞ。 ---- 気温はすっかり高くなり、梅雨も明けてすっきりとした青空がこのところ続いてる。はっきり言って直射日光浴びてたら溶けるかと思うくらい暑い。 そんな中、窓を開けて入ってくる自然風のみで涼を取ろうとしてるこの教室で、一学期最後の授業が行われている。節電の為にクーラーは止めてるらしいが、それで体調を崩したら本末転倒だと俺は思う。 先生、額の汗を拭いながら授業するの大変だろう? YOU諦めちゃいなよ。こっちも暑くて授業が頭に入ってこないんだよ! 「……そろそろ時間ですね、今日はここまでとしましょう。それでは、皆さん良い夏休みを」 おっとタイミング良くチャイムが鳴った。号令が掛かり、今学期最後の授業終了。この30人の中で、どれだけの数が今の授業を覚えてることか。 後は終業式か。校長の具合次第で外か体育館かが決まるな……ぶっちゃけクーラー無しの体育館より校長の頭から後光が出るだけの外の方がマシかな。どっちにしろ何人かヘブン状態になるだろうけど。 「あっづー。零次、終業式サボってコンビニとか行こうぜー」 「あのな司郎、もうちょいで花の夏休みなのに生徒指導で学校来たいのか? 我慢しろって」 「うへぇ~……そりゃ無いな。なら帰りに寄ってアイス買おうぜ。零次の奢りで」 「それならいいか。だが奢りは断る」 人の事をケチだと言って罵ってくるこいつの名は『黒子 司郎』(くろこ しろう)。高校に入ってから出来た友人だ。気さくで面白い奴ではある。 司郎も俺の事を気に入ってるようで、他の友人より過ごす時間が増えるのにあまり時間は掛からなかったか。別に他に友人が居ない訳では無いのであしからず。 ぐだぐだ司郎と話してる間に移動の運びになったみたいだな、クラスメイトが次々に移動しだした。俺達も行くとするか。 ……そして炎天下の下なう。暑いが、まだ風がある分体育館よりマシだと先生方が判断したようだ。まぁ、拷問の一種であるのは変わりないんだが。 「えー、長期の休暇では、気の緩みから非行に走ってしまう事もありますが……」 「くそぅ禿げめ、あの頭磨き上げて太陽拳の刑に処してやろうか」 「間違い無く俺達への刑になるから止めろ」 小声で話でもしてないとやってられないっつの。何故にブレザー着用で日の光に晒されてないとならないのか。強い日差しを浴びて元気になるのは『たいよぉー!』とか叫ぶ太陽少年だけで十分だ。 ほらもう周りの奴におかしくなり始めてるのが居るって。もう終わりにしてくれよ……。 そうそう、俺が何者かをまだ紹介してなかったな。俺の名前は『葛木 零次』(くずき れいじ)。現在進行形で高校二年をやってる一般的な男子高校生だ。 それなりに体を動かすのも嫌いじゃないし、友曰く面倒見も良いし、周りから特に嫌われもしない可も無く不可も無くな感じの人物、らしい。 ようは「THE 一般人」だ。別に特殊な事が出来たりなんぞのマスターを目指したりもしていない。高校生活エンジョイ中だ。 「では、私からの話は以上です。皆さん、また来学期に元気でお会いしましょう!」 「今まさに数人をぶっ倒した人間のセリフとは思えないぞ」 「故意じゃないからなんとも言えんな」 ようやく熱射地獄から開放されたようだ。倒れて学校に収容された人数、およそ10人。この炎天下で、全校生徒200人からそれだけなら御の字だろう。 先生方も暑かったからか、その後はさっさと終業式が終わった。皆が最高にハイって奴になる前に済んで良かったろう。 「う~、終わったー! 夏休みだー!」 「って、まだ帰りのホームルームがあるがな」 「雰囲気壊すなよ~。零次KY~」 「暑かったからアイス奢ってやろうと思ったがやっぱり止めた」 「申し訳ございませんでした。ですから私、スイカバーを所望致しますで候」 「何処の武士だお前は」 俺だって嬉しくない訳じゃあないさ。だが、俺には誓った事があるんだよ、これから家に帰ったらな。 それは夏休みを陰鬱な気分で終わるかどうかを左右する物、そいつの排除だ。こう言えば何か分かるだろ? 今日と明日……掛かっても明後日まで集中してやれば何とかなる筈だ。これからの30日間を有意義にする為の布石、三日なら安いもんだ。 「おろ? なんで急に険しい顔してんだ?」 「気にするな。ほれ、さっさと教室に戻るぞ」 しかし、全教科の課題を済ますのは結構大変だ。ある程度の覚悟を持って挑戦するとしよう。 ……ついに迎えた夏休み、まさか滑り出しから司郎にアイスを二個も奢らされるとは思わなかった。この野郎、遠慮というものを知らんのか。 「アイスうまー」 「二個も一気に食って、腹壊しても知らないからな」 「大丈夫大丈夫。零次、これからどうするんだ? する事無いならどっか遊びに行こうぜー」 「残念、俺にはこれからと明日、重要な用件がある」 「えー? なんだよそれ?」 「課題を片付けるんだよ。俺は夏休みを有意義に過ごしたいんだ」 おっ、聞いた司郎が何か考え出したな? まぁ俺には関係無いだろ。無いよな? そうこうしてる内に別れる道に着いた。とにかく、俺は課題で缶詰だ。 「何考えてるかは知らんが、用があるなら電話でもして来い。ただし、俺の課題が終わってからな」 「あ、おう。そんなら、またなー」 やけにあっさりと帰ったな? まぁいい、俺も家に帰るとしよう。 ん? おっと、なんか路上バトルやってるな。小学生同士か……高校が夏休みに入るんだから小学校も入ってるよな。 ポケモンバトルか。あまり好きじゃないな、見るのも。理由は数個あるが、一番はポケモンを戦わせてトレーナーは指示を出すだけって辺り。だから俺はポケモンを持ってないし、これからもトレーナーになろうとは思わない。 横を通り過ぎて、家路を進む。そんなにもう遠いところじゃあない。数メートルさ。 「ただいまー」 ん? いつもなら母さん辺りから返事が返ってくる筈なのにそれが無い。どうしたんだ? 居間に入ったけど……居ないな。何処か出掛けたのか? お、テーブルの上に書置きがある。……なん、だと? 「父さんの一時的な転勤について行ってついでに旅行してくる!? それも一ヶ月!?」 馬鹿な、どうしてそんなことになった!? って言うかそういうのなら俺も連れて行けよ! なんで放置なんだよ!? あ、手紙の下に現ナマで十万も置いてある……これで一ヶ月過ごせと? 笑え過ぎてありえないジョークだぞ……。あぁ、ちゃんと小遣いついでに置いていきますって書いてあった。はははははは……。 不味い、考え方によっては破格の自由を得た事になるが、俺はあまり自炊は得意じゃないぞ。作れてカレーとか卵料理くらいだ。困った……。 ん? 手紙に二枚目があるぞ? なんだ? 「追伸、何か困ったら黒子さんのお宅に行きなさい、って……」 司郎の家かよ! まぁ、俺を起点にして仲良くしてるとは聞いてたが、まさかこんな事になるとは思わなかった。どうする? うーん、大見得切ったのもあるし、とりあえず三日間は課題をこなしつつ何とかするか。っていうか転勤ならもっと早く聞かされてた筈だよな? 夫婦旅行する為に隠してたな……ちくしょうめぇ。 とにかく……まずは昼飯でも食うか。卵焼きでも作るか? 冷蔵庫の中身はっと。 「……はぁ?」 空っぽなんですけど。え、これどういうこと? まさか……旅行行くから全部使ったのか!? うわーマジですか……くそっ、まずは三日分の食料の買い出しからか。 TULLLLLL…… ん、電話か? 誰から……いや、多分あいつからだな。多分、帰ってから俺の事は聞いただろうし。 「はい、もしも……」 「零次ー! 今日からこっちに泊まりに来るんだろ!? すぐ来るのか? 迎えに行くぜ!」 「とりあえず落ち着け。別れる時に言ったけど、三日は課題やりながら一人でなんとかする気だ」 「えー? そりゃないぜ。だって母さんとかもうお前が来るからってはりきって夕食の準備してるんだぜ?」 マジですか? いや、そんなに気合入れられても困るんだけどな。 でもそういう事ならおばさんに悪いな……どうする? 「課題なら俺の家でやればいいじゃんか。っていうか一緒にやろうぜ! ってことで迎えに行くから、よろしくぅ!」 「あ、おい! ……選択権無しかよ」 強制的に電話は切られた。やれやれ、荷作りして待ってるしかないか。 あいつ、多分あの方法で来るだろうなぁ。声の感じからしてかなり上機嫌になってたし、二階の窓を開けておいてやるか。 とりあえず制服を脱いで、動きやすい楽な服に着替えた。必要そうな着替えとか課題、あとは金とか持てば一先ずの準備としてはいいだろ。何もここに帰って来れない訳じゃないし。 空は快晴。ん、屋根の上を飛んでくる黒い物があるな。やっぱり、その手で来たか。 黒い物はこっちにどんどん向かってくる。もう分かってはいるんだが、一匹のポケモンだ。 「おっすー! 迎えに来たぜー!」 「司郎……来るのはいいがゾロアークの姿で来るのは危険だとは思わなかったのか?」 「イリュージョンで背景弄って見えなくしてるから平気平気!」 そう、司郎の正体は人間じゃない。ばけぎつねポケモンと呼ばれるゾロアークだ。俺も最初知った時は驚いたもんだよ。 背中に括り付けてきた衣服を外して、一先ず部屋から出て行った。次に入ってくる時は……あぁ、人間の姿になってる。 ゾロアークの特性、イリュージョン。周りの者に幻覚を見せ自己を認識させないようにする力らしいが、人間の姿になってるのはそれを強化した物らしい。言わば自身すら騙すイリュージョン、とのことだ。 「準備出来てるか? あ、昼飯なら母さんが作って待ってるぜ」 「そいつは助かるが、本当にいいのか? うちの両親曰く、一ヶ月丸々居ないから夏休み中ずっと世話になる事になりそうだぞ?」 「問題無し無し。母さんが言うには、親父も承諾した事らしいから大丈夫だって」 なるほど、この計画は親同士の会合であった上で決定してたって事か。知らなかったのは俺達だけだったみたいだな。 「それなら、お世話になるとするか」 「おいさー! 一名様ご案内ー♪」 荷物の入ったザックを持って、待ちきれない様子の司郎と一緒に外へ出た。ふぅ、制服じゃないだけ快適だ。 「いやー、でもまさかうちに一ヶ月も家族以外を泊める日が来るとは思わなかったな」 「事情を知ってないと出来ない事ではあるよな。本当は一家全員がポケモンだなんて」 司郎を含め、黒子家は皆ゾロアークだ。ま、司郎がそうなんだからご両親もそうでないとおかしいんだが。 その事を知って、司郎と友人関係になったのが高一の一学期半ば辺り。それからの付き合いだから、もう一年と二三ヶ月ってところか。 何回か黒子家に行ってるから俺は慣れたが、最初はかなり驚愕しながら過ごしてたのは言うまでも無いだろう。 因みにうちの両親は黒子家がポケモンであるのは知らない、筈。俺抜きで話してる時に、知れてる可能性があるがそこまでは知らん。 課題を片付けてる間に何か飲みたいって司郎が言い出したから途中で自販機に寄って、その後は寄り道せずに黒子家に向かった。昼飯をまだ食ってないから、少し空いてきたぞ。 「到着ー。俺も飯食う前に迎えに行ったから腹減っちゃったよ」 「そうだったのか? 俺も減ったし、まずは飯にするか」 「賛成ー。たっだいまー、母さん。零次連れてきたぜー」 玄関を抜けた先、そこには他の家と変わらない民家の見た目が広がってる。が、俺達を出迎えてくれたおばさんの姿は……。 「お帰り司郎。それから、いらっしゃい零次君。美千代さんからお話は伺ってるから、自分の家だと思って寛いでね」 「お帰り司郎。それから、いらっしゃい零次君。知子さんからお話は伺ってるから、自分の家だと思って寛いでね」 「ありがとうございます。でも……出迎えるのは流石に人間の姿の方がいいと思いますよ? 俺達じゃなかったらかなり危険だったと思いますけど……」 「え? あ、あらやだ私ったら。零次君なら大丈夫だと思ってゾロアークのままだったわ。そうね、危ないところだったわ」 「母さん、そっからバレたら大変な事になるんだからしっかりしてよ……」 「あ、あはははは……お素麺茹でてあるから、司郎と一緒に食べててねー」 逃げた。じゃなくて、人に戻って服着にいったんだな。本当、郵便配達とかだったらどうする気だったんだろう。 って、司郎も服を着たゾロアークになってる!? い、何時の間に……。まぁいいか、とにかく入ろう。 リビングに入ると、テーブルの上に素麺が置かれていた。ガラスの器に氷を浮かべられてるこの姿、やっぱり夏であり涼とはこの事だと言わんばかりだな。 荷物は一先ずリビングの隅に置いておこう。腹ごしらえが先だ。 「司郎、ゾロアークに戻る必要あったのか?」 「あ、これから箸使うんだった。いやぁ、やっぱりこっちの方が落ち着くから、家に入ると勝手に戻っちゃうんだよなー」 「そうだったのか? 今まではそんな事無かったと思うが?」 「それは先に零次と遊ぶか勉強するかがあったから」 「ほーん」 それはいいから、まずは食べるか。椅子に座って麺液用の器と箸を受け取る。どうせ薄くなっていくから最初は麺液を濃い目にするのがマイルール。 ツルツルとした食感と喉越しが夏を感じさせてくれる。やっぱり夏はこうだよな。うん、美味い。それにしっかり冷えてるから涼しい。 「素麺美味いー」 「だな。あ、生姜取ってくれ」 「ほいほい。俺は紫蘇にしよー」 こうして薬味で味を変えながら楽しむのも素麺の醍醐味だ。うーん、さっぱりする。 そうして30分ほど素麺を楽しんだ。途中でおばさんも戻ってきたけど、俺達が食べてるのが美味しそうだからってついでに素麺食べるのに参加。何束消費されたのか聞いたら、俺達は八束ほどを消費したらしい。素麺は幾らでも入って困るな。 そしてその間に俺は司郎の部屋で寝泊りする事になると伝えられた。もちろん別に構わない、これから課題をする事になる訳だし。 「さて、腹ごしらえも済んだ事だし」 「遊ぼうぜー!」 「課題が先だ」 「えー?」 「後で息抜きくらいは付き合ってやる。気兼ね無く遊べたほうが楽しめるだろ?」 しぶしぶ頷いた事だし、こいつの部屋に荷物を持っていくとするか。 おばさんは夕食の買出しに行くらしい。俺達が留守番で居るんだから問題無いだろう。 こいつの部屋は、適当な性格に似つかわしくなく綺麗なんだ。おばさんが掃除してるからかと思ったが、どうやら自分で掃除してるらしい。 「荷物はこの辺に置けばいいのか?」 「オッケーオッケー。俺、元の姿に戻るけどいいよな?」 「別に構わないぞ。でも、ゾロアークでペンは持てるのか?」 「問題無し。いつも宿題はこっちでやってるからな」 そう言って服を脱ぎながら司郎はゾロアークに戻った。この毛皮に服着てたんじゃ暑いわな。 さーて、課題を片付けるのを始めるか。一人で黙々とやるよりは楽しいだろうし。 今日片付ける予定なのは三分の一から半分くらいまでの予定だ。量があるし、それくらいやれば明日の余裕も随分出来る。 あ、本当にゾロアークでもペン使えてるな……手の構造的に箸は無理だが、ペンは問題無いみたいだ。 因みに俺は床、司郎が勉強机だ。俺は転がり込んでるんだから当然だろう。 こうして見ると、いつもは人の姿だから違和感の無い勉強姿もかなり違和感を感じる。まぁ、見た目がポケモンだから仕方ないか。 時々唸りを上げながら課題をこなして行く司郎を見つつ、俺もさらさらと課題をこなしていく。これでも並程度には勉強は出来る方なんでな。 「んー、零次ー。ここ教えてくれよぅ」 「ん? どれ」 分からないところは教えてやるさ。俺も、一教科だけは力を借りるしかないと思ってたことだし。それをやるのは明日だな。 しかし、ポケモンが高校に通ってるなんて、世の研究者が知ったらどう思うだろうな? かなり貴重だとは思うぞ。 俺は事情も知ってる。こいつがゾロアークだって知った時に色々教えられたからな。 一言で言えば、ポケモン……ゾロアークも生きる為に苦労してるって事だ。自分の居場所を作るためにな。 よし、少し集中して自分の分を早めに終わらせるか。司郎に質問されて中断される前にな。 ---- 昼飯食べた後すぐから始めた課題消化も、休憩を挟みながらもう5時間だ。流石に集中力が切れてきたか。 「ぬぅあぁぁー! しんどい!」 「ぶっ続けでここまでやったからなぁ。そろそろ休むか」 「終わるじゃなくて休むなのな……どの辺まで進んだ?」 「二教科終了。あと六教科だから……今日やるのは後一教科かな」 「はやっ! 俺まだ一つ終わったところだぞ!?」 「別に俺のペースに合わせろとは言わん。マイペースでやればいいだろ」 なんか悔しがってるが、構わないでいいだろう。こんな事競い合うもんでも無いし。 ふぅ、外はすっかり夕方になったか。気温も落ち着いてきたかな。この部屋はクーラー掛かってるから分からんが。 「あ、そろそろ親父が帰ってくるかな。確か、今日はちょこっとだけ早いって言ってたし」 「そうなのか? それなら、挨拶しないとな。今日からお世話になるんだし」 「そんなら居間行く? そろそろ晩飯だろうし」 「そうするか」 休みがてらには丁度いい。おっ、部屋を出たら美味そうな匂いがしてきた。これは……カレーか? 匂いに釣られるように居間に入ると、おばさんがサラダを盛り付けてる真っ最中だった。色とりどりの野菜と木の実が、皿の上に燦然と並んでる。 「あら、丁度呼びに行こうと思っていたところなの。今日のカレーはかなりの自信作よ、零次君も遠慮せずにおかわりしてね」 「おぉ、美味そう!」 「すいません、ありがたく頂きます」 「ただいま。ん、良い香りだな」 あ、おじさんも帰ってきたみたいだ。丁度良い、皆で食事が出来そうだ。 「おじさんこんばんは。すいません、親父達が俺の事押し付けてたみたいで。お世話になってます」 「あぁ零次君。いや、気にする事は無いよ。司郎が世話になってる事だし、私達の良き理解者でもあるからね」 そういっておじさんは持っていた手提げカバンをソファーに置いた。現状、ポケモンの姿をしてるのは司郎だけだけど、実際人にカテゴライズされるのは俺だけだ。 皆食事が終われば元の姿に戻って寛ぐらしい。よくよく考えると掃除とか大変そうだよなぁ。 因みに、おじさんはトレーナー用のアイテムを卸している会社で働いている。自分達への脅威になる可能性がある物を先に知れるし、給料も良いって事で入社したそうな。バレたら本当に大変な事になりそうだよな。 とにかく皆席に着いて夕食の開始だ。……うわっ、カレー美味っ。俺の家のカレーより数倍美味い。これはちょっと、おかわりせざるをえない。 「しかし気になっていたんだけど、どうして君はご両親について行かなかったんだい? 自分から残るって言い出したと聞いているんだけど……」 「ほほう、そんな嘘をでっち上げていってたか……俺、実は両親が旅行に行くの今日知ったんです。それも、書置きって形で」 「なんだって? じゃあ、何も知らされてなかったって事かい?」 「はい。大方、二人でいちゃつきたくなったんでしょうけど」 そしていつもみっともないから止めろと諌める俺が邪魔になったと……30代前半とはいえ、まだまだアツアツなのは困り者だ。 「あらぁ……それじゃあ零次君も困ったでしょう?」 「まったくです。ここに話をつけて行ってくれたのが唯一の救いでしたよ」 「でもそれで自由に遊べるんだから、それはそれでありじゃん?」 「考え方によってはな」 っていうか司郎、その爪でよくスプーンとか使えるな。ペンも余裕で持ってたし、この辺は慣れなんだろうな。 「とにかく預かった以上、夏休みの間はここでゆっくり寛いでもらって構わないよ。出来れば、司郎の相手もしてやっておくれ」 「はい、ありがとうございます」 これでようやく挨拶は済ませられたか。何はともあれ、開き直って黒子家での生活を楽しもう。滅多に無い事だし。 談笑しながらの夕食も終わって、おじさんとおばさんは着替え、もとい元の姿に戻ってくるとの事なので皿洗いなんかを引き受けた。もちろん逃げようとしていた司郎も強制的に手伝わせてる。 皿を傷付けないように拭く作業だけをやらせてるんだ、譲歩したほうだよ。 「これ終わったら零次はどうすんの? また課題?」 「そうだな、とりあえず課題を片付けた後に風呂を頂くかな」 「オッケー、そんなら一緒に入ろうぜ。背中流してやるよ」 「あぁ頼む。……引っ掻いたりしないでくれよ?」 「だーい丈夫だって! 俺ってば結構器用なんだぞ!」 まぁ、確かに。さっきまでの様子を見る限りでは大丈夫そうかな。 よし、最後の一枚っと。皿洗い終了。 「終わったみたいね。ありがとう零次君」 「おわ!? お、おばさん驚かせないでくださいよ……」 いつの間にかゾロアークに戻ったおばさんが後ろに居た。多分、イリュージョン使って気配を消してきたんだろうな。 あ、おばさんとか司郎かとかは声で大体判断してる。後は動作とか、背かな。見た目は同じでも、結構違うところはあるものだよ。 おじさんはソファーでテレビ見てるみたいだな。こうして、俺は完璧にゾロアークの住む家に一人居る人間になったと。傍から見たら結構不思議空間なんだろうな。 「後の片付けは任せて。あ、寝るのにお布団要るわよね? 後で部屋に持って行くわ」 「助かります。それじゃ、俺達は課題の続きやるか」 「オッケ。俺も今日で二教科分くらい終わらせたいからなー。終わるまで……寝かさないぜ?」 「キャラを統一させてくれ。あまり遅くなるなら、俺は容赦なく寝るからな」 「司郎、あまり零次君に迷惑掛けちゃ駄目よ?」 「うわーん、袋叩き反対!」 ならもっと真面目に話せ。BLの世界になら一人で行って青いつなぎの人にやらないか? とか言われてきてくれ。 ま、今年の夏休みは退屈しないで過ごせそうだな。それならば……思い切り、楽しむとしようか。 ---- 後書き的な。 今回は冒頭部分という事でポケモン分も内容も少なめ、かな? 次回辺りからは頑張ります、頑張ります! 人間の世界で自分達だけで生活するゾロアーク一家と主人公の夏の物語、まだ始まったばかりにございます。 次話へは[[こちら>サマーバケーション! ~迷子のリオルと不思議な出会い~]] #pcomment IP:180.29.189.163 TIME:"2014-10-03 (金) 15:30:26" REFERER:"http://pokestory.dip.jp/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%82%B5%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%90%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%EF%BC%81%E3%80%80%EF%BD%9E%E5%A4%8F%E4%BC%91%E3%81%BF%E9%96%8B%E5%A7%8B%EF%BC%81%EF%BD%9E" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; Trident/7.0; rv:11.0) like Gecko"