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サマーバケーション! ~夏の終わりと何かの始まり~ の変更点


writer is [[双牙連刃]]

ついに、終わりを迎える零次達の夏休み。だが、終わりとはまた別な新たな始まりへと…

前話へは[[こちら>サマーバケーション! ~遥か遠き追憶の遺跡 後編~]]

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 ふぅ、やれやれ……今回の師匠はまったくもって朝から元気で困るぞ。ま、成り行きとはいえ手に入れる事になった力はきちんと使えた方がいいけども。
でもだからって日の出前に起こされるとは思わなかった……滅茶苦茶眠い。

「どうした零次、集中しろ」
「無茶言うなって。今4時だぞ? 幾ら人目に付かない時間がいいって言っても、限度があるだろ」
「時間というのは有限なのだ。学べる時に学ばねば、その機会を失うぞ」
「やれやれ、聖剣士様の一言は重いなぁ、まったく」
「我の役目ならばもう二千も昔に終わっている。今の我は、ただの一介のポケモンでしかないさ」

 しかし、言ってる事は正しい。それじゃあさっくりと始めるとするか。
契約の証を手の平に浮かべて、それに更に力を込める。それを続けて証が青く光ると、この手の中にはある物が現れる。
それは、二振りの双剣。元の名は……蒼の剣。

「ふむ、どうやら形作るのには慣れたようだな」
「毎朝二時間、みっちり教えられてれば嫌でも出来るようになるって」

 今のこの剣の名前は蒼の双剣って名付けられてるけどな。名付けは目の前の……。

「ならばやるぞ、零次よ」
「あまり本気でやらないでくれよ、蒼刃」

 そう、コバルオンの蒼刃(あおば)。封印されていた時も剣だったし、蒼刃もこれでいいって言うからこの名前になった。
で、早速やる気満々で蒼刃の横に光の剣が浮かぶ。蒼刃の力を剣に変えるこの技の名は聖なる剣。なんでも、使える者は極限られているらしい。
あぁ、今から始まるのは、所謂打ち込み稽古って奴だ。剣を扱うなら、剣同士でやった方がいいって事でな。
基礎はこの三日間であらかた教えてもらったが、こんなもん使った事無いからまだまだ扱いきれないな。
蒼刃の剣が動く場所へと剣を振り、その動きを覚えさせるって言うのが蒼刃の魂胆らしい。ボクサーのやるミット打ちってのみたいなことだな。

「ふむ、やはり筋が良い。無手での技に覚えがあるのは聞いたが、戦闘自体への才があるようだな」
「あってもどうかと思うんだけどな。使う機会が無いだろうし」
「備えと言うのは、何時如何なる時に使い時が来るかも分からぬものだ。その時に後悔せぬよう、日々の精進を忘れぬのが吉だろう」

 口を動かしながらも、剣がぶつかり合う時の金属音は止ませない。……ご近所さんにあまり迷惑にならないようにはしてるつもりなんだけどな。
時々受けながら、一進一退の打ち込みを続ける。双剣って、一方の剣で攻撃しながらもう一方で受けが出来るからなかなか使い易いな。
まぁ、だからこれは俺に合わせた形って事で、この双剣の姿に変わったらしいが。

「よし、今日の打ち込みはこんなものでいいだろう。後は元の剣に戻して素振り200だ」
「へぇへぇ了解ですよっと」

 剣を出す時は勝手に双剣になるんだが、この双剣を重ねるように持つと元の蒼の剣に戻ったりするんだな、これが。
一撃の威力があるのはどうもこの剣の方らしい。で、やっぱり双剣よりも重いから素振りはこっちの方が効果がある、と。そういう事みたいだな。
蒼刃に監視されてるんで途中でサボる事も出来ない。何にも考えないで振ってれば割と早く終わるような気もするし、余計な事考えないで振ろう。
でもなぁ……この素振りが終わっても、今度は剣を扱う者としての心構えなんかを教え込まれる訳なんだよ。これ毎日続けてたら、本当に剣士とやらに仕立て上げられそうだぞ。

「そういえば、ゆっくり出来るのは今日までという話だったな?」
「ん? あぁ、明日からはまた学校が始まるからな。ここで寝泊りするのも今日が最後だ」
「ふむ、ならば朝の稽古もこれからは一時間とするか。基礎はもう概ね叩き込んだからな」
「そうして貰えると非常に助かる」
「うむ、それなら今日は素振りが終われば稽古も終わりとしよう。さぁ、残り100だ」

 正直早朝に叩き起こされるのをなんとかして欲しいところだが……蒼刃もこれを楽しみにやってるようだし、付き合うとするかなぁ。
ぃよっし! 素振り終了! あー、流石に腕がだるい……。

「よろしい。四日でなかなか様になったではないか」
「そりゃどうも……皆が起きてくるまでまだ時間あるだろうし、中で飲み物でも飲んでゆっくりするか」
「うむ、異論無い」

 まぁ、俺はその前にシャワーでも浴びるとしよう。こんだけ動けば朝から汗だくだぞ。
今日で夏休みも終わり。まぁ、親父達から昨日電話があって、帰ってくるのが明日になりそうだからって事でここにもう一泊するんだけどな。
昼間の内に要らない物は家に持ち帰っておいて、制服なんかをこっちに持ってくる事になるな。明日はここから登校する事になる訳だし。
天気も良いし、良い風も吹いてる。夏休み最後の一日……うん、楽しむとするかな。

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「はぁ……」
「ん、どうしたんですか、おばさん」

 起きてた俺達と元々リビングで寝てた海歌、それとおばさんとで早めの朝食を済ませたところなんだが、不意におばさんが溜め息をついた。妙に重みのある溜め息だったな?

「だって、今日で零次君も海歌ちゃんも蒼刃さんもみーんな帰っちゃうでしょ? なんだか寂しいなと思っちゃって」
「あぁ、そういう事でしたか」
『確かに、流貴さんとお喋り出来なくなるのは私も少し寂しいかな』
「とはいえ、このままここに世話になる訳にはいかんのだろう? 致し方の無い事だと割り切るしかあるまいな」
「そうなのだけど……ねぇ、零次君。どうせならもう一ヶ月くらいホームステイしていかない?」
「い、いやぁ、元々夏休みの間って約束ですし、あまり迷惑を掛けるのもあれですしね」

 そうよねぇって言ってまたおばさんは溜め息。なんだかんだ、おばさん達も俺達との生活を楽しんでくれてたみたいだ。嬉しいのはそうなんだけど、この一ヶ月もお世話になりっぱなしだったからこれ以上は不味いだろ。
さて、そろそろ奴以外は起きてくる筈なんだが、俺はおじさんが起きてきたらちょっと頼み事があるんで待ってるところだ。
おっと、後続起き組一号はリオルか。正式にシロナさんから一緒に居てあげてって言われたんでもちろん名前も考えてやったぞ。

「ル~」
「起きたか拳斗。おはよう」
「リォ……おぁ、よ?」
「惜しい惜しい、おはようだ。お・は・よ・う」
「お……はよ……おはよ!」
「ん、ばっちりだな」

 リオルの名前は拳斗(けんと)。あぁ、今の挨拶は心紅から伝えられた拳斗からの要望でな、皆が俺と喋れるんだから自分も喋りたいって事で話し方を練習してるところなんだ。覚えられるのは心紅が実証済みだし。
これで拳斗が喋れるようになったら、俺は手持ちのポケモンとは全部と喋れるようになる訳だ。あぁ、海歌は例外だが。まぁ、便利だし問題も特に無いだろう。
おや、更におじさんと心紅も起きて来た。司郎は……まぁ、いつも通りだな。

「ふっ……零次、俺が起きてきてないと今思ったろう? ザーンネンでーしたー! おはようさーん」
「なん、だと……?」
「いやぁ、明日からまた学校じゃん? 遅刻したくないし~真面目に起きるってばよ!」
「はぁ……そういうのの自覚はあったのか」
「あたぼうよ!」

 まぁ、姿がゾロアークなのは言うまでも無いがな。それでもこんな7時半なんて時間に起きられれば十分に遅刻はしなくて済むだろう。
じゃ、後続が食事を始めたし、俺はおじさんに少々頼み事をするか。

「おじさん、食べてるところ失礼ですけど、ちょっといいですか?」
「ん? なんだい?」
「おじさんの部屋に、インターネットを引いてるパソコンがあるって聞いたんですけど、少し使わせてもらっていいですか?」
「あぁ、一応仕事で使うからね。何か調べ事かい?」
「はい。ちょっと、コバルオンについてを調べたくて」

 蒼刃が昨日、今の世にもコバルオンは居るんだろうか、なんて聞いてきたから調べてやる約束をしてたんだ。下手に本なんか頼るより、これはネットを利用した方が早そうだろ。
そういう事ならって事で、ゲスト用アカウントとパスを教えてもらった。そんなら、蒼刃も連れておじさんの、って言うかおじさん達の部屋に行かせてもらおう。
部屋の扉を開けると、やっぱり司郎の部屋とは違って全部の物がきちんと整理されてるのが分かる。……まぁ、一番気になるのが、ベッドがダブルベッドな事だけど。おじさん達、本当に仲良いな。

「ふむ、ここで我が同族の事が調べられるのか?」
「あぁ。まぁちょっと待っててくれよ、二千年で人の技術ってのもかなりな物になってるって事さ」

 パソコンを立ち上げて、アカウントとパスを入れる。言っておくが、俺は別に機械オンチとかではないからな。パソコンの扱いも学校で習ってるし。
隣で蒼刃はかなり興味有りげに画面を眺めてる。そんじゃ、検索サイトを開いてと……検索ワードはコバルオン、でいいか。
おっと、結構ヒットしたなぁ。さて……どれから調べるかな?

「……ん? 三闘獣? これは我や我が同族の事を調べているのではないのか?」
「確かにあるな……これから調べてみるか」

 あぁ、蒼刃はもう現代の言葉を読む事が出来るみたいだ。なんか三日間本を読んでるなと思ってたけど、おばさんなんかに読み方を教わってたらしい。あ、喋る言葉は俺のを最初に見たそうだ。もちろん心を盗み見された時だろうが。
で、三闘獣なるワードを調べてみると、確かにコバルオンの記述も載ってた。ポケモンに害を成した人間を懲らしめた、通称導く者か。ふむ、この辺りは蒼刃に聞いたとおりみたいだ。
でもここから先がある。コバルオンには二匹の仲間、テラキオンとビリジオンというポケモンが居て、その二匹と共に人間と戦った。故に三匹は三闘獣と呼ばれるようになったとか。

「……知ってるか? この二匹」
「いや、我の居た時代では出会った事の無い者達だな……後に、我とは違う者が出会い仲間になったのやもしれん」

 ふむ、なるほど。でもこれで、蒼刃以外のコバルオンも存命なのは分かったな。とりあえず知りたかった事は分かったか。

「零次よ、最近コバルオンが何かを成したという情報は無いか?」
「ん? ちょっと待ってくれ……あ、結構最近のがあるな。イッシュって地方にある、ローシャンってところで起きた事件みたいだな」

 そこまで詳しい情報は無いけど、どうやら何かと三闘獣が争った形跡と目撃情報があるみたいだ。争ったのは……やっぱり人間なのか?
おや、コバルオンの一般情報なんてののリンクがある。へぇ、何処かのトレーナーが集めたポケモン図鑑の情報かぁ。ついでに見てみるか。
結構細かく載ってるじゃないか。……ん? 大きさ2.1メートル?
横に居る蒼刃を見てみると……俺とそんなに変わらない。おまけに、立って並んでも頭の位置が大した変わらなかった。で、俺の身長は174センチだ。

「……ぬ? これは、今のコバルオンの情報なのか?」
「そうらしいぞ。なんか、デカイよな?」
「う、うむ……我、同族でも小さい方ではあったが……ぬぅ」

 あ、なんか若干凹んでる。別に強さに変わりは無いんだし、そんなに気にする事も無いと思うがな。
おっ、聖なる剣についても記述があるな。何々? 三闘獣にのみ発動出来る、自身のエネルギーを刀身に変える技。これを使える故に、三闘獣は聖剣士とも呼ばれる、か。

「ほら蒼刃、聖なる剣についても記述があるぞ」
「う? お、おぉ……なるほど、今の聖剣士と呼ばれる所以は、この技そのものとなっているのか」
「ん? 昔は違ったのか?」
「いや、概ねは合っている。が、我の時代ではこの技を習得し、それを正しき行いの為に振るっていると認められた者にのみ贈られる、栄誉ある称号であったな」
「ほう。つまり、全部のコバルオンがそう呼ばれてた訳じゃなかったのか」
「いかにも」

 となると、蒼刃はそう呼ばれていた以上、そう認められる実力と名声があった訳だ。ふむ、それは折り紙付きだ。
ついでに聖なる剣を発動してるコバルオンの画像も見つけた。……ん? んん?

「うむ? それはコバルオンだな。何か技を使っているようだが、何の技なのだ?」
「……聖なる剣、だって」
「ほう……何ぃ!?」

 そりゃあ驚くよな。俺だってびっくりしたぞ。だって、四日間見せてもらってた技とまったく違う。そもそも剣って言うより……。

「角、だよな?」
「角、だな。間違いなく」

 コバルオンの、頭の後ろになびく様に伸びる二本の角、それは蒼刃にもある。だが、画像のコバルオンには額からも光る角が伸びているように見える。というか角にしか見えない。これが剣なのか?
あ、蒼刃が自分の聖なる剣を出して見比べてる。いやもう明らかに違うからな、それ。

「あ~っと、蒼刃もこれ、出来るのか?」
「む、無理だ。そもそも額から刀身を伸ばしてどうすると言うのだ? 首を振って切れと? 相手が見え難くて仕方ない、まともに当たるとは思えんぞ」
「どう考えても蒼刃の聖なる剣の方が優秀、だよな……」
「よもや二千の年月でこんなにも違いがあるとは……我、この時代に居てもいいのかなぁ……」

 うぉぉ、あまりのカルチャーショックというかジェネレーションギャップというか、とにかくショックで蒼刃のキャラが壊れ始めてる。な、何とか慰めてやらねば。

「いやほら、誰だって個性ってもんがあるだろ? 蒼刃のそれだって個性って事でいいじゃないか。なぁ?」
「う~……」

 涙目で振り向いた顔には今までの威厳がゼロになってる。いやまぁ可愛げがあるとも言えなくはないが、結構打たれ弱いところもあるんだな。
これ以上蒼刃のメンタルを打ち砕くような事が出てきたらどうなるか分からないし、電源を落としてリビングへ戻るとするか。
……立って思うが、やっぱり情報より小さいな。家に入る分には都合がいいし、まぁいいか。
意気消沈した蒼刃を連れて戻ると、もう皆朝食は終わったみたいだ。おじさんは今から部屋に戻るところだったみたいだ。

「おや、零次君。もういいのかい?」
「はい、知りたかった事は分かったんで」
「……えっと、蒼刃さんはどうしたのかな?」
「我の事は気にしないでくれ……」

 そうとうやられてるな。いずれ戻るだろうが、今はこのままにするしかないか。
とりあえず蒼刃は遠い目をしながら外を見だしたから、俺は司郎の部屋で自分の荷作りをしてこよう。さっさと準備を終わらせて後は寛ぎたいしな。
あ、部屋に入ったら心紅が司郎にゲームの相手させられてる。対戦じゃなくて協力プレイの奴だ。……無難なチョイスだな。

「んぉ? どったの零次?」
「荷物を纏めて家に持って帰っておこうと思ってな。明日の分の着替えとかだけでもういいだろ」
「あぁ、明日からは零次さんの家で暮らす事になるんですよね。ここから近いんですか?」

 そういえば、皆が増えてから一度も家に帰ってない。実質27日間くらい空けっ放しか……まぁ、どうにも変わってないだろうがな。
まぁそんなに物も持ってきてないから、適当にカバンに詰めて終了。心紅も一緒に行きたいって事だから、何故かついて来るって言い出した司郎と共に荷物運び開始。ついでだから司郎にも荷物持たせる事にした。
そういえば、この三人で行動するのも夏休みの初めぶりだ。あの頃とは随分状況が変わったよなぁ……司郎以外だが。

「ここが俺の家だ、心紅」
「わぁ、司郎さんの家よりも高いですね」
「そりゃあ零次の家は二階建てだもんなー。でも居間が俺ん家よりちょっと狭いっけ?」
「そうだな。まぁでも海歌が居るには十分だし、皆で食事するのは大丈夫だぞ」

 約一ヶ月ぶりに玄関のドアが開く。……様子に変化は無いか。
あー、でも多少埃なんかが目に付くかな。明日親父達が帰ってきたら皆で掃除するのが待ってそうだ。

「お邪魔しまーす、っと。誰も居なくてもうっすら埃は積もるんだな」
「そりゃしょうがないさ。すぐに制服持って戻るから、ちょっと待っててくれ」
「あ、私零次さんの部屋見てみたいです。いいですか?」
「あぁ、構わないぞ。こっちだ」

 この二階に上がるのも本当に久々だ。やっぱり我が家は何時帰ってきても落ち着くもんだ。
部屋の扉を開けると、見慣れた我が部屋が出迎えてくれる。なんて感傷に浸ってないでさっさと荷物を置いて、制服を持っていこう。

「ここが零次さんの……司郎さんの部屋より整理されてますね」
「まぁな。……よし、目標達成っと」

 ん? 振り返ったら、心紅が俺のベッドをじ~っと見てた。何かあったかな?

「心紅? どうかしたか」
「え!? あ、いや、何でもないです!」

 ……ふむ、まぁそれならいいか。何で慌ててたか少し気になったが、別に聞かなくていいだろ。
それじゃ、またこの部屋で寝泊りするのは明日から。今はまた鍵を閉めて、司郎の家に引き返すとするか。

「待たしたな。帰るぞ」
「オッケー。ん? なんか心紅赤くなってない?」
「そんな事ありません。気のせいですよ」
「そっか? んー、なら別にいいか」

 ふむ? 言われれば少し顔が赤いような気もする。熱でもあるのか?
軽く額に触れてみる。……特に熱は無さそうかな。

「ふぁ!?」
「あ、悪い。もしかしたら熱でもあるのかと思ってな」
「へ、平気です。なんとも無いですよ」

 少々驚いたけど、どうやら心紅は大丈夫そうだな。若干挙動不審ではあるけど。
今日やらなきゃならない事はこれで終わり。後何かあるとすれば、夜の祭りくらいだな。
すでに準備は始まってる。大通り一本を遊歩道化して出店やら何やらが並ぶから、規模はかなり大きい方だろう。
そういえばアルスさんも来るって言ってたし、皆もこういうのは初めてだろう。楽しまないと損だよな。

「のぼりとか提灯とかも飾り付けられて、かなりそれっぽい感じになってきたよな! 今年こそ射的で景品ゲットしてやる!」
「で、搾取されて何故だーって言うんだよな」
「だって悔しいじゃんよ! 揺れるんだぞ!? 後ほんのちょっとなんだよ!」

 ……実はあれ、景品が下で紐で繋がってるのを俺は見た事がある。それも、弾が当たったら僅かに揺れる絶妙な加減で。この辺は騙される方が悪いってタイプの物だからなんとも言えないんだがな。
どっちにしろ出店が開きだすのは夕方以降だ。それまではゆっくりしよう。

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 テレビを何故か、蒼刃と海歌に挟まれながら見てるのが現状だったりする。いや、暇だったんだ。
心紅と司郎は拳斗に喋り方の授業中だ。何故か俺は部屋から追い出されたんでここに居る訳。
で、今テレビでは驚愕の事実が放送されてる。……各地方の、ポケモンリーグチャンピオンへのインタビューとかいう番組だ。
そこには、シンオウ地方ポケモンリーグチャンピオンとして……シロナさんが映っていた。

「む? この女性は確か、我等がこの地に下りた時に居たのではないか?」
「あ、あぁ」
『チャンピオンってことは、トレーナーで一番ってことだよな? へぇ、あの人凄かったんだ』
「まったくだ……」

 財布から、一枚のカードを取り出す。拳斗と一緒にシロナさんから渡された物で、トレーナーカードと似た物らしくて、ライセンスカードって言うらしい。
これを持ってれば、ポケモンセンターの利用がトレーナーでなくも出来るようになるって言われたんだが……ライセンス発行者のところにチャンピオンの名前があるんだ、そりゃ効果があるのも納得だ。
しかも俺はシロナさんと連絡先の交換なんてものまでしてる。はっ、はは……チャンピオンから直接ポケモンを貰ったりこんなカードを貰ったり。贅沢者だな、俺は。

「ふむ……こういう事だったのなら、一度手合わせをしていれば面白かったかもしれんな」
「あぁ、蒼刃なら互角以上に戦えただろうな。にしても、チャンピオンか……」

 あの時はまた会いましょうって言って別れたけど、また会えるのか? まぁ、その時が来たらまたゆっくり話でもしたいもんだ。
おっと、おばさんがお茶とお茶菓子を出してくれた。折角だし、頂こう。

「……む!?」
「ん? どうした、蒼刃」
「何か……来る」

 は? 突然キッチンの方を向いたと思ったら、来るってなんだ?
!? な、突然何も無い場所から火花が!? うぉぉ、バチバチ言い出したぞ!?

「な、なんだなんだ!?」
『! 何か、強い力が来る!』
「これは……テレポート!? 一体何が!?」

 おばさんもゾロアークの姿に戻って、海歌も蒼刃も警戒状態に入ってる。……俺も双剣を出しておくか。
空間が割れるように、ぽっかりと穴が開いた。一体、何が起こるんだ?
……なんかぼてって擬音が聞こえそうな感じで白いポケモンが出てきた。あれ、こいつは……。

「あ、あら?」
『あれ? えっと……』
「創造主、アルセウス?」
「い、イエス、アイアム」
「その声は……もしかしなくても、アルスさん?」
「うぅ、零次さーん、とりあえず何か食べ物下さい……」

 どうやら、ポケモンの姿だけどアルスさんで間違い無いみたいだな。で、出てきて早々に食い物を求めてくるとは、らしいっちゃあらしいけども。
全員が警戒を解いて、おばさんは人の姿に戻った。とにかく衰弱してるみたいだし、ご所望の物を用意しよう。いや、まずは茶菓子の煎餅でいいか。

「アルスさーん、起きれますかー?」
「……煎餅!」
「ぬぉぉ!?」

 危ない、手ごと食われるかと思った。おぉ、良い音させて食べてるなぁ。

「あぁ、食べれるって幸せ~」
「っていうか、突然現れるのにも程があるでしょう。それに、今回は人の姿じゃないし」
「これには深ーい事情がありましてね? あ、お茶ください」

 ず、図々しいなまったく。俺が飲もうとしてた分でいいか。

「あの、零次君?」
『このポケモン、知り合いなのか?』
「海歌も実は知り合いだぞ。ほら、キャンプの時に飛び入りしてきた」
『……まさか、アルスさん? 人じゃないって言ってたけど、こんな強い力を持つポケモンだったなんて……』
「力が強いのは当然だろう。なんせ、この世界を作った者なのだからな」

 お茶を啜ってほっと一息ついてる今の様子からは全然分からないんだが。まぁ、浮遊庭園で会ってなかったら信じてなかっただろうな。

「それにしても何があったんですか? あんなに隠してた元の姿でここに来るなんて」
「実はですね? あそこでコバルオンさんと零次さんと別れた後、部下に見つかって溜まってた仕事をがっつりやらされる事になってしまって、お祭りの為に四日間寝ずの休まずで働きまくってたんですよぉ」
「……で、仕事を終えて直接ここに来て力尽きた、とかですか?」
「オフコース! もうちょっと休まないと人の姿になれそうにないんで、休ませてもらっちゃっていいです?」
「えーっと、零次君や蒼刃さんのお知り合いみたいだし、構いませんよ」
「わーい、ありがとうございます!」

 威厳とか無いなー。でもこのノリがアルスさんらしさなのかもな。
しかし……どうやら蒼刃とアルスさんは面識があるみたいだよな。そもそも蒼刃を封印したって言うのがアルスさんらしいし。
その辺、少し聞いてみたい気もするけどまた蒼刃のメンタルにダメージがあっても困るしな。また今度にしておこう。
おばさんが簡単にピラフなんかを作り出したのをアルスさんは目を輝かせながら見てる。暢気な創造主様だなまったく。

「で、今はその格好でいて大丈夫なんですか? 確か、真名と元の姿を晒したら面倒なのが来るとか言ってませんでしたっけ?」
「あ~、それはそうなんですけど、今なら私の力も弱ってるしぃ、多分包囲網に引っ掛かる事も無いと思うんで。おまけに人のサイズまで縮んでますし」
「はぁ、なるほど」

 ようは元はもっと大きいと。ま、その元の姿で来なかったのはアルスさんの配慮ってところかね?
っていうか包囲網って……あんたは何処ぞの盗賊か何かですか。何をしたらそんなに追い回されるんだか。

「はい、有り合わせにはなりますけどどうぞ」
「ぃやったー! いっただっきまーす!」

 置かれたピラフに宙に浮いたスプーンが刺さって、そのまま掬われたピラフがアルスさんの口に運ばれる。なんとも幸せそうだ。

「ふぃー、ん? なんか見た事無いポケモンが居るんでねぇの?」
「あ、司郎さん。お邪魔してまーす」
「……あれ、俺こんな知り合い居たっけ?」
「声をよーく聞いてみろ」
「うーん、美味しいは正義!」
「あ、なんだアルスさんか。へぇ~、白い綺麗なポケモンだねぇ」

 食べ物の話をして誰か分かるって言うのは、実は結構便利なのかもしれない。
で、拳斗に言葉を教えてた司郎がこっちに来たって事は、今日の勉強はもう終わったのかね?

「なんかさぁ~、俺ってば要らない子なんじゃないかなーって思ってきた」
「どうした唐突に?」
「心紅が教えるの上手過ぎて俺のやる事無いんだもーん。邪魔になりそうだからこっち来た」
「なんだそういう事か。なら、心紅と拳斗はまだやってるのか?」
「やってるって言うか……まぁ来たら分かるさね」

 ? どう言う事だ? っていうか、そんなノリって事は拳斗の物覚えの良さからして、そういう事なんだろうな。
話をすれば気配だな、とてとてと歩いてくる足音が聞こえてきた。成果はどんなもんかな?
リビングに顔を出した拳斗も、ついでに心紅も笑顔だ。上手くはいったみたいだな。
っと、いきなり拳斗飛びついてきた。いつも通りと言えばそうだな。

「にーさん!」
「は? 兄さん?」
『あ、拳斗喋った』
「元々拳斗君は喋りたいと思ってたみたいですからね。言葉を覚えるのも喋るのもあっという間でした」
「……いや、心紅も話せる様になるの早かったよな。っていうか、兄さんってのは一体?」
「にーさん♪」

 間違いなく俺の事をそう呼んでるようだ。どうしたんだ急に?

「んぁ? あぁ、そういえば零次に言った事無かったっけ。リオル……じゃなくて拳斗ってさ、零次の事お兄ちゃんみたいだってずっと言ってたんよ」
「そうなのか?」
「うん! 駄目? にーさんじゃ」

 俺が、兄貴ねぇ……ポケモンの弟、か。悪くはないけども、俺がそう呼ばれる日が来るとはな。

「いや、別にそう呼びたいならそれでも構わんけど」
「やったー! えへへ、これでにーさんともお話出来る♪」
「……三日くらいで上達し過ぎじゃないか?」
「あの、最後の仕上げで私が話してるのを真似たみたいで。拳斗君は真似た事をそのまま覚えられるみたいですね」
「出来るよ。にーさんに教えられた事も覚えてるよ」
「そりゃまた便利だな。そうじゃないかとは思ってたけど」

 真似を自分の物にするか……ゲンさんが言うには拳斗は特殊なリオルらしいし、これもその影響なのか?
で、何時まで俺にくっ付いてるんだ拳斗よ。まぁ抱いてても別にいいが。

「あら? 零次さん。そのリオルの子は誰かから預かってたんでは?」
「いやまぁ結局俺がトレーナーになったと言うかなんと言うか」
「あんらそうだったんですか? それならスペシャルボールをー、って、まだ私の力回復してなかったんだった。ボールはまだ作れそうにないですぅ」
「……って、このポケモンさんはどちら様ですか!?」

 皆そう反応するよな。っていうかアルスさん何時の間に卵焼きやサラダまで食べてるんですか。あ、おばさんもノリノリで作ってるし。食材は……あの方法で出したみたいだな。
ま、こうなったら俺達も軽く何かつまむか。ちょっと早めの昼飯って感じでいいだろう。

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 まぁその後はだらだらと過ごして、ついに日も傾きだした。そろそろ祭りを見に行くのにもいい時間かな。
アルスさんもどうやら人の姿に戻れる程度まで力が回復したらしい。安心して祭りに行けるって喜んでたよ。
しかし、一つ疑問がある。何故俺の手持ちとなった面々は……。

「何故俺を囲む?」
「え、特に意味は無いですけど」
『そもそも零次から離れると面倒そうだし』
「無益な争いほど無駄な事はあるまい」
「肩車好きー♪」
「零次が好かれてるって事でいいんじゃねぇの?」

 ポケモン三匹に人間(姿だけだが)二人に囲まれて移動してる俺って……。気にしたら負けか。
おばさんとアルスさんは後からおじさんと合流してから来るそうだ。俺達六人? は先行して祭りを見ていようって事になったから移動中だ。
うん、人もポケモンも多いなぁ。今日だけは自由にポケモンも通りを歩ける貴重な日だからな。当然と言えば当然か。
これは、この町の神社で祭ってるのが豊穣の神って呼ばれてるポケモンだからって理由もあるんだそうな。確か、ランドロスとか言ったかな?
分け隔て無く人にもポケモンにも恩恵を与える存在に敬意をはらい、ポケモンも人も今日だけは平等に歩こうとか言ってた気がする。その分危険も増すから、警官とかも多く常駐して見回ってるんだけど。
ま、そんな訳で海歌なんかもボールから出して一緒に行動してる訳だ。リオルにコバルオンにラプラスと、青がベース色のポケモンが揃ってるよなぁ。

「おっ! 出店出てるじゃん! 綿飴か~」
「おいおい、まずは出店の前に神社に参るのが先だろ」
「え~、ちょっとくらいいいじゃんよ~」
「……司郎、祭りってそもそも何のために開かれるか分かってるか?」
「神仏への祈りや感謝を怠ると、得てして災いに巻き込まれ易くなるものだ。我等の場合知り合いに神が居るのだ、疎かにすれば罰が当たるぞ」
「こ、怖いこと言わないでってば蒼刃さん……行くよ、行くったらさ」

 そうそう、素直に神社へ足を運べばいいんだ。蒼刃のいう事には凄味があるから、司郎も大人しく従うから楽でいいぞ。
といっても、俺達みたいに真っ直ぐ神社へ向かうって考えの奴はそうそう居ないだろうけどな。皆目当ては出店だろうし。
開きだした出店を眺めながら、神社へと伸びた道を進む。この通りの先は、そのまま神社の社へと続いてるんだ。
……やっぱり神社に近付くにつれ人もまばらになるか。まぁ、こんなもんだろうな。

「到着~」
「わぁ……年季は入ってますけど、綺麗に手入れされてますね」
「ん? 心紅分かるのか?」
「はい。旅しながらこういう神社も幾つか見てきてるんで」

 なるほど、実際に見てきてるんなら違いも分かるか。心紅もそういった経験や知識は豊富か……今度別の地方の話なんか聞いてみようか。
それは一先ず置いといて、賽銭箱の前に来たんだから手を合わせよう。賽銭は、もちろん俺持ちだよな。一人5円ずつで許してもらおう。
拳斗の事も一旦降ろして、手を合わせれるメンバーは手を合わせて、それ以外のメンバーは目を閉じて祈る。……願掛けじゃないし、何を祈ろうか。
そうだな、ちょっと洒落た事でも祈っておくか。……この夏の、全ての出会いに……。

「……ん、こんなとこか」
「うむ、そんなに長く祈るものでもないだろう」
「なぁなぁ、皆何て思ってお祈りしたん? 因みに俺は、もう一日休みになりますように、的な!」
「それ願掛けだろ。しかも無理だし」
「えー、いいじゃんよー。んで、皆は?」

 こういうのって他の相手が祈った事気になるか? まぁ、司郎はこういう奴だからしょうがないよな。

「我は、再びこの地へと戻れた事への感謝だな。それに、新たな友との出会いを」
『私も似たような事かな。こうしてここに居る事と、皆と……零次と出会えた事に」
「よせよ、俺なんか大したもんじゃない」
「……ふふっ、それ、ちゃんと周りを見て言ってますか?」

 気が付いたら、心紅も……おまけに司郎までポケモンの姿で居た。なんでまた?
ずらりと並んで、皆俺を見てる。いや、そんなに見ても何も出ないぞ?

「これだけのメンツを揃えて大した事無い、ねぇ? 世の中のトレーナーが知ったら顔真っ赤にして向かってくるぞ?」
「おいおい、第一、司郎お前は俺の手持ちじゃないだろ?」
「それならば、我等だって手持ちなんぞというものになったつもりは無いが?」
『そうそう、一緒に居るのだって居たいから居るんだし』
「にーさんはにーさんだよ! だから一緒に居たいの♪」
「って事ですよ」

 ……くっ、はははっ。まぁ、トレーナーなんて柄じゃあないからな。拳斗が言う通り俺は俺、か。

「ったく、物好きばかり揃ってくるよなぁ。俺なんかの何処がいいんだか?」
「それが分かったら、面白みが無くなってしまうんだろうな」
「ま、それよりも、そろそろ出店見に行こうぜ~」
「それもそうだな。よし、行くか! ……司郎? 服着たゾロアークなんて目立ち過ぎるぞ?」
「わぁかってるってば! ノリでなっただけだよ」

 やれやれ……それなら、皆が楽しみにしてる出店巡りと行くとするか。これ以上待たせるのも悪いし。
神社の境内を離れると、そこには祭りに足を運んできた客や出店で賑わう通りが広がってた。どうやら本格的に始まったみたいだな。
あっ、司郎が真っ先に射的屋に吸い込まれていった。……後で何か奢らさせられるんだろうなぁ……。

「さて、何か食べたい物はあるか?」
「そうだな……アルセ、ではなくアルス殿が言っていたたこ焼きとはどういう物なのだ?」
「たこ焼きか。ん、丁度あるし、まずはそれから食べるか。あ、心紅にも幾らか渡しておくから、好きな物買っていいぞ」
「えっ、いいんですか?」
「あぁ。買い手が俺だけだと、メンツのリクエストをこなすのも大変だからな」

 人の姿が出来るのを有効利用しないとな。とりあえずたこ焼き買うか。
うん、ソースの良い香りだ。こういうのは出店で買って外で食べると更に美味く感じるものだ。
拳斗も期待した目で見てるし、八個入りのをまずは1パック。おぉ、焼きたてはかなり熱い。

「ほぉ……」
「ほれ、口開けろ」
「うむ、頂こう。……あ、あふっ! あふいぞほれ!」
「だからいいんだろ? ほれ拳斗も」

 うーん、少し冷ましてからやればよかったか? でも熱々を食べてこそ意味があるし、何事も経験だな。
はふはふっとしながら……おっ、飲み込んだ。

「ご感想は?」
「う、美味いが……ちょっと冷ましてからくれ」
「ははっ、悪かったよ。でも焼きたてが一番美味いからな、それを食わせたかったんだよ」
「海で食べたのも美味しかったけどこれもおいしー」

 そういえば拳斗には海でもやってたな。……熱がらないが、大丈夫だったのか?
試しに俺も一個……あ、熱っ! うわこれあっつ! な、なんで拳斗はケロっとしてるんだ!?

「に、にーさん大丈夫?」
「へ、平気だ……拳斗、熱くなかったのか?」
「ん? 熱かったけど美味しかったよ」

 ……普通に我慢強いだけだったらしい。聖剣士も感心させるとは、やるな拳斗。
俺と蒼刃には少々熱過ぎるので、ちょっと冷ましながら三人で分けて完食。冷ましたのは蒼刃も苦も無く食べて気に入ったみたいだ。

「あんた仲良さそうね。……うわっ、何そのポケモン」
「ん? おぉ、雪花か」

 気付かない内に、後ろに浴衣姿の雪花がユキメノコと並んで立ってた。どうやらつれて来たのは心紅と海歌みたいだな。リンゴ飴食べながら一緒に並んでる。

「そこのお店に行ったら丁度隣に居たんです」
「む? 年恰好からするに、零次の学友といったところか?」
「……しゃ、喋った?」
「蒼刃正解。まぁ、喋る事についてはあまり気にするな」
「……なんかもう、あんたの知り合いには何が居ても驚かなくなったわ」

 夢子さんが良い霊、もとい例になるからな。雪花も免疫が出来た感じか。
ふむ、どうやら別のクラスの奴と待ち合わせをして、先に来たから少し見て回ってたところで心紅達に遭遇したみたいだな。待ち人が来るまでは暇潰しに付き合ってやるか。

「へぇ、コバルオンって言うの。聞いた事無いわね」
「ま、俺も蒼刃と知り合わなかったら知らなかっただろうな」
「ふーん……ねぇあんたさ、今度私と勝負してみない? あのゲンガーと戦った時のラプラスちゃんも強かったし、どお?」
「ん? 止めておいた方がいいと思うぞ? 気が向いたらやってもいいが」
「ほぅ、手合わせか。我も感を取り戻したいところではあるし、悪くない」
「……まぁ、蒼刃も乗り気みたいだし、また今度な」

 俺は特に指示出しとかしないだろうけどな。ゲンガーの時もそうだったし。
なんか満足げに笑ってる。っと、雪花を呼んでる奴が居るな。あれが待ち合わせてた奴等か。うん、クラスで見掛けた事のある女子達だ。
それじゃ、て言って雪花は手を振りながら歩いていった。この分だと他の奴等とも顔合わせそうだな。
あっ、やっぱりしょげて司郎が帰ってきた。絶対に落ちないんだからこうなるわな……。

「もうさ……イリュージョン使って景品落としたい」
「普通に反則をしようとするなっての。あんなの落ちないと思ってやる方が懸命なんだよ」
「うぅ~、でもショックだ……」

 やれやれ、世話の焼ける奴だ。近くで売ってたクレープを宛がってやると、凹みながらももそもそ食べだした。もう少し何かやれば元通りになるだろう。
そんな感じで、時々出店の物をつまみながら賑やかな通りを進む。うん、やっぱりクラスの奴等もかなり居るな。どっちにしろ明日からまた顔を合わす事になるんだが。
司郎は当たりくじやら投げ輪やらを見つけてはふらふらと近付いていって踏み止まるっていうのを繰り返してるぞ。最初の射的で反省はしたようだ。
……ん? トサキント売り? いや金魚じゃないんだから無理だろ……て! 売り手の奴等どっかで見た事あるんだけどなぁ?
近付いていくと……丸いサングラスを掛けた怪し~い三人組がどう見ても金魚の入った水桶の前に座ってる。……なんか地味に繁盛してるな。

「いらっしゃいませー! 可愛い可愛いトサキントの赤ちゃんはいかが~?」
「100円でポイは二枚! 掬った分はぜーんぶ持って帰れるニャー!」

 どう見ても一人……というか一匹はニャースだな。海に居たロケット団とかいう奴らで間違いないだろ。
水桶の前まで行ってゆっくりとしゃがむ。さて、どんな反応をするかな?

「へぇ、生まれたてのトサキントですか、珍しいですね」
「へ~いいらっしゃ……い!?」
「ニャア!?」
「おや、俺の顔に何か付いてますか?」
「い、いえいえ~。お客さん、一回いかがですか~?」

 ちょいちょいっと青色の髪の男……確か、コジロウとか名乗ってたかな? そいつに手招きをした。満面の笑みで。

「な、なんですか~お客さん?」
「……なんでここに居る? 返答次第では、足腰立たなくして警官の前に捨ててくるぞ?」

 小声で言ってやると、一瞬で顔が真っ青になった。忘れてるとでも思ったのか? 笑わせてくれる。
他の一人と一匹も、顔を引きつらせながら一応他の客を接客してる。この状況では逃げられないからな。

「か、勘弁してくれ! あれからずっと逃げ続けてもう食い物も無いんだ!」
「で、トサキントの稚魚なんて偽って金魚売ってる訳か。自業自得だろうが」
「ここでは何もする気は無いから、この通り!」

 手を合わせて頭まで下げてきた。……ま、この水桶以外には何も無いみたいだし、ここで暴れても警官の御用になるだけか。
俺もあの時の二の舞は御免だし、釘刺すだけにしておくか。

「……もし海での事みたいな騒ぎを起こせば、今度は逃がさん、確実に仕留めるからそのつもりでいろよ」
「ひ、ひぃぃ!」

 こんだけ脅しておけばなんにもしないだろう。したら有言実行するだけだ。
とんだ寄り道にはなったが、危険因子を見つけたんだからまぁよし。皆がどうしたのか聞いてきたけど、珍しそうな出店があったから見てたって事にしといた。
うん、通りもまだまだ賑やかになっていく。後30分くらいで花火の撃ち上げが始まるから、それを見る為に出てくる人も増えだしたんだろう。
おや、おじさん達を見つけた。アルスさんは……うん、焼きそば持ってた。何かしら食べてるとは思ったけどな。

「おや、零次君たちじゃないか。楽しんでるかい?」
「えぇ、まぁ。……アルスさん、こっちで引き取ります?」
「いや、どういう方なのかは流貴から聞いたからね、このまま一緒に見て回るとするよ」
「そ、そうですか……アルスさん、ちょっとは自重してくださいよ?」
「それくらい私も分かってますよぅ。ん~、でも焼きそば美味しい~」

 はは……本当の神が祭りに参加してるってここに居る人達が知ったらどうなるかな。いやまぁ祭ってる神ではないけど。
おじさん達はある程度見て回ったら引き上げるらしい。俺達も花火を見たら引き上げかな。もう結構腹は膨れてるし。

「おっ、型抜きあるじゃん。射的の損失をこれで!」
「む? 型抜き?」
「あぁ、色々な形の溝が掘られた板を、その形に綺麗に抜くと形に指定されてる賞金を貰えるって遊びでな。上手い奴にはちょっとした小遣い稼ぎになるんだ」

 早速型を抜き始めてる司郎に続いて、俺達もやってみようって事になった。海歌と蒼刃は見ててもらう事になるけどな。
俺、これ成功した事無いんだよなぁ……柔らかい素材で出来てるからどうしても欠けるんだよ。上手い奴は手先器用なんだろうな。

『……司郎、下手だな』
「くっ、も、もう一枚!」
「あっ、失敗しちゃった……」
「ル~……これ難しいよ」

 どうやら皆も苦戦してるらしい。これで俺だけ失敗とかじゃなくてよかった……ちょっと安心した。
なんて油断してるから失敗するよな、なんだよエーフィ型って。尻尾が無理過ぎるだろ。

「ふむ……零次よ、その型抜きというのは、周りは壊してはならないのか?」
「ん? いや、この真ん中の絵が無事ならそれでいい……んですよね?」

 出店の人も頷いてるから間違いないな。

「そうか。何か一枚投げて寄越してくれないか?」
「え、どうするんだ?」
「投げれば分かる。なんでもいいぞ」

 それなら……俺が失敗したばかりのエーフィ型をば。
う、おぉ!? 蒼刃がナイフくらいの大きさの聖なる剣を出したと思ったら、それが型抜きの板を切り裂いていく! ま、まさか……。

「飾り切りは久々だったが、こんなものだろうな」
「おぉぉ!? か、完璧だ……」

 最後にすっと刃の腹に乗せられた型抜きは、寸分違わぬエーフィの姿で乗ってた。いや、凄すぎるだろこれ。
見ていた他の客や出店の店員からも思わず拍手が送られる。これは蒼刃が自慢げな顔をしても冷やかせないな。

「す、凄いです蒼刃さん……」
「伊達や酔狂で剣士等と呼ばれていた訳ではないのでな」
「こ、これは負けられん! うぉぉぉ!」
『いや司郎、完全敗北だよ』
「えーっと、これは500円……でいいのかな?」

 これだけ完璧な業を見せられたら払わずにはいられないのか、素直に俺の手に500円が手渡された。まぁ、プラス100円でしかないんだけど。
にしても恐ろしく正確な剣捌きだな……こんな事しても涼しい顔してるって、実力の底が知れない。蒼刃、どれだけ強いんだ?
……ちょっと、しっかり剣技を習うのもあり、かもしれない。
っと、周りからアンコールが掛かってる。そりゃあ、あれだけ見事な業、もう一度見たくなるのも分からなくは無いな。

「ふむ……あまり店主殿に迷惑を掛ける訳にはいかんのだが……」
「それなら、賞金無しでもう数枚っていうならどうだ? ご店主も、どうです?」

 ははっ、ニッと笑って板を渡してきた。蒼刃の顔を見ても、まんざらじゃないみたいだな。
それなら少しばかし、ショーの開幕と行こうか。

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 祭りの喧騒を後に、俺達は神社の境内に戻ってきていた。ここからが一番花火を見易いんでな。
一通り祭りは楽しんだし、すっかり日も沈んだ。天気も良好、星が綺麗だ。

「後は花火見て終わりかぁ。夏休みの締めにはいいかもな」
「だな。予定では、あと10分くらいか」

 ん? なんか服を後ろから引っ張られた。振り返ったら、そこには心紅がラティアスの姿で浮いてた。俺の服の裾を持ってるし、引っ張ったのは心紅か。

「どうかしたか、心紅」
「あの……ちょっとだけ、二人きりになれませんか? お話したい事があるんです」

 ふむ、小声で言う辺り、他の奴には聞かれたくない事なのか? まぁ別にいいけど。
何やら海歌からも行けと言いたげな視線を感じる。……何か知ってるみたいだな。
司郎は拳斗なんかと喋ってるみたいだし、気付かれないようにそっと移動しよう。……あ、蒼刃に気付かれたっぽい。でも、そのまま見送るって感じか。
境内の裏まで来たんだが、そこから心紅に乗ってくれと言われた。まだ何処かに移動するのか? ま、ここは言われた通りにするか。
心紅に乗ると、そのままふわりと宙に浮く。目的地は……どうやら境内を囲む鎮守の森で一番高い杉みたいだな。
ここには、樹齢何年かまでは知らないけど、上まで良い枝振りをしてる一本の杉が生えてるんだ。あぁ、別にご神木とかでは無いらしい。
それのかなり高い部分に降ろされて、腰掛ける。心紅も隣に腰掛けるように並んだ。

「どうしたんだ、急にこんなところに?」
「いやあの、丁度良さそうなところがここしか無かったんで……大丈夫ですか?」
「俺は平気だぞ。で、話って?」
「えっと、まずはこれを零次さんに渡したくて」

 ふむ、心紅の握られた手が開かれて、そこには淡い桃色の石が付いた首飾りがあった。気付かなかったな……何時から持ってたんだ?

「それは?」
「前に海に行った時に見つけた、海桜って石です。ほら、司郎さんが一生懸命探してた」
「……あぁ、あれか! でもあの時は確か、心紅にも見つけられなかったって言ってたんじゃ?」
「あれは……ああ言わないと、頑張って探してた司郎さんに悪いかなぁって思っちゃって」

 まぁ、相当妬まれたのは間違い無いだろうな。二日間掛かりっきりで探してたみたいだし。

「でも、どうしてそれを俺に?」
「この石の噂って、覚えてますか?」
「そう言えば……この石を贈った相手と、受け取り手がより親しくなれる、とかだったか?」

 ん? とすると、これをこれを贈るって事は相手とより親しくなりたいと思ってるって事になるんじゃ……。
 ん? とすると、これを贈るって事は相手とより親しくなりたいと思ってるって事になるんじゃ……。
見てみると、うっすらと心紅の顔が赤くなってるように見える。そ、そういう意味なのか、やっぱり!?

「……受け取って、くれますか?」
「いやでも……いいのか?」
「はい。私は、零次さんに贈りたいんです」

 面と向かってそう言われると、照れを隠し切れなくなりそうだ。俺の顔も赤くなってきてるんだろうな。
上手く言葉に出来そうに無いから、すっと手を心紅の方に差し出した。視線は……ちょっと合わせられそうに無い。
出した手に心紅の手が添えられて、俺の手の中に首飾りが乗った。そのまま、心紅の手が俺の手に重なる。

「……えっと、ありがと、な」
「ふふっ、私も、受け取ってくれてありがとうございます♪」

 心紅の手が離れたのを見計らって、受け取った首飾りを見た。へぇ、噂の事を無しにしても、綺麗な石じゃないか。

「この紐を通すのも心紅が?」
「あ、はい。ちょっとおばさんに聞いたり手伝ってもらったりはしたんですけどね」

って事は、おばさんはこの事を知ってたのか。その事をまったく悟らせないとは……流石化け狐ポケモン、てか?
そうだな、折角受け取ったんだから身に付けるか。紐の結び目を解いて、首に回して結び直す。こんなもんか。

「よっと、どうだ?」
「あ、紐の長さも丁度良かったみたいですね。よかったぁ」
「あぁ、ばっちりだ。……っと、始まったみたいだな」

 俺達の前に、空に弾ける大輪の花が咲き出した。この高さで見るとまた格別だ。

「綺麗ですね……」
「本当にな……夏も終わり、か」

 咲いては消えていく花火に、少しだけ寂しさを感じる。夏休みが……俺達の夏が、終わる。

「……大丈夫ですよ。この夏が終わっても、また夏は来るんですから」
「……そうだな。今年の夏が終わっても、また来年が来る。そしたら、またこの花火も見られるか」
「その時も……また、零次さんの隣で見られますよね」
「あぁ、これからも一緒に居るって決めたんだし、俺も居てほしいって言ったんだしな」

 座った枝に突いていた手に、心紅の手が重なってきた。温かくて、傍に居るっていうのが良く分かって、凄く落ち着く。
あ、そうだ。いやでも、急だったからなぁ……。

「? どうしたんですか?」
「いや、この首飾りの礼に何か、とも思ったんだけど、こんなのを貰えると思ってなかったから何も用意が無いなって思ってさ」

 本来ならすぐに何かをプレゼントするのがベストだろうけど、これは後日だな。もう普通の店は閉まってるだろうし。
ん、置かれてる心紅の手が俺の手をきゅっと握った。どうかしたのか?

「あ、あの……じゃあ、私が欲しい物……貰っていい、ですか?」
「うん? あぁ、もちろん。と言っても、あまり高価な物は……」

 心紅の方を向いて言いかけた俺の口に、何かが触れる。
目の前いっぱいに心紅が見える。目を瞑って、そして……。
俺達、キスを……?

「ん……大好きです、零次さん……」
「心、紅?」

 そのままもたれ掛かってきた心紅を俺は受け止めた。温かくて、柔らかくて……。

「零次さんが人で、私はラティアス。それは分かってますけど、この気持ちを……隠したままにしたくない。私は……あなたが好きです、大好きです」
「心紅……」
「あなたの時間を……少しだけ、私に下さい。私の時間を、全てあなたにあげてもいいから……」

 少しだけ見上げるように、心紅は俺の顔を見てる。つまりその……告白、ってことなんだよな? これは。
心臓が、生まれてこの方なった事の無い高鳴り方をしてる。体から出てきそうなくらいだ。
なんて、言えばいいんだ? 言葉が出てこない。頭の中が混乱する。考えが纏まらない。
だったらいっそ……出来る事をやろう。体は、動く。
受け止めただけだった心紅を抱きしめる。離さない様に、大切に。

「……俺の時間で、いいのか?」
「はい……他には、何も要りません」
「そっか。……もう、返してきても受け取らないし、こっちも手放さないからな」
「……はい!」

 心紅が、俺の前でそっと目を閉じた。
それに俺から顔を寄せて……約束の誓いを交わす。
夏が、終わる。でも……皆が居て、心紅が俺のすぐ傍に居てくれる明日はきっと……。
ここから、始まるんだ。

----

ファイナル後書きぃ!
と言うわけで、非常に長く続いたサマーバケーションも完結でございます! いやぁ、長引いたなぁ…。
さて、本編はこれで終了ですが…外伝的な物をちょっと構成中であります。三本くらい。
そちらは…ゆっくりと仕上げて、出来次第また投下して行こうと思います! 第一弾は…要望の多いあれですかね?
と言うわけで…その外伝が出来るまで、零次達とはしばしの別れ! 新光もまた更新再開ですぞ~!
あ、おまけで零次達、サマバケ主要メンバーのキャラ紹介所も立ったりします。あくまでおまけなんで短いですが。…誰か使ってやってもいいのよ! 
まぁジョークは置いておきまして…ではでは、次回作で会いましょう! ここまでお付き合い頂きまして感謝であります!

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IP:119.25.118.131 TIME:"2012-10-12 (金) 08:06:27" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%82%B5%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%90%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%EF%BC%81%E3%80%80%EF%BD%9E%E5%A4%8F%E3%81%AE%E7%B5%82%E3%82%8F%E3%82%8A%E3%81%A8%E4%BD%95%E3%81%8B%E3%81%AE%E5%A7%8B%E3%81%BE%E3%82%8A%EF%BD%9E%E3%80%80" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; Trident/5.0)"

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