Writer:[[&fervor>&fervor]] &color(red){*官能小説です。そういった表現がいくつも含まれておりますので、お気をつけ下さい。}; &color(red){*また、この作品は};&color(white){触手、強姦、妊婦姦};&color(red){を含んでおります。駄目な人はお帰りください。}; ---- 「や、やめてください!」 「えー、でもここまで来てやめるってのもないでしょ」 緑色の細長い蛇。その身体から伸びた蔦が、二輪の花を咲かせたサボテンの様な生き物へ伸びている。見ればその生き物の動かせそうな所は全て蔦で封じられており、動けそうにない。 必死に藻掻いてはいるようだが、一度絡め取られてしまったこの状況、抜け出すのは容易ではないだろう。不敵な笑みを浮かべながら、その蔦蛇は顔を宙へ浮いたサボテンへと近づける。 「そういえばマラカッチちゃん。君のお名前聞いてなかったね? 僕の名前は」 「聞いてません! 放して、放して下さいっ!」 日干し煉瓦の家がびっしりと立ち並ぶ砂漠の街。数少ないオアシスの周りには、様々なポケモンが水を、住居を、食物を求めてやってくる。その中には素行の悪い者も少なくはない。 今、こうしてマラカッチを蔦で縛り上げているジャローダもそんな一匹、に入るのか。どう見ても相手は嫌がっているのだが、やめる素振りなどどこにも見えない。 ここは街の中でもオアシスからは随分遠い。しかも家と家との間ともなれば、狭く、薄暗く、滅多にポケモンなどやってこない。おまけにこの辺りの家主は疾うに近くへと引っ越した様子。 つまり早い話が、このジャローダはやりたい放題だということだ。恐らくこのマラカッチもうすうす気づいているだろう。 「まあまあ、悪いようにはしないから。そのうち直ぐ慣れちゃうって」 二本の蔦、その一本がさらに伸びて、マラカッチの足のような部分へ。普段は地面に隠れて見えない大切な部分へと徐々に近づいていく。 まだあどけなさの残る顔立ち。年齢もそれ相応、と言ったところなのか。しかしこのジャローダが何をしようとしているのか、それぐらいは気づいた様で。 もう一本の蔦が、声を出そうと開いたその口を塞ぐ。口の中一杯に入り込んだ蔦の所為で、口を閉じることさえ出来なくなったマラカッチ。 息苦しさで目に涙を浮かべている。その涙をそっと舐め取るジャローダ。マラカッチの顔が若干歪んだ。やはりこんな相手に舐められるのは嫌なのだろう。 「うんうん、やっぱり可愛いね。僕としては君みたいな仔、大好きだよ」 もごもごと何かを言おうとしているが、やはり口の中の蔦の所為で何も喋ることが出来ないらしい。言おうとしているのはジャローダに対する非難の言葉、といったところか。 そんな中、下半身へと伸びた蔦、その先端が入り口の周囲をそっと撫ぜる。散々辛そうな顔をしていたマラカッチの顔が、即座に驚きで硬直した。 まだうら若い彼女のことだ、こんな経験などしたことは無いはず。反応の初々しさにジャローダも上機嫌だ。そしてマラカッチは初めての感覚に戸惑いを隠せていない。 何かがジャローダに突っ込んできたのは、一度離れていた蔦が、再び彼女の入り口へ近づこうとした、ちょうどその時だった。 胴体に勢いよく飛び込んだ黒い影は、続けて蔦めがけて飛びかかり、二本を咥えて一気に"かみつ"いた。鋭い牙のその痛みに、思わず蔦を引っ込めるジャローダ。 空中から地面へと落ちたマラカッチ。そのすぐ側まで、四本足の黒と灰色をしたポケモンがやってきて、荒々しく告げる。 「逃げるぞ! 早く、乗って!」 大きさとしてはどちらも同じくらい。それでも何とかマラカッチは二本の腕で背中へと乗り込む。起き上がってきたジャローダを一瞥してから、再びそのポケモンは走り出した。 あまりにも急な出来事。おまけに路地裏と言うこともあって身体の大きなジャローダでは上手く動けない。地の利のおかげか、どうやら逃げ出すのには成功したようだ。 なおも路地の隙間を疾風の如く駆け抜けるグラエナ。首にかけたポーチが大きく揺れている。この細い路地をきちんと理解している様子だ。 そしてその背中から振り落とされないように、マラカッチは必死でしがみついている。しばらくの沈黙の後、最初に口を開いたのはマラカッチだった。 「あ、あの、ありがとうございました」 「気にすんなって。お前、たぶんこの街初めてだろ? あんな路地裏に迷い込んだら危ないぞ」 その言葉と同時に、ようやく活気溢れるオアシスの周囲へ辿り着く二匹。蒼く光る水が涼しげだ。しかし実際の気温は涼しい、とはほど遠く。 地面から立ち上る熱気に、グラエナは舌を出して息を荒げている。身体の色の所為で太陽の熱も籠もりやすい中、あれだけ走ったのだ、当然だろう。 ぜえはあと息を整えているグラエナの背中から降りて、マラカッチはぴょんぴょんと飛んでグラエナの目の前まで移動してきた。グラエナも座り込んでマラカッチの顔を見つめる。 「あ、さっきはえっと、助かり、ました。その、私、ほんと、こんなおっきな街、初めてで、だから」 「と、とりあえず落ち付けって。オレはリテルト。お前は?」 わたわたと手を振り回しながら途切れ途切れに言葉を紡ぐ。そんなマラカッチの様子に苦笑しながら、グラエナ――リテルトは落ち着いて話しかける。 その様子をみて、ようやくマラカッチも落ち着いたのか。手を一旦下げて、ふう、と大きな息を一つ吐き出して。 「えっと、私はヴィーナ、っていいます。あの、本当にお世話になりました、リテルトさん」 深々と頭を下げるヴィーナ。いいよいいよ、とリテルトは直ぐにそれをやめさせる。こんなに真っ直ぐに謝られて、どうやら照れてしまったらしい。 まだ日は高く、ちりちりと地面を焼き焦がしている。たぶんヴィーナは種族柄平気なのだろうが、リテルトの方はそうはいかない。 まるで足踏みしているかのように、さっきからずっと前足を上げたり降ろしたりしている。よく見ると後ろ足も肉球部分が横に向けられている。 「あ、ごめんなさい、熱い、ですよね」 ヴィーナもようやくそれに気づいたのか、慌てて日陰に跳ねて行く。その後を早足に追いかけるリテルト。声には出さなかったがやっぱり地面が熱いんだろう。 建物の影に改めて座るリテルト。今度はきちんと肉球も地面に付いている。日なたの気温とは雲泥の差だ。時折吹く風がさらさらとその毛をなびかせている。 暫くそこで黙って涼んでいた彼だったが、ふと何かを思い立った様子で立ち上がった。ぼーっと街の建物を見渡していたヴィーナもはっと我に返る。 「やっぱこうしてても暑いのは変わらないな。……そうだ、アイス奢ってやるから、オレに付いてこいよ。ほら、早く」 きょとんとした顔で立ち尽くすヴィーナ。あいす、ともう一度小声で繰り返してみる。何やら考え事のようだが、一体どうしたというのだろう。 リテルトは待ちきれないと言った様子でヴィーナを急かしている。どうやらすっかりアイスを食べたくなってしまったようだ。 ひくひくと鼻を動かしているのは、微かに漂う甘い香りを感じている所為か。ゆっくりではあるが、その匂いの方へとふらふら歩き出してしまっている。 その後をまたしても飛び跳ねながら付いていくヴィーナ。リテルトの歩みはゆっくりなのだが、それに付いていくのも精一杯、と言った感じだ。 段々とその匂いが濃くなっていく。甘いバニラの香り、さわやかな柑橘類の匂い、そんなものが合わさって、独特の濃厚な香りが充満しているそのお店。 リテルトは店番をしているキルリアに何かを告げている。続いてポーチから前足と口を使って器用にお金を取り出して、カウンターに置いた。 代わりに差し出されるのは二つのアイス。コーンの上に乗っているのは黄と赤のまん丸。どちらも既にこの熱さで表面が溶けかかっている。 「パインとイチゴなんだけど、どっちが良い? 好きな方食べてくれよ」 「え、あ、じゃ、じゃあ、赤い方で」 無言のキルリアから、ヴィーナは赤いアイスの乗ったコーンを受け取る。そして受け取ったそれを食べずにしげしげと眺めている。 続いてリテルトももう一つのアイスを前足で受け取る。店先の休憩所、その影に座り込むと直ぐに、リテルトはそのアイスにかぶりついた。 その様子を見て、ヴィーナはようやく手に持っていたアイスを口にした。しかし一口囓ったっきり、動きが止まってしまっている。 ひょっとしておいしくなかったのか、とリテルトは少々焦り気味だ。だが、ヴィーナはぱあっと顔を明るくさせて、急に嬉しそうな表情に。 「これ、おいしい! 冷たいし、甘いし、不思議な感じ……!」 「ひょっとして、アイス、初めてなのか?」 「……うん。私、一度で良いから、こんなおっきな街に来てみたくて、それで、ちょっと頑張ってここまで旅してきたの」 適当に相づちを打ちつつ、アイスをぺろぺろと舐めているリテルト。話を聞いているのかどうかも正直若干怪しい物があったのだが、一応はきちんと聞いているらしく。 「実際はさ、おっきい街ってのも案外怖いもんなんだ。あんな風に、な。それだけは覚えといてくれよな」 「あ、う、うん……ごめんなさい」 分かってくれたなら良いんだよ、とリテルトは少し微笑んで見せる。しかしその口元には幾つも溶けたアイスの跡が。 その様子に、怒られてしょんぼりしていたヴィーナも思わず笑顔に。ヴィーナの口元にも同じくアイスが付いていて、その様子に今度はリテルトが笑う。 溶けたアイスでべたべたになりながらも、二匹はその冷たさと甘さに、しばらくの間夢中になっていたのだった。 &ref(挿絵01.jpg,,noimg,挿絵その1); ---- 「もう夕暮れ、か。ヴィーナ、こんな時間まで大丈夫なのか?」 「え? あ、あ、えっと、ど、どうしよ……」 アイスを食べ終えてからもずっとその場で喋っていた二匹。リテルトが気づいた頃には、日は既に水平線の近くまで落ちてきていた。 オレンジに染まる空を見て、急に焦りだすヴィーナ。その様子からすると、こんな時間まで大丈夫、という訳では無さそうだ。 「……なあ、もし帰れそうにないなら、俺の家に来てもいいぞ。狭いけど、俺は外で適当にぶらついてるから、独りで使ってくれよ。遠慮は要らないから」 暫く考え込むヴィーナ。家を借りるのは流石に申し訳ない、けれども他に頼れそうな所もない、といったところか。少しの間を置いて、その首が縦にこくりと振られた。 じゃあこっちだ、と、大きな通りをすたすたと歩き出すリテルト。その後をまたしても飛び跳ねながら移動するヴィーナ。 夕暮れの砂漠は一気に冷え込みが厳しくなる。日が落ちればあっという間に地面に溜まっていた熱が逃げていくのだ。 そうなる前にポケモン達は皆家に帰ってしまう。寒さに強い一部のポケモン達はそのまま外を出歩くこともあるが、そんなポケモンがこの辺りに住むことも滅多にない。 暗くなる前に家に着いていた方がヴィーナにとっても良いだろうと、そう思ってリテルトも早足で歩いていたのだが。はっと振り返ると、ぜえはあ言いながら跳んでいるヴィーナが。 「あ、ごめん。歩くの速すぎたか?」 そこで立ち止まってリテルトはヴィーナが追いつくのを待つ。マラカッチという種族柄、やはり長距離の移動は苦手な様子。 もしあの時リテルトが助けに来なかったら、例え蔦が無くとも、きっとヴィーナは逃げられやしなかっただろう。自分が居なかったとしたら、を考えて、リテルトは少し怖くなった。 ようやく追いついてきたヴィーナ。今度はリテルトも歩く速度を合わせて、ゆっくりと夕暮れの砂漠を歩いて行く。似たような家と家の間を通り抜けて、辿り着いたのもまた似たような家。 リテルトはポーチから大きめの鍵を取り出して、口を使って器用に鍵穴に差し込んだ。小気味良い音とともにドアが開く。 「わあ……これがリテルトの家? 結構整頓してあるんだね」 中には植物の葉で作ってある簡素な寝床と、水の入った桶、木の実の入ったカゴが。置いてある物が少ない所為か、家の大きさの割にかなり広く見える。 「まあ、置く物もないしな。水だけは汲んできて貰ってるけど」 そう言いながら、桶の水に口を突っ込むリテルト。砂漠に適した身体をしているヴィーナとは違い、やはり身体は渇きに弱いようだ。 ぷはあ、と顔を上げると、口元の毛が水でぴったりとくっついて何とも変な格好に。それを見てくすくす笑うヴィーナと、仕方ないだろ、と照れるリテルト。 アイスも水も、四足のポケモンであるリテルトでは上手く飲み食い出来る物ではない。器用に食べるための手が無いのだから、仕方ないのと言えばそうなのだが。 少しの間そこで考え事をしていたリテルトだったが、やがて家の出口に向かって歩き出した。ヴィーナもそれに気づいて、一緒に行こうと付いていく、が。 「それじゃ、俺は出て行くから。家は好きなように使ってくれて良いし、眠かったら寝たらいいさ」 片前足をそっとドアに掛けるリテルト。木が少し軋む音と共にドアが開く。外の少し冷えた空気が流れ込んできて、中の暖まった空気を急激に冷やしていく。 「そんな、そこまで気を遣わなくてもいいのに……」 「気にするなって、寒いのには耐えられるし。鍵かけるのは忘れるなよ? それじゃ、おやすみ」 ドアの閉まる音、鍵が掛かる音。そこまで確認してから、再びリテルトは砂漠の街へと歩き出す。昼間の暑さはどこへやら、砂を巻き上げる風は冷え冷えとしている。 いよいよ日も沈んで、月明かりに照らされた夜の街はひたすら静か。青白い光に染まる白い煉瓦の家を眺めていると、まるで異世界に来たかのような錯覚を覚えるほどだ。 リテルトももちろん例外ではない。普段絶対に夜に出歩くことなど無かった彼にとっては、全てが新鮮で、興味深く、そして不気味だった。 「勢いでこうなっちゃったけど、やっぱ夜の街って怖いや……あーもうオレのバカ」 ヴィーナに見せていたあの凛々しい姿はどこへ行ったのか。姿形こそグラエナだが、まるで子どものようなその様子。 ぶつくさ言いながら歩いているのも、きっとこの夜の街が怖いからなのだろう。風が砂を大きく巻き上げる度に一瞬ビクつく彼。 慣れない夜道を当てもなく彷徨っていると、やがて街の大通りの端っこまで来てしまった。まだ夜は長いのだが、ここからどうするかは考えてなかったらしい。 「路地裏は怖いけど、今夜の寝床、探したいなあ……お化けだけは勘弁してよね」 恐る恐る、今度は大通りから家と家の間をするりと抜けて側道に入っていく。入り組んだ路地だが、探せば時折空き地も見つかったりする。 リテルトもそれが目当てというわけだ。空き地ならある程度見通しもよく、安心して眠れる。確かにそれは間違っていない。 ただし、問題はそこに至るまで。そう、路地裏を歩くというのは必ず危険が及ぶ。昼間でさえ、無法者に捕まったりすることもよくあることは、彼も知っていたはずだ。 何かに絡めとられ、リテルトの身体が急に宙へと浮き上がる。口元もその何かに塞がれて声は出せない。必死に藻掻いているが、固く絡みついたその何かが緩む様子はない。 そのまま滑るように運ばれて辿り着いたのは、誰も居ない、かつての住宅地が在った場所。つまるところ、昼間来た場所と似たような場所だ。そこでようやく彼の口は解放された。 しかし今度は強烈な締め付けが彼の身体を襲う。どうやらその「何か」は緑色の蔦らしい。リテルトには見覚えのあるその二本の蔦、そして目の前に現れたそのポケモン。 「あ……ぐ」 「僕の邪魔するなんて、犬っころにしては大した威勢だったねえ、思わず気圧されちゃったけど」 昼間と同じ、細長い緑色の身体。しかしその目は昼間のように優しくはない。明らかな怒りをそこに宿して、縛ったリテルトを睨み付ける。 「は、なせ」 リテルトも威勢だけは負けていないが、その蔦の締め付けは凄まじく、とても実力では敵わない。左後足の締め付けが一層厳しくなると、リテルトはとうとう悲鳴を上げた。 「やだね。君みたいなガキにやられて、ちょっと僕は腹が立ってるんだ。そうだ、どうせならこのまま、足の一本や二本無くしてみる? いや、それだけじゃなくって、命も、かな?」 ニタリ、と笑うその姿はリテルトにとってまさしく恐怖でしかない。宙につり下げられたまま、何も出来ずに甚振られ、死んでいく。そんな光景を想像した彼は叫ぶ。 「やっ、やめろ! やめ、やめて、ください……お願いだから、オレ、まだ死にたくないっ、死にたく、ない、よぉ」 威勢の良さが消えていき、声にも力が無くなって、最後に残ったのは涙だった。まるで子どものよう、というよりも、彼は本当に子どもなのだろう。 それを待っていたかのように、ジャローダはふっと蔦の力を緩めた。もちろん逃げられない程度にはしてあるようだが、少なくとも痛みは無くなったらしい。 リテルトも蔦の力が弱まったことに気づいて、泣きじゃくるのをやめた。訳が分からないと言った様子で、呆然とジャローダの方を見つめる。 「死にたくないならさ、あの仔、もっかい連れてきてよ。そしたら許してあげる。言っておくけど、君の家は分かっちゃったから、逃げても無駄だよ?」 笑うジャローダの姿。体中に這わされた蔦。そしてこの絶望的な状況。お金も持っていない、食料もない。今家に帰れなくなれば、待っているのは死だ。 死にたくなければどうするべきか。答えは出ていても、やりたくないという気持ちはある。しかし、自分の命を投げ出してまで他の命を救うだけの心の強さを、子どもの彼が持ち合わせているはずもない。 下を向き、暫く考えた後に、リテルトが出した結論。仕方ない、仕方ないんだ、自分にそう言い聞かせつつ、彼は目の前のジャローダに向かって。 「わかり、ました」 「……よく言えました。君は中々利口なようだね。生意気なだけかと思ったけど、少し見直したよ。それじゃあ、明日のお昼、ここで待ってるからね」 優しい動きで地面に降ろされるリテルト。最後にもう一度微笑んでから、ジャローダはリテルトを解放して、薄暗がりの路地の奥へと消えていく。その様子を見送った後、リテルトはその場で崩れ落ちた。 悔しい、後ろめたい、でも怖い。自分が頼れるお兄さんであろうとしたばっかりに。少しかっこつけて、背伸びしたばっかりに、こんな事になってしまった。 幼い心はその多大な感情を処理できずに混乱したまま。リテルトの顔を支える地面が、湿り気を帯びてはまた乾いていく。無尽蔵な渇きに、止まらない涙が吸い込まれていく。 彼はそこに突っ伏したまま起き上がらない。この夜が永遠だったらいいのにと、有りもしない幻想を抱きながら、その意識はゆっくりと闇に飲まれていった。 &ref(挿絵02.jpg,,noimg,挿絵その2); ---- 太陽は既に昇り始めていた。当然いつまでも砂の上で寝ていられるほど、リテルトは熱さに強くない。徐々に温度を増している砂から身体を離す。 今朝起きたらそこは自分の家の寝床だった。そうだったらよかったのだが、残念ながら昨日のことは全て現実。忘れることの出来ないあの顔が頭を過ぎる。 やはり約束を破ることは出来ない。残された道はやはり一つ。ヴィーナをあのジャローダに差し出す他は無かった。 重い足取りで路地裏を後にする。大通りの賑やかな声も、道行くポケモン達も、今日は何もかもが楽しく感じられない。 いつもならこうやって賑わう大通りを歩くだけで心が沸き立つというのに、沈んだ気持ちは一向に浮かび上がることはなくて。 ふらふらと魂の抜けた抜け殻のように大通りをすり抜けていく。いつもの道をいつもの様に歩くだけだが、それがリテルトにはとても長い道のりに感じられた。 ようやくいつもの家の前へと戻ってきた。いや、戻ってきてしまった。ヴィーナを起こして連れて行かなければいけない。リテルトはまだ悩んでいた。 ヴィーナがどうなってしまうかは想像に容易い。けれどもしヴィーナを助ければ、助からなくなるのは自分。二度と家には戻れないし、街にいるのでさえ危険だ。 かといって砂漠で生きられる訳でもないし、他の街にいけるほどの体力はまだ無い。せめてもう少し成長していれば、あるいは逃げられたかも知れないが。 心の中でヴィーナに謝ってから、いよいよ扉をノックするリテルト。暫くすると家の中から物音が聞こえてきた。どうやらヴィーナは今まで寝ていたらしい。 がちゃがちゃと扉の錠を外す音。外れたのを確認してから、扉を押して中へと入るリテルト。昨日と同じ、元気な姿のヴィーナがそこに。 「あ、おはよう、リテルト。昨日はありがとね、リテルトは暑くなかった?」 「ん、ああ……」 気の抜けた返事、ヴィーナには寝ぼけている風に映ったのだろうか。寝足りないならここで寝たら、とリテルトに問いかける。 しかしリテルトは首を左右に振った。ここで寝てなんていられない、出来ることなら寝ていたいが、自分の安全の為には、そんなこと出来るはずもなかった。 昨日の出来事がまたしても頭の中に。目の前のヴィーナの笑顔を見る度に胸が痛むが、あのジャローダの凍り付くような笑い顔に抗うことなど、到底出来なかった。 「なあ、まだ帰るにも早いだろうし、少し俺と散歩でも行かないか? 案内するから」 「うん、行きたいな!」 無邪気な笑顔が心を揺さぶる。リテルトの表情が曇る理由もヴィーナには分からない。何だか元気が無さそうなリテルトを少し心配しているらしい。 そんなリテルトを元気にするためにも、まず自分が元気を出そうとヴィーナは張り切る。そんなヴィーナの心掛けがリテルトを苦しめていることなど、気付く由もなく。 じゃあ付いてこいよ、とリテルトはまた扉を押して外に出ていく。その後を今度は扉を開けながら追うヴィーナ。鍵をかけることは忘れない。 すっかり砂漠はお昼の時間に。日もかなり高くまで昇り、いよいよ暑くなってきた砂漠の大通りでは、朝以上に皆が活気づいていた。 ポケモン達が手に持っているアイス、貴重な氷を切り売りしているポケモン、カラフルな木の実が所狭しと並んでいるお店、とヴィーナの目はあちらこちら。 リテルトはそんなヴィーナの様子も気に掛けず、指定された場所へと急いでいた。あまり遅くなれば、怒られるのは自分。それは重々承知していた。 「ヴィーナ、あんまり横道逸れると迷子になるぞ」 「あ、うん、ごめん……なさい」 やっぱりリテルトの様子が何かおかしい。ヴィーナはリテルトを不思議そうに見つめるが、その目はリテルトをまだ完全に信用しきっている。 無垢な瞳、純潔な身体。ますますリテルトの中では躊躇いが生じる。けれどもあの約束を破れば、待っているのは自分の死。 横道に入ると一気に道幅が狭くなる。昨日の出会い、あの事が脳裏に過ぎったのか、ヴィーナも少し不安そうな表情に。 しかし今はリテルトがいる。リテルトが何も無しに危ない場所に入るわけはない、とヴィーナは黙ってリテルトに付いていくことにした。 さらに道は細くなる。入り組んだ住宅街、けれども誰かが住んでいる様子はなく。もしここで悪い奴らに捕まっても、きっと助けは来ないだろう。 昨日はそんなところをたまたま通りかかったリテルト。子ども心に探検していたらあんな場面に遭遇して、成り行きでこんな事になってしまった。 リテルトは思う。あの時は自分のことが得意で仕方なかった。通りかかって大正解だった、そう思ったけれど。やっぱりあれは間違いだったんじゃないか。 その所為で、自分もヴィーナも、どちらも不幸になってしまうんだから。それならいっそ、自分がヴィーナと出会わなければ。 遂に辿り着いたのは昨日の場所、昨日の寝床。鼻の良いリテルトには直ぐに分かった。もうあいつはこの場所にいる。もう……逃げられない。 「ヴィーナ……ごめん」 リテルトの呟きとほぼ同時に、しゅるりと二本の緑色が伸びてあっという間にヴィーナの身体を巻き取る。その感覚に覚えがあったヴィーナははっと首の向きを変える。 そこにいたのはあの緑色の蔦蛇。あのときと同じ、張り付いたような笑顔でヴィーナを見つめる。ヴィーナはまだ状況が飲み込めずに二匹を交互に見ているだけ。 「よくできました。いやー、聞き分けの良い仔でほんとに助かるよ、ありがとう、坊や」 顔色を全く変えずに、今度はリテルトの方へと振り向くジャローダ。リテルトは俯いたまま顔を上げようとはしない。ヴィーナに合わせる顔などどこにもなかった。 「リテルト……嘘、でしょ? ねえ、ねえ!」 ヴィーナは叫ぶ。そんなはずはない、だってあの時助けてくれたのは紛れもなくリテルト。なんでそのリテルトが、今度はジャローダに協力しているのか。 混乱するヴィーナを余所に、ジャローダはリテルトにさらに近づく。怯えているのか、びくり、と身体を震わせるリテルト。 「さ、君の役目は終わり。もう帰っても良いよ、お疲れ様。それとも、大人のお勉強してから帰る?」 大人のお勉強。意味は分かっている。けれどヴィーナのそんな姿を見ていられるはずもなく。リテルトは何も言わず、元来た道を走り去ってしまった。 角を曲がって見えなくなるリテルトの姿。邪魔者はいなくなった、とばかりに、嬉しそうにヴィーナの方へ向き直る。ヴィーナはまだ動こうとはしない。 「そんな、リテルト……どうして」 あまりのショックに抗うことも忘れているらしい。ヴィーナの目からは涙が零れた。それを何の躊躇いもなく舐め取るジャローダ。 舌の生暖かさでようやく今の状況を思い出したのか、ヴィーナはまた暴れ出す。しかしどれだけ頑張っても、手や下半身の蔦は解けない。 「まあまあ、そんな暗ーい気持ちも吹き飛ばしてあげるから、安心しなよ。さあ、改めて自己紹介だね、ヴィーナちゃん」 「やめて、放してよ!」 顔と顔が向き合う。ヴィーナは今しかない、とばかりに口を開いて"タネマシンガン"をその顔に打ち込もうとする、のだが。 発射直前、下半身に巻き付いた蔦の先端が、ヴィーナの敏感な場所を撫でた。いくら幼いとは言え、もちろんそういう機能はしっかりと発達している。 となれば当然返ってくる反応もそれなりで。思わずビクンと身体を反応させたヴィーナ。力が抜けた所為で、せっかくのタネマシンガンも不発に終わる。 「さて、無駄だって事は分かってくれたかな。僕の名前はスペット。これから君が虜になる雄、だよ」 そしてヴィーナの身体が地面に平行に。下半身の見えなかった部分がスペットの目の前に晒される。固く閉ざされたそこは、まだ幼さを感じさせる物だ。 絶望と羞恥。リテルトに裏切られ、逃げることも適わず、さらにはこんな屈辱まで。青い空をぼーっと見つめるヴィーナの思考はほとんど止まっていて。 後に残った悲しみと悔しさが、頬を流れる涙へと変わって零れ落ち、乾いた地面を潤していく。昨日のリテルトの涙と同じように。 &ref(挿絵03.jpg,,noimg,挿絵その3); ---- 「あー、やっぱり全然濡れてないね。暫く慣らしてあげないと」 本来雄を受け入れるはずのその部分は閉ざされたまま。触れば反応するものの、ここに何かを押し込むなどまだ到底無理だろう。 流石のスペットもそこまで鬼ではないのか、あるいはただの気紛れか。優しく周りを蔦で撫でながら様子をうかがっている。 しかしどれだけ刺激を与えても一向にヴィーナの雌に変化は訪れない。ヴィーナ自身も喘ぎ声一つ上げることなく空を見つめたまま。 スペットは蔦の少し膨らんだ先端を軽く押し込んでみるのだが、やはり入らない。やれやれ、と言った表情で一つ大きくため息をついた。 「予想通り、だけどここまでとはね。下手じゃないはずなんだけどなー……まあいいや」 再びヴィーナを起こして、顔と顔を合わせる。目の焦点は相変わらずどこを向いているのか分からない状態。そんなヴィーナにスペットはウインクを。 目の前で弾ける光。その効果をヴィーナが理解する頃には既に遅く。何故だかこの蔦蛇を受け入れたくなって、好きになって、おかしくなって。 「それじゃ、改めて始めようか」 そう言うとスペットはヴィーナの唇を奪う。その行為を拒むどころか、嬉々として受け入れるヴィーナ。入り込んでくる長い舌に自身も舌を絡ませて応える。 お互いの唾液が触れ合う音、舌と舌が擦れる音。その音に興奮を覚えながら、二匹のやりとりはさらに激しい物へと発展していく。 長い長い接吻から一度唇を離すとそこに銀色の糸が。重力に沿ってぽとりと落ちる一滴。すっかり虜になったヴィーナを見てスペットはほくそ笑む。 再び宙に寝かせる体勢にしても、今度はヴィーナも抵抗しない。寧ろ何かを期待するような眼差しでスペットの方を見ている。 気持ちの変化は身体にももちろん影響するのだろう、隠されていたその部分も今は幾分か緩くなっていて。蔦を周りに這わせるだけでヴィーナの身体がぴくりと反応する。 「気持ちよかったらきちんと言ってね? 素直な方がやりやすいし」 「うん……」 惚けた目はスペットに釘付け。綻ぶ顔に今度はスペットが近づいていって、もう一度深い口づけを。もちろん下の口に蔦を這わせることも忘れない。 荒くなる息を吐き出す術を失ったヴィーナは若干息苦しそうだ。それでも入り込んでくる舌に必死に応え、今度は自らも相手の口の中へ入り込もうと。 だがそれは唐突に終わる。蔦が遂に秘部の中へと入ってきたのだ。その刺激を堪えることが出来ずにヴィーナはびくり、と震えた。 「やっ、あ……あっ」 嬌声を惜しげもなく吐き出して、心も身体も素直に。スペットに言われた通り、一切我慢せずにその快感を全身に味わう。口元が笑っているのも快感の所為か。 暫くそうやって蔦による刺激を受けていると、次第にヴィーナの雌がしっとりと湿り気を帯びてくる。さらに少し奥へと蔦を入れれば、蔦と割れ目との隙間からねっとりとした液体が。 くちゅ、くちゅ、と秘部が擦れる音も水気を帯びて淫猥に。当然ヴィーナは恥ずかしいのだが、快感に悶えるので精一杯と言った様子だ。 すっかり解れたその部分はもはや蔦が無くても開いたまま、何かを求めてひくひくと震えている。蔦ではなく、もっと太くて長い何かを。 けれどもスペットはまだ焦らす。蔦を抜き、今度は自分の顔をその場所まで持っていく。間近で見られている、その状況にヴィーナは何故か興奮していた。 「見てるだけなのに随分と動きが激しいね。でもまだだよ、お楽しみは最後」 そういうとスペットはそのどろどろの割れ目に舌を這わせた。少しざらざらとした、蔦とはまた違う感触。荒い息と震える身体がヴィーナの返事だ。 さらに舌は少し開いた割れ目の中まで入っていく。熱くとろっとしたその内壁を余すところなく舐めていく。繊細で的確な動きに身を捩らすヴィーナ。 「ふあっ、あ、ん、ああっ」 小さな豆もいつの間にか張り詰めていて。舌で中をかき回しながら、スペットは蔦の先端をそこまで持ってきて、執拗に擦ってみた。 「やああぁぁぁっ!」 入り込んだ舌を締め付けるヴィーナの秘所。とろとろと溢れる愛液。絶頂の余韻に浸るヴィーナの顔はとても幸せそうだ。スペットはそこで一度舌を抜いた。 気付けばスペットの雄もすっかりそそり立っている。蔦蛇、と言うだけあって根元で分かれるようにして二本の雄が。大きさも身体相応、といったところか。 「流石にイって直ぐは辛いでしょ? だから、今度はヴィーナが僕に奉仕する番。いいよね?」 そう言うとヴィーナの身体をぐるんと回して、顔を雄の目の前にまで持ってくる。手を縛っていた蔦を離すと、言わずともヴィーナは其の手を二つの雄に添える。 「……うん、大丈夫。スペットの、だもんね」 ヴィーナの口が二本の雄のうちの片方を咥える。もう片方には両手を添えて、上下に動かす。初めてとはいえ、やることはどうやらきちんと理解しているらしい。 ぎこちない動きではあるものの、それなりの刺激はあるようで。そそり立っていた雄がさらに少し大きさを増していく。唾液を絡めて雄を頬張るヴィーナの顔はすっかり惚けていて。 一本ならず二本ともを咥えて、舌で舐めながら顔を動かす。ぐちゅぐちゅと鳴る音が次第に加速していく。スペットの息は次第に荒く、早いものに。 これ以上は不味い、スペットはそう判断して、一度ヴィーナを雄から離させた。唾液と先走りに濡れた二本の雄を、物欲しそうに見つめるヴィーナ。 何が言いたいかもよく分かるし、どうせ自分もそうするつもりだ。だが、それでも敢えてスペットはヴィーナに問いかけた。 「さ、これからどうして欲しいのかな? いってくれないと分かんないな」 途端に恥ずかしがるヴィーナだが、やはりここまで焦らされればもはや本能を止めることも出来ず。少しの躊躇いの後、スペットに顔を向けたまま。 「スペットの……その、それが……ほしいな」 「それってなにかな? ほら、恥ずかしがっても仕方ないし」 「スペットの棒を、その……私の、割れ目に、入れて……くだ、さい」 「よく言えました。それじゃ、いくよ」 今度はスペットの肉棒がヴィーナの秘所へと近づいていく。嫌がる様子もなくそれを心待ちにするヴィーナ。すっかり濡れた二つが触れ合い、大した抵抗もなく結合していく。 蔦で大分慣らされたおかげか、一本なら割と余裕を持って受け入れられるようだ。もう一本は外に出したまま、ヴィーナとスペットの身体に挟まれている。 「ヴィーナの初めて、もらうからね」 少し閊えを感じる部分。力を込めてその部分を破っていくスペット。痛みに口をぎゅっと食いしばって耐えるヴィーナ。割れ目の隙間からは多少の紅が流れた。 ヴィーナを気遣ってか、その後スペットは暫くヴィーナを抱き寄せて深い口づけを。それに応えながら、じっくりとスペットの雄の感覚を味わうヴィーナ。 暫くして、ようやくヴィーナも落ち着いたのかスペットを見て軽く頷いた。お互いに軽く微笑んでから、スペットは肉棒が外れないぎりぎりまでヴィーナを浮かせる。 そして一気にヴィーナを降ろせば、肉棒が中で擦れて莫大な刺激を。堪らずヴィーナは声を上げた。しかしそれは痛みではなく、純粋な快感によるもの。 そのまま遠慮無く何度もヴィーナを動かして、荒々しく事を進めるスペット。その刺激にただただ声を上げて善がるヴィーナを見て、笑っている。 「やああっ、あっ、あ、ふああっ、っあ、はぁ、んっ、ああっ!」 がくがくと震え、二度目の絶頂を迎えるヴィーナだが、その刺激は止むことがない。スペットの限界はまだ訪れていないようで、それを目指してひたすらヴィーナを突いていく。 どうやら一本だけでは刺激が物足りないらしい。スペットは意地悪く笑いながら、ヴィーナの動きを一度止めて、自らの雄を蔦で調整し、二本をまとめてヴィーナに突き込んだ。 「一本じゃ物足りないでしょ? これならどう、かな」 声にならない声を上げるヴィーナ。痛い、と言うよりも気持ちよかったのか。荒い息と潤んだ瞳、そして何より少し嬉しそうな顔。 またもや上下の動きが再開される。おまけに蔦でヴィーナの秘所の突起を弄る。そんな刺激に、慣れていないヴィーナが耐えられるはずもなく。 「きも、きもち、いい、よぉっ! あああっ、あぁ、あああっ!」 絶頂を迎えているのか居ないのか。連続した快感で既に何度もイっているのだろう。だがそれでもこの行為は終わらない。終わりが近づいているのは確かなのだが。 スペットはさらにペースを早める。荒くなってきた息、震える肉棒。ヴィーナも中で雄が震えているのは感じているようで。肉棒への締め付けがさらに強まっていくのは本能なのか。 「そろそろ、出す、よっ!」 「う、んっ、あっ、だ、だしっ、てぇ、うああああああっ!」 びくん、とスペットが震えた。最奥まで突き込まれた肉棒から、ヴィーナの中に熱いものが注ぎ込まれていく。その感覚でヴィーナもまた絶頂を迎え、それを搾り取ろうとひたすら締め付けを繰り返す。 初めての快感が強すぎたのか、涎を垂らしながらヴィーナは呆然とどこかを見つめている。気を失っては居ないようだが、脳が考えることを忘れているような、そんな様子。 スペットは満足そうに雄を引き抜き、注いだ子種が零れないように蔦で蓋を。ふう、と一息つきながら、ヴィーナを連れてどこかへと立ち去ろうとするのだが、ふと立ち止まってくるりと振り向く。 見て分かるほどに四本の脚を震わせながらもスペットを睨み付ける、灰色の毛を纏ったポケモン。あの時の、とスペットが思う間も無く。リテルトが爪を立ててスペットに飛びかかってきた。 &ref(挿絵04.jpg,,noimg,挿絵その4); ---- スペットの無防備な身体めがけて振り下ろされた爪は、そのまま空を切って砂地へと刺さる。自由に曲がる身体を生かして、狙われた部分だけを的確に凹ませて避けたらしい。 外したと分かるやいなや、止まることなくリテルトは直ぐ二撃目の準備に入る。突いた前足を軸にして振り返りつつ着地、今度は頭からの"とっしん"を試みようとして……止まった。 「戻ってくるだけの度胸、よくあったね。けど君、今の状況分かってる? 君はこの仔を傷つけたくないだろうけど、僕はどうだっていい。死にさえしなければ、ね」 リテルトとスペット、その間に挟まれるようにして浮かんでいるヴィーナ。まだ惚けたまま悲鳴一つ上げていないが、身体を締め付けている蔦は徐々に食い込みを強くしている。 命を奪う気は無いようだが、傷つくことは厭わないらしい。もちろんヴィーナを傷つけたくないリテルトは止まるしか無く、歯ぎしりをしながら目の前の蔦蛇を睨み続けている。 「この……っ」 ヴィーナを盾にしながらどんどんと近づいてくるスペット。リテルトは考える。このままじゃ、ヴィーナが助けられないだけじゃなくて、自分の命まで。 僅かなスキを狙おうにも、相手はかなりの手練れ。まだ幼いリテルトが本来敵うような相手ではないし、相手も今度は油断の一つもしてくれていない。逃げたほうが良いのは分かりきったこと。 「あーあ、せっかく見逃してあげたのに、また正義のヒーロー気取り? あの時は賢かったのにさ、一時の感情に振り回されて……馬鹿だなあ」 「そうかもしれない。でもやっぱ……このまま放っておくなんて、嫌なんだ!」 ヴィーナという壁が横へと消える。リテルトが見上げる先には、冷たい目をした蔦蛇の顔。いつの間にかヴィーナを縛る蔦は一本だけになっていて、もう一本はリテルトの身体のすぐ側に。 しまった、と思った頃には既に遅く。絡み付く蔦に為す術もなく持ち上げられたリテルト。そのまま思いっきり締め上げられる。体力を根こそぎ奪っていかれそうな"しぼりとる"攻撃。 声さえ出せず、掠れた音だけが喉の奥で鳴っている。しかしスペットは一切容赦せず攻撃を続ける。高く持ち上げたリテルトの身体を、今度は地面に勢いよく"たたきつける"。 止めとばかりに振り下ろされた蔦には"どくどく"が。蔦の衝撃の所為だろうか、"どくどく"を受けた部分の灰色の毛にはうっすらと黒紅色が滲んできている。 「かっこいいなあ。かっこいいけど、それじゃあお姫様は取り戻せないねえ。……ガキの癖に、あんまり調子に乗らない方が良いよ」 「あ、ぐ……」 これだけ痛めつけられてもまだリテルトは立ち上がる。毒も回ってきたのか、身体を持ち上げるのもしんどそうだ。そんな様子を嘲笑うかのように、スペットは蔦を一振りする。 大きく吹き飛んで、空き地を囲う塀に激突して崩れ落ちるリテルト。崩れた塀、その一部には血の跡がべっとりと付いている。なかなか起き上がってこないリテルトに向かって、真顔のスペットは近づいていく。 「で、改めて聞くけど、何しに来たの? 何やってるの? ……邪魔なんだよね」 ほぼ真上からリテルトを見下ろすその顔は、さっきまでの飄々とした性格からは考えられないほど鋭く、怖く。やっとの事で顔を上げたリテルトも、その顔には流石に怯まざるを得なかったようで。 「これで分かった? 君は僕より弱い。命を大切にしなかったのは君の方だから、自業自得だけど。……それじゃ、毒で苦しみつつ、せいぜい残り時間を楽しむことだね。永遠にバイバイ、リテルト君」 ヴィーナはまだメロメロが効いているのか、ぼやーっと空を見上げたまま動かない。完全にリテルトの負けを確認したスペットは、くるりと背を向けて細い道へと消えていこうとする。 「……ま、て」 「何? まだ何かあるの? ……死に損ないの癖に。なんだったら、今すぐ楽にしてあげてもいいけど?」 傷だらけの身体で立ち上がるリテルトの姿は、まさしく正義のヒーローのよう。そんな姿が気にくわないのか、スペットは苛立ちながらまたリテルトの方へと振り向いた。 「正義のヒーローになんてなるつもりは無い。……ただオレは、ヴィーナを助けたい。それだけなんだ! だから、負けられないし、まだ……負けてない!」 「ふーん……あっそ、じゃあ残念だったね。君の冒険はここで終わり。さよならだ」 一本の蔦が高く伸ばされ、それが鋭く振り下ろされる。もちろんその下には、傷だらけのリテルトの姿が。しかしリテルトは近づいてくる蔦をその場でじっと見つめたまま動かない。 とうとう叩きつけられた蔦は砂埃を巻き上げる。だがその蔦は地面を抉ってはいるものの、肝心の標的はそこには居ない。にやついていたスペットの顔が一瞬で険しい表情に切り替わった。 油断はしていなかった。いや、全力だったなのに、外すなんてあり得ない。こんなガキに、一体どうして避けられたんだ。そんな焦りがスペットの顔にも表れていた。 「がっ、あぐ……っ!」 ヴィーナを掴んでいる蔦、その根元に鋭い痛みが走る。力の抜けた蔦からするりとヴィーナが抜け落ち、砂の上にドサリと落ちた。その衝撃でヴィーナもようやく我に返った様子。 状況の飲み込めていないヴィーナと、痛みに呻くスペットの間には、ぼろぼろのリテルトが立っている。その眼差しは子どものものとは思えないほど真剣で、鋭く。 「この、ガキが……!」 見れば、噛みつかれた部分が完全に凍り付いている。これでは蔦を動かすことも出来ないだろう。事実、そちら側の蔦はだらりと垂れ下がっていて全く動いていない。 もう一方の蔦がリテルトへと伸ばされるが、それを難無く避けつつ今度はスペットに直接突っ込んでいく。胴体を的確に捉えた"とっしん"を受けて、スペットは塀まで吹き飛んだ。 砂が巻き上がり、視界を覆う。ちらりと見えた影に向かって、起き上がったスペットは蔦を伸ばしたが手応えはない。影ももうそこにはない。右か、左か、それとも上か。見渡しても影は見えない。 突如、スペットは胴体に焼けるような痛みを覚えた。ぱちぱちと音がしているのは何か。自身の身体に火が付いている、そして火元は深く食い込んだリテルトの牙。 「ぐあああああっ、あ、ああっ、うあああっ!」 スペットと言えども、自分の身体に火が付いてまで冷静では居られない。そもそもジャローダという種族にとって、炎は恐ろしいもの。それが直ぐ間近に迫っているのだ、無理はない。 牙を抜いて離れたリテルトに、怒り狂ったスペットの蔦が襲いかかる。しかしその一本がリテルトの身体を捉えることはなく。逆にその蔦の根元に向かって"こおりのキバ"で食らいつく。 "ほのおのキバ"を食らった部分とその周りは焼けただれている。牙自体もそれなりに深く食い込んでいた所為か、出血も思った以上に酷い。それでもまだスペットは襲いかかってくる。 胴体で直接突っ込んでくるスペットに、真正面からやはり突っ込んでいくリテルト。いくら相手が弱っているとはいえ、大きさから考えれば、リテルトが勝てるはずはないのだが。 素早く身を横へと逸らし、無防備なスペットの胴体に横から"ふいうち"をたたき込む。崩れ落ちた蔦蛇の胴体が再び起き上がることは無く。それを確認して、リテルトはようやく緊張状態を解いた。 それと同時に、リテルトの身体も崩れ落ちる。"はやあし"という自分の身体の特性、それを活かしたまではよかったが、ここから家まで戻るだけの体力はもう残っていないらしい。 「リテルト……」 「ヴィーナ、ごめん。本当に、ごめん。オレ……」 ゆっくりと近づいてくるヴィーナの姿。まだ秘部からは雫が溢れている所為か、点々と地面が濡れている。ヴィーナ自身も、自分がさっきまで何をされていたかはよく分かっているらしい。 その顔は笑っているわけでもなければ怒っている訳でもなくて。とても悲しそうな目をしている。裏切られたことに対する悲しさか、自身の純潔が奪われたことに対する悲しさか、ぼろぼろのリテルトへの同情か。 そんなヴィーナに謝り続けるリテルトだったが、言葉を紡ぐ途中で遂に気を失ってしまった。ヴィーナは一瞬焦ったものの、呼吸はしていると気づいてほっと一息ついた。 「家まで連れてってあげる。……話は後」 一度は裏切られた相手。けれども命を救ってくれた相手。複雑な気持ちを抱えたまま、ヴィーナはリテルトをそっと持ち上げる。傷だらけの身体は見ていてとても痛々しい。 動かない蔦蛇と、まだ砂埃が舞う空き地。崩れた塀を見ればその戦いの激しさもよく分かる。そしてまだ微かに残る香りで、蔦蛇との情事も鮮明に思い出してしまって。 こんなになるまで戦ってくれたリテルトを、無下に放っておくことなど出来なかったが。リテルトへの怒りを帳消しにすることも、やはり到底不可能だった。 ---- リテルトが目を覚ましたのはいつもの寝床の上。柔らかな葉の感触を感じながら、所々痛む身体を起こす。あの蔦蛇と戦って、ヴィーナを助けて、それからの記憶がリテルトには全くなかった。 どうして自分の家に戻ってきたのか、結局あのあと何が起こったのか。視線をぐるっと一周させると、家の隅ではヴィーナが佇んでいた。 あの時助けたのは確かにリテルト。けれどその原因を作ったのもリテルト。一度助けた相手に裏切られるくらいなら、最初から助けて貰わない方がマシだった、のかもしれない。 リテルトもそのことは何となく分かっていた。お兄さん気取りで調子に乗った所為で、ヴィーナの心を傷つけてしまった。償うにも、どうやって償えばいいのか。 だからこそリテルトはなおさら不思議だった。どうしてまだヴィーナが自分の前に居てくれるのか。許せない相手の家に上がり込んで待つくらいなら、ほったらかして出て行けばいいのに。 声を掛けようにも、なんと切り出せばいいのか分からない。声を出そうとしては躊躇って首を引っ込める。そんな動作にヴィーナは気づく。 「あいつなら、町のポケモンに知らせて捕まえて貰ったよ。他にも被害にあってた仔がいたみたい」 「……そっか、ありがとう」 会話が続かない。謝れば済む問題でも無いし、かといって謝らずに他の話をするのもおかしなこと。俯いたまま口を開かないリテルトに、ヴィーナはもう一度口を開いた。 「確かに、リテルトのやったことは許せないよ。もう怒ってない、って言ったら嘘になっちゃう」 「ごめん。オレ、後でどうなるかも考えないで、かっこつけて助けに行って、それで……」 それで、の後に言葉を続けようとして、リテルトは口を噤んだ。何を言っても駄目だ。そんな説明したって、今更過去が変わるわけでもなければ、許される訳でもない。 ヴィーナにはもう十分失望されている。これ以上印象を悪くしたら、今度こそ愛想を尽かされてしまう。話してくれているだけでも十分ありがたいというのに。 リテルトにはもちろんその理由が分からなかった。そして今ここにいるヴィーナも、その理由がよく分からない。嫌いなら出ていけば良いだけの話なのだ。けれども。 「謝って貰っても何も変わらない。今更言い訳なんて聞いても仕方ないし。だから、最初はリテルトをこの家に置いて、帰っちゃおうって思ってた」 「思ってた?」 リテルトの表情がふっと変わった。さっきまでの申し訳なさそうな顔から、今度は興味と疑問に揺れる顔つきに。不思議そうな目でヴィーナを見つめている。 「けどね、リテルトの事、ほっとけなかった。傷だらけになってまで助けてくれて、嬉しかったから。それだけじゃなくて……」 「……じゃなくて?」 純粋に疑問をぶつけてくるその様子に、ああやっぱりまだまだ子どもなんだなあ、とヴィーナは思った。ひょっとしたら私より、とまで考えてしまうほど、リテルトの様子が子どもに見えて。 「私にも良く分かんないけど。ずっとリテルトの側に居てあげたいって、そう感じたから」 それっきりヴィーナは黙り込んでしまった。リテルトはヴィーナの言葉の意味を考える。どうして側に居たいのか、ヴィーナですら分からない事が、自分に分かるはずもない。 分かるはずはないけれど、その気持ちだけは何となく分かる。何故ならリテルト自身も、ヴィーナの側に居たい、そう感じていたからだ。 悪い奴に襲われていたところを助けて、街を一緒に歩いて、悪い奴にヴィーナを売って、もう一度ヴィーナを助けた。内容は大変だったけど、たったそれだけのこと。 でも、何故かヴィーナと離れるのには抵抗があった。心の中にもやもやと離れたくない気持ちが募っていて、それが消えるどころかどんどんと増えていっていた。 「あのさ、オレも理由なんて分からないけど。……ヴィーナと同じ気持ち、してる。オレも、ヴィーナの側に……居たい」 「そっか。でも言ったでしょ、まだ許した訳じゃない。だから、私のお願い、聞いてくれる?」 「お願い?」 そう言うと、ヴィーナはゆっくりとリテルトの方へ近づいてきた。ただ、前に比べてその動きが何だか重たく見える。どこか怪我した様子もないのに、とリテルトは不思議に思う。 リテルトのすぐ側に立つヴィーナの身体は、見た目は健康そのもの。けれども一箇所だけ、明らかに以前とは違う場所があった。リテルトもようやくそれに気づいて、思わず目を逸らす。 「……私だけだと、嫌なことを思い出しそうだし、自信もないし。だから、リテルトが一緒に居たいなら、居てくれるなら。その覚悟だけはしてほしいな」 自分が居なくても結果は同じだったかも知れない。そう言って逃げることも出来る。けれど自分の所為でヴィーナはさらに嫌な思いをしたのは事実。 それはリテルト自身もよく分かっている。何よりもその大きくなったお腹が決定的な証拠だ。これから先、きっと三匹で暮らすことにもなる。 そうなったときに、果たして自分はきちんと役割を果たせるだろうか。リテルトは悩む。子どもの自分が、そんな約束を軽々してもいいものか。 「あのさ、もうヴィーナも気づいてると思うけど……オレ、まだ大人なんかじゃない。たぶんヴィーナよりも年下だよ、進化してるからそう見えるだけで。 だから、絶対出来るとか無理なことは言えない。でも、オレが出来る精一杯はやってみせる。それでも、いいかな」 自分なりに答えを出してから、リテルトはヴィーナを見上げた。視線の先にあるヴィーナの顔は微笑んでいて。それにつられてリテルトの顔も綻ぶ。 「分かった。リテルトの精一杯、見せて貰うことにするね」 床に手を突いて、ヴィーナは顔を目一杯リテルトに寄せてきた。何を、とリテルトが思う間も無く、口元に口元が触れ合った。体温が、匂いが、緑が、目の前に。 されたことへの理解がまだ追いつかず、ヴィーナが離れた後も呆然とその場に固まるリテルト。少し恥ずかしそうにしながらも、ヴィーナは口づけの感想を尋ねた。 「ひょっとして、リテルトも初めてだった?」 「……う、うん」 どうやら、リテルトにとっても初めての経験だったらしい。もちろんこれまで生活してきた年数を考えれば、仕方ないことなのかも知れないが。 けれどもそれが何を意味するか位は分かっている。だからこそ余計に恥ずかしかった。それと同時に、さっきまでのよく分からない気持ちが少しずつ見えてくる。 それはヴィーナも同じ事。一瞬身体が勝手に動いて、気づいたらリテルトの顔が目の前にあった。ああそうか、そういうことなんだなあ、とようやく納得した。 「そうだ、リテルトって今幾つなの? 教えてよ」 ようやく自身の気持ちに整理がついて余裕が出来たらしい。さっきまでとは明らかにヴィーナの様子が変わってきた。許さない、と言っていたのがまるで遠い昔のことのよう。 その余りの豹変振りにリテルトも困惑を隠せないのか、なんでもないことなのに何故か答えがすんなり言えない。初々しいな、とヴィーナに見られていることにも気づいてはいないだろう。 「え、と……十一、かな((分かりやすく人間基準にしました。))」 「やっぱり私の方が年上なんだね。やっぱ進化するポケモンは大人びて見えるなあ」 そんなリテルトに次から次へと話しかけていくヴィーナ。生粋の明るさが表に出てきたのか、リテルトと喋るその表情は生き生きしていて実に楽しそう。 最初こそ呆気にとられていたリテルトだったが、どうやら段々ヴィーナのペースに慣れてきたようで、暫く喋っているとギクシャクも無くなってきた。 「それでね、リテルトにもう一つお願いがあって……断らないでね?」 長い話がはた、と止まる。急にもじもじと恥ずかしそうにし始めたヴィーナだが、リテルトはもちろんそんな事には気づいていない。何も考えずにうん、と首を縦に振った。 「あいつにやられたことが、やっぱりまだ頭の中に残ってて……だから、それ、忘れたいんだ」 「忘れたい、か……でも、オレに出来る事なんて」 「あるよ。気持ちの問題だけど……このタマゴも、私の中も。リテルトのものに、してくれないかな」 さすがのリテルトも、これは予想外だったようで。狼狽えるばかりで答えらしき答えを返せない。ひらひらと楽しい気持ちに合わせて揺れていた尻尾が一気に垂れ下がった。 なおも真顔で迫ってくるヴィーナから後ずさろうとしたところで、傷口が響いてその場にしゃがみ込む格好になってしまった。こうなった以上は逃げられない。 「で、でも、タマゴが中にあるし、そもそもオレ、やったことなんてないし、だから、あの」 そう、確かにヴィーナのお腹は膨らんでいる。そんな状況でこんな事をするなんて普通では考えられないし、やっぱり怖いのだろう。しかし、そんなリテルトにとどめの一言が。 「精一杯、じゃなかったの?」 「あ、うう」 リテルトはひたすら後悔した。あんな事言うんじゃなかった、とこれほど強く思ったのは久しぶりだ。精一杯とは言ったものの、まさかこんなことになるなんて。 経験もないし、知識も乏しい。一応何となくやることは分かるものの、タマゴが中にある状態で、なんてそんな限定的なシチュエーションでの対処など知っているはずもなく。 第一、一人でする事さえ滅多になかった。一応ポケモンは小さい頃からそういうことが出来るらしいが、知識を得たのもつい最近のこと。 余りにも早い実戦に尻込みするリテルト。それを余所に、ちょっと強気に、けれども恥ずかしげに求めてくるヴィーナの顔はどこか扇情的で。 「だから、私の中にも……精一杯、ね?」 「……わ、分かったよ。が、頑張って……みる」 可愛いし、ちょっとそそるのは確かだった。だからリテルトも断り切れなかったし、寧ろ段々とそういう気分になっていたのかも知れない。 &ref(挿絵05.jpg,,noimg,挿絵その5); ---- 「あ、と、その」 草の上に横たわるヴィーナ。身体の構造上、下半身側に立つリテルトには既にその秘部が丸見えだ。そんな経験が微塵もないリテルトはおろおろしたまま動けない。 緑色の中に一本の筋の様に見えるピンク色。既に少し解れて中が見えているのは、ヴィーナの気持ちの問題だろうか。期待の眼差しでリテルトを見つめている。 近づこうとしては躊躇い、前足を伸ばしては引っ込めるリテルト。やることは分かっていても、実際に実行するのは怖いし恥ずかしい、のだろう。 「どうしたの? 大丈夫だから、爪を立てないように触ってみて」 少しばかり迷った後、意を決して一歩前へ。あとは前足を伸ばせばヴィーナの秘所に届く、という距離。言われたとおり、爪に気をつけながらヴィーナの割れ目に触れる。 柔らかな肉球が、湿った表面にぴとりとくっつく。敏感な箇所を触られたヴィーナは軽く身を震わせるが、それ以上は何も起こらない。リテルトも動かないままだ。 「次はそのままなぞってくれればいいよ。少し強めに、ね」 「う、うん」 力を加えて、軽く肌が凹む位に。そのまま筋に沿って肉球を上へ。割れ目に見えていた小さな突起に肉球が触れると、ヴィーナは小さく声を漏らした。 続いてゆっくりと下へ前足を降ろしていく。ぐぐ、と肌が引っ張られて、割れ目が少し広がる。中にはピンク色の肉壁が覗く。物珍しいのか、まじまじと見つめるリテルト。 これだけ雌の身体を間近で見ることはやはり無かったのだろう。まだ幼いからなのか、純粋に好奇心や興味だけがリテルトを動かしているらしい。 その証拠に、リテルトの雄の部分はまだ全く現れていない。普段は毛に隠れたまま見えない部分だが、当然刺激が加われば大きくなる。 前足の上下はなおも続く。けれども遅々としてなかなかその先に進まない。やはりこの程度では刺激が足りないのか、ヴィーナもどこか不満げだ。 「リテルト、私は大丈夫だから、もっと早くしてくれても良いし、別のことしても良いんだよ? 例えばほら……舌、とか」 「し、舌、か……分かった」 とりあえずリテルトは前足の動きを早める。大丈夫、と言われたのでついでにもう少し押しつけるようにしてみたらしい。これがヴィーナにはなかなか効果があったようだ。 暫く割れ目を擦っていると、徐々に表面が滑るように。染み出した蜜が滑りをよくして、結果としてさらに肉球の動きが早まっていく。 「んっ……う、上手い、よ、リテルト」 くちゅくちゅと鳴り始めた割れ目への刺激がぴたりと止んだ。どうしたの、というヴィーナの声は声にならずに飲み込まれる。リテルトの舌がヴィーナの割れ目をなぞっていた。 「ひあっ、あ……」 「あ、ごめん……その、何かオレ、我慢、出来なくて」 いきなりの刺激に驚くヴィーナ。リテルトもようやくその気になってきたのだろうか。完全、とはいかないが、リテルトの後ろ足の間にはちらりとピンク色が覗いている。 しかしヴィーナからはそれが見えないし、リテルト自身もまだ自分の変化に気づいていない。それでも反応してしまうのはやはり雄としての本能、なのか。 広く、大きな舌がヴィーナの割れ目を執拗に舐る。染み出す蜜をかき集める様に動き、時には出っ張りをその舌でくにくにと弄る。 ヴィーナの方も余裕らしい余裕は見えなくなってきた。声こそ出さないが、息遣いが段々と荒くなっている。その証拠に、垂れてくる蜜がどんどんと増えている。 「なんか、変な味……だけど、嫌いじゃない、かな」 ぼそり、と愛液の味の感想を呟くリテルト。別においしい訳でもない、けれども雄としての本能が、その液体を求めている。よく分からないけれど、もっとこの行為をしたい。 その勢いのまま、リテルトはとうとう舌を割れ目の中にまで入れてきた。当然ヴィーナはそんな事予想もしておらず、心の準備はまだまだ。 「あああっ、ひゃ、う……ぁ」 大きく身体を震わせたものの、絶頂はまだ迎えていないらしい。しかし割れ目は中に入ってきたリテルトの舌を包みながらひく、ひくと蠢いている。 そのまま内壁を舌でなぞれば、ざらざらとした刺激がヴィーナの中で生まれる。大きなざらついた舌の感触。ヴィーナにとって初めての感覚は、少々強すぎたようで。 「ふあああっ、あ、あっ!」 びくん、ともう一度身体を震わせたヴィーナ。愛液が一気にあふれ出し、リテルトの口周りを濡らす。秘所は入り込んだ舌をきゅう、と締め付けて何かを搾り取ろうと必死だ。 リテルトもこれが何を意味するかは何となく分かったらしい。ゆっくりと舌を引き抜いて離れ、余韻に浸るヴィーナを見守ろうと横に回る。 「……あっ!」 「リテルトも、やっぱり雄、なんだね。いいよ、次は私がやってあげる」 股の辺りに感じた違和感。リテルトもそれが何なのか理解したようで、それがヴィーナに見えないような位置まで遠のく。けれども既に時は遅く、ヴィーナにも大きくなったそれは丸見えだったらしい。 ただ、やはり年相応の大きさ。もちろん同族なんてこの砂漠にはほとんど居ないので、リテルトのそれが大きいのか小さいのかはヴィーナにも、リテルト自身にも分からないが。 どこか物欲しそうに揺れる肉棒は、収まるどころかしっかりと張り詰めたまま。慌てるリテルトをヴィーナが手招きする。 「ほら、私の顔、跨いでみて。ちょうどそれが私の顔に来るように、ね」 「え、で、でも、そんなの、やっぱり駄目だって! ほら、そんな綺麗じゃないし、それに」 「いいの。私がやりたい、って思ってるんだから。いい、よね?」 流石にヴィーナにここまで言われるとリテルトも拒否できない。おずおずと近づいて、言われたとおりにヴィーナの顔を跨ぐ。流石にヴィーナの股の位置にリテルトの顔は届かない。 「う、あっ、く、ぅ……」 先端をなぞる、柔らかな感触。舐められた事なんて当然ないリテルトにとって、少しその刺激は強すぎるみたいだ。もう少しかがんで、と言われたとおりにかがむと、さらに根元の方まで舐められる。 四本の足全てが震えている。恐らく必死で我慢しているのだろうが、いつ体勢が崩れてもおかしくない。快感に耐えるリテルトの瞳は既に少し潤んでいる。 突如、肉棒が熱いものに包まれた。じゅぷ、と言う音。唾液をねっとりと絡めて、ヴィーナはリテルトの雄槍を咥えて舐め始めた。温かい、と言うよりも熱い、という感覚。 「は、あぁ……うあっ」 ぴく、と肉棒がヴィーナの口の中で跳ねる。唾液に混じってヴィーナが感じた苦い様な変な味。透明な液体がリテルトの雄から少しずつ吐き出されてきているようだ。 さらに根元までヴィーナは雄を咥えて、出したり入れたりを繰り返し始めた。じゅぽじゅぽと抜き差しを繰り返す度に音が鳴る。その音に酔いしれるように、二匹の気分も昂ってきて。 リテルトもいつしかその行為を楽しみ始め、腰を軽く動かしている。もちろん自身は意識なんてしていないのだろう。けれどもその顔は快感に溺れきった淫らな顔。 「うあああぁぁぁっ!」 びくん、とひときわ大きく口の中で肉棒が爆ぜた。それと共にヴィーナの顔へ、口へと吐き出される白い液体。どろりと濃く、粘性を持ったそれが勢いよく飛び出している。 二度、三度と雄が揺れた後、ようやく絶頂が収まった。残った液体がぽとり、ぽとりと染み出している。とうとう身体を支えきれなくなったリテルトはヴィーナのお腹の上にゆっくりと崩れ落ちた。 当然リテルトのお腹にも大量の精液が絡まる。独特の匂いが部屋中に立ちこめる中、リテルトは呼吸を整えながら快感の余韻に浸っていた。 「……やっぱり変な味、だけど。リテルトのだから許せちゃう、かな」 「ヴィーナ、えっと、その、ごめん。オレ、気持ちよくって、何が何だか分かんなくなって、つい」 「そっか、気持ちよくなってくれたんだ。リテルトがそう思ってくれたなら、私は嬉しいよ」 顔にかかった白い精も気にすることなく、ヴィーナはリテルトを抱き締める。やっぱりまだまだ子どもなんだな、と思わずにはいられない、華奢な身体。 言葉こそ無いものの、リテルトの尻尾ははたはたと揺らめいている。きっとリテルトもヴィーナに抱き締められて満更ではないのだろう。 暫くそうしていると、ようやくリテルトの方も落ち着いてきた様子。一部分だけはまだしっかりと張り詰めているが、もう先ほどまでの荒い呼吸はしていない。 「次にやること、分かる、よね。大丈夫、確かにタマゴはあるけど……心配しないで、私も無理はしないから」 「う、うん……それじゃ、オレも……頑張るから」 再びヴィーナの下半身、割れ目をのぞくリテルト。十分湿ったそこは、何かを待ちわびてひくひくと蠢いている。そっと前に進んで、リテルトはその入り口に自身の雄を宛がった。 &ref(挿絵06.jpg,,noimg,挿絵その6); ---- 「こ、これでいい、のかな」 宛がったのは良いものの、実際入り口へと入れるのはなかなか難しい。リテルトのような四足歩行のポケモンだとなおさらで、何しろその部分が見えないのだ。 それでも数度の挑戦で、ようやくその先端が割れ目の中へと引っかかった。後はそれを突き入れるだけ。誰かに聞いたわけでもないが、雄を抜き差しすればいいことはリテルトも理解しているらしい。 ここでその場で暫くリテルトは動きを止めた。ヴィーナに覆い被さった状態で、目線はヴィーナの方へ向けたまま、何か考えている様子だ。 「その……タマゴ、気をつけて、な」 大きく盛り上がったお腹の部分。あの蔦蛇の子どもだとはいえ、ヴィーナの子どもでもあるそのタマゴ。出来てしまったものは今更どうしようもないし、大事にしなければならない。 そして何より、もし何かあればヴィーナの身体が危ない。それはリテルトも十分承知のこと。だから、いくら心配しないでと言われても、気にならないはずがない。 「うん、分かってる。……いいよ、きて」 それでもヴィーナはリテルトを誘ってくる。辛い気持ちをリテルトの愛で洗い流したい、ヴィーナの思いも何となく分かる。リテルトはその言葉に頷いて、それから少しずつ身体を前に寄せていく。 ある程度の抵抗はあるものの、じっとりと湿ったヴィーナの秘所が、リテルトの張り詰めた肉棒を飲み込んでいく。痛みもほとんど無く、お互いに敏感な箇所が擦れる快感に息を震わせている。 つぷ、という微かな音すら響くほど、家の中は静かだった。音らしい音は、お互いの吐息と粘膜が擦れる音だけ。目の前の相手の体温が、声が、どうしようもなく淫らで。 直ぐにでも行為をしてしまいたい、本能のままに動きたい、そんな欲望をリテルトは押し殺しながら、慎重に事を運ぶ。やはりヴィーナのことが心配なのだ。 ようやく根元まで入りそう、と言うところでリテルトは肉棒が何かに触れたことに気がついた。固く、温かなその感触。ヴィーナの中に入っているものと言えば当然。 「ここまで、でいいかな。だいぶ入ってるし、これならヴィーナも……っ?!」 がくり、とリテルトの身体がヴィーナの方へ引き込まれる。その勢いで、リテルトの肉棒はとうとうヴィーナの中に完全に収まってしまった。突いていたそれも、当然中で若干動いて。 「ひあっ、あ……リテルト、大丈夫、だから、もっと……もっと、強く、ね?」 抱き寄せたのはヴィーナ自身。余りのゆっくりさに流石に業を煮やしたのか、とうとう我慢できなくなって自分からリテルトを引き入れてしまった。 タマゴが中で擦れるのも、ヴィーナにとっては中々新しい感覚の様子。奇妙な感覚ではあるものの、悪くない、寧ろ快感として申し分のない、と言ったところだろうか。 その一撃で、リテルトも我慢していた最後の糸がぷっつりと切れてしまったようだ。ヴィーナを見つめる目には、雄としての本能が垣間見える。 ぎりぎりまで雄をヴィーナから引き抜き、今度は勢いよく突き立てる。当然タマゴにも先端が当たるが、タマゴの殻を破るほどの強さではない。 中で擦れるタマゴと肉棒、その快楽の海にヴィーナは溺れていく。潤んだ瞳はさらなる快楽を待ち望みながらリテルトを見つめている。その扇情的な顔に、リテルトはさらに駆り立てられていく。 「あっ、あぁ……んっ、うぁ、ああっ」 「はっ、あ……っあ、はぁっ」 躊躇うことなく嬌声を漏らす二匹。リテルトの動きだけでは満足しきれないのか、ヴィーナも身体を左右に捩ったり、あるいは腰を浮かせてみたりとより快感が得られるような動きを見せている。 その動きが段々と速くなっていくのは、もちろん行為が終わろうとしている証。けれどもこんなに直ぐ果ててしまっては面白くない、ということも分かっている。 ぎりぎりのところでお互いに少し休憩を入れつつ、また行為は続いていく。ぐちゅ、ぐぽ、と生々しい音が時折接合部から聞こえる。 「りてる、とっ、っあ……もっと、ひぁっ、いい、よっ」 「う゛ぃー、なっ、あ、もう……でっ、うああぁっ!」 そしてその行為は突然終わりを迎えることになる。出したい、でもヴィーナの中にはタマゴが。辛うじて残っていた理性で、リテルトは外で果てることを考えた。 しかし、リテルトが雄を抜こうとしたその瞬間、再びヴィーナがリテルトを抱き寄せた。その結果、白濁が全てヴィーナの中へと吐き出される。中で震える雄槍と、内部を満たす熱い液体の感触。 「ひあ、あっ……あ……!」 その何とも言えない感覚が快くて、ヴィーナもとうとう絶頂を迎える。ヴィーナの雌がリテルトの精を逃さず搾り取ろうとして、肉棒を締め付ける。 そのきつさがリテルトにとっては何とも心地よい。残った精をもう一度吐き出して、ようやくリテルトの絶頂は終わりを迎えた。 初めての雌との行為に夢中だったリテルトは、絶頂の余韻とヴィーナの中の温かさを感じながら、呼吸も荒く虚空を見つめているばかり。 「ふあぁっ、う゛ぃ、いなあ、あっ!」 そんなリテルトにヴィーナは不意打ちを。身体をずらして、中にまだ収まっていたリテルトの雄をその内壁で擦りあげた。射精後間もないリテルトにとって、その刺激は余りにも強すぎて。 悲鳴にも似た声を上げながら、がくりと脚を震わせてヴィーナのお腹にゆっくりと倒れた。そのリテルトを手で支え上げつつ、ヴィーナはリテルトを誘う。 「リテルト……もう一回、ほしいな……」 やはり、断ることなど出来ない。そうやって誘ってくるヴィーナの身体が、顔が、声が、温かさが愛おしくて。リテルトの頭の中に、沸々と情欲がわき上がる。 若干萎えていたリテルトの雄が、その気持ちに答えて再び膨れあがっていく。その雄槍を、リテルトは迷いもなく引き抜き、再びヴィーナの中へと突き立てた。 「ああっ、うあ、あっ……いい、いいよ、う゛ぃーなっ!」 「ん、あっ、ふああっ、り、てるとっ、ひああぁぁっ!」 リテルトの激しい動きに、ヴィーナも満足げに応える。絶頂間もないヴィーナは再びの絶頂を早くも迎えるが、そんな事も気にせずリテルトは動き続ける。 余りの激しい動きに、リテルトの雄がヴィーナの雌から離れてしまう。何を思ったのか、リテルトは雄をヴィーナのお腹にこすりつけ始めた。 愛液と精液、それに先走りの混ざった粘性のある液体が、ヴィーナの膨らんだお腹を汚していく。一度目の射精で既に精液まみれだった身体が、さらに汚れていく。 「ひあっ、あ、あああああっ!」 お腹の真ん中の凹んだ部分、ちょうど臍の部分にリテルトの雄の先端が入り込んだ。たったそれだけのことだったが、引き金としては十分だったらしい。 臍の窪みを埋めるかのように、雄からは白い液体が溢れていく。三度目だというのに、さほど勢いが衰えていないのはさすがと言うべきか。 もちろん臍の内部の隙間やその周りの凹みだけではそれを受け止めきれず、溢れた分がヴィーナとリテルトのお腹にべっとりと張り付く。 「はあっ、は、ぁ……」 流石に三度もの射精は体力的に厳しかったのか、リテルトはそのままヴィーナの隣に崩れ落ちた。横に寝るような形で倒れたまま、すーすーと寝息を立て始めている。 灰色の身体が所々白っぽく染まっているのも、雄が未だ外気に触れたまま健在なことも、リテルトにとってはもうどうでもよかったのだろう。 しかし、そんな無防備な姿をさらけ出したリテルトに、ヴィーナはまたしても欲情してしまう。横になっているリテルトを仰向けにして、今度はその肉棒を頬張った。 もう自分でも何をやっているのか分からない。けれども、もっと精が欲しい。その一心で、ヴィーナはリテルトの雄を舐り、吸い上げる。 寝ていても身体は正直で、リテルトは時折声を上げながら悶えている。口の中で肉棒が小刻みに揺れたり、時折大きくびくんと揺れたりしている。 「んん、あぁっ……あ……」 四度目の絶頂を迎えたリテルト。流石に量は最初ほどではないものの、それなりの勢いはまだ残っている。それを喉を鳴らしながら飲んでいくヴィーナ。 口や鼻に広がるリテルトの味と匂い。すっかりその気になっていたヴィーナは、その強烈な感覚に下半身を火照らせ、そして。 「ふああっ、あ、あっ……ああっ!」 ぷしゃ、という音と共に、ヴィーナの雌から液体があふれ出す。地面を濡らし、一部がリテルトの身体にも飛び散る。それでもリテルトは起きる気配を見せない。 潮を吹いたことでヴィーナも流石に疲れたらしい。身体を洗わないと、という考えに反して、身体は全く動いてくれない。眠気がどばっと押し寄せてくる。 結局、リテルトの横にヴィーナも倒れ込んだ。仰向けのまま、ぼーっと天井を見上げる。天井の幅が段々と狭くなっていき、やがて見えるものはただの黒だけになっていった。 &ref(挿絵07.jpg,,noimg,挿絵その7); ---- じりじり照りつける太陽の中、オアシス付近の草陰を歩く二匹の小さなポケモン。どうやらきらきらと輝く水面へと向かっているようだが、その歩みはまるで何かから隠れているかのよう。 やがて、湖近くの高い草叢の裏に小さなスペースを見つけた二匹は、その中へこそこそと入っていく。なるべく音を立てないように、慎重に。 無事にその隙間に入り込んだ二匹。陰とはいえどもうだるような暑さの中、暗い色の暖かそうな毛並みをしたポケモンが、嬉々とした様子でもう片方に話しかける。 「ねえねえ、お姉ちゃん。ほらあそこ、もっと近づいて……いだっ!」 緑色の蔦が伸びたかと思うと、ぱしん、とその先端の膨らんだ部分がちょうど灰色と黒色の境目を叩いた。ぶたれた、と言うほど強くも無さそうだが、叩かれた方は既に涙目。 呆れと怒りが半々といった表情で、小さな草蛇は隣の子犬を睨む。全くもう、とでも言いたげな表情で、再び視線を遠くに戻そうとした、が。 「お姉ちゃんが、お姉ちゃんがぶった……いた、いたいよぉ……いたいよおおおおお!」 「ば、ばか、静かにしなさい! 気付かれちゃうでしょ!」 この程度で泣くとは思っていなかったのか、緑色は頭を前足で抱え込むようにして泣きじゃくる灰色の毛玉を必死でなだめる。 そんな二匹が見つめていた先には、水面近くに佇むこれまた二匹のポケモンが。一匹は緑色の植物のようなポケモンで、頭には二本の突起、そしてその先端には花が。 もう一匹はこの砂漠に不釣り合いな黒と灰の毛並みをしていて、見ているだけでも暑くなりそうだ。暫くのあいだ涼んでいた二匹だったが、やがて黒いポケモンが口を開いた。 「なあヴィーナ、あいつら、きちんと留守番出来てるのかなあ。特にギリアスは本当に泣き虫だし……全く誰に似たんだか」 はあ、とため息を一つ。空を流れる白い綿を眺めるようにしながら、家で待っているであろう二匹の顔を思い浮かべる。 心配そうな顔とは対照的に、ヴィーナは何やらにやにやしている。口元を手で押さえながら、もう片方の手でリテルトを小突いて一言。 「泣き虫って言ったら、リテルトにもちょっとそんなところあるよね」 「な、お、俺はそんなに泣き虫じゃないって! そりゃ昔はちょっと臆病だったけどさ」 勘弁してくれ、と苦笑いするリテルト。だらりと垂れ下がった尻尾には若干落ち込みの色が。雄としてはやっぱり、頼りがいのある姿を見て貰いたいのだろう。 そんなリテルトの様子に、ふふふ、と悪戯っぽく笑うヴィーナ。その後陽光煌めくオアシスの水面に目を戻して、まるでそこに語りかけるかのように、ぼそりと一言。 「でも、いざというときは頼れる、よね」 小さな声だったが、どうやらリテルトにはちょっとだけ聞こえたらしく、がっくりとうなだれていたリテルトがはっと顔を上げる、 けれどもヴィーナは目を合わせてくれない。恥ずかしくなってきたのか、俯き気味になって映り込んだ自分の顔と目を合わせている。 「今、何か言ったよな、なんて言ったんだ?」 「ううん、なーんにも」 聞き取れていなかった事に安心するヴィーナと、もっと酷いことを言われたんじゃないかと焦り出すリテルト。 俺だってもう子どもじゃないんだから、とムキになって突っかかってくる様子がどうしても子どもに見えてしまう。 そんなギャップがあまりにもおかしくて、とうとうヴィーナは笑い出してしまった。わ、笑うなよ、とまだまだ必死のリテルト。 「ごめんごめん。大丈夫、リテルトはちゃんとお父さんしてるって。イーヴも、リテルトに懐いてるでしょ? それが証拠」 「ごめんごめん。大丈夫、リテルトはちゃんとお父さんしてるって。スケーナも、リテルトに懐いてるでしょ? それが証拠」 生まれてから暫くもすれば、自分が本来生まれないはずの種族だと言うことは分かってしまう。やがて来るその問題をどう乗り越えるか、リテルトとヴィーナは考えた。 真実を伝えるべきか、あるいは大きくなるまで暫くはぐらかしておくか。リテルトは不安そうだったが、ヴィーナは結局全てをイーヴに伝えることに。 最初こそ面食らっていたイーヴだったが、少し考えた後に、申し訳なさそうなリテルトの頭をぱしんと蔦で叩いて、こう言ったのだった。 真実を伝えるべきか、あるいは大きくなるまで暫くはぐらかしておくか。リテルトは不安そうだったが、ヴィーナは結局全てをスケーナに伝えることに。 最初こそ面食らっていたスケーナだったが、少し考えた後に、申し訳なさそうなリテルトの頭をぱしんと蔦で叩いて、こう言ったのだった。 「別に私は気にしてないよ。だって、お父さんは他にいないもんね。ほら、しっかりする!」 その言葉を思い出して、リテルトは水面の自分と向き合いながら考え込む。ヴィーナも、イーヴも、問題の原因は全部自分じゃなかっただろうか。 その言葉を思い出して、リテルトは水面の自分と向き合いながら考え込む。ヴィーナも、スケーナも、問題の原因は全部自分じゃなかっただろうか。 けれどももし、自分があの時ヴィーナとだらだら一緒に居なかったら。あるいは自分がもっとしっかりしていたら、別の幸せがあったのかも知れない。けれども。 「……ヴィーナには悪いかも知れない。だけど、俺、あの時ヴィーナを助けて、ああやってヴィーナと仲良く出来て、よかったと思ってる。イーヴがいてくれて、よかったと思ってる」 「……ヴィーナには悪いかも知れない。だけど、俺、あの時ヴィーナを助けて、ああやってヴィーナと仲良く出来て、よかったと思ってる。スケーナがいてくれて、よかったと思ってる」 「変な話だけどさ、私、あいつにはちょっと感謝してるんだ。リテルトとこうして一緒に居られるのは、あいつのおかげでもあるんだから、ね」 どちらも相手の顔を見ようとはしない。ただ、奥に映る二匹は、どちらも朗らかな笑顔をしていた。あの一連の事件も、今では立派な思い出話だ。 短い間の出来事が、こうして二匹の一生を変えてしまう。嫌な思い出のはずなのに、不思議だよな、とリテルトは苦笑する。 ぴょん、とヴィーナがリテルトの方に向き直る。オアシスの木々の合間を抜けてきた風が水面を揺らし、生い茂る草が揺れて擦れ合う。 太陽にも負けないぐらい眩しいヴィーナの笑顔に引き寄せられるように、リテルトは前足を高く上げて、ヴィーナに抱きつくような姿勢に。 「ヴィーナ、今までありがとう。それと、こんな俺だけど、これからもよろしくな」 「私からも、ありがとう、リテルト。これからも一緒に、ね」 口元と口元が触れ合うだけの軽いキス。元の姿勢に戻った二匹は、お互い寄り添って街の方向へと向き直った。道の先には揺らめく煉瓦の塊。 さあ帰ろう、とばかりに歩き出した二匹だったが、一歩進んだところでリテルトははたと立ち止まった。何やら耳をぴこぴこと動かした後、近くの草叢へ抜き足で近づく。 「ほら、分かった、私が悪かったから、ね? あーもう泣き止んでよ、ほら、お父さんとお母さんの良いシーンが見られなくなっちゃうでしょ!」 「……イーヴ、何が見られなくなるって?」 叫ぶギリアスをなだめられずに段々とイライラを募らせるイーヴ。仕舞いには再び蔦を伸ばしてギリアスを叩こうとする始末。 そんな中、少し高く茂った草が左右に掻き分けられて、その間からはイーヴがよく見慣れた顔。吃るイーヴを睨み付けた後、隣でわんわんと泣いているギリアスを優しく舐める。 暫く泣くことに夢中だったギリアスも、舐めているのが父親だと分かった途端に泣き止んだ。ちらりとイーヴの方を一瞥して、ようやく事のまずさを理解したらしい。 完全に引きつった顔をしているイーヴと、びくびく震えるギリアス。そんな二匹を草叢から引きずり出して、リテルトは目の前に座らせた。 「……スケーナ、何が見られなくなるって?」 叫ぶギリアスをなだめられずに段々とイライラを募らせるスケーナ。仕舞いには再び蔦を伸ばしてギリアスを叩こうとする始末。 そんな中、少し高く茂った草が左右に掻き分けられて、その間からはスケーナがよく見慣れた顔。吃るスケーナを睨み付けた後、隣でわんわんと泣いているギリアスを優しく舐める。 暫く泣くことに夢中だったギリアスも、舐めているのが父親だと分かった途端に泣き止んだ。ちらりとスケーナの方を一瞥して、ようやく事のまずさを理解したらしい。 完全に引きつった顔をしているスケーナと、びくびく震えるギリアス。そんな二匹を草叢から引きずり出して、リテルトは目の前に座らせた。 「さて、ギリアスも泣き止んだところで、だ。言ったよな? 留守番を頼んだ、って」 二匹を交互に見ながら、父親の顔で説教を始めるリテルト。その後ろでそれを見つめていたヴィーナだが、さっきのリテルトとの違いに思わずクスリと笑ってしまう。 やれ好奇心がありすぎるだの、まだ小さい子どもだけで出かけるなだの、昔のリテルトもそうだったのに、と思うと笑わずにはいられなかったのだ。 ヴィーナに笑われたことで多少怒る気が失せたのか、ほどほどのところで説教も打ち切られた。最後に前足で二匹の額をぐりぐりと押さえつけてお叱りは終了だ。 「……まあ、何もなくてよかったけど。これからはこんなに遠くまで出かけてこないこと。いいな?」 はーい、と声を揃えて返事をするイーヴとギリアス。その声はまだどこか不満げだが、流石に父の言うことには逆らえない。 はーい、と声を揃えて返事をするスケーナとギリアス。その声はまだどこか不満げだが、流石に父の言うことには逆らえない。 まだ日の高い砂漠は、オアシスといえども中々の気温。揺らめく砂地の景色を眺めつつ、家族皆で横に並んで街へと歩いて行く。 皆が通る所為で均された道を、跳ねながら移動するヴィーナ。その様子をちらちらと横目に見ながら歩くリテルト。どうやら、何か気になっていることがあるらしい。 ヴィーナもその視線に気付いたのか、街への入り口に着いたところで一度立ち止まる。疲れた様子のギリアスとイーヴもヴィーナの側へと集まってきた。 ヴィーナもその視線に気付いたのか、街への入り口に着いたところで一度立ち止まる。疲れた様子のギリアスとスケーナもヴィーナの側へと集まってきた。 「そうそう。リテルト、何となく分かってたと思うけど、私、あの……」 目線の先は自分のお腹。若干の膨らみに、覚えるものがあったのだろう。子ども達はどうしたの、大丈夫、と口々に喋り始めるが、それをなだめつつリテルトが少しヴィーナに近づく。 自分の前足、その肉球をヴィーナのお腹に優しく宛がう。数度撫でてから、今度はヴィーナの顔を見て、嬉しそうに言うのだった。 「分かってるよ。後で買い出しにでも行ってくるから、家でゆっくり休んでてくれ。これから産まれる、五匹目の家族のために、な」 &ref(挿絵08.jpg,,noimg,挿絵その8); ---- -あとがき 全ての元凶が[[これ>http://pokestory.rejec.net/main/index.php?plugin=attach&pcmd=open&file=%E6%8C%BF%E7%B5%B500.jpg&refer=%E3%82%B3%E3%83%89%E3%83%A2%E3%82%B4%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%80%81%E3%82%AA%E3%83%88%E3%83%8A%E3%82%B4%E3%82%B3%E3%83%AD]]です。俺は悪くねぇ! [[先生>ウロ]]がやれっていったんだ! 俺は悪くry この絵を見せて貰ってこんな小説あると良いのになーとか話していたらいつの間にか書く流れになってました( でも後悔はしてないです。寧ろ新境地が拓けた気がします。書くのは難しかったですけどw 今回は[[張本人様>ウロ]]の希望に沿って執筆を進めていきました。その関係上プロットは無し。たまにはこういうのもいいものです。 妊婦さんは大切にしましょう。間違っても行為に及んじゃ駄目ですよ。今回はやってましたけどね( あとジャローダは個人的にもう一回書きたいです。様って呼びたくなるジャローダが書きたいんです。ただ流れがいつも通りになりそうで……。 兎にも角にも今年も終わりです。こんな感じで終わりです。ゲームとは違って種族色々生まれたけど良いよね! 33000字という長さにお付き合い下さってどうもありがとうございます。それから[[ウロ]]さんの挿絵には感謝感謝です。眼福でした( それでは皆様、良いお年をー。 ---- #pcomment(コドモゴコロ、オトナゴコロ/コメントログ) IP:126.29.216.175 TIME:"2013-08-01 (木) 05:49:46" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%82%B3%E3%83%89%E3%83%A2%E3%82%B4%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%80%81%E3%82%AA%E3%83%88%E3%83%8A%E3%82%B4%E3%82%B3%E3%83%AD" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.2; WOW64; rv:22.0) Gecko/20100101 Firefox/22.0"