読書なんて嫌い。 文字ばっかりで本当に嫌になるから……。 「ねぇ~、あそこの本をとってよ~」 緑色の物体、げほん。 マラカッチがあたしに指図をするなんて。 でも今こいつの命令に従わないと、絶対に悠斗に告げ口するから素直に従う。 とりたければ自分でとればいいじゃないと思いつつ、床に散ばる本の中から一つだけ捜して、器用に蔓を使ってとった。 彼の目の前に置いてあげると、小声でありがとうと呟くとすぐに本を読み始めた。 ポケモンが本を読むなんて、正直言ってありえない事なんだけれど、ありえない事が家ではありえている。 全く不思議なものである。 あたしは溜息をつきながら床で寝返りを打つ。 本の角が頭にあたったりするので、時々涙目になりながらも寝ることに集中した。 「~~~っ!」 あたしはこれだから本が嫌いだった。 本なんか見てるなら昼寝している方がマシだって! とにかく寝るのが好きなあたしは、このマラカッチが想像をしている事なんかどうでもよかった。 悠斗と遊べればいいんだけれども、あいつはあいつで今日は学校だと言って出て行ってしまった。 どうせこのマラカッチといなければいけないんでしょ。 なんて嫌な一日を満喫してしまう 「ねぇ」 そうあいつはあたしに聞いてきた。何ってあたしは聞いた。 「邪魔」 仕方が無く 怒りながら部屋を出る事にした。 ああ、どうせそうですよ。 どうせ邪魔ですよ。 もう殺意すら芽生えた。 仕方が無いので外に出たは良いけれど、何をしようと悩むあたし。 自分は計画という計画をするよりも、行き当たりばったりって事が多い。 こういうときはマラカッチが全部先導してくれたけど、今日に限ってつかえない。 地面の石ころを無造作に蹴りながら、もうやり場の無い怒りをどこにぶつけようと悩む自分。 木漏れ日が淡く見えて、木々が風で囁く声が聞こえる。 なんとなく自然が感じられた日でもあった。 「も~、帰ったら蔓のムチの刑なんだから」 そう戯言を呟きながら、とりあえず林の中を歩いていく。 林の中なんて入った事ないし、ここは人工的に整備された林道でも無さそうな感じがする。 このまま真っ直ぐ行ったら、一体何処に着くのだろうとあたしは悩んだ。 もしこのまま迷子にでもなってしまったら、悠斗にどれだけ迷惑をかけてしまうだろうか。 そんな事をあまり考えていなくて、ただ暇をつぶせればそれで良かった。 暫く歩き続いていると、林の中でも一番広い場所についた。 これこそ人工物の宝庫と言えばいいのか、円形に開けた広場みたいな所。 そういえばこういう所に来たのは初めてで、凄く貴重で新鮮な体験になったのかもしれない。 少なくとも、いつも部屋で無駄を過ごしてきた自分にとっては嬉しい事だった。 とりあえずここにいるのは、自分だけなのかと考えると清清しいものである。 そう思って円に沿って歩こうと踏み出すと、やがて一匹のポケモンそこにはいた。 初めて見る顔だななんて思う自分だが、ただ自分が触れようとしなかった世界なのかもしれない。 そう、初めて感じる感覚だけが新鮮すぎて――。 一人だけなんだ。 そう感じては余計に気になってしまう自分。 さっきまで怒っていたのが不思議なぐらい、今の自分は落ち着いていた。 そういえば今の自分も独りぼっちではないかなんて感じてしまい、余計に嬉しくなった。 今の状態だと、自分とあのポケモンは二人っきりになれると考えると胸が躍る。 これが本来の自分なのかは分らないが、たまにはマラカッチ以外の異性とも触れ合うべきだと感じてしまう。 あんまり意識はしていなかったのだが、この時間だけは何故かいつも以上に自分らしくありたかった。 「あ、あの~、初めましてっ」 とりあえず近寄って話しかけてみるけれど、そのポケモンはきょとんとした表情であたしを見る。 「え、あ、うん……。 初めまして」 ぺこりと頭を下げるポケモンはとても礼儀の正しく、律儀な性格の子なのだろう。 ここはチャンスだと感じたあたしは、思い切って名前を聞いてみることにした。 「あ、あたしはジャノビー。よろしくっ」 どうしても異性は馴れていないものだから、どうしても視線が下がり気味になってしまう。 恥ずかしいという感情もあるのだけれど、やはりあたしにとって話しかけるのは苦手な分野の一つである。 「僕はフタチマル。 よろしくね」 や、やっぱり恥ずかしいなんて思いつつも、異性と触れ合うのは苦手だった。 あまり家から出られなかったというか「箱入りヘビ」みたいな感じだったのである。 それでも勇気を出したかいがあって、自分は作る予定なんて無かった友達を作る事にしたんだ。 **** 「ただいま」 そう悠斗は迎え入れてくれて、何処にいったのかなんて事までは聞きはしなかった。 当然 彼とも約束した通り「明日も行くね」という軽い約束を交わしたのだった。 こんな秘密な事を共有することだけで嬉しくて、夜も眠れなくなりそう。 正直言ってマラカッチという腐れ縁の仲間ぐらいしか話し相手がいなかった。 そんなあたしにとっては今回の出会いは奇跡に近いものがある。 本当に幸せ。 今日は今まで生きてきた中で一番いい日となってくれた事を神様に感謝した。 「嬉しそうだね」 悠斗がそういうので、あたしは、 「当たり前じゃない」 そう鼻歌交じりに答えた。 そんな光景を隅っこで見ていたマラカッチが、ちょこっとだけ怯えた表情でこちらを見た。 当然今日の午前中の出来事は全て悠斗に密告し、こっ酷くマラカッチは説教された。 それを見ていたあたしには、あいつが怒られているというのが清清しく感じたのである。 ---- こんにちは。 今回で執筆二回目となります「鬼無 白」と申します。 今回はポケモン視点と言う事で頑張ってみましたが、やはり上手くいかない……。 次回ぐらいから急展開になるかもです。 だから恋愛は苦手なんだってば。 ---- #pcomment(コスモス,10,below)