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サマーバケーション! ~キャンプとカレーと友達と~ の変更点


writer is [[双牙連刃]]

前話へは[[こちら>サマーバケーション! ~ミッドナイトスクールコープス~]]

零次と司郎の夏休みも後半戦。思い出作りも佳境へと…。

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 ふぅ、準備品が多い。一泊と言ってもキャンプとなると色々準備しないとならないからな。
俺達は今、少し遠く、バスと徒歩を駆使してキャンプに向かおうとしてるところだ。因みに発案者はまさかの司郎だったりする。

「しかし、キャンプ用具一式なんてよくあったな?」
「前に家族で一度行ったんだよなー。いや、そん時は父さんの会社の人も居たか」
「なるほど、会社の付き合いで行ったって事か」

 あぁ、目的を言うと、たまには外で思い切り羽を伸ばしたいって司郎が言い出したのが原因だ。折角の夏休みだし、俺以外は皆ポケモンだしな。
ま、今回おじさんとおばさんは行かないんだけどな。おじさんは仕事があるし、そうなると家を空けられないって理由でおばさんも家に残留。こればっかりは仕方ない。
よし、こっちはこんなもんか。後は食料班が用意出来れば出発出来るな。

「お待たせしましたー」
「リッオー!」
「おっ、リオルもリュック持ったのか。うん、似合ってるじゃないか」
「あ、懐かしい。俺が昔使ってたのだ。小さくなったから使えなくなってたんだよ」

 今回は流石に心紅やリオルにも荷物を持ってもらう事になった。キャンプ用具持って食料持っては流石に厳しいからな。まぁ、それでも幾らかは持つ事になるんだが。
後は……海歌を連れて来て準備完了だな。アクアボールを持ってと。
っていうか、司郎の部屋に用意する理由が無かったか。リビングに用意すれば良かったな……。
リビングの扉を開けると、やっぱり海歌はおばさんと話してる。司郎の部屋に入れればよかったんだが、ラティアスにゾロアークにリオル、それに俺が入ってると一室じゃ限界なんだよな。

「海歌、待たせたな。出発するぞ」
『ん、分かった。それじゃあ流貴さん、行ってくるよ』
「えぇ、楽しんできてね。零次君、皆をお願いね」
「何も無いとは思いますけどね。それじゃ、行ってきます」

 海歌をボールに入れて、これでキャンプに行くメンバーは全員だ。
見送るおばさんに心紅と司郎も一言ずつ言って、それぞれに荷物を持って歩き出した。
町から少し離れたところに川の流れる良いキャンプ場があるんだが、俺達が目指すのはその上流。何故かは分かっている通り、俺以外はポケモンだって事だからな。
時期的にキャンプ場には人が多いだろうし、そんなところでは司郎も心紅も元の姿に戻れない。だからって事の配慮だ。
とりあえず荷物を持ってバス停へ。おっ、丁度良くバスが来た。行き先も……問題無いみたいだな。

「キャンプ場行きのバスって便利だよなー」
「まったくだ。ま、俺達は着いた先からもう10分くらい歩く事になるんだけどな」
「行くところは川の近くだって言ってましたけど、どんなところなんですか?」
「あぁ、俺が昔に家族でキャンプ行った時に見つけた場所でな、川の近くは砂利だけど、そこからちょっとだけ離れれば普通に地面にテントを張れるし、川も大きく歪曲してて深くなってるから海歌も泳げるぞ」
『でも真水だよな? 海水以外で泳ぐのは初めてだなぁ』

 あぁ、それもそうか。……別に海水以外は駄目って事は無いんだよな? まぁ、その辺は着いてみて試すしかないか。

「でも外でのびのびするのは久しぶりだなー。あ、でもキャンプ場が近くにあるなら誰か来るっぽい?」
「そうなっても俺が居るから平気だろ。ポケモンをのびのびさせる為にここにしたんですとか言って誤魔化せばいいんだし」
「それもそっか」

 間違っても司郎に応対させられないしな。ポケモン、ゾロアークに戻るって事は服は脱ぐ事になるし、それで咄嗟に対応を迫られたら……色々不味い。
おっと、バスが町を抜けた。こうなったらもうキャンプ場までそう遠くない。……と言っても、後20分くらい揺られるんだがな。

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「ふぃー、ここか?」
「あぁここだ。どうだ、いいところだろ?」
「本当に他に誰も居ないんですね。……ここまで、道も無かったですけど」

 地道に川を遡って来たからな。子供の頃の俺は、確か兄貴にくっ付いてここまで来て、川を辿ってキャンプ場に戻った気がする。その後でこっぴどく怒られたからよく覚えてる。まぁ、ガキだけで二時間も彷徨ってれば当然だな。

「おーし、そんなら早速!」
「海歌ももう出ていいぞ」
「私も戻っちゃいますね」
「リオ~」
『うん、これなら私も泳げそうだな』

 ……こうして見ると、そうそうたるメンバーだよな。有名で希少なポケモンが四匹、トレーナーにとってはさぞ垂涎な光景だろう。

「さて、それならまずはテント周りを組んじゃうか。心紅とリオルはテーブルと椅子、俺と司郎でテント。海歌は……とりあえずゆっくりしててくれ」
「分かりました」
「よーしやっちゃうぜぇ!」
「リオッ!」
『それなら水の感じでも見てようかな』

 と言う訳で作業開始。一応テントの建て方も練習してきたから問題無い。二人でやればすぐだろう。
サイズは中型の物だから、海歌はボールの中で寝てもらう事になりそうだな。こればっかりは仕方ないし、もう了承してもらってる。本当なら全員で一緒にと思ったんだけどな。
ふむ、四隅の杭もしっかり打ったし、これで多少風が出ても飛ばされる事は無いだろう。雨は降らないだろうから雨除けシートは省略する。

「オッケー良い感じ!」
「だな。心紅! そっちはどうだ」
「準備出来てますよ。こんな感じでいいですよね?」

 うん、持ち運び式のテーブルと椅子がちゃんと並んでる。後は、川原の砂利の上に火を起こす準備をするだけだな。

『水も綺麗だし十分泳げそうだよ。ちょっと深くなってる所もあるけど、リオル君も泳げるし大丈夫だと思う』
「ル~♪」
「何かあっても泳ぎのプロが居るからな。その時は頼む」
『あぁ、任せてくれ』

 海からこっち、のんびり泳がせられる場所なんて無かったからな。海歌も嬉しそうで何よりだ。
あ……しまった、海パン持ってくるの忘れたな。うーんしくじった、俺は川に入るのは諦めるか。
ま、俺は飯なりなんなりの準備をしてからのんびりするか。

「よし、これからは自由行動だ。俺はここで火を起こしたり何なりしてるから、遊んできていいぞ」
「よぉ~し! ん? 零次は川に入らんの?」
「海パン忘れた。それに、たまにはゆっくり日光浴って言うのも悪くないしな」
「あー、俺も持ってくる気無かったから忘れてた」
「ん、そういう事で、こっちは任せて思い切り遊んで来てくれ」
「ん~まぁ仕方ないか。分かった、行ってくるわ」

 そうそう、楽しんでくればいいさ。こうして完全に外でのんびり出来る機会なんてあまり無いんだからな。
さて、俺は火でも起こすか。何を作るにしても加熱する必要はある事だし。

「じゃあ、ご飯を作る準備しましょうか」
「あぁ。……ん? 心紅?」
「なんですか?」
「いや、遊んできてもいいんだぞ?」
「自由行動、ですよね? だから私は、零次さんのお手伝いをさせてもらいます♪」

 ふむ、それは助かるんだが、折角なんだし羽を伸ばしてもらいたいんだがな。
でもおばさんから少し料理を教わっていたらしく、野菜なんかを切るのを受け持ってもらえるのはありがたいか。それなら、俺は火の方をさっさと起こすとするかな。
手頃な石はあるし、それを組んで土台にする。こうしておけば、ここ一箇所で大体の火が必要な事は出来るからな。まぁ、もう一箇所作る事になるんだが。
燃やす物は持ってきてるし、周りから木の枝なんかを拾う事もできる。もう点けてもいいだろう。
ライターで新聞紙に火を点けて火種にして……よし、後は火種から木へと燃え移れば焚き火としては十分だな。
これで昼飯はなんとかなるな。バーベキューだから、火種があれば後は焼くだけだ。専用のコンロなんかがあれば本当は良かったけどな。

「あ、もう火は準備出来たんですね。こっちはもう少しですよ」
「ん、あぁ。……へぇ、上手く切れてるじゃないか」
「そうですか? ありがとうございます」

 大きさも均等だし、食べ易いサイズだ。ふむ、心紅は本当に器用だな。ゲームのコントローラーもこの手で持ってたし。
よし、俺はこれを刺す分だけ串に刺すか。もちろん火の番をしながらだが。
時々川の方を見ると、楽しげにパシャパシャ水を掻く三匹の姿が見える。うん、楽しそうで何よりだ。

「まだ焼くには早いし、準備が出来たらのんびりするか」
「そうですね。ふふ、お料理するのも楽しいですね」
「俺としては苦手な分野なんだがな。まぁ、たまには悪くないさ」
「それなら、やっぱり習って正解でした。零次さんのお手伝い、出来ますから」
「あぁ、助かる。でも、無理に俺に付き合わなくていいんだぞ?」
「私が好きでやってるんですよ。零次さんには助けられてばかりですから」

 そうでもないと思うが……厚意はありがたい。よし、仕込みはこれで終わりだな。
小さめだがクーラーボックスは持ってきた。仕込んだ物はこれに入れておけば問題無い。さて、手でも洗ってくるか。
水場はすぐ傍なんだし、わざわざ持ってきた水を使う事も無いか。ん、司郎が近寄ってきたな。まぁ、支度が終わったかの確認だろうが。

「お? 零次、飯の準備終わったん?」
「あぁ、昼になったら焼くから、腹が減ったら上がってこいよ」
「オッケー」

 さて、俺もこれでのんびり出来るな。火は適度に世話してやればいいし、椅子にでも座って日光浴とするか。

「うーん、これで零次さんも遊べればよかったんですけど……」
「仕方ないさ。どっちみち、誰か一人はここに残って荷物の番やらなにやらしないとならなかったし、それが今回は俺だったってだけさ」
「零次さんは一人じゃないですよ。私も居ます」

 そう言ってこっちに笑い掛けてくる心紅。まいったな、見慣れた所為か、これを見ると安心してる自分が居るんだよ。
夏休みも、後残すところ10日……結局、ここまで心紅は一緒に居る。自分でもう決めてる事だっていうのは知ってるけど、心紅はこれからどうするんだ?
俺としては……やっぱり、一緒に居たい。んだよな、こうして傍に居るだけで安心してるって事は。

「なぁ、心紅。結局これからどうする事にしたんだ? 仲間を追うっていうのも、もうかなり厳しいと思うんだが」
「んー、……零次さんは、私にどうして欲しいですか?」
「え、俺か?」
「はい。聞いてみたいです」

 いや、まさに思ってたけどな? これを言っていいものか……。なんかちょっと気恥ずかしくもあるんだが。
いやでも、嘘付いても結局心のリンクでバレそうだよな。言うしか……ないか。

「……はっきり言って、俺は心紅に一緒に居てほしいと思ってる。こうして話したりしてるだけで安心出来るんだ」
「……え、ふぇぇ!?」
「と言っても、心紅が仲間を追うって言うならそれを応援するが……どうした?」
「え、あ、その、そ、そんなにはっきりと言われるとは思ってなかったんで、びっくりしちゃって」
「どうせ隠しても隠しきれるものでもないだろ? 心自体を繋げられてるんだし」
「そ、それもそうですね。ふぅ……」

 あまり恥ずかしそうにされると、言ったこっちの方が恥ずかしくなるんだがな。

「で、心紅はどうするんだ」
「……迷惑になるかもしれないと思って言い出せなかったんです。でも、零次さんが言ってくれたから決心出来ました」

 一つ深呼吸をして、心紅は意を決した顔になった。

「私も零次さんと……皆と、もっと一緒に居たいです。それが、私の答え。自分で決めた生き方です」

 ……やれやれ、親父達への説明がもう一つ増えたみたいだな。でもまぁ、こうなるってなんとなく分かってたような気もするんだけどな。

「ははっ、もう海歌が居るんだし、父さんや母さんも心紅ならきっと娘みたいに思ってくれるんじゃないかな。ずっと娘が欲しいって言ってたし」
「じゃあ!」
「言っただろ? 心紅が決めた事を俺は応援するって。出来る事があればなんでもするさ」

 帰ったら一個モンスターボールを用意しなきゃならないな。まぁ、心紅になら必要無いかもしれないけど。

「いや~良いですねぇ異種族間の絆って。やっぱり目を付けて正解でしたよ」
「……うぉぉ!? って、あなたはアルスさん!?」
「え? わぁぁ!?」
「あ、別に人の姿にならなくていいですよ~。私も人じゃありませんから♪」

 な、なんで海でアクアボールを売ってたこの人? がここに?! しかも目を付けてたって、まさか!?

「海からこっち、俺の事をずっと見てたとか……そんな事を言い出す訳じゃないですよね?」
「……テヘッ☆」

 うわぁ、プライベートも何もあったもんじゃない。人やポケモンとは何やら次元の違う存在だとは思ったが、その辺は配慮して欲しいもんだ。
今は人の姿をしてるけど、本来の姿は海で見たあれなんだろうな。って言う事は、人よりもポケモン寄りの存在なんだろう。

「はぁ……過ぎた事は置いといて、何でまた俺の前に姿を現したんですか? 今回は心紅にも見えてるみたいですけど」
「はいはい、またボールが必要なんじゃないかな~と思って、スペシャル限定ボールを持ってきた訳ですよ~。どうせ使えるのはあなたぐらいだろうし」

 そう言って、一個のボールを俺に手渡してきた。ふむ、金の竜の模様の入った普通のモンスターボールみたいだな。まぁ、これもただのボールでは無いんだろうが。

「今回はなんとタダ! でもその代わり~、これから私もキャンプに参加したいな~って」
「はぁ、それまたどうして?」
「いやぁ、私もあまり世界の住人達に干渉しないで居たんですけどね? あなた達を見てたら楽しそうだなぁと思って、お友達になるくらいならまぁいっかと思っちゃった訳ですよ」

 軽っ。いやまぁ俺は別に構いはしないんだがな? 悪い存在では無さそうだし。

「あの……零次さんのお知り合いなんですか?」
「知り合いと言えばまぁ、そうなんだが」
「はいはい、アルスと申します。零次さんの使ってるアクアボールを作った者ですよ」
「は、はぁ、あのボールを。それで、今零次さんに渡したボールは一体?」
「それはですね、レジェンドボールとでも名付けましょうか? アクアボールと同じで、竜の加護のあるボールですよ」

 ……いや、ちょっと待て。なんだその加護って。そもそもアクアボールは水タイプのポケモンが捕まえ易いだけじゃないのか?

「今、初耳な単語を聞いたんだが、加護っていうのはどういう事なんです?」
「あ、言ってなかったですねぇ。実はそのボールとアクアボールには、それぞれの力の根源が埋め込まれてるんですよ」

 ん? 勝手にボールが開いた。普通のボールの中を見た事無いが、このボールの中には上の部分に光る石みたいなのが付いてるな。
アルスさんの説明からして、これが竜の力の起源とやららしい。で、これがこのボールに入ったポケモンと使い手に加護とやらを与えるそうな。
何が起こるのかと言うと、ポケモンには何時如何なる場所でも本来の力が発揮出来るようになり、使い手にはその力への耐性が付くとか。

「つまり、俺は水の技を受けても平気って事か?」
「それだけじゃなく、水難なんかを遠ざけてもくれるありがたーいボールですよ。ま、中にポケモンが登録されてないと効果が無いですけど」
「じゃあ、このボールに私が登録されれば……」
「ウィ。あなたの力はたとえ吹雪の雪山であろうと守られるって訳です。もちろん氷の力への守護にもなりますよ。零次さんには、竜の力への守護が発生します」
「はぁ~、こいつはそんなに凄い物だったのか。まぁ、多分戦闘なんて滅多に無いだろうけどな」

 なんにせよ、普通のボールよりずっと居心地が良いのは海歌で実証済みなんだし……。

「なら、いいか? 心紅」
「はい、お願いします。零次さん」

 椅子から立ち上がって、心紅へボールを掲げる。すると、今度は黄金色に輝く光が心紅を包んでいく。
心紅の姿が光に変わって、ボールの中へと入った。……このカチンッて音は元々のボールと変わらないんだよな。

「はい、登録完了&所有者登録完了です!」
「ふぅ、……実感して何かが変わるって訳では無いんだよな」
「まぁそうですね。他の人よりもちょっとだけ運が良くなったーくらいに思って頂ければいいんじゃないでしょうかね?」

 なるほど。それならとりあえず心紅を出すか。基本的に心紅は入れておかなくていいだろうし。
しかし、出し入れするのに黄金色の光っていうのは目立つな……基本的に使わないようにしておくか。

「ふわぁ、とと」
「おっと、大丈夫か?」

 ボールから出た拍子によろけた心紅をとりあえず支えた。

「あっ、だ、大丈夫です」
「ん、あぁ、変な感じはしなかったか?」
「大丈夫でした。でも、ボールの中もここと同じ風景でしたよ。確か、海歌ちゃんは海になってたんですよね? これは?」
「あら? 基本的にそのポケモンの一番居易い場所になるようにしてあったんですけどね? 故障かなぁ?」

 故障って……大丈夫なのか、それ?
ん、心紅が何か考え込んだ後、はっしてもじもじしてる。一体どうしたんだ?
ん、心紅が何か考え込んだ後、はっとしてもじもじしてる。一体どうしたんだ?

「心紅?」
「あ、なんでもないです。それに、そのボールは故障してないと思います」

 じゃあ、心紅がここをそんなに気に入ったって事か? まだそんなに居た訳じゃないんだがな?

「あ、なーる。そういう事ですか」
「何か分かったんですか?」
「いやぁ、これは言わない方がいいでしょー。ねー心紅ちゃん♪」
「うにゅ、あぅ、こ、こっちに振らないで下さい!」

 なんのこっちゃ? でも、言わない方がいいものを無理やり聞くのも悪いか。話したくなったら話してくれるだろ。
とにかく、これでこれから先も心紅と付き合っていく事になった訳だ。親父達に言うのは……ま、帰ってきた時に纏めてでいいか。

「さーてそれじゃあ一段落しましたし、ご飯とかにしないんですか!?」
「うぉ、まぁそろそろ焼き始めてもいいかな。……あ、しまった、一人増えるとなると食材が足りるか?」
「ちょっと厳しいかもですね。司郎さん達は泳いだ後だからお腹減ってるでしょうし……」
「あ、バーベキューの食材ですか? うーんと、こんなもんでどうでしょ?」

 アルスさんが指を鳴らすと、テーブルの上に野菜と魚介が並んだ……これは驚いたな。肉系は結構持ってきたんだが、魚介は少なかったから助かる。

「ってどうやって出したし!?」
「やだなぁ産地直送ですよぉ。野菜も盗んだ物じゃなくて野生化してるのをちょちょいと貰って来ただけですし」
「あ、アルスさんって一体なんなんですか!? こんな事が出来るなんて……」
「あんまり深く気にしないでくださいな。ささっ、それより焼きましょましょ♪」

 もう食べる気満々だな……まぁいいか。焼いてれば匂いに釣られて皆もこっちに来るだろうさ。
しかしまぁ、なんとか魚介を捌くところから始めるか。このまま焼いても美味そうだけどな。

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「うっふぃー、皆で食べるご飯っていうのは楽しいし美味しいですねー」
「え~っと、アルスさんだっけ? この人、どんだけ食べた?」
「まぁ、俺達の食べた分を平均して、それの二倍くらい……」
「見た目細身の女性ですけど、何処に入ったんでしょう……」
『まぁでも、この人? のお陰で海草も食べれたし、私は満足かなぁ』
「リ、リォ……」

 椅子に座ってお腹を擦ってるアルスさん……まさに豪快な食べっぷりだった。皆で分けてたが、焼いた分が本当にみるみる内に消えていったぞ。
とにかくバーベキューは滞り無く終了だ。皆満足出来たみたいだし良しとしよう。
火はとりあえず炭くらいで残っててくれればすぐに火が点くし、一応消しておくんでいいだろう。別に寒くないしな。

「いやぁでも美味かったなー。まさか鯛とかのめっちゃ高い魚まで食べれるとは思わなかったけど」
「ふっふっふー、もっと感謝しちゃっていいんですよー?」
「確かに助かったな。お陰で食事が豪華になったし」
「ですね。そう言えば、司郎さん達はこれからどうするんですか? また川へ?」
「あぁ、それならリオルから零次にリクエストがあるんだった」
「リオゥ!」

 ん? リクエスト? どうしたんだ?

「なんかね、零次の知ってる格闘技を教えて欲しいんだとさ。ほら、前にやってたって言ってたじゃん?」
「あぁ、空手の事か。そんなに教えるような代物でもないんだけどな。それに俺のは若干オリジナルが入るし」
「ほうほう、人が作り上げた無手での戦い方ですか。ちょっと興味ありますね」

 なんだかんだ皆興味有りげなんだな。そう披露する事も無いし、別にやってもいいか。

「それなら基本の型なんか教えて、軽く組み手でもやってみるか?」
「リ~オ~♪」

 よし、それなら早速始めるかな。本当は裸足でやるのが正規なんだが、俺は別に何履いてもあまり気にしない。
基礎理念なんかは……覚えてないから省略。俺自身の理念として三手必殺があるから聞き流してたなぁ。
お次は型だな。といっても、これもそんなに熱心に聞いてた覚えは無い。俺も基本はやって覚えるタイプだから。

「へぇ、結構細かく決まってるんですね」
「ん? あぁ、この型には空手の技や姿勢、技の受け方なんてのも全て含まれてるからな。これを疎かにするかしないかで地力は決まってくる、って教わったな」
「でも、これは自分だけでやるものなんですよね? 相手に相対した時に必要あるんですかねぇ?」
「体が知らない事は咄嗟でも出来ない。ようは、何時でもその動きを体が出来るようにする為の物がこの型って言う訳です」
「あぁ、なるほど」

 リオルも真剣に真似てるし、ポケモンバトルでも応用出来るものだから、これは教えても問題無いよな。急にやりだしたらシロナさんびっくりするかもしれないけど。
よし、これで大体知ってる型はやって見せた。これをどうやって応用するかは、組み手でもって実践するとしようか。

「まずはこんなところだな。これをどう生かすかは、今からやって見せてやるか」
「やって見せるって?」
「文字通りだ」

 リオルは分かってるみたいだな。すっと俺から離れて構えた。

「分かってると思うが、技は使わないでくれよ? ちょっと受けて無事でいられるか分からないからな」
「リォッ!」
「あ、そういう事か。リオルー、頑張れよー」

 俺は、特に構えるって事はしないな。程よく気合いを抜いてる位の方が動けるし、何時でもすぐに動けるような方が何かと便利だろ。
手招きをすると、待ってましたと言わんばかりにリオルは向かってきた。
跳び蹴りを片腕で受けて、軽く掌底で返す。打つっていうより、押すって感じだな。
ほう、切り返しも早いじゃないか。着地と同時に拳打が飛んできた。これは体を捻って避けるか。
リオルの体が流れたところを捉えて、突き出してきていた腕を掴む。そのまま、流れた通りに押してやると俺の後方にリオルは飛ぶ事になる。着地は……大丈夫なようだな。

「いいぞ、どんどん来い!」
「リォォ!」

 ……それからしばらく、リオルとの組み手は続いた。これで身長差がもう少し無ければより面白い組み手になっただろうな。
リオルの打ち込みを受けながら、それをいなしたり返し手を見せたりを俺は主にした。何も攻めるだけが戦いじゃないことだし。
時間は見てなかったけど、大体30分くらいか? リオルの息も上がってきたようだし、そろそろ終わりにするか。
飛び込んできたリオルを抱っこするように捕まえて、そのまま頭を撫でてやる。

「ほい、お疲れさん。今回はこんなもんでいいだろう」
「ル!? リォ~……」
「はー、ずっと攻め続けたリオル君も凄いけど、それを全部返しちゃう零次さんも凄かったです」
「ほんと、零次って格闘タイプのポケモンともう戦えるんじゃね?」
「無茶言うなよ。今回リオルは技を使ってなかったろ? 使われてたら俺だって受けきれたもんじゃないさ」
「いやでも、その受け技の数々は見事でしたよ。人の技というのも馬鹿に出来ませんねぇ」

 ははっ、俺達の組み手はなかなかに好評だったみたいだな。まぁ、なによりだ。
リオルを抱えたまま椅子に座って一休みだな。流石に動きっ放しだったし、リオルも汗掻いてるみたいだしな。
クーラーボックスからスポーツドリンクを取り出してリオルに渡す。俺も同じのでいいか。

『でも零次って凄いよね。強いのに威張らないし、自分よりも誰かの為に動けるし、良い人過ぎだよ』
「褒められてるのか貶されてるのかよく分からん言い方をするな、海歌」
「でも図星ですよねー。ほぼ見ず知らずの私をこんな風にキャンプに参加させてくれたりしてるし、あんまり親切だと周りが心配になっちゃいますよ?」
「それをアルスさんが言いますか……俺だって自分に害のある者にまで世話を焼くつもりはありませんよ」

 それに、こんな笑い話を出来る相手が増えるなら、俺は今のままでいいさ。その方がずっと楽しいだろ。
さて、次は何をするかな。折角遊びに来てるんだ、思い切り楽しまないと損だ。

「ぃよーし、次はこの辺の探検でも行っとく!? 周り森なんだし、見て回るのもありっしょ!」
「別に構わんが、この辺りには何も無いぞ?」
「それなら私はー、心紅ちゃんや海歌ちゃんとお喋りでもしてましょうかね」
『っていうか、私の言ってる事が分かるあんたは一体なんなんだ?』
「ぬふふ、トップシークレットですよ!」

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 コトコトと音を立ててる飯盒の番をしながら、沈み始めた夕日を眺めてる。やれやれ、司郎に振り回されてへとへとになったぞ。
が、奴はまだ元気で、俺の代わりにリオルの相手をしてる。あ、思いっきりボディブロー喰らった。
俺が居るのは新設した焚き火。バーベキューにも使った焚き火の方では、アルスさんや心紅達があるものを作ってるところだ。キャンプの定番って言えば分かるだろう。
ん、心紅がこっちに来た。ってことは、あっちはもう火に掛けておけばいい状態になったみたいだな。

「零次さ~ん。こっちはもうすぐ出来ますよ」
「あぁ。こっちももうそんなにせずに出来るぞ」
「またアルスさんが食べ物持って……というか出してくれたんで、シーフードミックスカレーになりましたよ」
「……本当に便利だよな、あれ」
「はい……本当に何者なんでしょうね?」

 さっぱり分からんな。協力してくれてるし当事者も話したがってないから別に聞かないが。
様子を見てみると、どうやら米の方も炊き上がったみたいだ。我ながら完璧だな。

「わぁ~、美味しそうですね!」
「上出来だろ。カレーはもう少しだったか?」
「そうですね。あ、アルスさん! 勝手に味見しないでください~!」

 ……放置しておいたら全部食べられてもおかしくないからな、俺も飯盒持ってあっちへ行くか。
あ、若干ぼろぼろにされてはいるが司郎達もこっちに来た。いやまぁ、格闘タイプと悪タイプで模擬戦なんかすればそうなるわな。
う~んスパイスの良い香りだ。カレーの方の出来栄えも良さそうだ。

「あぁんもう一口~」
「駄目ですって! これから皆で食べるんだから我慢して下さい!」
「えーん、零次さ~ん。心紅ちゃんが苛めるんですよ~」
「俺に泣きつかんでください。それに、確実に悪いのはアルスさんの方じゃないですか」
「だぁって美味しいんですもん! 我慢反対!」
『まぁ、美味しそうなのは私も思うけどね……』

 このままじゃアルスさんが暴れだしそうだから晩飯にするか。予備用に食器類を一人分多く持ってきたのが幸いしたぞ。

「は、腹減った~。うぉ、すっげぇ良い匂い!」
「リォ~♪」
「食いたかったら準備を手伝えよ」
「ラジャーっす!」

 全員でやれば準備もあっという間だ。六人分のカレーを皿に盛ってテーブルに並べる。スプーンが要るのは五人分だな。
後は各自に飲みたい物を聞いてそれを用意して、と。よし、準備完了!

「それじゃあ皆」
「頂きます!」
「……お、おかわりもありますから、慌てずに食べてくださいね」

 アルスさんが食べ始めたのを見て全員が食事開始だ。忙しないな、まったく。
……うん、美味い! こうして外で食べてるのもあるが、それを考慮しなくても普通に美味いぞ。

「あ~うめ~。これはヤバイ、美味過ぎる」
「えへへ、頑張りましたから嬉しいですよ」
「零次いいなぁ。心紅の事一応ゲットしたって事になるんしょ? これから料理の心配無いじゃん」
「いや意味合いは合ってるが、それだと何か違う意味に聞こえるんだが」

 まるで彼女でも出来たかのような意味合いに聞こえてくるから、発言は考えてして欲しいものだ。
ほら、心紅もどうやらそっちの意味で取ったぞ? 妙な照れ方してるし。
っていうかリオルと海歌とアルスさんは本当に黙々と食べてるな。よっぽど気に入ったんだろうな……。
おっと、もう日も沈んで暗くなってきた事だし、そろそろランプでも点けるか。明かりがあった方がいいだろう。

「おかわり!」
「リオゥ!」
『私も!』
「あ、はい。順番にですよ~」
「海歌、とりあえず口の周り綺麗にしてから喋ろうな……」

 でも、こんな賑やかな夕食も悪くない。これだけでも、今日キャンプに来た苦労に釣りは来るだろう。
談笑しながら食も進んで、用意した分は見事に無くなった。これだけ綺麗に食べれば壮観だな。
因みに一番食べたのは言うまでもなく……。

「あ~、幸せ~」
「もうなんか、ここまで来ると圧巻の食べっぷりだよな」
「全くだ」

 アルスさんである。変に遠慮されるのもよそよそしくなるが、もうちょっと遠慮してくれてもいいんじゃないかと思う。
十分に腹も膨れたし、後は眠くなるまで皆と喋ってるかな。
今日の事を振り返るような話から始まって、他愛の無い話をしながら時間は過ぎていく。ま、暗くなってるから他に何もしようが無いしな。

「でも来てよかったよな~」
「あぁ、なんだかんだ楽しんだよな」
「私も飛び入りさせてもらっちゃいましたけど、いいですね、こういうの」
「アルスさんってこういう事はした事無かったんだったよね? 普段は何してんの?」
「詰まらない事ですよ。一応の部下から報告を聞いたりなんだり、後は暇潰しに零次さんに渡したボールみたいな物を作ったり」
「部下って事は、何かお仕事って事ですか?」
「ん~、まぁそんなところですね」

 俺達の考えてるような仕事ではないんだろうが、苦労してるのは吐かれた溜め息からなんとなく伝わってくるな。

「本当、頭の固い連中が揃ってて楽しむ余裕なんて無いんですよねぇ。今だって私が元の姿に戻ったり真名を言ったりしたら飛んできて呼び戻されちゃいますからね」
「あぁ、それで色々言えなかったって事ですか」
「そうなんですよ。前に他所から来ちゃった同族の方がちょ~っとだけ暴れちゃってからは特に厳しくなっちゃって」
『詳しくは分からないけど、大変そうだね』
「大変なんですよ~。まったく、自分を助けてくれた相手だからって自分の力を分け与えて助けるなんて、自分の管理してるところでやってほしいですよね。おまけに変に話がこじれて、散々私の管理下で暴れるなんてマジ勘弁ですよ」

 相当苦労する事があったみたいだな。それからもしばらくぼやきを聞く事になるとは……薮蛇だったか。
っと、結構疲れてたのかリオルが寝ちゃってるな。先にテントに寝かせてくるか。……あ、海歌も寝てる。まぁ、ボールに戻しておくか。

「ちょっとリオルを寝かせてきますね。このまま寝かすのも疲れるだろうし」
「あやや、ちょっと退屈な話しちゃいましたかね?」
「いや、遊び疲れただけだと思いますよ」

 そっとリオルを抱えて、テントまで運ぶ。開いた寝袋の上に寝かせて毛布を掛けておけば風邪は引かないだろう。
おや、戻ってきたら何やらしんみりした雰囲気になってた。どうしたんだ?

「どうかしたのか?」
「んぁ? いや、夏休みももう10日切ったんだなーと思ってさ。楽しかったからちょっと寂しくなってたところ」
「なんだそんな事か」
「そんな事って、寂しいじゃんよー」

 椅子の背もたれに体重を預けて空を見上げると、そこには星が瞬いていた。あの時、屋上で見たように。

「学校が始まれば、また夢子さんや俊樹と話したり遊べばいい。それに心紅だってこれからも居るし、またちょっと変わった知り合いも出来た。休みが終わったって寂しくは無いだろ」
「……それも、そうかなぁ」
「って、ちょっと変わった知り合いって私ですか!?」
「そりゃあ」
「まぁ」
「酷いですねー、私が変わり者みたいじゃないですか!」

 むくれるアルスさんを見て、なんだかおかしくなった。だって、ここに居るのは変わり者ばかりなんだからな。

「それなら心配要りませんよ。俺は自他共に認める変わり者ですし」
「俺もそうかな。しかも俺は普段は人間のフリしてるゾロアークなんて変わり種だし」
「私も人の姿の像で零次さん達と一緒に居ますし、今日なんてお料理までしちゃいましたしね」
「って、それだとここに居るのは変わり者ばかりって事になるじゃないですか!」
「ま、だから一緒に居るのかもしれませんけどね」

 お互いに顔を見合わせると、本当におかしくなって皆で笑っていた。変わり者かもしれないけど、皆大切な友達だ。

「……それなら、私が増えても……いいですよね?」
「昼飯と夜飯まで一緒に食って何を今更」
「アルスさんももう友達、ですよね」
「当たり前だろ」
「……え、えへへ、ありがとう……ございます」

 少し滲んだ涙を拭って、アルスさんは最高の笑顔で笑った。
心地良い風に吹かれながら、キャンプの夜が更けていく。うん、良い夜だな。

「今日を入れないでもあと9日、まだそんなにあるんだ。まだまだ楽しまないとな」
「そうだな。よし、明日からも遊ぶぞー!」
「私もこっちに残って皆と遊んじゃいましょうかねー♪」
「いやあの、それって大丈夫なんですか?」
「目を盗んで遊びに来ればノー問題です!」

 ……まぁ、その辺りはアルスさんに任せるさ。
それじゃ、もう少し喋ってからゆっくり寝るとしようか。後は、また明日だ。

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後書き!
妙な知り合いが増えていく一行ですが、本人達があまり気にしていないので成り立ってしまっておりますw 本当はとんでもない存在と友達になってしまっておりますが…。
9月も後10日…や、やばい、十月が迫ってきている!? …もう開き直って完結まで書きます! 書きますとも!

次話へは[[こちら>サマーバケーション! ~遥か遠き追憶の遺跡 前編~]]

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IP:119.25.118.131 TIME:"2012-09-23 (日) 23:10:01" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%82%B5%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%90%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%EF%BC%81%E3%80%80%EF%BD%9E%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%97%E3%81%A8%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%81%A8%E5%8F%8B%E9%81%94%E3%81%A8%EF%BD%9E" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; Trident/5.0)"

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