[[女化噺]] - タイトルのように、地の文が落語調であることが特徴で印象的。話し言葉と書き言葉が混淆しても、説明要素が一文の中で整然とまとめられ、ひらがなと漢字をちょうどよく織り交ぜた韻律によって平衡感覚を制御されているので、とても読みやすかった。基本的にこの落語様の語り口で物語が展開され、読者の中で軽妙洒脱な雰囲気が蓄積されていく。以上のことを前提に、読んだ印象を記していきたい。 総評 鶴の恩返しならぬ、化け狐の恩返し。機を織る代わりに、一発決める。僕は官能ジャンルをほとんど読まないし、読んだとしても“そのような”用途で読むことはない。そのため、お詫びの向きには先に謝っておきたいが、女に化けた狐が本性を顕すシーンになった途端、お洒落で垢抜けた文体の色は消え失せて、書割に気づいてしまったかのように興醒めしてしまった。「ショック」という横文字が初登場したのがこのシーンで、「ポケモン」「ナゾノクサ」「ゾロア」「ガーディ」などの固有名詞は仕方ないにしても、こればかりは明らかに浮いてしまっている。またほぼ同時に、狐の台詞も「のです」から「んです」に代わり、忠五郎に本心を打ち明けたあとでも「の」と「ん」の混同がしばしば起きて、狐の喋りが丁寧に感じただけに、後に出て来る「ん」の数だけ不和な印象が浮き彫りになっていくように感じた。「倫理感」という言葉も、この絹織物のような落語調の外向きの文章には内向的すぎて、間違ってナイロンでも混在しているような感覚になった。濡れ場に入ると、文体は流れるような美しい情景の中に感情を託すこともなくなり、濃密で執念深く、拡大視野で膠着している。前者を車窓に例えるなら、後者は重ね塗りした油絵を虫眼鏡で見ているような感覚となる。官能小説と銘打っているので、これはそういうものだと言われれば、そうかというしかないが、あまりの速度変化に思わず笑ってしまった。 物語についてだが、都の女に幻滅した忠五郎と、「忠五郎のいない一生など考えられない」という狐が、お互いの孤独を埋め合うように身体を重ねるという点ではいたく心を動かされた。正直、この孤独について焦点を当てて欲しかった。性交の前か、あるいは最中にでも、その赤裸々な心情を会話文で吐露すれば(たとえば、狐「都はさみしゅうところにございました」忠「そうだろう、都男の心にはいつも空っ風が吹いている。女も同じよ」狐「では、今は?」忠「それを今から確かめるのだ」というように)肉欲的で露骨な印象は隠されて、元の地の文にあった瀟洒な色を取り戻すように思われた。その上でエロスを描ききり、やがて絶頂したのち、孤独感が消えて温もりだけが残れば、落語的な外見の美しさと、性愛の内面的な尊さが両立され、結果として作品全体に統一感が生まれるのではないかと一考するものである。 -- [[水上雄一(Yu1.M)]] &epoch{1612812739,comment_date}; ->>水上雄一(Yu1.M)さん 感想というか分析までしていただきありがとうございます。 ・種族名に関してはかなり悩みましたが、記載しましたね…結果雰囲気を損なってしまったのならやはりそれっぽく変えておくべきだったかと思います。 ・「ショック」は書いたつもりが無かったのでこれはもう弁明の余地もないです…。 ・話全体の纏まりももう少し考えてみるべきでしたね。 時代劇風の物もあまり書き慣れていないのが出てしまったので、また書く機会があれば改善点にしたいです。 あまり官能ものは読まないとのことでしたが読んでいただきありがとうございました。 -- [[COM]] &epoch{1612834206,comment_date};